JP3658733B2 - 耐久性ポリウレタン繊維およびその製造方法 - Google Patents
耐久性ポリウレタン繊維およびその製造方法 Download PDFInfo
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、耐久性ポリウレタン繊維、特にゾッキ・パンティーストッキング等に用いられる耐久性ポリウレタン繊維、および、その製造方法に関する。より詳しくは、形態固定性が高く、そのうえ、力学的な耐久性はもとより、カビ等に対しても充分に耐性があり、しかも高い強度、伸度を有する耐久性ポリウレタン繊維およびその製造方法に関する。さらには、細くても上記特性に優れた耐久性ポリウレタン繊維およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリウレタン繊維は、高い弾性を有する特徴を生かして、各種の用途に広く用いられている。そして、その用途の範囲の拡大とともに、ポリウレタン繊維には、新たな特性が要求されるようになってきた。この新たな特性の代表的なものとしては、以下の特性が挙げられる。すなわち、形態固定性が高く、しかも、形態固定した後も機械的な耐久性が高く、また、弾性回復性もあり、かつ、耐カビ性も高く、さらに高い強度、伸度を有することである。さらに、これらの特性を保持した細いポリウレタン繊維に対する要請も高まっている。
【0003】
ポリウレタン繊維の物性と構造に関しては、いくつかの公知文献がある。その代表的なものとしては、化学同人社発行の化学増刊58(昭和48年3月10日発行)「高分子物性と分子構造」が上げられる。その第207〜229頁には、鎖伸長剤として各種のジアミンを使用したポリウレタン−ウレアの一般的な構造と物性の関係が開示されてはいる。しかし、特定の組成のポリウレタンを特定の構造のポリウレタン繊維とすることにより、上記の要求を満たすポリウレタン繊維が示唆されるような記載例はない。そして、上記の例は、ポリウレタン−ウレアの例であり、鎖伸長剤としてジオールを使用したポリウレタンの構造と物性の関係については、何ら開示されていない。
【0004】
高分子論文集第45巻第10号第795〜802頁(1988年10月発行)等には、鎖伸長剤としてジオールを使用した例が開示されてはいるが、やはり、上記の要求を満たすポリウレタン繊維を示唆する記載はない。
【0005】
日本の特許公報においても状況は同様であり、上記要求を満たすポリウレタン繊維を示唆するものはないのが現状である。
【0006】
このように、前述の新たな特性の要求を満たすポリウレタン繊維はまだないのが実状である。
【0007】
ポリウレタン繊維の製造方法については、ジオール伸長からなるポリウレタンを乾式紡糸する方法が報告されている。しかし、特定のジオール伸長ポリウレタンを特定の条件下で乾式紡糸する報告例はない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、形態固定性が高く、力学的な耐久性はもとより、カビ等に対しても充分な耐性があり、しかも高い強度、伸度および弾性回復性を有するとともに、細くしても、これらの特性を保持する耐久性ポリウレタン繊維およびその製造方法を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、発明者らは検討を重ねた。その結果、従来のポリウレタン繊維とは別の特定の構造を持つ下記のポリウレタン繊維が前述の新規な特性を発揮することを実験で確認して、本発明を完成した。
【0010】
本発明の耐久性ポリウレタン繊維は以下の構成を有する。
【0012】
すなわち、下式(I)で示されるポリウレタンからなる繊維であって、その小角X線散乱像において、眉毛状4点散乱像を示し、子午線方向の長周期が7〜16nm、かつ、赤道線方向の長周期が13〜30nmであることを特徴とする耐久性ポリウレタン繊維である。
【0013】
−(P−U−R1 −U−)n1−(R2 −U−R3 −U)n2− …(I)
(式中、Pは、ポリテトラメチレンエーテルグリコール残基およびポリテトラメチレンエーテルグリコール共重合体残基からなる群から選ばれた少なくとも1種のポリオール残基、R1 およびR3 はジフェニルメタンジイソシアネート残基、R2 は、エチレングリコール残基、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン残基、1,4−ブタンジオール残基からなる群から選ばれた少なくとも1種のジオール残基、Uはウレタン結合をそれぞれ表し、n1 は1〜10の範囲の繰り返し単位数、n2 は1〜10の範囲の繰り返し単位数である。)
本発明の耐久性ポリウレタン繊維の製造方法は以下の構成を有する。
【0014】
すなわち、溶媒にポリウレタンが溶解してなるポリウレタン溶液を乾式紡糸することによりポリウレタン繊維を製造する方法において、前記ポリウレタンが、下式(I′)で示される構造式を有するとともに、下式(II)で表される付加比率1.7〜3、ハード比率(n2 /n1 )0.65〜3、数平均分子量3万〜20万および軟化点130〜250℃を有するものであり、乾式紡糸する際の、ゴデローラーに対する巻取機の速度比(巻取機の速度/ゴデローラーの速度)を1.3〜1.64とすることを特徴とする耐久性ポリウレタン繊維の製造方法である。
【0015】
−(P−U−R1 −U−)n1−(R2 −U−R3 −U)n2− …(I′)
(式中、Pはポリオール残基、R1 およびR3 は互いに同一でも異なってもよいジイソシアネート残基、R2 はジオール残基、Uはウレタン結合をそれぞれ表し、n1 は1〜10の範囲の繰り返し単位数、n2 は1〜10の範囲の繰り返し単位数である。)
付加比率=(ジイソシアネートに基づくNCO基の数)/(ポリオールに基づく水酸基の数) …(II)
(ただし、上記式(II)中、ポリオールに基づく水酸基の数には、鎖伸長剤のジオールに基づく水酸基の数は含まれない。)
以下、さらに詳細に説明する。
【0016】
従来のポリウレタン繊維を小角X線で測定すると、幾つかのパターンを示す。その代表的なものとしては、2点散乱像が挙げられる。また、小角X線散乱像をまったく示さないものも見られる。
【0017】
これに対し、本発明にかかるポリウレタン繊維は、小角X線散乱像において、上記の2者とは異なる眉毛状4点散乱像を示すものである。
【0018】
以下に、眉毛状4点散乱像について、図面を参照しながら詳しく説明する。
【0027】
