JP3657468B2 - 穴明き製品の成形方法および装置 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジン用コンロッド等の穴明き製品を冷間鍛造で成形する穴明き製品の成形方法および装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
この種の成形方法として、本願出願人は、先に特願平9−308497号により、可動側ダイと、固定側ダイと、両ダイに夫々製品の穴を明ける部分を挟んで対向するよう出没自在に挿設したパンチとを備える鍛造用複動金型を用い、素材を鍛圧しつつ可動側ダイを固定側ダイに対し型締めして、素材を製品形状に荒成形する第1鍛造工程と、各パンチを両ダイ間の成形空間に製品の穴を明ける部分を鍛圧しつつ突出させて、成形空間内の欠肉部を埋める第2鍛造工程と、可動側ダイと固定側ダイとの一方のダイに挿設したパンチを他方のダイに挿設したパンチを成形空間から押し出しつつ他方のダイに達するように突出させて、穴を明ける部分に残された余肉を打ち抜く穴明け工程とを1回のプレスサイクルで行うようにしたものを提案している。
【0003】
そして、このものでは、穴明け工程において、前記他方のダイに挿設したパンチを成形空間側に押圧する油室を大気開放し、該パンチが成形空間から押し出されるようにしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記先願の方法では、製品の穴部周壁面の余肉打ち抜き方向の端部寄りの部分に、図6に示す如くクラックaが発生することがあり、製品の品質を確保する上で問題になっている。
【0005】
クラックの発生原因を調べるため、余肉が完全に打ち抜かれる前に余肉と製品部分との間に発生する引張り応力の分布を、外径(直径)31mm、内径(直径)22mm、厚さ20mmの冷間鍛造用鋼から成る穴明き製品についてコンピュータ解析したところ、穴明け工程で成形空間から押し出されるパンチに押し出しに抵抗する方向の負荷を作用させない先願の方法では、図5(A)に示す分布になり、このパンチに押し出しに抵抗する方向の90kgf/mm2の負荷を作用させた場合は、図5(B)に示す分布になることが判明した。
【0006】
図5(A)(B)から明らかなように、パンチを無負荷にした場合は、製品部分にかなり高い引張り応力が発生するのに対し、パンチに負荷を作用させた場合は、製品部分に発生する引張り応力が低くなる。そして、引張り応力が低くなると、クラックが発生しにくくなることも確認された。このことから、クラックは、余肉の打ち抜き時に製品部分に発生する引張り応力の影響で発生することが判明した。
【0007】
本発明は、以上の知見に基づき、クラックを生ずることなく穴明き製品を鍛造成形し得るようにした方法および装置を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、穴明き製品を冷間鍛造で成形する方法であって、可動側ダイと、固定側ダイと、両ダイに夫々製品の穴を明ける部分を挟んで対向するよう出没自在に挿設したパンチとを備え、前記固定側ダイは、固定側ダイホルダに若干のストロークで摺動し得るよう装着した固定側ダイプレート上に取付けられ、前記固定側ダイホルダには、前記固定側ダイプレートの下側に位置して、固定側パンチホルダが摺動自在に内挿されており、前記固定側パンチホルダ上に前記製品の穴を明ける固定側パンチを立設し、前記固定側ダイプレートの下側に第1の油室を、また前記固定側パンチホルダの下側に第2の油室を備えた鍛造用複動金型を用い、前記第1および第2の油室に油圧を供給し、前記固定側ダイと素材とを共に前進位置に移動させ、鍛圧しつつ前記可動側ダイを前記固定側ダイに対し型締めして、素材を製品状に荒成形する第1鍛造工程と、前記第1の油室から排油し、前記固定側ダイを前記可動側ダイからの押圧力で押し下げて、前記固定側パンチを前記固定側ダイに対し相対的に前進させると共に、可動パンチホルダを介して可動側ダイを押し下げることにより、前記各パンチを前記両ダイ間の成形空間に製品の穴を