JP3648511B2 - 衛星放送システム、地上送信装置、ギャップフィラー装置、放送受信装置及び衛星放送方法 - Google Patents

衛星放送システム、地上送信装置、ギャップフィラー装置、放送受信装置及び衛星放送方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、放送衛星または通信衛星を使用して地上のサービスエリアに向け情報を送信するシステムに係わり、特に山やビルなどの陰になるエリアでも情報を確実に受信できるようにするギャップフィラー機能を備えた衛星放送システムとそのギャップフィラー装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、通信ニーズの増大と通信技術の発展に伴い種々の通信システムが開発されており、その中に放送衛星や通信衛星を利用した衛星放送システムがある。衛星放送システムの利点は、地上に大がかりなインフラを整備しなくても広範囲のサービスエリアに対し情報放送サービスを提供できることである。
【0003】
ところで、この種のシステムの課題の一つに衛星からの直接波を受信できないビル陰などへの対策がある。これに対し従来では、例えば高層ビルの屋上や鉄塔に口径の大きな共同アンテナを設置し、この共同アンテナにより衛星からの無線信号を受信して増幅し、この受信無線信号を同軸ケーブルや光ケーブルを介してビル陰の各ユーザの受信装置に配信するようにしている。このようにすれば、衛星からの無線信号を受信することができないビル陰などのユーザでも、衛星からの伝送情報をもれなく受信することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、このような共同受信設備は、対象となる各ユーザに対しもれなくケーブルを敷設しなければならないため大掛かりな工事と費用が必要となる。また最近、衛星放送システムを使用して固定局ばかりでなく移動局に対しても情報を伝送することが提唱されている。この場合、ビル陰にいるユーザが固定局であれば、先に述べた共同受信設備により衛星からの情報を受信させることが可能である。しかし、ビル陰に入った移動局に対しては同軸ケーブルや光ケーブルを敷設することができないため、衛星からの情報を受信させることができず、対策が切望されている。
【0005】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、衛星からの無線信号を直接受信できないビル陰などのエリアにおいて、大掛かりな設備を設けることなく、固定局ばかりでなく移動局に対しても確実に受信させることができるようにし、これにより安価で効果的なギャップフィラーを実現できる衛星放送システムとそのギャップフィラー装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するためにこの発明の衛星放送システムは、衛星で中継された放送信号を受信し、この受信放送信号を前記サービスエリア内で前記衛星からの放送信号を受信不可能なエリアに対し無線送信するギャップフィラー装置を備えたものである。
【0007】
このようにすることで、衛星からの無線信号はギャップフィラー装置で受信されたのちビル陰などに対し無線により再送信される。このため、ビル陰の各ユーザに対し同軸ケーブルや光ケーブルを敷設する必要がないので、比較的簡単かつ安価に実現できる。また、ビル陰などにおいては固定局ばかりでなく移動局に対しても衛星からの情報を受信させることが可能となる。さらに、ギャップフィラー装置からは無線信号が同一周波数で送信されるので、ユーザは衛星からの直接波を受信する受信装置を持つだけでギャップフィラー装置からの無線信号も受信することができる。
【0008】
また、前記ギャップフィラー装置は、指向性アンテナにより、受信放送信号を上記サービスエリア内で衛星からの放送信号を受信不可能なエリアへ指向性を持たせて無線送信することを特徴としている。
このようにすることで、衛星からの無線信号を直接受信できるエリアのユーザが、ギャップフィラー装置から再送信された無線信号により干渉を受ける不具合を低減することができる。
【0009】
また、衛星が赤道上空の静止軌道に配置された静止衛星である場合には、ギャップフィラー装置から受信放送信号を東西方向に指向性を持たせて無線送信するとよい。
一般に赤道上空の静止軌道に配置されている静止衛星から無線信号を送信した場合、地上においてはビルなどの障害物の北側に電波の陰ができる。このため、例えばオフィス街や繁華街などのように多数のビルが並んでいるエリアにおいては、ギャップフィラー装置から東西方向へ指向性を持たせて無線信号を再送信すれば、ビル街の北側の陰を効果的にカバーすることが可能となる。
【0010】
また、地上放送局および前記衛星の少なくとも一方において、放送信号を所定の拡散符号によりスペクトル拡散変調して送信し、ギャップフィラー装置において、上記衛星から送信されたスペクトル拡散変調された放送信号を受信して、この受信した放送信号を上記サービスエリア内で上記衛星からの放送信号を受信できないエリアに向け無線送信することも特徴としている。
【0011】
このようにすることで、衛星から送信された直接放送信号とギャップフィラー装置が送信した中継放送信号とが干渉を起こす心配はなくなる。このため、衛星からの直接放送信号を受信できるエリアとギャップフィラー装置からの中継放送信号を受信できるエリアとの境界付近に存在する受信装置であっても、干渉の影響を受けずに受信品質を高く保持することができる。
【0012】
一方、この発明のギャップフィラー装置は、衛星から送信された放送信号を受信するための第1のアンテナと、この第1のアンテナにより受信された放送信号を少なくとも増幅して当該受信放送信号と同一周波数からなる送信放送信号を出力するための無線回路部と、この無線回路部から出力された送信放送信号を、前記サービスエリア内で前記衛星からの放送信号を受信不可能なエリアに対し無線送信するための第2のアンテナとを具備したことを特徴とするものである。
【0013】
このようなギャップフィラー装置を使用することにより、先に述べたようにビル陰の各ユーザに対し同軸ケーブルや光ケーブルを敷設することなく比較的簡単かつ安価に衛星からの情報を受信させることができ、しかも固定局ばかりでなく移動局に対しても衛星からの情報を受信させることができる。さらに、ビル陰へ送信する中継放送信号を衛星からの直接放送信号と同一周波数で送信しているので、ユーザは衛星からの直接波を受信する受信装置を持つだけでギャップフィラー装置からの中継放送信号も受信することができる。
【0014】
また、この発明の他の衛星放送システムは、同一の衛星軌道上に所定の距離を隔てて第1および第2の衛星を配置し、これら第1および第2の衛星から同一のサービスエリアに対し同一の放送信号を相互に同期をとって送信するようにしたものである。
【0015】
