JP3658119B2 - 複合樹脂成形体のピストンおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は複合樹脂成形体およびその製造方法に関し、とくに射出成形で一体成形された複合樹脂成形体およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、流量計、圧縮機、ダンパー機構およびポンプ等において、シリンダーとこのシリンダー内を往復運動するピストン本体との密封性を高めるために、ピストン本体よりも大径の延出部を有する弾性シール部材を設けたピストンが知られている。
このようなピストンの形状としては、シート状の弾性シール部材をドーナツ状に裁断し、これをアルミニウム等の金属製ピストン基板および挟持板からなる支持板で両側面から挟み込んだものが知られている。
しかし、このピストンは、支持板を金属で形成しているため、製造するのに機械加工が必要であり、製品の精度も不均一となり易く、製造工程が多くなるため製造コストが上昇するという問題があった。またシール部材と支持板との接合面から気体や液体が漏れ易く、さらに、金属製のピストン本体がシリンダー内壁と接触して内壁を摩耗させシール性を低下させるとの問題があった。
【0003】
このため、ピストン基板および挟持板をそれぞれ硬質樹脂で別個に形成し、シール部材をそれらで挟み込んで一体化した樹脂製ピストンが提案されている(特開昭63-298121 号)。
一方、環状板のパッキン材が露出している状態でピストン本体と一体成形して複合樹脂成形体とした後、パッキン材を表裏 2層に分割したダブルリップパッキン付樹脂製ピストンが提案されている(特開昭61-25730号)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開昭63-298121 号に開示されている樹脂製ピストンにおいても、 3種類の部品を組み合わせて一体化させるため、製造工程が多くなり製造コストが上昇するという問題があった。また、接合面からの気体や液体の漏れを完全に防止することが困難であるとの問題があった。
【0005】
一方、特開昭61-25730号に開示されている環状板のパッキン材を柔軟なシート状の弾性シール部材に代えてピストン本体と一体成形すると、金型内で射出圧により、薄い弾性シール部材が振れ変形した状態で成形されてしまい、弾性シール部材の内径部が支持部材内に埋設された状態で成形できないという問題があった。
【0006】
この問題を図3により、さらに説明する。図3は、シール部材を挟んだ支持板の前後の直径が異なる段付き樹脂製パッキン1を一体成形品として製造するための工程図である。
同心円の穴のあいた弾性シール部材となる円形シート状部材2をキャビティ4およびゲート5を有する金型6a、6bの所定の位置にセットする(図3(a))。ゲート5より、溶融樹脂を射出成形する。その際、キャビティ4内の薄いシート状部材2は、射出圧により金型6a、6b内に押しつけられる(図3(b))。金型6a、6bを開き、段付き樹脂製パッキン1が得られる。しかし、薄いシート状部材2が金型6a、6b内に押しつけられたまま成形されたため、シート状部材2の内径部が支持部材内に埋設されないで外部にはみ出した状態となる(図3(c))。この場合、支持部材となる樹脂体7とシート状部材2との密着性が十分でなく、気体、液体の漏れが生じ易いとの問題がある。また、耐久性が十分でないとの問題がある。
【0007】
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、気体や液体の漏れなどが発生せず、かつ高精度な樹脂ピストンに応用でき、柔軟なシート状部材が内部に埋設するとともに表面に延出して一体成形された複合樹脂成形体、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の複合樹脂成形体のピストンは、樹脂成形体からなるピストン本体と、このピストン本体内に埋設部を有するとともにピストン本体よりも大径の延出部を有するシート状部材とからなる複合樹脂成形体のピストンであって、シート状部材は樹脂成形体よりも柔軟な部材であり、ピストン本体との埋設部において穴または/および切り欠き部を有し、かつピストン本体と一体成形されていることを特徴とする。
【0009】
ここで、樹脂成形体よりも柔軟なシート状部材は、引張り破断伸びが 20 %以上で、引張り強度が 5 MPa以下の特性を有することを特徴とし、とくにシート状部材がフッ素系樹脂からなることを特徴とする。なお、引張り破断伸びおよび引張り強度は 20 〜 25 ℃での値である。
【0010】
