JP3651734B2 - ダイナミックダンパー及びフライホイール組立体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ダイナミックダンパー及びフライホイール組立体、特にトランスミッションの入力軸に連動して振動を制振するダイナミックダンパーに関する。
【0002】
【従来の技術】
本件出願人は、この種のダイナミックダンパー及びフライホイール組立体について、特公平6−48031等の先行技術を開発している。
【0003】
これらの先行技術では、質量部である第2フライホイールをクラッチディスクが第1フライホイールに圧接されている時だけコイルスプリングを含む捩りダンパー機構を介して駆動伝達系に連結させ、駆動伝達系の捩り振動を制振している。これにより、ニュートラルの状態におけるトランスミッションのギアの歯打音(中立音)や走行時におけるトランスミッションの振動及び異音を抑えつつ、クラッチ切断時におけるトランスミッションの変速動作の阻害を抑えている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記の先行技術では、第2フライホイールによって駆動伝達系の捩り振動は制振しているが、第2フライホイールの質量を軸方向の振動を抑えるためには利用していない。
【0005】
本発明の課題は、第2フライホイールの質量を利用して、軸方向の振動をも制振することのできるダイナミックダンパーを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載のダイナミックダンパーは、連結機構においてトランスミッションの入力軸に従動可能なダイナミックダンパーであって、入力プレートと、質量部と、弾性部と、サブクラッチとを備えている。連結機構は、エンジンのクランク軸とトランスミッションの入力軸とを連結するものであり、メインクラッチを含んでいる。入力プレートはトランスミッションの入力軸の回転と連動して回転し得る。質量部は入力プレートの外周側に配置されている。弾性部は、ゴム部材を含み、入力プレートと質量部とを回転方向及び軸方向に弾性的に連結するとともに、質量体の入力プレートに対する回転方向、軸方向及び径方向の位置を保持する。サブクラッチは、メインクラッチによってエンジンのクランク軸とトランスミッションの入力軸との連結が解除されるときに、トランスミッションの入力軸と入力プレート及び質量部との連動を解除する。そして、ゴム部材は、第1ゴム部と、第2ゴム部とを有している。第1ゴム部は入力プレートと質量部とを主に回転方向に連結する部分であり、第2ゴム部は入力プレートと質量部とを主に軸方向に弾性的に連結する部分である。
【0007】
このダイナミックダンパーを備えた連結機構では、エンジンのクランク軸から入力されたトルクはメインクラッチを介してトランスミッションの入力軸に伝達される。メインクラッチが接続状態であるときには、サブクラッチによってトランスミッションの入力軸の回転にダイナミックダンパーが連動する状態となる。したがって、トランスミッションのニュートラル時の中立音や走行時の異音はダイナミックダンパーにより制振される。ここでは、単にイナーシャを付加して共振を回避するイナーシャダンパーではなくダイナミックダンパーを使用しているため、部分回転域での捩りトランスミッションの入力軸の振動を制振することができる。このため、イナーシャダンパーでは低減できないレベルまで振動を低減させることもできる。
【0008】
また、本請求項に記載のダイナミックダンパーは軸方向の振動に対しても作用するため、軸方向の振動をも制振する。
【0009】
このように、トランスミッションの入力軸に断続する従来のダイナミックダンパーが一方向のみに弾性を有するコイルスプリングを採用していたのに対し、本請求項のダイナミックダンパーでは回転方向及び軸方向に弾性を有するゴム部材を含む弾性部であるため、捩り振動のみならず軸方向の振動をも制振することができる。
【0010】
請求項2に記載のダイナミックダンパーは、請求項1に記載のものにおいて、弾性部の回転方向の弾性は弾性部の軸方向の弾性と異なっている。
【0011】
制振の対象物の捩り振動に対する固有振動数と軸方向の振動に対する固有振動数とが異なることから、それぞれ捩り振動を特に制振したい周波数領域と軸方向の振動を特に制振したい周波数領域とは異なる。
【0012】
ここでは、弾性部の回転方向の弾性と弾性部の軸方向の弾性とを一致させず、それぞれ捩り振動を特に制振したい周波数領域及び軸方向の振動を特に制振したい周波数領域の振動を低減できるように、弾性部の回転方向の弾性と弾性部の軸方向の弾性とを別々に設定している。
【0014】
請求項3に記載のフライホイール組立体は、フライホイールと、ダイナミックダンパーとを備えている。フライホイールはエンジンのクランク軸に回転不能に連結される。このフライホイールには、トランスミッションの入力軸と連結されているクラッチディスク組立体が断続する。ダイナミックダンパーは、請求項1又は2に記載のものである。
【0015】
ここでは、ダイナミックダンパーをフライホイールとともにフライホイール組立体に組み込んでいる。このため、エンジンのクランク軸、あるいはクラッチディスク組立体やトランスミッションの入力軸と合体させるときに組み付けが容易となる。
【0016】
請求項4に記載のフライホイール組立体は、請求項3に記載のものであって、プレート部材をさらに備えている。プレート部材は、内周部がエンジンのクランク軸に固定され、外周部がフライホイールに固定される。このプレート部材は、所定の剛性を有し、回転軸に沿った振動を吸収する。
【0017】
ここでは、エンジンのクランク軸とフライホイールとの間にプレート部材を挿入しているので、フライホイール組立体によってエンジンのクランク軸から伝達される軸方向の振動を減少させることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
[第1実施形態]
本発明の一実施形態におけるダイナミックダンパーを含むフライホイール組立体の縦断面を図1に示す。ダイナミックダンパー10は、エンジンのクランク軸8とトランスミッションの入力軸9との接続及び接続解除を行う連結機構1に含まれるものであって、サブクラッチ13によってトランスミッションの入力軸9に接続されてトランスミッションの振動を制振する役割を果たす。
