JP3660279B2 - 試料イオン化装置及び質量分析計 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は分析化学分野に属し、特に大気圧化学イオン化法を用いる質量分析計に係わる。
【0002】
【従来の技術】
ダイオキシン汚染が社会問題化し、様々な取り組みが行なわれている。特に、新たに環境中に放出されるダイオキシン類の主な発生源はゴミ焼却炉であるため、焼却炉排ガスに対する監視が強化されている。
【0003】
焼却炉排ガス中のダイオキシン計測において、従来は、複雑な前処置を行なった後、高分解能のガスクロマトグラフ・質量分析計(Gas Chromatograph/Mass Spectrometer、以下ではGC/MSと記載する)を用いて異性体別に定量分析を行なう。これは、ダイオキシン類の毒性が異性体により大きく異なるためである。定量結果は、最も毒性の強い2,3,7,8-tetraclorodibenzo-p-dioxinの重量に換算されて毒性等量(Toxicity Equivalent Quantity、以下ではTEQと記載する)として表示される。この方法では、正確な測定が可能である反面、分析に手間がかかり、結果が出るまでに1ヵ月近くを要するのが現状である。1件あたりの分析費も、約30万円と高額である。
【0004】
従来技術において複雑な前処理が必要になるのは、質量分析計のイオン源として電子衝撃(Electron Impact、以下ではEIと記載する)を利用するためである。EIは試料物質に電子線を照射し、電子の衝撃によりイオンを生成する方法であり、極めて汎用性の高いイオン化法である。反面、分子の分解を引き起こしやすく、複数の物質が同時にイオン源に到達すると質量スペクトルが複雑になりすぎて測定誤差を生じる恐れがある。このため、不純物を除去し、各成分別に分離するという煩雑な作業が必要であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
以上の様に、ダイオキシンの精密分析には多大な労力とコストを要するため、頻繁に分析を行なうのは困難である。このため、ゴミ焼却炉の排気ガスは、年に2回分析される。その際、ガスのサンプリングは1分析当り4時間行なわれる。しかしながら、排ガス中に含まれるダイオキシン量は燃焼状態に大きく依存するため、年に2回の分析だけでは必ずしも焼却炉から長期間に渡って放出されるダイオキシン量を把握できるとは限らない。
【0006】
より簡便にダイオキシン量を予測するために、ダイオキシン量と相関がある他の指標、例えばダイオキシン前駆体と考えられているクロロフェノールやクロロベンゼンの濃度を高速で計測しようとする取り組みが行なわれている。ダイオキシン前駆体計測により、排ガスに含まれているダイオキシン量を予測し、燃焼制御にフィードバックする事により発生量を低減させようとする試みである。しかしながら、ダイオキシン前駆体はダイオキシン類に比べて排ガス中に103倍から104倍程度含まれているため、前駆体の濃度とダイオキシン類の濃度との間の相関は十分に高いとは言えない。
【0007】
そこで、TEQと相関の高いダイオキシン総量に着目し、ダイオキシン総量を簡便に計測する事により焼却炉から環境中に放出されるダイオキシン量を長期間に渡って監視できるシステムの開発に着手した。本発明の目的は、ダイオキシン総量計測に好適な質量分析計を提供する事である。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明では、測定試料を含む試料溶液を供給するための試料供給管と、試料供給管から供給された試料溶液を霧化する霧化器と、霧化器で霧化された試料をイオン化するための針状電極を具備するイオン源と、イオン源で生成されたイオンを分析する質量分析器からなる質量分析計において、霧化された試料又は前記気化部により気化された試料にキャリアガスを混合してイオン源に供給することにより高感度な質量分析計を提供する。また、針状電極の先端部分において試料の移動方向とイオンの移動方向とを対向させることにより、ダイオキシン総量計測に適した質量分析計を提供する。
本発明による試料イオン化装置、質量分析計及び試料分析方法は、以下のような特徴を有する。
【0009】
