JP3651813B2 - ころ軸受用の合成樹脂製保持器 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、ころ軸受用の合成樹脂製保持器に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、円筒ころ軸受、円錐ころ軸受、自動調心ころ軸受等のころ軸受用の保持器として、金属製の保持器よりも軽量で、生産性及び経済性に優れる合成樹脂製の保持器が使用されている。
この合成樹脂製の保持器においては、ポケットに収容したころが、当該ポケットから脱落するのを防止するために、各ポケット間の柱部の内周縁又は外周縁に、ポケット側に張り出すころ止め部を形成したものが提供されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記ころ止め部を形成した合成樹脂製保持器は、一般に射出成形によって成形されているが、上記ころ止め部がいわゆるアンダーカット形状を呈している関係上、保持器のポケット部を成形する成形型を、ポケット部から離型する際に、当該ころ止め部が弾性変形されることになる。
【0004】
ところで、一般仕様の乗用車等のトランスミッションには、上記合成樹脂製の保持器を組み込んだ円筒ころ軸受が使用されているが、この保持器の素材としては、一般にナイロン66やナイロン46等、ある程度の弾性を有する合成樹脂が使用されていることから、上記ポケット部の離型に際して、ころ止め部を支障なく弾性変形させることができる。しかしながら、トラックや高性能(高出力)車用のトランスミッションに使用される円筒ころ軸受については、150°Cを超えるオイル潤滑中で使用されるために、耐熱性及び耐油性との関係上、保持器の素材として、上記ナイロン66等を使用することはできない。そこで、上記ナイロン66等に代えて、スーパーエンジニアリングプラスチックや耐熱ナイロン等に、補強用のガラス繊維等を充填した高剛性の合成樹脂が使用されている。
【0005】
ところが、上記高剛性の合成樹脂製保持器については、上記射出成形時の離型に際して、ころ止め部を弾性変形させることが困難であるため、当該ころ止め部が折損してしまい、ころを確実に保持することができなくなるという問題が生じていた。
また、上記高剛性の合成樹脂製保持器を組み込んだころ軸受については、その使用中に振動荷重が作用すると、上記ころ止め部の基部に応力集中が生じるために、当該基部が疲労して折損するおそれもあった。
【0006】
この発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、高剛性の合成樹脂製保持器の成形時において、ころ止め部が折損するのを防止することができるころ軸受用の合成樹脂製保持器を提供することを目的とする。
また、この発明は、ころ軸受に作用する振動荷重によって、高剛性の合成樹脂製保持器のころ止め部が折損するのを防止することができるころ軸受用の合成樹脂製保持器を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するための、この発明のころ軸受用の合成樹脂製保持器は、ころを収容する複数のポケットを、周方向に沿って所定間隔毎に形成し、各ポケット間の柱部の内周縁又は外周縁に、ポケット側に張り出すとともにその内側がころと摺接するころ止め部を形成しているころ軸受用の合成樹脂製保持器において、上記ころ止め部の基部の外周側及び側面側を含む全周に対応させて、当該ころ止め部を周方向へ弾性変形させるための凹溝を上記柱部に形成したことを特徴とするものである。
【0008】
上記の構成のころ軸受用の合成樹脂製保持器によれば、高剛性の合成樹脂製保持器であっても、上記ころ止め部の基部の外周側及び側面側を含む全周に対応させて上記柱部に形成した凹溝によって、当該ころ止め部を周方向へ容易に弾性変形させることができる。このため、当該保持器の形成時において、上記ころ止め部が折損するのを防止することができる。また、ころ軸受に振動荷重が作用した際に、上記ころ止め部を周方向に弾性変形させて、その基部の応力集中を緩和させることができる。
【0009】
上記ころ軸受用の合成樹脂製保持器は、上記ころ止め部のころと摺接する内面側の傾斜角度に対して、外面側の傾斜角度を、3〜6°大きくしているのが好ましく、この場合には、ころ止め部をより容易に弾性変形させることができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下この発明の実施の形態について、添付図面を参照しながら詳述する。
図1は、この発明のころ軸受用の合成樹脂製保持器の一つの実施の形態を示す要部斜視図である。このころ軸受用の合成樹脂製保持器は、ポリエーテルサルホン(PES)等の高剛性のスーパーエンジニアリングプラスチックに、補強材としてのガラス繊維を、例えば20重量%充填したもので形成されている。この保持器には、複数個のポケット1が周方向に沿って所定間隔毎に形成されており、各ポケット1には、円筒ころRが収容されている(図3参照)。
【0011】
各ポケット1の相互間の柱部2には、ポケット1側に張り出すころ止め部3が設けられている。このころ止め部3は、柱部2の軸方向中央部であって、その外周縁2a側に設けられている。また、上記柱部の側面には、円筒ころRと摺接するころ案内部4が設けられている(図2参照)。このころ案内部4は、上記ころ止め部3と協働して円筒ころRを保持できるように、ポケット1側に張り出している。
【0012】
