JP3647420B2 - 急冷合金の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、永久磁石の製造に用いられる急冷合金の製造方法に関する。特に、急冷条件を精密に制御することによって微細な結晶相を適切に形成することが必要な急冷合金の製造方法に関し、ソフト磁性相とハード磁性相とが磁気的に結合したナノコンポジット磁石に適している。
【0002】
【従来の技術】
現在、R−Fe−B系磁石として、R2Fe14Bなどのハード磁性相と、Fe3B(Fe3.5Bを含む)やα−Feなどのソフト磁性相(高磁化強磁性相)とが磁気的に結合された組織構造を有するナノコンポジット型永久磁石が開発されている。ナノコンポジット型永久磁石の粉末は、樹脂材料を用いて所定の形状に固められることによって等方性ボンド磁石として用いられる。
【0003】
ナノコンポジット磁石を製造する場合、出発原料として、非晶質組織、または非晶質相を多く含む組織を有する急冷合金(「急冷凝固合金」とも称されている。)を用いることが多い。通常、この急冷合金は、急冷直後においては非晶質相を含むものであり、熱処理によって充分に結晶化し、最終的には平均結晶粒径が10-9m〜10-6m程度の微細組織を有する磁性材料となる。
【0004】
結晶化のための熱処理後における磁性合金の組織構造は、結晶化熱処理前における急冷合金の組織構造に大きく依存する。このため、急冷合金中に析出した結晶相の種類および平均サイズや急冷合金中に含まれる非晶質相の割合などが最終的な磁石特性に重要な影響を与える。このような急冷合金の組織構造は、合金溶湯の急冷条件によって変化するため、優れた磁気特性を有するナノコンポジット磁石などの永久磁石を作製するには、急冷条件の制御が重要になる。
【0005】
従来、急冷合金を作製する方法としては、図1に示すような装置を用いた液体急冷方法が知られている。この方法では、底部にオリフィスを有するノズルから、銅などによって形成される冷却ロール上に溶融合金を噴射し、これを急冷することによって非晶質化された薄帯状の凝固合金を作製する。
【0006】
このような方法については、これまで、磁性材料を研究する大学や機関によって研究および報告がなされてきた。ただし、ここで用いられている装置は、数10g〜数100g程度の合金をノズル内で溶解し、噴射する実験規模のものに過ぎず、このように処理量の少ない装置ではナノコンポジット磁石用の原料合金を量産することができない。
【0007】
また、処理量を増加させた方法が、例えば、特開平2−179803号公報、特開平2−247305号公報、特開平2−247306号公報、特開平2−247307号公報、特開平2−247308号公報、特開平2−247309号公報、特開平2−247310号公報などに記載されている。
【0008】
この方法では、溶解炉内で溶融した合金溶湯を、底部に噴射ノズルを有した容器内に注ぎ入れた後、容器内の溶湯に一定の圧力を加えることによって溶湯をノズルから冷却ロールの表面に向けて噴射させている(以下、この方法を「メルトスピニング法」と呼ぶ)。このように圧力をかけながらノズルを介して溶湯を噴射させることで、比較的速い流速を有する溶湯の条(溶湯の流れ)を冷却ロールの最上部付近に略垂直に噴射させることができる。噴射された溶湯は、冷却ロールの表面上でパドル(湯溜まり)を形成し、このパドルのロール接触面が急冷され、薄帯状の急冷合金が作製される。
【0009】
上述のメルトスピニング法では、合金溶湯と冷却ロールとの接触長さが短いため、冷却ロール上では急冷が完了せず、冷却ロールから剥離した後の高温状態(例えば700℃〜900℃)の合金が飛行中にも冷却される。このため、急冷条件を精密に制御するには、冷却ロールの周速度を調節するだけでは充分ではなく、溶湯の噴射圧や急冷雰囲気ガスの圧力などを調整し、最適な急冷条件を見つけ出す必要がある。
【0010】
しかしながら、メルトスピニング法の場合、工業量産に対応できる程度(例えば、約1.5kg/分以上)にまで処理量を増加させると、溶湯供給量(溶湯噴射速度)の増加に伴って噴射ノズルの消耗が激しくなる。これによって、処理中に溶湯供給量が変動するため、急冷条件も変化し、安定した急冷状態を維持することができなくなる。
【0011】
なお、ロール周速度を例えば20m/秒を超える値に設定し、ほぼ完全に非晶質化した急冷合金を作製する場合は、急冷条件が多少変動しても急冷合金の組織構造に大きな変化はあらわれない。これに対し、ロール周速度を5m/秒以上20m/秒以下の範囲内に設定し、ナノメートルサイズの微細な結晶相を50体積%以上含む急冷合金を作製しようとする場合は、急冷条件が変動して冷却が不充分にしか行われないと、結晶相が粗大化するため、磁石特性が劣化する。逆に、冷却が過度に進むと、非晶質相の体積比率が大きくなり(例えば50%以上)、その後の熱処理によって適切な磁石組織を得ることが困難になる場合がある。また、作製された急冷合金の平均厚さが50μm以上になると、急冷条件の変動に起因する磁気特性のばらつきが大きくなりやすくなる。
【0012】
このように急冷磁石の種類によっては、急冷条件を狭い範囲内において制御することが極めて重要になるが、メルトスピニング法による場合は、急冷条件が変動しやすいという問題がある。
【0013】
急冷合金を作製する他の方法としては、ストリップキャスト法が知られている。ストリップキャスト法では、溶解炉から合金溶湯を案内手段(シュート)上に供給し、シュート上の合金溶湯を冷却ロールと接触させることによって急冷合金を作製する。シュートは、溶湯を一時的に貯湯するように溶湯の流速を制御するとともにその流れを整流し、それにより、冷却ロールへの溶湯の安定した連続供給を実現する溶湯案内手段である。冷却ロールの外周表面に接触した溶湯は、回転する冷却ロールに引きずられるようにしてロール周面に沿って移動し、この過程において冷却される。