図1は、本発明のポリウレタン繊維が小角X線散乱測定により示す眉毛状4点散乱像の一例を模式的に表す。図にみるように、この眉毛状4点散乱像は、赤道線2を間に置いて赤道線2から同じ距離を隔てて対向する少なくとも1対の眉毛状斑点32、32からなる。各斑点32は、子午線1の両側に散乱強度の強い部分32aを有する。言い換えれば、各斑点32においては、両側部分32aにおける散乱強度が他の部分(各斑点32が子午線1を切る部分)32bに比較して強くなっている。このように、各斑点32が散乱強度の強い部分32aを2つ(2点)ずつ有するので、1対の斑点32、32は、散乱強度の強い部分32aを合計4つ(4点)持つことになる。1対の斑点32、32は、子午線1および赤道線2に関して対称である。
【0028】
なお、図1において、散乱強度の強い部分を31aあるいは32aとして分けて表示したが、これらは31bあるいは32bに対して不連続的に強度が変わっている部分ではなく、連続的に(一般的には正規分布状に)強度が強くなっている部分であり、図1は説明しやすいようにモデル的に記載したものである。
【0029】
なお、本発明のポリウレタン繊維が示す眉毛状4点散乱像は、上述の例に限定されない。
【0030】
本発明のポリウレタン繊維は、眉毛状4点散乱像を示す場合は子午線方向および赤道線方向の両方向について長周期を有する。
【0031】
長周期Jは、たとえば、下記ブラッグ(Bragg)の式から求めることができる。
【0032】
J=λ/2 sin[{tan -1(r/R)}/2]
ただし、上記式中、λはX線の波長、Rはカメラ半径(測定試料とフィルムの間の距離)、rは以下に述べるものである。
【0033】
眉毛状4点散乱像の場合は、たとえば、図1にみる散乱像において、子午線方向の長周期については赤道線2から斑点32の中心までの距離r1 をrとし、赤道線方向の長周期については子午線1から斑点32の散乱強度の最も強い部分までの距離r2 をrとして、上記ブラッグの式から求めればよい。
【0034】
なお、上記r1 およびr2 の測定は、小角X線写真のポジではなくネガで行うことが好ましい。ネガで測定すると、ネガからポジへ変換する際に生じる現像の倍率ムラによる誤差をなくすことができるからである。
【0035】
本発明のポリウレタン繊維は、上記のような小角X線散乱像を示し、かつ、この散乱像から測定される子午線方向の長周期は、眉毛状4点散乱像のいずれの場合も7〜16nmである。この長周期の特に好ましい範囲は9〜13nmである。子午線方向の長周期が9〜13nmであると、ポリウレタン繊維としての強度、特に実用強度がより高まるからである。特に、ゾッキ・パンティーストッキング(以下、「ゾッキ」と略称する)のように過酷な耐久性が要求される分野において、他の構造の繊維に比較して顕著に高くなるからである。
【0036】
本発明のポリウレタン繊維が眉毛状4点散乱像を示す場合は、その赤道線方向の長周期は13〜30nmであり、特に好ましくは15〜22nmである。このような値を示す繊維は、実用において特に高い耐久性を示すからである。
【0037】
なお、ポリウレタン繊維の小角X線測定は、たとえば、下記の方法により行うことができる。ただし、これに限定されない。
【0038】
A.試料の調製:
繊維を引き揃え、4cmの長さに切り、40mgを天秤で秤りきり、両糸端を結んで測定試料とする。
【0039】
B.写真測定:
写真法:Kissig Cameraによる。
【0040】
次に、本発明の繊維を構成するポリウレタンの分子構造や組成について述べる。
【0041】
このポリウレタンは、前記式(I)で示されるジオール伸長ポリウレタンである。ジオール伸長ポリウレタンは、繊維を、適度の熱セット性、適度の弾性回復性および高強度を有するものにすることができるので、好ましい。
【0042】
なお、本発明の効果を妨げない範囲で、ポリウレタン分子中に、ウレア結合が一部存在していても何ら構わない。
【0043】
式(I)中のジオール残基R2 となってポリウレタン分子中に配置され、ウレタン結合を与える原料のジオール鎖伸長剤としては、以下に列挙するものが適用できる。なお、本発明の効果を妨げない範囲で、鎖伸長剤として、グリセリン等のように3個以上の水酸基を持つ化合物が併用されてもよいことは言うまでもない。
【0044】
ジオール鎖伸長剤の中で、より優れたポリウレタン繊維を得るために、エチレングリコール(以下、「EG」と略称する)、1,4−ブタンジオール(以下、「BDO」と略称する)、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン(以下、「BHEB」と略称する)からなる群から選ばれた少なくとも1種を用いる。特に、EGを伸長剤として用いたポリウレタン繊維は、強度が特に高く、耐熱性も高く、しかも、適度の熱セット性と弾性回復性を有し、さらには、耐光性も高いので、特に好ましい。
【0045】
また詳細な原因は不明であるがEGを伸長剤として用いた場合には、高染色性となる特徴もあり極めて好ましいのである。
【0046】
なお、ジオール鎖伸長剤は、1種のみのジオールからなるものに限定されるわけではなく、複数種のジオールからなるものであってもよい。
【0047】
式(I)中のジイソシアネート残基R1 およびR3 となってポリウレタン分子中に配置され、ウレタン結合を与える原料のジイソシアネートとしては、以下に示すものが適用できる。なお、本発明の効果を妨げない範囲で、3個以上のイソシアネート基を持つ化合物を併用してもよい。
【0048】
ジイソシアネートの中で、より優れたポリウレタン繊維を得るために、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、「MDI」と略称する)を用いる。MDIを用いたポリウレタン繊維は、強度がより高く、耐熱性も高く、さらに耐溶剤性等も良好なものとなるからである。
【0049】
式(I)中のポリオール残基Pとなってポリウレタン分子中に配置され、ウレタン結合を与える原料ポリオールには、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下、「PTMG」と略称する)およびその共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種を用いる。PTMGの共重合体の代表的なものとしては、エチレンオキシドをPTMGの末端に付加したもの、テトラヒドロフラン(以下、「THF」と称する)と3−メチルTHFとの共重合PTMG等が挙げられる。ポリオールとしてPTMGおよび/またはその共重合体を用いたポリウレタン繊維は、低温特性に優れ、耐カビ性がより高く、弾性回復性により優れ、しかも耐加水分解性が高い。
