JP3647321B2 - インクジェットヘッドの製造方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、オリフィスである開口と、オリフィスに連通するノズルである溝とを有する樹脂フィルムを、吐出エネルギー発生手段を有する基板に接合するインクジェットヘッドの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
インクジェットヘッドの製造方法として、特開平9−118017号公報に記載されたように、樹脂フィルムに液室、ノズルとなる凹部とオリフィスとなる開口を設け、このフィルムをヒーターなどの吐出手段を有する基板に接着する製造方法が知られている。この製造方法の比較的簡単な構成としては次のプロセスが考えられる。樹脂フィルムとしてアブレーション可能な材料を選び、このフィルム上に予め接着剤を薄くコーティングする。その後、接着層の面からエキシマレーザーで所定の形の深さ数十μm程度の凹部を形成し、最後に基板とフィルムとをオリフィスとヒータが対向するように接着する。
上記の製造方法では、フィルムにオリフィスとなる開口とノズルとなる溝を、フィルムと光軸の角度を変えずに実質的に同一の方向からのエキシマレーザーを照射することで形成できる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記のレーザーによる製造方法においては、オリフィスとなる開口とノズルとなる溝とは、同じように加工して形成されるにもかかわらず、両者の加工には異なる特性が求められる。
まず開口の場合、重要な用件は、開口されたオリフィスの面積とオリフィス縁のばりである。
アブレーションのパワーが十分でないとレーザーが出射した部分すなわちオリフィスの周囲に微少なバリが残ることが知られている。
また、バリが大きいとオリフィス面積のバラツキを生ずる。このような好ましくないバリは、液滴の吐出方向を狂わせ、印字よれなどの不良を引き起こす。このため、開口を加工する場合には、開口が形成されてもなおレーザーを照射するいわゆる「増しうち」が必要である。
【0004】
一方、ノズルにとっては断面積とノズル内面の滑らかさが重要である。
ノズルとなる溝は流抵抗を考慮して設計されるため、溝の深さにより決まるノズル高さが求められる。このため、被加工面に照射されるレーザーのエネルギーは、レーザーのパルス数などを管理することで、溝の深さが制御される。溝深さの管理はオリフィス面積ほど厳密に行う必要がないことが多い。
また、面の滑らかさはノズル内に好ましくない泡の付着が生じないために必要である。
【0005】
以上のことから、開口と溝とは別々に加工する必要が生じる。
しかしながら、溝を先にフィルム上に加工し、溝の底面に開口を設けるプロセスでは別の問題が生じる。
すなわち、エキシマレーザー加工に代表されるアブレーション加工では、レーザーの入射側から出射側へ向けてエネルギーの減衰に伴うテーパ面が形成され、この結果、出射側の開口の大きさは加工されたテープの厚さにより変化する。
つまり、溝を先に加工する方法では、レーザーのエネルギー分布によって溝の深さに多少の分布が生じても、それに伴ってオリフィスの面積にバラツキが生じてしまう。これは印字の濃度ムラの不良を引き起こす。
【0006】
また、アブレーション加工時にレーザーが入射側の接着層上に堆積する副生成物の処理も重要である。副生成物は樹脂フィルムと基板との接着性を損ねるからである。
これを取り除く方法として、特開平5−42385号公報には副生成物を下地の層ごとレーザー加工で除去する方法が記載されている。
また、特開平9−118017号公報には、接着層の上に犠牲層を設け、アブレーション加工後に水洗浄によって犠牲層を副生成物ごと除去する方法が記載されている。
しかし、後者の特開平9−118017号公報に記載の方法では、ウエットな犠牲層の洗浄工程が増え工程が複雑になる欠点がある。前者の特開平5−42385号公報に記載の方法は、溝や穴の加工に引き続いて導入できる点で有利であるが、フィルム状で且つ接着層を有すワークに対してそのまま導入することは困難である。
その理由は、副生成物とともに接着層が除去されてしまうと、その箇所ではフィルムと基板との接着が不能になるからである。特に、副生成物はノズルとなる溝周囲により多く堆積するため、この部分の接着不良はクロストークなど滴形成の不具合を引き起こす。
【0007】