【0014】
ストリップキャスト法では、ロール周方向における溶湯とロール外周面との接触長さが比較的長いため、溶湯の冷却はロール上で略完了する。また、ストリップキャスト法ではメルトスピニング法のような噴射ノズルを用いず、シュートを介して冷却ロール上への合金溶湯の連続的な供給を行うため、大量生産に適しており、製造コストの低下を実現することが可能である。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、結晶組織を均一に微細化する必要のあるナノコンポジット磁石用急冷合金をストリップキャスト法によって作製するには、ロール周速度を従来のストリップキャスト法で採用していたロール周速度よりも速める必要がある。ロール周速度を速めないと、結晶相が粗大化し、最終的な磁石特性が劣化するからである。このため、ストリップキャスト法でナノコンポジット磁石用急冷合金を作製する場合は、メルトスピニング法による場合と同様に高速で冷却ロールを回転させる必要があり、合金溶湯の急冷条件を精密に制御することが難しくなる。
【0016】
以上説明したように、メルトスピニング法およびストリップキャスト法のいずれの急冷方法を採用する場合でも、急冷条件を精密に制御して、所望の組織構造を有する急冷合金を再現性良く作製することは難しく、特にナノコンポジット磁石の急冷合金として品質の優れたものを安定的に量産することが困難であった。
【0017】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、良好な組織を有する急冷合金を安定的に量産するための製造方法を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明による急冷合金の製造方法は、回転する冷却ロールに対して合金の溶湯を接触させることにより、前記合金を急冷し、それによって結晶相を含有する合金を得る急冷合金の製造方法であって、前記合金を加熱して、前記合金の溶湯を作製する工程と、前記合金の溶湯を前記冷却ロールに供給する工程と、前記合金の溶湯が凝固してゆく過程において、移動しつつある前記合金が放射する赤外線を検知することにより、合金温度を測定する工程と、前記合金温度に基づいて急冷条件を調節する工程とを包含する。
【0019】
本発明による急冷合金の製造方法は、回転する冷却ロールに対して合金の溶湯を接触させることにより、前記合金を急冷し、それによって結晶相を含有する合金を得る急冷合金の製造方法であって、前記合金を加熱して、前記合金の溶湯を作製する工程と、前記合金の溶湯を前記冷却ロールに供給する工程と、前記合金の溶湯が凝固してゆく過程において、移動しつつある前記合金が放射する赤外線を検知することにより、少なくとも第1の位置における合金温度と第2の位置における合金温度とを測定する工程と、前記第1の位置における合金温度と前記第2の位置における合金温度との差ΔTが所定範囲内に含まれるように急冷条件を調節する工程とを包含する。
【0020】
ある好ましい実施形態において、前記第1の位置は、前記合金の凝固が開始する前の位置であり、前記第2の位置は、前記冷却ロールから剥離した後の空中である。
【0021】
ある好ましい実施形態において、前記合金が放射する赤外線の検知は、赤外線カメラによって行う。
【0022】
ある好ましい実施形態において、前記赤外線カメラは、前記合金の溶湯が凝固してゆく過程において、移動しつつある前記合金の上方に配置されている。
【0023】
ある好ましい実施形態において、前記第1および第2の位置は、それぞれ、前記赤外線カメラによる撮像エリア内から選択された第1および第2の領域内に含まれており、前記第1の領域内で最高の温度が前記第1の位置における合金温度とされ、前記第2の領域内で最高の温度が前記第2の位置における合金温度とされる。
【0024】
ある好ましい実施形態において、前記第2の位置における前記合金の移動速度は、2m/秒以上である。
【0025】
ある好ましい実施形態において、前記急冷条件は、前記合金を加熱するときの加熱量、前記合金を前記冷却ロールに供給する単位時間当たりの量、および前記冷却ロールの周速度のいずれかを含んでいる。
【0026】
ある好ましい実施形態において、前記急冷条件を調節する工程は、前記差ΔTが前記所定範囲内に含まれない場合に、前記合金を加熱するときの加熱量および/または前記合金を前記冷却ロールに供給する単位時間当たりの量を変化させる第1工程と、前記第1工程を行ったにもかかわらず前記差ΔTが前記所定範囲内に含まれない場合に、前記冷却ロールの周速度を変化させる第2工程とを包含する。
【0027】
ある好ましい実施形態において、前記合金の組成式は、(Fe1-mm100-x-y-zxyz(TはCoおよびNiからなる群から選択された1種以上の元素、QはBおよびCからなる群から選択された1種以上の元素、RはLaおよびCeを実質的に含まない1種以上の希土類金属元素、Mは、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ni、Hf、Ta、W、Pt、Pb、AuおよびAgからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素)で表現されており、組成比率x、y、z、およびmが、それぞれ、10≦x≦30at%、2≦y<10at%、0≦z≦10at%、および0≦m≦0.5を満足し、前記急冷合金は、非晶質相および平均粒径50nm以下の結晶相を含む合金であって、ナノコンポジット磁石の製造に用いられる。
【0028】
ある好ましい実施形態において、前記冷却工程は、内径1mmを越えるノズルオリフィスを用いて前記合金溶湯を前記冷却ロールの表面に向けて噴射する工程を含む。
【0029】
