[第一実施形態]
はじめに、本発明の第一実施形態について説明する。
図1は、本発明の第一実施形態に係る渦電流式減速装置10の要部拡大断面図である。矢印Xは、渦電流式減速装置10の径方向を示しており、矢印Yは、渦電流式減速装置10の軸方向を示している。図1では、渦電流式減速装置10の外周側の部分を軸方向に沿って切断した断面(縦断面)が示されている。
第一実施形態に係る渦電流式減速装置10は、トラックやバス等の大型の車両の補助ブレーキとして搭載されるものである。この渦電流式減速装置10は、車両のプロペラシャフトやドライブシャフト等の回転軸に固定されるロータ12と、車両のトランスミッション等の非回転部に固定されるステータ14とを備える。
ロータ12は、ドラムリング16と、ホイール18とを備える。ドラムリング16は、円環状に形成されており、内周面16A及び外周面16Bを有する。ドラムリング16の内周面16A及び外周面16Bは、ドラムリング16の軸方向に沿ってそれぞれ形成されている。ドラムリング16の外周面16Bには、複数の放熱フィン20が形成されている。複数の放熱フィン20は、ドラムリング16の周方向に沿って配列されている。ドラムリング16は、強磁性材料であり、一例として、鋼で形成されている。
ホイール18は、ドラムリング16の軸方向一方側に配置されている。ホイール18は、放射状に延びる複数のアーム22を有しており、各アーム22の先端部は、ドラムリング16に固定されている。ドラムリング16は、より具体的には、車両のプロペラシャフトやドライブシャフト等の回転軸にホイール18を介して固定される。
ステータ14は、複数の永久磁石24と、ヨーク26と、一対の第一摺動材28と、第二摺動材30と、ケーシング32とを備える。複数の永久磁石24は、ドラムリング16の径方向内側に配置されており、ドラムリング16の周方向に沿って配列されている。複数の永久磁石24は、等角度間隔に配置されている。この複数の永久磁石24のN極とS極とは、ドラムリング16の周方向に交互に配置されている。
ヨーク26は、ドラムリング16の周方向に沿って円環状に形成されている。このヨーク26は、ドラムリング16と同心円状に配置されている。ヨーク26の外周面には、複数の永久磁石24が固定されている。ヨーク26は、強磁性材料によって形成されている。
ケーシング32は、ケーシングカバー36と、ケーシング本体38とを有する。このケーシングカバー36及びケーシング本体38は、それぞれドラムリング16の周方向に沿って円環状に形成されている。ケーシングカバー36は、外筒部40と、第一連結部42とを有し、ケーシング本体38は、内筒部44と、第二連結部46とを有する。内筒部44及び外筒部40は、ドラムリング16及びヨーク26と同心円状に配置されている。このケーシング32は、非磁性材料によって形成されている。
内筒部44は、外筒部40の径方向内側に位置しており、外筒部40及び内筒部44は、ケーシング32の径方向に沿って延びる第一連結部42及び第二連結部46によって連結されている。内筒部44と外筒部40との間には、上述のヨーク26及び複数の永久磁石24が収容されている。
一対の第一摺動材28は、スライドプレートであり、ヨーク26と第一連結部42との間には、一方の第一摺動材28が介在されており、ヨーク26と第二連結部46との間には、他方の第一摺動材28が介在されている。第二摺動材30は、ドライブッシュであり、ヨーク26と内筒部44との間に介在されている。一対の第一摺動材28及び第二摺動材30は、ケーシング32の周方向に沿って環状に形成されており、ヨーク26は、一対の第一摺動材28及び第二摺動材30によってケーシング32の周方向にスライド可能に支持されている。
ケーシングカバー36の外筒部40は、複数のポールピース48を有する。この複数のポールピース48は、ドラムリング16と複数の永久磁石24との間に配置されており、ドラムリング16の周方向に沿って配列されている。複数のポールピース48は、強磁性材料によって形成されており、鋳造によりケーシングカバー36の外筒部40と一体化されている。複数のポールピース48は、複数の永久磁石24と同じ個数であり、複数の永久磁石24と同様に、等角度間隔に配置されている。
ケーシングカバー36の外筒部40の外周面は、ケーシングカバー36の外周面36Aである。このケーシングカバー36の外周面36Aは、ドラムリング16の軸方向に沿って形成されており、ドラムリング16の内周面16Aと対向している。ケーシングカバー36の外周面36Aは、複数のポールピース48の外表面と、この複数のポールピース48の間に鋳造により形成された材料の外表面とによって形成されている。
図2は、図1に示される渦電流式減速装置10が非制動状態と制動状態とに切り替えられる様子を説明する図である。図2では、渦電流式減速装置10の外周側の部分を径方向に沿って切断した断面のうち、ドラムリング16、永久磁石24、ヨーク26及びポールピース48のみが示されている。図2(A)には、渦電流式減速装置10の非制動状態が示されており、図2(B)には、渦電流式減速装置10の制動状態が示されている。
