JP3656925B2 - 熱延スケール疵の少ないフェライト系ステンレス鋼板のスラブ加熱方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分間野】
本発明は、フェライト系ステンレス鋼のスラブを熱間圧延温度に昇温する際の加熱法を制御した、熱延スケール疵の少ないフェライト系ステンレス鋼のスラブ加熱方法である。
【0002】
【従来の技術】
ステンレス鋼は表面に塗装されることなく製品に供されるため、外観の綺麗な表面肌が要求される。ところが、ステンレス鋼の製造は、連続鋳造鋳片の不健全性、スラブ加熱炉でのスケール生成の不均一性、熱間加工性不良などの問題から疵が発生しやすく、一般に難しい。この熱間で発生した疵は、疵内部にスケールを含有するため途中工程で修復されることもなく最終製品まで残存する。このような表面疵が発生した場合、疵の程度により対処方法が異なり、疵が軽度の時は研磨工程または酸洗工程で救済する方法が採られ、また、重度の疵の場合はスクラップにするため、歩留や生産能率が大幅に低下する。また、熱延時に疵が発生した場合には、熱延のロールにも疵が生じるため、熱間圧延を休止して熱延ロールを取り替えねばならず生産能率を阻害し、ロール原単位をアップする問題があった。
【0003】
従来から、このような熱間圧延で発生する表面疵に対しては、種々の対策が採られ、例えば熱延途中の熱間加工性が原因と考えられる場合には、被圧延材の圧延温度を上昇させて圧延時の変形抵抗を小さくすることにより圧延負荷を軽減するとか、熱延パス数を増加させ1パス当たりの圧下率を下げる方法が採用されている。さらに圧延中に酸化スケールが剥離し、被圧延材の金属露出部分間に、例えば特公平4−57402号公報のように「カルボン酸を含む水溶液や圧延潤滑油を供給」したり、あるいは特公平4−42082号公報のように「空気、酸素ガス、水蒸気を吹き付ける」などスケール生成を促進する対処法が開発されている。しかし、これらの技術を適用しても解決しない疵が発生した。そのミクロ的特徴としては、スケールの上にメタルが被さった特異な形態をとり、鋼種的にはCr含有量17%以上の高Cr濃度のフェライト系ステンレス鋼のスラブを熱間圧延した場合に多く発生した。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような特異な形態をもつフェライト系ステンレス鋼の熱延鋼帯表面に発生するスケール疵の発生を防止し、引き続き行われる酸洗での再酸洗や、疵を除去するための表面研削等の作業負荷増大を解消し、良好な表面性状を有するフェライト系ステンレス鋼のスラブ加熱方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、フェライト系ステンレス熱延鋼帯の熱延前の加熱炉中で生じるスケール形態と熱延後のスケール疵(スケールの上にメタルが被さった特異な形態)の関係を明らかにし、その制御条件ならびに実熱延操業に適用するための適用化技術を見いだし、これらの知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0006】
本発明は、以下の通りである。
(1)質量%で、C:0.04%以下、Cr:17%以上を含有するフェライト系ステンレス鋼のスラブを加熱する際に、加熱炉の燃焼ガス雰囲気を、酸素濃度が2〜10vol %で露点が0〜70℃とし、加熱温度を、後段加熱温度が1200〜1150℃の場合は前段加熱を1300℃以上の温度に30分間以上保持し、後段加熱温度が1200℃を超える場合は前段加熱を1300℃以上の温度に10分間以上保持することを特徴とする熱延スケール疵の少ないフェライト系ステンレス鋼のスラブ加熱方法。
【0007】
【発明の実施の形態】
熱間圧延において出現するフェライト系ステンレス鋼のスケール疵の発生原因について多くの実験を行い調査し、解析した結果、次のような現象を知見した。