ある好ましい実施形態において、前記冷却工程は、案内面が水平方向に対して1〜80°の角度を形成する案内手段上に前記合金溶湯を供給し、前記冷却ロールとの接触領域に前記合金溶湯を移動させる工程を含む。
【0030】
ある好ましい実施形態において、前記冷却工程は、前記案内手段により、前記合金溶湯の流れを複数条に分離し、各条の幅を前記冷却ロールの軸線方向に沿って所定の大きさに調節することを包含する。
【0031】
ある好ましい実施形態において、前記第2の位置における合金温度は、前記複数条の少なくとも1つの条について測定した温度である。
【0032】
ある好ましい実施形態において、前記第2の位置における合金温度は、前記複数条に含まれる幾つかの条について測定した温度の平均値である。
【0033】
本発明による永久磁石の製造方法は、上記いずれかの急冷合金を用意する工程と、前記急冷合金を加熱する工程と、前記急冷合金の粉末を用いて成形体を作製する工程とを包含する。
【0034】
【発明の実施の形態】
本発明による急冷合金の製造方法は、合金の溶湯を作製する工程と、合金の溶湯を冷却ロールに供給する工程と、合金の溶湯が凝固してゆく過程において、移動しつつある合金が放射する赤外線を検知することにより、合金温度を測定する工程と、合金温度に基づいて急冷条件を調節する工程とを包含している。
【0035】
本発明の好ましい態様によると、移動しつつある前記合金が放射する赤外線を検知することにより、少なくとも第1の位置における合金温度と第2の位置における合金温度とを測定し、第1の位置における合金温度と第2の位置における合金温度との差ΔTが所定範囲内に含まれるように急冷条件を調節する。ここで言う「移動しつつある合金」とは、凝固した状態にある合金のみを指すのではなく、溶湯状態にある合金や急冷によって凝固しつつある合金をも広く含むものとする。また、本明細書における「急冷条件」とは、ロール上での急冷条件のみならず、急冷装置の各種運転パラメータ(溶湯温度、急冷室内の雰囲気の種類/圧力、ロールへの溶湯供給レートなど)を広く含むものとする。
【0036】
合金の発する赤外線を検知するために赤外線カメラを用いれば、撮像エリア内を高速で移動し、上限に揺れ動く合金薄帯の温度を適確に検出することができる。赤外線カメラは、撮像エリア内の物体が放射する赤外線をCCDなどの受光素子によって受け、光電変換により、赤外線強度に応じた電位を出力する装置である。赤外線カメラによれば、撮像エリア内の多数のポイントにおける物体の温度分布をリアルタイムで検知することができる。測定可能なポイントは、受光素子の有効画素数に相当する。この有効画素数が例えば水平100×垂直100の赤外線カメラを用いると、撮像エリア内の10000ポイントにおける物体温度を同時に検知することができる。このため、高速で移動しつつある合金を撮像エリア内に配置すれば、溶湯状態から凝固状態に変化する過程にある合金の温度を正確に知ることができる。本発明に用いる赤外線カメラの有効画素数は、水平300×垂直300以上であることが好ましい。
【0037】
このようにして合金が出す赤外線を検知することにより、急冷開始前における合金溶湯の温度T1と、急冷過程における合金の温度T2とを測定すれば、急冷過程で生じた温度差ΔT(=T1−T2)をリアルタイムで計測することが可能となる。一般に、冷却開始前における合金溶湯の温度(出湯温度)は、所定範囲内に制御しやすいが、急冷過程における合金温度は変動しやすく、所定範囲内に制御することが難しい。特に溶湯供給レートが1kg/秒を超えて大きくなると、溶湯から冷却ロールへ大きな熱移動が生じるため、冷却ロールの表面温度が過度に上昇して抜熱効果が低下する傾向がある。このため、出湯温度(T1)が略一定に保持されていても、T2が上昇しやすく、ΔT(=T1−T2)が経時的に変化する可能性がある。ΔTのばらつきは、急冷合金の組織構造のばらつきを招き、最終的には磁石特性を劣化させる。
【0038】
本発明では、高速(5m/秒以上)で移動しつつある合金の放射する赤外線を検知することにより、ΔTが所定範囲内に維持されるように急冷条件を制御する。具体的には、ΔTが予め設定された範囲から外れた場合、急冷条件を左右する制御パラメータを変化させることにより、ΔTが設定範囲内に収まるようにする。
【0039】
急冷条件を左右する制御パラメータとしては、合金を溶湯化するときの加熱量(ヒータ出力)、溶湯供給レート、冷却ロールの周速度などがあげられる。これらのパラメータを適切に制御することにより、ΔTのばらつきを減少させ、ΔTの標準偏差σを小さく(例えば20℃未満)に抑えることができるので、均一な組織を有する急冷合金を再現性良く製造することができる。
【0040】
ΔTを求めるために必要な温度T1およびT2のうち、温度T1は、溶湯が冷却ロールに接触する直前に測定することが好ましい。メルトスピニング法の場合は、ノズルの先端と冷却ロール表面との間における溶湯温度を測定するか、あるいは、タンディッシュ坩堝内の出湯ノズル真上に位置する部分の溶湯温度を測定し、その温度をT1と設定すればよい。また、ストリップキャスト法による場合は、例えば、シュートの先端部付近(冷却ロール側)における溶湯温度を測定し、T1と設定することができる。
【0041】
一方、温度T2は、ある程度の冷却が進行したと考えられる位置で測定すればよく、その位置はΔTが適切な大きさとなるように選択される。例えば、冷却ロールの表面周速度が比較的速い場合は、合金薄帯が冷却ロールの表面から離れ、冷却雰囲気中を飛行している途中の温度を測定し、温度T2とすることが好ましい。ただし、冷却ロールの周速度が比較的遅い場合は、合金が冷却ロールの表面から離れる前においても充分な冷却が行われ得るため、冷却ロール上にある合金の温度を測定し、その温度をT2としてもよい。
