JP3650861B2 - 既存構造物直下の被圧地盤の改良方法及びその改良方法に使用する止水装置 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
この発明は、地下水で被圧されている地盤(以下、被圧地盤と云うことがある。)上の既存構造物における基礎スラブ直下の当該被圧地盤を、地下水等の排出を行うことなく地盤改良固結法により改良する方法、及び前記地下水等の噴出を抑えるために基礎スラブコンクリート上で使用される止水装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、液状化等で傾斜した既存の構造物をジャッキアップして復旧する場合、地盤改良固結法により基礎スラブ直下に反力となる地盤改良体を施工し、ジャッキアップした後に、基礎スラブ下に注入材を注入することが行われている。また、既存構造物の支持地盤の液状化が予測される場合等も、同様に基礎スラブ直下の地盤を補強するために地盤改良を行うことがある。しかし、図8に示したように、基礎スラブbの下の地盤gが地下水cで被圧されている場合に、基礎スラブbを直接、掘削パイプd等で貫通して地盤改良を行おうとすると、当該掘削パイプdの周辺から地下水cや土砂eが噴き出してしまう。そのため、地盤改良中の改良体fの注入材が流出したり、又は希釈されたりし、改良体fの品質が確保できず、地盤改良作業が停滞する。
【0003】
そのような場合、既存の技術では、図9に示したようなディープウェルh等により被圧地下水位を低下させて施工する、次の▲1▼、▲2▼の方法が考えられる。即ち、▲1▼建物aの外周に止水性の山留め壁iを施工し、地下水cの水位が低下した後、建物aの外周部を地上から基礎スラブコンクリートbの直下まで掘削し、その掘削した掘削下底面上で地盤改良を施工する方法(図9)と、▲2▼止水性の山留め壁は施工せず、地下水位が低下した後、建物の基礎スラブコンクリートを貫通し、地盤改良を施工する方法(図示は省略)である。
【0004】
また、近年、図10に示した次の▲3▼の方法(特開平5−112927号公報参照)も開発されている。
▲3▼改良地盤に注入管を挿入してジェット噴流を噴射し(図10C参照)、注入管jの周囲から上昇する排泥の排出圧を圧力調整装置xを用いて適正となし、それによって排泥量を制御しながら地盤改良を行う方法である。注入管j及び同注入管jを収納し削孔する掘削パイプdの口元パッカー装置kは、上端部に上下2段をなす掘削パイプ用パッカーリングqと注入管用パッカーリングrを備え、下端部は立坑内に施工した施工基盤(コンクリート)mに嵌込む嵌着部nを形成し、中間部に開閉バルブyを介在させ、前記中間部の開閉バルブyの下から、前記圧力調整装置x及び開閉バルブy’を介して排泥管zを分岐させ、地下水や土砂の排出を行っている。
【0005】
【本発明が解決しようとする課題】
前記▲1▼の地盤改良方法は、建物aの外周部に山留め壁iを施工できるスペースや、止水に必要な止水層vが必要となるため、市街地では施工不可能が場合が多い。また、建物aの基礎スラブコンクリートb上で作業を行わないため、作業効率が非常に悪いといった問題がある。
【0006】
▲2▼の方法は、山留め壁を施工しないで実施するため、周辺地盤の沈下を引き起こす虞れがある。また、地下水の排出量が多いと地盤改良が不可能となる。
▲3▼の方法は、掘削パイプd及び注入管jの削孔時、注入管jの設置時、あるいは掘削パイプd等の引き抜き時において、掘削パイプdや注入管jの周辺、口元からの地下水cや土砂e等の排出を許容する。そのため、開閉バルブy、y’を操作し、圧力調整装置xで排水圧を調整しながら地下水等の排出を制御したり、掘削パイプ用パッカーリングqと注入管用パッカーリングrを交互に操作しなければならず、それらの作業が大変面倒で煩わしい。しかも、当該パッカー装置kが複雑であって、設備費用が増大する。更に、この▲3▼の場合、通常、立坑内の所定深さ位置に予め施工基盤mを設け、その施工基盤mの上に口元パッカー装置kを設置して施工するので、作業効率が悪いといった問題もある。
【0007】
本発明の目的は、前記▲1▼、▲2▼、▲3▼の問題点を解決するべく、既存構造物の基礎スラブコンクリート直下が地下水で被圧されている地盤を地盤改良固結法により改良するに際し、地下水等は完全に止水して排出させることなく、構造物の基礎スラブコンクリートの上で効率よく合理的に地盤改良する方法と、同方法の実施に好適な止水装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記従来技術の課題を解決するための手段として、請求項1の発明に係る既存構造物直下の被圧地盤の改良方法は、