ヨーク26は、例えばエアシリンダ等の図示しないアクチュエータによって回転され、このヨーク26に固定された複数の永久磁石24の周方向の配置位置は、ヨーク26の回転を伴って変更される。ヨーク26の回転角度は、隣り合う永久磁石24の配置角度θの半分ほどに相当する。
図2(A)に示されるように、複数の永久磁石24の周方向の配置位置がアクチュエータによって切り替えられ、隣り合う永久磁石24がポールピース48を跨ぐように配置された状態では、隣り合う永久磁石24とポールピース48との間で磁束Mが通る。この状態では、隣り合う永久磁石24とポールピース48との間で磁気回路が形成され、隣り合う永久磁石24とドラムリング16との間で磁気回路が形成されないため、ドラムリング16に磁力が作用しない。この状態では、渦電流式減速装置10が非制動状態となり、制動力が発生しない。
一方、図2(B)に示されるように、複数の永久磁石24の周方向の配置位置がアクチュエータによって切り替えられ、各永久磁石24がポールピース48と対向するように配置された状態では、隣り合う永久磁石24間の磁束Mがポールピース48を通じてドラムリング16に到達する。この状態では、隣り合う永久磁石24とドラムリング16との間で磁気回路が形成されるため、ドラムリング16に磁力が作用する。このようにドラムリング16に磁力が作用すると、ドラムリング16に渦電流が発生し、この渦電流と磁力の相互作用でドラムリング16に回転方向と逆方向の力(ローレンツ力)が作用する。この状態では、渦電流式減速装置10が制動状態となり、制動力が発生する。
ところで、渦電流式減速装置10が制動状態になり、ドラムリング16に渦電流が発生すると、ドラムリング16がジュール熱により発熱する。ここで、発明者らは、種々の試験を通じて、ドラムリング16がジュール熱により発熱すると、図1に示されるドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部に熱が集中し、この軸方向中央部が最も温度が高くなることを突き止めた。
また、発明者らは、渦電流式減速装置10の制動状態が継続されて、ドラムリング16が発熱し続けると、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部の温度が耐熱温度(例えば、約650℃)を超過し、この軸方向中央部に高温酸化によって酸化膜(例えば、厚さ約0.5mm程度の酸化膜)が生成され、この酸化膜がケーシングカバー36の外周面36Aと接触する虞があることを突き止めた。そして、発明者らは、高温酸化による酸化膜の生成を抑制するには、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部の昇温速度を抑制することが有効であると考えた。
ここで、発明者らは、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部の昇温速度を抑制するために、ドラムリング16の内周面16Aとケーシングカバー36の外周面36Aとの間の間隔を拡げることも検討した。ところが、このようにすると、ドラムリング16に到達する磁束が低下するため、渦電流式減速装置10の制動トルクが低下するという結論に至った。そして、発明者らは、制動トルクを確保しつつ、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部の昇温速度を抑制して制動時間を伸長させるためには改善の余地があると考えた。
そこで、発明者らは、上記知見に基づいて鋭意検討を重ねた。そして、発明者らは、以下の特徴的な構成を採用するに至った。以下、発明者らが考案した特徴的な構成を説明する。
図1に示されるように、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部には、ドラムリング16の周方向に沿って環状を成す溝52が形成されている。溝52は、「第一溝」の一例であり、例えば、切削加工等の追加工によって形成される。溝52は、制動時にドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部に到達する磁束を低下させることができる程度の深さに形成される。溝52の深さは、例えば、約0.15mm〜約0.5mmである。
ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部とは、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向(幅方向)の中央側の部分である。ドラムリング16の軸方向に沿った溝52の溝幅は、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部に高温酸化による酸化膜が生成されることを抑制し得る範囲に設定される。