【0051】
ポリオールの分子量としては、繊維の強度および弾性回復性等を考慮して、800〜3500のものが好ましい。特に、側鎖のないポリオールについては、好ましい分子量は800〜2500である。これらの範囲の分子量のものを使用すると、ポリウレタン繊維の低温特性が特に優れたものとなるからである。
【0052】
また、特に好ましいのは、ポリオールが単一成分ではなく数平均分子量800〜2500と数平均分子量1600〜4000のものとの複数成分からなり、かつポリオール全体としての数平均分子量が1200〜2600のものである。
【0053】
詳細な理由は不明ではあるが、1種の分子量からなるポリオールより、幾つかの分子量からなるものを混ぜたポリオールからなるもののほうが、ポリウレタン繊維の伸度も高くなり、またその耐久性も向上し、さらに糸の外観も高透明性となり好ましい。
【0054】
例えば、数平均分子量が2200のポリオールを用いる場合、数平均分子量が2200のポリオールを単独で用いるより、1800と3000のポリオールをブレンドしてなる数平均分子量2200のものを用いることが好ましいのである。
【0055】
そしてこの場合、目標の数平均分子量に対して、低分子量のポリオールを主体とし、高分子量のポリオールを少数とすることが好ましい。
【0056】
すなわち、目標の数平均分子量が2500の時は、2500未満のポリオールを主体にし、2500超のポリオールを少なくするようにすることが好ましい。
【0057】
ポリウレタンを構成するポリオール残基Pは、ポリウレタンの1分子内において、1種類のみの使用に限定されるものではなく、複数種のポリオール残基が併用されていてもよい。
【0058】
ジイソシアネートとポリオールとの比率である付加比率は、特に高い耐熱性が要求される時には高いことが好ましい。
【0059】
ここで、この明細書中、付加比率とは、下式(II)で表されるものである。
【0060】
付加比率=(ジイソシアネートに基づくNCO基の数)/(ポリオールに基づく水酸基の数) …(II)
(ただし、上記式(II)中、ポリオールに基づく水酸基の数には、鎖伸長剤のジオールに基づく水酸基の数は含まれない。)
この付加比率は、繊維の融点の低下および粘着性の増加を防止する観点から1.7以上とするのが好ましい。
【0061】
一方、繊維の伸度が低下するのを防ぐ観点から3以下とするのが好ましい。
【0062】
特に、耐熱性が高く、適度のセット性の繊維を得る観点から、付加比率は1.8〜2であることが好ましい。
【0063】
ポリウレタンのハード比率は、0.65〜3であることが好ましい。ここで、この明細書中、ハード比率とは、前記式(I)中の繰り返し単位数n2 とn1 との比(n2 /n1 )を指す。ハード比率が上記の範囲であると、ポリウレタンの強度がより高くなり、また、耐熱性も高くなるからである。このような効果をより高くするために特に好ましいハード比率は0.9〜1.8である。ハード比率を0.9〜1.8とする方法としては、具体的には幾つかの方法が挙げられ特に限定されるものではない。
【0064】
ポリウレタンの数平均分子量は、3万〜20万であることが好ましい。数平均分子量がこの範囲であると、強度はもとより、実用においても耐久性が著しく向上するからである。この向上効果をより高くするために特に好ましいのは6万〜12万である。なお、ポリウレタンの数平均分子量は、たとえば、ゲル浸透クロマトグラフィー法(以下、「GPC法」と略す)により標準ポリスチレンで検量線を作成して測定することができる。
【0065】
前記式(I)中、繰り返し単位数n1 およびn2 は、両方とも1〜10の範囲とする。
【0066】
n1 およびn2 の少なくとも一方が1未満であると、ポリウレタンの強度が不足したり、軟化点が低すぎたり、伸度が不足したりするので、所望の繊維が得られない。
【0067】
n1 が10を越えると、ポリウレタンの軟化点が低くなりすぎるので、所望の繊維が得られない。
【0068】
また、n2 が10を超えると、ポリウレタンの軟化点が高くなりすぎ、また、伸度が低くなるので、所望の繊維が得られない。
【0069】
ポリオール残基の分子量にもよるが、好ましいn1 の範囲は1〜5である。また、好ましいn2 の範囲は1〜5である。このような値であると、特に良好なポリウレタン繊維になるからである。
【0070】
なお、ポリウレタンは高分子であるので、n1 およびn2 の両方とも平均値である。したがって、整数とは限らない。
【0071】
具体的には、n1 およびn2 はNMR法、加水分解法で求めることができる。
【0072】
ポリウレタン繊維の強度は1.5g/d以上、伸度は300%以上であることが好ましい。強度および伸度がこれらの範囲であると、ポリウレタン繊維を布帛にした時に、この布帛の耐久性が向上するだけでなく、ポリウレタン繊維を布帛にする工程でのポリウレタン繊維の破壊も大幅に減少し、このため、布帛の耐久性が大幅に向上する利点があるからである。また、得られる布帛の品位も向上する。
【0073】
ポリウレタン繊維の軟化点は、130〜250℃であることが好ましい。軟化点が130℃以上であると、他の繊維と、本発明の繊維との併用が容易になるからである。また、軟化点が250℃以下であると、熱によって形態を容易に固定できる利点があるからである。これらの観点から特に好ましい軟化点は150〜230℃である。なお、ポリウレタン繊維の軟化点は、たとえば、サーモメカニカルアナライザー(Thermomechanical analyzer) 法(以下、「TMA法」と略称する)により測定することができる。
【0074】
本発明のポリウレタン繊維は、乾式紡糸されたものであることが好ましい。乾式紡糸により作られたポリウレタン繊維は、乾燥時に適度の熱を受けているためか、熱安定性が高い利点があるからである。また、このようなポリウレタン繊維は、強度がより高く、しかも耐久性もより高い繊維となるからである。
【0075】
本発明のポリウレタン繊維は、特に、細い繊維においてその特徴をより発揮する。すなわち、繊度が、好ましくは30d以下(この明細書中、単位「d」はデニールを意味する)、より好ましくは20d以下、さらにもっと好ましくは15d以下の繊維において、従来の繊維に比較して、特に実用耐久性が高くなる。このような細いポリウレタン繊維は、特にゾッキ用途に好適である。特に繊度が3〜30dのポリウレタン繊維をゾッキに展開すると、良好な履き心地と高い耐久性のゾッキが得られる。
【0076】
また、本発明の繊維として特に好ましいのは、その繊維がモノフィラメントまたは2本合着されたものであることである。
