JP3659054B2 - 渦電流式減速装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、制動補助装置としてバスやトラックなどの大型自動車に取り付けられる渦電流式減速装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、バスやトラックなどの大型自動車には、長い降坂時などにおいて、安定した減速を行い、フットブレーキの使用回数を減少させて、ライニングの異常磨耗やフェード現象を防止すると共に、制動停止距離を短縮することを目的として、主ブレーキであるフットブレーキや補助ブレーキである排気ブレーキの他に渦電流式減速装置が取付けられるようになってきた。この渦電流式減速装置には、磁石として電磁石を使用するものと永久磁石を使用するものがあるが、最近では、制動時に通電を必要としない永久磁石を使用したものが多くなってきている。
【0003】
図1は永久磁石を使用した渦電流式減速装置の一例を示す断面図であり、同図(a) は部分正面図、同図(b) は断面図である。同図において、符号1は回転軸、2はステータ、3はロータ、4は駆動装置、4−1はピストン、4−2はピストンロッド、5は支持リング、6は永久磁石、7はポールピース、8はディスク、9は風穴、10は円筒部、11は冷却フィンである。ポールピースは高透磁率材料、円筒部は導電性材料で構成される。
【0004】
同図において、ピストンロッド4−2に結合された支持リング5の周囲には永久磁石6が複数個配置されており、永久磁石6はピストン4−1により回転軸1の軸方向に往復する。この往復動作によって永久磁石6がポールピース7の内周面側と対向する位置まで挿入された状態(軸の上側の状態)が制動オンの状態である。反対に、永久磁石6がポールピース7から離れた位置にある状態(軸の下側の状態)が制動オフの状態である。
【0005】
制動オンの状態では、永久磁石6から発する磁束を横切ってロータ3の円筒部10が回転するので、ロータの円筒部10の内周面の表面近傍に渦電流が流れる。この渦電流と磁束の相互作用によってロータ3には制動トルクが発生する。
【0006】
電磁石を使用した渦電流式減速装置においても制動トルクの発生原理は、永久磁石の場合と同じである。ただし、永久磁石を用いる場合には、前記のように磁石が往復運動することによって制動のオン・オフを行うのに対して電磁石を用いる場合には、電磁石コイルの電流を調整することによって制動のオン・オフを行う。
【0007】
制動オン時にロータの円筒部10に誘起される渦電流はジュール熱を発生するため、制動のオン・オフの繰返しによって熱サイクルが負荷される。この熱サイクルによって、円筒部は膨張・収縮を繰返し、円筒部の内面および円筒部とディスクの結合部には大きな熱ひずみが発生するため、き裂が生じる恐れがある。これを防止するため耐熱性の高い材料を用いたり、頑丈な構造にするとコストアップを招くという問題がある。
【0008】
この問題を解決するため、例えば実開平5−18262号公報には、ロータの円筒部を支持するスポーク状のアームを設け、回転軸とはゴムブッシュを介して結合した構造として円筒部の熱膨張を吸収する構造が開示されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前記実開平5−18262号公報に開示された技術は多数のアームを使用し、ゴムブッシュを使用するなど、部品点数が多くコスト的に不利であるし、アーム連結後の回転バランスの調整に時間を要する。
【0010】
本発明の目的は、従来の渦電流式制動装置の問題点を解決し、過酷な使用条件下でのロータの円筒部およびディスク部のき裂の発生を防止して、安価で耐久性に優れた渦電流式減速装置を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明では、過酷な使用条件下でのロータに発生するき裂を、極力シンプルな構造で抑制することを前提に研究を行った。その結果、ステータとロータの円筒部の位置関係を規定し、制動時のロータ円筒部、ポールピースおよび磁石の温度上昇を極力小さくするとともに、ディスクの回転に伴って発生するロータとステータ間の空気流を利用してロータ円筒面とポールピース部を冷却することを想到した。
【0012】
本発明は上記の知見に基づいて完成したものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0013】