溝52は、底面52Aと、一対の側面52Bとを有している。底面52Aは、ドラムリング16の軸方向に沿って形成されており、ケーシングカバー36の外周面36Aと対向している。一対の側面52Bは、一例として、ケーシングカバー36の側に向かうに従って互いの間の距離が拡がるテーパ状に形成されている。つまり、溝52は、ケーシングカバー36の側に向かうに従って溝幅が拡がるテーパ状に形成されている。このように溝52がテーパ状に形成されることにより、溝52の開口側の角部52C及び溝52の底面52A側の角部52Dの断面形状は、いずれも鈍角に形成されている。
溝52は、ドラムリング16の軸方向に沿ったポールピース48の長さの範囲R内に位置しており、ドラムリング16の内周面16Aにおける溝52を挟んだ両側には、ケーシングカバー36の外周面36Aと対向する対向面54がそれぞれ形成されている。各対向面54は、ポールピース48の長さの範囲R内に位置する領域54Aを含んでいる。
図3は、図1に示される渦電流式減速装置10の要部拡大断面の一部をさらに拡大して示した図である。上述したように、ドラムリング16の内周面16Aのうち、軸方向中央部には溝52が設けられている。溝52は、底面52A及び一対の側面52Bにより、渦電流式減速装置10の縦断面視で概略台形状に形成されている。
底面52Aは、渦電流式減速装置10の縦断面視で、ケーシングカバー36の外周面36Aと実質的に平行となっている。底面52Aとケーシングカバー36の外周面36Aとの径方向の距離は、ドラムリング16の内周面16Aの全周にわたり、実質的に一定である。溝52は、底面52Aの範囲において実質的に一定の深さDを有する。深さDは、例えば0.15mm以上であり、好ましくは0.2mm以上である。深さDは、0.5mm以下であることが好ましい。
側面52Bの各々は、渦電流式減速装置10の縦断面視で、底面52Aに対して傾斜している。側面52Bの各々は、底面52Aから遠ざかるにつれてケーシングカバー36の外周面36Aに接近する。これらの側面52Bにより、溝52の深さは、底面52Aの両端からドラムリング16の軸方向で外側に向かうにつれて小さくなる。
軸方向における溝52の長さ(溝幅)W52は、軸方向における永久磁石24の長さ(磁石幅)W24との関係で定めることができる。溝幅W52は、磁石幅W24の0.35倍以上であることが好ましい。溝幅W52は、例えば、磁石幅W24の0.80倍以下である。軸方向に沿った永久磁石24の長さの範囲は、軸方向に沿ったポールピース48の長さの範囲R(図1)とほぼ等しい。溝52は、軸方向に沿った永久磁石24の長さの範囲内に含まれている。
溝52の底面52Aの軸方向の長さ(底幅)W52Aも、磁石幅W24との関係で定めることができる。溝52の底幅W52Aは、磁石幅W24の0.2倍以上であることが好ましい。底幅W52Aは、例えば、磁石幅W24の0.7倍以下とすることができる。
溝52において、底面52Aに対する各側面52Bの角度は、深さD、溝幅W52、及び底幅W52Aとの関係で定まる。底面52Aに対する各側面52Bの角度は、90°よりも大きく、例えば170°〜179°とすることができる。
続いて、第一実施形態の作用及び効果について説明する。
第一実施形態に係る渦電流式減速装置10において、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部には、ドラムリング16の周方向に沿って環状を成す溝52が形成されている。したがって、この溝52により、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部とケーシングカバー36の外周面36Aにおける軸方向中央部との間の間隔(エアギャップ)が拡がり、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部に到達する磁束Mが低下する。
これにより、ドラムリング16の内周面16Aでは、軸方向中央部を挟んだ両側に磁束Mが分散されるので、この軸方向中央部では渦電流による発熱量が抑制される。この結果、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部の昇温速度が抑制(つまり、局所的な昇温が緩和)されるので、この軸方向中央部の温度が耐熱温度に到達する時間を伸長させることができ、ひいては、制動時間を伸長させることができる。
しかも、溝52は、ドラムリング16の内周面16Aの一部分である軸方向中央部にのみ形成されている。したがって、例えば、溝52の底面52Aの位置までドラムリング16の内周面16Aの位置を後退させてドラムリング16の内周面16Aとケーシングカバー36の外周面36Aとの間の間隔を拡げた場合に比して、ドラムリング16に到達する磁束Mの低下を最小限に抑えることができる。これにより、ドラムリング16に作用する磁力を確保できるので、制動トルクを確保できる。