また、樹脂成形体は、引張り強度が 30 MPa 以上であり、曲げ弾性率が 1000 MPa 以上の特性を有することを特徴とする。なお、引張り強度および曲げ弾性率は 20 〜 25 ℃での値である。
【0011】
本発明の複合樹脂成形体のピストンの製造方法は、シート状部材を金型内に仮セットする工程と、その後、この金型内に樹脂を射出成形する工程とにより、樹脂成形体からなるピストン本体内に埋設部を有するとともにピストン本体よりも大径の延出部を有する複合樹脂成形体のピストンの製造方法において、金型内に仮セットされるシート状部材が、樹脂成形体よりも柔軟な部材であり、かつ埋設部の端部周辺に、穴または/および切り欠き部を有していることを特徴とする。
【0012】
本発明に係るシート状部材とは、 2mm未満の厚さを有する部材が好ましい。
【0013】
本発明は、このように、樹脂成形体よりも柔軟なシート状部材を合成樹脂の支持部材によってサンドイッチ状に射出成形で一体成形したので、たとえば、ピストンに応用すると、往復運動時に柔軟なシート状部材からなるシール部材が破損したり、シール部の形状がシリンダー内壁に追従せず液漏れを起こしたりしなくなる。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明に係るシート状部材は、支持部材となる樹脂成形体よりも柔軟性を有するものである。具体的には引張り破断伸びが 20 %以上、好ましくは 50 %以上、具体的には 80 〜300 %で、引張り強度が 5 MPa以上、好ましくは 10 MPa 以上、材料により 8〜30 MPa、また、硬度がショア硬さ(デュロメータ)にて D40〜D90 、材料により D50〜D80 の特性を有するシート状部材を好適に使用することができる。このような柔軟なシート状部材は、とくに密閉性や追従性に優れたピストンのシール材として好適である。そのようなシート状部材を形成する樹脂材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−へキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素系樹脂や、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)などのポリオレフィン系樹脂、ポリアセタール(POM)、6ナイロン、11ナイロン、12ナイロン、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。また、エラストマーなどのゴム弾性体も使用できる場合がある。これらの中でも、数平均分子量が 5×105 〜 1×108 、好ましくは 1×106 〜 9×107 である樹脂が好ましい。とくにフッ素系樹脂は摺動特性がとくに優れており本発明に係るシート状部材に好適である。さらにPTFE、PFA、FEP等のパーフルオロ系樹脂は、骨格となる分子鎖を構成する炭素原子の周囲が全て、もしくは微量の酸素原子を取り込んで全てフッ素原子で取り囲まれたものであり、C−F間の強固な結合により、フッ素系樹脂のなかでも耐熱性が最も高く、また、摩擦係数、耐薬品性等の諸特性に優れており、好ましいものと言える。
シート状部材は、上述の引張り破断伸びや硬度特性を満足すれば充填剤を配合しないものであってもよいが、ガラス繊維等の強化繊維やポリイミド粉末樹脂等の充填剤を 10 〜 50 重量%配合して耐摩耗性を向上させてもよい。このような充填剤の配合により、柔軟なシート状部材の硬度は適度な硬さとなるので変形し難くなり、金型内にポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)等の溶融樹脂が射出された場合でも、サンドイッチ状に射出成形で一体成形できる。
【0015】
シート状部材をサンドイッチ状に成形する樹脂成形体は剛性体である。支持部材が剛性体でなければ、往復運動時にピストンが変形したり、共振することが確認されている。そのような不具合が発生すると、ピストンを用いている流量計、圧縮機、ダンパー機構およびポンプ等の性能を著しく低下させるので好ましくない。具体的には、引張強度が 30 MPa 以上、好ましくは 50 MPa 以上、材料により 30 〜300 MPa であり、かつ曲げ弾性率が 1000 MPa 以上、好ましくは 2000 MPa 以上、具体的には 3000 〜30000 MPa 、また硬度がロックウエル硬さ、Mスケールにて、M50 〜M130、材料により M60〜M120の剛性な樹脂成形体が好ましい。