【0019】
連結機構1は、主として、ダイナミックダンパー10を含むフライホイール組立体2と、クラッチカバー組立体4及びクラッチディスク組立体5から成るメインクラッチ3とにより構成されている。この連結機構1の回転軸は、図1の軸O−Oである。
【0020】
フライホイール組立体2は、エンジンのクランク軸8に回転不能に連結されるものであり、主として、フライホイール2aと、フレキシブルプレート組立体2bと、ダイナミックダンパー10とから構成される。図7に、フライホイール組立体2の組立分解図を示す。フライホイール2aとフレキシブルプレート組立体2bとは、図1に示すように、互いの外周部にて連結されている。フレキシブルプレート組立体2bは、厚肉の円板の内周部分に薄肉のフレキシブルプレート2cの一端が固定される構造となっており、フレキシブルプレート2cの他端は、円周方向に等間隔に配置された7つのボルト8aによって、エンジンのクランク軸8に固定されている。ダイナミックダンパー10については後述する。
【0021】
メインクラッチ3のクラッチカバー組立体4は、主として、クラッチカバー4aと、環状のダイヤフラムスプリング4bと、ダイヤフラムスプリング4bによってエンジン側(図1の左側)に付勢されるプレッシャープレート4cとから構成されている。クラッチカバー4aは、外周部がフライホイール2aのトランスミッション側(図1の右側)の端部に固定されている。クラッチカバー4aの内周部は、図示しないワイヤリングを介してダイヤフラムスプリング4bの径方向中間部分を支持している。プレッシャープレート4cは、ダイヤフラムスプリング4bの外周部等によりクラッチカバー4a内に保持されている。このプレッシャープレート4cは、ダイヤフラムスプリング4bの内周端を図示しないレリーズベアリングで回転軸O−Oに沿った方向(以下、軸方向という。)に移動させて、ダイヤフラムスプリング4bで付勢させる、あるいはそのダイヤフラムスプリング4bの付勢を解除させることにより、軸方向に移動する。このクラッチカバー組立体4は、フライホイール2aに対してプレッシャープレート4cを付勢することで、クラッチディスク組立体5をフライホイール2aとプレッシャープレート4cとの間に挟持して、フライホイール組立体4とクラッチディスク組立体5とを摩擦係合させる役割を果たす。
【0022】
メインクラッチ3のクラッチディスク組立体5は、主として、摩擦フェーシング5aを有する摩擦係合部と、内周部がトランスミッションの入力軸9とスプライン係合しているスプラインハブ5cと、摩擦係合部とスプラインハブ5cとを回転方向に弾性的に連結するコイルスプリング5bとから構成されている。
【0023】
次に、ダイナミックダンパー10の構造について詳述する。
【0024】
ダイナミックダンパー10は、主として、質量体(質量部)11と、弾性部組立体(弾性部)12と、入力プレート(入力部)14と、サブクラッチ13とから構成される。
【0025】
質量体11は、図1及び図2に示すように、断面が概ね外周側に開く三角形状である環状の質量体本体部11aの内周側に環状の円板部11bが一体に形成されたものである。円板部11bには、図2に示すように、円周方向に等間隔に配置される円孔11cが10個設けられている。
【0026】
弾性部組立体12は、図1及び図3に示すように、質量体11と入力プレート14とを弾性的に連結するものである。この弾性部組立体12は、図3〜図5に示すように、筒状のゴム部材21と、ゴム部材21の外周面に固定される外周側筒状部材22と、ゴム部材21の内周面に固定される内周側筒状部材23とから構成される。外周側筒状部材22及び内周側筒状部材23は鋼製の部材である。
【0027】
ゴム部材21は、本体部(第1ゴム部)21aと、本体部21aの外周側(図3の上側)かつトランスミッション側(図3の右側)に位置する外周突起部21bとが一体に形成されたものである。また、ゴム部材21には、図4及び図5に示すように、本体部21aを軸方向に貫通する空洞21cが2つ設けられている。図4及び図5において、方向R1及びR2は円周方向に沿った方向を表し、方向D1は径方向に沿った方向を表している。空洞21cは、図4に示すように、径方向に長い概ね長円形の空洞であり、円周方向の長さ(以下、隙間という。)がそれぞれsである。
【0028】
内周側筒状部材23は、ゴム部材21の軸方向の長さに等しい長さの筒形状の部材である。
【0029】
外周側筒状部材22は、軸方向の長さが内周側筒状部材23の軸方向の長さよりも短い概ね筒形状の部材であり、筒状部22aと、筒状部22aのトランスミッション側端部から外周側に延びる折れ曲がり部22bとから構成される。折れ曲がり部22bのトランスミッション側の面は外周突起部21bのエンジン側の面に接着されている。
【0030】
上記の弾性部組立体12は、図1及び図7に示すように、質量体11の円孔11c内に配置される。そして、弾性部組立体12は、外周側筒状部材22の筒状部22aの外周面が円孔11cの内周面に固定され、内周側筒状部材23がピン16を介して入力プレート14の外周部に連結されることで、質量体11と入力プレート14とを円周方向、軸方向、及び径方向に弾性的に連結する。
【0031】
弾性部組立体12の円周方向の弾性は、質量体11と入力プレート14との間のトルク伝達量が小さいときには、主として、ゴム部材21の本体部21aのうち内周側筒状部材23の径方向両側の部分の曲げ剛性によって決まる。また、質量体11と入力プレート14との間のトルク伝達量が大きくなると質量体11と入力プレート14とが回転方向に相対移動して一方の空洞21cの隙間sが消滅して(図12参照)、弾性部組立体12の円周方向の弾性は、主として、ゴム部材21の本体部21aのうち内周側筒状部材23の円周方向側部の部分であって隙間sが消滅した空洞21c側の部分の圧縮剛性によって決まる。図12からわかるように、一方の空洞21cの隙間sが消滅した後は、質量体11と入力プレート14とは、殆ど弾性的にではなく、およそ剛に連結された状態となる。
【0032】
弾性部組立体12の軸方向の弾性は、主として、ゴム部材21の外周突起部21bの軸方向の圧縮剛性によって決まる(図3参照)。
【0033】
