JP3652927B2 - 耐放射線特性を有する挿入光源 - Google Patents

耐放射線特性を有する挿入光源 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、挿入光源、特に蓄積電流の大きな電子蓄積リングに用いると最適な挿入光源に関する。
【0002】
【従来の技術】
挿入光源は、電子加速器や電子蓄積リングの直線部分に挿入され、強力な放射光を発生させる装置として有用である。挿入光源には、図2に示すように、永久磁石1のみで構成されるハルバック型(a)と、永久磁石2及びポールピース3(鉄や鉄コバルト合金)で構成されるハイブリッド型(b)がある。図2(a)、(b)に示した挿入光源は、いずれも平面アンジュレータと呼ばれる一般的なタイプであり、周期的に磁化方向を変化させて配列した磁石列を対向させて配置し、該磁石列間の空隙に電子を走行させる(図1(a)参照)。
挿入光源では、その磁石列間の空隙中にサインカーブ状の周期磁場が発生し(図1(b)参照)、加速器中を回る高速電子は、該周期磁場の影響を受けて蛇行運動を行い、各蛇行点から放射光を生じる(図1(c)参照、Halbach,Nuclear Instruments and Method 187,(1981),109)。
【0003】
上記電子の蛇行運動は、その程度により、ウィグラーモードとアンジュレータモードに分けられる。ウィグラーモードでは各蛇行点から発生する放射光が重畳され、偏向電磁石からの放射光より10倍〜1000倍高いパワーの白色放射光が得られる。
これに対して、アンジュレータモードでは、各蛇行運動で発生する放射光が干渉し、基本波とその高次光では、ウィグラーモードの放射光の更に10〜1000倍程度高いパワーの放射光が得られる。
上記モードのいずれであるかは、K値(=0.934λmBg;λm=周期長、Bg=周期磁場のピーク値)と呼ばれるパラメーターにより分類される。K値が1前後あるいはそれ以下の場合はアンジュレータモードとなり、それ以外の値の場合はウィグラーモードとなる。
【0004】
挿入光源は、前記したように、大きく分けてハルバック型とハイブリッド型の2つの型があるが、どちらも、ほぼ同等の磁場強度や分布を示し、大きな違いはない。一般的にはハイブリッド型の方が、使用する磁石の量が少なくてすみ、また、挿入光源の開発の初期段階では、永久磁石の角度や特性のバラツキが大きかったため、ハルバック型よりハイブリッド型の方が、磁場強度を揃えやすかった。しかし、最近では、永久磁石のバラツキが小さく、特性が均一になっており、また、磁石の組み替え手法が導入されたため、どちらの型でもほぼ同等の磁場分布が得られる。ただし、磁石列間の空隙を変えた場合、ハルバック型における電子軌道のズレは、線形性がほぼ成立するため小さいが、ハイブリッド型は軟磁性ポールピースの使用により非線形性であるため、電子軌道のズレが生じやすい。結局、どちらの型の挿入光源を採用するかは、目的に応じて決定すればよく、特にどちらかが優れているというものではない。
【0005】
挿入光源には、通常、SmCo系焼結磁石(以下、SmCo系磁石という)よりもNdFeB系焼結磁石(以下、NdFeB系磁石という)が使用される。その理由として、▲1▼挿入光源は室温以上に温度が上がる可能性は少ないので、室温で磁気特性の高いNdFeB系磁石を使用することにより、高い空隙磁場を得ることができる、▲2▼NdFeB系磁石は着磁が容易で、磁気特性のバラツキが小さい、▲3▼挿入光源は磁場分布の精密調整が不可欠であり、磁場分布の乱れを生じさせている磁石セグメントに、磁石の位置調整、シミング磁石の付加、磁石表面での磁性体シミング等の操作を施して磁場調整する必要がある。そのため、磁石の抜き差しや挿入を頻繁に行うことになるが、その場合、NdFeB系磁石はSmCo系磁石に比べてワレカケが起こりにくいことが挙げられる。
【0006】
挿入光源の端部では、周囲の電磁気的環境や鉄材の配置などから、磁場の洩れや乱れが起こりやすい。また、挿入光源の空隙間に入れる真空容器は、その直線部が絞り込まれているため真空のコンダクタンスに違いが生じ、その結果、真空度が上がりにくく、残留ガスが多くなる可能性も高い。