明ける部分を鍛圧しつつ突出させて、成形空間内の欠肉部を埋める第2鍛造工程と、前記可動パンチの押し下げを維持したまま、前記第2の油室から排油し前記可動側ダイと前記固定側ダイとの一方のダイに挿設したパンチを他方のダイに挿設したパンチを成形空間から押し出しつつ他方のダイに達するように突出させて、穴を明ける部分に残された余肉を打ち抜く穴明け工程とを1回のプレスサイクルで行なうようにしたものにおいて、前記穴明け工程を、前記他方のダイに挿設したパンチに前記成形空間からの押し出しに抵抗する方向の負荷を、前記第1鍛造工程と前記第2鍛造工程で付与した状態で行うようにしている。また、請求項2に記載の発明は、穴明き製品を冷間鍛造で成形する成形装置であって、固定側ダイホルダに若干のストロークで摺動し得るよう装着した固定側ダイプレート上に取付けられた固定側ダイと、固定側ダイプレートの下側に位置して、前記固定側ダイホルダに摺動自在に内挿されている固定側パンチホルダと、前記固定側ダイプレートの下側に備えた第1の油室と、前記固定側パンチホルダの下側に備えた第2の油室と、前記第2の油室に接続し、油圧源からの油圧を前記第2の油室に供給する供給位置と、前記第2の油室を閉塞する閉塞位置と、前記第2の油室の油を排油路に排出する排油位置とに切り替え自在な切替弁と、可動側ダイと前記固定側ダイにそれぞれ製品の穴を明ける部分を挟んで対向する出没自在に挿設したパンチとを備えている。
【0009】
穴明け工程において、成形空間から押し出されるパンチ(他方のダイに挿設したパンチ)に本発明の如く押し出しに抵抗する方向の負荷を、第1鍛造工程と第2鍛造工程で付与した状態で行うことにより、製品部分に発生する引張り応力が低くなる。そして、上記負荷を或る程度以上にすることでクラックの発生が防止される。
【0010】
【発明の実施の形態】
図1(A)は、クランクピンに対する連結部となる大端部Waとピストンピンに対する連結部となる小端部Wbと大小両端部Wa,Wb間の棹部Wcとを有するエンジン用のコンロッドWを示しており、大端部Waと小端部Wbとには夫々クランクピン用とピストンピン用の穴Wd,Weが明けられている。このコンロッドWは、冷間鍛造用鋼から成る図1(B)に示すプリフォームW′を素材とし、図2に示す鍛造用複動金型により冷間鍛造で成形される。
【0011】
プリフォームW′は、棹部Wcに相当する軸部W′cと、大端部Waに相当する軸部W′cの一端の大端用塊部W′aと、小端部Wbに相当する軸部W′cの他端の小端用塊部W′bとを有しており、これら大端用塊部W′aと小端用塊部W′bと軸部W′cとの体積比は大端部Waと小端部Wbと棹部Wcとの体積比と略同等に設定されている。
【0012】
鍛造用複動金型は、可動側ダイたる上ダイ1と、固定側ダイたる下ダイ2と、両ダイ1,2に、夫々、コンロッドWの大端部Waの穴Wdを明ける部分を挟んで対向するよう出没自在に挿設した大端用の上下1対のパンチ31,32と、両ダイ1,2に、夫々、コンロッドWの小端部Wbの穴Weを明ける部分を挟んで対向するように出没自在に挿設した小端用の上下1対のパンチ41,42とを備えている。
【0013】
下ダイ2は、下ダイホルダ5に若干のストロークで上下動し得るように装着した下ダイプレート6上に取付けられている。また、下ダイホルダ5には、下ダイプレート6の下側に位置して、下パンチホルダ7が 上下動自在に内挿されており、該ホルダ7上に大端用と小端用の下パンチ32,42を立設している。
【0014】
また、下ダイホルダ5には、複数のタイロッド8が立設されており、これら各タイロッド8の上端に取付けたピストン9aを挿入するタイロッドシリンダ9を形成した上ダイホルダ10を設け、上ダイホルダ10に上下動自在に装着した上ダイプレート11の下面に上ダイ1を取付けている。また、上ダイホルダ10の上部にはラムピストン12が挿設されており、ラムピストン12と上ダイプレート11との間に上パンチホルダ13を設けて、該ホルダ13に大端用と小端用の上パンチ31,41を垂設している。
【0015】