このようにすることで、サービスエリア内のユーザに対し、同一の放送信号が位置の異なる2つの衛星から送られることになる。このため、例えばビル陰などのように、一方の衛星からの放送信号を直接受信できないエリアに存在する局でも、他方の衛星からの放送信号を受信することが可能となり、これにより結果的に先に述べたギャップフィラー装置を設けた場合と同様の効果を奏することができる。
【0016】
また同一軌道上に予備機が配置されている場合には、この予備機を第2の衛星として使用する。このようにすると、ビル陰などの対策のために新たな衛星を打ち上げる必要がなく、安価なシステムが提供できる。
【0017】
さらにこの発明の衛星放送システムは、衛星において、地上放送局から送信された放送信号を互いに周波数の異なる第1および第2の放送信号に変換してそれぞれ無線送信するようにし、ギャップフィラー装置は、上記衛星から送信された第2の放送信号を受信してこの第2の放送信号を前記第1の放送信号と同一周波数の第3の放送信号に変換し、この第3の放送信号をサービスエリア内で上記衛星からの第1の放送信号を受信不可能なエリアに向け無線送信することを特徴としている。
【0018】
このようにすることで、ギャップフィラー装置では、衛星から受信する第2の放送信号と自装置が送信する第3の放送信号との周波数が異なることになるので、送信波の受信波への回り込みを容易に防止することができる。
【0019】
さらに、放送受信装置に、衛星から送信された第1の放送信号およびギャップフィラー装置が送信した第3の放送信号をそれぞれ受信して合成する手段を持たせるとよい。このようにすると、放送受信装置では、衛星からの第1の放送信号とギャップフィラー装置からの第3の放送信号との両方を受信できる場所に存在するときに、より高品質の受信が可能となる。
【0020】
さらに、上記衛星の変換手段において、地上放送局から送信された放送信号をSバンドの第1の放送信号とSバンドより高周波域の第2の放送信号に変換し、第1の放送信号を前記放送受信装置向けの信号として送信するとともに、前記第2の放送信号を前記ギャップフィラー装置向けの信号として送信するとよい。
【0021】
このようにすると、放送受信装置ではSバンドの放送信号を受信すればよいので、パラボラアンテナなどの大型のアンテナを使用することなく簡易な設備で受信することが可能となる。このため、ユーザは小形で安価な放送受信装置を使用することができ、ポータビリティを犠牲にすることなくしかも安価な設備で放送を受信することが可能となる。これに対しギャップフィラー装置では、例えばKuまたはKaバンドの放送信号を受信することになるため、パラボラアンテナを有する受信設備が必要となり、さらにKuまたはKaバンドからSバンドへの周波数変換機能が必要となるが、ギャップフィラー装置はシステムの設備の一部であるため、ユーザの負担にはならず大きな問題とはならない。
【0022】
さらにこの発明の衛星放送システムは、地上放送局が衛星に向け送信する第1の放送信号と同一内容の第2の放送信号を地上網を介して伝送する地上網伝送手段と、この地上網伝送手段により伝送された第2の放送信号を受信して、この受信した第2の放送信号を前記衛星が送信する放送信号と同一周波数帯域の第3の放送信号に変換し、この第3の放送信号を前記サービスエリア内で前記衛星からの放送信号を受信不可能なエリアに向け無線送信するギャップフィラー装置とを備えたことを特徴とするものである。
【0023】
またこの発明のギャップフィラー装置は、地上放送局が前記衛星に向け送信する放送信号と同一内容の第2の放送信号を、地上網を介して前記地上放送局から受信するための地上網受信手段と、この地上網受信手段により受信された第2の放送信号を前記衛星が送信する放送信号と同一周波数帯域の第3の放送信号に変換する変換手段と、この変換手段により得られた第3の放送信号を、前記サービスエリア内で前記衛星からの放送信号を受信不可能なエリアに向け無線送信する送信手段とを備えたことを特徴とする。
【0024】
このようなシステムおよびギャップフィラー装置を使用することで、立地条件などによりギャップフィラー装置を衛星からの直接放送信号を受信できる場所に設置できない場合でも、衛星からの放送信号を直接受信できない不感エリアを確実にカバーすることができる。
【0025】
さらに、ギャップフィラー装置を、衛星から送信された放送信号を受信するための衛星受信手段と、地上放送局が前記衛星に向け送信する放送信号と同一内容の第2の放送信号を地上網を介して受信するための地上網受信手段と、この地上網受信手段により受信された第2の放送信号を前記衛星から送信される放送信号と同一周波数帯域の第3の放送信号に変換するための変換手段と、前記衛星受信手段により受信された放送信号と、前記変換手段により得られた第3の放送信号のうちのいずれか一方を選択して、前記サービスエリア内で前記衛星からの放送信号を受信不可能なエリアに向け無線送信する選択送信手段とを備えるように構成する。
【0026】
このようにすると、1台のギャップフィラー装置に、衛星からの放送信号を受信して中継送信する機能と、地上網を介して送られた放送信号を受信して中継送信する機能とをそれぞれ持たせることができ、これにより1台のギャップフィラー装置を用意するだけで、ギャップフィラー装置の設置条件に応じて上記各機能を選択的に使用することができる。
【0027】
また上記選択送信手段において、衛星受信手段により所定レベル以上の放送信号が受信されるか否かを判定し、受信されると判定された場合には衛星受信手段により受信された放送信号を選択して前記受信不能エリアへ無線送信し、一方受信されないと判定された場合には前記変換手段により得られた第3の放送信号を前記受信不能エリアに向け無線送信する。
【0028】
このようにすれば、衛星からの放送信号を直接受信できるか否かに応じて、各機能を自動的に選択することができ、保守設定などの作業を容易にすることができる。
【0029】
またこの発明の衛星放送システムは、ギャップフィラー装置に加え、このギャップフィラー装置に対し通信回線を介して接続される監視装置を具備し、上記ギャップフィラー装置に、自装置の動作状態を表すモニタ情報を生成してこのモニタ情報を前記通信回線を介して前記監視装置へ送信するモニタ情報送信手段を備え、かつ監視装置には、上記ギャップフィラー装置から通信回線を介して伝送されたモニタ情報を受信し、この受信したモニタ情報を基に上記ギャップフィラー装置の動作状態を監視するための所定の処理を行う手段を備えることを特徴とする。
【0030】
このようなシステムであれば、ギャップフィラー装置の動作状態を例えば監視センタにおいて集中管理することが可能となり、これにより障害に対し迅速な対応が可能となる。
【0031】
上記モニタ情報の監視方式としては次のようなものが考えられる。すなわち、第1の方式は、監視装置から、定期的或いは必要時に通信回線を介してギャップフィラー装置に対しモニタ情報の送信要求を送信し、ギャップフィラー装置において、モニタ情報を蓄積しておき、上記監視装置から送信要求が到来するごとに前上記蓄積されたモニタ情報を読み出して監視装置へ送信するものである。この方式であれば、ギャップフィラー装置が多数ある場合でも、これらのギャップフィラー装置のモニタ情報を効率的に監視センタに収集することができる。