(1) 回転軸に取り付けられたロータと固定されたステータから構成される渦電流式減速装置であって、ロータは一体に構成された風穴を有するディスクと導電性材料で構成された円筒部とを有し、ステータは、ロータの円筒部内周面に対向するポールピースと磁石駆動装置とを有し、磁石駆動装置は磁石駆動装置によって駆動される支持リングを保持し、支持リングはポールピースの内周面側と対向する磁石を保持し、ステータは支持リングを磁石駆動装置によって往復させることにより、ポールピースを介してロータの円筒部に磁束を供給・遮断する構造を有し、減速装置に制動をかけた状態でロータの円筒部内周面の軸方向の幅をL、ポールピースの軸方向の長さをW、ポールピースのディスク側端部とディスク内側面との軸方向の距離をt、ステータとディスク内側面間の軸方向の間隔をsとしたとき、
t+W≦L、
t+W/2≧0.56L、
s≧0.12L、
であることを特徴とする渦電流式減速装置。
【0014】
(2) 円筒部内径はディスク側から遠いほど、大きいことを特徴とする前記(1) 項に記載の渦電流式減速装置。
【0015】
【発明の実施の形態】
図2は本発明の渦電流式減速装置の制動をかけた状態での要部を示す縦断面図である。図1と同一要素は同一符号で示す。
【0016】
ロータの円筒部10は、制動オンの時に円筒部の内表面近傍に生じる渦電流の相互作用により、ジュール発熱するため温度が上昇し熱膨張する。しかし、この熱膨張はロータの円筒部と一体に構成したディスク8により拘束される。その結果、ロータの円筒部には熱応力が発生し、制動のオン・オフの過酷な熱サイクルを受けると円筒部内周面または円筒部とディスクとの結合部に熱疲労き裂が発生する場合がある。
【0017】
このロータの円筒部の熱応力を低減するためには、ディスクによるロータの円筒部の熱膨張に対する拘束を小さくする必要がある。そのためには、ディスクに拘束されにくい、ロータの円筒部のディスクから離れた領域で熱膨張させるようにすればよい。すなわち、磁束を円筒部のディスクから遠い領域に作用させれば、円筒部の熱膨張は比較的自由になり熱応力が低減でき、その結果、熱疲労き裂の発生を抑制できる。
【0018】
さらに、ポールピース7と円筒部10の間の空気の流通を改善するため、ステータとディスクの隙間を適切に保つのがよい。
【0019】
図3は制動をかけた状態でのステータとディスクの間の空気の流れを模式的に示す断面図であり、同図(a) は隙間が小さい場合、同図(b) は隙間が大きい場合である。図1と同一要素は同一符号で示す。
【0020】
同図(a) 、および(b) は、円筒部10が発熱によりひずんだ状態を示しており、円筒部10の同図に向かって左側がディスク8に拘束されているのに対し、右側は非拘束のため熱膨張し、内径が大きくなっている。
【0021】
一般に、ポールピース7と円筒部10の内周面との隙間は磁束の経路となるため、静止時寸法で0.3〜2mm程度の隙間を保つ必要がある。この隙間はボールピース7と円筒部10の相対運動により、円筒部と空気との熱伝達率は良好であるので、この隙間に十分に冷風12を導入することが重要である。図3(a) に示すように、ディスク8とステータ2間の隙間が小さいと、ディスクの風穴9または軸心部から導入された冷風12がポールピース7と円筒部10の内周との隙間に導入されない。また、ポールピース7の冷却が十分でないと、永久磁石6近傍の温度が上昇し、磁力が低下するため制動トルクが低下する。図3(b) のように隙間が大きいと風穴9および軸心からの冷風12の流れがポールピースと円筒部内周の隙間に流通する。
【0022】
ポールピース7と円筒部10の内周の隙間に導入された冷風12は、円筒部からの熱伝達により加熱される。本発明の渦電流式減速装置の円筒部は制動時は上述のように、熱膨張によりディスク側から離れるに従って径が大きくなる。このため、ボールピースと円筒部間の空気は遠心力で反ディスク側に流れ、外部に排出される。この結果、風穴等からの冷風12を吸引することができる。
【0023】
本発明では上記の検討のもと、図2に示す各部材の位置関係を限定した理由を以下に述べる。
【0024】
ディスク8からポールピース7までの距離tとポールピース7の幅Wの和t+wは、円筒部10の軸方向長さL以下とする。t+wがLより大きいと、ポールピース7が円筒部10と対向しない個所が生じるため、制動オン時に円筒部10に作用する磁束が減少し、制動トルクが低下する。さらに、磁束が装置外に漏れ、周辺機器に影響を及ぼす可能性も生じる。従って、ポールピース7が円筒部10と全面で対向するために、t+wはL以下にする必要がある。
【0025】
ディスク8からポールピース7までの距離tとポールピースの幅Wの1/2の和t+w/2を、0.56L以上とする。
【0026】