これらの原因により、電子の一部が散乱して、真空容器や挿入光源に衝突したり、散乱した電子が発生する電磁波(放射光)やその照射で発生した2次電子などに挿入光源の磁石が晒される場合がある。
そして、このような種々の要因が重畳することにより、挿入光源の磁石が減磁してしまう。この減磁は熱によるものではなく、放射線照射に起因する問題である。
【0007】
さらに、最近、真空装置内に挿入光源を設置する真空封止型挿入光源が開発され、実用化が進んでいる。しかし、真空封止型挿入光源では、加速電子や2次電子が磁石に衝突する確率も増加し、また、磁石に照射される放射光(硬X線を含む)の強度も増加する。その上、放射光や電子により、局所的に磁石が加熱されることも考えられる。したがって、真空封止型挿入光源では、磁石の減磁が深刻な問題となっていた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、耐放射線・粒子線特性に優れ、かつ所要の磁場分布を容易に形成することができる挿入光源の提供を目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、磁化方向が周期的に変化する希土類永久磁石を配列してなる磁石列を対向させて配置し、該磁石列間に空隙を設けた挿入光源において、NdFeB系焼結磁石を配列してなる磁石列の端部にSmCo系焼結磁石を配置することを特徴とする耐放射線特性を有する挿入光源である。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の挿入光源は、電子が出入りする磁石列の端部にSmCo系磁石を配置し、磁場分布が周期磁場状態となる端部以外の部分に、NdFeB系磁石を配置したものである。
本発明において、磁石列の端部にSmCo系磁石を採用した理由は、放射線や粒子線の照射により希土類磁石が減磁する機構は、未だ不明であるが、数少ない実験結果から、放射線等による減磁は、熱による減磁と似た挙動を示し、また、NdFeB系磁石の方が粒子線による減磁を起こしやすく、SmCo系磁石は比較的減磁しにくいことから、放射線や粒子線が照射される確率の高い端部には、SmCo系磁石を使用することにしたものである。
【0011】
使用するSmCo系磁石は、特には2−17型SmCo系磁石が望ましい。磁壁ピンニングによる保磁力機構を持つ2−17型SmCo系磁石は、核発生成長型の保磁力機構を持つ1−5型SmCo系磁石に比較しても、数段優れた耐放射線性を有するからである。
なお、図3にSmCo系磁石R26H(信越化学社製、商品名)とNdFeB系磁石N33H(信越化学社製、商品名)に、17MeVの電子を照射した時の減磁の様子と、表1に保磁力18kOeの上記NdFeB磁石(試料No.1,4)と上記SmCo系磁石(試料No.2,3)に電子線照射(入射電子エネルギー17MeV(推定)、平均電流200nA/cm、パルス幅1.5μsパルス列60pps)した時の減磁の数値を示した。
【0012】
【表1】
Figure 0003652927
【0013】
SmCo系磁石を配置する端部の部分は、磁石列の両端から、磁化方向変化の3周期分以下に相当する長さの部分であればよく、磁石の使用量を最小限にとどめる場合は、1.5周期分でよい。この部分が放射線等の照射により、大きく減磁する可能性の高い部分だからである。
磁石列の端部の磁場は、電子軌道をキックさせ、基準となる中心軸からずらせる働きをする。端部磁石の調整により電子軌道を整えることも可能であるが、ステアリング電磁石のような軌道調整用の手段を設ける場合が多い。このため端部磁石の磁場分布調整は粗く行うだけでよい。したがって、本発明において、SmCo系磁石が有する欠点であるワレカケについては、ほとんど問題とならない。
【0014】
本発明では、端部以外の部分には、NdFeB系磁石を用いる。前記したように、NdFeB系磁石は、機械特性が良好で、磁気特性のバラツキが小さく、室温磁気特性が高いからである。サイン波磁場分布が実現できている領域では、電子軌道の乱れが少なく、放射線や粒子線による磁石照射が少なくなるため、NdFeB系磁石を使用しても減磁はほとんど生じない。挿入光源を真空容器中に収納する真空封止型挿入光源では、放射線照射等の影響がより大きくなるが、本発明の磁石構成で作製された挿入光源は、減磁が抑えられ、その影響は無視できる。