【0032】
また第2の方式は、ギャップフィラー装置において、自装置の動作状態を監視し、自装置の動作状態に異常が発生したことが検出された場合にその内容を表すモニタ情報を通信回線を介して監視装置へ送信するものである。この方式によれば、ギャップフィラー装置で障害が発生した場合に、その情報を即時監視センタに通知することができる。
【0033】
さらにギャップフィラー装置において、自装置の動作状態に異常が発生したことが検出された場合に、その旨のメッセージ情報を生成してこのメッセージ情報を自装置がカバーしているエリアの放送受信装置に向け送信するようにしてもよい。このようにすると、ギャップフィラー装置が例えば衛星からの放送信号を受信できなくなった場合や、自装置に障害が発生して中継放送を行えなくなった場合に、放送受信装置にその旨のメッセージを送信して表示させることができる。この結果ユーザは受信ができない理由を明確に知ることができる。
【0034】
さらにこの発明の衛星放送システムは、ギャップフィラー装置に加え、受信不能エリア内においてギャップフィラー装置から送信された受信放送信号を受信する機能を有したモニタ用受信装置と、このモニタ用受信装置に対し通信回線を介して接続された監視装置とを具備する。そして、ギャップフィラー装置において、自装置の動作状態を表すモニタ情報を生成してこのモニタ情報を受信放送信号に含めて無線送信し、モニタ用受信装置では、上記ギャップフィラー装置から送信された中継放送信号を受信してその中からモニタ情報を抽出するとともに、上記中継放送信号の受信状態を検出し、この受信状態の検出情報および上記抽出されたモニタ情報を通信回線を介して監視装置へ送信するようにし、監視装置は、モニタ用受信装置から通信回線を介して伝送されたモニタ情報および検出情報を受信し、この受信したモニタ情報および検出情報を基にギャップフィラー装置の動作状態を監視するための所定の処理を行うようにしたことを特徴とするものである。
【0035】
このようなシステムであれば、不感エリアの任意の場所にモニタ用受信装置を設置することでギャップフィラー装置からの放送信号の受信状態を直接的に観測することができ、この観測結果をギャップフィラー装置自身が送信したモニタ情報とともに監視センタへ送ることができる。このため、より実状に即した監視を行うことができる。
【0036】
【発明の実施の形態】
(第1の実施形態)
この衛星放送システムは、複数の地上放送局(VSAT)BC1,BC2またはフィーダリンク局と、静止衛星SAT1と、衛星追跡管制局STCCとを備えている。
【0037】
地上放送局(VSAT)BC1,BC2またはフィーダリンク局は、各放送事業者により作成・編集された番組情報を、Kaバンド(26.5〜40GHz)またはKuバンド(12.5〜18GHz)の上り伝送路を介して静止衛星SAT1へ送信する。
【0038】
静止衛星SAT1は、例えば2.5m級の口径を有するKaバンド或いはKuバンド用アンテナと、15m級の口径を有するSバンド(例えば2.6GHz)用アンテナとを備えている。そして、上記各放送局(VSAT)BC1,BC2またはフィーダリンク局から多重送信された放送信号を、上記KaまたはKuバンド用アンテナで受信・増幅したのちSバンドの信号に変換する。そして、この変換された放送信号を上記Sバンド用アンテナからSバンドの下り伝送路を介してサービスエリアに向け送信する。なお、上記静止衛星SAT1に搭載する上り伝送用のアンテナの口径は2.5m級より小さいものでもよく、またSバンド用アンテナの口径についても15m級に限らず8m級であってもよい。
【0039】
なお、衛星追跡管制局STCCは、静止衛星SAT1の動作状態を監視し制御するものである。
【0040】
サービスエリアでは、例えばオフィスや家庭に固定的に設置された放送受信装置(図示せず)や、車載或いは携帯型の移動可能な放送受信装置MSが、上記静止衛星SAT1からSバンドの下り伝送路へ送信された放送信号を受信する。なお、上記Sバンドの下り伝送路では、64〜256Kbps/チャネルの伝送速度を有する複数のチャネルが最大900チャネル多重化される。また、各チャネルにより映像信号を伝送する場合には映像符号化方式としてMPEG4(moving picture experts group 4)が用いられる。
【0041】
ところで、この第1の実施形態のシステムでは、高層ビルの屋上等にギャップフィラー装置GFaを設置している。ギャップフィラー装置GFaは、静止衛星SAT1からの放送信号を受信し増幅したのち、この受信した放送信号を同一周波数を保持したまま、上記静止衛星SAT1からの放送信号を受信できないビル陰などのエリアに向け再送信するもので、例えば次のように構成される。
【0042】
図2はその構成を示す回路ブロック図である。すなわち、静止衛星SAT1から送信された放送信号は、受信アンテナ11で受信されたのち入力フィルタ12に入力され、ここで所定の伝送帯域のみが選択されたのち、低雑音増幅器13で増幅される。そして、この増幅された放送信号は、電力増幅器14で増幅され、さらに出力フィルタ15で所定の伝送帯域に帯域制限されたのち、送信アンテナ16からビル陰など静止衛星SAT1からの直接波が届かない不感エリアに向け送信される。ここで、上記出力アンテナ16には指向性アンテナが使用され、これにより上記放送信号の送信範囲を上記静止衛星SAT1からの直接波が受信できない不感エリアに限定している。
【0043】
このような構成であるから、複数の放送局BC1,BC2またはフィーダリンク局から送信された放送信号は、Ka或いはKuバンドの上り伝送路を介して静止衛星SAT1に送られたのち、この静止衛星SAT1からSバンドの下り伝送路を介してサービスエリアに向け送信され、サービスエリア内に存在する放送受信装置MSで受信される。このとき、静止衛星SAT1には15m級の大口径のSバンド用アンテナが搭載されており、しかもSバンドは降雨減衰の影響を受け難いという性質を持っているので、各放送受信装置MSでは放送信号が十分に大きな受信電界強度で受信される。このため、放送受信装置MSでは小型のロッドアンテナや平面アンテナを使用することにより放送信号を受信可能である。
【0044】
ところが、ビル陰などのように静止衛星SAT1からの直接波を受信できない不感エリアに存在する放送受信装置MSでは、上記放送信号を直接受信することができない。しかし、上記静止衛星SAT1から送信された放送信号は、ギャップフィラー装置GFaにおいて受信されたのち、上記ビル陰の不感エリアに向け中継送信される。このため、ビル陰にいる放送受信装置MSにおいても放送信号を受信することが可能となる。
【0045】
このとき、上記ギャップフィラー装置GFaから中継送信される放送信号の周波数は、静止衛星SAT1から送られる放送信号と同一に設定されている。このため放送受信装置MSは、ビル陰にいる場合でも、特別な受信装置を使用することなく静止衛星SAT1からの放送信号を受信する受信装置さえあれば、ギャップフィラー装置GFaからの放送信号を受信することができる。