【0077】
特にゾッキにかかる糸を用いる場合、モノフィラメントであれば、高透明性でかつ薄いゾッキとなるので好ましい。また、2本のモノフィラメントが製造工程で合着(接合)された糸の場合も同様な特性となり好ましい。
【0078】
2本合着された糸の場合には、特に耐久性を高くすることができるので好ましい。
【0079】
本発明のポリウレタン繊維は、上述の構成からなるものであるが、本発明の効果を損なわない範囲で、ベンゾトリアゾール系薬剤等の紫外線吸収剤;ヒンダードアミン系薬剤等の耐光剤;ヒンダードフェノール系薬剤等の酸化防止剤;酸化チタン、酸化鉄等の各種顔料;硫酸バリウム;酸化亜鉛;酸化セリウム;銀イオンを含有する無機物等の機能性無機薬剤;滑剤;各種シリコーン油;鉱物油;各種の帯電防止剤等が含有されていてもよい。
【0080】
次に、本発明にかかるポリウレタン繊維を製造する方法について説明する。
【0081】
前記した小角X線散乱像条件で特定される本発明のポリウレタン繊維は、たとえば、前記した式(I)で示される構造式を有するポリウレタンを溶媒に溶解したポリウレタン溶液を特定条件下で乾式紡糸することにより作ることができる。 乾式紡糸する際の条件としては、ゴデローラーの速度よりも巻取機の速度を速くし、その速度比率(巻取機の速度/ゴデローラーの速度)を1.3〜1.64とすることである。このような速度条件下で糸を巻き取ると、糸の強度は非常に高くなり、即ち、高強度の糸を得ることができる。
【0082】
溶媒に溶解したポリウレタンを製造する方法としては、特に限定はされないが、たとえば、以下の2つの方法が挙げられる。
【0083】
第1の方法は、特定のポリウレタンを溶媒に溶解してポリウレタン溶液を得、このポリウレタン溶液を乾式紡糸する方法である。
【0084】
第2の方法は、特定のポリウレタンを溶媒中で合成してポリウレタン溶液を得、このポリウレタン溶液を乾式紡糸する方法である。
【0085】
まず、第1の方法について説明する。
【0086】
ポリウレタンとしては、前記の式(I)又は(I′)で示される構造式を有するものが用いられる。
【0087】
また、このポリウレタンは、付加比率が1.7〜3、ハード比率(n2 /n1 )が0.65〜3、数平均分子量が3万〜20万、軟化点が130〜250℃のものとする。
【0088】
このようなポリウレタンを得る方法については、溶融重合法であれ、溶液重合法であれ、公知の方法が適用でき、限定されるものではない。重合の処方についても、特に限定はされず、たとえば、ポリオールとジイソシアネートとを反応させた後、ジオールからなる鎖伸長剤を添加し、ポリウレタンとする方法、また、ポリオールと、ジイソシアネートと、ジオールからなる鎖伸長剤とを同時に反応させることによりポリウレタンを合成する方法等が挙げられ、いずれの方法によるものでもよい。
【0089】
なお、異種のポリオールを併用する時、また同様に異種のジオールを併用する時、さらに異種のジイソシアネートを併用する時の方法も特に限定されるものではなく任意の方法が使用できる。
【0090】
また、分子量の異なるポリオールを混合して任意の分子量のポリオールとする時も同様である。例えば、ポリオールを先に混合した後にジイソシアネートと反応させても良いし、また、分子量の異なったポリオールとジイソシアネートおよびジオールを同時に反応させてもよい。
【0091】
なお、反応速度の大幅に異なるものを併用する時には別々に反応させて、しかる後に混合することが好ましい。
【0092】
なお、かかる事項は、本発明の耐久性ポリウレタン繊維の製造方法に全て共通するものである。
【0093】
ポリウレタンを溶解するための溶媒としては、特に限定されるわけではないが、ジメチルアセトアミド(以下、「DMAC」と略称する)、ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と略称する)およびジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」と略称する)からなる群から選ばれた少なくとも1種からなるものが好ましい。このような溶媒を用いて乾式紡糸すると、安定に良好な繊維が得られるからである。このような観点から、上記の溶媒の中でも特に好ましい溶媒はDMACである。これは、ポリウレタンを溶媒に溶解する場合に限らず、後述の第2の方法のように、溶媒中でポリウレタンを合成する場合も同様である。
【0094】
ポリウレタンを溶解する方法も特に限定されるものではなく、たとえば、攪拌中の溶媒中にポリウレタンを添加する方法、攪拌中の溶液に超音波をかける方法、ホモミキサーのように高速の剪断力を利用する方法、スタティックミキサーを用いる方法等の公知の手段が適用できる。必要に応じては、溶解助剤を併用してもよい。ポリウレタンとして粉体やチップ状のものを用いることにより、ポリウレタンを溶解しやすくすることも有効である。本発明の効果を妨げない範囲で、上記溶媒と併せて、その他の溶媒を用いてもよい。
【0095】
また、ポリウレタン溶液には、適宜、必要に応じて、MDI、HMDI、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等を代表とするジイソシアネートやその誘導体(たとえば、両末端にMDIを付加してなる、MDI付加ブタンジオール、MDI付加エチレングリコール、MDI付加ポリプロピレングリコール);トリフェニルメタントリイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート付加ブタンジオール、さらには、グリセリンにMDIを付加してなるMDI付加グリセリン等をはじめとするトリイソシアネート等の化合物等を添加してもよい。
【0096】
上記のようにして作られたポリウレタン溶液は、口金から吐出させ、乾式紡糸する。以上が第1の方法である。
【0097】
次に、第2の方法について述べる。
【0098】
この方法は、溶液中で目的とするポリウレタンを合成した後、得られた反応溶液(生成したポリウレタンが溶解した溶液)を乾式紡糸する方法である。
【0099】
まず、ポリオールとジイソシアネートを付加比率が1.7〜3となるように添加し、反応させる。この反応の手法も特に限定されるものではなく、公知の手法が適用できる。その代表的なものとしては、たとえば、通常の攪拌による方法、攪拌中の溶液に超音波をかける方法、ホモミキサーを併用する方法、スタティックミキサーを用いる方法、2軸のエクストルーダーを用いる方法、ニーダーを用いる方法等が挙げられる。
【0100】
