JP3660665B2 - 内燃機関用の排気弁とその製造方法と再生方法 - Google Patents

内燃機関用の排気弁とその製造方法と再生方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関用の排気弁とその製造方法と再生方法に関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】
内燃機関用の排気弁は弁体頭部とこの弁体頭部から上方に延びる軸棒とを備える。排気弁は、内燃機関の燃焼室で燃料ガスが燃焼するときに弁体頭部が弁座に当接し燃焼室の圧力が排気弁の下流に漏れないようになっている。また、排気弁は、燃料ガスが燃焼した後の排気ガスを排気するときに弁体頭部が弁座から離反し排気弁の下流に排気ガスが排出されるようになっている。
【0003】
この排気弁には、一般的に、(1)排気弁の作動温度(例えば、500℃)における耐酸化性、並びに、排気ガス中の燃焼生成物(例えば、未燃焼カーボン粉、または、5酸化バナジウムなどの溶融塩)に対する耐食性および耐摩耗性を有すること、(2)排気弁の作動温度においても所定の強度および靱性を保持し、変形および破壊を生じないこと、(3)製造方法が簡単であることなどの材料特性が要求されている。特に、弁体頭部は排気弁の開閉動作によって弁座に断続的に接触し摩耗し易いので、排気弁の弁体頭部の、弁座に対向する部分に耐摩耗性を有する当接部が配置されており、この当接部には当接部以外の部位に比べて高い耐摩耗性が要求されている。
【0004】
そのため、一般的には、排気弁の材料として、排気弁の当接部以外の部位には高合金の耐熱鋼(例えば、SUH31など)が使用され、排気弁の当接部には上記当接部以外の部位に比べて高い硬度の材料が肉盛溶接されている(例えば、特許文献1参照。)。肉盛溶接される材料としては、例えば、コルモノイ6(登録商標、以下同じ)のようなNi−Cr−B系合金、または、ステライト6(登録商標、以下同じ)のようなCo−Cr−W−C系合金が使用されている。
【0005】
しかしながら、コルモノイ6は低靱性材料であるため、当接部と弁座との断続的接触により割れが生じやすい。一方、ステライト6はコルモノイ6に比べて靱性に優れているが、コルモノイ6に比べて低硬度であるため、当接部が上記燃焼生成物により摩耗されやすい。従って、排気弁を長期間使用することが難しい。
【0006】
そこで、当接部に強度および靱性に優れ高温腐食しにくいNi系の超耐熱合金を肉盛溶接し、さらに当接部の表面に特殊な加工熱処理が施すことによって、当接部に当接部以外の部位に比べて高い硬度、すなわち高い耐摩耗性を保有させて排気弁の寿命を延ばすことが考えられる。ここで、加工熱処理とは、排気弁に固溶化処理を施し軟化させ、当接部などを冷間鍛造などにより塑性変形せしめこれにより加工硬化させ、さらにその後時効処理することにより析出硬化させる処理であり、主に航空機のエンジン部品などに使用されている。
【0007】
しかしながら、この場合、上記超耐熱合金の強度が高いため当接部を大きな力で冷間鍛造する必要がある。そのため、当接部だけでなく当接部以外の部位も大きく変形され、排気弁は所定の形状を保つことが困難である。従って、従来の冷間鍛造を含む加工熱処理を超耐熱合金で肉盛溶接された当接部にそのまま適用することはできない。その結果、排気弁を長期間使用することが難しい。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、超耐熱合金を肉盛溶接して形成された当接部に加工熱処理を可能にすることにより従来の排気弁に比べて寿命を延ばすことができる内燃機関用の排気弁とその製造方法と再生方法を提供することを目的とする。
【0009】
【特許文献1】
特開平8−100612号公報 (第2頁)
【0010】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明に係る排気弁は、内燃機関の弁座に当接する弁体頭部の当接部がNi系析出硬化型超耐熱合金を肉盛溶接することにより形成されており、当接部が、固溶化処理された後当接部の上面に設置された火薬を爆発させることにより塑性変形せしめられて加工硬化しその後時効処理されてなる。
【0011】