(1)試料溶液を霧化する霧化部と、前記霧化部により霧化された試料を気化する気化部と、前記霧化部により霧化された試料又は前記気化部により気化された試料にキャリアガスを混合するガス混合部と、前記キャリアガスが混合された試料が流入するガス流入口と流出するガス流出口を有し、内部にコロナ放電を発生する針電極を備え、イオン化された試料を取り出すための細孔を有する放電室とを含むことを特徴とする試料イオン化装置。
【0010】
(2)前記(1)記載の試料イオン化装置において、前記霧化部に供給される試料溶液の流量と前記ガス混合部に供給されるキャリアガスの流量比を制御する流量比制御部を備えることを特徴とする試料イオン化装置。
【0011】
(3)前記(2)記載の試料イオン化装置において、前記流量比制御部は(キャリアガス流量/溶液流量)を2500〜15000の間の所定値に制御することを特徴とする試料イオン化装置。
【0012】
(4)前記(2)記載の試料イオン化装置において、前記流量比制御部は(キャリアガス/溶液流量)を5000〜8000の間の所定値に制御することを特徴とする試料イオン化装置。
【0013】
(5)前記(1)記載の試料イオン化装置において、前記放電室のガス流入口は前記イオン化された試料を取り出すための細孔を兼ねていることを特徴とする試料イオン化装置。
【0014】
(6)前記(1)記載の試料イオン化装置において、前記ガス混合部から供給される前記キャリアガスが混合された試料の一部が前記放電室をバイパスして流れる流路を有することを特徴とする試料イオン化装置。
【0015】
(7)試料溶液を霧化する霧化部と、前記霧化部により霧化された試料を気化する気化部と、前記霧化部により霧化された試料又は前記気化部により気化された試料にキャリアガスを混合するガス混合部と、前記キャリアガスが混合された試料が流入するガス流入口と流出するガス流出口を有し、内部にコロナ放電を発生する針電極を備え、イオン化された試料を取り出すための細孔を有する放電室と、前記放電室の前記細孔から取り出されたイオンが導入される質量分析器とを含むことを特徴とする質量分析計。
【0016】
(8)前記(7)記載の質量分析計において、前記霧化部に供給される試料溶液の流量と前記キャリアガスの流量比を制御する流量比制御部を備えることを特徴とする質量分析計。
【0017】
(9)前記(8)記載の質量分析計において、前記流量比制御部は(キャリアガス流量/溶液流量)を2500〜25000の間の所定値に制御することを特徴とする質量分析計。
【0018】
(10)前記(8)記載の質量分析計において、前記流量比制御部は(キャリアガス/溶液流量)を5000〜8000の間の所定値に制御することを特徴とする質量分析計。
【0019】
(11)前記(7)記載の質量分析計において、前記放電室のガス流入口は前記イオン化された試料を取り出すための細孔を兼ねていることを特徴とする質量分析計。
【0020】
(12)前記(7)記載の質量分析計において、前記ガス混合部から供給される前記試料が混合されたキャリアガスの一部が前記放電室をバイパスして流れる流路を有することを特徴とする質量分析計。
【0021】
(13)試料溶液を霧化するステップと、前記霧化した試料にキャリアガスを混合するステップと、前記キャリアガスが混合された試料を気化するステップと、前記気化された試料とキャリアガスとの混合ガスをコロナ放電が発生している放電室に導入して試料をイオン化するステップと、前記イオン化された試料を質量分析器に導入して質量分析するステップとを含むことを特徴とする試料分析方法。
【0022】
(14)前記(13)記載の試料分析方法において、前記放電室中で移動するイオン化された試料の移動方向と前記放電室中を流れる気化された試料とキャリアガスとの混合ガスの流動方向は互いに逆方向であることを特徴とする試料分析方法。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図を用いて詳細に説明する。以下の図において、同様の機能を有する部分には同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、本発明に関るシステムの全体構成を示す図である。焼却炉1において、ゴミ2の燃焼によって生じる排ガスは煙道3を介して煙突4より排出される。煙道3又は煙突4より排ガスを採取し、捕集部5に導入する。捕集部5には吸着材が配置されており、ダイオキシンなどの排ガス成分は吸着材に吸着される。次に、前処理部6により、吸着材に吸着された成分の抽出及び濃縮が行なわれる。前処理部6における抽出や濃縮には有機溶剤が用いられる。ダイオキシン類がとけ込んだ溶液は質量分析計7に導入されて分析される。