a) 支持プレート1で支持されたシャッタープレート2がスライド移動して貫通孔15を閉塞自在に構成された下位止水部材Sを、地下水13で被圧されている地盤14上の既存構造物の基礎スラブコンクリート12上に設置する段階と、b) 先端にビットを有する掘削パイプ7のパイプ径wよりやや小さい径tの挿入孔4が略中央に形成された止水ゴムパッキング3が、座金5を介した積層状態でケース6内に複数収納して成る上位止水部材Pを、前記下位止水部材Sの上に設置する段階と、
c) 上方から上位止水部材Pの挿入孔4内に掘削パイプ7を挿入し、止水ゴムパッキング3により水密状態を維持しながら当該掘削パイプ7で基礎スラブコンクリート12に必要最小径の貫通孔15を形成し、地盤14を所望深度まで削孔した後、注入材を注入して前記深度位置から基礎スラブコンクリート12のレベル位置まで地盤改良を行う段階と、
d) 地盤改良が完了した後、前記掘削パイプ7を少なくとも下位止水部材Sのシャッタープレート2より上まで上昇させ、当該シャッタープレート2をスライド移動して前記貫通孔15を閉塞する段階と、
e) 上位止水部材Pを取り外し、シャッタープレート2に設けた注入口8より注入材9を注入する段階と、より成ることをそれぞれ特徴とする。
【0009】
請求項2の発明に係る既存構造物直下の被圧地盤の改良方法は、前記請求項1におけるe)段階の注入材9の注入後に、下位止水部材Sの上に補強用の押えコンクリート16を打設することを特徴とする。
請求項3の発明に係る被圧地盤の改良方法に使用する止水装置は、地下水13で被圧されている建物11等の構造物の基礎スラブコンクリート12上に設置される下位止水部材Sと、その下位止水部材Sの上に着脱自在な上位止水部材Pとより成り、前記下位止水部材Sは、支持プレート1で支持されたシャッタープレート2が水平方向にスライド移動して貫通孔15を閉塞自在に構成され、前記上位止水部材Pは、掘削パイプ7のパイプ径wよりやや小さい径tの挿入孔4が略中央に形成された止水ゴムパッキング3…が座金5を介した積層状態でケース6内に複数収納され、前記止水ゴムパッキング3が挿入孔4内の掘削パイプ7に密着して止水する構成であることを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明に係る既存構造物直下の被圧地盤の改良方法は、建物11等の基礎スラブコンクリートの下が地下水で被圧されているような地盤を、地盤改良固結法によって改良する際に、地下水等の噴出を抑えつつ基礎スラブコンクリート上で使用される止水装置を用いて実施される。
【0011】
止水装置は、請求項2に記載したように、下位止水部材Sとその上に着脱自在な上位止水部材Pとで構成されている。前記下位止水部材Sは、支持プレート1で支持されたシャッタープレート2が水平方向にスライド移動して後述の貫通孔15を閉塞自在な構成とされている(図2A参照)。支持プレート1は、通常、図3Bに示したように、平面視形状が正方形で中央にパイプ孔10cを有する上部プレート1cと、当該上部プレート1cと同形、同大でパイプ孔10aを有する下部プレート1a(図2A参照)との間に、2本のレールプレート1b、1bが挟まれている。そして、パイプ孔2aを有するシャッタープレート2が、前記レールプレート1b、1bの間に挟まる形で配置され、水平方向にスライド移動可能な構成とされている。前記各プレート1c、1a、2のパイプ孔10c、10a、2aの直径u(図3D参照)は、掘削パイプ7のパイプ径w(図3A参照)と同じである。なお、被圧の大きさなど、止水性、潤滑性を高める必要に応じて、シャッタープレート2にはグリース等の油分を塗布する。
【0012】
前記上位止水部材Pは、図2Bに示したように、掘削パイプ7のパイプ径w(図3A参照)よりやや小さい径tの挿入孔4が略中央に形成された複数枚の止水ゴムパッキング3…が、上下に重なり合うもの同士の間に座金5を介在させた積層状態でケース6内に収納されている。
以下、図2〜図5に基づき、前記止水装置を使用した既存構造物直下の被圧地盤の改良方法(請求項1)の施工手順を説明する。
【0013】
図2は、前記止水装置の基礎スラブコンクリート上への設置段階を示している。まず、図2Aに示したように、止水装置のうち下位止水部材Sを、既存建物直下で改良予定の被圧地盤14の直上位置の基礎スラブコンクリート12上に設置する(図1参照)。その際、支持プレート1の下部プレート1aと基礎スラブコンクリート12との間はシーリング材で止水しておくことが望ましい。そして、支持プレート1の上部プレート1cの上方から基礎スラブコンクリート12に通ずるケミカルアンカー20を用いて、下位止水部材Sを基礎スラブコンクリート12上に固定する。次に、図2Bに示したように、止水装置の上位止水部材Pを前記下位止水部材Sの上に設置する。