次に、上記のようにしてジイソシアネートが付加されたジイソシアネート付加ポリオールを溶媒に溶解する。好ましい溶媒は、特に限定されるわけではないが、この溶媒がそのまま乾式紡糸時のポリウレタン溶液の溶媒となるので、前述した第1の方法で乾式紡糸されるポリウレタン溶液の好ましい溶媒として挙げたものと同じである。
【0101】
ジイソシアネート付加ポリオールを溶媒に溶解する方法も特に限定されるものではなく、前述の第1の方法においてポリウレタンを溶解する方法として挙げたものと同様の方法等が好ましく用いられる。
【0102】
次に、最終のポリウレタンの構造式が(I)又は(I′)で、かつ、ハード比率が0.65〜3になるようにジオールを添加して鎖伸長させる。ハード比率を0.65〜3とする場合には、ジイソシアネートと鎖伸長剤であるジオールを適宜添加し、鎖伸長させる。また、ジイソシアネートと鎖伸長剤であるジオールとを予め反応させて得られる、末端がジオールの低分子ウレタンを鎖伸長剤として使用することも有効である。
すなわち、このような鎖伸長工程においては、鎖伸長剤であるジオールのみならず、必要に応じて、MDI、HMDI、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等を代表とするジイソシアネートやその誘導体(たとえば、両末端にMDIを付加してなる、MDI付加ブタンジオール、MDI付加エチレングリコール、MDI付加ポリプロピレングリコール);トリフェニルメタントリイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート付加ブタンジオール、さらには、グリセリンにMDIを付加してなるMDI付加グリセリン等をはじめとするトリイソシアネート等の化合物等を添加してもよい。また、モノイソシアネート、モノアミン、モノオール等の末端封鎖剤等を必要に応じて添加することも有効である。
【0103】
このような処方により、最終のポリウレタンの数平均分子量が3万〜20万となるように反応させる。
【0104】
このような鎖伸長の手法は、特に限定されるものではなく、公知の手法が適用できる。
【0105】
次に、第2の方法の他の方法として、1段階法を用いることができる。
【0106】
すなわち、例えば、特開昭60−206817号公報に開示されているようにポリオールとジオールを溶媒に溶解し次にジイソシアネートを添加し重合する方法がある。
【0107】
なお、この1段階法による反応の場合も、ポリオールとジオールとジイソシアネートとの比率は上記同様である。かかる方法は簡単であり、安価に生産出来るメリットがある。
【0108】
また、上記の反応は、得られる最終のポリウレタンの軟化点が130〜250℃となるように行う。ポリウレタンの軟化点をこのような温度にするためには、事前にテストをし、ポリオールとジイソシアネートと鎖伸長剤であるジオールの各々の種類およびそれらの比率を決めることが必要である。
【0109】
次に、こうして得られたポリウレタン溶液を口金から吐出させ、乾式紡糸する。以上が第2の方法である。
【0110】
以上のように、第1および第2の両方の方法とも、特定のポリウレタンが溶解してなるポリウレタン溶液を用い、これを乾式紡糸するという点では共通し、しかも、その乾式紡糸方法も双方に共通するので、以下では、これら両方法に分離せずに、両方法に共通する事項について述べる。
【0111】
乾式紡糸されるポリウレタン溶液に溶解したポリウレタンの原料として用いられる、ジオール鎖伸長剤、ジイソシアネートおよびポリオールについては、前述した通りである。
【0112】
特に、より高強度、かつ、より高伸度のポリオール繊維が要求される時には、ポリウレタン原料のジイソシアネートとしてMDIおよび/またはHMDIを用い、ジオール鎖伸長剤としてEG、PDO、BDOおよびBHEBからなる群から選ばれた少なくとも1種(特に好ましくは、EG)を用い、ポリオールとして下記のものから選ばれた少なくとも1種を用いて得られたポリウレタンの溶液を乾式紡糸することが好ましい。
【0113】
ポリオール=分子量が800〜3500のPTMGおよび/またはその共重合体、分子量が800〜3500で側鎖として少なくとも1つのメチル基を有するポリエステルジオール等。
【0114】
上記の原料から得られたポリウレタンが良好な特性を示すことは前述の通りである。
【0115】
また、かかるポリオールの数平均分子量は1400〜2600であり、かつ該ポリオールは単一成分ではなく数平均分子量800〜2500と数平均分子量1600〜4000のものとの複数成分からなるものが好ましい。
【0116】
かかるものであると、得られる繊維の特性として、1種の分子量からなるポリオールより、幾つかの分子量からなるものを混ぜたポリオールからなるもののほうが、伸度も出やすく、また耐久性も高くなり、また糸の外観も高透明性となり好ましいことは前記した通りである。
【0117】
また、ブレンドの方法としては、目標の分子量に対して、低分子量のポリオールを主体とし、高分子量を少数とすることが好ましい。
【0118】
例えば、目標の分子量が2500の時は、2500未満のポリオールを主体にし、2500超過のポリオールを少なくするようにすることが好ましい。
【0119】
かかる事項は物としての特徴であるが、かかる構成をとることにより、製法的にも下記のような利点が発揮されるのである。すなわち、溶液中に各種の添加剤を付与しても溶液が安定し、紡糸性が高くなるのである。
【0120】
ポリウレタン溶液を乾式紡糸する際、加熱温度は、(ポリウレタンの軟化点±70)℃であることが好ましい。このような温度で加熱すると、紡糸時の糸切が少なくなり、また、糸の温度も上がり、伸度も上がるからである。この観点から、特に好ましい加熱温度は、(ポリウレタンの軟化点±50)℃である。なお、上記加熱温度は、乾式紡糸における紡糸筒の壁面温度である。
【0121】
紡糸の際、糸切れを少なくして安定に紡糸でき、かつ、伸度の高い繊維を得る観点から、ドラフト比は5〜150であることが好ましく、引取速度は300〜2000m/分であることが好ましい。
【0122】
特に、より高伸度の繊維を希望する時には、ポリウレタンの組成にもよるが、低ドラフト比で紡糸することが好ましい。その際の好ましいドラフト比は7〜50である。一方、伸度の比較的少ない繊維を希望する時には、高ドラフト比で紡糸することが好ましい。その際の好ましいドラフト比は30〜100である。このように、糸の使用目的に応じて好ましいドラフト比が選定される。なお、これらは、用いるポリウレタンの種類によっても異なるので、所望の目的に応じて設定すればよい。