また、ドラムリング16の内周面16Aにおける溝52を挟んだ両側には、ケーシングカバー36の外周面36Aと対向する対向面54がそれぞれ形成されている。各対向面54は、ドラムリング16の軸方向に沿ったポールピース48の長さの範囲R内に位置する領域54Aを含んでいる。したがって、溝52に比べてポールピース48に近い側に位置する対向面54を通じてポールピース48とドラムリング16との間で磁束Mを通すことができる。これにより、ドラムリング16に作用する磁力を確保できるので、制動トルクを確保できる。
また、溝52は、ケーシングカバー36の側に向かうに従って溝幅が拡がるテーパ状に形成されている。したがって、溝52の開口側の角部52C及び溝52の底面52A側の角部52Dの断面形状がいずれも鈍角に形成される。これにより、角部52C、52Dに熱応力が集中することが抑制されるので、角部52C、52Dに熱サイクルによる熱疲労亀裂が発生することを抑制できる。
また、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部の昇温速度を抑制するためには、この軸方向中央部に溝52を形成するだけでよく、ドラムリング16の材料を変更しなくて済むので、コストアップを抑制できる。
また、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部の昇温速度を抑制することにより、ドラムリング16の熱塑性変形による径方向への拡大を抑制できる。これにより、ドラムリング16の内周面16Aとケーシングカバー36の外周面36Aとの間の間隔が拡がることを抑制できるので、制動トルクの低下を抑制できる。
ここで、図4は、図1に示される溝52の有効性を説明する試験データをグラフにして示す図である。図4(A)は、溝52がない場合の試験データのグラフであり、図4(B)は、溝52がある場合の試験データのグラフである。
各グラフにおいて、線グラフG1は、ドラムリング16の内周面16Aにおけるアーム22と反対側の部分の温度を示し、線グラフG2は、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部の温度を示し、線グラフG3は、ドラムリング16の内周面16Aにおけるアーム22側の部分の温度を示し、線グラフG4は、ドラムリング16に作用する制動トルクを示している。
また、各グラフにおいて、温度T1は、耐熱温度に到達した時点でのドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部の温度(約650℃)であり、温度T2は、ドラムリング16の内周面16Aにおけるアーム22と反対側の部分の温度とドラムリング16の内周面16Aにおけるアーム22側の部分の温度との平均値である。また、温度差ΔTは、温度T1と温度T2との差である。
図4(A)、(B)に示されるように、溝52がある場合には、溝52が無い場合に比して、温度差ΔTが小さくなる。また、溝52がある場合には、溝52が無い場合に比して、制動開始からドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部の温度が耐熱温度(約650℃)に到達するまでの時間がほぼ倍増される。
このように、図4に示される試験データから、溝52を有する場合には、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部の昇温速度が抑制(つまり、局所的な昇温が緩和)されるので、この軸方向中央部の温度が耐熱温度に到達する時間を伸長させることができ、ひいては、制動時間を伸長させることができることが分かる。
特に、第一実施形態では、渦電流式減速装置10の縦断面視で溝52が概略台形状に形成されている。すなわち、溝52は、一定の深さDを確保する底面52Aと、底面52Aに対して傾斜する一対の側面52Bとで画定されている。この場合、制動トルクを確保しながら、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部の昇温速度をより効果的に抑制することができる。
図5は、概略台形状の溝52の有効性を説明する試験データをグラフにして示す図である。図5では、第一実施形態、従来例、及び参考例に係る各渦電流式減速装置について、ドラムリング16の軸方向中心(幅中心)からの距離と、ドラムリング16の内周面16Aの発熱密度との関係を示す。
図5のグラフの凡例のうち、従来例は、ドラムリング16の内周面16Aに溝52を有しない渦電流式減速装置の試験データであることを示す。参考例は、第一実施形態に係る渦電流式減速装置10とは異なる構成の溝を有する渦電流式減速装置の試験データであることを示す。図6を参照して、参考例に係る渦電流式減速装置では、縦断面視で円弧状の溝52がドラムリング16の内周面16Aに設けられている。参考例に係る渦電流式減速装置では、溝52の最大深さDを0.1mmとし、軸方向における溝52の長さ(溝幅)W52を軸方向における永久磁石24の長さ(磁石幅)W24とほぼ同等とした。一方、第一実施形態に係る渦電流式減速装置10については、溝52の最大深さ、つまり底面52Aの範囲における深さDを0.2mmとし、溝52の底幅W52Aを磁石幅W24の0.31倍とした。