弾性部組立体12の径方向の弾性は、主として、ゴム部材21の本体部21aのうち内周側筒状部材23の径方向両側の部分の径方向の圧縮剛性によって決まる(図3〜図5参照)。
【0034】
入力プレート14は、図1、図7、及び図8に示すように、環状円板部14aと、コーン部14bと、円筒部14cと、凹部14dとを有しており、一体に形成される。この入力プレート14は、内周部がボールベアリング(軸受)6の内輪6bに固定されている。このボールベアリング6の外輪6aがエンジンのクランク軸8に固定されているので、入力プレート14は、エンジンのクランク軸8に対して、軸方向及び径方向に移動不能に、回転方向に回転自在に支持される状態となる。
【0035】
環状円板部14aの外周部には、図3及び図7に示すように、ピン16の回転方向及び径方向の移動を規制する孔14fと、ピン16の頭16aのエンジン側への移動を規制する切欠き14gとが設けられている。弾性部組立体12は、ピン16の頭16aのエンジン側(図3の左側)への移動規制によって、エンジン側への移動が規制される。また、弾性部組立体12は、内周側筒状部材23のトランスミッション側端部及び外周突起部21bのトランスミッション側の面が環状円板部14aのエンジン側の面と当接することによって、トランスミッション側への移動が規制される。
【0036】
コーン部14bは、環状円板部14aの内周端から、内周側に且つエンジン側に斜めに延びている。コーン部14bの内周面には、図8に示すように、歯14e(第2ギア)が形成されている。
【0037】
円筒部14cは、コーン部14bの内周端から、概ね軸O−Oに沿ってエンジン側に向かって延びている。この円筒部14cの内周面は、トランスミッション側からエンジン側に向かうに従って径が小さくなるような傾斜を有している。
【0038】
凹部14dは、円筒部14cの内周側に配置され、底面中央に芯部材15を貫通させ固定するための孔及び切欠きが設けられている。この凹部14dの外周面とボールベアリング6の内輪6bとは固定されている(図8参照)。
【0039】
このように、質量体11は弾性部組立体12に、弾性部組立体12は入力プレート14に連結されており、入力プレート14はエンジンのクランク軸8に支持されているので、3者(質量体11,弾性部組立体12,入力プレート14)はエンジンのクランク軸8に回転自在に支持されている状態にある。
【0040】
サブクラッチ13は、上記3者(質量体11,弾性部組立体12,入力プレート14)をトランスミッションの入力軸9に接続及び接続解除するクラッチ機構であって、ギア噛み合い式のものである。このサブクラッチ13は、主として、シンクロギア組立体30と、シンクロブロック41と、リターンスプリング42と、スナップリング43とから構成される(図7参照)。
【0041】
シンクロギア組立体30は、図6及び図8に示すように、主として、本体31と、減力機構33と、ワンウェイ係止部材34と、ワイヤリング39とから成り、位置補正機構32を備えている。
【0042】
本体31は、主として、円筒状の大筒部31aと、大筒部31aのエンジン側端から外周側に延びた部分に形成されたシンクロギア(第1ギア)31bと、大筒部31aのエンジン側端から内周側に延びた部分からエンジン側に延びる小筒部31cとから構成される。
【0043】
大筒部31aの内周面にはトランスミッションの入力軸9とスプライン係合するスプライン溝31fが形成されており(図6参照)、本体31はトランスミッションの入力軸9とスプライン係合してトランスミッションの入力軸9に対して軸方向に移動可能にかつ回転方向に回転不能な状態にある。大筒部31aの外周面には、図6に示すように、ワンウェイ溝31dが設けられている。ワンウェイ溝31dのエンジン側(図6の左側)の面は、回転軸O−Oに概ね直交している。ワンウェイ溝31dのトランスミッション側(図6の右側)の面は、外周端よりも内周端のほうがトランスミッション側に位置する傾斜を有している。
【0044】
シンクロギア31bは、入力プレート14のコーン部14bの歯14eに対向しており、サブクラッチ13が接続解除の状態(図8の状態)のときには歯14eとの間にわずかな隙間を有しており、サブクラッチ13が接続状態(図10の状態)のときには歯14eと噛み合った状態となる。
【0045】
小筒部31cは、大筒部31aの径よりも小さい径を有する円筒形状であって、内周面が芯部材15と軸方向に移動自在に当接している。小筒部31cの外周面のエンジン側(図8の左側)には歯が形成されており、小筒部31cの外周面のトランスミッション側(図8の右側)には環状の溝31eが形成されている。溝31eは、その両側面によって、ワイヤリング39の本体31に対する軸方向の移動を規制する。また、溝31eの内周面の径はワイヤリング39の内径よりも小さく設定されており、溝31e内におけるワイヤリング39の内周側への弾性変形が許容される。
【0046】
減力機構33は、スプラインハブ5cから入力される軸方向に沿った力を所定の値に落として本体31に伝える機構である。この減力機構33は、図6に示すように、伝達部材35と、スプリング36と、スプリング保持部材37と、リング38とから構成されている。伝達部材35のトランスミッション側の端部は、図1に示すように、スプラインハブ5cのエンジン側の端面に当接する。スプリング保持部材37は、図6に示すように、筒状の内周保持部37aと、内周保持部37aのエンジン側端から外周側に延びる軸方向規制部37bとから成っている。また、内周保持部37aの外周面のトランスミッション寄りの部分には、リング38を固定する溝37cが形成されている。スプリング36は、内径が内周保持部37aの外径とほぼ等しい2枚の環状の皿ばねであり、伝達部材35のエンジン側の端面と軸方向規制部37bのトランスミッション側の端面との間に保持される。リング38は、溝37cに固定され、伝達部材35のトランスミッション側への移動を規制する。
【0047】
ワンウェイ係止部材34は、環状の円板であって、減力機構33と本体31との軸方向の力の伝達を仲介する部材であり、かつ、本体31のワンウェイ溝31dとともに位置補正機構32を構成する部材である。ワンウェイ係止部材34の内周面は、トランスミッション側端の径がエンジン側端の径よりも小さくなる傾斜を有している。なお、このワンウェイ係止部材34の内周面の傾斜は、ワンウェイ溝31dのトランスミッション側の面の傾斜とほぼ等しい傾斜である。ワンウェイ係止部材34のトランスミッション側の面は減力機構33のスプリング保持部材37の軸方向規制部37bに当接している。また、ワンウェイ係止部材34は、所定の弾性を有しており、内周面にかかる径方向外側への力によって径方向外側に膨らむように弾性変形をする。