一般に、ポールピース7は円筒部10の軸方向長さの中央部付近に配置されることが多い。この場合、円筒部10の軸方向長さの中央部付近で最も発熱するが、この位置の熱膨張はディスク8に強く拘束されるために、過酷な熱負荷を受けると円筒部10の内面に熱疲労き裂が発生する。円筒部10が熱膨張したときディスクによる拘束を緩和するためには、制動オン時に磁石6と対向するポールピース7をt+W/2≧0.56Lになるような位置に配置して、円筒部10の軸方向長さの中央部よりディスクから離れた領域を中心に発熱させればよい。t+W/2が0.56Lより小さいと、円筒部10の熱膨張がディスク8に拘束される程度が大きいために、円筒部の内面に熱負荷の繰返しによる熱疲労き裂が発生し、十分な耐久性が得られない。そのため、t+W/2を0.56L以上にする必要がある。
【0027】
また、ステータ2とディスク8の隙間s(図3参照)は0.12L以上とする。sがこの値より小さいと風穴からの空気がポールピース7と円筒部10の隙間に導入されない。なお、ステータ2とディスク8の隙間sはこの部分の最小隙間とする。
【0028】
本発明の制動装置の円筒部10の内径は常温では一定(ストレート)で、制動時には円筒部のディスク8から遠い部分がより高温になり、円筒部10が外広がりになるとした。円筒部10が外広がり形状となると、円筒部10とポールピース7の間の空気が遠心力によって、反ディスク側に排除され、円筒部10の温度を低下させる効果がある。
【0029】
本発明の第2発明は、上記の効果を意図的に形成しようとするものであり、円筒部内径がディスク側から遠いほど、大きくなる(外広がり)構造を有する。
【0030】
図4は円筒部10を外広がりの形状とした渦電流式減速装置の要部を示す断面図である。図1と同一要素は同一符号で示す。
【0031】
同図に示すように、円筒部10はディスク8から遠いほど内径が大きくなっている。円筒部10の広がり角度をθとする。同図において、ポールピース7および永久磁石6は円筒部10の構造に従い、円筒部と平行に対向するよう回転軸に対して傾斜している。
【0032】
図4に示すように円筒部10を外広がりとすれば、常温においても、円筒部10とディスク8の温度が同時に上昇した場合においても、前記遠心力の効果により冷風の流通が確保できるので、円筒部10の冷却を確保できる。このような効果をねらって円筒部10を外広がりの形状とする場合、広がり角度θは3°以上とするのが望ましい。
【0033】
円筒部の外広がりを最大にした場合、円盤状(θ=90°であって、これはもはや「円筒」とはいえないが用語として「円筒部」を用いる)が考えられる。磁石やポールピースは軸方向に平行に配置するのではなく、半径方向に平行に配置する構造である。このように渦電流発生部を円盤状にすると、放熱の面では円筒状より有利である。しかし、図1のように支持リング5が軸方向に往復する構造では磁気回路を完全にオン・オフすることができない。すなわち、制動オフの場合にも、磁石はポールピースから遠ざかるだけで、若干の磁界がポールピースを経由して円筒部(渦電流発生部)に供給されることになり、制動トルクを生じて燃費低下などの問題が新たに発生する。これを防止するには、図1のように支持リング5で磁石6を往復させる単純な構造は採用できず、磁石6を個別に半径方向に往復させるような構造にする必要があり、複雑かつ高価なものとなる。
【0034】
円筒部の外広がり角度θが90°以下であっても過度に大きいと、制動オフ時の磁束遮断が十分でなく、また制動装置自体の外径が大きくなり、トラック車体等の限られたスペースに取り付けるのが困難になる。従って、図4に示す広がりの角度θは3〜15°、さらに好ましくは5〜12°とするのが望ましい。
【0035】
以上の説明は永久磁石を用い、これを回転軸方向に往復させて制動のオン・オフを切り替えるタイプについて説明したが、特公平7−118901号で提案されている、永久磁石群を回動させることで制動のオン・オフを切り替えるタイプであっても、あるいは電磁石を用いた場合にも適用可能である。
【0036】
【実施例】
本発明の効果を実施例によって説明する。
【0037】
図2に示す形状のロータを、表1に示す寸法で作製した。このロータはCr−Mo系低合金鋼からなり、円筒部は環状圧延により素材を円筒状に加工した後、機械加工によりロータ外周部の冷却フィンを形成した。ロータの円筒部の内半径は200mmである。ディスクは素材を所定の形状に機械加工し、円筒部と溶接接合した。同表において、型式Aのものは、図2に示す円筒部がストレートのもので、型式Bのものは図4に示す円筒部が外広がりとなったものである。型式Bの外広がりの角度θは8°である。
【0038】
これらの渦電流式減速装置の性能を調査するため、制動オン・オフを繰り返す耐久試験を行った。
【0039】