(1) 鋼中のCr含有量が高く耐酸化性が良好な鋼ほどスケールの上にメタルが被さった特異な形態のスケール疵を発生しやすい。
(2) このスケール疵を発生しやすいスラブ加熱直後のスラブ表面は図3(A)の金属顕微鏡組織写真の模式図で示すように、酸化膜がスラブ金属部1に深く進行して窪んだ0.4〜1.5mm程度の厚い瘤状スケール、いわゆる異常酸化ノジュール2と、酸化がほとんど起こらない10μm程度の薄いスケール3の混在した凹凸の激しい表面を生成する。
【0008】
(3) 厚い瘤状のスケールは、剥離しやすいFeに富む酸化層の外側と、密着性の
良いCrを含有する酸化層の内側から形成されている。
(4) 異常酸化ノジュールが生成し、スラブ表面に生成した窪みは、熱延時に上部金属が延ばされて下部酸化層をかさぶた状に覆う形になり、スケールの上にメタルが被さった特異な形態の疵を発生する。
(5) 一方、図3(B)の金属顕微鏡組織写真の模式図で示すような均一な1〜2 mmの厚さのスケールが熱延加熱直後のスラブ表面に生成している場合にはスケールの上にメタルが被さった特異な形態を示す疵は発生しなかった。
【0009】
本発明者等は以上のような現象から、熱間圧延された鋼板表面に発生するスケール疵は、熱間圧延するためにスラブを高温度に加熱する際に表面酸化によって生じたスラブ表面の凹凸が圧延によって延ばされて発生するものであることを知見した。
【0010】
そこで本発明者等は、スラブの通常加熱温度である1240℃で特に異常酸化ノジュールを発生しやすいC含有量0.02%、Cr含有量19%のフェライト系ステンレス鋼について異常酸化ノジュールを発生しない条件を調査した。加熱炉はLNG、LPG、COG等を燃料として燃焼し、燃焼排ガス中でスラブは加熱される。燃焼排ガス成分は酸素2〜10%、露点0〜70℃であり、これら雰囲気酸素や露点や加熱温度でスケールの生成状況が決まる。この関係を図2に示す。図中に示す限界線以上の温度で80分間を超えて加熱すると均一な厚いスケールが生じるが、この温度未満では異常酸化ノジュールが発生する。現状の排ガス組成からは酸素濃度を上げ、露点を大きくすることで均一な厚いスケールを生成する温度を低減できるが、図2に示すように1270℃以上に加熱する必要がある。
【0011】
一方、熱延するスラブは、厚さ100〜300mm、幅800〜1400mm、長さ5000〜8000mmのサイズで、加熱炉に入れ昇温する。加熱炉内でスラブはスキッドと呼ぶ支持台(台の幅100〜150mm、台と台の間隔600〜1600mm)上で加熱炉内を搬送しつつ昇温する。加熱は昇温を開始して3〜6時間程度で熱延可能な状態に昇温できる。このとき通常加熱温度と呼ばれる高温保持時間は1〜3時間である。スラブ長は変動の多い製品コイル長さに対応して変化し、スラブが丁度スキッドで支持されることは稀で、特に厳しいものはスキッド間隔とほぼ同じ長さが片持ちされ、高温で長時間保持されるため、高温化はスラブの下側曲がりを生じやすく、スラブ面に対してスラブエッジが50〜100mm曲がった状態で加熱炉から抽出されたスラブは熱延ラインの搬送設備に引っかかり圧延できない状態になる。これまでの調査結果から、このスラブの下側曲がりはスラブ加熱温度が1250℃を超えて、80分間を超えて加熱したときに著しく発生することが判明している。
【0012】
このようなことからスケール生成条件ならびにスラブ変形を両方満足させる条件はなかった。このためスラブ加熱パターンを工夫して、良好なスケールを高温で生成し、かつスラブ変形を防止するため、一度高温に加熱した後に低温で加熱保持する2段加熱処理法を検討した。
【0013】