【0048】
位置補正機構32は、ワンウェイ係止部材34とワンウェイ溝31dと(一対のワンウェイ噛み合い部)の噛み合い、及びワンウェイ係止部材34の弾性変形を利用した機構である(図6参照)。この位置補正機構32は、減力機構33と本体31との間の軸方向の力の伝達量が所定の値(F1)以下の場合には減力機構33と本体31との軸方向の相対移動をさせず、減力機構33と本体31との間の軸方向の力の伝達量が(F1)以上になった場合には減力機構33の本体31に対する位置をエンジン側にずらすものである。減力機構33と本体31との間の軸方向の力の伝達量が(F1)以下の場合、減力機構33をエンジン側に移動させようとする力は、ワンウェイ係止部材34の内周面とワンウェイ溝31dのトランスミッション側の面との当接部分を介して本体31に伝わる。これにより、減力機構33の移動量とほぼ同じだけ本体31が移動する。これに対し、減力機構33と本体31との間の軸方向の力の伝達量が(F1)を超えた場合、ワンウェイ係止部材34の内周面とワンウェイ溝31dのトランスミッション側の面との当接部分におけるワンウェイ係止部材34と本体31とに互いに作用する径方向に沿った反力が所定値(F2)を超える。すると、ワンウェイ係止部材34が(F2)によって弾性変形をして、ワンウェイ係止部材34の内径がワンウェイ溝31dのトランスミッション側の面の外径よりも大きくなる。これにより、減力機構33と本体31とを軸方向に連結していたワンウェイ係止部材34とワンウェイ溝31dとの噛み合いがはずれ、すなわち、減力機構33と本体31との連結が一時的に解除され、減力機構33が本体31に対してエンジン側に移動する。そして、ワンウェイ係止部材34とワンウェイ溝31dとは再び新たな位置で噛み合う状態となる。
【0049】
ワイヤリング39は、断面が円形で、所定の弾性を有するリングであって、図8に示すように、溝31eに配置されている。
【0050】
シンクロブロック41は、内周部がシンクロギア組立体30の本体31の小筒部31cとスプライン係合しており、本体31に回転不能かつ軸方向の移動が可能に支持されている。このシンクロブロック41は、一端がワイヤリング39の外径よりも大きな径を有し他端がワイヤリング39の外径よりも小さな径を有しておりエンジン側にいくに従って径の小さくなるコーン状斜面41aを有している(図8参照)。このコーン状斜面41aは、ワイヤリング39と当接し、ワイヤリング39との間で力のやりとりを行う。シンクロブロック41の外周面には摩擦材45が貼り付けられている。このシンクロブロック41の外周面及び摩擦材45の外面(摩擦面)は、入力プレート14の円筒部14cの内周面とほぼ同じ傾斜を有しており、サブクラッチ13を接続状態とするときに円筒部14cの内周面と摩擦係合する。
【0051】
リターンスプリング42は、4枚の環状の皿ばねであって、内周端が芯部材15の外周面と当接している。このリターンスプリング42は、エンジン側端が入力プレート14の凹部14dと当接し、トランスミッション側端がシンクロギア組立体30の本体31の小筒部31cと当接しており、シンクロギア組立体30の本体31をトランスミッション側に付勢している。
【0052】
スナップリング43は、断面が長方形のリングであり、入力プレート14の円筒部14cの内周面のトランスミッション側端に設けられた溝にはめ込まれる。このスナップリング43は、シンクロブロック41のトランスミッション側端の外周部分と当接して、シンクロブロック41の軸方向のトランスミッション側への移動を規制する。
【0053】
次に、連結機構1及びダイナミックダンパー10の動作について説明する。
【0054】
エンジンのクランク軸8の回転はフライホイール組立体2及びメインクラッチ3を介してトランスミッションの入力軸9に伝達される。
【0055】
メインクラッチ3が接続解除の状態、すなわちクラッチディスク組立体5がフライホイール2a及びプレッシャープレート4cと摩擦係合していないときには、スプラインハブ5cは図1に示すような軸方向の位置にあり、サブクラッチ13は図8に示す状態(接続解除の状態)にある。図8に示すサブクラッチ13は、シンクロギア31bが歯14eと噛み合っておらず、シンクロブロック41の摩擦材45も入力プレート14の円筒部14cと摩擦係合していない。したがって、シンクロギア組立体30やシンクロブロック41はトランスミッションの入力軸9と共に回転しているが、入力プレート14、弾性部組立体12、及び質量体11はトランスミッションの入力軸9の動きとは無関係な状態にある。
【0056】
メインクラッチ3を接続させるときには、ダイヤフラムスプリング4bの付勢力によりプレッシャープレート4cをフライホイール2a側に移動させて、クラッチディスク組立体5をフライホイール2aとプレッシャープレート4cとの間に挟持させる。これにより、エンジンのクランク軸8とトランスミッションの入力軸9とが連結される。このとき、周知のように、フレキシブルプレート組立体2bのフレキシブルプレート2cがエンジンのクランク軸8の軸方向の振動を吸収し、クラッチディスク組立体5のコイルスプリング5bなどがトルク変動を減衰・吸収する。
【0057】
メインクラッチ3を接続状態とすると、クラッチディスク組立体5のスプラインハブ5cが軸方向に沿ってエンジン側に移動する。すると、このスプラインハブ5cが伝達部材35をエンジン側に押し、スプリング36が所定量だけ圧縮される(図9参照)。この図9の状態になるまでの間は、スプリング36の反力により本体31がエンジン側に力を受ける。しかし、シンクロブロック41のコーン状斜面41aによりワイヤリング39の軸方向の移動が規制されているため、本体31は殆ど軸方向に移動しない。ただし、スプリング36の反力が大きくなるに従って、ワイヤリング39は内周側に径が小さくなるような弾性変形をする。そして、ワイヤリング39の弾性反力により、シンクロブロック41は、径方向外側に力を受け、入力プレート14の円筒部14cに押し付けられていく。このようにして、図9の状態になるまでに、シンクロブロック41の摩擦材45と入力プレート14の円筒部14cとの摩擦により、だんだんとトランスミッションの入力軸9と入力プレート14との回転数が同期していく。
