JP3651729B2 - 含浸用樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、含浸用樹脂組成物に係り、特に車輌用回転電機、一般産業用回転電機、または変圧器等の静止誘導電機装置の電気絶縁線輪に用いられる含浸用樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、車輌用回転電機および一般産業用回転電機は、小型軽量化の要求が益々高くなり、特に、回転電機の電気絶縁線輪は絶縁性に優れたものが要求されている。
【0003】
このような電気絶縁線輪の絶縁層は、例えば次のようにして作製される。すなわち、まず、ガラス繊維やポリアミド等の無機繊維、あるいは有機繊維からなる織布や不織布;有機高分子フィルムなどの基材に集成マイカを貼り合わせたマイカシート、およびこれらをテープ状に切断したマイカテープとバインダとを含む絶縁基材でコイル導体の表面を覆って所望の厚さの被覆層を形成する。次いで、得られた被覆層に低粘度の不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性の含浸ワニスを真空または加圧含浸し、硬化させることによって絶縁層を形成する。
【0004】
なお、含浸ワニスとしては、種々の特性のバランスが優れているエポキシ系樹脂が一般に用いられている。一方、マイカ絶縁テープのバインダとしては、巻回作業性の点からべとつきの少ないものか、または固体状のものが要求される。絶縁層の耐熱性を向上させるためには、高耐熱性を有する固体状のエポキシ化合物またはエポキシとマレイミドとをバインダに配合したマイカ絶縁テープを導体に巻回し、この絶縁テープにエポキシ/酸無水物硬化系のワニスを含浸することが提案されている。
【0005】
エポキシ樹脂の硬化剤として酸無水物を用いると、エポキシ樹脂系の低粘度化を図れるうえに、電気的特性、機械的特性等の良好な硬化樹脂層を形成することができる。
【0006】
特に耐熱性を重視した電気機器の電気絶縁線輪を製造する際には、絶縁層の耐熱性を向上させるために、比較的高粘度のワニスが用いられているが、絶縁テープへのワニスの含浸性を高めるために、通常、ワニスを加熱してその粘度を下げて含浸作業を行なっている。このようにワニスを加熱すると、貯蔵期間(含浸ワニスの可使時間)が短くなるという問題が避けられない。
【0007】
これに対し、上述したようなエポキシ酸無水物硬化系のワニスは、低粘度ゆえに可使時間は長いものの硬化の際に比較的高い温度と長時間とが必要とされるため、一般には硬化促進剤が配合されている。しかしながら、硬化促進剤をワニスに直接添加するとワニスの粘度が上昇するので、高粘度のワニスの場合にように貯蔵期間が短くなってしまう。
【0008】
特に電気絶縁線輪の絶縁層へのワニスの含浸は、ワニスを満たした含浸タンクに絶縁線輪を入れて含浸し、それが終わると新たに別の絶縁線輪を入れて含浸させるというように、含浸ワニスは何度も繰り返して使用される。このため、含浸ワニスは貯蔵期間の長いものが望まれており、含浸ワニスの硬化促進剤としてワニスの貯蔵期間に影響を与えない潜在性のものが種々検討されている。
【0009】
このような潜在性の硬化促進剤としては、例えば、第4級ホスホニウム系化合物、イミダゾール系化合物、3フッ素化ホウ素アミン系化合物、第3級アミンとエポキシとの付加反応生成物、テトラフェニルボロン錯体、および金属アセチルアセトネート等種々のものが知られている。
【0010】
さらに、ワニスの貯蔵期間を引き延ばすための他の手法として、硬化促進剤をマイクロカプセル化してワニス中に分散させることが提案されている。かかるワニスを所定の温度以上で加熱することによりカプセルが溶解して硬化促進剤がワニス中に溶出し、それによって硬化反応を促進するものであるが、この場合には次のような欠点を伴なってしまう。
【0011】
