JP3691494B2 - 内燃機関用の排気弁とその製造方法と再生方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関用の排気弁とその製造方法と再生方法に関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】
内燃機関用の排気弁は弁体頭部とこの弁体頭部から上方に延びる軸棒とを備える。排気弁は、内燃機関の燃焼室で燃料が燃焼するときに弁体頭部が弁座に当接し燃焼室の圧力が排気弁の下流に漏れないようになっている。また、排気弁は、燃料が燃焼した後の排気ガスを排気するときに弁体頭部が弁座から離反し排気弁の下流に排気ガスが排出されるようになっている。
【0003】
この排気弁には、一般的に、(1)排気弁の作動温度(例えば、500℃)における耐酸化性、並びに、排気ガス中の燃焼生成物(例えば、未燃焼カーボン粉、または、5酸化バナジウムなどの溶融塩)に対する耐食性および耐摩耗性を有すること、(2)排気弁の作動温度においても所定の強度および靱性を保持し、変形および破壊を生じないこと、(3)製造方法が簡単であることなどの材料特性が要求されている。特に、排気弁の弁体頭部の、弁座に対向して配置される当接部位は、排気弁の開閉動作によって弁座に断続的に接触するため摩耗し易いので、排気弁の当接部位以外の部位に比べて高い耐摩耗性が要求されている。
【0004】
そのため、一般的には、排気弁の材料として、排気弁の当接部位以外の部位には高合金の耐熱鋼(例えば、SUH31など)が使用され、排気弁の当接部位には上記当接部位以外の部位に比べて高い硬度の材料が肉盛溶接されている(例えば、特許文献1参照。)。肉盛溶接される材料としては、例えば、コルモノイ6(登録商標、以下同じ。)のようなNi−Cr−B系合金、または、ステライト6のようなCo−Cr−W−C系合金が使用されている。
【0005】
しかしながら、コルモノイ6は低靱性材料であるため、当接部位と弁座との断続的接触により割れが生じやすい。一方、ステライト6はコルモノイ6に比べて靱性に優れているが、コルモノイ6に比べて低硬度であるため、当接部位が上記燃焼生成物により摩耗されやすい。その結果、当接部位と弁座との間に隙間が形成され、この隙間から燃焼室内の高圧の排気ガスが吹き抜けやすくなる。以上より、肉盛溶接の場合、排気弁を長期間使用することができないという課題がある。
【0006】
そこで、当接部位を含む排気弁全体を強度および靱性に優れ高温腐食しにくいNi系析出硬化型超耐熱合金で一体的に形成し、さらに当接部位の表面に特殊な加工熱処理が行われている。これにより、当接部位が当接部位以外の部位に比べて高い硬度を保有することができる。ここで、加工熱処理とは、排気弁に固溶化処理を施し軟化させ、当接部位などを冷間鍛造などにより塑性変形を施して加工硬化させ、さらにその後時効処理することにより析出硬化させる処理であり、主に航空機のエンジン部品などの製作に使用されている。
【0007】
しかしながら、排気弁の当接部位の冷間鍛造が複雑であり、排気弁の製造コストも高くなるという課題がある。さらに、一体的に形成した排気弁は、摩耗した場合に再生することが難しいという課題もある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、製作が簡単であって従来の排気弁に比べて寿命を延ばすことができる内燃機関用の排気弁とその製造方法と再生方法を提供することを目的とする。
【0009】
【特許文献1】
特開平8−100612号公報 (第2頁)
【0010】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明に係る排気弁は、弁体頭部と、該弁体頭部から上方に延びる軸棒と、該弁体頭部の軸棒側の外縁部に弁座に対向して配置される当接部材とを備える内燃機関用の排気弁であって、当接部材がNi系析出硬化型超耐熱合金から形成されており、当接部材が、固溶化処理された後前記弁体頭部の軸棒側の外縁部上に載置され当該当接部材の上に当該当接部材への伝熱を遮断するための緩衝部材を介して火薬が載置され爆発されることにより冷間塑性変形されるとともに上記弁体頭部の軸棒側の外縁部に接合され、その後時効処理されてなる。
【0011】