【0058】
図9に示すよりも更にスプリング36が圧縮されていくと、スプリング36の反力及びワイヤリング39の弾性変形量が大きくなり、変形したワイヤリング39の外径がコーン状斜面41aの内径よりも小さくなる。すると、ワイヤリング39がシンクロブロック41から受ける力がシンクロブロック41の内周面との摩擦抵抗による力だけになり、この力はスプリング36の反力に較べて十分に小さいため、スプリング36が伸長し、本体31が軸方向に沿ってエンジン側に移動し、リターンスプリング42が圧縮され、シンクロギア31bが歯14eと噛み合う(図10参照)。このとき、図9の状態において既にある程度トランスミッションの入力軸9と入力プレート14との回転が同期しているため、シンクロギア31bと歯14eとの噛み合いがスムースとなる。これ以降は、主としてシンクロギア31bと歯14eとの噛み合いによってトランスミッションの入力軸9とダイナミックダンパー10とが連結されるため、十分なトルク伝達容量が確保される。
【0059】
ダイナミックダンパー10がトランスミッションの入力軸9に連結されると、トランスミッションのニュートラル時の中立音や走行時の異音がダイナミックダンパー10により制振される。特に部分回転域でのトランスミッションの振動がダイナミックダンパー10によりアクティブに制振される。
【0060】
この連結機構1が長期間使用されると、メインクラッチ3のクラッチディスク組立体5の摩擦フェーシング5aが摩耗して軸方向の厚さが減少する。すると、スプラインハブ5cの軸方向の移動量が従前よりも大きくなる。この場合、図10に示す状態から更に減力機構33がエンジン側に移動する。しかし、本体31は完全に圧縮されたリターンスプリング42を介して入力プレート14の凹部14dによってエンジン側への移動ができない状態にあるので、本体31と減力機構33との間に大きな反力が発生する。この反力は、本体31のワンウェイ溝31dのトランスミッション側の面を介してワンウェイ係止部材34を径方向外側に押し出す。これにより、ワンウェイ係止部材34が径方向外側に膨らむような弾性変形をして、ワンウェイ係止部材34とワンウェイ溝31dとの係止が解除され、本体31に対して減力機構33がエンジン側にずれる(図11参照)。このようにして、摩擦フェーシング5aの摩耗に対応して本体31と減力機構33との軸方向の位置関係が補正され、本体31のトランスミッション側端と伝達部材35のトランスミッション側端との距離が図10に示すmから図11に示すnとなる。
【0061】
また、サブクラッチ13のシンクロブロック41の摩擦材45が摩耗すると、ワイヤリング39がシンクロブロック41のコーン状斜面41aを押す力のうち軸方向に沿った分力によってシンクロブロック41がトランスミッション側に移動する。すると、図11に示すように、シンクロブロック41と入力プレート14との軸方向の相対位置がずれて、入力プレート14の円筒部14cの内周面の傾きにより摩擦材45の摩耗分が補填される。なお、図11では、シンクロブロック41と入力プレート14との相対位置のずれ量はpであり、スナップリング43とシンクロブロック41との間には長さpの隙間が空く。
【0062】
メインクラッチ3が解除されスプラインハブ5cがトランスミッション側に移動すると、リターンスプリング42の反力によりサブクラッチ13の各構成部品もトランスミッション側に移動して、サブクラッチ13が接続解除の状態となる。
【0063】
次に、本実施形態の構造を採ることによる効果について説明する。
【0064】
第1に、質量体11を質量体11の内周側において径方向及び軸方向に支持している。すなわち、トランスミッションの入力軸9に接続される入力プレート14と質量体11とをゴム部材21を含む弾性部組立体12によって連結することにより、質量体11の入力プレート14に対する回転方向、径方向、及び軸方向の位置の保持の役割を弾性部組立体12に集中させる構造を採っている。このため、質量体11の外周側等に別個の支持機構などを配置する必要がなく、この分だけ質量体11の質量を増大させることが可能となってダンパー特性の設定範囲が拡大している。また、弾性部組立体12が異方性を有しているため、ダンパー特性に対応する弾性部組立体12の回転方向の弾性設定と、他の部材との干渉回避等のために質量体11の支持に必要な弾性部組立体12の径方向の弾性設定とが両立させることができている。
【0065】
第2に、ダイナミックダンパー10は、ゴム部材21を弾性部組立体12に採用したため、弾性部組立体12は回転方向及び軸方向に弾性を有することとなり、軸方向の振動に対しても作用して軸方向の振動をも制振する。また、トランスミッションの捩り振動に対する固有振動数と軸方向の振動に対する固有振動数とが異なることから捩り振動を特に制振したい周波数領域と軸方向の振動を特に制振したい周波数領域とは異なるが、回転方向及び軸方向に弾性を有するゴム部材21に外周突起部21bを設けているため弾性部の回転方向の弾性と弾性部の軸方向の弾性とを別々に設定することが可能となり、捩り振動を特に制振したい周波数領域での捩り振動及び軸方向の振動を特に制振したい周波数領域での軸方向の振動をそれぞれ効率よく低減できる。
【0066】
第3に、本実施形態のダイナミックダンパー10では、ゴム部材21の劣化を抑えることができる。すなわち、ダイナミックダンパー10には、メインクラッチ3が接続してトランスミッションの入力軸9が回転し始めるときなどに、大きなトルクが作用する。このようなトルクが作用すると、ゴム部材に強度上許容されない過剰な応力がかかりゴム部材が劣化する原因となる。しかし、ここでは、ゴム部材21に所定の隙間sを持った空洞21cを設けている。これにより、トランスミッションの入力軸9に接続された入力プレート14と質量体11との間に大きなトルクが作用しても、ゴム部材21の所定の変形の後には、空洞21cの隙間sが消滅して入力プレート14と質量体11とはほぼ剛に連結された状態となり、ゴム部材21の大部分には隙間sがなくなる所定の変形に対応する力以上の力は作用しなくなる。したがって、ダイナミックダンパー10にゴム部材21を採用した場合においても、ゴム部材21の強度を確保することができる。また、ここでは、外周側筒状部材22と内周側筒状部材23との間のゴム部材21の形状を筒状としているので、円周方向に力が作用するときのゴム部材21における応力集中が抑えられる。