また、本発明に係る樹脂成形体は、前述のシート状部材とともに一体として成形されるため、射出成形可能な樹脂組成物であることが好ましい。そのような樹脂材料としては、補強材を充填したポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)や、補強材を充填した66ナイロン樹脂および46ナイロン樹脂、液晶性芳香族ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂等が挙げられる。その中でもガラス繊維等の針状充填剤を 10 〜 50 重量%添加したPPSは、機械的強度、寸法精度、また成形性に優れ耐薬品性も備えているため本発明に係る樹脂成形体の樹脂材料として好適である。
これらの樹脂組成物は、たとえば 250〜400 ℃での溶融状態において、 1×102 〜 9×104 ( sec-1)の剪断速度にて、見掛けの溶融粘度が 1×102 〜 1×105 poise である樹脂組成物が射出成形性に優れており好ましい。この樹脂組成物の溶融粘度が低いことにより、柔軟なシート状部材を金型内で変形させることなくサンドイッチ状に射出成形で一体成形できる。
なお、シート状部材および支持体となる樹脂成形体は、それぞれ、上述の特性の少なくとも一種類以上の特性値を満足するものであってもよい。
【0016】
本発明の複合樹脂成形体は、樹脂成形体内に埋設部を有するとともに樹脂成形体の表面に延出部を有するシート状部材とを備えていれば、その形状は、たとえばピストンのように円形でもよく、また、角形の表面にシート状部材を有するものであってもよい。さらに、本発明の複合樹脂成形体は、いかなる方法で作製してもよいが、埋設されるシート状部材が樹脂成形体との埋設部において、穴または/および切り欠き部を有していることが好ましい。このような形状を内部に有することにより、射出成形法により一体的に成形した複合樹脂成形体が得られる。
【0017】
本発明の複合樹脂成形体の製造方法を樹脂製ピストンを例として図1および図2により説明する。
まず、樹脂製ピストンに用いられるシート状部材の形状について図1により説明する。図1は、本発明に係るシート状部材の形状の一例を示す図であり、図1(a)が平面図、図1(b)が図1(a)におけるA−A断面図である。図1に示すように、本発明に係るシート状部材2は、厚さが薄い部材であり、具体的には 2mm未満、好ましくは 0.2 mm 以上 2mm未満の範囲の厚さを有する。厚さがこの範囲にあり、かつ支持部材となる樹脂によってサンドイッチ状に射出成形で一体成形されることにより、シール部材となるシート状部材と支持部材との接合部が完全に密着することになり、流体の漏れなどが発生しない高精度な樹脂ピストンを得ることができる。
図1(a)に示すように、シート状部材2はその内径部周辺に、半円形状をした切り欠き部3を設けてある。この切り欠き部3は、穴部であってもよく、または切り欠き部と穴部とを組み合わせであってもよい。このような穴または/および切り欠き部を設けることにより、シート状部材が射出圧力により金型内壁面に押しつけられることなく樹脂成形体に埋設された状態で一体成形できる。
【0018】
図2は、段付き樹脂製ピストンの製造工程を示す図である。
図1に示すシート状部材2をキャビティ4およびゲート5を有する金型6a、6bの所定の位置にセットする(図2(a))。この際、シート状部材2の穴または切り欠き部3は、キャビティ4内に位置される。このような穴部や切り欠き部は、円形や方形、角形のいずれの形状であってもよい。円形の穴部または切り欠き部が形状を作製する上で比較的容易であり、また、円形のために応力集中を回避できるので、機械的強度が比較的維持されることも考えられ、また樹脂成形体に埋設された状態で一体成形され易いことも付随して考えられるため好ましい。
ついで、ゲート5より、上述の樹脂材料を射出成形する(図2(b))。金型6a、6bを開き、段付き樹脂製パッキン1が得られる。この樹脂製パッキン1は、シート状部材2が完全に樹脂成形体7の中に埋設しているとともに、表面に延出るしている状態で一体成形品として得られる(図2(c))。これは、シート状部材2の内径部周辺に、穴または/および切り欠き部3を設けると、射出された溶融樹脂は穴または/および切り欠き部3を通じキヤビティ4内をスムーズに充填されるため、シート状部材2が振れることはないためと考えられる。また、一体成形されるので、シート状部材2と樹脂成形体7との接合部は完全に密着しており、流体の漏れ性に極めて優れる。
【0019】
このため、本発明は、このような樹脂製ピストンと同じ構造を有する複合樹脂成形体に応用できるものであって、空圧機器、油圧機器、水圧機器等の流体用シール機器等に用いることができ、たとえば、ピストン式流量計のピストン、プランジャーポンプのプランジャー、ショクアブソーバーのピストン等に応用できる。
【0020】
【実施例】
実施例