図5に示すように、参考例及び第一実施形態では、従来例と比較して、ドラムリング16の内周面16Aの発熱密度が低下している。特に、第一実施形態では、溝52の最大深さDが参考例よりも大きいため、ドラムリング16の内周面16Aの軸方向中央部において発熱密度が参考例よりも低下している。すなわち、第一実施形態では、参考例と比較して、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部の昇温速度の抑制効果が高い。
一方、第一実施形態では、概略台形状の溝52の側面52Bにおいて、参考例と発熱密度が同等となっている。第一実施形態では、溝52の角部52C、52Dに渦電流が集中し、側面52Bで電流密度が上昇したためである。この結果より、溝52の開口側に向かうにつれて側面52B間の距離が拡がるよう、一対の側面52Bがテーパ状に形成されている場合、溝52の最大深さDを比較的大きくしても、制動トルクの低下を抑制することができるといえる。実際、回転軸の回転数が3000rpmのときの制動トルク(従来例の制動トルクに対する比)は、第一実施形態で0.978、参考例で0.980であり、制動トルクの低下率は両者で同等であった。
このように、一定の深さDを有する底面52Aと、テーパ状の側面52Bとで溝52を形成することにより、制動トルクを確保しながら、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部の昇温速度をより効果的に抑制することができる。
続いて、第一実施形態の変形例について説明する。
(第一変形例)
図7は、第一実施形態における溝52の第一変形例を示す断面図である。上記第一実施形態(図1参照)において、溝52の開口側の角部52C及び溝52の底面52A側の角部52Dの断面形状は、いずれも角張った形状であるが、図7に示されるように、いずれもR形状でもよい。
このように溝52の開口側の角部52C及び溝52の底面52A側の角部52Dの断面形状が、いずれもR形状とされていると、角部52C、52Dに熱応力が集中することを抑制する効果を高めることができる。これにより、角部52C、角部52Dに熱サイクルによる熱疲労亀裂が発生することを、より一層効果的に抑制できる。
(第二変形例)
図8は、第一実施形態における溝52の第二変形例を示す断面図である。上記第一実施形態(図1参照)において、溝52は、底面52Aと、一対の側面52Bとを有する断面形状であるが、図8に示されるように、ケーシングカバー36の側に向かうに従って溝幅が拡がるテーパ状の一例として、断面V字状に形成されていてもよい。
このように構成されていても、溝52の開口側の角部52Cの断面形状が鈍角に形成される。これにより、角部52Cに熱応力が集中することが抑制されるので、角部52Cに熱サイクルによる熱疲労亀裂が発生することを抑制できる。ただし、ドラムリング16の内周面16Aの昇温速度をより有効に抑制する観点からは、図1、図3、及び図7に示すように、溝52が概略台形状の断面を有することが好ましい。なお、溝52の断面形状は、上記以外でもよい。
(第三変形例)
図9は、第一実施形態における溝52の第三変形例を示す断面図である。図9において、想像線Lは、従来のドラムリングの内周面の位置(図1の溝52を形成していない場合の内周面16Aの位置)を示している。図9に示される第三変形例では、対向面54の位置が従来のドラムリングの内周面よりもケーシングカバー36側に設定されており、溝52の底面52Aの位置が従来のドラムリングの内周面よりもケーシングカバー36と反対側に設定されている。対向面54とケーシングカバー36の外周面36Aとの間の間隔(エアギャップ)は、例えば、0.6mm〜0.95mmとすることができる。一方、従来のドラムリングの内周面とケーシングカバーの外周面との間の間隔(エアギャップ)は、1.0mm程度である。
このように構成されていると、従来のドラムリングの内周面よりもポールピース48に近い側に位置する対向面54を通じてポールピース48とドラムリング16との間で磁束を通すことができる。これにより、従来のドラムリングと同等の制動トルクを得ることができるか、又は、従来のドラムリングに比して、ドラムリング16に作用する磁力を高めることができるので、制動トルクを向上させることができる。
また、溝52により、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部では、従来のドラムリングの内周面よりも、ケーシングカバー36の外周面36Aにおける軸方向中央部との間の間隔(エアギャップ)が拡がるので、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部に到達する磁束が低下する。これにより、従来のドラムリングに比して、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部の昇温速度を抑制(つまり、局所的な昇温を緩和)できる。