【0067】
第4に、複数の弾性部組立体12により入力プレート14と質量体11とを連結する構造を採っているため、弾性部組立体12の円周方向両側に入力プレート14の連結部分及び質量体11の連結部分を配置することができ、入力プレート14から質量体11へと伝達される力は、ゴム部材21の剪断ではなく主としてゴム部材21の圧縮及び曲げを介して伝わる。このように、ゴム部材21においては、剪断変形が抑えられ、主として剪断変形に対して比較的許容範囲の広い曲げ変形や圧縮変形が発生する。したがって、主としてゴム部材21の剪断を介して入力プレート14と質量体11とを連結する場合に較べて、ゴム部材21の材質を上げることなく、あるいはダンパー特性を犠牲にしてゴム部材21の剛性をあげることなく、ゴム部材21、弾性部組立体12、入力プレート14との連結部分、及び質量体11との連結部分などに作用する応力が低減している。
【0068】
第5に、サブクラッチ13に摩擦係合式のものに較べて一般にトルク伝達容量が大きいギア噛み合い式のクラッチを採用しているため、サブクラッチ13が小型化しており、サブクラッチ13を連結機構1の内周部分に配置することができ、連結機構1の大型化が抑えられている。また、シンクロブロック41をサブクラッチ13に採用したことで、シンクロギア31bと入力プレート14の歯14eとの噛み合いがスムースとなり、また、シンクロギア31b及び入力プレート14の歯14eの損傷も抑えられる。
【0069】
第6に、サブクラッチ13が位置補正機構32を有しているため、メインクラッチ3の摩擦フェーシング5aが摩耗したときにも、サブクラッチ13の接続及び接続解除の動作に対する悪影響が抑えられている。すなわち、摩擦フェーシング5aが摩耗しても、摩耗する前と同様に、ダイナミックダンパー10は有効に作動し、トランスミッションの振動が制振される。
【0070】
第7に、この連結機構1では、ボールベアリング6の外輪6aをエンジンのクランク軸8に固定し、ボールベアリング6の内輪6bをダイナミックダンパー10の入力プレート14に固定している。これにより、従来無駄になっていたボールベアリングの内周側のスペースを有効に利用することが可能となり、ここでは、ボールベアリング6の内周側のスペースを利用してサブクラッチ13を配置している。このようにサブクラッチ13を連結機構1の内周部分に配置しているため、連結機構1の大型化が抑えられている。
【0071】
[参考例]
この例の記述に関しては、第1実施形態と同一又は同様な部材の符号について同一符号を付すものとする。
【0072】
この例におけるダイナミックダンパーを含むフライホイール組立体の縦断面を図13に示す。ダイナミックダンパー70は、エンジンのクランク軸90とトランスミッションの入力軸9との接続及び接続解除を行う連結機構91に含まれるものであって、サブクラッチ73によってトランスミッションの入力軸9に接続されてトランスミッションの振動を制振する役割を果たす。
【0073】
連結機構91は、主として、ダイナミックダンパー70を含むフライホイール組立体60と、クラッチカバー組立体4及びクラッチディスク組立体5から成るメインクラッチ3とにより構成されている。この連結機構91の回転軸は、図13の軸O−Oである。
【0074】
フライホイール組立体60は、エンジンのクランク軸90に回転不能に連結されるものであり、主として、フライホイール61と、ハウジング部材62と、ダイナミックダンパー70とから構成される。フライホイール61とハウジング部材62とは、互いの外周部にて連結されている。フライホイール61の外周部には、トランスミッション側(図13の右側)に複数の凹状の切欠き凹部61bが設けられており、更にこの切欠き凹部61bの底面(エンジン側(図13の左側)の面)の中央には、軸方向にフライホイール61を貫通する複数の孔61aが設けられている。ハウジング部材62の内周端は、円周方向に等間隔に配置されたボルトによって、エンジンのクランク軸90に固定されている。ダイナミックダンパー70については後述する。
【0075】
メインクラッチ3のクラッチカバー組立体4は、主として、クラッチカバー4aと、環状のダイヤフラムスプリング4bと、ダイヤフラムスプリング4bによってエンジン側に付勢されるプレッシャープレート4cとから構成されている。クラッチカバー4aは、外周部がフライホイール61のトランスミッション側の端部に固定されている。クラッチカバー4aの内周部は、ワイヤリング4dを介してダイヤフラムスプリング4bの径方向中間部分を支持している。プレッシャープレート4cは、ダイヤフラムスプリング4bの外周部等によりクラッチカバー4a内に保持されている。このプレッシャープレート4cは、ダイヤフラムスプリング4bの内周端を図示しないレリーズベアリングで回転軸O−Oに沿った方向(以下、軸方向という。)に移動させて、ダイヤフラムスプリング4bで付勢させる、あるいはそのダイヤフラムスプリング4bの付勢を解除させることにより、軸方向に移動する。このクラッチカバー組立体4は、フライホイール61に対してプレッシャープレート4cを付勢することで、クラッチディスク組立体5をフライホイール61とプレッシャープレート4cとの間に挟持して、フライホイール組立体4とクラッチディスク組立体5とを摩擦係合させる役割を果たす。
【0076】
メインクラッチ3のクラッチディスク組立体5は、主として、摩擦フェーシング5aを有する摩擦係合部と、内周部がトランスミッションの入力軸9とスプライン係合しているスプラインハブ5cと、摩擦係合部とスプラインハブ5cとを回転方向に弾性的に連結する図示しないコイルスプリングとから構成されている。
【0077】
次に、ダイナミックダンパー70の構造について詳述する。
【0078】
ダイナミックダンパー70は、主として、環状の質量体(質量部)71と、環状ゴム部材72と、支持用円板プレート74及びサブクラッチハウジング81から成る入力部と、サブクラッチ73と、円板プレート75とから構成される。