【0014】
図3は、掘削パイプの挿入と地盤改良の施工段階を示している。まず、掘削パイプ7の降下位置に、シャッタープレート2のパイプ孔2aが位置するように、シャッタープレート2をスライド移動する(図3B参照)。なお、掘削パイプ7の下端部には、図示を省略した掘削ビットが取り付けられている。前記掘削パイプ7を上方から降下させ、上位止水部材Pの挿入孔4内に挿入する(図3A)。そうすると、当該掘削パイプ7の外周は、そのパイプ径wより小さい径tの挿入孔4を形成する複数の止水ゴムパッキング3…によってしっかりと密着され、水密状態(止水状態)が維持される。その水密状態を維持しながら、掘削パイプ7は降下して下位止水部材Sのパイプ孔1c、1aを通過し、下端の掘削ビットで基礎スラブコンクリート12をコアリングにより貫通して、必要最小径の貫通孔15を形成し、更に、地盤14を改良予定深さまで削孔する。そして、所謂、地盤改良固結法により、掘削パイプ7内に図示を省略した注入管を挿入し、前記改良予定の深さ位置から掘削パイプ7を引き上げつつ、先端から注入管を少し突出させて注入材9を注入し、基礎スラブコンクリート12のレベル位置までの被圧水下における地盤14を改良する(図1)。正確には、図3Cに示したように、基礎スラブコンクリート12の貫通孔15内をも積極的に改良する。そして、万が一にも、当該掘削パイプ7による基礎スラブコンクリート12の貫通や地盤14の削孔の際に、地下水13や土砂等が上昇するようなことがあっても、必要最小径の貫通孔15と、同貫通孔15に位置する掘削パイプ7との間には隙間が殆んどないから、その地下水13等の上昇をくい止められる。仮に、その隙間を上昇してきても、複数の止水ゴムパッキング3に突き当って止水され、基礎スラブコンクリート12上に噴き出すことがない。そして、地盤改良が完了した後、図3Cのように、前記掘削パイプ7を基礎スラブコンクリート12から引き抜き、つづいて、下位止水部材Sのシャッタープレート2の上まで引き抜かれたら、直ちに当該シャッタープレート2をスライド移動させ、貫通孔15の上を完全に閉塞する。
【0015】
図4は、上位止水部材の取り外しと注入材の注入段階を示している。即ち、下位止水部材Sのシャッタープレート2によって、基礎スラブコンクリート12に穿設された貫通孔15が閉塞されているので、上位止水部材Pは不要となるため取り除く。ブリージング等により改良地盤14が硬化し、収縮した後に、シャッタープレート2の注入口8を用いて注入材9’を注入し、改良地盤14の上面とシャッタープレート2との間に生じた隙間を埋める。
【0016】
更に、請求項2に記載したように、必要に応じてコンクリート打設による補強仕上げを行う。即ち、図5に示したように、前記下位止水部材Sを完全に覆う形で、基礎スラブコンクリート12の上に、鉄筋コンクリート16を施工する。貫通孔15の上方は、上位止水部材Pが取り外され何もない状態なので、基礎スラブコンクリート12と略同じ厚さの鉄筋コンクリート16で補強し、長期的な被圧に抵抗させるためである。その他、図示は省略するが、予め、下位止水部材Sの下の基礎スラブコンクリート12を少し下げて形成しておき、注入材9の注入後に、上面をモルタル等で覆い、下位止水部材Sと基礎スラブコンクリート12の上面とを平滑に仕上げることも好適に実施される。
【0017】
【実施例】
上位止水部材Pに使用される止水ゴムパッキング3は、耐摩耗性ゴムで製作され、図示例では5枚を積層しているが、枚数はこれに限定されない。また、止水ゴムパッキング8の基本形状は問わないが、正方形や円形が好適である。
下位止水部材Sのレールプレート1b及びシャッタープレート2は、例えば、図6に示したような態様で実施可能である。図6Aは、平面方向からみると、コ字状のレールプレート1bと、そのコ字状のレールプレート1bの中央内部へ一方向から(図示例では手前側から)のみスライド移動して閉塞可能な、パイプ孔なしのシャッタープレート2を示している。図6Bは、平面方向からみると、2枚の長方形のレールプレート1b’、1b’が平行に設置され、その間を長めのシャッタープレート2’が前後両方向からスライド移動して閉塞可能な例を示している。図6Cは、図6Bの例と殆んど同じ構成だが、2枚の長方形のレールプレート1b’、1b’の間を移動するシャッタープレート2’が短めに形成され、パイプ孔2aがその端部に設けられており、よって一方向のみからスライド移動する例を示している。