【0123】
ここで、この明細書中、引取速度とは、口金から吐き出された糸が最初に触れるゴデローラー(口金から吐き出され乾燥処理された糸が最初に触れる糸の速度を規定するローラー)の速度を意味し、巻取機の巻取速度を意味するのではない。なお、ゴデローラーの速度と巻取機の速度が同一であっても何ら構わない。
【0125】
特に、30d以下の細い繊維を作る時には、孔径(D)が0.1〜0.35mmφ、かつ、孔径(D)と孔長(L)との比率L/Dが1.1〜5の口金を用いることが好ましい。特に、数平均分子量が5万以上のポリウレタンを紡糸する時には、L/Dが1.2〜4の口金を用いることが好ましい。このような口金で紡糸すると、より高強度、かつ、より高伸度の繊維が容易に作れるからである。
【0126】
次に、特に伸度が高く、かつ安定した解舒性の糸巻体(チーズ)とするには巻取機と巻取トラバースの速度を調整し、巻取糸体の平均綾角が5〜18゜となるように巻取ることが好ましい。
【0127】
綾角度を決めるのは糸の巻取速度と巻取トラバースの速度とトラバースの幅(糸巻体の幅)である。
【0128】
したがって、この3者を調整して、綾角が5〜18°となるようにするのである。そして特に好ましい綾角は6〜12°である。かかる綾角になるように巻取ると、伸度が高く、かつ解舒性の安定した繊維となるのである。
【0129】
なお、乾式紡糸するポリウレタン溶液には、本発明の効果を損なわない範囲で、前述の、ベンゾトリアゾール系薬剤等の紫外線吸収剤;ヒンダードアミン系薬剤等の耐光剤;ヒンダードフェノール系薬剤等の酸化防止剤;酸化チタン、酸化鉄等の各種顔料、硫酸バリウム;酸化亜鉛;酸化セリウム;銀イオンを含有する無機物等の機能性無機薬剤;滑剤;各種シリコーン油;鉱物油;各種の帯電防止剤等を適宜添加されていてもよい。
【0130】
これらの添加方法は、特に限定はされず、公知の手法が適用できる。代表的なものとしては、前述した、通常の攪拌による方法、攪拌中の溶液に超音波をかける方法、ホモミキサーを併用する方法、さらにスタティックミキサーを用いる方法、2軸のエクストルーダーを用いる方法、ニーダーを用いる方法等が挙げられる。
【0131】
【作用】
ポリウレタン繊維が、前記式(I)で示される構造式のポリウレタンからなっていて、繊維の小角X線散乱像において、眉毛状4点散乱像を示すとともに子午線方向の長周期が7〜16nm、かつ、赤道線方向の長周期が13〜30nmであると、形態固定性が高く、力学的な耐久性はもとより、カビ等に対しても充分な耐性があり、しかも高い強度、伸度および弾性回復性を有するとともに、細くしても、これらの特性を保持する優れた耐久性ポリウレタン繊維となる。
【0132】
上記特定構造のポリウレタン繊維が上記の優れた性能を示す理由(繊維の構造と性能との詳細な関係)は、まだ明らかではないが、このポリウレタン繊維の構造と耐久性との関係についてあえて言及すれば、以下のように推定される。すなわち、小角X線散乱像が眉毛状4点散乱像を示すポリウレタン繊維においては、繊維中のハードセグメントがマクロ的に見ると比較的均一に分布しており、しかもソフトセグメントがタイ分子の役割を充分に果している。そのため、繊維にかかる外力にうまく抵抗するので耐久性が高くなる。
【0133】
【実施例】
以下に、本発明の実施例と比較例を説明するが、本発明は、下記実施例に限定されない。
【0134】
−実施例1−
付加比率が2.010になるように、分子量2000のPTMG2000gとMDI503gを窒素シールされた攪拌容器中に投入し、85℃で反応させ、MDI末端のプレポリマーを得た。次に、このプレポリマー2000gをDMAC3840gに溶解し、さらに、鎖伸長剤としてEGを、ハード比率が1.0になるように68.7g添加し、反応させ、さらに末端封鎖剤としてブタノールを添加することにより、ポリウレタン溶液を得た。
【0135】
得られたポリウレタン溶液に含まれるポリウレタンの数平均分子量をGPC法で測定したところ、ポリスチレン換算で約8万であった。また、TMA法により測定したポリウレタンの熱軟化点は195℃であった。
【0136】
次に、上記ポリウレタン溶液を、孔径(D)=0.25mmφ、孔長(L)=0.45mm、L/D=1.8の口金を用いて加熱温度(紡糸筒の壁面温度)200℃で乾式紡糸したところ、良好に紡糸でき、ポリウレタン繊維を得た。
【0137】
その際、引取速度は700m/分、巻取速度は950m/分、速度比率(巻取速度/引取速度)は1.36であり、ドラフト比は18であった。
【0138】
得られたポリウレタン繊維の物性は、繊度が18dのモノフィラメントで強度が36gすなわち2.0g/d、伸度が410%であった。
【0139】
このポリウレタン繊維の小角X線写真を前述の方法により撮影し、得られた写真のネガから長周期を前述の方法により算出した。
【0140】
得られた写真のポジを図3に示す。この図にみるように、典型的な眉毛状4点散乱像を示した。この散乱像において、子午線方向の長周期は11nm、赤道線方向の長周期は17nmであった。
【0141】
このポリウレタン繊維にナイロン糸(15d、10フィラメント)を巻き付けてシングルカバードヤーンにし、このシングルカバードヤーンとナイロン糸を用い、染料で酸性染色し、交編パンストを試作し、これを実用テストしたところ、10日間の実用に耐えた。
【0142】
なお、本品は良好に着色でき、着用者の足が美しく見えた。
【0143】
−実施例2−
付加比率が2.010になるように、分子量2000のPTMG2000gとMDI503gを窒素シールされた攪拌容器中に投入し、85℃で反応させ、MDI末端のプレポリマーを得た。次に、このプレポリマー2000gをDMAC3890gに溶解し、さらに、ハード比率が1.1になるように鎖伸長剤としてEG75.6gとMDI20gを添加し、反応させ、さらに末端封鎖剤としてブタノールを添加することにより、ポリウレタン溶液を得た。
【0144】
得られたポリウレタン溶液に含まれるポリウレタンの数平均分子量をGPC法で測定したところ、ポリスチレン換算で約10万であった。また、TMA法により測定したポリウレタンの熱軟化点は200℃であった。
【0145】
上記ポリウレタン溶液を、孔径(D)=0.20mmφ、孔長(L)=0.50mm、L/D=2.5の口金を用いて加熱温度(紡糸筒の壁面温度)200℃で乾式紡糸したところ、良好に紡糸でき、ポリウレタン繊維を得た。
【0146】
その際、引取速度は550m/分、巻取速度は900m/分、速度比率(巻取速度/引取速度)は1.64であり、ドラフト比は18であった。