含浸ワニスは緻密な絶縁層に含浸されるので、硬化促進剤は含浸温度においてワニス中に溶解していなければならない。マイクロカプセル化された硬化促進剤は、ある一定の粒径を有しているため、絶縁層が厚い場合にはマイクロカプセルが絶縁層内部まで十分に進入しないおそれがある。この場合には、絶縁層の内部における硬化促進剤が不足するので加熱硬化時に硬化不良を起こし、甚だしい場合には樹脂が発砲してしまい、結果として、得られる硬化物の電気特性は極めて劣悪なものとなる。
【0012】
また、含浸ワニスに硬化促進剤を直接添加した場合には、上述したようにワニスの貯蔵期間が短くなったり硬化物の特性が低下したりすることから、硬化促進剤をワニスではなく、絶縁層に予め添加しておく方法も提案されている。具体的には、硬化促進剤を絶縁テープのバインダ中に添加しておく、あるいはコイル導体に絶縁テープを巻回後、硬化促進剤の溶液を浸み込ませて乾燥しておき、このような絶縁テープにワニスを含浸し、加熱硬化するという方法である。
【0013】
しかしながら、硬化促進剤が添加された絶縁層においては、硬化促進剤の含まれていない主絶縁層の層間の空隙部分が、硬化促進剤の含まれている絶縁基材部分よりも遅れて硬化する。その結果、均一な絶縁層が形成されにくくなるとともに、線輪の外側表面に付着した樹脂が硬化しにくくなるなどの欠点が有している。
【0014】
また、線輪の絶縁基材層に樹脂を含浸させた後、これを含浸容器から取り出し、恒温槽内において加熱処理を施すことにより絶縁基材層に浸透した樹脂を硬化する過程において、絶縁基材層に含浸した樹脂が硬化する前に流出してしまうという問題がある。
【0015】
含浸樹脂として使用されているエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂は、加熱硬化の際の温度上昇によって一時的に粘度が低下するという粘度特性を有しているので、上述したような加熱硬化過程におけるワニスの流出は避けられないものの、樹脂の流出が生じると緻密な絶縁層を形成することが困難となる。これに加えて、ワニスの流出により絶縁層内部にボイドが生じ、コロナ特性等の電気特性や線輪の熱放散性が著しく低下してしまう。
【0016】
さらにまた、電気機器の生産性の効率を向上させるためには、含浸樹脂は、含浸性および短時間硬化性を有するのみならず、バインダ裏打ち絶縁テープの種類によらず、良好な絶縁層を形成可能であることが要求される。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、絶縁層および含浸ワニスの両方に粉体の潜在性の硬化促進剤を含有させ、これらを用いて電気絶縁線輪を製造する方法が提案されている。しかしながら、この方法においてもワニス中における硬化促進剤の分散安定性が悪く、長期保管中に沈殿等が生じるなど、必ずしも十分とはいえなかった。
【0018】
また、絶縁層のバインダーに硬化促進剤を予め添加した場合には、絶縁テープ作製用としてバインダー樹脂と硬化促進剤とを溶解させた溶液が、数回の使用によりゲル化するという問題があった。さらに、このようにして作製された絶縁テープにおいては、長期間保存すると次第にバインダーの反応が進行し、それに伴なってテープが次第に固くなり、絶縁コイルへのテープの巻回作業性が低下するという問題が生じる。
【0019】
このような巻回作業性の悪いテープを用いて絶縁コイルを作製すると、製品の外観を損なうことに加え、絶縁層の電気的、機械的特性が低下するので、電気絶縁線輪としての信頼性が失われてしまう。したがって、上述したような絶縁テープは低温雰囲気下で保管する、あるいは作製した絶縁テープは速やかに使用しなければならないなどの制約があった。
【0020】
上述したように、電気絶縁線輪用の含浸ワニスとして用いられる樹脂組成物には、多くの特性が要求されるものの、これら全てを兼ね備えた含浸用樹脂組成物は未だ得られていないのが現状である。
【0021】
