JP3658009B2 - 環状ホルマールの精製方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、溶剤、医薬品中間体、樹脂原料等として有用な環状ホルマールの精製方法に関する。更に詳しくは、共沸組成をつくるために水との分離が困難な環状ホルマールから水を効率的に除去し、水分含量の極めて少ない高純度の環状ホルマールを得るための経済的にも有利な精製方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
環状ホルマール、例えば1,3−ジオキソラン、1,4−ブタンジオールホルマール、ジエチレングリコールホルマール、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,3,6−トリオキソラン等は対応するグリコールとアルデヒドとの環化反応、対応するアルキレンオキシドとアルデヒドとの環化反応により得られることが知られている。例えば、代表的な環状ホルマールである1,3−ジオキソランの製法として、西ドイツ特許1914209号明細書には、酸触媒存在下でグリコールとホルムアルデヒドを反応させる1,3−ジオキソランの製法が、また、Ind.Eng.Chem.,46,787(1954)および特開昭49−62469号公報には、酸触媒の存在下でグリコールとパラホルムアルデヒドを反応させる1,3−ジオキソランの製法が開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このようにグリコールとアルデヒドとを原料とする環状ホルマールの製法では、生成した環状ホルマールと副産物である水またはアルデヒド水溶液の形で持ち込まれる水とが共沸する場合が多く、通常の蒸留だけでは水を分離除去することが困難である。
【0004】
例えば、1,3−ジオキソランを例にとると、上記西ドイツ特許1914209号明細書では、得られた1,3−ジオキソランは7%もの水を含むことが示されている。また、1,3−ジオキソランと水を含む混合物から水を除去し高純度の1,3−ジオキソランを得る方法として、上記Ind.Eng.Chem.,46,787(1954)には、1,3−ジオキソランと水とを含む反応蒸留液に食塩を添加して2相に分離後、有機相を精留する方法が、また、上記特開昭49−62469号公報には、反応蒸留液にシクロヘキサンを添加して精製する方法が開示されているが、前者の方法は工業的な精製手段としては不適当であり、後者の方法では水の分離が不十分で高純度の1,3−ジオキソランを得るのが難しいという問題があった。
このような現象は1,3−ジオキソランに限らず、水と共沸組成を成形する環状ホルマールに共通した問題であった。従って、環状ホルマールと水を含む混合物から水を効率的に分離除去し、高純度の環状ホルマールを得るための経済的な精製方法の確立が熱望されている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は前記課題を解決するにあたり、抽出蒸留による第一精製工程と蒸留等による第二精製工程を組み合わせることに着目し、効率よく高純度の環状ホルマールを得るための条件について鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明の第1は、下記第一精製工程(1)および第二精製工程(2):
(1)環状ホルマールの濃度が80重量%から共沸組成までの範囲となるように予め濃縮した環状ホルマールと水を含む混合物を蒸留塔に供給すると共に、前記蒸留塔における前記混合物の供給位置よりも上方に、1,4−ブタンジオール又はジエチレングリコールのいずれかである親水性溶剤(A)を前記混合物中の水の量に対しモル比1〜15倍量供給して蒸留し、水分含量が100ppm〜5000ppmの範囲にある環状ホルマール(X)を留出液として取り出す第一精製工程、
(2)前記第一精製工程で得られた環状ホルマール(X)をさらに蒸留することにより、水分および低沸点不純物を塔頂から除去し、前記環状ホルマール(X)よりも水分含量を減少させて水分含量100ppm以下の精製環状ホルマール(Y)を塔底缶出液として得る第二精製工程
を用いることを特徴とする環状ホルマールの精製方法である。
本発明の第2は、親水性溶剤(A)が1,4−ブタンジオールである本発明の第1記載の環状ホルマールの精製方法である。
本発明の第3は、親水性溶剤(A)がジエチレングリコールである本発明の第1記載の環状ホルマールの精製方法である。