0.5mm 厚のフッ素系樹脂シート(NTN精密樹脂社製商品名;ベアリーFL3000(特殊充填剤数〜数 10 重量%配合)、引張破断伸び 200%、引張り強度 15 MPa 、硬さ(デュロメータ) D66)を図1に示す形状(外径 60mm 、内径 40mm 、 PCDφ42mmの位置に直径 4mmの切り欠き部を 24 個有する)に加工し、これを射出成形金型のキヤビティ内の所定位置にセットした。
支持部用のPPS樹脂(東ソー・サスティール社製商品名;GS30(ガラス繊維 30 重量%配合)、引っ張り強度 155MPa 、曲げ弾性率 11GPa、溶融樹脂温度 300〜 350℃での樹脂溶融粘度 2×103 〜 5×103 poise (樹脂剪断速度 1×102 〜 5×103 ( sec-1))を射出成形機の材料投入口に投下し、金型温度 130℃、射出圧力 1000 kgf/cm2 の条件で成形して図2(c)に示す形状の樹脂製ピストン(厚さ約 10 mm)を得た。
得られた樹脂製ピストンは、シール部材であるシート状部材2に対して支持部材である樹脂成形体7とが非常に良く密着しており、気体や液体の全く漏れない樹脂製ピストンであった。
また、ピストンの断面を切断して観察したところ、図2(c)に示すように、シート状部材2は、支持部材内で平行に支持されており樹脂成形体7に完全に埋設されていた。
【0021】
比較例
実施例において、フッ素系樹脂シートに切り欠き部を設けない以外は、実施例と同一の条件方法で樹脂製ピストンを形成した。得られたピストンは、図3(c)に示すように、シール部材が支持部材の外部にはみ出しており、支持部材との密着性が充分に確保されていなかった。
【0022】
【発明の効果】
本発明の複合樹脂成形体は、樹脂成形体とシート状部材とが、一体成形されているので、相互に極めて優れた密着性を有する。その結果、流体の密閉性に優れた樹脂製ピストンが得られる。
【0023】
本発明の複合樹脂成形体の製造方法は、切り欠き部などを有するシート状部材を用いて一体的に射出成形で製造されるため、製造が容易で高精度な樹脂製ピストンになる。また、シート状部材にフッ素系樹脂を採用すると摺動抵抗の低い樹脂製ピストンになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】シート状部材の形状の一例を示す図である。
【図2】段付き樹脂製ピストンの製造工程を示す図である。
【図3】段付き樹脂製ピストンの従来の製造工程を示す図である。
【符号の説明】
1 段付き樹脂製パッキン
2 シート状部材
3 切り欠き部
4 キャビティ
5 ゲート
6 金型
7 樹脂成形体
Claims (5)
- 樹脂成形体からなるピストン本体と、このピストン本体内に埋設部を有するとともに前記ピストン本体よりも大径の延出部を有するシート状部材とからなる複合樹脂成形体のピストンであって、前記シート状部材は前記樹脂成形体よりも柔軟な部材であり、前記ピストン本体との埋設部において穴または/および切り欠き部を有し、かつ前記ピストン本体と一体成形されていることを特徴とする複合樹脂成形体のピストン。
- 前記シート状部材は、引張り破断伸びが 20 %以上で、引張り強度が 5 MPa以上の特性を有することを特徴とする請求項1記載の複合樹脂成形体のピストン。
- 前記シート状部材がフッ素系樹脂からなることを特徴とする請求項2記載の複合樹脂成形体のピストン。
- 前記樹脂成形体は、引張り強度が 30 MPa 以上であり、曲げ弾性率が 1000 MPa 以上の特性を有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の複合樹脂成形体のピストン。
- シート状部材を金型内に仮セットする工程と、その後、この金型内に樹脂を射出成形する工程とにより、樹脂成形体からなるピストン本体内に埋設部を有するとともに前記ピストン本体よりも大径の延出部を有する複合樹脂成形体のピストンの製造方法において、前記金型内に仮セットされるシート状部材が、前記樹脂成形体よりも柔軟な部材であり、かつ前記埋設部の端部周辺に、穴または/および切り欠き部を有していることを特徴とする複合樹脂成形体のピストンの製造方法。
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JP34046596A JP3658119B2 (ja) | 1996-12-04 | 1996-12-04 | 複合樹脂成形体のピストンおよびその製造方法 |
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- 1996-12-04 JP JP34046596A patent/JP3658119B2/ja not_active Expired - Fee Related
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