そこで、本発明は、長期貯蔵安定性、短時間硬化性、および高含浸性を備え、硬化後には、極めて良好な電気特性や機械特性を示す含浸用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0022】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明は、脂環式エポキシ化合物と、酸無水物と、有機基を有するアルミニウム化合物と、ブチルグリシジルエーテルとを含有し、前記脂環式エポキシ化合物に含まれるNaイオン成分の濃度が30ppm以下であり、前記脂環式エポキシ化合物および前記ブチルグリシジルエーテル以外のエポキシ化合物を含まないことを特徴とする含浸用樹脂組成物を提供する。
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の含浸用樹脂組成物に含有される脂環式エポキシ化合物は、環が直接エポキシ化された脂環式化合物であり、例えば以下に示す一般式(2)または(3)で表わされる化合物を挙げることができる。
【0024】
【化1】
(上記一般式中、Rは、アルキル基、エーテル結合、エステル結合、チオエーテル結合、スピロ環などを有し、2つ以上のエポキシ化環を結合させる有機基であり、nは2以上の整数である。)
より具体的には、脂環式エポキシ化合物としては、以下に示すものが挙げられる。
【0025】
【化2】
【0026】
さらには、チッソノックス221(商品名、チッソ社)などとして市販されている脂環式エポキシ化合物を用いてもよい。
上述した脂環式エポキシ化合物は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができるが、低粘度化して含浸性をよくするために下記一般式(1)で表わされる化合物が特に好ましい。
【0027】
【化3】
【0028】
本発明に用いられる脂環式エポキシ化合物のエポキシ当量は、特に限定されないが、硬化速度の観点からはエポキシ当量は200以下であることが好ましい。本発明の含浸用樹脂組成物中における脂環式エポキシ化合物の配合量は、粘度等に応じて適宜決定することができるが、通常全重量に対して20%以上70%以下程度である。
【0029】
なお、樹脂組成物の粘度、長期貯蔵安定性、および反応性等の観点から、本発明の含浸用樹脂組成物は、脂環式エポキシ化合物以外のエポキシ化合物を含有しない。
【0030】
また、貯蔵安定性の点から、本発明に用いられる脂環式エポキシ化合物は、ある程度の純度が要求され、例えば、脂環式エポキシ化合物中に含有されるイオン成分、特にNaイオンの濃度は30ppm以下に規定される。
【0031】
本発明の含浸用樹脂組成物において硬化剤として作用する酸無水物としては、例えば、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチル−テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ナジック酸無水物、メチルナジック酸無水物、クロレンディック酸無水物、ドデシニル無水コハク酸、メチル無水コハク酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ピロメリット酸無水物、および無水マレイン酸などが挙げられる。
【0032】
上述したような酸無水物は、脂環式エポキシ化合物と適宜組み合わせて用いることができるが、例えば、セロキサイド2021PにはQH200が好ましい。また、本発明の含浸用樹脂組成物における酸無水物の当量比は、脂環式エポキシに対して0.2以上1.5以下程度、さらには0.3以上1.2以下程度とすることが好ましい。0.2未満の場合には硬化が不十分となり、一方1.5を超えると、耐湿性が低下するおそれがある。
【0033】
本発明の含浸用樹脂組成物において、有機基を有するアルミニウム化合物は硬化促進剤として作用するものであり、かかる化合物としては例えば、アルミニウム原子にアルコキシ基、フェノキシ基、アシルオキシ基、β−ジケトナト基、およびo−カルボニルフェノラト基などが結合した有機アルミニウムの錯体化合物が挙げられる。
【0034】