【0024】
図2は質量分析計の概略を示す図であり、代表例としてイオントラップ質量分析器を有する質量分析計について説明する。前処理部6にて得られた試料溶液は、配管8を介してイオン源9に送られる。イオン源9により生成されたイオンは、細孔付電極10aに開口する第一のイオン導入細孔11a、排気系12aにより排気された差動排気部13、細孔付電極10bに開口する第二のイオン導入細孔11bを介して排気系12bにより排気された真空部14に導入される。細孔付電極10a、10bには、ドリフト電圧電源15により電圧を印加する。ドリフト電圧には、差動排気部13に取り込まれたイオンを第二のイオン導入細孔11bの方向にドリフトさせることでイオン導入細孔11bのイオン透過率を向上させる効果のほかに、差動排気部13に残留しているガス分子とイオンとを衝突させることでイオンに付着している水などの溶媒分子を脱離させる効果がある。細孔付電極10bには加速電圧電源16により加速電圧を印加する。この加速電圧は、イオンがエンドキャップ電極17aに設けられた開口部を通過する際のエネルギー(入射エネルギー)に影響する。イオントラップ質量分析器のイオン閉じ込め効率は、イオンの入射エネルギーに依存するので、閉じ込め効率が高くなるように加速電圧を設定する。
【0025】
真空部14に導入されたイオンは、電極18a、18b、18cで構成されるイオン集束レンズにより収束された後、エンドキャップ電極17a、17b及びリング電極19により構成されるイオントラップ質量分析器に導入される。エンドキャップ電極17a、17bとリング電極19とは、石英リング20により保持される。質量分析器には、ガス供給器21からガス導入管22を介してヘリウムなどの衝突ガスが導入される。ゲート電極23は、イオントラップ質量分析器へのイオン入射のタイミングを制御するために設けられている。質量分析されて質量分析器の外に排出されたイオンは、変換電極24、シンチレータ25、フォトマルチプライヤ26で構成される検出器により検出される。イオンは、変換電極電源27によりイオンを加速する電圧が印加された変換電極24に衝突する。イオンと変換電極24の衝突により、変換電極24の表面より荷電粒子が放出される。この荷電粒子をシンチレータ25により検知し、信号をフォトマルチプライヤ26で増幅する。シンチレータ25とフォトマルチプライヤ26は、各々シンチレータ電源28とフォトマルチプライヤ電源29に接続されている。検出された信号はデータ処理装置30に送られる。また、イオン収束レンズやゲート電極は、各々電源31a、31bに接続されている。装置全体の制御は、制御装置32により行なう。
【0026】
図3は、本発明に関るイオン源の構造を示す図である。前処理部からの試料溶液は金属パイプ(試料供給管)33に導入される。金属パイプ33は金属ブロック34に埋め込まれている。金属ブロック34には、ヒーター及び熱電対(共に図示せず)が取りつけられており、200℃程度に加熱されている。試料溶液は熱により金属パイプ33の末端より噴霧される。噴霧された試料溶液は、更に別の気化用ブロック35に導入される。気化用ブロック35も加熱されており、噴霧により生成した液滴は熱により気化される。気化された試料は、壁面への吸着を防ぐために加熱された加熱配管36を介してイオン源に送られる。
【0027】
イオン源には針電極37が配置され、対向電極38との間に高電圧が印加される。針電極37の先端付近にコロナ放電が発生し、まず窒素、酸素、水蒸気などがイオン化される。これらのイオンは一次イオンと呼ばれる。一次イオンは、電界により対向電極38側に移動する。気化された試料の一部又は全部は、対向電極38に設けられた開口部より針電極37側に流れ、一次イオンと反応する事によりイオン化される。針電極37と対向電極38はイオン源保持部39にて保持される。針電極37側に流れるガスの流量は流量計40によりモニタされる。また、イオン源を通過したガスは排気チューブ41a、41bを介して質量分析計の外部に排気される。ガスの流量やイオン源の圧力を制御するため、排気チューブ41a、41bは吸気ポンプ42に接続しても良い。