この構成では、この固溶化処理によって当接部材の冷間塑性変形が容易になり、割れ等の欠陥の発生を防止することができる。
【0012】
また、爆発圧着によって当接部材が冷間塑性変形(冷間鍛造と同様の作用)され加工硬化する。以上の方法は、従来の冷間鍛造に比べて複雑ではなく、排気弁の製造コストを下げることもできる。さらに、爆発圧着によって弁体頭部と当接部材とが接合される。この爆発圧着は固体状態で金属同士を接合させるので、従来の肉盛溶接のように溶融、凝固過程を経て金属組織が粗大化し、かつ、不均一になり材料特性を低下させるのとは異なり、Ni析出硬化型超耐熱合金の材料特性を十分に発揮させることができる。
【0013】
また、当接部材としてNi系析出硬化型超耐熱合金を使用しているので、時効処理によって当接部材を著しく硬化させることができる。その結果、当接部材を時効処理しない場合に比べて当接部材の耐摩耗性は著しく向上する。さらに、時効処理により、爆発圧着により生じた排気弁内の残留応力は除去されるので、排気弁を作動させるときに作用する機械的応力および熱応力により排気弁が変形または亀裂が生じることを防止することができる。
【0014】
以上により、排気弁の寿命を延ばすことができる。
【0015】
また、本発明に係る排気弁の製造方法は、弁体頭部と、該弁体頭部から上方に延びる軸棒と、該弁体頭部の軸棒側の外縁部に弁座に対向して配置される、Ni系析出硬化型超耐熱合金から形成された当接部材とを備える内燃機関用の排気弁の製造方法であって、当接部材を固溶化処理する固溶化処理工程と、この固溶化処理された当接部材を前記弁体頭部の軸棒側の外縁部上に載置し、当該当接部材の上に当該当接部材への伝熱を遮断するための緩衝部材を介して火薬を載置して、火薬を爆発させることにより、当該当接部材を冷間塑性変形させるとともに上記弁体頭部の軸棒側の外縁部に接合させる爆発接合工程と、この接合された当接部材を時効処理する時効処理工程とを備える。これにより、上述したように排気弁の製作が簡単となり、排気弁の寿命を延ばすことが可能となる。
【0016】
また、本発明に係る排気弁の再生方法は、弁体頭部と、該弁体頭部から上方に延びる軸棒と、該弁体頭部の軸棒側の外縁部に弁座に対向して配置される、Ni系析出硬化型超耐熱合金から形成された当接部材とを備える内燃機関用の排気弁の再生方法であって、弁座との断続的な接触によって減肉した当接部材を除去する除去工程と、減肉した当接部材を除去した後弁体頭部の軸棒側の外縁部に接合される、排気弁を再生するための当接部材を固溶化処理する固溶化処理工程と、この固溶化処理された当接部材を前記弁体頭部の軸棒側の外縁部上に載置し、当該当接部材の上に当該当接部材への伝熱を遮断するための緩衝部材を介して火薬を載置して、火薬を爆発させることにより、当該当接部材を冷間塑性変形させるとともに弁体頭部の軸棒側の外縁部に接合させる爆発接合工程と、この接合された当接部材を時効処理する時効処理工程とを備える。
【0017】
この構成によれば、排気弁の当接部材が摩耗により使用可能な限界寸法まで減肉した場合であっても、この減肉した当接部材を除去した後、上述した排気弁の製造方法と同様の方法により排気弁を再生するための当接部材を弁体頭部に接合することによって元の状態に再生することが可能となる。これにより、排気弁の寿命を延ばすことができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る内燃機関用の排気弁の一部分を示す部分縦断面図である。図2は、本発明の実施の形態に係る内燃機関用の排気弁の製造工程図である。
【0019】
図1に示すように、排気弁1は、傘状の弁体頭部10と、この弁体頭部10の先細側の略中央部に連続して上方に(先細側)に延びる軸棒11とを備える。この排気弁1は、内燃機関の燃焼室(図示せず)内で燃料が燃焼するときに排気弁1の弁体頭部10が弁座(図示せず)に当接し燃焼室の圧力が排気弁1の下流に漏れないようになっている。また、排気弁1は、燃料が燃焼した後の排気ガスを排気するときに排気弁1の弁体頭部10が弁座から離反し排気弁1の下流に排気ガスが排出されるようになっている。従って、弁体頭部10は、高温の排気ガスに曝される。そこで、弁体頭部10には、優れた耐熱性を備えるSUH31などの耐熱鋼が使用されている。
【0020】