ここで、アルコキシ基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、より具体的にはメトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、ペンチルオキシなどが挙げられ、フェノキシ基としてはフェノキシ基、o−メチルフェノキシ基、o−メトキシフェノキシ基、o−ニトロフェノキシ基、2,6−ジメチルフェノキシ基などが挙げられる。また、アシルオキシ基としては、アセタト、プロピオナト、イソプロピオナト、ブチラト、ステアラト、エチルアセトアセタト、プロピルアセトアセタト、ブチルアセトアセタト、ジエチルマラト、ジピバロイルメタナトなどの配位子が挙げられ、β−ジケトナト基としては、例えば、アセチルアセトナト、トリフルオロアセチルアセトナト、ヘキサフルオロアセチルアセトナト、アセトナト、および以下に示す化学式で表わされる配位子などが挙げられる。
【0035】
【化4】
【0036】
また、o−カルボニルフェノラト基としては、例えば、サリチルアルデヒダトが挙げられる。
上述したような有機基が結合したアルミニウム化合物としては、例えば、トリスメトキシアルミニウム、トリスエトキシアルミニウム、トリスイソプロポキシアルミニウム、トリスフェノキシアルミニウム、トリスパラメチルフェノキシアルミニウム、イソプロポキシジエトキシアルミニウム、トリスブトキシアルミニウム、トリスアセトキシアルミニウム、トリスステアラトアルミニウム、トリスブチラトアルミニウム、トリスプロピオナトアルミニウム、トリスイソプロピオナトアルミニウム、トリスアセチルアセトナトアルミニウム、トリストリフルオロアセチルアセトナトアルミニウム、トリスヘキサフルオロアセチルアセトナトアルミニウム、トリスエチルアセトアセタトアルミニウム、トリスサリチルアルデヒダトアルミニウム、トリスジエチルマロラトアルミニウム、トリスプロピルアセトアセタトアルミニウム、トリスブチルアセトアセタトアルミニウム、トリスジビバロイルメタナトアルミニウム、ジアセチルアセトナトビバロイルメタナトアルミニウム、さらに下記化学式で表わされる化合物が挙げられる。
【0037】
【化5】
【0038】
【化6】
【0039】
【化7】
【0040】
本発明において、上述したような有機基を有するアルミニウム化合物は、単独でまたは2種以上を混合して用いることができるが、貯蔵安定性の点からアルミニウムトリスアセチルアセトナートが特に好ましい。
【0041】
有機基を有するアルミニウム化合物の配合量は、酸無水物、脂環式エポキシ化合物およびブチルグリシジルエーテルの100重量部に対して、0.001〜1.0重量部の範囲であることが好ましく、0.005〜0.5重量部の範囲であることがより好ましい。有機基を有するアルミニウム化合物の量が0.001重量部未満の場合には、硬化が不十分となるおそれがあり、一方、1.0重量部を超えるとワニスの貯蔵時間が短くなる傾向がある。
【0042】
本発明の含浸用樹脂組成物に配合されるジブチルグリシジルエーテルは、反応性の希釈剤として作用するものであり、その配合量は、脂環式エポキシ化合物と酸無水物とブチルグリシジルジエーテルとの合計量100重量部に対して、例えば、1%以上30%以下、さらには5%以上25%以下とすることが好ましい。1%未満の場合には貯蔵安定性が悪くなり、一方、30%を超えると、機械的強度が低下するおそれがある。
【0043】
反応時間を短くするためには、Si−H結合を含む化合物が含有されることが好ましい。Si−H結合を含む化合物としては、フェニルシラン、トリス(2−クロロエトキシ)シラン、ブチルジメチルシラン、メチルフェニルシラン、ジメチルフェニルシラン、オクチルシラン、メチルフェニルビニルシラン、トリプロピルシラン、ジフェニルシラン、ジフェニルメチルシラン、トリペンチルオキシシラン、トリフェニルシラン、トリヘキシルシラン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ペンタメチルジシロキサン、1,4−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,1,1,3,5,7,7,7−オクタメチルテトラシロキサン、トリス(トリメチルシロキシ)シラン、1,3,5,7,9−ペンタメチルシクロペンタシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等のシラン化合物が挙げられる。