【0015】
磁石列の端部に配置するSmCo系磁石は、一般に(BH)maxが30MGOe程度であり、端部以外に配置するNdFeB系磁石は、(BH)maxが40〜50MGOeである。そのため、SmCo系磁石とNdFeB系磁石を同じ寸法にすると、端部の磁場積分値が不足する。端部と端部以外の磁場積分値を同一にする方法として、SmCo系磁石の幅を広くすることも考えられるが、放射線光に余分な高次光をもたらす危険性がある。そこで、SmCo系磁石の高さを、NdFeB系磁石より高くして、磁場分布が挿入光源の磁場仕様を満たすように最適化することが望ましい。この場合、対向する磁石列間の空隙間隔を均一とし、両磁石の高さの差は、空隙に面する側とは反対側の架橋面側で吸収することが望ましい。これによりSmCo系磁石を端部に使用しても、挿入光源の全体磁場分布は、単一の磁石材料を使用した場合と同じものが得られる。
【0016】
【実施例】
次に、本発明について、実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例)
周期長40mm、30周期のハルバック型挿入光源を、(BH)maxが42MGOeの厚み10mm×幅80mm×高さ30mmのNdFeB系磁石セグメント(信越化学社製;N42)と、(BH)maxが28MGOeの厚み10mm×幅80mm×高さ50mmの2−17型SmCo系磁石セグメント(信越化学社製;R30)を用いて作製した。最端部のSmCo系磁石セグメントのみ厚みを半分とした。SmCo系磁石は両端から各2周期分に相当する長さだけ配置した。そして、各磁石セグメントを組み上げ、磁石列間の空隙の間隔を25mmにして磁場分布の調整を行った。磁場分布は、磁石列の位置を空隙方向に変えることにより調整した。磁場分布調整後の1重積分値は85G・cm、2重積分値は1000G・cmであり、ステアリングコイルによる軌道調整は、ほとんど必要のないレベルであった。
上記ハルバック型挿入光源を38MeV電子ライナックに用いて、20MeV電子を加速した。その他の条件は、パルス幅1.5μs、パルス入射60pps、パルスピーク電流値23mA/cmとし、1時間連続して入射を行った。その後、挿入光源を上記ライナックから取り外して磁場分布(磁束積分値と同義)を計測したところ、測定精度の範囲で照射前と変化はなかった。
このことから、本発明の挿入光源は、放射線と粒子線に対する耐性があることが分かった。
【0017】
【発明の効果】
本発明の挿入光源は、耐放射線・粒子線特性に優れ、かつ所要の磁場分布を容易に形成することができ、電流値の大きなライナックに用いても減磁を起こすことなく使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は挿入光源の概略斜視図、(b)は(a)の周期磁場、(c)は(a)の電子軌道である。
【図2】平面アンジュレータの基本磁石配置の概略図であり、(a)はハルバック型、(b)はハイブリッド型である。
【図3】SmCo系磁石とNdFeB系磁石に17MeVの電子を照射した時の減磁を示す図である。
【符号の説明】
1、2 永久磁石
3 ポールピース

Claims (4)

  1. 磁化方向が周期的に変化する希土類永久磁石を配列してなる磁石列を対向させて配置し、該磁石列間に空隙を設けた挿入光源において、NdFeB系焼結磁石を配列してなる磁石列の端部にSmCo系焼結磁石を配置することを特徴とする耐放射線特性を有する挿入光源。
  2. SmCo系焼結磁石を配置した磁石列の端部が、該磁石列の両端から、磁化方向変化の3周期分以下に相当する長さの部分である請求項1記載の挿入光源。
  3. 真空装置内に設置される請求項1記載の挿入光源。
  4. 磁石列間の空隙間隔を均一とし、かつ、該磁石列の端部に配置したSmCo系焼結磁石の空隙に面する側とは反対側の高さを、NdFeB系焼結磁石よりも高くして、磁場分布が挿入光源の磁場仕様を満たすように最適化した請求項1記載の挿入光源。
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