【0079】
環状ゴム部材72は、質量体71と入力部とを、円周方向、軸方向、及び径方向に弾性的に連結する。
【0080】
入力部は、環状の円板である支持用円板プレート74とサブクラッチハウジング81とをリベットにより結合したものである。サブクラッチハウジング81は、円板部81aと、円板部81aの内周端からトランスミッション側に延び更に内周側に延びる固定部81bと、円板部81aの外周端からトランスミッション側に延びる円筒部81cと、円筒部81cのトランスミッション側端から内周側に延びる軸方向規制部81dとから構成されている。円筒部81cには、円周方向に複数の開口が設けられている。
【0081】
この入力部は、内周部、すなわち支持用円板プレート74の内周部分とサブクラッチハウジング81の固定部81bとがボールベアリング(軸受)7の外輪7aに固定されている。このボールベアリング7の内輪7bがエンジンのクランク軸90に固定されているので、入力部は、エンジンのクランク軸90に対して、軸方向及び径方向に移動不能に、回転方向に回転自在に支持される状態となる。
【0082】
また、この入力部は、外周部、すなわち支持用円板プレート74の外周部分とサブクラッチハウジング81の円筒部81cの外周面とが環状ゴム部材72の内周面に接着されている。
【0083】
サブクラッチ73は、上記3者(質量体71,環状ゴム部材72,入力部)をトランスミッションの入力軸9に接続及び接続解除するクラッチ機構であって、摩擦係合式のものである。このサブクラッチ73は、図13及び図14に示すように、主として、サブクラッチハウジング81と、摩擦プレート82と、リリース用連結部材84と、コーンスプリング85と、リリース用筒状部材(解除部材)86と、シート87と、コイルスプリング88とから構成されている。
【0084】
摩擦プレート82は、軸方向両面に摩擦部材83が貼り付けられた外周部82aと、外周部82aの内周端から内周側かつトランスミッション側に斜めに延びる内周部82bと、内周部82bの内周端から内周側に突出する複数の爪82cとから成る。
【0085】
リリース用連結部材84は、円板である内周円板部84aと、内周円板部84aから外周側かつトランスミッション側に斜めに延びる複数の中間レバー84bと、中間レバー84bの外周端から外周側に延びるレバー外周部84cとから成る。内周円板部84aは、その内周端付近において円筒部81cに設けられた開口を貫通しており、軸方向に移動可能となっている。
【0086】
コーンスプリング85は、外周部がサブクラッチハウジング81の軸方向規制部81dによってトランスミッション側への移動を規制された状態で、内周部がリリース用連結部材84の内周円板部84aを介して摩擦プレート82の外周部82aを入力部(サブクラッチハウジング81の円板部81a)に対して付勢している。
【0087】
リリース用筒状部材86は、筒状部86aと、筒状部86aのエンジン側端から内周側に延びる係止部86bとから成るものであり、筒状部86aがフライホイール61の孔61aを貫通している。筒状部86aのトランスミッション側端には、シート87が軸方向に離れないようにかしめられている。係止部86bのトランスミッション側の面はリリース用連結部材84のレバー外周部84cのエンジン側の面と当接している。
【0088】
コイルスプリング88は、フライホイール61の切欠き凹部61b内に配置され、常にシート87をプレッシャープレート4cに押し付けている。これにより、シート87及びリリース用筒状部材86はプレッシャープレート4cの軸方向の移動に追従する。
【0089】
円板プレート75は、トランスミッションの入力軸9とサブクラッチ73の摩擦プレート82とを連結するプレートである。円板プレート75の内周部はスプラインハブ5cに固定されている。円板プレート75は外周端からエンジン側(図1の左側)に突出する複数の爪75aを有しており、この爪75aは摩擦プレート82の爪82cと円周方向に係合している。したがって、摩擦プレート82は、円板プレート75に対して、回転不能かつ軸方向に移動可能な状態にある。
【0090】
次に、連結機構91及びダイナミックダンパー70の動作について説明する。
【0091】
エンジンのクランク軸90の回転はフライホイール組立体60及びメインクラッチ3を介してトランスミッションの入力軸9に伝達される。
【0092】
メインクラッチ3が接続の状態(図13の参照)のときには、ダイヤフラムスプリング4bの付勢力によりプレッシャープレート4cがフライホイール61側に付勢されており、クラッチディスク組立体5はフライホイール61とプレッシャープレート4cとの間に挟持される。これにより、エンジンのクランク軸90とトランスミッションの入力軸9とが連結される。このとき、図13に示すように、摩擦プレート82がコーンスプリング85によってエンジン側に付勢されて入力部のサブクラッチハウジング81と摩擦プレート82とが摩擦係合した状態となる。したがって、トランスミッションの入力軸9とダイナミックダンパー70の質量体71,環状ゴム部材72,及び入力部とは、円板プレート75及び摩擦プレート82を介して連結された状態となる。
【0093】
ダイナミックダンパー70がトランスミッションの入力軸9に連結されると、トランスミッションのニュートラル時の中立音や走行時の異音がダイナミックダンパー70により制振される。特に部分回転域でのトランスミッションの振動がダイナミックダンパー70によりアクティブに制振される。
【0094】
メインクラッチ3が解除されプレッシャープレート4cがトランスミッション側に移動すると、リリース用筒状部材86もこれに従ってトランスミッション側に移動する。すると、リリース用連結部材84がコーンスプリング85の反力に抗してトランスミッション側に移動し、摩擦プレート82とサブクラッチハウジング81との摩擦係合によるトルク伝達容量が小さくなる。すなわち、メインクラッチ3が接続解除状態であっても、サブクラッチ73は完全には接続が解除されず、ダイナミックダンパー70の質量体71,環状ゴム部材72,及び入力部はトランスミッションの入力軸9の回転速度に近い回転速度で回転する。
【0095】
次に、この参考例の構造を採ることによる効果について説明する。
【0096】