【0028】
対向電極38と細孔付電極10aとの間には1kV程度の電圧が印加されており、イオンは細孔方向に移動して、細孔を介して差動排気部に取り込まれる。差動排気部では断熱膨張が起こり、イオンに溶媒分子などが付着する、いわゆるクラスタリングが起きる。クラスタリングを軽減するため、細孔付電極10a、10bをヒーターなどで加熱する事が望ましい。細孔付電極10a、10bの間に中間電極43を設け、差動排気部の圧力を制御しても良い。
また、図3では加熱により試料溶液を噴霧する加熱噴霧について記載したが、噴霧の方式としては静電噴霧やガス噴霧を用いても良い。
【0029】
ダイオキシンを分析するには、負のコロナ放電を用いた負イオン化モードが特に有効である。ダイオキシンの様にハロゲンを含む物質は負イオン化されやすいという特徴がある。従って、夾雑成分が存在してもハロゲン化物を優先的にイオン化できるので、EIに比べて大幅に前処理を簡略化できる。負イオン化モードでは、酸素のイオン(O2 -)が一次イオンになる。あらかじめコロナ放電により酸素イオンを生成しておき、酸素イオンとダイオキシン分子が化学反応を起す事によりダイオキシンに由来する分子イオンが生成される。
【0030】
しかしながら、コロナ放電では一酸化窒素(NO)も生成される。一酸化窒素は酸素イオンと結合し易い。すなわち、イオン源に一酸化窒素が多く存在すると酸素イオンの濃度が減少し、ダイオキシンのイオン化効率が低下するという問題が生じる。そこで、図3に示す様に、ガスを細孔付電極10a側に供給し、対向電極38を介して針電極37側に流す構成とすると、針電極先端付近のイオンの移動方向とガスの移動方向とが逆になるので、電荷を持たない一酸化窒素と酸素イオンが反応する確率を低くする事ができる。一酸化窒素と酸素イオンは共にコロナ放電で生成されるが、電荷の有無により分離する事で、一酸化窒素と酸素イオンの反応を抑制し、ダイオキシンのイオン化効率を高める事ができる。
【0031】
本発明によれば、塩素数の多いダイオキシン類を簡便に感度良く分析する事ができるため、4塩化から8塩化のダイオキシンやフランの量を迅速に決定できる。これらのダイオキシン類の総和を求める事で、ダイオキシン総量を算出する事ができる。
【0032】
霧化により生成された噴流の中には、粒径の大きな液滴も含まれる。粒径の大きな液滴は容易には気化しないので、細孔を介して真空中に取り込まれると検出器まで到達してノイズとなり、装置のS/Nを悪化させるほか、針電極に付着すると針電極を汚す原因になる。図3に示した構成では、霧化が排気チューブ41bに向いて成されるため、大きな液滴は排気チューブ41bから排気され、真空中に取り込まれる液滴を減らす事ができる。また、十分に気化したガスが対向電極38の開口部を介して針電極37の方向に流れるので、大きな液滴が針電極37に付着する事を防止でき、針電極37の汚れも軽減できる。
【0033】
図4は、試料溶液を霧化及び気化する部分の更に詳細な図である。ダイオキシンは有害な物質であるため、金属パイプ33から噴出された試料が実験室内に漏れて作業者に害をなさないよう、金属ブロック34と気化用ブロック35との間には気密保持部材44を設けると良い。噴霧された溶液の微粒化を促進するため、金属ブロック34と気化用ブロック35との間に衝突板45を設け、噴霧により生成された液滴を衝突板45との衝突により微粒化しても良い。また、イオン源に流入するガスの流量を制御するため、気化用ブロック35の一部にガス供給管46を設け、ガスを供給すると良い。
【0034】
図5は、気化用ブロック35にガスを供給する構成の一例を示した図である。高圧ボンベ47からのガスは、減圧弁48、フローコントローラー49、流量計50を介してガス供給管46に送られる。ガスの種類は、乾燥空気、窒素、酸素、アルゴンなどが使用できる。ダイオキシンのイオンは、基本的に酸素イオンとの化学反応により生成されるが、酸素を使用すると放電が不安定になる場合があるので、ガス種としては乾燥空気が特に望ましい。
【0035】