本発明の第4は、精製環状ホルマール(Y)の水分含量が50ppm以下である本発明の第1〜3のいずれかに記載の環状ホルマールの精製方法である。
本発明の第5は、環状ホルマールと水を含む混合物が、環状ホルマールの濃度が90重量%から共沸組成までの範囲となるように予め濃縮した混合物である本発明の第1〜4のいずれかに記載の環状ホルマールの精製方法である。
本発明の第6は、環状ホルマールと水を含む混合物中の水の量に対し、モル比で1〜15倍の親水性溶剤(A)を供給する本発明の第1〜5のいずれかに記載の環状ホルマールの精製方法である。
本発明の第7は、環状ホルマールが1,3−ジオキソランである本発明の第1〜6のいずれかに記載の環状ホルマールの精製方法である。
【0007】
本発明に適用される環状ホルマールとしては、1,3−ジオキソラン、1,4−ブタンジオールホルマール、ジエチレングリコールホルマール、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン等が例示され、中でも1,3−ジオキソランに適用することが好ましい。
【0008】
以下、本発明を図1に基づいて説明する。図1において1は第一精製工程に使用する蒸留塔、2は任意に用いられるコンデンサー、3はリボイラー、4は環状ホルマールと水とを含む混合物の供給部、5は親水性溶剤(A)の供給部、6は塔頂留出液、7は塔底缶出液を示す。前述したごとく、環状ホルマールと水とは共沸混合物を形成するため、通常の蒸留操作では共沸組成以上に環状ホルマールを精製することは不可能である。しかし本発明においては、親水性溶剤(A)を蒸留塔1内に供給することにより、通常の蒸留の場合に形成される環状ホルマールと水との共沸組成が崩れ、水および不純物等が除去されて水分含量が100ppm〜5000ppm以下の範囲という高度に精製された環状ホルマールを塔頂から留出させる。一方、原料混合物中の水は環状ホルマールの一部、親水性溶剤(A)、更に前記混合物にホルムアルデヒドや反応副生成物などの不純物を含む場合にはこれらと共に、塔底から缶出液7として取り出される。
【0009】
かかる目的で供給する親水性溶剤(A)としては、常温で水と任意の割合で混合できるものが好ましく、常圧における沸点が180〜250℃、好ましくは190〜250℃の範囲にあるものであり、多価アルコール、その2量体、それらのモノアルキルエーテルが例示される。前記モノアルキルエーテルを構成するアルキル基としては、炭素数1〜4のものが好ましく、中でもメチル基、エチル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。親水性溶剤(A)の具体例としては、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール又はこれらのモノメチルエーテル等を挙げることができる。これらの親水性溶剤(A)は各単独で、または任意の2種類以上を混合して使用することもできる。これらの親水性溶剤(A)の中では、特に1,4−ブタンジオール又はジエチレングリコールが好ましい。
【0010】
また、供給する親水性溶剤(A)の供給量は特に限定されないが、環状ホルマールと水を含む混合物中の水の量に対し、モル比で1〜15倍の範囲、特に好ましくは1.5〜10倍の範囲である。
【0011】
前記したように公知の製法で環状ホルマールを製造すると、それには多量の水が含まれることとなる。環状ホルマールとして1,3−ジオキソランの場合を例にとると、50重量%のホルムアルデヒドを含む水溶液と、ホルムアルデヒドと等モルのエチレングリコールの反応により、理論的には1,3−ジオキソラン60.7重量%と水39.3重量%の混合物が得られる。
【0012】
このような多量に水を含む環状ホルマールを抽出蒸留により前記のように高度に精製したい場合には、多量の親水性溶剤(A)を要することにつながる。多量の親水性溶剤(A)を使用するには蒸留塔の塔径を大きくしなければならず、また塔も高くする必要があり、設備費の増大、ひいては精製コストの上昇を招く。さらに塔底缶出液から親水性溶剤(A)を回収して再利用する場合、親水性溶剤(A)から多量の水を除かなければならず、多量のエネルギーが必要となる。このため、本発明においては、前記混合物として前もって通常の蒸留操作等によって水を適度に除去し、環状ホルマールの濃度を80重量%以上〜共沸組成となるまで濃縮したものを用いることを必要な条件とし、更に好ましくは90重量%〜共沸組成となるまで濃縮したものを用いることが好ましい。