この構成では、当接部が固溶化処理されるので、当接部の塑性変形が容易となり、塑性変形時の割れ等の欠陥の発生を防止することができる。また、当接部はその上面に設置された火薬の爆発によって塑性変形されるが、火薬の爆発によるエネルギが当接部の上面近傍に集中するので、従来の冷間鍛造のように排気弁が大きく変形することなく当接部を加工硬化させることができる。また、当接部としてNi系析出硬化型超耐熱合金を使用しているので、時効処理によって当接部を著しく硬化させることができる。すなわち、当接部の耐摩耗性を著しく向上させることができる。さらに、時効処理により爆発により生じた排気弁内の残留応力を除去するので、排気弁を作動させるときに作用する機械的応力および熱応力により排気弁が変形することを防止することができる。これにより、排気弁の寿命を従来の肉盛溶接型の排気弁に比べて延ばすことが可能となる。
【0012】
また、本発明に係る排気弁の製造方法は、内燃機関の弁座に当接する弁体頭部の当接部がNi系析出硬化型超耐熱合金を肉盛溶接することにより形成される肉盛溶接工程と、当接部を固溶化処理する固溶化処理工程と、この固溶化処理された当接部をその上面に設置された火薬を爆発させることにより塑性変形せしめ加工硬化させる爆発硬化工程と、この当接部を時効処理する時効処理工程とを備える。これにより、上述したように排気弁の寿命を従来の肉盛溶接型の排気弁に比べて延ばすことが可能となる。
【0013】
また、本発明に係る排気弁の再生方法は、内燃機関の弁座に当接する弁体頭部の当接部を備える排気弁の再生方法であって、弁座との断続的な接触によって減肉した当接部を除去する除去工程と、減肉した当接部を除去した部分にNi系析出硬化型超耐熱合金を肉盛溶接することにより新たな当接部を形成する肉盛溶接工程と、この固溶化処理された当接部をその上面に設置された火薬を爆発させることにより塑性変形せしめ加工硬化させる爆発硬化工程と、この当接部を時効処理する時効処理工程とを備える。
【0014】
この構成によれば、排気弁の当接部が摩耗により使用可能な限界寸法まで減肉し、排気弁の機能が劣化した場合であっても、この減肉した当接部を除去した後、上述した排気弁の製造方法と同様の方法で当接部を形成することによって元の状態に再生することが可能となる。これにより、排気弁の寿命を延ばすことができる。
【0015】
また、本発明に係る排気弁の再生方法は、Ni系析出硬化型超耐熱合金で一体的に形成された排気弁の再生方法であって、内燃機関の弁座との断続的な接触によって減肉した弁体頭部の当接部にNi系析出硬化型超耐熱合金を肉盛溶接することにより新たな当接部を形成する肉盛溶接工程と、この新たな当接部を固溶化処理する固溶化処理工程と、この固溶化処理された当接部をその上面に設置された火薬を爆発させることにより塑性変形せしめ加工硬化させる爆発硬化工程と、この当接部を時効処理する時効処理工程とを備える。
【0016】
この構成によれば、一体的に形成された排気弁の弁座との当接部が摩耗により減肉した場合であっても、摩耗した部分にNi系析出硬化型超耐熱合金を肉盛溶接することにより新たな当接部を形成し、その後この当接部を爆発硬化させ時効処理することによって当接部が元の状態に再生される。これにより、排気弁の寿命を延ばすことができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る内燃機関用の排気弁の一部分を示す部分縦断面図である。図2は、本発明の実施の形態に係る内燃機関用の排気弁の製造工程図である。
【0018】
図1に示すように、排気弁1は、傘状の弁体頭部10と、この弁体頭部10の先細側の略中央部に連続して上方に(先細側)に延びる軸棒11とを備える。この排気弁1は、内燃機関の燃焼器(図示せず)内で燃料が燃焼するときに排気弁1の弁体頭部10が弁座(図示せず)に当接し燃焼中の燃料が排気弁1の下流に漏れないようになっている。また、排気弁1は、燃料が燃焼した後の排気ガスを排気するときに排気弁1の弁体頭部10が弁座から離反し排気弁1の下流に排気ガスが排出されるようになっている。従って、弁体頭部10および軸棒11は、排気ガスに曝され、高温(例えば、500℃)になる。そこで、弁体頭部10および軸棒11には、優れた耐熱性を備えるSUH31などの耐熱鋼が使用されている。
【0019】