【0042】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0043】
(実施形態1)
本実施形態では、例えば、図1に示す急冷装置(メルトスピニング装置)を用いて原料合金を製造する。酸化しやすい希土類元素RやFeを含む原料合金を作製する場合、酸化を防ぐため、不活性ガス雰囲気中で合金製造工程を実行することが好ましい。不活性ガスとしては、ヘリウムまたはアルゴン等の希ガスや窒素を用いることができる。なお、窒素は希土類元素Rと比較的に反応しやすいため、ヘリウムまたはアルゴンなどの希ガスを用いることが好ましい。
【0044】
図1の装置は、真空または不活性ガス雰囲気を保持し、その圧力を調整することが可能な原料合金の溶解室1および急冷室2を備えている。図1(a)は全体構成図であり、図1(b)は、一部の拡大図である。
【0045】
図1(a)に示されるように、溶解室1は、所望の磁石合金組成になるように配合された原料20を高温にて溶解する溶解炉3と、底部に出湯ノズル5を有する貯湯容器4と、大気の進入を抑制しつつ配合原料を溶解炉3内に供給するための配合原料供給装置8とを備えている。貯湯容器4は原料合金の溶湯21を貯え、その出湯温度を所定のレベルに維持できる加熱装置(不図示)を有している。
【0046】
急冷室2は、出湯ノズル5から出た溶湯21を急冷凝固するための回転冷却ロール7を備えている。更に本実施形態では、急冷室2に赤外線カメラを配置し、図1(b)に示す位置P1およびP2における合金温度を測定する。
【0047】
この装置においては、溶解室1および急冷室2内の雰囲気およびその圧力が所定の範囲に制御される。そのために、雰囲気ガス供給口1b、2b、および8bとガス排気口1a、2a、および8aとが装置の適切な箇所に設けられている。特にガス排気口2aは、急冷室2内の絶対圧を30kPa〜常圧(大気圧)の範囲内(好ましくは100kPa以下)に制御するため、ポンプに接続されている。溶解室1の圧力を変化させることにより、ノズル5から出る溶湯の噴射圧を調節することができる。
【0048】
溶解炉3は傾動可能であり、ロート6を介して溶湯21を貯湯容器4内に適宜注ぎ込む。溶湯21は貯湯容器4内において不図示の加熱装置によって加熱される。
【0049】
貯湯容器4の出湯ノズル5は、溶解室1と急冷室2との隔壁に配置され、貯湯容器4内の溶湯21を下方に位置する冷却ロール7の表面に流下させる。出湯ノズル5のオリフィス径は、1.0mm以上4.0mm以下の範囲内(例えば2.8mm)に設定される。溶湯21の粘性が大きい場合、溶湯21は出湯ノズル5内を流れにくくなり、急冷合金の厚さばらつきを招きやすいが、本実施形態では、オリフィス径を従来に比べて拡大するとともに、急冷室2を溶解室1よりも充分に低い圧力状態に保持しているため、溶解室1と急冷室2との間に大きな圧力差(10kPa以上の差圧)が形成され、溶湯21の出湯がスムーズに実行される。
【0050】
上記の装置を用い、本実施形態では以下の手順で急冷合金を作製する。
【0051】
まず、所望の組成式で表現される原料合金の溶湯21を作製し、図1の溶解室1の貯湯容器4に貯える。次に、この溶湯21は出湯ノズル5から減圧Ar雰囲気中の水冷ロール7上に出湯され、冷却ロール7との接触によって急冷され、凝固する。
【0052】
急冷直後における(熱処理前)の急冷合金に含まれる結晶相の体積比率を50%以上にするには、合金溶湯の冷却速度を1×102〜108℃/秒とすることが好ましく、1×102〜1×106℃/秒とすることが更に好ましい。
【0053】
合金の溶湯21が冷却ロール7によって冷却される時間は、回転する冷却ロール7の外周表面に合金が接触してから離れるまでの時間に相当し、その間に、合金の温度は低下し、過冷却液体状態になる。その後、過冷却状態の合金は冷却ロール7から離れ、不活性雰囲気中を飛行する。合金は薄帯状で飛行している間に雰囲気ガスに熱を奪われる結果、その温度は更に低下する。本実施形態では、雰囲気ガスの圧力を30kPa〜常圧の範囲内に設定しているため、雰囲気ガスによる抜熱効果が強まる。
【0054】
次に、図2を参照しながら、本実施形態で行う温度制御の一例を説明する。
【0055】
まず、出湯を開始した後、赤外線カメラを用いて位置P1における合金温度(溶湯温度)T1および位置P2における合金温度(急冷合金温度)T2を測定し、T1−T2=ΔTを算出する(S1)。
【0056】
次に、ΔTが基準範囲内にあるか否かを判断し(S2)、ΔTが基準範囲内にある場合、その条件で出湯を続け、必要な量の急冷合金が得られたならば、最終的に出湯を停止する。ここで、ΔTが基準範囲から外れた場合、貯湯容器4に設けた加熱装置(不図示)を用いて溶湯温度T1を変化させる(S3)。より詳細には、冷却ロールによる冷却能力が低下するなどして測定温度T2が徐々に上昇していった結果、ΔTが基準から外れた場合は、加熱装置の発熱量を低下させることによって溶湯温度T1を下降させる。このような処理を行った後、所定時間が経過すると、あらためて測定したT1およびT2からΔTを求め直す(S4)。このΔTが基準範囲内に収まれば(S5)、その条件で急冷を続ける。ただし、T1が低下しすぎると、溶湯粘度が上昇し、出湯が不安定になるため、T1の下限値は合金の液相線温度よりも50℃以上高い値に設定することが好ましい。
【0057】
上記の方法で溶湯温度T1を調節しても、ΔTが基準範囲内に収まらない場合は、ロール表面速度(周速度)を調節する(S6)。より詳細には、溶湯供給量を一定に保持する場合において、ΔTを小さくするときは、ロール表面速度を低下させ、ΔTを大きくするにはロール表面速度を増加させる。この処理を行った後、あらためて測定したT1およびT2からΔTを求め直す(S7)。このΔTが基準範囲内に収まれば、その条件で急冷を続ける(S8)。
【0058】