図6は、気化用ブロック35にガスを供給する別の方法を示したものである。高圧ボンベを準備するのが困難である場合には、大気を吸引し、送気ポンプ51を介して供給しても良い。図3に示した吸気ポンプ42の吸気量が十分である場合には、吸気ポンプ42により吸気する事でガスを供給できるので、送気ポンプ51を省略する事も可能である。
【0036】
図7は、溶液の流量をパラメータとし、ガス導入量とイオン強度との関係を示したグラフである。ガスの種類は乾燥空気とした。ダイオキシンをメタノールに溶解させ、1ppmの濃度に調整し、一定流量で金属パイプ33に導入した。図7の上方は横軸のフルスケールをガス流量4l/分としたグラフ、下方は横軸のフルスケールを21l/分としたグラフである。
【0037】
図7に示した結果から、ダイオキシンの信号強度はガスの流量に依存し、最適なガス流量は溶液の流量に応じて異なる事がわかった。例えば、溶液流量が毎分0.2ミリリットルの場合、ガス流量は毎分1リットル程度が望ましく、溶液流量が毎分0.6ミリリットルの場合にはガス流量は毎分3リットル程度が望ましい。溶液が気化すると、体積は一般に約1000倍に膨張する。今回の実験では、溶液が気化する事によるガスの流量と、ガス供給管から供給されるガスの流量を、およそ1:5に設定した場合に良好な結果を得た。従って、溶液流量に応じてガス流量を変える事は重要である。
【0038】
実験の結果、メタノールを溶媒とし、イオン源付近の温度を180℃とした場合、溶液流量に比してガス流量を1000倍以上にする事によりイオンを観測できるようになり、比が5000倍の時に効率良くイオン化できた。それ以上の比にすると、試料が希釈されるため徐々にイオン強度は低下するが、100000倍程度までは分析が可能であった。
【0039】
図11は、図7に示した溶液流量とガス流量、および溶液流量とイオン強度のグラフを、横軸を溶液流量とガス流量の比とし、縦軸をイオン強度として書き直したグラフである。溶液流量が0.2ml〜0.8mlのいずれの実験においても、イオン強度(信号強度)は溶液流量とガス流量の比がおよそ2000で急激に立上がり、流量比が5000程度の位置でピークに達する。なお、イオン強度が立ち上る位置でのイオン強度は不安定であり、実験によって信号が観測されたりされなかったりと、観測されるイオン強度に多少ばらつきが見られた。例えば、図11において観測されたイオン強度立上がり位置での点(流量比1500〜1900、信号強度150〜200×103カウントの点)は、実験によっては観測されない場合もあり、そのような場合も含めてイオン強度が安定に観測されるようになるのは流量比が2500の場合からであった。
【0040】
流量比が5000から8000の間ではイオン強度はほぼ一定値をとり、その後緩やかに減衰する。流量比が15000の位置でのイオン強度は、流量比が2500の位置におけるイオン強度とほぼ等しく、従ってイオン強度が安定に観測されるための流量比は3000以上15000以下の範囲である必要があることが分かる。
【0041】
図8は、試料溶液の流量に応じてイオン源に供給するガスの流量を制御するための構成図である。試料溶液は、送液ポンプ60から配管56、コネクタ58を介して金属パイプ33に導入される。送液ポンプ60の設定流量に関する情報は、信号ライン62aを介して制御装置61に送られる。制御装置61では、あらかじめ実験的に求めておいたデータに基づき、設定された溶液流量条件において好適なガス流量を決定し、情報を信号ライン62bを介してフローコントローラー49に送る。フローコントローラー49は制御装置61からの信号によりイオン源に導入するガスの流量を調整する。
【0042】
本発明によれば、ダイオキシン類の高効率イオン化が可能となり、結果としてダイオキシン総量を簡便に計測する事が可能となった。これにより、焼却炉から環境中に放出されるダイオキシン量を長期間に渡って監視できるシステムの構築が容易になった。
【0043】
本発明は、排ガスのダイオキシン計測のみならず、生体関連物質の分析などに良く用いられる液体クロマトグラフ・質量分析計(Liquid Chromatograph/Mass Spectrometer、以下ではLC/MSと記載する)においても有効である。
【0044】