この2段加熱処理法の検討するため、C:0.02%、Cr:19%のフェライト系ステンレス鋼の連続鋳造スラブを、前段加熱条件として加熱温度1250〜1325℃、加熱時間10〜50分間、後段加熱条件として1150〜1200℃、1250℃、1270℃に1時間保持した後放冷し、サンプルの断面を観察した。前段・後段加熱パターンと均一な厚いスケールや異常酸化ノジュールの生成状況との関係を図1に示す。
【0014】
図1に示されているように、
(1) 後段加熱温度が1200〜1150℃の場合、前段加熱を1300℃以上の温度に30分間以上
(2) 後段加熱温度が1200℃を超える場合、前段加熱を1300℃以上の温度に10分間以上
保持すれば均一な厚いスケールを生成可能である。また、これら加熱によってスラブ変形は小さく30mm以内に抑えられ、熱延に支障は生じず良好なスケール生成と熱延を可能にすることが両立できた。
【0015】
このように前段加熱を1300℃以上に短時間加熱した後に低温化しても良好均一な厚いスケールができるのは、前段加熱を1300℃以上にすることでスケール生成初期の状態を整え、良好スケールの種を生成することができるためである。また、後段加熱温度を1200℃以下の低温とする場合には、前段加熱に時間をかけて、この良好スケールの種を十分成長させる必要があるものと推定している。
【0016】
次に、限定理由について説明する。
C量、Cr量については、耐酸化材料として使用されるフェライト系ステンレス鋼の構成成分として必須であることから限定したものであり、これらの成分は製造時には耐酸化性が影響し、異常酸化ノジュールが生成し、熱延スケール疵を発生しやすい。C量は低減するほど耐酸化性は向上し、0.04%以下で効果を発揮する。Cr量は含有量が増加するほど有効であり、17%以上で耐酸化性が向上する。
【0017】
このような成分構成のフェライト系ステンレス鋼のスラブをLNG、LPG、COGを空気によって燃焼させた場合の燃焼ガス中で昇温する。この燃焼ガスの組成は、酸素濃度が2〜10vol %で、露点が0〜70℃であり、燃料と空気の比率で組成を変更させることができ、スケール生成状態を変えることができる。酸素濃度2%未満では10μm程度の薄いスケールが生成するのみであるが、2%以上とすることで1〜2mm厚の均一な厚いスケールを生成し、高濃度化するとスケール厚さの増加したスケールとなる。しかし10%を超えると、部分間的にスケール厚さが増加してメタルとスケールの界面の凹凸が大きくなり、かえって熱延疵を増大させるため、2〜10%とした。
【0018】
露点については、0℃未満では均一な厚いスケール生成に不十分で、0℃以上で有効に作用し、高温ほど良好なスケールを生成するが、70℃を超えるとスケールの成長スピードが著しく大きくなり、メタルロスが著しく増大するので0〜70℃とした。
【0019】
このような燃焼ガス雰囲気で加熱する場合の均一な厚いスケールを生成するための加熱条件を知るために、C:0.02%、Cr:19%のフェライト系ステンレス鋼の連続鋳造スラブをLNG燃焼ガス雰囲気の加熱炉内で90分間加熱し、炉内酸素濃度と露点に対する均一な厚いスケールの生成温度を調査した。図2に、各露点における、酸素濃度と均一な厚いスケールの生成温度の関係を示す。なお、ここで均一な厚いスケールの生成温度とは、この温度以上の加熱では均一な厚いスケールが生成するが、この温度未満では異常酸化ノジュールが生成する温度をいう。
【0020】
図2より、この燃焼ガス雰囲気では、1270〜1300℃以上の加熱温度以上に、80分間を超えて加熱することが均一な厚いスケール生成のために必要なことがわかる。一方、加熱炉中で1250℃を超えて、80分間を超えて加熱するとスラブの下側曲りが発生して圧延できなくなり、これらを両立する条件は得られない。
しかし、一度高温に加熱した後に低温で加熱保持する2段加熱をすることでこれらを両立させることができる。
【0021】