【0147】
得られたポリウレタン繊維の物性は、繊度が17dのモノフィラメントで強度が37.4gすなわち2.2g/d、伸度が370%であり、極めて高強度であった。
【0148】
このポリウレタン繊維の小角X線写真を前述の方法により撮影したところ、実施例1と同様の眉毛状4点散乱像を得た。また、子午線方向の長周期および赤道線方向の長周期の両方とも実施例1と同様であった。
【0149】
このポリウレタン繊維にナイロン糸(12d、7フィラメント)を巻き付けてシングルカバードヤーンにし、このシングルカバードヤーンを用いて、さらにゾッキを試作し、含金酸性染料で染色し、これを実用テストしたところ、15日間の実用に耐えた。
【0150】
本品は良好に染色でき、美しいゾッキとなった。
【0151】
−実施例3−
ハード比率が1.05になるように、分子量1500のPTMG1800gとBHEB250gをニーダー中で混合し、さらに、付加比率が2.0になるようにMDI 615gを添加し、充分反応させた。その後、反応混合物を水中に押し出し、カットして、チップ状のポリウレタンを得た。
【0152】
このポリウレタンの数平均分子量をGPC法で測定したところ、ポリスチレン換算で約6万であった。また、TMA法により測定したポリウレタンの熱軟化点は190℃であった。
【0153】
このポリウレタン500gをDMAC1000gに溶解し、得られたポリウレタン溶液を実施例1と同様にして乾式紡糸することにより、ポリウレタン繊維を得た。
【0154】
このポリウレタン繊維の物性は、繊度が20dのモノフィラメントで強度が32gすなわち1.6g/d、伸度が350%であった。
【0155】
このポリウレタン繊維の小角X線写真を前述の方法により撮影した結果(写真のポジ)を図3に示す。この図にみるように、眉毛状4点散乱像を示した。この散乱像において、子午線方向の長周期は10nm、赤道線方向の長周期は19nmであった。
【0156】
このポリウレタン繊維にナイロン糸(15d、10フィラメント)を巻き付けてシングルカバードヤーンにし、実施例1と同様にして交編パンストを試作し、これを実用テストしたところ、7日間の実用に耐えた。
【0161】
−実施例5−
分子量1800のPTMGを667g、分子量3000のPTMGを333g、エチレングリコール28gを3300gのDMACに溶解し、次に229gのMDIを追加し、次にこの溶液を60〜70℃で9時間攪拌しながら反応させ、さらに、ブタノールを添加し末端封鎖した。
【0162】
なお、PTMGの計算上の数平均分子量は2200であった。また、付加比率はほぼ2であり、また、ハード比率はほぼ1であった。
【0163】
得られたポリウレタンの分子量をGPC法で測定したところ、数平均分子量は約9万であった。また、熱軟化点は190℃であった。
【0164】
次に、得られた溶液を孔径が0.25mmφ、孔長が0.45mm、すなわちL/D=1.8の口金を用いて加熱温度220℃で乾式紡糸したところ、良好に紡糸できた。
【0165】
引取り速度は400m/m、巻取速度は600m/m(速度比率=1.5)であった。また、糸のケークの平均綾角は9°であった。得られた繊維のデニールは18デニールのモノフィラメント糸であった。
【0166】
得られた繊維の小角X線写真は図1と同様の眉毛状4点散乱像を示した。
【0167】
また、繊維の強度は28g、すなわち1.6g/d、伸度は400%であった。
【0168】
さらに、得られた繊維にナイロン糸(12d、7フィラメント)を巻きつけ、シングルカバードヤーンにし、酸性染料で染色しゾッキとし、実用テストしたところ15日の実用に耐えた。
【0169】
本ゾッキは透明性が特に高く、また伸縮性に富み、また良好に着色でき良好なものであった。
【0170】
−比較例1−
実施例3で得られたチップ状のポリウレタンを通常のエクストルーダー型の溶融紡糸機にかけ、230℃で紡糸することにより、ポリウレタン繊維を得た。その際、引取速度は650m/分、巻取速度は850m/分、速度比率(巻取速度/引取速度)は1.31であった。また、ドラフト比は40であった。
【0171】
このポリウレタン繊維の物性は、繊度が20dのモノフィラメントで強度が21gすなわち約1.1g/d、伸度が340%であった。
【0172】
このポリウレタン繊維の小角X線写真を前述の方法により撮影した結果(写真のポジ)を図4に示す。この図にみるように、典型的な2点散乱像を示した。この散乱像において、子午線方向の長周期は11nmであった。
【0173】
このポリウレタン繊維に15dのナイロン糸を巻き付けてシングルカバードヤーンにし、実施例1と同様にして交編パンストを試作し、これを実用テストしたところ、3日間の実用で破壊された。
【0174】
−比較例2−
付加比率が1.6になるようにし、分子量1600のPTMG800gとMDI 200gを窒素シールされた攪拌容器中に投入し、85℃で反応させ、MDI末端のプレポリマーを得た。次に、このプレポリマーをDMAC1900gに溶解し、さらに、鎖伸長剤としてエチレンジアミン30gを添加し、反応させ、さらに末端封鎖剤としてジエチルアミンを添加することにより、ポリウレタン溶液を得た。
【0175】
得られたポリウレタン溶液に含まれるポリウレタンの数平均分子量をGPC法で測定したところ、ポリスチレン換算で約3万であった。また、TMA法により測定したポリウレタンの熱軟化点は245℃であった。
【0176】
上記ポリウレタン溶液を、孔径(D)=0.25mmφ、孔長(L)=0.45mm、L/D=1.8の口金を用いて加熱温度(紡糸筒の壁面温度)210℃で乾式紡糸し、2本の糸を仮撚により合着させたところ、良好に紡糸でき、ポリウレタン繊維を得た。
【0177】
その際、引取速度は700m/分、巻取速度は880m/分、速度比率(巻取速度/引取速度)は1.26であり、ドラフト比は18であった。
【0178】
得られたポリウレタン繊維の物性は、繊度が20dで2本の10dの糸が合着されたものであった。また、強度が22gすなわち1.1g/d、伸度が500%であり、極めて高強度であった。
【0179】
このポリウレタン繊維の小角X線写真を前述の方法により撮影したところ、比較例1とほぼ同様の散乱像を得た。また、子午線方向の長周期は9nmであった。
【0180】
このポリウレタン繊維に15dのナイロン糸を巻き付けてシングルカバードヤーンにし、実施例1と同様にして交編パンストを試作し、これを実用テストしたところ、3日間の実用で破壊された。このパンストは、実施例1、3および比較例1のパンストに比べてサイズが小さいものであり、着用時、やや履きにくいものであった。その理由は、熱軟化温度が高いためと推定される。