【0046】
しかも、ギャップフィラー装置GFaからビル陰の不感エリアに対しては、指向性アンテナを用いることで放送範囲を限定して放送信号を送信している。このため、ギャップフィラー装置GFaから送信する信号の周波数を、静止衛星SAT1から送られる信号周波数と同一に設定しているにも拘わらず、上記ビル陰となる不感エリアの周辺で静止衛星SAT1からの信号にギャップフィラー装置GFaの送信信号が干渉する心配は少なく、これにより放送受信装置MSはどのエリアにいる場合でも放送信号を高品質に受信することができる。
【0047】
(第2の実施形態)
一般に、赤道上空の静止軌道上に配置されている静止衛星から無線信号を送信した場合、地上においてはビルなどの障害物の北側に電波の陰ができる。この発明の第2の実施形態は、この点に着目し、多数のビルが並んでいるエリアにおいて、ギャップフィラー装置から東西方向へ指向性を持たせて放送信号を中継送信するようにしたものである。
【0048】
図3および図4はこの実施形態を説明するための図である。すなわち、繁華街やオフィス街のように道路に沿ってビルが林立している場所では、これらのビルによりその北側に、静止衛星SAT1からの無線信号を直接受信できない不感エリアが図3中の斜線で示すように東西方向に帯状に形成される。
【0049】
そこで、この実施形態では、例えば大きな交差点などのように静止衛星SAT1からの放送信号を直接受信できる位置にギャップフィラー装置GFbを設置する。その設置手段としては、例えば舗道上に支柱45を立設し、この支柱45上にギャップフィラー装置GFbを固定することにより行われる。
【0050】
ギャップフィラー装置GFbは、低雑音増幅器や電力増幅器などの送受信回路部を収容した本体42を備え、この本体42の上部に静止衛星SATからの放送信号を受信するアンテナ41を取り付けると共に、本体42の相反する2つの側面部にそれぞれ再送信用のアンテナ43,44を取り付けたものである。これら再送信用のアンテナ43,44の向きは、再送信無線信号の送信方向が東西方向となるように設定される。
【0051】
なお、歩道などに設置されている道路標識用の支柱や信号用の支柱、電信柱などの既存の支柱を利用できる場合には、専用の支柱45を設けずに、上記既存の支柱にギャップフィラー装置GFbを設置してもよい。
【0052】
このように本実施形態であれば、静止衛星SAT1から送られた放送信号は、ギャップフィラー装置GFbで受信増幅されたのち、中継送信用のアンテナ43,44から図3および図4に示すように東西方向へ指向性を持って送信される。したがって、少数のギャップフィラー装置を設置するだけで、静止衛星SAT1からの放送信号を直接受信できないギャップエリアを、効果的にカバーすることができる。
【0053】
なお、ギャップフィラー装置GFbは、必ずしも本体42に衛星受信用のアンテナ41と再送信用のアンテナ43,44を一体的に取り付けたものに限ることはない。例えば、衛星受信用のアンテナ41を取り付けた本体42を、ビルディングの屋上などのように静止衛星SAT1からの信号をより確実に受信できる場所に設置すると共に、中継送信用のアンテナ43,44を交差点に設置されている標識用の支柱や信号機用の支柱、電信柱などに取り付け、これら本体42と再送信用のアンテナ43,44との間を同軸ケーブルを介して接続する。このようにすると、本体42と再送信用のアンテナ43,44との間の接続が若干面倒になるが、受信性能の高いギャップフィラー装置を提供できる。なお、上記アンテナ43,44としては小型のパッチアンテナを使用可能である。
【0054】
また、広範囲の帯状不感エリアをカバーする場合には、例えば図5に示すようにギャップフィラー装置GFcをビルディングの屋上のような高所に設置し、この屋上から不感エリアに対し指向性を持って送信するようにするとよい。図5はこの構成により数十キロメートルから数キロメートルの不感エリアをカバーするようにした場合を示す。
【0055】
なお、不感エリアの形状によっては、例えば図6に示すように鉄塔などにギャップフィラー装置GFdを設置して、このギャップフィラー装置GFdから無指向性アンテナを使用して放送信号を中継送信するようにしてもよい。このようにすると、広範囲の円形状の不感エリアをカバーすることができる。
【0056】
(第3の実施形態)
この発明の第3の実施形態は、地上放送局から衛星に向け送信する複数のチャネル信号をCDM(Code Division Multiplex)方式により多重化し、ギャップフィラー装置においては衛星を介して到来した上記CDM多重放送信号を増幅してビル陰などのギャップエリアへ中継送信するようにしたものである。
【0057】
図7は、地上放送局BC1,BC2における送信部の構成を示す回路ブロック図である。図示しない回路で編集された複数の番組(図ではN番組)の放送信号はそれぞれ変調器51〜5nに入力される。これらの変調器51〜5nではそれぞれ、上記放送信号が拡散コード発生器61〜6nからそれぞれ発生された互いに異なる拡散コードによりスペクトル拡散変調される。上記各変調器51〜5nでスペクトル拡散変調された放送信号は、合成器71で1系統の多重放送信号に合成されたのち変調器72に入力される。この変調器72では、上記多重放送信号がQPSK或いはQAM方式等のディジタル変調方式によりさらに変調される。そして、この変調された多重化放送信号は、送信機73でKaまたはKuバンドの無線信号に周波数変換され、さらに所定の送信電力に増幅されたのち、アンテナ74から静止衛星に向け送信される。
【0058】
静止衛星は、上記地上放送局BC1,BC2またはフィーダリンク局から送信されたCDM多重放送信号を、Sバンドに周波数変換しかつ所定の電力レベルに増幅したのち地上のサービスエリアに向け送信する。
【0059】
ギャップフィラー装置は、上記静止衛星から送信されたCDM多重放送信号を受信し、この受信信号をギャップフィラー用の送信電力レベルに増幅して不感エリアに向け送信する。
【0060】
これに対し放送受信装置MSは次のように構成される。図8は放送受信装置MSの構成を示す回路ブロック図である。同図において、静止衛星およびギャップフィラー装置から送信されたCDM多重放送信号は、アンテナ21で受信されたのち受信機22に入力される。受信機22は上記CDM多重放送信号のうちユーザが指定したチャネルに対応する放送信号をRAKE受信方式により受信再生し、この再生した受信信号を音声/映像分離回路部23に入力する。
【0061】