【0044】
これらのシラン化合物の配合量は、酸無水物、脂環式エポキシ化合物およびブチルグリシジルエーテルの合計量100重量部に対して0.001〜10重量部の範囲であることが好ましく、0.005〜5重量部であることがより好ましい。0.001重量部未満の場合には反応の促進効果が現れにくく、一方10重量部を超えると、貯蔵安定性が低下するおそれがある。
【0045】
前述のSi−H結合と同様の理由で加えるO−O結合を含む化合物としては、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジt−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−m−トルオイルベンゾエート等の有機過酸化物などが挙げられる。
【0046】
O−O結合を含む化合物の配合量は、酸無水物、脂環式エポキシ化合物、およびブチルグリシジルエーテルの合計量100重量部に対して、0.001〜10重量部の範囲であることが好ましく、0.005〜5重量部であることがより好ましい。0.001重量部未満の場合には添加の効果が現れにくく、一方10重量部を超えると、貯蔵安定性が低下するおそれがある。
【0047】
本発明の含浸用樹脂組成物は、例えば、酸無水物にアルミニウムアセチルアセトナートを60〜100℃で溶解させてからエポキシ化合物を配合するか、ブチルグリシジルエーテルにアルミニウムアセチルアセトナートを溶解させてからエポキシ化合物と酸無水物とを配合することによって調製することができる。
【0048】
得られる組成物の粘度は、20〜500cps程度であることが好ましい。この理由は、20cps未満の場合には、硬化特性が低下し、一方、500cpsを超えると、含浸性が低下するおそれがあるからである。
【0049】
以上のようにして調製された本発明の含浸用樹脂組成物は、電気絶縁線輪の絶縁層を形成するための材料として特に有用である。なお、電気絶縁線輪の絶縁層は、コイル導体にバインダ裏打ち絶縁テープを施し、これに含浸用樹脂組成物(ワニス)を含浸して加熱硬化する方法により形成することができる。
【0050】
この場合用いられる絶縁テープのバインダは、エポキシ樹脂を含有するものであるが、フェノール樹脂や固形の酸無水物などの硬化剤が配合されていてもよい。また、このような絶縁テープ中に硬化促進剤を配合することにより、絶縁層中の硬化反応をいっそう促進させることができる。
【0051】
ここで硬化促進剤としては、イミダゾール系化合物をはじめ、3フッ素化ホウ素アミン系化合物、有機基を有するアルミニウム化合物などの金属錯体化合物、シラノール基またはケイ素原子に直接結合した加水分解性基を有するオルガノシラン、およびオルガノシロキサンからなる群から選択された有機ケイ素化合物と有機アルミニウム化合物との複合硬化促進剤などが用いられる。
【0052】
また、絶縁テープ中に硬化触媒が含有されていてもよい。硬化触媒としては、アルミニウム錯体とSiOH、またはアルミニウム錯体とアルコキシシランを用いることができる。さらに硬化触媒として塩基触媒を用いてもよい。
【0053】
本発明の含浸用樹脂組成物は、低粘度であるために含浸性に優れており、硬化に要する時間も短い。しかも貯蔵期間が長いのでワニスの廃棄量も少なくなり、経済性の点でも有利である。
【0054】
また、本発明の含浸用樹脂組成物を用いることにより、バインダ裏打ちテープの種類によらず、良好な絶縁層を形成することができる。上述したように絶縁テープのバインダにはエポキシ樹脂が含有されているので、脂環式エポキシ化合物と有機基を有するアルミニウム化合物とを含有する本発明の樹脂組成物を含浸させた後には、樹脂組成物中のエポキシ成分と、絶縁テープのバインダ中のエポキシ成分とが一体に硬化する。このため、絶縁層の特性が著しく向上し、結果として硬化後の電気特性および機械特性に優れた高信頼性の電気絶縁線輪を製造することができる。