また、上述した排気弁1は開閉するときに弁体頭部10が弁座に断続的に接触するために弁体頭部10が摩耗しやすい。そこで、弁体頭部10の軸棒11側の外縁部(弁体頭部10の斜面の外縁部)10aの弁座に対向する部分には、弁体頭部10の摩耗を防止するための当接部12が設けられている。具体的には、当接部12は、上記外縁部10aの弁座に対向する部分に形成された環状の凹部(図示せず)に弁体頭部10の斜面から外方に突出するようにNi系析出硬化型超耐熱合金を肉盛溶接することによって形成されている。これにより、排気弁1が閉状態になったとき当接部12が弁座に当接するようになっている。Ni系析出硬化型超耐熱合金としてインコネル718(登録商標、以下同じ)などが使用される。インコネル718は加工熱処理によって加工硬化する超耐熱合金の中で溶接性に優れた材料である。なお、インコネル718の化学組成はCr:19%、Fe:17%、Nb:5%、Mo:3%、Ti:0.8%、Al:0.6%、残りNiである。ここで、加工熱処理とは、排気弁1に固溶化処理を施し軟化させ、当接部12などを冷間鍛造などにより塑性変形せしめこれにより加工硬化させ、さらにその後時効処理を行いうことで析出硬化させる処理である。
【0020】
次に、上記のように構成される排気弁1の製造方法について図2を用いて説明する。
【0021】
最初に、弁体頭部10の凹部にNi系析出硬化型超耐熱合金を肉盛溶接して当接部12を形成する。この工程が肉盛溶接工程である。その後、当接部12が固溶化処理される。この固溶化処理では、当接部12が予め1080℃に高周波加熱などにより加熱され、この状態を所定時間保持された後、水冷または空冷される。これにより、当接部12は軟質で延性および靱性に優れた材料特性となり、後述する爆発硬化工程における爆発時の衝撃で当接部12に亀裂などが発生することを防止することができる。なお、ここでは、当接部12のみを加熱しているが、排気弁1が小さく当接部12のみ加熱できない場合などには排気弁1全体を加熱してもよい。以上の工程が固溶化処理工程である。
【0022】
次に、図2(a)に示すように当接部12の上面全体に所定量の火薬13を載置する。火薬13の内周部に火薬13を爆発させる雷管(図示せず)を設置する。この火薬13の量および種類などは、爆発することによって当接部12に塑性変形を付与するための爆発力のみが得られるように設定されている。従って、従来の爆破圧着のように金属同士を固体状態で接合させるような大きな爆発力は不要である。なお、当接部12と火薬13との間に環状の緩衝部材(図示せず)を介在させてもよい。この緩衝部材により、火薬13が爆発したときに当接部12に熱を伝達することなく火薬14の爆発時の爆発力のみを伝達することもできる。すなわち、当接部12の上面に冷間鍛造と同じような塑性変形を付与することが可能となる。
【0023】
次に、図2(b)に示すように雷管(図示せず)によって火薬13を起爆する。すると、火薬13は当接部12の上面の内周部側から外周部側に向かって輪状に広がるように順次爆発する。このとき、火薬13の爆発力BFが当接部12の上面に対して略垂直方向に作用する。これにより、当接部12は塑性変形され加工硬化する。しかし、爆発によるエネルギは当接部12の上面近傍に集中するので、従来の冷間鍛造のように弁体頭部10を大きく変形することはない。以上の工程が爆発硬化工程である。
【0024】
次に、上記爆発硬化工程において形成された排気弁1は、約750℃に加熱され、この状態で所定時間保持された後、常温まで徐冷される。排気弁1が約750℃で所定時間保持されることによって、爆発により生じた当接部12および弁体頭部10内の残留応力が除去される。これにより、排気弁1の使用時に作用する機械的応力および熱応力の相乗効果による排気弁1の変形が生じないようにすることができる。また、当接部12としてNi系析出硬化型超耐熱合金が使用されているので、当接部12は徐冷されることにより析出硬化される。これにより、当接部12は著しく高い硬度となり、当接部12の耐摩耗性は向上する。具体的には、加工熱処理を施した当接部12の硬度は約500(ビッカース硬さ)となり、従来の冷間鍛造による場合とほぼ同等の硬度が得られる。さらに、当接部12が爆発による塑性変形で当接部12内の溶接凝固組織が壊され鍛造組織に変わるため当接部12の靱性も向上する。以上の工程が時効処理工程である。