音声/映像分離回路部23は、上記再生受信信号を音声データと映像データとテキストデータなどからなる付加データとに分離し、この分離した受信音声データを音声デコーダ24に入力すると共に、受信映像信号を映像デコーダ26に入力し、また付加データを付加データデコーダ28に入力する。音声デコーダ24は、上記受信音声データを復号して音声信号を再生し、この音声信号をスピーカ25から拡声出力する。また映像デコーダ26は、受信映像データを例えばMPEG4方式により復号し、この復号された映像信号を液晶ディスプレイ27に供給して表示させる。さらに付加データデコーダ28は、テキストデータなどからなる付加データを復号して、この復号した復号データを上記映像信号とともに液晶ディスプレイ27に表示させる。
【0062】
ところで、上記受信機22は次のように構成される。図9はその構成を示す回路ブロック図である。すなわち、静止衛星およびギャップフィラー装置から到来したCDM多重放送信号は、まず無線回路28で無線周波数からベースバンド周波数にダウンコンバートされる。そして、この受信ベースバンド信号は、アナログ/ディジタル変換器(A/D)29において所定のサンプリング周期でディジタル化されたのち、サーチ受信機30および3個のディジタルデータ復調器31,32,33にそれぞれ入力される。
【0063】
サーチ受信機30は、地上放送局BC1,BC2から送信されたパイロット信号を受信復調するもので、基本的に次に述べる各ディジタルデータ復調器31,32,33と同じ構成である。
【0064】
データ復調器31,32,33は、静止衛星から到来したCDM多重放送信号或いはギャップフィラー装置から到来したCDM多重放送信号のうちからユーザが指定したチャネルに対応する放送信号をRAKE受信方式により復調するものである。
【0065】
すなわち、データ復調器31,32,33は、前記A/D変換器29のサンプリングクロックを基準に独自クロックを生成して、この独自クロックにより互いに独立して動作するもので、それぞれ初期捕捉部、クロック追尾部およびデータ復調部を備えている。このうちデータ復調部は、位相補償部311,321,331と、乗算器312,322,332と、PN符号発生器313,323,333と、アキュムレータ314,324,334とを備えている。
【0066】
位相補償部311,321,331では、パスダイバーシチのために受信信号の位相補償が行なわれる。乗算器312,322,332では、上記位相補償部311,321,331から出力された受信信号に、PN符号発生器313,323,333から発生された指定チャネルに対応するPN符号が乗算され、これにより上記受信信号のスペクトル逆拡散が行なわれる。アキュムレータ314,324,334では、上記乗算器312,322,332から出力された逆拡散後の受信信号の積分が行なわれ、その積分出力がシンボル合成器34にそれぞれ入力される。
【0067】
シンボル合成器34は、上記各ディジタルデータ復調器31,32,33から出力された受信信号の積分出力を合成してデータ成分を再生し、この再生データ成分を図8に示す音声/映像分離部23に供給する。
【0068】
制御部35は、マイクロコンピュータを主制御部として備えたもので、RAKE受信に係わる制御機能として、パス位置検出手段と、PN符号発生制御手段とを備えている。パス位置検出手段は、サーチ受信機2で受信されたパイロット信号から、上記静止衛星SATから到来した信号およびギャップフィラー装置から到来した信号のパス位置をそれぞれ検出する。PN符号発生制御手段は、上記パス位置の検出結果をもとに最適なPNアドレス値を求め、このPNアドレス値を上記3個のディジタルデータ復調器31,32,33のPN符号発生器313,323,333に供給する。そして、これにより各PN符号発生器313,323,333から発生されるPN符号のチップ位相を可変制御する。
【0069】
このような構成の放送受信装置MSを用いることで、静止衛星から送られたCDM多重放送信号と、ギャップフィラー装置から再送信されたCDM多重放送信号とを、あたかもマルチパス信号を受信するようにそれぞれ受信再生して合成することができる。すなわち、静止衛星から送られたCDM多重放送信号と、ギャップフィラー装置から中継送信されたCDM多重放送信号とを、パスダイバーシチ受信することができる。このため、放送受信装置MSは、静止衛星からのCDM多重放送信号とギャップフィラー装置からの中継送信信号との両方を受信できるエリアに位置する場合でも、両信号間で干渉を起こすことなく高品質の受信を行うことができる。
【0070】
また、本実施形態によれば、静止衛星からのCDM多重放送信号とギャップフィラー装置からの中継送信信号との間の同一周波数による干渉を心配する必要がなくなるので、ギャップフィラー装置から再送信する信号の指向性を厳密に調整する必要がなくなり、これによりギャップフィラー装置の設置を簡単に行うことができる。
【0071】
(第4の実施形態)
この発明の第4の実施形態は、同一の静止軌道上に打ち上げられた本機と予備機とからなる2機の静止衛星を所定の間隔で離間させて配置し、これらの静止衛星から同一の放送信号を互いに同期させてサービスエリアに送信することにより、本機からの放送信号を受信できないエリアにいる放送受信装置MSであっても、予備機からの放送信号を受信できるようにしたものである。
【0072】
図10はこの実施形態に係わる衛星放送システムの概略構成図である。同図において、静止軌道上には2機の静止衛星SATa,SATbが所定の距離だけ離れて配置されている。上記各静止衛星SATa,SATbは一方が本機、他方が予備機として機能するもので、本機が正常に機能しているときにも予備機を待機状態にせず、本機と同一の放送信号を送信するようにしている。
【0073】
このような構成であるから、例えば図7に示すようにビル等によって本機SATaからの放送信号RSaを受信できないエリアにいる移動局MSでは、予備機SATbからの放送信号RSbを受信することができる。また反対に、予備機SATbからの放送信号RSbを受信できないエリアにいる移動局MSは、本機SATaからの放送信号RSaを受信することができる。したがって、本実施形態によれば、地上にギャップフィラー装置を設置しなくても、ギャップエリアをなくすことが可能となる。しかも、本実施形態では既存の予備機を利用してギャップフィラー効果を実現しているので、新たな衛星を打ち上げる必要がなく、安価に実現できる利点がある。
【0074】
(第5の実施形態)
この発明の第5の実施形態は、地上放送局またはフィーダリンク局が送信した放送信号を、静止衛星において互いに周波数の異なる放送受信装置向けの第1の放送信号と、ギャップフィラー装置向けの第2の放送信号とに周波数変換して送信し、ギャップフィラー装置では上記第2の放送信号を受信してこれを第1の放送信号と同一周波数の放送信号に変換したのち、不感エリアに向け中継送信するようにしたものである。
【0075】
図11は本実施形態に係わる衛星放送システムの概略構成図である。また図12はこのシステムの静止衛星SAT2に搭載されたトランスポンダの構成を示し、さらに図13はギャップフィラー装置の構成を示している。
【0076】
静止衛星SAT2のトランスポンダでは、地上放送局BCから送信されたKuバンドの上り放送信号UL(周波数fua)が受信アンテナ81で受信されたのち低雑音増幅器82で増幅されて、信号分配器83に入力される。信号分配器83では、上記上り放送信号が2系統に分配される。