そこで、本発明は、複雑な洗浄工程を追加せずに、かつアブレーション加工後の接着性に大きなダメージを与えることなく、堆積した副生成物を除去することができるインクジェットヘッドの製造方法を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を達成するために、インクジェットヘッドの製造方法をつぎのように構成したことを特徴とするものである。
すなわち、本発明のインクジェットヘッドの製造方法は、樹脂フィルムに、オリフィスとなる開口をレーザーによるアブレーションにて加工し、該樹脂フィルムを、吐出エネルギー発生手段を有する基板に接合してインクジェットヘッドを形成するインクジェットヘッドの製造方法であって、
前記樹脂フィルムの、前記基板と接合する接合面の表面に予め接着層を露出して設ける工程と、
前記接合面側から前記接着層を介して前記樹脂フィルムに、オリフィスとなる開口をレーザーによるアブレーションにて加工する加工工程と、
前記加工工程における加工後に、その加工により生成した副生成物を除去するため、前記接着層の表面をアブレーション加工する際に、前記樹脂フィルムの被加工面に達することなく、該被加工面に接着層を残すように制御してアブレーション加工する工程と、
前記被加工面に残された前記接着層を介して前記樹脂フィルムと前記基板とを、前記オリフィスと前記吐出エネルギー発生手段が対向するように位置合せをして接合する工程と、
を有することを特徴としている。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明は、前記樹脂フィルムの少なくと一方の表面に予め接着層を露出して設け、オリフィスとなる開口と、該オリフィスに連通するノズルとなる溝の加工後に、前記接着層の表面をアブレーション加工(以下、後表面加工と記す)する構成によって、複雑な洗浄工程を追加せずに、かつアブレーション加工後の接着性に大きなダメージを与えることなく、堆積した副生成物を除去することができる。
【0010】
【実施例】
以下に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明の思想に沿うものであれば、実施形態は、本明細書の実施例やその他の具体的形状に限定されるものではない。例えば、オリフィスは円形に限定する必要はなく、矩形でもよい。ノズルについても同様である。またアブレーション加工のための手段としてArF、XeClエキシマレーザー、逓倍波YAGレーザーも使用することも考えられる。
図1は、本実施例のインクジェットヘッドの主要部の概略である。
図1(a)は、樹脂フイルム3を上向きに見た図、図1(b)は基板1(裏面)を上向きに見た図であり、また、図2は溝の拡大図である。
図1および図2において、樹脂フィルム3の接合面側には、液室7となる凹部6、その両側にはノズルとなる溝4が所定の間隔で配列されている。
溝4は、凹部6と実質的に同じ深さを有し、溝4の底面には開口5が設けられている。
開口5は、フィルム3の接合面の裏側(フェイス面13)でオリフィスに連通する。基板1には吐出手段であるヒータ2と液室ヘインクを供給するための供給口12を有している。
また、基板1のヒータ2のある面(表面)は、供給口12を除き、ヒータ2や半導体回路(図示せず)のパターンにより最大1μm程度の凹凸を有している。
フィルム3と基板1は、オリフィス9、開口5とヒータ2が実質的に正面に対向する位置に接合される。
【0011】
次に、本実施例のインクジェットヘッドの製造プロセスを図3のノズル断面図にて説明する。製造プロセスは図3のフローに沿ってなされる。
樹脂フィルム3は、厚さ25μmのポリイミドであり、ユーピレックス−25S(商品名:宇部興産)を基材として使用する。
まず、フィルム3の片面に、接着層のコートに先立ち、シランカップリング剤を介してフッ素樹脂を塗布し、加熱硬化して約0.2〜0.4μmの厚みの撥水膜14を形成する。次に、フィルム3の撥水膜とは逆の面に接着剤としてアブレーション可能な熱硬化型エポキシ樹脂をコートし、Bステージの状態で接着層8を形成する(図3(b))。接着層8の厚みは約2.5μmである。接着層8の面が基板との接合面になる。
【0012】
次に、接着層8の側から開口を形成するためにオリフィス相似型の円形の像をKrFエキシマレーザーにて投影する。