(第四変形例)
図10は、第一実施形態における溝52の第四変形例を示す断面図である。上記第一実施形態(図1参照)において、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部には、一つの溝52が形成されているが、図10に示されるように、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部には、ドラムリング16の軸方向に並んで複数の溝52が形成されていてもよい。
このように構成されていると、複数の溝52の間にポールピース48と対向する対向面56が形成され、この対向面56を通じてポールピース48とドラムリング16との間で磁束を通すことができる。これにより、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部の昇温速度を抑制しつつ、例えば、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部に一つの溝52が形成された場合に比して、ドラムリング16に作用する磁力を高めることができるので、制動トルクを向上させることができる。
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について説明する。
図11は、本発明の第二実施形態に係る渦電流式減速装置60の要部拡大断面図である。第二実施形態に係る渦電流式減速装置60は、上述の第一実施形態に係る渦電流式減速装置10(図1参照)に対し、次のように構成が変更されたものである。
すなわち、第二実施形態に係る渦電流式減速装置60において、ケーシングカバー36の外周面36Aにおける軸方向中央部には、ケーシングカバー36の周方向に沿って環状を成す溝62が形成されている。溝62は、「第二溝」の一例であり、例えば、切削加工等の追加工によって形成される。
溝62は、制動時にドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部に到達する磁束を低下させることができる程度の深さに形成される。また、この溝62は、ポールピース48の薄肉化により非制動時にドラムリング16側に磁気漏れが生じない程度の深さに形成される。溝62の深さは、例えば、約0.15mm〜約0.5mmである。ドラムリング16の軸方向に沿った溝62の溝幅は、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部に高温酸化による酸化膜が生成されることを抑制し得る範囲に設定される。
溝62は、第一実施形態の溝52(図1参照)と同様の断面形状(概略台形状)であり、底面62A及び一対の側面62Bを有している。底面62Aは、ケーシングカバー36の軸方向に沿って形成されており、ドラムリング16の内周面16Aと対向している。一対の側面62Bは、一例として、ドラムリング16の側に向かうに従って互いの間の距離が拡がるテーパ状に形成されている。つまり、溝62は、ドラムリング16の側に向かうに従って溝幅が拡がるテーパ状に形成されている。
溝62は、第一実施形態の溝52と同様、底面62Aの範囲において実質的に一定の深さを有する。底面62Aの範囲における溝62の深さは、例えば0.15mm〜0.5mmであり、好ましくは0.2mm〜0.5mmである。軸方向における溝62の長さ及び底面62Aの長さは、軸方向における永久磁石24の長さとの関係で、第一実施形態の溝52と同様に設定することができる。また、底面62Aに対する各側面62Bの角度も、第一実施形態の溝52と同様に設定することができる。
溝62は、ケーシングカバー36の軸方向に沿ったポールピース48の長さの範囲R内に位置しており、ケーシングカバー36の外周面36Aにおける溝62を挟んだ両側には、ドラムリング16の内周面16Aと対向する対向面64がそれぞれ形成されている。各対向面64は、ポールピース48の長さの範囲R内に位置する領域64Aを含んでいる。
なお、第二実施形態に係る渦電流式減速装置60において、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部には溝52(図1参照)が形成されておらず、ドラムリング16の内周面16Aは、ドラムリング16の軸方向に沿って平坦に形成されている。
続いて、第二実施形態の作用及び効果について説明する。
第二実施形態に係る渦電流式減速装置60において、ケーシングカバー36の外周面36Aにおける軸方向中央部には、ケーシングカバー36の周方向に沿って環状を成す溝62が形成されている。したがって、この溝62により、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部とケーシングカバー36の外周面36Aにおける軸方向中央部との間の間隔(エアギャップ)が拡がり、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部に到達する磁束Mが低下する。