許容される範囲でロール表面速度を調節しても、ΔTが基準範囲内に収まらない場合は、再度、溶湯温度T1を変化させ、上述したプロセスを繰り返す。
【0059】
なお、ここで説明した手順は温度制御の一例に過ぎない。上記の例では、ΔTが所望範囲から外れた場合に、まず溶湯温度を調節しているが、溶湯温度の代わりに、または溶湯温度に加えて、溶湯供給レートを調節するようにしても良い。
【0060】
更に、ΔTではなく、T1およびT2の測定値の変動を別個に検知して、適当な急冷条件を調節するようにしてもよい。例えば、ΔTから所望の範囲内にあっても、T1が設定温度から許容できない程度ずれた場合は、前述の加熱装置の出力を調節するなどして出湯温度を制御することができる。なお、出湯温度は、溶解炉3の傾動角度を調節することによって貯湯容器4内に供給する溶湯の量を変化させても制御することができる。
【0061】
(実施形態2)
以下、ストリップキャスト法を採用する場合について説明する。この場合、図3に示すストリップキャスト装置を用いることができる。図3の装置は、内部を不活性ガス雰囲気での減圧状態にすることができる不図示のチャンバ内に配置される。このストリップキャスティング装置は、合金原料を溶解するための溶解炉41と、溶解炉41から供給される合金溶湯43を急冷・凝固させるための冷却ロール47と、溶解炉41から冷却ロール47に溶湯43を導くシュート(案内手段)45とを備えている。
【0062】
溶解炉41には、合金原料を溶融するための高周波コイル(加熱装置)が備え付けられており、合金原料を溶融することによって作製した溶湯43をシュート45に対して略一定の供給量で供給することができる。この供給量は、溶解炉41を傾ける動作を制御することなどによって、任意に調節することができる。また、溶解炉41内で溶融した溶湯の温度は、高周波コイルに印加する高周波パワーを調節することによって制御可能である。
【0063】
冷却ロール47は、その外周面が銅などの熱伝導性の良好な材料から形成されており、例えば、直径30cm〜100cmで幅が15cm〜100cmの寸法を有する。冷却ロール47は、不図示の駆動装置によって所定の回転速度で回転することができる。この回転速度を制御することによって、冷却ロール47の周速度を任意に調節することができる。このストリップキャスティング装置による冷却速度は、冷却ロール47の回転速度などを選択することにより、約102℃/秒〜約105℃/秒の範囲で制御可能である。
【0064】
シュート45の溶湯を案内する面は、水平方向に対して角度(傾斜角度)αで傾斜し、シュート45の先端部と冷却ロールの表面との距離は数mm以下に保たれる。そして、シュート45は、その先端部と冷却ロール47の中心とを結ぶ線が水平方向に対して角度β(0°≦β≦90°)を形成するように配置される。シュート45の傾斜角度αは、1°≦α≦80°であることが好ましく、5°≦α≦60°の関係を満足することが更に好ましい。角度βは、10°≦β≦55°の関係を満足することが好ましい。
【0065】
シュート45上に供給された溶湯43は、シュート45の先端部から冷却ロール47の表面に対して供給され、冷却ロール47の表面に溶湯のパドル46を形成する。
【0066】
シュート45は、溶解炉41から所定の流量で連続的に供給される溶湯43を一時的に貯湯するようにして流速を遅延し、溶湯43の流れを整流することができる。シュート45に供給された溶湯43における溶湯表面部の流れを選択的に堰き止めることができる堰き止め板を設ければ、整流効果を更に向上させることができる。シュート45を用いることによって、冷却ロール47の胴長方向(軸線方向:紙面に垂直)において、一定幅にわたって略均一な厚さに広げた状態で、溶湯43を供給することができる。シュート45の溶湯案内面の傾斜角度αを調節することにより、溶湯供給速度を微調整できる。溶湯は、その自重により、シュート45の傾斜した案内面を流れ、水平方向(X軸方向)に平行な運動量成分をもつ。シュート45の傾斜角度αを大きくするほど、溶湯の流速は速くなり、運動量も大きくなる。
【0067】
シュート45は、上記の機能に加え、冷却ロール47に達する直前の溶湯3の温度を調整する機能をも有する。シュート45自体の熱容量などを調節する目的でシュート加熱装置を設けてもよい。
【0068】
シュート45は、冷却ロール47の外周面に対向するように配置された端部において、冷却ロールの軸線方向に沿って所定の間隔だけ離して設けられた複数の排出部を有していることが好ましい。この排出部の幅(溶湯の1つの流れの幅)は、好適には5mm〜30mmに設定され、より好適には7mm〜20mmに設定される。溶湯の流れの幅は、上記排出部の位置から離れるにつれ、横方向に広がる傾向があるが、シュート45に複数の排出部を設け、複数の溶湯流れを形成する場合は、隣接する溶湯流れが相互に接触しないようにすることが好ましい。このように、複数の溶湯流れを略平行に形成し、かつ、各溶湯流れの幅を規制することにより、全体としての溶湯供給量を大きくしながら、急冷合金の厚さばらつきを低減する効果が高められる。
【0069】
シュート45上に供給された溶湯43は、冷却ロール47の軸線方向に沿って、各排出部の幅と略同一幅を有して冷却ロール47と接触する。その後、冷却ロール47に所定の出湯幅で接触した溶湯43は、冷却ロール47の回転に伴って(冷却ロール47に引き上げられるようにして)ロール周面上を移動し、この移動過程において冷却される。
【0070】
本実施形態では、赤外線カメラを用い、図3に示す位置P1および位置P2で合金温度を測定する。赤外線カメラは、急冷装置の上部に配置し、複数条の溶湯流れを撮像エリア内にとらえることが好ましい。そうすることにより、複数条の合金について、各々の温度を検知することが可能となるからである。また、赤外線カメラと合金とを結ぶラインが、冷却ロールの回転軸と略垂直な関係にあると、冷却ロールの表面から剥離した合金薄帯が上限に揺れ動いても、温度計測が容易になる利点もある。