2段加熱の後段温度が1150℃未満では熱延時の変形抵抗が大きくなり、加工疵が増大する。この加工疵は1150℃以上で発生しなくなり、前段加熱条件との組み合わせで均一な厚いスケール生成が可能になる。
【0022】
後段加熱温度が1200〜1150℃の場合、均一な厚いスケール生成のためには前段の加熱温度と時間を高温長時間化する必要があり、1300℃以上で30分間以上の前段加熱が必要である。前段加熱が1300℃未満あるいは30分間未満では、異常酸化ノジュールが発生してしまう。
【0023】
また、後段加熱温度が1200℃を超える場合、均一な厚いスケール生成のためには、1300℃以上で10分間以上の前段加熱が必要である。前段加熱が1300℃未満あるいは10分間未満では、異常酸化ノジュールが発生してしまう。
【0024】
以上の理由により、2段加熱パターンとして、
(1) 後段加熱温度が1200〜1150℃の場合、前段加熱温度を1300℃以上で30分間以上保持するように、スラブを加熱する。
(2) 後段加熱温度が1200℃を超える場合、前段加熱温度を1300℃以上で10分間以上保持するように、スラブを加熱する。
とした。
【0025】
【実施例】
本発明の実施例を以下に説明する。
厚さ250mm、幅1000mm、長さ6000mmの、表1に成分組成を示したフェライト系ステンレス鋼のスラブを熱延するために、スキッド間隔600〜1600mm、LNGを燃料とした焼鈍雰囲気で、前後段の加熱条件を変更して加熱した。
【0026】
【表1】
Figure 0003656925
【0027】
加熱終了後、熱延を開始し、3〜4mm厚の熱延鋼帯を得た。さらにショットブラストでメカニカルデスケーリングした後、300g/litterのH2 SO4 90℃で60〜120sec 酸洗し、スケールの上にメタルが被さった特異な熱延スケール疵の有無を評価し、表2に示す。本発明条件を適用すると、異常酸化ノジュールの生成がなく均一な厚いスケールが成長し、圧延に問題となるスラブの下側曲りもなく圧延を行うことができ、良好な熱間圧延鋼帯を製造することができる。
【0028】
【表2】
Figure 0003656925
【0029】
【発明の効果】
本発明は、スラブ加熱条件を制御することで、熱延のためのスラブ加熱時に、異常酸化ノジュールを生じさせず均一な厚いスケールを生成し、なおかつスラブ変形もなく容易に熱延でき、熱延板でもスケールの上にメタルが被さった特異な熱延スケール疵が発生しないため、従来生産性を阻害していたコイル表面の研削工程を省略したり、再酸洗を防止できるので、その工業的価値は多大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】前後段加熱パターンと均一な厚いスケールや異常酸化ノジュールの生成状況との関係を示す図表である。
【図2】スラブ加熱時における、炉内酸素濃度と、露点と、均一な厚いスケールの生成温度の関係を示す図表である。
【図3】(A)は異常酸化ノジュールを生成したスラブ表面の金属顕微鏡組織写真の模式図であり、(B)は均一な厚いスケールを生成したスラブ表面の金属顕微鏡組織写真の模式図である。
【符号の説明】
1 スラブ金属部
2 異常酸化ノジュール
3 薄い保護性酸化被膜
4 均一な厚いスケール

Claims (1)

  1. 質量%で、C:0.04%以下、Cr:17%以上を含有するフェライト系ステンレス鋼のスラブを加熱する際に、加熱炉の燃焼ガス雰囲気を、酸素濃度が2〜10vol %で露点が0〜70℃とし、加熱温度を、後段加熱温度が1200〜1150℃の場合は前段加熱を1300℃以上の温度に30分間以上保持し、後段加熱温度が1200℃を超える場合は前段加熱を1300℃以上の温度に10分間以上保持することを特徴とする熱延スケール疵の少ないフェライト系ステンレス鋼のスラブ加熱方法。
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