【0018】
また、図示は省略するが、前記の各レールプレート1bを使用しないで、シャッタープレート2がスライド移動可能なレール(溝)を1枚の支持プレート1に形成して実施したり、レール(溝)を上部プレート1cに形成して上下2枚のプレート型として実施することも可能である。
シャッタープレート2に設ける注入口8は、図6B、Cのように、上下に貫通したものを複数形成して実施するほか、図6Dに示した注入口8’のように、プレートの外端面から水平方向に穿孔し、下方へ垂下せしめて実施してもよい。上下に貫通された注入口8には、表面が突出しないように、図7に示したような皿ボルト16が好適に使用される。
【0019】
【本発明の奏する効果】
請求項1、2の発明の既存構造物直下の被圧地盤の改良方法によれば、既存構造物の基礎スラブコンクリート上で、請求項3の発明の止水装置を用いて地下水等を完全に止水して、被圧水下の地盤を地盤改良固結法により改良するので、合理的で効率よい地盤改良が達成され、液状化対策や耐震補強が図られる。地下水等を一切排出しないで補強地盤を改良するから、周辺地盤への影響がない。また、簡便な構成の止水装置により基礎スラブコンクリート上で全て作業を行えるから、大がかりな仮設は一切不要であり、工費の低減化や工期の短縮化も達成される。
【図面の簡単な説明】
【図1】地盤改良の要領を示した全体図である。
【図2】Aは下位止水部材の設置状況を示した断面図、Bは上位止水部材の設置状況を示した断面図である。
【図3】A、Bは掘削パイプの貫入状況を示した断面図と一部省略の平面図、C、Dは掘削パイプの引き抜き状況を示した断面図と一部省略の平面図である。
【図4】注入材の注入段階を示した断面図である。
【図5】押えコンクリートの打設状況を示した断面図である。
【図6】A〜Dはレールプレートとシャッタープレートのバリエーションを示した平面図である。
【図7】A、Bは注入口の仕舞い要領を示した断面図と平面図である。
【図8】従来例を示した断面図である。
【図9】異なる従来例を示した断面図である。
【図10】A〜Cは異なる従来例の断面図である。
【符号の説明】
S 下位止水部材
P 上位止水部材
1 支持プレート
2 シャッタープレート
3 止水ゴムパッキング
4 挿入孔
5 座金
6 ケース
7 掘削パイプ
8 注入口
9 注入材
11 建物
12 基礎スラブコンクリート
13 地下水
15 貫通孔
16 押えコンクリート
Claims (3)
- a) 支持プレートで支持されたシャッタープレートがスライド移動して貫通孔を閉塞自在に構成された下位止水部材を、地下水で被圧されている地盤上の既存構造物の基礎スラブコンクリート上に設置する段階と、
b) 先端にビットを有する掘削パイプのパイプ径よりやや小さい径の挿入孔が略中央に形成された止水ゴムパッキングが、座金を介した積層状態でケース内に複数収納して成る上位止水部材を、前記下位止水部材の上に設置する段階と、
c) 上方から上位止水部材の挿入孔内に掘削パイプを挿入し、止水ゴムパッキングにより水密状態を維持しながら当該掘削パイプで基礎スラブコンクリートに必要最小径の貫通孔を形成し、地盤を所望深度まで削孔した後、注入材を注入して地盤改良を行う段階と、
d) 地盤改良が完了した後、前記掘削パイプを少なくとも下位止水部材のシャッタープレートより上まで上昇させ、当該シャッタープレートをスライド移動して前記貫通孔を閉塞する段階と、
e) 上位止水部材を取り外し、シャッタープレートに設けた注入口より注入材を注入する段階と、
より成ることをそれぞれ特徴とする、既存構造物直下の被圧地盤の改良方法。 - 上位止水部材を取り外して注入材を注入した後に、下位止水部材の上に補強用の押えコンクリートを打設することを特徴とする、請求項1に記載した既存構造物直下の被圧地盤の改良方法。
- 地下水で被圧されている地盤上の基礎スラブコンクリートの上に設置される下位止水部材と、その下位止水部材の上に着脱自在な上位止水部材とより成り、前記下位止水部材は、支持プレートで支持されたシャッタープレートが水平方向にスライド移動して貫通孔を閉塞自在に構成され、前記上位止水部材は、掘削パイプのパイプ径よりやや小さい径の挿入孔が略中央に形成された止水ゴムパッキングが座金を介した積層状態でケース内に複数収納され、前記止水ゴムパッキングが挿入孔内の掘削パイプに密着して止水する構成であることを特徴とする、被圧地盤の改良方法に使用する止水装置。
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