コンロッドWの成形に際しては、先ず、下ダイプレート6の下側の油室6aと下パンチホルダ7の下側の油室7aとに油圧を供給して、下ダイ2と大端用と小端用の下パンチ32,42とを共に上昇端位置に上動させ、この状態で下ダイ2にプリフォームW′をセットする。次に、タイロッドシリンダ9に油圧を供給して上ダイホルダ10を下降端位置に下降させ、続いて上ダイプレート11の上側の油室11aに油圧を供給して上ダイ1を下降させる。これによれば、上ダイ1がプリフォームW′を鍛圧しつつ図3(A)に示す如く下ダイ2に対し型締めされ、プリフォームW′がコンロッドWの形状に荒成形される(第1鍛造工程)。
【0016】
この段階でコンロッドWの棹部Wcは精度良く成形されるが、加工率の大きな大端部Waや小端部Wbには欠肉部が残り易い。そこで、型締め後、下ダイプレート6の下側の油室6aから排油し、下ダイ2を上ダイ1からの押圧力で押し下げて、大端用と小端用の下パンチ32,42を下ダイ2に対し相対的に上動させると共に、ラムピストン12により上パンチホルダ13を介して大端用と小端用の上パンチ31,41を押し下げる。これによれば、図3(B)に示す如く、上ダイ1と下ダイ2との間の成形空間に大端用の上下のパンチ31,32と小端用の上下のパンチ41,42とが大端部Waと小端部Wbの穴Wd,Weを明ける部分を鍛圧しつつ突出し、この鍛圧により欠肉部に肉が流れて欠肉部が埋められ、大端部Waや小端部Wbも精度良く成形される(第2鍛造工程)。
【0017】
次に、ラムピストン12による大端用と小端用の上パンチ31,41の押し下げを継続したまま、下パンチホルダ7の下側の油室7aから排油する。これによれば、図3(C)に示す如く、大端用と小端用の上パンチ31,41が大端用と小端用の下パンチ32,42を成形空間から押し出しつつ下ダイ1に対するように突出され、大端部Waと小端部Wbの穴Wd,Weを明ける部分に残された余肉Wfが打ち抜かれて、穴Wd,Weが明けられる(穴明け工程)。
【0018】
下パンチホルダ7の下側の油室7aには、油圧源14からの油圧を油室7aに供給する給油位置と、油室7aを閉塞する閉塞位置と、油室7aの油を排油路15に排出する排油位置とに切換自在な切換弁16が接続されている。そして、第1鍛造工程と第2鍛造工程とでは切換弁16を閉塞位置に切換えて、大端用と小端用の小パンチ32,42を上昇端位置に保持し、穴明け工程で切換弁16を排油位置に切換える。
【0019】
排油路15にはリリーフ弁17が介設されている。図4は下パンチホルダ7の下側の油室7aの油圧Pの穴明け工程における変化を示している。油室7aの油圧Pは、切換弁16の排油位置への切換えで一旦急降下するが、リリーフ弁17の設定リリーフ圧に低下したところでそれ以上の降圧が抑制され、上パンチ31,41が下降端位置に達して下パンチ32,42に上パンチ31,41 からの押圧力が作用しなくなったところで大気圧に降圧される。
【0020】
排油路15にリリーフ弁17を介設しないと、油室7aの油圧は大気圧まで急降下し、この場合には、特に、小端部Wcの穴Weの周壁面の下ダイ2寄りの部分に図6に示す如きクラックaが発生し易くなる。この原因は、[発明が解決しようとする課題]の項で説明したように、余肉Wfの打ち抜き時に図5(A)に示す如く製品部分に高い引張り応力が発生するためである。
【0021】
これに対し、本実施形態のようにリリーフ弁17を設けて油室7aの油圧Pの降圧を抑制すると、この油圧により下パンチ32,42の押し下げに抵抗する方向の負荷が付与され、余肉Wfの打ち抜き時に製品部分に発生する引張り応力が図5(B)に示す如く減少する。そして、小端部Wbの外径(直径)が31mm、内径(直径)が22mm、厚さが20mmの冷間鍛造用鋼から成るコンロッドWについて実験したところ、リリーフ弁17の設定リリーフ圧を31kgf/mm2以上に設定すれば、クラックaが発生しなくなることが確認された。
【0022】
以上、コンロッドWの成形に本発明を適用した実施形態について説明したが、コンロッド以外の穴明き製品の成形にも同様に本発明を適用できる。