これにより、ドラムリング16の内周面16Aでは、軸方向中央部を挟んだ両側に磁束Mが分散されるので、この軸方向中央部では渦電流による発熱量が抑制される。この結果、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部の昇温速度が抑制(つまり、局所的な昇温が緩和)されるので、この軸方向中央部の温度が耐熱温度に到達する時間を伸長させることができ、ひいては、制動時間を伸長させることができる。
しかも、溝62は、ケーシングカバー36の外周面36Aの一部分である軸方向中央部にのみ形成されている。したがって、例えば、溝62の底面62Aの位置までケーシングカバー36の外周面36Aの位置を後退させてドラムリング16の内周面16Aとケーシングカバー36の外周面36Aとの間の間隔を拡げた場合に比して、ドラムリング16に到達する磁束Mの低下を最小限に抑えることができる。これにより、ドラムリング16に作用する磁力を確保できるので、制動トルクを確保できる。
また、ケーシングカバー36の外周面36Aにおける溝62を挟んだ両側には、ドラムリング16の内周面16Aと対向する対向面64がそれぞれ形成されている。各対向面64は、ドラムリング16の軸方向に沿ったポールピース48の長さの範囲R内に位置する領域64Aを含んでいる。したがって、溝62に比べてドラムリング16に近い側に位置する対向面64を通じてポールピース48とドラムリング16との間で磁束Mを通すことができる。これにより、ドラムリング16に作用する磁力を確保できるので、制動トルクを確保できる。
また、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部の昇温速度を抑制するためには、ケーシングカバー36の外周面36Aにおける軸方向中央部に溝62を形成するだけでよく、ドラムリング16の材料を変更しなくて済むので、コストアップを抑制できる。
また、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部の昇温速度を抑制することにより、ドラムリング16の熱塑性変形による径方向への拡大を抑制できる。これにより、ドラムリング16の内周面16Aとケーシングカバー36の外周面36Aとの間の間隔が拡がることを抑制できるので、制動トルクの低下を抑制できる。
なお、上述の第一実施形態(図1参照)では、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部に溝52が形成されているため、この軸方向中央部と永久磁石24との間の距離が長くなる。これに対し、第二実施径形態では、ケーシングカバー36の外周面36Aにおける軸方向中央部に溝62が形成されているので、ドラムリング16と永久磁石24との間の距離は不変である。したがって、第一実施形態に比して、ドラムリング16と永久磁石24との間の磁気抵抗を小さくすることができる。
また、上述の第一実施形態(図1参照)では、発熱体かつ回転体であるドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部に溝52が形成されているため、溝52の開口側の角部52C及び溝52の底面52A側の角部52Dに熱応力が集中することが懸念される。これに対し、第二実施形態では、非発熱体かつ非回転体であるケーシングカバー36の外周面36Aにおける軸方向中央部に溝62が形成されているので、溝62の開口側の角部62C及び溝62の底面62A側の角部62Dに熱応力が集中することを回避できる。これにより、角部62C、62Dに熱サイクルによる熱疲労亀裂が発生することを抑制できるので、溝62の加工の自由度を高めることができる。
続いて、第二実施形態の変形例について説明する。
(第一変形例)
図12は、第二実施形態における溝62の第一変形例を示す断面図である。上記第二実施形態(図11参照)において、溝62は、ドラムリング16の側に向かうに従って溝幅が拡がるテーパ状に形成されているが、図12に示されるように、溝62は、深さ方向に亘って溝幅が一定である断面矩形状に形成されていてもよい。
(第二変形例)
図13は、第二実施形態における溝62の第二変形例を示す断面図である。上記第二実施形態(図11参照)において、ケーシングカバー36の外周面36Aにおける軸方向中央部には、一つの溝62が形成されているが、図13に示されるように、ケーシングカバー36の外周面36Aにおける軸方向中央部には、ケーシングカバー36の軸方向に並んで複数の溝62が形成されていてもよい。
このように構成されていると、複数の溝62の間にドラムリング16と対向する対向面66が形成され、この対向面66を通じてポールピース48とドラムリング16との間で磁束を通すことができる。これにより、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部の昇温速度を抑制しつつ、例えば、ケーシングカバー36の外周面36Aにおける軸方向中央部に一つの溝62が形成された場合に比して、ドラムリング16に作用する磁力を高めることができるので、制動トルクを向上させることができる。