【0055】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例および比較例を示して本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の含浸用樹脂組成物に配合される各成分を以下に示す。
(エポキシ化合物)
セロキサイド2021P(ダイセル化学社製エポキシ)
脂環式エポキシ:エポキシ当量128〜140
粘度:350〜450、イオン成分:15ppm
ERL4221(U.C.C.社製)
脂環式エポキシ:エポキシ当量131〜143
粘度:350〜400cps、イオン成分:47ppm
アラルダイトCY179(チバガイキー社製エポキシ)
脂環式エポキシ:エポキシ当量133〜143
粘度:350cps、イオン成分:60ppm
アラルダイトCY175(チバガイキー社製エポキシ)
脂環式エポキシ:エポキシ当量133〜154
粘度:125,000〜200,000
Ep806(油化シェル社製エポキシ)
ビスフェノールF型エポキシ:エポキシ当量165
粘度:1500〜2500cps
Ep828(油化シェル社製エポキシ)
ビスフェノールA型エポキシ:エポキシ当量184〜194
粘度:12000〜15000cps
BGE(和光純薬社製エポキシ)
ブチルグリシジルエーテル:エポキシ当量130
粘度:1cps
YL−932(油化シェル製エポキシ)
1,1,3-トリス[p-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル]メタン
エポキシ当量:161
HP−4032D(大日本インキ化学製エポキシ)
ナフタレン環骨格エポキシ、エポキシ当量142
(酸無水物)
QH200(日本ゼオン社製)
メチルテトラヒドロ無水フタル酸
酸無水物当量166、粘度30〜60cps
MH700(新日本理化社製)
メチルヘキサヒドロ無水フタル酸
酸無水物当量:168、粘度50〜80cps
(Si−H結合を含む化合物)
フェニルシラン(信越化学社製)
(O−O結合を含む化合物)
DCP(日本油脂社製)
ジクミルパーオキサイド
(硬化促進剤)
アルミキレートA(川研ファインケミカル)
アルミニウムトリス(アセチルアセトナート)
ALCH−TR(川研ファインケミカル)
アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)
AlBA アルミニウムトリス(ベンゾイルアセトナート)
Al(sa)3 アルミニウムトリス(サリチルアルデヒダート)
なお、これらのAlBAおよびAl(sa)3 は、それぞれアルミニウムトリイソプロポキシドとベンゾイルアセトン、およびアルミニウムトリイソプロポキシドとサリチルアルデヒドとを無水トルエン中、還流させた条件で反応させ、再結晶あるいは蒸留することにより得た。
【0056】
2E4MZ(四国化成工業社製) :2−エチル−メチルイミダゾール
U−CAT 5003(サンアプロ社製):第4級ホスホニウム塩
HX3741(旭化成社製):マイクロカプセル化されたアミン系硬化剤
SI−100L(三新化学社製):オニウム塩
(含浸ワニスの調製)
上述した各成分を、下記表1および2に示す処方で配合して、実施例(1〜8)および比較例(1〜6)の樹脂組成物のワニスを調製した。なお、調製に当たっては、所定量の硬化促進剤をBGEあるいは酸無水物に配合し、必要に応じて60〜100℃程度に加熱して溶解させ、室温に戻してからエポキシ化合物を配合した。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
各ワニスについて、貯蔵安定性、ゲル化時間、電気絶縁性および粘度を以下のようにして調べ、得られた結果を下記表3および4にまとめる。
(貯蔵安定性)
各含浸ワニスを、それぞれ100ccのスクリュー瓶に採取し、30℃で保管した。ワニスの貯蔵安定性は、粘度が500cpsに達するまでの時間を日数で表わした。
(ゲル化時間)
各含浸ワニスをそれぞれ、胴外径18mmの試験管に深さ70±2mmまで採取してガラス棒を挿入し、所定の温度の恒温槽に収納した。ガラス棒を持ち上げ、試験管がガラス棒と同時にたやすく持ち上がるときをゲル化時間とした。