【0023】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、製品の穴部周壁面にクラックが発生することを防止して、高品質の穴明き製品を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (A)コンロッドの斜視図、(B)プリフォームの斜視図
【図2】 本発明方法の実施に用いる鍛造用複動金型の断面図
【図3】 (A)前記金型の第1鍛造工程完了時の状態を示す要部の断面図、(B)前記金型の第2鍛造工程完了時の状態を示す要部の断面図、(C)前記金型の穴明け工程完了時の状態を示す要部の断面図、
【図4】 下パンチホルダの下側の油室の油圧の穴明け工程における変化を示すグラフ
【図5】 (A)下パンチを無負荷にしたときの引張り応力の分布を示す図、(B)下パンチに負荷を作用させたときの引張り応力の分布を示す図
【図6】 製品の穴部周壁面に生じたクラックを示す図
【符号の説明】
W コンロッド(穴明き製品) Wd,We 穴
W′ プリフォーム(素材) 1 上ダイ(可動側ダイ)
2 下ダイ(固定側ダイ) 31,32 大端用パンチ
1,42 小端用パンチ 17 リリーフ弁

Claims (2)

  1. 穴明き製品を冷間鍛造で成形する方法であって、
    可動側ダイと、固定側ダイと、両ダイに夫々製品の穴を明ける部分を挟んで対向するよう出没自在に挿設したパンチとを備え、前記固定側ダイは、固定側ダイホルダに若干のストロークで摺動し得るよう装着した固定側ダイプレート上に取付けられ、前記固定側ダイホルダには、前記固定側ダイプレートの下側に位置して、固定側パンチホルダが摺動自在に内挿されており、前記固定側パンチホルダ上に前記製品の穴を明ける固定側パンチを立設し、前記固定側ダイプレートの下側に第1の油室を、また前記固定側パンチホルダの下側に第2の油室を備えた鍛造用複動金型を用い、
    前記第1および第2の油室に油圧を供給し、前記固定側ダイと素材とを共に前進位置に移動させ、鍛圧しつつ前記可動側ダイを前記固定側ダイに対し型締めして、素材を製品状に荒成形する第1鍛造工程と、
    前記第1の油室から排油し、前記固定側ダイを前記可動側ダイからの押圧力で押し下げて、前記固定側パンチを前記固定側ダイに対し相対的に前進させると共に、可動パンチホルダを介して前記可動側ダイを押し下げることにより、前記各パンチを前記両ダイ間の成形空間に製品の穴を明ける部分を鍛圧しつつ突出させて、成形空間内の欠肉部を埋める第2鍛造工程と、
    前記可動パンチの押し下げを維持したまま、前記第2の油室から排油し前記可動側ダイと前記固定側ダイとの一方のダイに挿設したパンチを他方のダイに挿設したパンチを成形空間から押し出しつつ他方のダイに達するように突出させて、穴を明ける部分に残された余肉を打ち抜く穴明け工程とを1回のプレスサイクルで行なうようにしたものにおいて、
    前記穴明け工程を、前記他方のダイに挿設したパンチに前記成形空間からの押し出しに抵抗する方向の負荷を、前記第1鍛造工程と前記第2鍛造工程で付与した状態で行う、
    ことを特徴とする穴明き製品の成形方法。
  2. 穴明き製品を冷間鍛造で成形する成形装置であって、
    固定側ダイホルダに若干のストロークで摺動し得るよう装着した固定側ダイプレート上に取付けられた固定側ダイと、
    前記固定側ダイプレートの下側に位置して、前記固定側ダイホルダに摺動自在に内挿されている固定側パンチホルダと、
    前記固定側ダイプレートの下側に備えた第1の油室と、
    前記固定側パンチホルダの下側に備えた第2の油室と、
    前記第2の油室に接続し、油圧源からの油圧を前記第2の油室に供給する供給位置と、前記第2の油室を閉塞する閉塞位置と、前記第2の油室の油を排油路に排出する排油位置とに切り替え自在な切替弁と、
    可動側ダイと前記固定側ダイにそれぞれ製品の穴を明ける部分を挟んで対向する出没自在に挿設したパンチとを備えた、
    ことを特徴とする穴明き製品の成形装置。
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