図9は、本発明をLC/MSに用いた場合の図である。液体クロマトグラフ52は、移動相溶媒槽53、液体クロマトグラフポンプ54、インジェクタ55、配管56及び分離カラム57よりなる。試料溶液はインジェクタ55より注入され、液体クロマトグラフポンプ54により移動相溶媒と共に分離カラム57に送られる。分離カラム57内には充填材が充填されている。試料溶液は、充填材との相互作用により分離カラム57において成分別に分離される。分離された試料はコネクタ58を介して金属パイプ33に送られる。図9に示した構造は、負のイオン化モードにおいて特に有効である。
【0045】
図10は、LC/MSにおける他の実施の形態を示す図である。特に、正イオンを分析する正のイオン化モードにおいては、必ずしも図9に示したように試料溶液を気化したガスを細孔付電極10a側に供給し、対向電極38を介して針電極37側に流す構成にする必要は無い。液体クロマトグラフ52により分離された試料は金属パイプ33に導入され、噴霧される。噴霧された液滴は気化用ブロック35により気化され、針電極37によりコロナ放電が生じている部分に導入される。針電極37には高電圧が印加されるので、針電極37は絶縁材59により保持される。
【0046】
液体クロマトグラフの流量は、一般に毎分0.1〜1ミリリットルであるが、従来のLC/MSでは溶液の流量が低下すると感度が低下するという課題があった。そこで、霧化により生成した噴流に所定の流量のガスをガス供給管46から供給する構成とした。実験したところ、図7に示した結果とほぼ同様の結果が得られ、信号強度がガス供給管46から供給するガスの流量に依存し、最適なガス流量は溶液の流量に応じて異なる事がわかった。そこで、液体クロマトグラフの流量に応じ、ガス供給管46から供給するガス流量を調節する事により、流量が変化しても感度良く測定できるLC/MSが可能となった。
【0047】
【発明の効果】
本発明によれば、ダイオキシン類の高効率イオン化が可能となり、結果としてダイオキシン総量を簡便に計測する事が可能となった。これにより、焼却炉から環境中に放出されるダイオキシン量を長期間に渡って監視できるシステムの構築が容易になった。また、霧化された試料に試料溶液の流量に応じた流量のガスを混合してイオン化部に供給することにより、質量分析計における検出感度を最適化することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の全体のシステムを示す図である。
【図2】本発明に関る質量分析計の構成を示す図である。
【図3】本発明に関るイオン源の構成を示す図である。
【図4】イオン源にガスを供給する構成を示す図である。
【図5】イオン源にガスを供給する一方法を示す図である。
【図6】イオン源にガスを供給する別方法を示す図である。
【図7】各々の試料溶液の流量において、イオン源に供給するガスの流量とダイオキシンの信号強度とを示す図である。
【図8】試料溶液の流量に応じてイオン源に供給するガスの流量を制御するための構成図である。
【図9】液体クロマトグラフ・質量分析計において本発明を実施した場合の構成を示す図である。
【図10】液体クロマトグラフ・質量分析計において本発明を実施した場合の別の構成を示す図である。
【図11】図7に示した溶液流量とガス流量、および溶液流量とイオン強度のグラフを、横軸を溶液流量とガス流量の比とし、縦軸をイオン強度として書き直したグラフである。
【符号の説明】
1…焼却炉、2…ゴミ、3…煙道、4…煙突、5…捕集部、6…前処理部、7…質量分析計、8…配管、9…イオン源、10a,10b…細孔付電極、11a,11b…イオン導入細孔、12a,12b…排気系、13…差動排気部、14…真空部、15…ドリフト電圧電源、16…加速電圧電源、17a,17b…エンドキャップ電極、18a,18b,18c…電極、19…リング電極、20…石英リング、21…ガス供給器、22…ガス導入管、23…ゲート電極、24…変換電極、25…シンチレータ、26…フォトマルチプライヤ、27…変換電極電源、28…シンチレータ電源、29…フォトマルチプライヤ電源、30…データ処理装置、31a,31b…電源、32…制御装置、33…金属パイプ、34…金属ブロック、35…気化用ブロック、36…加熱配管、37…針電極、38…対向電極、39…イオン源保持部、40…流量計、41a,41b…排気チューブ、42…吸気ポンプ、43…中間電極、44…気密保持部材、45…衝突板、46…ガス供給管、47…高圧ボンベ、48…減圧弁、49…フローコントローラー、50…流量計、51…送気ポンプ、52…液体クロマトグラフ、53…移動相溶媒槽、54…液体クロマトグラフポンプ、55…インジェクタ、56…配管、57…分離カラム、58…コネクタ、59…絶縁材、60…送液ポンプ、61…制御装置、61a,62b…信号ライン。