第1に、質量体71を質量体71の内周側において径方向及び軸方向に支持している。すなわち、トランスミッションの入力軸9に接続される入力部と質量体71とを環状ゴム部材72によって連結することにより、質量体71の入力部に対する回転方向、径方向、及び軸方向の位置の保持の役割を環状ゴム部材72に集中させる構造を採っている。このため、質量体71の外周側等に別個の支持機構などを配置する必要がなく、この分だけ質量体71の質量を増大させることが可能となってダンパー特性の設定範囲が拡大している。また、環状ゴム部材72に異方性を備えさせると、ダンパー特性に対応する環状ゴム部材72の回転方向の弾性設定と、他の部材との干渉回避等のために質量体71の支持に必要な環状ゴム部材72の径方向の弾性設定とを両立させることができる。
【0097】
第2に、ダイナミックダンパー70は、環状ゴム部材72を採用したため、環状ゴム部材72は回転方向のみならず軸方向にも弾性を有することとなり、軸方向の振動に対してもダイナミックダンパーとして作用して軸方向の振動をも制振する。
【0098】
第3に、メインクラッチ3が接続解除状態であってもサブクラッチ73は完全には接続が解除されず、ダイナミックダンパー70はトランスミッションの入力軸9の回転速度に近い回転速度で回転するため、メインクラッチ3を接続させるときのダイナミックダンパー70の回転速度とトランスミッションの入力軸9の回転速度との差が小さくなる。したがって、摩擦プレート82の摩擦部材83に作用する回転方向の力も小さくなる。このため、摩擦部材83の材質選定における条件が緩和され、摩擦部材83のコストが抑えられる。
【0099】
ただし、メインクラッチ3の接続解除時に行われるトランスミッションの変速動作をスムースに行うためにはトランスミッションの入力軸9の慣性を小さくすることが望ましいので、メインクラッチ3の接続解除時におけるダイナミックダンパー10の入力部とトランスミッションの入力軸9とのトルク伝達量の低減が求められる。このような要請と本実施形態におけるメインクラッチ3が接続解除状態であってもサブクラッチ73を完全には接続解除しないという機構とは相反するものである。したがって、メインクラッチ3の接続解除時にサブクラッチ73により伝達されるトランスミッションの入力軸9とダイナミックダンパー10の入力部との間のトルク伝達量の設定については、両方の要請を比較考量して決定している。
【0100】
第4に、この連結機構91では、サブクラッチ73の連動を解除するために、プレッシャープレート4cの移動に従って移動するリリース用筒状部材86を採用している。このプレッシャープレート4cの軸方向の移動量は、クラッチディスク組立体5の移動量に較べて大きい。このため、クラッチディスク組立体5の軸方向の移動を利用してサブクラッチを操作させる構造を採る場合に較べて、サブクラッチ73の接続及び接続解除の動作が安定する。
【0101】
【発明の効果】
本発明のダイナミックダンパーでは、回転方向及び軸方向に弾性を有するゴム部材を含む弾性部を採用しており、捩り振動のみならず軸方向の振動をも制振することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態におけるフライホイール組立体の縦断面図。
【図2】質量体の平面図。
【図3】弾性部組立体の縦断面図。
【図4】弾性部組立体の正面図(エンジン側より見る)。
【図5】弾性部組立体の裏面図(トランスミッション側より見る)。
【図6】減力機構周辺の断面拡大図。
【図7】フライホイール組立体の組立分解図。
【図8】サブクラッチの状態断面図。
【図9】サブクラッチの状態断面図。
【図10】サブクラッチの状態断面図。
【図11】サブクラッチの状態断面図。
【図12】弾性部組立体の状態平面図。
【図13】参考例におけるフライホイール組立体の縦断面図。
【図14】参考例のサブクラッチの断面図。
【符号の説明】
1 連結機構
2 フライホイール組立体
2a フライホイール
2c フレキシブルプレート(プレート部材)
3 メインクラッチ
4 クラッチカバー組立体
5 クラッチディスク組立体
8 エンジンのクランク軸
9 トランスミッションの入力軸
10 ダイナミックダンパー
11 質量体(質量部)
12 弾性部組立体(弾性部)
13 サブクラッチ
21 ゴム部材
21a 本体部(第1ゴム部)
21b 外周突起部(第2ゴム部)
61 プレッシャープレート
61a 孔
70 ダイナミックダンパー
71 質量体(質量部)
72 環状ゴム部材(弾性部)
73 サブクラッチ
90 エンジンのクランク軸
91 連結機構
Claims (4)
- メインクラッチを含みエンジンのクランク軸とトランスミッションの入力軸とを連結する連結機構において、前記トランスミッションの入力軸に従動可能なダイナミックダンパーであって、
前記トランスミッションの入力軸の回転と連動して回転し得る入力プレートと、
前記入力プレートの外周側に配置された質量部と、
前記入力プレートと前記質量部とを回転方向及び軸方向に弾性的に連結するとともに、前記質量体の前記入力プレートに対する回転方向、軸方向及び径方向の位置を保持する、ゴム部材を含む弾性部と、
前記メインクラッチによって前記エンジンのクランク軸と前記トランスミッションの入力軸との連結が解除されるときに、前記トランスミッションの入力軸と前記入力プレート及び前記質量部との連動を解除するサブクラッチと、
を備え、
前記ゴム部材は、前記入力プレートと前記質量部とを主に回転方向に連結する第1ゴム部と、前記入力プレートと前記質量部とを主に軸方向に弾性的に連結する第2ゴム部とを有している、
ダイナミックダンパー。 - 前記弾性部は回転方向の弾性と軸方向の弾性とが異なっている、請求項1に記載のダイナミックダンパー。
- エンジンのクランク軸に回転不能に連結され、トランスミッションの入力軸と連結されているクラッチディスク組立体が断続する、フライホイールと、
請求項1又は2に記載のダイナミックダンパーと、
を備えたフライホイール組立体。 - 内周部が前記エンジンのクランク軸に固定され、外周部が前記フライホイールに固定される、所定の剛性を有し回転軸に沿った振動を吸収するプレート部材をさらに備えた、請求項3に記載のフライホイール組立体。
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