【0071】
なお、出湯温度を測定する位置P1は、溶解炉41からシュート45に注ぎ込む部分に限定されず、シュート45の先端部(冷却ロールの近傍)であっても良い。位置P1およびP2で合金温度を測定した後、実施形態1について述べた手順と同様の手順に従って急冷条件の制御を行う。
【0072】
なお、上記の図1および図3に示すような装置を用いて、本発明による急冷合金の製造方法を実施する場合、組成式が(Fe1-mm100-x-y-zxyz(TはCoおよびNiからなる群から選択された1種以上の元素、QはBおよびCからなる群から選択された1種以上の元素、RはLaおよびCeを実質的に含まない1種以上の希土類金属元素、Mは、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ni、Hf、Ta、W、Pt、Pb、AuおよびAgからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素)で表現される急冷合金を作製することができる。ここで、組成比率x、y、z、およびmは、それぞれ、10≦x≦30at%、2≦y<10at%、0≦z≦10at%、および0≦m≦0.5を満足である。
【0073】
このような組成の急冷合金を作製する場合、非晶質相および平均粒径50nm以下の結晶相を含む急冷合金を作成することによって磁石特性に優れたナノコンポジット磁石を得ることができる。
【0074】
このような組成のナノコンポジット磁石用急冷合金を作製する場合、T1−T2=ΔTを350℃以上800℃以下の目標値(例えば420℃)に設定する必要がある。この理由は、ΔTが350℃未満になると、冷却速度が遅すぎ、粗大なα−Feを含む組織が形成されるため、磁気特性の劣化を招くからであり、またΔTが800℃を超えると、急冷合金が略完全に非晶質化してしまう結果、その後に熱処理を行っても、優れた磁石特性を発現させることができないからである。
【0075】
ΔTの目標値を本明細書では「設定温度差TO」と表現することにする。本発明における温度制御は、ΔTが設定温度差TOに対して±10℃以下の範囲内に入るように行うことが好ましい。そうすることにより、ΔTの標準偏差σを20℃未満に抑えることができる。ΔTの標準偏差σが20℃以上になると、急冷合金の金属組織にばらつきが大きくなり、所望の磁石特性を再現性良く実現することができなくなる。ΔTの標準偏差σのより好ましい値は15℃未満であり、12℃未満とすることが更に好ましい。
【0076】
[合金組成]
本発明の急冷合金製造方法を適用してナノコンポジット磁石を作製する場合、上記の合金組成が好ましい理由を以下に説明する。
【0077】
上記の組成式におけるQはB(ほう素)またはC(炭素)の1種または2種である。Qの組成比率xが10at%未満になると、液体急冷法を用いても過冷却液体状態が得られず、平滑性の高い急冷合金を製造することができない。また、xが30at%を超えると、R2Fe14B型化合物相が充分に析出せず、硬磁気特性が発現しない。このため、Qの組成比率xは10at%以上30at%以下の範囲内に設定することが好ましい。xの更に好ましい範囲は、10at%以上20at%以下であり、さらに好ましい範囲は、10.5at%以上20at%以下である。なお、Qに占めるC割合は50%未満であることが好ましい。Bは、Fe3Bなどの鉄基硼化物の必須構成要素であるため、これらの化合物をソフト磁性相として含むナノコンポジット磁石を作製する場合には、Qの占めるBの比率が少ないと、ソフト磁性相の含有量が小さくなる。なお、本明細書において「Fe3B」は、Fe3Bと識別しにくいFe3.5Bも含むものとする。
【0078】
希土類元素Rは、永久磁石特性を発現するために必要なハード磁性相であるR2Fe14Bに必須の元素である。本発明におけるRは、PrおよびNd、Dy、Tbの1種または2種以上を含むことが好ましい。ただし、アモルファス生成能や結晶化温度を調整する目的で、これら以外の他の希土類元素で一部を置換してもよい。Rの組成比yは2at%を下回ると保磁力発現の効果が少なく好ましくない。一方、Rの組成比yが10at%を超えると、鉄および鉄基硼化物が析出しないため、ナノコンポジット組織が形成されず、高い磁化が得られない。このため、yの好ましい範囲は、2at%以上10at%未満である。yのより好ましい範囲は、3at%以上9.5at%以下であり、さらに好ましい範囲は4at%以上9.2at%以下である。
【0079】
上記元素の含有残余をFeで占め、また、Feの一部をCoで置換することで減磁曲線の角形性が改善され最大エネルギー積(BH)maxを向上させることができる。
【0080】
更に、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ni、Hf、Ta、W、Pt、Pb、AuおよびAgからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素Mを添加しても良い。これらの添加元素Mの組成比率zが10at%を超える場合、磁化の低下を招来するため、好ましい範囲は0≦z≦10at%である。より好ましいzの範囲は、0.1≦z≦5at%である。
【0081】
【実施例】
本実施例ではメルトスピニング装置を用い、以下のようにして合金溶湯の急冷を行った。
【0082】
まず、Nd8.5Fe77111Ti2.5(at%)の合金組成となるように、純度99.5%以上のNd、Fe、B、C、およびTiの材料を用いて総量が20kgとなるように秤量し、溶解坩堝内に投入した。
【0083】