【0077】
そして、一方の系統の放送信号は、第1の周波数変換器84でSバンドの無線周波信号(周波数fs)に周波数変換されたのち第1の電力増幅器86により固定局や移動局MSの放送受信装置が受信するに必要な送信電力レベルに増幅され、しかるのちSバンド用の送信アンテナ88から第1の下り放送信号DLaとして地上のサービスエリアに向け送信される。
【0078】
これに対し信号分配された他方の系統の放送信号は、第2の周波数変換器85でKuバンドの無線周波信号(周波数fub)に周波数変換されたのち第2の電力増幅器87でギャップフィラー装置GFeが受信するに必要な送信電力レベルに増幅され、しかるのちKuバンド用の送信アンテナ89から第2の下り放送信号DLbとして送信される。なお、上記第2の下り放送信号DLbと上り放送信号ULはともにKuバンドにより伝送されるが、その周波数は異ならせてある。例えば第2の下り放送信号DLbの周波数fubは14GHzに、また上り放送信号ULの周波数fuaは12GHzに設定される。
【0079】
一方ギャップフィラー装置GFeでは、上記静止衛星SAT2から送信された第2の放送信号DLbが、アンテナ91で受信されたのち低雑音増幅器92により増幅され、周波数変換器93に入力される。この周波数変換器93では、上記受信した第2の下り放送信号がSバンドの無線周波信号(周波数fs)に、つまり前記静止衛星SAT2が放送受信装置向けに送信する第1の下り放送信号DLaと同一周波数の無線周波信号に周波数変換される。そして、このSバンドに周波数変換された放送信号は、電力増幅器94によりギャップフィラーカバーエリアGEの大きさに対応する送信電力レベルに増幅され、しかるのち送信アンテナ95から中継放送信号DLgとしてギャップフィラーカバーエリアGEへ向け送信される。
【0080】
このような構成であるから、静止衛星SAT2から到来する下り放送信号DLbの周波数と、ギャップフィラーカバーエリアGEへ向け送信する中継放送信号DLgの周波数とが異なることになるため、ギャップフィラー装置GFeでは送信中継放送信号DLgの受信アンテナへの回り込みを容易に防止して、これにより入出力間のアイソレーションを簡単かつ確実に実現することができる。
【0081】
(第6の実施形態)
この発明の第6の実施形態は、地上放送局が静止衛星に向け送信する上り放送信号と同一内容の第2の放送信号を地上網を経由してギャップフィラー装置へ伝送し、ギャップフィラー装置においてこの地上網を介して伝送された第2の放送信号を基に、上記静止衛星から放送受信装置へ送信される下り放送信号と同一の中継放送信号を生成して、これを不感エリアに向け送信するようにしたものである。
【0082】
図14はその構成を示す回路ブロック図である。図示しない地上放送局は、自局が静止衛星に向け送信する上り放送信号と同一内容でかつ有線伝送用の信号フォーマットに構成された第2の放送信号を生成し、これを例えばISDN網などの地上公衆網NWを介してギャップフィラー装置GFfに向け伝送する。
【0083】
ギャップフィラー装置GFfは、モデムにより上記地上放送局からの第2の放送信号を受信すると、信号変換装置101においてこの第2の放送信号の信号フォーマットを有線伝送用のフォーマットから衛星放送用の信号フォーマットに変換する。そして、この衛星送信用の放送信号を周波数変換器102でSバンドの無線周波信号に周波数変換し、さらに電力増幅器103で不感エリアの大きさに対応する送信電力レベルに増幅したのち、これを中継放送信号として送信アンテナ104からビル陰などの不感エリアに向け送信する。
【0084】
このような構成であるから、ギャップフィラー装置を静止衛星からの下り放送信号を受信できる場所に設置できない場合でも、不感エリアに対し確実に放送信号を放送することができる。
【0085】
なお、上記ギャップフィラー装置GFfに、上記地上公衆網NW経由で放送信号を受信して中継放送信号を生成する回路に加え、図2或いは図13に示したような静止衛星からの下り放送信号を受信して中継放送信号に変換する回路を備える。そして、ギャップフィラー装置の設置条件に応じて、上記各回路により生成された放送信号を選択して不感エリアへ送信するようにしてもよい。
【0086】
また、静止衛星からの下り放送信号の受信品質を判定する回路をさらに備え、この判定回路により下り放送信号が所定の受信品質で受信されていると判定された場合には、静止衛星からの下り放送信号を基に生成した中継放送信号を選択して不感エリアへ送信し、一方上記所定の受信品質が得られないと判定された場合には、地上公衆網NWを介して伝送された第2の放送信号を基に生成した中継放送信号を選択して不感エリアへ送信するようにしてもよい。
【0087】
(第7の実施形態)
この発明の第7の実施形態は、ギャップフィラー装置に、自装置の動作状態を表すモニタ情報を生成してこれをモニタセンタに伝送する機能を持たせ、モニタセンタにおいて上記モニタ情報を基にギャップフィラー装置の動作状態を監視するようにしたものである。
【0088】
図15はこの実施形態に係わるシステムの第1の実施例を示すものである。同図において、ギャップフィラー装置GFgは下り放送信号の受信レベルや中継放送信号の送信レベルなどの自装置の動作状態を表す要素を一定の時間間隔で検出してこれをもにた情報としてメモリに蓄積する。
【0089】
これに対しモニタセンタMCaは、定期的或いは任意のタイミングでモニタ情報の送信要求を生成し、この送信要求を地上網NWを介して上記ギャップフィラー装置GFgへ送出する。そうすると、ギャップフィラー装置GFgは、メモリからモニタ情報を読み出してこれを上記地上網NWを介してモニタセンタMCaへ伝送する。なお、このときモニタセンタMCaへ伝送するモニタ情報は、最新のモニタ情報のみであってもよいが、前回の伝送タイミングから今回の伝送タイミングまでに蓄積されたモニタ情報をすべて伝送するようにしてもよい。
【0090】
すなわち、モニタセンタMCaは、サービスエリアに点在する複数のギャップフィラー装置からポーリング方式によりモニタ情報を収集し、この収集したモニタ情報を表示またはプリントアウトする。また、それとともにモニタ情報の内容を基にギャップフィラー装置の動作状態が正常であるか否かを判定し、その判定結果を表示する。
【0091】
このような構成であれば、各ギャップフィラー装置GFgの動作状態をモニタセンタMCaにおいて集中管理することができ、効率的な保守が可能となる。またモニタ情報の収集をポーリング方式により行っているので、多数ののギャップフィラー装置のモニタ情報を効率良く収集することができる。
【0092】
図16はこの実施形態に係わるシステムの第2の実施例を示すものである。同図において、各ギャップフィラー装置GFhとモニタセンタMCbとの間は衛星通信回線を介して接続される。そして、ギャップフィラー装置GFhは、上記衛星通信回線を介してモニタセンタMCbからモニタ情報の送信要求が到来するごとに、メモリからモニタ情報を読み出してこのモニタ情報を衛星通信用の信号フォーマットに変換したのち、衛星通信回線を介してモニタセンタMCbへ送信する。