(その他の変形例)
上記第二実施形態において、溝62は、一例として、第一実施形態における溝52(図1参照)と深さ及び溝幅が同一であるが、深さ及び溝幅の少なくとも一方が異なっていてもよい。
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態について説明する。
図14は、本発明の第三実施形態に係る渦電流式減速装置70の要部拡大断面図である。第三実施形態に係る渦電流式減速装置70は、上述の第一実施形態に係る渦電流式減速装置10(図1参照)及び第二実施形態に係る渦電流式減速装置60(図11参照)に対し、次のように構成が変更されたものである。
すなわち、第三実施形態に係る渦電流式減速装置70において、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部には、溝52が形成されており、ケーシングカバー36の外周面36Aにおける軸方向中央部には、溝62が形成されている。溝52は、「第一溝」の一例であり、溝62は、「第二溝」の一例である。溝52は、第一実施形態の溝52(図1参照)と同様であり、溝62は、第二実施形態の溝62(図11参照)と同様である。
続いて、第三実施形態の作用及び効果について説明する。
第三実施形態に係る渦電流式減速装置70において、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部には、ドラムリング16の周方向に沿って環状を成す溝52が形成されており、ケーシングカバー36の外周面36Aにおける軸方向中央部には、ケーシングカバー36の周方向に沿って環状を成す溝62が形成されている。したがって、これらの溝52、62により、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部とケーシングカバー36の外周面36Aにおける軸方向中央部との間の間隔(エアギャップ)が拡がり、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部に到達する磁束Mが低下する。
これにより、ドラムリング16の内周面16Aでは、軸方向中央部を挟んだ両側に磁束Mが分散されるので、この軸方向中央部では渦電流による発熱量が抑制される。この結果、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部の昇温速度が抑制(つまり、局所的な昇温が緩和)されるので、この軸方向中央部の温度が耐熱温度に到達する時間を伸長させることができ、ひいては、制動時間を伸長させることができる。
しかも、溝52は、ドラムリング16の内周面16Aの一部分である軸方向中央部にのみ形成されており、溝62は、ケーシングカバー36の外周面36Aの一部分である軸方向中央部にのみ形成されている。したがって、例えば、各溝52、62の底面52A、62Aの位置までドラムリング16の内周面16Aの位置及びケーシングカバー36の外周面36Aの位置をそれぞれ後退させてドラムリング16の内周面16Aとケーシングカバー36の外周面36Aとの間の間隔を拡げた場合に比して、ドラムリング16に到達する磁束Mの低下を最小限に抑えることができる。これにより、ドラムリング16に作用する磁力を確保できるので、制動トルクを確保できる。
また、ドラムリング16の内周面16Aにおける溝52を挟んだ両側には、ケーシングカバー36の外周面36Aと対向する対向面54がそれぞれ形成されている。各対向面54は、ドラムリング16の軸方向に沿ったポールピース48の長さの範囲R内に位置する領域54Aを含んでいる。同様に、ケーシングカバー36の外周面36Aにおける溝62を挟んだ両側には、ドラムリング16の内周面16Aと対向する対向面64がそれぞれ形成されている。各対向面64は、ドラムリング16の軸方向に沿ったポールピース48の長さの範囲R内に位置する領域64Aを含んでいる。したがって、溝52、62に比べて互いに近い位置にある対向面54、64を通じてポールピース48とドラムリング16との間で磁束Mを通すことができる。これにより、ドラムリング16に作用する磁力を確保できるので、制動トルクを確保できる。
続いて、第三実施形態の変形例について説明する。
上記第三実施形態では、ドラムリング16の内周面16Aにおける軸方向中央部に形成された溝52について、上述の第一実施形態に係る第一乃至第四変形例が採用されてもよい。また、第三実施形態では、ケーシングカバー36の外周面36Aにおける軸方向中央部に形成された溝62について、上述の第二実施形態に係る第一及び第二変形例が採用されてもよい。
また、上記第三実施形態において、溝52と溝62とは、一例として、深さ及び溝幅が同一であるが、深さ及び溝幅の少なくとも一方が異なっていてもよい。
以上、本発明の第一乃至第三実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。