【0181】
【発明の効果】
本発明のポリウレタン繊維は、従来のポリウレタン繊維とは異なる特定の構造を有することにより、形態固定性が高く、力学的な耐久性はもとより、カビ等に対しても充分な耐性があり、しかも高い強度、伸度および弾性回復性を有するとともに、細くしても、これらの特性を保持する。
【0182】
本発明の製造方法によれば、上記の優れたポリウレタン繊維を安定に容易に製造することができる。
【0183】
本発明のポリウレタン繊維は、様々な用途に利用可能である。その例を以下に列挙する。ゾッキ、ストッキング、パンティーストッキング、水着、スキーズボン、レオタード、靴下、作業服、煙火服、洋服、ウールとの併用による紳士・婦人用スーツ等の衣服、ウェットスーツ、ブラジャー、ガードル、パンツ等の締め付け用紐、紙おしめ等のサニタリー品の漏れ防止用締め付け部材、ゴルフズボン、疑似餌、造花、人工皮膚、人工血管、人工心臓、電気絶縁材料、ワイピングクロス、コピークリーナー、ガスケット、安全衣服の締め付け部材、実験着の締め付け部材、防水資材の締め付け部材、包帯、ヘアキャップの締め付け部材、手袋の締め付け部材、果樹用袋の締め付け部材など。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のポリウレタン繊維が小角X線散乱測定により示す眉毛状4点散乱像の一例を表す模式図である。
【図2】 実施例1のポリウレタン繊維の小角X線写真である。
【図3】 実施例3のポリウレタン繊維の小角X線写真である。
【図4】 比較例1のポリウレタン繊維の小角X線写真である。
【符号の説明】
1:子午線
2:赤道線
32:眉毛状4点散乱像
Claims (11)
- 下式(I)で示されるポリウレタンからなる繊維であって、その小角X線散乱像において、眉毛状4点散乱像を示し、子午線方向の長周期が7〜16nm、かつ、赤道線方向の長周期が13〜30nmであることを特徴とする耐久性ポリウレタン繊維。
−(P−U−R1 −U−)n1−(R2 −U−R3 −U)n2− …(I)
(式中、Pは、ポリテトラメチレンエーテルグリコール残基およびポリテトラメチレンエーテルグリコール共重合体残基からなる群から選ばれた少なくとも1種のポリオール残基、R1 およびR3 はジフェニルメタンジイソシアネート残基、R2 は、エチレングリコール残基、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン残基、1,4−ブタンジオール残基からなる群から選ばれた少なくとも1種のジオール残基、Uはウレタン結合をそれぞれ表し、n1 は1〜10の範囲の繰り返し単位数、n2 は1〜10の範囲の繰り返し単位数である。) - ポリオール残基Pの分子量が800〜3500であり、かつ、ポリウレタンの数平均分子量が3万〜20万である請求項1に記載の耐久性ポリウレタン繊維。
- ポリオール残基Pが単一成分ではなく数平均分子量800〜2500と数平均分子量1600〜4000のものとの複数成分からなり、かつ、ポリオール残基P全体としての数平均分子量が1200〜2600である請求項1又は2に記載の耐久性ポリウレタン繊維。
- 下式(II)で表される付加比率が1.7〜3であり、かつ、ハード比率(n2 /n1 )が0.65〜3である請求項1〜3のいずれかに記載の耐久性ポリウレタン繊維。
付加比率=(ジイソシアネートに基づくNCO基の数)/(ポリオールに基づく水酸基の数) …(II)
(ただし、上記式(II)中、ポリオールに基づく水酸基の数には、鎖伸長剤のジオールに基づく水酸基の数は含まれない。) - 乾式紡糸されたものである請求項1〜4のいずれかに記載の耐久性ポリウレタン繊維。
- 軟化点が130〜250℃である請求項1〜5のいずれかに記載の耐久性ポリウレタン繊維。
- 溶媒にポリウレタンが溶解してなるポリウレタン溶液を乾式紡糸することによりポリウレタン繊維を製造する方法において、前記ポリウレタンが、下式(I′)で示される構造式を有するとともに、下式(II)で表される付加比率1.7〜3、ハード比率(n2 /n1 )0.65〜3、数平均分子量3万〜20万および軟化点130〜250℃を有するものであり、乾式紡糸する際の、ゴデローラーに対する巻取機の速度比(巻取機の速度/ゴデローラーの速度)を1.3〜1.64とすることを特徴とする耐久性ポリウレタン繊維の製造方法。
−(P−U−R1 −U−)n1−(R2 −U−R3 −U)n2− …(I′)
(式中、Pはポリオール残基、R1 およびR3 は互いに同一でも異なってもよいジイソシアネート残基、R2 はジオール残基、Uはウレタン結合をそれぞれ表し、n1 は1〜10の範囲の繰り返し単位数、n2 は1〜10の範囲の繰り返し単位数である。)
付加比率=(ジイソシアネートに基づくNCO基の数)/(ポリオールに基づく水酸基の数) …(II)
(ただし、上記式(II)中、ポリオールに基づく水酸基の数には、鎖伸長剤のジオールに基づく水酸基の数は含まれない。) - ポリウレタン溶液が、ポリオールとジイソシアネートとを付加比率が1.7〜3となるように反応させて得られたジイソシアネート付加ポリオールを溶媒に溶解した後、ジオールを添加し、鎖伸長反応させることにより得られたものである請求項7に記載の耐久性ポリウレタン繊維の製造方法。
- ポリウレタン溶液が、ポリオールとジオールとジイソシアネートとを有機溶媒中で反応させることにより得られたものである請求項7または8に記載の耐久性ポリウレタン繊維の製造方法。
- ポリウレタンの原料ジイソシアネートとしてジフェニルメタンジイソシアネートおよび/またはジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを用い、ポリウレタンの鎖伸長剤のジオールとしてエチレングリコールを用い、かつ、ポリウレタンの原料ポリオールとして分子量800〜3500の、ポリテトラメチレンエーテルグリコールおよび/またはその共重合体を用いる請求項7〜9のいずれかに記載の耐久性ポリウレタン繊維の製造方法。
- 数平均分子量が800〜2500のポリオールと1600〜4000のポリオールを混合し、全体としての数平均分子量が1200〜2600であるポリオールを、ポリウレタンの原料ポリオールとして用いることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の耐久性ポリウレタン繊維の製造方法。
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