さらに、上記ころ止め部3の基部3cの外周側3b側及び側面側を含む全周に対応させて、当該ころ止め部3の周方向への弾性変形を許容するための凹溝5が柱部2に形成されている。この凹溝5の溝幅は、例えば0.5mm程度に設定されており、その深さは、0.75mm程度に設定されている。
【0013】
上記ころ止め部3は、先端が基部3c側よりも細い台形断面形状のものであり、その基部3cの厚みは、例えば0.6mm程度に設定されており、その高さは、例えば1.5mm程度に設定されている。また、上記ころ止め部3の円筒ころRと摺接する内側3aの、直径線Lに対する傾斜角度θ1は、12°に設定されており、その外側3bの上記中心線Lに対する傾斜角度θ2は、17°に設定されている。即ち、上記ころ止め部3の外側3bの傾斜角度θ2は、内側3aの傾斜角度θ1に対して5°だけ大きくなるように設定されている。
【0014】
以上の構成であれば、保持器を高剛性のスーパーエンジニアリングプラスチックで形成しているにもかかわらず、上記ころ止め部3の基部3cの外周側3b側及び側面側を含む全周に対応させて柱部2に設けられた凹溝5によって、ころ止め部3を周方向に容易に弾性変形させることができる。このため、保持器の射出成形において、ポケット1を形成する形成型を、保持器の外周方向に離型する際に、上記ころ止め部3の基部3cが折損するのを防止することができる。
【0015】
特に、上記実施の形態においては、ころ止め部3の外周側3b側の傾斜角度θ2を、内周側3a側の傾斜角度θ1に対して5°大きくなるように設定してあるので、上記ころ止め部3をより容易に弾性変形させることができる。このため、金型の離型に際して、ころ止め部3を大きく弾性変形させた場合でも、当該ころ止め部3の基部3cが折損するのを確実に防止することができる。
【0016】
さらに、上記保持器を円筒ころ軸受に組み込んだ場合には、当該円筒ころ軸受に振動荷重が作用した場合でも、上記ころ止め部3を弾性変形させて、その基部3cに生じる応力集中を緩和させることができる。このため、上記ころ止め部3の基部3cが、疲労によって折損するのを防止することができる。
【0017】
なお、上記保持器を構成するスーパーエンジニアリングプラスチックとしては、上記PES以外に、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等も好適に使用することができる。また、上記スーパーエンジニアリングプラスチックに代えて、耐熱ナイロンにガラス繊維を充填したものも使用することもでき、要するにこの発明の保持器の素材としては、高剛性にて高温のオイル潤滑中で、優れた耐熱性及び耐油性を発揮することができるものであれば、種々の合成樹脂を使用することが可能である。
【0018】
上記保持器におけるガラス繊維の添加量としては、全成分中に占める割合が10〜30重量%の範囲が望ましい。10重量%未満では、添加効果が得られず保持器の靱性が悪化するとともに熱変形温度が低下する。一方、30重量%を上回ると柔軟性が低下し、時に本発明のころ止め部の柔軟性が損われ、離型時に割れやクラックが発生する。
【0019】
また、上記保持器のころ止め部3の外側3bの傾斜角度θ2は、3〜6°の範囲内において、内側3aの傾斜角度θ1よりも大きくしてあれば、ころ止め部3を容易に弾性変形させることができる。
さらに、この発明のころ軸受用の合成樹脂製保持器は、ころ止め部3を柱部2の内周縁に設ける等、種々の設計変更を施すことができる。
【0020】
【発明の効果】
以上のように、この発明のころ軸受用の合成樹脂製保持器によれば、ころ止め部の基部の外周側及び側面側を含む全周に対応させて柱部に設けた凹溝によって、ころ止め部を周方向に容易に弾性変形させることができるので、保持器の成型時の離型によって、上記ころ止め部が折損するのを防止することができる。このため、ころを確実に保持することができる保持器を提供することができる。また、上記保持器を組み込んだころ軸受に振動荷重が作用した場合でも、上記ころ止め部を容易に弾性変形させて、当該ころ止め部の基部の応力集中を緩和させることができるので、ころ止め部が疲労によって折損するのを防止することができる。
【0021】
特に、上記ころ止め部のころの摺接する内面側の傾斜角度に対して、外面側の傾斜角度を3〜6°大きくしている場合には、上記ころ止め部をより容易に弾性変形させることができるので、ころ止め部を大きく変形させた場合でも、当該ころ止め部が折損するのを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明のころ軸受用の合成樹脂製保持器の一つの実施の形態を示す要部斜視図である。
【図2】同じく縦断面図である。
【図3】同じく横断面図である。
【符号の説明】
1 ポケット
2 柱部
3 ころ止め部
3a ころ止め部の内面側
3b ころ止め部の外面側
3c 基部
5 凹溝
R 円筒ころ
θ1 ころ止め部の内面側の傾斜角度
θ2 ころ止め部の外面側の傾斜角度

Claims (1)

  1. ころを収容する複数のポケットを、周方向に沿って所定間隔毎に形成し、各ポケット間の柱部の内周縁又は外周縁に、ポケット側に張り出すとともにその内側がころと摺接するころ止め部を形成しているころ軸受用の合成樹脂製保持器において、
    上記ころ止め部の基部の外周側及び側面側を含む全周に対応させて、当該ころ止め部を周方向へ弾性変形させるための凹溝を上記柱部に形成したことを特徴とするころ軸受用の合成樹脂製保持器。
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