また、上述した排気弁1は開閉するときに弁体頭部10が弁座に断続的に接触するために弁体頭部10が摩耗しやすい。そこで、弁体頭部10の摩耗を防止するために、弁体頭部10の弁座に当接する部分およびその周辺部分には断面矩形状の当接部材12が設けられている。この当接部材12は環状をなしており、弁体頭部10の軸棒11側の外縁部(弁体頭部10の斜面の外縁部)10aの弁座に対向する部分に突設されている。この当接部材12としては、耐摩耗性に優れたナイモニック80A(登録商標、以下同じ)などのNi系析出硬化型超耐熱合金が使用されている。このナイモニック80Aの化学組成はCr:20%、Ti:2.5%、Al:1.7%、Fe≦5.0%、Co≦2.0%、残りNiであり、加工熱処理によって高い硬度を得ることができ、これにより優れた耐摩耗性を得ることができる超耐熱合金である。ここで、加工熱処理とは、排気弁1に固溶化処理を施し軟化させ、当接部材12などを冷間鍛造などにより塑性変形を施して加工硬化させ、さらにその後時効処理を行うことで析出硬化させる処理である。
【0021】
次に、上記のように構成される排気弁1の製造方法について図2を用いて説明する。
【0022】
最初に、当接部材12を固溶化処理する。この固溶化処理では、当接部材12は予め1080℃に加熱され、この状態で所定時間保持された後、冷却される。これにより、当接部材12は軟質で延性および靱性に優れた材料特性となり、後述する爆発圧着時の衝撃で当接部材12に亀裂などが発生することを防止することができる。以上の工程が固溶化処理工程である。
【0023】
次に、図2(a)に示すように弁体頭部10の軸棒11側の外縁部10aに当接部材12が載置される。この当接部材12の内周部を外縁部10aに載置し、当接部材12の外周部を外縁部10aとの間に所定の間隔をあけて設置する。これにより、当接部材12と外縁部10aとの間に側面視楔状の空間が形成される。また、当接部材12の上に緩衝部材13を挟んで所定量の火薬14が載置され、火薬14の内周部に火薬14を爆発させる雷管(図示せず)が設置される。
【0024】
より具体的には、緩衝部材13は、当接部材12の平面形状に併せて環状に形成されており、当接部材12の上に重ね合わせるように載置される。そして、この緩衝部材13は、火薬14が爆発したときに当接部材12に熱を伝達することなく火薬14の爆発時の爆発力のみを伝達する。
【0025】
また、上記火薬14は、緩衝部材13の平面形状に併せて環状に形成されており、緩衝部材13の上に重ね合わせるように載置される。そして、この火薬14は、爆発することによって当接部材12を冷間塑性変形させると共に当接部材12を上記外縁部10aに固体状態で接合させるための爆発力を発生させる。なお、火薬14の量及び種類は、当接部材12の材質、形状などを考慮して適宜設定される。
【0026】
次に、図2(b)に示すように雷管(図示せず)によって火薬14を起爆する。すると、火薬14は当接部材12の内周部側から外周部側に向かって輪状に広がるように順次爆発する。この際、火薬14の爆発力BFが当接部材12の板厚方向に作用する。その結果、当接部材12は板厚方向に冷間塑性変形(屈曲)し、弁体頭部10の外縁部10aに高速度で衝突する。そして、当接部材12と外縁部10aとが衝突する部分では、それぞれの表面に形成されている酸化皮膜が除去され清浄な表面が形成される。そして、これらの清浄な表面が爆発力BFによって高圧で密着し接合(いわゆる、拡散接合)される。この接合は火薬14の爆発の進行方向に順次行われる。これにより、図2(c)に示すように当接部材12は弁体頭部10の外縁部10aに接合される。さらに、当接部材12は冷間塑性変形されるので加工硬化する。以上の方法は、従来の冷間鍛造に比べて複雑ではなく、排気弁1の製造コストも下げることができる。以上の工程が爆発接合工程である。
【0027】
最後に、以上の工程により製作された排気弁1を約750℃に加熱し、この状態で所定時間保持して、その後常温まで徐冷する。排気弁1を約750℃で所定時間保持することによって、爆発圧着により生じた当接部材12および弁体頭部10内の残留応力を除去することができる。これにより、排気弁1の使用時に作用する機械的応力および熱応力の相乗効果による排気弁1の変形または亀裂が生じないようにすることができる。また、当接部材12としてNi系析出硬化型超耐熱合金を使用しているので、当接部材12は徐冷されたあと約750℃に加熱されることにより析出硬化される。これにより、当接部材12は著しく高い硬度となり、当接部材12の耐摩耗性は向上する。具体的には、加工熱処理を施した当接部材12の硬度は約500(ビッカース硬さ)となり、従来の冷間鍛造による場合とほぼ同等の硬度が得られる。以上の工程が時効処理工程である。