Claims (12)
- 試料溶液を霧化する霧化部と、前記霧化部により霧化された試料を気化する気化部と、前記霧化部により霧化された試料又は前記気化部により気化された試料にキャリアガスを混合するガス混合部と、前記キャリアガスが混合された試料が流入するガス流入口と流出するガス流出口を有し、内部にコロナ放電を発生する針電極を備え、イオン化された試料を取り出すための細孔を有する放電室と、前記霧化部に供給される試料溶液の流量と前記ガス混合部に供給されるキャリアガスの流量比が最適な値となるように前記キャリアガスの流量を制御する流量比制御部を有することを特徴とする試料イオン化装置。
- 請求項1記載の試料イオン化装置において、前記流量比制御部は(キャリアガス流量/溶液流量)を2500〜15000の間の所定値に制御することを特徴とする試料イオン化装置。
- 請求項1記載の試料イオン化装置において、前記流量比制御部は(キャリアガス/溶液流量)を5000〜8000の間の所定値に制御することを特徴とする試料イオン化装置。
- 請求項1記載の試料イオン化装置において、前記放電室のガス流入口は前記イオン化された試料を取り出すための細孔を兼ねていることを特徴とする試料イオン化装置。
- 請求項1記載の試料イオン化装置において、前記ガス混合部から供給される前記キャリアガスが混合された試料に含まれる液滴を排気するための排気チューブが設けられ、該排気チューブは、前記ガス混合部から供給される前記キャリアガスが混合された試料の流れを導くように配置されていることを特徴とする試料イオン化装置。
- 試料溶液を霧化する霧化部と、前記霧化部により霧化された試料を気化する気化部と、前記霧化部により霧化された試料又は前記気化部により気化された試料にキャリアガスを混合するガス混合部と、前記キャリアガスが混合された試料が流入するガス流入口と流出するガス流出口を有し、内部にコロナ放電を発生する針電極を備え、イオン化された試料を取り出すための細孔を有する放電室と、前記霧化部に供給される試料溶液の流量と前記ガス混合部に供給されるキャリアガスの流量比が最適な値となるように前記キャリアガスの流量を制御する流量比制御部と、前記放電室の前記細孔から取り出されたイオンが導入される質量分析器とを含むことを特徴とする質量分析計。
- 請求項6記載の質量分析計において、前記流量比制御部は(キャリアガス流量/溶液流量)を2500〜25000の間の所定値に制御することを特徴とする質量分析計。
- 請求項6記載の質量分析計において、前記流量比制御部は(キャリアガス/溶液流量)を5000〜8000の間の所定値に制御することを特徴とする質量分析計。
- 請求項6記載の質量分析計において、前記放電室のガス流入口は前記イオン化された試料を取り出すための細孔を兼ねていることを特徴とする質量分析計。
- 請求項6記載の質量分析計において、前記ガス混合部から供給される前記キャリアガスが混合された試料に含まれる液滴を排気するための排気チューブが設けられ、該排気チューブは、前記ガス混合部から供給される前記キャリアガスが混合された試料の流れを導くように配置されていることを特徴とする質量分析計。
- 試料溶液を霧化するステップと、前記霧化した試料にキャリアガスを混合するステップと、前記キャリアガスが混合された試料を気化するステップと、前記気化された試料とキャリアガスとの混合ガスをコロナ放電が発生している放電室に導入して試料をイオン化するステップと、前記イオン化された試料を質量分析器に導入して質量分析するステップと、前記試料溶液の流量と前記キャリアガスの流量比が最適な値となるように前記キャリアガスの流量を制御するステップと、を含むことを特徴とする試料分析方法。
- 請求項11記載の試料分析方法において、前記放電室中で移動するイオン化された試料の移動方向と前記放電室中を流れる気化された試料とキャリアガスとの混合ガスの流動方向は互いに逆方向であることを特徴とする試料分析方法。
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