高周波加熱法により溶解坩堝内で合金溶湯を作製した後、溶解坩堝を傾転し、下方に位置するタンディッシュに合金溶湯を注いだ。タンディッシュは底部に内径2.0mmφのノズルを有しているため、合金溶湯はノズルから下方に排出される。タンディッシュに設けられたモリブデンヒータ(加熱装置)によって溶湯温度を1250℃に調節した。なお、本実施例では、タンディッシュ内に挿入した熱電対で溶湯温度を実測した。原料の溶解は圧力が35kPaのアルゴン雰囲気下において行った。
【0084】
溶湯は、ノズルの下方15mmの位置にある銅製ロールの外周面に供給され、急冷された。ロールは、その外周面の温度が室温程度に維持されるように内部が冷却されながら高速で回転する。このため、ノズルから出た合金溶湯はロール周面に接触して熱を奪われつつ、周速度方向に飛ばされることになる。合金溶湯は、ノズルを介して連続的にロール表面上に噴出するため、急冷によって凝固した合金は薄帯状に延びたリボンの形態を持つことになる。
【0085】
本実施例で採用する冷却ロール法(単ロール法)の場合、冷却速度はロール周速度および単位時間当たりの溶湯流下量によって規定される。本実施例では、溶湯供給レートを約4kg/分とし、ロール表面速度を13m/秒に設定した。その結果、平均厚さが63μmの急冷合金が得られた。
【0086】
このとき、ノズルから出る溶湯およびロールから剥離する急冷合金の温度をニコン製赤外線カメラ(名称:サーマルビジョンLAIRD−3ASH)にて測定した。
【0087】
上記の赤外線カメラを用いて温度測定を行った撮像エリアを図4に示す。ΔT=T1−T2のT1には、上述したように熱電対で測定した溶湯温度(1250℃)を用いる。ただし、赤外線カメラを用いて図4の領域A0内における温度を測定し、その測定値を出湯温度T1として用いてもよい。
【0088】
本実施例では、溶湯温度T1および冷却過程における合金温度T2が、それぞれ、1200〜1300℃および400〜500℃となるため、ΔTが500℃を超える。本実施例で用いる赤外線カメラの場合、精度の高い測定が可能な温度範囲は500℃以下である。このため、1つの赤外線カメラを用いて温度測定を行うときは、溶湯温度T1および合金温度T2の両方を検知することが困難とので、溶湯温度T1の測定は熱電対で行うことにした。本実施例の条件とは異なってΔTが比較的小さい場合や、2つの赤外線カメラを用いて温度測定を行うる場合は、溶湯温度T1も合金温度T2も赤外線カメラで測定することが可能である。この場合は、領域A0内の多数の測定ポイントにおける温度を測定し、そのなかで最高値を示す温度をT1とすればよい。
【0089】
一方、T2には、領域A1〜A3内の多数の測定ポイントにおける温度を測定し、各領域A1〜A3における最高温度を用いる。冷却ロールから離れた合金薄帯は、高速で矢印方向に飛行してゆく際、上下に激しく揺れるが、揺れ動く合金薄帯の位置が各領域A1〜A3の上端・下端を外れることがほとんど生じないように各領域A1〜A3の垂直(上下)方向サイズが決定されている。また、各領域A1〜A3の水平方向サイズは、合金温度が冷却によって大きく低下することのない範囲に設定される。本実施例では、領域A1〜A3の各々が水平50画素×垂直130画素のサイズを割り当てている。
【0090】
本実施例で用いた赤外線カメラの仕様を以下の表1に示す。
【0091】
【表1】
Figure 0003647420
【0092】
図5は、領域A1、A2、A3内を通過する急冷合金の温度変化を示している。縦軸が合金温度T(℃)、横軸が測定開始後の経過時間(秒)である。図5からわかるように、領域A3では合金温度の変動が大きいが、領域A1およびA2では、合金温度の変動が少なく安定している。領域A3における合金温度の変動が激しく生じている理由は、この位置における合金薄帯の上下動が激しく、しばしば合金薄帯が領域A3から外れるためであると考えられる。領域A3の垂直方向サイズを拡大すれば、激しい温度変動を抑制することが可能であるが、測定画素数が増えるため、領域内の最高温度を決定するために必要な演算処理に長い時間を要する弊害がある。
【0093】
以上のことから、領域A3での測定温度をT2として用いることは好ましくない。このため、本実施例では、領域A1の温度変化に基づいて、タンデッシュを加熱するモリブデンヒータの発熱量および溶湯供給レートを調節し、溶湯温度と急冷合金温度との差ΔTを400〜440℃の値に設定する制御を行った。なお、本実施例では、冷却ロールの表面周速度を13m/秒に固定した。温度測定の位置が一定の場合、好ましいΔTの値は、冷却ロールの周速度などに依存して変化する。
【0094】
なお、比較例として、上記の制御を行なわず、ΔTの標準偏差σが20℃以上となるようにした。比較例では、出湯温度T1を一定に保持したが、溶湯供給レートの制御は行わなかった。
【0095】
得られたΔTと標準偏差σの値を表2に示す。
【0096】
【表2】
Figure 0003647420
【0097】
表2からわかるように、適正な制御を行った実施例では、標準偏差σが20℃以下に抑えられた。また、実施例のσ/ΔTは、いずれも、5%以下であったが、比較例におけるσ/ΔTは5%を越えていた。急冷条件を安定させるためには、σ/ΔTが5%以下となるようにすることが好ましい。
【0098】
上記方法で得られた急冷合金を600μm以下のサイズに粉砕した後、Ar流気中で700℃、15分の熱処理を行った。その結果、微細なNd2Fe14B相を主相とする永久磁石粉が得られた。永久磁石粉の磁気特性に関する測定結果と、透過型電子顕微鏡で観察した平均結晶粒径およびその標準偏差を表3に示す。
【0099】
【表3】
Figure 0003647420
【0100】
表3からわかるように、比較例に比べて実施例における平均結晶粒径のばらつき(標準偏差)が小さく、残留磁束密度Brおよび(BH)maxなどの磁石特性についても、実施例がより高い値を示している。
【0101】
【発明の効果】