【0013】
本発明の環状ホルマールの精製方法において、蒸留塔1への親水性溶剤(A)の供給位置は環状ホルマールと水とを含む混合物の供給位置よりも上方であればよい。また両者の間隔はできるだけ長い方が好ましい。しかし、親水性溶剤(A)が留出液6に混入することを防ぐため、蒸留塔1が後記の棚段塔である場合には、最上段より数えて2段目以下に供給することが好ましく、さらに好ましくは数段〜約10段下方である。これにより留出液6中に親水性溶剤(A)の混入を防止することができる。留出液6の環状ホルマールの水分含量は前記親水性溶剤(A)の供給位置および供給量を調整することにより、前記100〜5000ppmの低いレベルに抑えることができる。同様に蒸留塔が充填塔である場合にも充填部のトップより数えた理論段数として0.5段目以下であることが好ましく、更に好ましい供給位置としては数段下方である。なお、前記混合物の供給位置は、前記要件を満たせば、蒸留塔1の棚段部または充填部のみならず、塔底部でも構わない。さらに必要に応じて、塔頂留出液6を還流させてもよい。
【0014】
本発明において、環状ホルマールの精製に使用する蒸留塔1については、特に限定されない。棚段塔である場合は、例えば、バブルキャップトレイ、ユニフラックストレイ、バルブトレイ、ナッターバルブトレイ、バラストトレイ、シーブトレイ、ベンチュリートレイ、キッテルトレイ、ターボグリッドトレイ、リップルトレイ等あらゆる形式を採用することが可能である。
【0015】
また、蒸留塔は充填塔でもよい。充填物に関しても、ラシヒリング、レッシングリング、分割リング、ポールリング等のリング型、バールサドル、インタロックサドル等のサドル型、グッドロイパッキング、ステッドマンパッキング、デイクソンリング、マクマホンパッキング、ヘリクスパッキング、テラレット、クロススパイラルパッキング等、あらゆる形式を採用することが可能である。
【0016】
本発明の精製方法においては、第一精製工程により環状ホルマール(X)中の水分含量を100〜5000ppmの範囲に調整することが必要である。好ましくは水分含量を100〜2000ppmの範囲に調整しておくことである。水分含量をこの範囲とすることにより、第二精製工程で環状ホルマールに含まれる水分含量を蒸留操作により容易に、好ましい範囲である100ppm以下にすることができ、しかも第一精製工程における親水性溶剤(A)の使用量をいたずらに増したり、蒸留塔をいたずらに高くする必要もなくなる。第一精製工程で得られた環状ホルマール(X)は、さらに続いて第二精製工程により蒸留されて環状ホルマール(X)よりも水分含量が減少し、好ましくは水分含量が100ppm以下の極めて高純度の精製環状ホルマール(Y)に精製される。図1において、第二精製工程が蒸留塔11による蒸留の場合を示している。蒸留塔11には第一精製工程で水分含量が調製された環状ホルマール(X)が液状または蒸気として図中14に供給される。蒸留塔11は蒸留塔1と同様の棚段塔でも充填塔でもよい。図中12はコンデンサー、13はリボイラーである。蒸留塔11では、図中14に供給される環状ホルマール(X)中の大部分の水分は、環状ホルマールと共に、また、環状ホルマール(X)が低沸点の不純物を含む場合は、これらの不純物も含んで比較的少量の塔頂留出液16として取り出される。一方、水分含量が100ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下に減少し、高度に精製された環状ホルマール(Y)は比較的多量の塔底缶出液15として得られる。塔底からの缶出液15の水分含量を100ppm以下とするには、環状ホルマール(X)の供給位置、塔段数、還流比などを調整すれば、容易に達成される。水は環状ホルマールと分離しにくい物質であるため、一般にはかなり大きな還流比を要する。
【0017】
第一精製工程(1)と第二精製工程(2)を組み合わせる本発明の精製方法は、1,3−ジオキソランの精製法として特に有効である。
【0018】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
(実施例1〜2、参考例1)
図2に示す構成で蒸留塔1−1が棚段塔(塔径50mm、段数45段のシーブトレイタイプ)である蒸留装置を使用し、蒸留塔のボトム(塔底部)に1,3−ジオキソラン91.0重量%、水8.5重量%および不純物(主としてメタノール)0.5重量%を含む混合物を表−1に示す流量で供給し、また塔頂に表−1に示す親水性溶剤(A)を表−1に示す流量で供給しながら蒸留した。蒸留が安定状態になった時の塔頂からの留出液6と流量と塔底からの缶出液7の流量を表−1に示す。またその時の留出液と缶出液の組成は表−2に示す通りであった。