【0028】
以上の一連の工程(加工熱処理工程)により、弁体頭部10の外縁部10aに著しく高い硬度、すなわち高い耐摩耗性を有する当接部材12が形成されるので、排気弁1の寿命を延ばすことができる。
【0029】
続いて、当接部材12が摩耗により使用可能な限界寸法まで減肉した場合の排気弁1の再生方法について説明する。
【0030】
まず、減肉した当接部材12の部分を旋盤などの切削手段を用いて除去する。その後、上述の加工熱処理工程と同じ工程で弁体頭部10に再生するための当接部材12を接合する。これにより、減肉した当接部材12は元の状態に再生される。その結果、排気弁1の寿命を延ばすことができる。
【0031】
なお、上述した実施形態は一例であり、本発明の要旨を損なわない範囲での種々の変更は可能であり、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、排気弁の当接部材のみ加工熱処理することで排気弁の製作を簡単にすることができる。また、当接部材の硬度を著しく向上させることができるので、当接部材の耐摩耗性を向上させることができる。その結果、排気弁の寿命が従来の排気弁に比べて延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る内燃機関用の排気弁の一部分を示す部分縦断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る内燃機関用の排気弁の製造工程図である。
【符号の説明】
1…排気弁
10…弁体頭部
10a…外縁部
11…軸棒
12…当接部材
13…緩衝部材
14…火薬
BF…爆発力
Claims (3)
- 弁体頭部と、該弁体頭部から上方に延びる軸棒と、該弁体頭部の軸棒側の外縁部に弁座に対向して配置される当接部材とを備える内燃機関用の排気弁であって、
上記当接部材がNi系析出硬化型超耐熱合金から形成されており、
上記当接部材が、固溶化処理された後前記弁体頭部の軸棒側の外縁部上に載置され当該当接部材の上に当該当接部材への伝熱を遮断するための緩衝部材を介して火薬が載置され爆発されることにより冷間塑性変形されるとともに上記弁体頭部の軸棒側の外縁部に接合されその後時効処理されてなる、内燃機関用の排気弁。 - 弁体頭部と、該弁体頭部から上方に延びる軸棒と、該弁体頭部の軸棒側の外縁部に弁座に対向して配置される、Ni系析出硬化型超耐熱合金から形成された当接部材とを備える内燃機関用の排気弁の製造方法であって、
上記当接部材を固溶化処理する固溶化処理工程と、
この固溶化処理された当接部材を前記弁体頭部の軸棒側の外縁部上に載置し、当該当接部材の上に当該当接部材への伝熱を遮断するための緩衝部材を介して火薬を載置して、火薬を爆発させることにより、当該当接部材を冷間塑性変形させるとともに上記弁体頭部の軸棒側の外縁部に接合させる爆発接合工程と、
この接合された当接部材を時効処理する時効処理工程とを備える、内燃機関用の排気弁の製造方法。 - 弁体頭部と、該弁体頭部から上方に延びる軸棒と、該弁体頭部の軸棒側の外縁部に弁座に対向して配置される、Ni系析出硬化型超耐熱合金から形成された当接部材とを備える内燃機関用の排気弁の再生方法であって、
上記弁座との断続的な接触によって減肉した当接部材を除去する除去工程と、
減肉した当接部材を除去した後弁体頭部の軸棒側の外縁部に接合される、排気弁を再生するための当接部材を固溶化処理する固溶化処理工程と、
この固溶化処理された当接部材を前記弁体頭部の軸棒側の外縁部上に載置し、当該当接部材の上に当該当接部材への伝熱を遮断するための緩衝部材を介して火薬を載置して、火薬を爆発させることにより、当該当接部材を冷間塑性変形させるとともに弁体頭部の軸棒側の外縁部に接合させる爆発接合工程と、
この接合された当接部材を時効処理する時効処理工程とを備える、内燃機関用の排気弁の再生方法。
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