本発明によれば、急冷過程における合金の温度変化を精密に制御することができるため、磁石特性に優れたナノコンポジット磁石用急冷合金を安定して製造することができる。その結果、磁石特性に優れたナノコンポジット磁石を量産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は、本発明による急冷合金を製造する方法に用いる装置の全体構成例を示す断面図であり、(b)は急冷凝固が行われる部分の拡大図である。
【図2】温度制御の一例を示すフローチャートである。
【図3】本発明による急冷合金の製造に用いることのできるストリップキャスト装置の構成を示す図である。
【図4】本発明の実施例における温度測定領域A1〜A3を示す図である。
【図5】図4における領域A1〜A3での測定温度の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
1b、2b、8b、および9b 雰囲気ガス供給口
1a、2a、8a、および9a ガス排気口
1 溶解室
2 急冷室
3 溶解炉
4 貯湯容器
5 出湯ノズル
6 ロート
7 回転冷却ロール
21 溶湯
22 合金薄帯
41 溶解炉
43 合金溶湯
45 シュート(案内手段)
47 冷却ロール

Claims (14)

  1. 回転する冷却ロールに対して合金の溶湯を接触させることにより、前記合金を急冷し、それによって結晶相を含有する合金を得る急冷合金の製造方法であって、
    前記合金を加熱して、前記合金の溶湯を作製する工程と、
    前記合金の溶湯を前記冷却ロールに供給する工程と、
    前記合金の溶湯が凝固してゆく過程において、移動しつつある前記合金が放射する赤外線を検知することにより、少なくとも第1の位置における合金温度と第2の位置における合金温度とを測定する工程と、
    前記第1の位置における合金温度と前記第2の位置における合金温度との差ΔTが所定範囲内に含まれるように急冷条件を調節する工程と、
    を包含する急冷合金の製造方法。
  2. 前記第1の位置は前記合金の凝固が開始する前の位置であり、
    前記第2の位置は、前記冷却ロールから剥離した後の空中である請求項に記載の製造方法。
  3. 前記合金が放射する赤外線の検知は、赤外線カメラによって行う請求項1または2に記載の製造方法。
  4. 前記赤外線カメラは、前記合金の溶湯が凝固してゆく過程において、移動しつつある前記合金の上方に配置されている請求項に記載の製造方法。
  5. 前記第1および第2の位置は、それそれ、前記赤外線カメラによる撮像エリア内から選択された第1および第2の領域内に含まれており、
    前記第1の領域内で最高の温度が前記第1の位置における合金温度とされ、
    前記第2の領域内で最高の温度が前記第2の位置における合金温度とされる、請求項またはに記載の製造方法。
  6. 前記急冷条件は、前記合金を加熱するときの加熱量、前記合金を前記冷却ロールに供給する単位時間当たりの量、および前記冷却ロールの周速度のいずれかを含んでいる請求項からのいずれかに記載の製造方法。
  7. 前記急冷条件を調節する工程は、
    前記差ΔTが前記所定範囲内に含まれない場合に、前記合金を加熱するときの加熱量および/または前記合金を前記冷却ロールに供給する単位時間当たりの量を変化させる第1工程と、
    前記第1工程を行ったにもかかわらず前記差ΔTが前記所定範囲内に含まれない場合に、前記冷却ロールの周速度を変化させる第2工程と、
    を包含する、請求項に記載の製造方法。
  8. 前記合金の組成式は、(Fe1-mm100-x-y-zxyz(TはCoおよびNiからなる群から選択された1種以上の元素、QはBおよびCからなる群から選択された1種以上の元素、RはLaおよびCeを実質的に含まない1種以上の希土類金属元素、Mは、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ni、Hf、Ta、W、Pt、Pb、AuおよびAgからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素)で表現されており、組成比率x、y、z、およびmが、それぞれ、10≦x≦30at%、2≦y<10at%、0≦z≦10at%、および0≦m≦0.5を満足し、
    前記急冷合金は、非晶質相および平均粒径50nm以下の結晶相を含む合金であって、ナノコンポジット磁石の製造に用いられる、請求項1からの何れかに記載の製造方法。
  9. 前記冷却工程は、内径1mmを越えるノズルオリフィスを用いて前記合金溶湯を前記冷却ロールの表面に向けて噴射する工程を含む、請求項に記載の製造方法。
  10. 前記冷却工程は、案内面が水平方向に対して1〜80°の角度を形成する案内手段上に前記合金溶湯を供給し、前記冷却ロールとの接触領域に前記合金溶湯を移動させる工程を含む、請求項に記載の製造方法。
  11. 前記冷却工程は、前記案内手段により、前記合金溶湯の流れを複数条に分離し、各条の幅を前記冷却ロールの軸線方向に沿って所定の大きさに調節することを包含する請求項10に記載の製造方法。
  12. 前記第2の位置における合金温度は、前記複数条の少なくとも1つの条について測定した温度である請求項11に記載の製造方法。
  13. 前記第2の位置における合金温度は、前記複数条に含まれる幾つかの条について測定した温度の平均値である請求項11に記載の製造方法。
  14. 請求項1から13のいずれかに記載の急冷合金を用意する工程と、
    前記急冷合金を加熱する工程と、
    前記急冷合金の粉末を用いて成形体を作製する工程と、
    を包含する永久磁石の製造方法。
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