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
【0022】
次に上記実施例1の前段(第一精製工程)の蒸留塔1−1の塔頂留出液を別の蒸留塔(塔径50mm、45段、シーブトレイ)のボトム(塔底部)から30段目に350g/hrで供給し、還流比10で蒸留した(第二精製工程)。塔頂からの留出液量20g/hr、塔底からの缶出液量330g/hrで運転が安定したときの各液の組成は下記の通りであり、塔底缶出液として水および低沸点の不純物の殆ど含まれていない極めて高純度の1,3−ジオキソランが得られた。尚、実施例2および参考例1の塔頂留出液の組成は、実施例1とほぼ同じものであり、同様の結果が得られることは容易に予想される。
塔頂留出液:1,3−ジオキソラン(87.3重量%)、水(1.2重量%)、低沸点の不純物(11.5重量%)
塔底缶出液:1,3−ジオキソラン(99.9重量%以上)、水(45ppm)低沸点の不純物(検出されず)
【0023】
(比較例1〜3)
蒸留塔1−1による蒸留のみで、別の蒸留塔による精製を行わなかった場合、上記実施例、参考例の中(表−2)で示したように、塔頂留出液の1,3−ジオキソランは各々720、685、840ppmの水分および各0.7重量%の低沸点の不純物を含むものとなり、重合用原料等のように極めて厳格な純度の要求される用途に対しては、到底適用できない品質のものであった。
【0024】
【発明の効果】
本発明の精製方法によれば、水と共沸するため従来技術では精製が困難とされていた水を含む環状ホルマールを、経済的に安定して高度に精製することが可能であり、工業的価値の極めて高いものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の環状ホルマール精製方法の一例を示す模式図である。
【図2】 本発明の実施例に用いた蒸留装置を示す模式図である。
【符号の説明】
1,1−1,11 蒸留塔
2,12 コンデンサー
3,13 リボイラー
4 環状ホルマールと水とを含む混合物(供給部)
5 親水性溶剤(A)(供給部)
6 塔頂留出液
7 塔底缶出液
14 環状ホルマール(X)の供給部
15 精製された環状ホルマール(缶出液)
16 塔頂留出液
Claims (7)
- 下記第一精製工程(1)および第二精製工程(2)を用いることを特徴とする環状ホルマールの精製方法、
(1)環状ホルマールの濃度が80重量%から共沸組成までの範囲となるように予め濃縮した環状ホルマールと水を含む混合物を蒸留塔に供給すると共に、前記蒸留塔における前記混合物の供給位置よりも上方に、1,4−ブタンジオール又はジエチレングリコールのいずれかである親水性溶剤(A)を前記混合物中の水の量に対しモル比1〜15倍量供給して蒸留し、水分含量が100ppm〜5000ppmの範囲にある環状ホルマール(X)を留出液として取り出す第一精製工程、
(2)前記第一精製工程で得られた環状ホルマール(X)をさらに蒸留することにより、水分および低沸点不純物を塔頂から除去し、前記環状ホルマール(X)よりも水分含量を減少させて水分含量100ppm以下の精製環状ホルマール(Y)を塔底缶出液として得る第二精製工程。 - 親水性溶剤(A)が1,4−ブタンジオールである請求項1記載の環状ホルマールの精製方法。
- 親水性溶剤(A)がジエチレングリコールである請求項1記載の環状ホルマールの精製方法。
- 精製環状ホルマール(Y)の水分含量が50ppm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の環状ホルマールの精製方法。
- 環状ホルマールと水を含む混合物が、環状ホルマールの濃度が90重量%から共沸組成までの範囲となるように予め濃縮した混合物である請求項1〜4のいずれかに記載の環状ホルマールの精製方法。
- 環状ホルマールと水を含む混合物中の水の量に対し、モル比で1〜15倍の親水性溶剤(A)を供給する請求項1〜5のいずれかに記載の環状ホルマールの精製方法。
- 環状ホルマールが1,3−ジオキソランである請求項1〜6のいずれかに記載の環状ホルマールの精製方法。
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