耐久試験の方法は、制動オン中にロータの円筒部の内周の表面温度を監視し、この温度が650℃となった時点で制動オフにし、100℃まで冷却された時に、再度、制動オンとする方法である。また、試験は回転軸に連結しているプロペラシャフトの回転速度が2000rpm一定の条件で行い、制動時の最高トルクを測定した。
【0040】
上記の制動オン・オフを最高10,000サイクル負荷し、10,000サイクル後にロータの円筒部の内面に熱疲労き裂が発生していない場合、耐久試験に合格とした。
【0041】
制動トルクが設計制動トルクである50kgf・mに満たないものを制動トルク不足で不合格とした。
【0042】
耐久試験の結果を表2に示す。
【0043】
表2に示すように、t+WがLより大きい比較例1、4では、ポールピースの一部がロータの円筒部と対向しないため、装置外部へ磁気が漏れ、制動トルクが大幅に減少している。また、この装置外部への磁気漏れは周辺機器に影響を及ぼす可能性もあるため、t+W≦Lとする必要がある。
【0044】
t+W≦Lを満たす場合においても、t+W/2が0.56L未満の比較例2、3、5、6、7では、耐久試験で10,000サイクルに達する前にロータの円筒部内面に熱疲労き裂が発生した。特に、t+W/2の値が最も小さい比較例3では、最も早く熱疲労き裂が発生した。
【0045】
また、比較例2、3、7では、ステータとディスクの隙間sがs<0.12Lであるが、磁石近傍の温度が90℃以上に上昇し、長時間使用すると磁力の低下をまねく可能性がある。
【0046】
一方、本発明例の渦電流式減速装置では、いずれも、制動トルクが 50kgf・m以上であり、かつ、10,000サイクルの時点では熱疲労き裂が発生していなかった。このように、本発明例は制動力、耐久性のいずれにおいても、不具合は発生せず、制動性能や耐久性の点で優れていることが確認された。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【発明の効果】
本発明により、耐久性の高い渦電流式減速装置を安価に提供することができ、大型車両の安全性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】永久磁石を使用した渦電流式減速装置の一例を示す断面図であり、同図(a) は部分正面図、同図(b) は断面図である。
【図2】本発明の渦電流式減速装置の制動をかけた状態での要部を示す縦断面図である。
【図3】制動をかけた状態でのステータとディスクの間の空気の流れを模式的に示す断面図であり、同図(a) は隙間が小さい場合、同図(b) は隙間が大きい場合である。
【図4】円筒部10を外広がりの形状とした渦電流式減速装置の要部を示す断面図である。
【符号の説明】
1:回転軸 2:ステータ
3:ロータ 4:駆動装置
4−1:ピストン 4−2:ピストンロッド
5:支持リング 6:永久磁石
7:ポールピース 8:ディスク
9:風穴 10:円筒部
11:冷却フィン
Claims (2)
- 回転軸に取り付けられたロータと固定されたステータから構成される渦電流式減速装置であって、ロータは一体に構成された風穴を有するディスクと導電性材料で構成された円筒部とを有し、ステータは、ロータの円筒部内周面に対向するポールピースと磁石駆動装置とを有し、磁石駆動装置は磁石駆動装置によって駆動される支持リングを保持し、支持リングはポールピースの内周面側と対向する磁石を保持し、ステータは支持リングを磁石駆動装置によって往復させることにより、ポールピースを介してロータの円筒部に磁束を供給・遮断する構造を有し、減速装置に制動をかけた状態でロータの円筒部内周面の軸方向の幅をL、ポールピースの軸方向の長さをW、ポールピースのディスク側端部とディスク内側面との軸方向の距離をt、ステータとディスク内側面間の軸方向の間隔をsとしたとき、
t+W≦L、
t+W/2≧0.56L、
s≧0.12L、
であることを特徴とする渦電流式減速装置。 - 円筒部内径はディスク側から遠いほど、大きいことを特徴とする請求項1に記載の渦電流式減速装置。
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---|---|---|---|
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Applications Claiming Priority (1)
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JP3659054B2 true JP3659054B2 (ja) | 2005-06-15 |
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