(電気絶縁性)
各樹脂組成物を、150℃で5時間加熱硬化させることにより、厚さ2mmの樹脂板を作製し、電気絶縁性試験(tanδ)を行なった。
(粘度)
E型粘度計を用いて、各樹脂組成物の25℃における粘度を測定した。
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
表3および表4の結果から、本発明(実施例1〜8)の含浸ワニスは、いずれも60日以上の貯蔵安定性を有しているのに対し、比較例(1〜6)の含浸ワニスの場合は、短いものでは3日、最大でも20日を経過すると粘度が500cpsに達してしまい、安定性が不足していることがわかる。
【0063】
なお、貯蔵安定性が20日である比較例1および5は、ゲル化時間がそれぞれ180分および160分と著しく長い。一方、ゲル化時間が5分以下である比較例2、3、4および6の場合は、貯蔵安定性が極めて悪く、長期間にわたる貯蔵安定性と短いゲル時間とを両立するのが不可能であることが明確に示されている。これに対し、本発明(実施例1〜8)の含浸ワニスは、上述したように優れた貯蔵安定性を有しており、しかもゲル化時間はいずれも80分以下と大幅に短縮されたことがわかる。
【0064】
このようにエポキシ化合物として脂環式エポキシ化合物を用い、硬化促進剤としてアルミニウム錯体を配合した本発明の含浸用樹脂組成物によって、長期間にわたる貯蔵安定性と短いゲル時間とを両立させることがはじめて可能となった。
【0065】
また、実施例(1〜8)の含浸ワニスは、ほとんどの場合、25℃における粘度が45cps以下であるので、絶縁テープに含浸させて絶縁線輪の絶縁層を作製する際には良好な含浸性を示すことが予測される。
【0066】
さらに、比較例の樹脂組成物を硬化させてなる硬化物は、160℃におけるtanδが7.0以上であるのに対し、本発明の含浸ワニスからなる硬化物は、4.5以下のtanδを示しており、高温域においても良好な電気絶縁性を有することがわかる。
【0067】
以上の結果から、エポキシ成分として脂環式エポキシ化合物を配合し、硬化促進剤として有機基を有するアルミニウム化合物を配合した本発明の含浸用樹脂組成物は、長期貯蔵安定性、短時間硬化性および高含浸性という特性を全て備えており、かかる本発明の樹脂組成物を硬化させてなる硬化物は、極めて良好な電気絶縁性を有することがわかる。
【0068】
次に、実施例および比較例の樹脂組成物と絶縁テープとを用いて絶縁線輪を作製し、その特性を調べた。ここで用いた絶縁テープは、以下のようにして得られたものである。すなわち、まず、バインダ樹脂(YL−932、HP−4032D等)を、溶剤としてのメチルエチルケトンあるいはテトラヒドロフランに溶解し、不揮発成分の濃度がほぼ30%となるように調整して組成物を得た。この組成物を用いて未焼成軟質集成マイカシートとガラスクロスとを貼り合わせた後、溶剤を揮散させてガラスクロス裏打ちマイカテープ(絶縁基材)を得た。次いで、この絶縁基材中におけるバインダ含有量が不揮発分量で約20%(絶縁基材全重量を基準とする)になるように調製し、最後に幅25mmに切断して絶縁テープとした。
(絶縁線輪の作製)
上述した方法で作製した絶縁テープをアルミニウム角材(6×25×100mm)に1/2重ね巻きで4回巻回し、絶縁基材層の形成された試験用絶縁線輪を作製した。さらに、実施例(1〜8)および比較例(1〜6)の樹脂組成物のなかから数点を選び、真空または加圧含浸して、150℃で6時間加熱硬化を施すことにより実施例(9〜16)および比較例(7〜10)のモデルコイルを作製した。
【0069】
下記表5および6は、各モデルコイルにおける絶縁テープに用いたバインダ樹脂およびバインダ中に含有される硬化促進剤と、この絶縁テープに含浸させた樹脂組成物とを示す。
【0070】
【表5】
【0071】
【表6】
【0072】
なお、表5および6中のエピクロンB4400は、固形の酸無水物(大日本インキ工業(株)製、酸無水物当量132)を表わし、XL−4Lは、フェノールアラルキル樹脂(三井東圧化学(株)製、フェノール当量174)を表わし、SH6018は、シラノール基を有するオレガノシラン(東レシリコーン社製)を表わす。