【0025】
以上の一連の工程(加工熱処理工程)により、弁体頭部10の外縁部10aに著しく高い硬度、すなわち高い耐摩耗性、および、高い靱性を有する当接部12が形成される。これにより、排気弁1の寿命を延ばすことができる。
【0026】
続いて、当接部12が摩耗により使用可能な限界寸法まで減肉した場合の排気弁1の再生方法について説明する。
【0027】
まず、減肉した当接部12の部分を旋盤などの切削手段を用いて除去する。その後、上述の加工熱処理工程と同じ工程で弁体頭部10に再生するための当接部12が形成される。これにより、減肉した当接部12は元の状態に再生される。
【0028】
その他、排気弁1がNi系析出硬化型超耐熱合金で一体的に形成されており、弁座と当接する部分が摩耗した場合であっても、摩耗した部分にNi系析出硬化型超耐熱合金を肉盛溶接して、上述の加工熱処理を施すことにより摩耗した部分を摩耗前の状態に再生することもできる。なお、この場合、排気弁1の変形防止の観点から、固溶化処理工程において排気弁1全体を加熱するより当接部12のみを加熱することが好ましい。また、当接部12に高い硬度を要求しない場合、排気弁1の固溶化処理を省略しても構わない。
【0029】
なお、上述した実施形態は一例であり、本発明の要旨を損なわない範囲での種々の変更は可能であり、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。
【0030】
【発明の効果】
本発明は、超耐熱合金を肉盛溶接して形成された当接部に加工熱処理を可能にすることにより従来の排気弁に比べて寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る内燃機関用の排気弁の一部分を示す部分縦断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る内燃機関用の排気弁の製造工程図である。
【符号の説明】
1…排気弁
10…弁体頭部
10a…外縁部
11…軸棒
12…当接部
13…火薬
BF…爆発力

Claims (4)

  1. 内燃機関の弁座に当接する弁体頭部の当接部がNi系析出硬化型超耐熱合金を肉盛溶接することにより形成されており、
    上記当接部が、固溶化処理された後その上面に設置された火薬を爆発させることにより塑性変形せしめられて加工硬化しその後時効処理されてなる、内燃機関用の排気弁。
  2. 内燃機関の弁座に当接する弁体頭部の当接部がNi系析出硬化型超耐熱合金を肉盛溶接することにより形成される肉盛溶接工程と、
    上記当接部を固溶化処理する固溶化処理工程と、
    この固溶化処理された当接部をその上面に設置された火薬を爆発させることにより塑性変形せしめ加工硬化させる爆発硬化工程と、
    この当接部を時効処理する時効処理工程とを備える、内燃機関用の排気弁の製造方法。
  3. 内燃機関の弁座に当接する弁体頭部の当接部を備える排気弁の再生方法であって、
    上記弁座との断続的な接触によって減肉した当接部を除去する除去工程と、
    減肉した当接部を除去した部分にNi系析出硬化型超耐熱合金を肉盛溶接することにより新たな当接部を形成する肉盛溶接工程と、
    この新たな当接部を固溶化処理する固溶化処理工程と、
    この固溶化処理された当接部をその上面に設置された火薬を爆発させることにより塑性変形せしめ加工硬化させる爆発硬化工程と、
    この当接部を時効処理する時効処理工程とを備える、内燃機関用の排気弁の再生方法。
  4. Ni系析出硬化型超耐熱合金で一体的に形成された排気弁の再生方法であって、
    内燃機関の弁座との断続的な接触によって減肉した弁体頭部の当接部にNi系析出硬化型超耐熱合金を肉盛溶接することにより新たな当接部を形成する肉盛溶接工程と、
    この新たな当接部を固溶化処理する固溶化処理工程と、
    この固溶化処理された当接部をその上面に設置された火薬を爆発させることにより塑性変形せしめ加工硬化させる爆発硬化工程と、
    この当接部を時効処理する時効処理工程とを備える、内燃機関用の排気弁の再生方法。
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