【0093】
このような構成によれば、既存の静止衛星の衛星通信回線を利用して各ギャップフィラー装置からモニタ情報を収集することができるので、地上網NWを使用した通信回線を不要にできる。
【0094】
なお、以上述べた各例では、ギャップフィラー装置GFg,GFhのモニタ情報をモニタセンタMCa,MCbからのポーリングにより収集する場合について説明した。しかし、このポーリングによる収集機能に加えて、ギャップフィラー装置GFg,GFhに動作状態の自己判定機能を持たせ、動作異常が検出された場合にギャップフィラー装置GFg,GFhからモニタセンタMCa,MCbを呼び出して、上記異常に係わるモニタ情報をモニタセンタMCa,MCbに通知するようにしてもよい。
【0095】
このようにすると、ギャップフィラー装置で動作異常が発生するとその旨をモニタセンタが即時知ることができ、この結果より迅速な復旧処置を講じることが可能となる。
【0096】
さらに、ギャップフィラー装置GFg,GFhで衛星からの放送信号の受信異常やギャップフィラー装置GFg,GFh自身の動作異常が発生した場合に、その旨のメッセージをモニタセンタMCa,MCbに通知するとともに、不感エリア内に存在する放送受信装置に向け送信するようにしてもよい。このとき各放送受信装置に通知するメッセージとしては、例えば「ただいま衛星からの受信状態が悪化しています。復旧までしばらくお待ち下さい。」等のような文字メッセージ或いは音声メッセージが用いられる。
【0097】
図17はこの実施形態に係わるシステムの第3の実施例を示すものである。同図において、ギャップフィラー装置GFiは、静止衛星から到来した下り放送信号を基に中継放送信号を生成して送信する際に、自装置の動作状態を表すモニタ情報を上記中継放送信号に多重化して不感エリアに向け送信する。多重化方式としては、FDM方式やCDM方式が使用できる。
【0098】
不感エリアの任意の位置、例えばエリアの縁に相当する位置には、モニタ用受信装置MRが配置される。このモニタ用受信装置MRは、保守員が携帯するハンディタイプのものでも、また車両搭載型のものでもよく、さらには固定的に設置されるものでもよい。モニタ用受信装置MRは、上記ギャップフィラー装置GFiから送信された中継放送信号を受信してモニタ情報を分離抽出するとともに、上記中継放送信号の受信レベルを検出する。そして、この受信レベルの検出データを上記モニタ情報に含め、このモニタ情報を例えばセルラ無線電話システムやPHS等の移動通信網INWを介してモニタセンタMCcへ伝送する。
【0099】
このように構成であれば、ギャップフィラー装置により生成されるモニタ情報とともに、モニタ用受信装置MRで実測された受信レベルの検出データをモニタセンタMCcへ伝送することができる。このため、モニタセンタMCcではギャップフィラー装置自身の動作状態はもとより、送信レベルと不感エリアにおける実際の受信レベルとの適合性をも判定することができる。
【0100】
なお、この発明は上記各実施形態に限定されるものではない。例えば、地上にギャップフィラー装置を設置して不感エリアをカバーする方式と、2個の静止衛星を使用して不感エリアをカバーする方式とを併用することにより、互いの方式でカバーしきれないエリアをカバーし合うようにしてもよい。
【0101】
また前記各実施形態では、静止衛星を使用した衛星放送システムを例にとり、静止衛星から送られた放送信号をギャップフィラー装置で受信して放送受信装置MSへ再送信するようにした。しかし、それに限らず、例えばインタラクティブな衛星放送システムにおいて、放送受信装置MSから衛星に向け送信された信号をギャップフィラー装置で中継して衛星へ送信するようにしてもよい。
【0102】
さらに前記実施形態では、ビル陰に生じる不感エリアをカバーする場合を例にとって説明したが、本発明は鉄塔等の他の建造物、山や崖等の自然物により生じるギャップエリアをカバーする場合にも同様に適用できる。
【0103】
さらに、室内における不感エリアをカバーする場合にも本発明は適用可能である。例えば、窓際のように衛星からの下り放送信号を直接受信可能な位置に室内用の小形のギャップフィラー装置(リピータ)を設置し、このリピータから室内へ中継放送信号を送信して受信装置に受信させる。この場合、リピータに受信装置を同軸ケーブルなどを介して接続し、受信した下り放送信号をこの同軸ケーブルを介して受信装置に伝送するように構成してもよい。また、上記リピータはビルディングや家屋の屋上或いは屋根に設置してもよい。
【0104】
その他、ギャップフィラー装置の構成や設置場所、放送受信装置MSの種類や構成、衛星の種類、衛星から送信する信号の種類やその送信方式などについても、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。
【0105】
【発明の効果】
以上詳述したようにこの発明によれば、ギャップフィラー装置を設け、このギャップフィラー装置により、衛星で中継された放送信号を受信してこの受信放送信号をサービスエリア内で衛星からの放送信号を受信不可能なエリアに対し、前記衛星から送信される放送信号と同一の周波数で無線送信するようにしたことによって、衛星からの無線信号を直接受信できないビル陰などの不感エリアにおいて、大掛かりな設備を設けることなく、固定局ばかりでなく移動局MSに対しても確実に受信させることができ、これにより安価で効果的なギャップフィラーを実現できる衛星放送システムとそのギャップフィラー装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明に係わるギャップフィラー機能を備えた衛星放送システムの第1の実施形態を示す概略構成図。
【図2】 図1に示したシステムで使用されるギャップフィラー装置の構成を示す回路ブロック図。
【図3】 この発明に係わる衛星放送システムの第2の実施形態を説明するための平面図。
【図4】 この発明に係わる衛星放送システムの第2の実施形態を説明するための正面図。
【図5】 この発明に係わる衛星放送システムの第2の実施形態の他の実施例を示す図。
【図6】 この発明に係わる衛星放送システムの第2の実施形態の別の実施例を示す図。
【図7】 この発明に係わるギャップフィラー機能を備えた衛星放送システムの第3の実施形態で使用される地上放送局の送信部の構成を示す回路ブロック図。
【図8】 この発明に係わるギャップフィラー機能を備えた衛星放送システムの第3の実施形態で使用される放送受信装置の構成を示す回路ブロック図。
【図9】 図8に示した放送受信装置の受信機の構成を示す回路ブロック図。
【図10】 この発明に係わるギャップフィラー機能を備えた衛星放送システムの第4の実施形態を示す概略構成図。
【図11】 この発明に係わるギャップフィラー機能を備えた衛星放送システムの第5の実施形態を示す概略構成図。