【0073】
上述のようにして作製された各モデルコイルの絶縁層について、絶縁コイルの状態、絶縁層のガラス転移温度および曲げ強度を次のような手法で調べ、得られた結果を下記表7および8にまとめる。
(絶縁コイルの状態)
硬化後の導体部に付着した樹脂の状態、および絶縁層を切り開いて内部の状態を目視により観察し、ボイドのないものを良好とした。
(ガラス転移温度)
モデルコイルから絶縁層を採取し、TMA(昇温速度5℃/min)で熱膨張係数が変化する点から求めた。
(曲げ強度)
JIS K−691試験法に準拠して、各絶縁層の曲げ強度を測定した。
【0074】
【表7】
【0075】
【表8】
【0076】
表7に示されるように、本発明の樹脂組成物を用いて作製された電気絶縁線輪(実施例9〜16)は、バインダ中に含有されている硬化促進剤の種類に拘わりなく、いずれもボイドのない緻密な絶縁層が形成されている。また、絶縁層のガラス転移温度も、ほとんどの場合100℃以上と高く、いずれの絶縁層も100℃において6.0以上の高い曲げ強度を有しているので、運転領域においても強い曲げ強度を示すことが予測される。
【0077】
一方、表8に示されるように、エピビスタイプのエポキシ化合物を配合した樹脂組成物を用いた比較例(7〜10)の場合は、含浸用樹脂組成物に含有される硬化促進剤とバインダー樹脂中に含有される硬化促進剤との組合わせによっては、硬化が阻害され、ボイドも発生した絶縁層が形成されている。また、いずれの絶縁層もガラス転移温度は20℃以下であり、曲げ強度は1.0程度にとどまっている。
【0078】
ここで、イオン不純物含有量の異なるエポキシ樹脂を用いて下記表9に示す処方樹脂組成物を調製して、各樹脂組成物の保存安定性を調べ、得られた結果をイオン不純物濃度とともに下記表9にまとめる。
【0079】
【表9】
【0080】
表9の結果から、エポキシ化合物中におけるイオン成分の濃度が低いほど、得られる樹脂組成物の保存安定性がよいことがわかる。
さらに、Si−H結合を有する化合物(フェニルシラン)やO−O結合を有する化合物(DCP)を下記表10に示す処方で配合して樹脂組成物を調製して、その保存安定性とゲル化時間とを調べた。得られた結果を下記表10にまとめる。
【0081】
【表10】
【0082】
表10に示した結果から、Si−H結合を有する化合物、あるいはフェニルシランを配合してなる樹脂組成物は、貯蔵安定性はそのままにゲル化時間を短縮できることがわかる。
【0083】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、長期保存安定性、 短時間硬化性、および高い含浸性を有し、硬化後には極めて良好な電気特性や機械特性を示す含浸用樹脂組成物が提供される。本発明の樹脂組成物を用いることにより、優れた電気絶縁性や高いガラス転移温度および曲げ強度を有し、ボイドのない緻密な絶縁層を形成することができる。
【0084】
かかる絶縁層は、車輌用回転電機、一般産業用回転電機、または変圧器等の静止誘導電気装置の電気絶縁線輪の絶縁層として特に有効であり、その工業的価値は大きい。
Claims (4)
- 脂環式エポキシ化合物と、酸無水物と、有機基を有するアルミニウム化合物と、ブチルグリシジルエーテルとを含有し、前記脂環式エポキシ化合物に含まれるNaイオン成分の濃度が30ppm以下であり、前記脂環式エポキシ化合物および前記ブチルグリシジルエーテル以外のエポキシ化合物を含まないことを特徴とする含浸用樹脂組成物。
- Si−H結合を含む化合物を含有する請求項1に記載の含浸用樹脂組成物。
- O−O結合を含む化合物を含有する請求項1または2に記載の含浸用樹脂組成物。
- 前記有機基を有するアルミニウム化合物がアルミニウムトリスアセチルアセテートである請求項1ないし3のいずれか1項に記載の含浸用樹脂組成物。
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