【図12】 図11に示したシステムで使用される静止衛星のトランスポンダの構成を示す回路ブロック図。
【図13】 図11に示したシステムで使用されるギャップフィラー装置の構成を示す回路ブロック図。
【図14】 この発明に係わるギャップフィラー機能を備えた衛星放送システムの第6の実施形態を示す概略構成図。
【図15】 この発明に係わるギャップフィラー機能を備えた衛星放送システムの第7の実施形態における第1の実施例を示す概略構成図。
【図16】 この発明に係わるギャップフィラー機能を備えた衛星放送システムの第7の実施形態における第2の実施例を示す概略構成図。
【図17】 この発明に係わるギャップフィラー機能を備えた衛星放送システムの第7の実施形態における第3の実施例を示す概略構成図。
【符号の説明】
BC,BC1,BC2…地上放送局(VSAT)
SAT1,SAT2,SATa,SATb…静止衛星
MS…移動局
MR…モニタ用受信装置
GFa〜GFi…ギャップフィラー装置
MCa〜MCc…モニタセンタ
NW…地上公衆網
INW…移動通信網
11,41,81,91…衛星受信用のアンテナ
12…入力フィルタ
13,82,92…低雑音増幅器
14,86,87,94,103…電力増幅器
15…出力フィルタ
16,43,44,88,89,95,104…送信用のアンテナ
42…ギャップフィラー装置本体
45…ギャップフィラー装置固定用の支柱
20…制御部
21…固定局または移動局の受信アンテナ
22…受信機
23…音声/映像分離回路部
24…音声デコーダ
25…スピーカ
26…映像デコーダ
27…液晶ディスプレイ
28…無線回路
29…アナログ/ディジタル変換器(A/D)
30…サーチ受信機
31,32,33…ディジタルデータ復調器
34…シンボル合成器
35…制御部
36…付加データデコーダ
311,321,331…位相補償部
312,322,332…乗算器
313,323,333…PN符号発生器
314,324,334…アキュムレータ
84,85,93,102…周波数変換器
101…信号変換装置

Claims (7)

  1. 予め決められた拡散符号によりスペクトル拡散変調されたCDM(符号分割多重)方式による衛星放送用フォーマットの第1の放送信号を衛星に向けて送出すると共に、前記第1の放送信号と同一内容の有線放送用フォーマットの第2の放送信号を地上通信回線へ送出する地上送信装置と;
    前記衛星に搭載され、前記地上送信装置から送出される第1の放送信号を受信し、受信した第1の放送信号からそれぞれ互いに異なる第1、第2の周波数帯の第1の放送信号を生成して共に同一のサービスエリアに向けて送出する衛星中継装置と;
    前記サービスエリア内に配置され、前記衛星からの第2の周波数帯の第1の放送信号と前記地上送信装置から前記地上通信回線を通じて伝送される第2の放送信号のいずれか一方を選択的に受信し、選択された放送信号を前記衛星から第1の周波数帯で送出される第1の放送信号と同一周波数でかつ同一フォーマットの放送信号に変換し、前記サービスエリア内の不感エリアに向けて無線送信するギャップフィラー装置と;
    前記サービスエリア内で前記第1の周波数帯の放送信号を受信する放送受信装置と;
    を具備することを特徴とする衛星放送システム。
  2. 請求項1記載の衛星放送システムに用いられる前記地上送信装置であって、
    予め決められた拡散符号によりスペクトル拡散変調されたCDM(符号分割多重)方式による衛星放送用フォーマットの第1の放送信号と共に、前記第1の放送信号と同一内容の有線放送用フォーマットの第2の放送信号を生成する生成装置と;
    前記第1の放送信号を前記衛星に向けて送出する第1の送信装置と;
    前記第2の放送信号を前記地上通信回線に送出する第2の送信装置と;
    を具備することを特徴とする地上送信装置。
  3. 請求項1記載の衛星放送システムに用いられる前記衛星中継装置であって、
    前記地上送信装置から送出される第1の放送信号を受信する受信装置と;
    前記受信された第1の放送信号からそれぞれ互いに異なる第1、第2の周波数帯の第1の放送信号を生成する生成装置と;
    前記第1、第2の周波数帯の第1の放送信号を共に前記サービスエリアに向けて送出する送信装置と;
    を具備することを特徴とする衛星中継装置。
  4. 請求項1記載の衛星放送システムに用いられる前記ギャップフィラー装置であって、
    前記衛星から送信される第2の周波数帯の第1の放送信号を受信する第1の受信装置と;
    前記地上送信装置から前記地上通信回線を通じて伝送される前記第2の放送信号を受信する第2の受信装置と;
    前記第1、第2の受信装置のいずれか一方で受信された放送信号を選択する選択装置と、
    前記選択装置で選択された放送信号を前記衛星から第1の周波数帯で送出される放送信号と同一周波数でかつ同一フォーマットの放送信号に変換する変換装置と;
    前記変換装置で第1の周波数帯に変換された放送信号を前記サービスエリア内の不感エリアに向けて無線送信する送信装置と;
    を具備することを特徴とするギャップフィラー装置。
  5. 前記選択装置は、前記第1の受信装置の受信レベルが許容レベルのときは前記第1の受信装置の受信信号を選択し、許容レベルに満たないときは前記第2の受信装置の受信信号を選択することを特徴とする請求項記載のギャップフィラー装置。
  6. 請求項1記載の衛星放送システムに用いられる前記放送受信装置であって、
    前記サービスエリア内で前記第1の周波数帯の放送信号を受信するアンテナと;
    前記アンテナの受信信号から前記放送信号を抽出し再生する信号処理装置と;
    を具備することを特徴とする放送受信装置。
  7. 地上送信装置にて、予め決められた拡散符号によりスペクトル拡散変調されたCDM(符号分割多重)方式による衛星放送用フォーマットの第1の放送信号を衛星に向けて送出すると共に、前記第1の放送信号と同一内容の有線放送用フォーマットの第2の放送信号を地上通信回線へ送出し;
    前記衛星にて、前記地上送信装置から送出される第1の放送信号を受信し、受信した第1の放送信号からそれぞれ互いに異なる第1、第2の周波数帯の第1の放送信号を生成して共に同一のサービスエリアに向けて送出し;
    前記サービスエリア内に配置されるギャップフィラー装置にて、前記衛星からの第2の周波数帯の第1の放送信号と前記地上送信装置から前記地上通信回線を通じて伝送される第2の放送信号のいずれか一方を選択的に受信し、選択された放送信号を前記衛星から第1の周波数帯で送出される第1の放送信号と同一周波数でかつ同一フォーマットの放送信号に変換し、前記サービスエリア内の不感エリアに向けて無線送信し;
    前記サービスエリア内で放送受信装置にて前記第1の周波数帯の放送信号を受信することを特徴とする衛星放送方法。
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