加工は1.3J/cm2/pulseで100Hzで連続照射した。エキシマレーザーによって入射面の接着材もアブレーションされる。オリフィスは約100パルス程度でフェイス面側に開口されるが、オリフィス縁周のバリを残さないために、更に100パルス増しうちし、合計200パルスを連続して照射した。この結果、開口5と直径が約20μmでバリのないオリフィス9を形成した(図3(c))。レーザーの減衰により生じる軸に対するテーパ角度θは約12°であり、この値は加工前の予備実験により把握し、接着面8への投影する像の大きさを決めればよい。
また、レーザー加工時に際して、フィルム3の平面性を保持するためにレーザーの出射側にフィルム3を支える剛性が高いステンレス等の平面板を配置することも考えられる。この場合は、オリフィスが開口される箇所は平面板の面を凹として逃がしておくことで、レーザーが貫通し、バリの発生を防止する。
【0013】
次に、図3(c)と同じ方向から溝の像をエキシマレーザーにて投影する。
加工は1.3J/cm2/pulseで100Hzで60パルス連続照射した(図3(d))。この結果、深さ18〜20μmの溝が形成される。同時に凹部6も加工する。先に設けられていた開口5は入射側が削られる。開口5と溝4の加工はフィルム3の移動を伴わず同じ姿勢で行われるため、両者のアライメントは精密に行うことができる。
【0014】
最後に、オリフィス9とヒータ2が対向するようにフィルム3と基板1とを位置あわせして重ね、ヒートパルスを加えて加熱接着し、溝、凹部は各々ノズル11、液室7となり、図3(d)で残った開口は吐出ノズル10を形成する(図3(e))。
【0015】
本実施例の製造方法は、エキシマレーザーのエネルギー密度分布の多少のバラツキによらずほぼ均一の面積のオリフィスを得ることができる。
本実施例の特徴を図4にて比較例を用いて説明する。
図4(a)は、本実施例の製造方法により形成されたオリフィス、吐出ノズルとノズルである。適形成に大きく影響するオリフィス9の径φ11は、入射側の投影像の径φ1とテーパ角θと接着層などを含むフィルムの厚みによりほぼ定まる。オリフィス9がフィルムを貫通した直後に形状に多少のバラツキがあっても、その後の増し打ちの効果によって個々のオリィス形状、面積のバラツキは著しく低減する。またオリフィス形状は溝の加工バラツキの影響は受けない。
【0016】
一方図4(b)は、本実施例とは逆に溝を加工した後に開口を加工した例である。図から明らかなように、溝が(21)の位置まで加工されていればφ21の径のオリフィスが得られるが、溝が(22)の位置まで加工されていればφ22の径になる。すなわちエネルギー密度の分布やレーザー発振器のエネルギーの変動により生じる溝加工の深さのバラツキが直接オリフィスの面積を左右してしまう。
【0017】
図3の例では、溝4の深さは約10%のバラツキをもつが、図4(b)の方法で得られたオリフィス径のバラツキは約20%であった。
これに対し、本実施例の方法では、オリフィス面積のバラツキは5%以下であった。
また、実際の画像を比較した結果、本実施例と比較例各々によるインクジェットヘッドの画像は、後者が画像ムラが目立ったのに対し、前者はムラもなく非常に良好な結果を得た。
【0018】
なお、フイルム3に溝や開口を加工した段階でレーザーが入射側である接着層8の上にカーボンなどの副生成物が付着し、付着量が多いと基板との接着性を低下させることが懸念される。その場合は、図3(d)と(e)の間に、副生成物を除去する工程を導入する必要がある。
具体的には、ウォータージェット洗浄、YAGレーザーを照射することによる衝撃による乖離による方法が考えられる。
【0019】
本実施例では、図3(d)と図3(e)の間に、副生成物を除去する後表面加工を行った。図5にて副生成物の除去手順を説明する。
図5の後表面加工では、加工された溝を含む溝周囲部の広い範囲に対して均一にエキシマレーザーを照射した。エキシマレーザーのエネルギー条件は図3(d)と同じであり、図3(d)の工程に続いて投影パターンを変更するだけ連続して加工ができる。具体的には、溝4の加工直後の状態(図5(b))に対して、1.3J/cm2/pulse、100Hzにて3パルス程度レーザーを照射する。この結果、接着層8の表面0.5〜0.7μm程度とともに副生成物15は除去され、かつ再付着もほとんど見られなかった(図5(c))。
【0020】
図5の工程で特徴的なことは、副生成物15とともに接着層8のごく表面だけを除去することである。
すなわち、図5(c)では接着層8は約2μm程度が露出して残り、基板1との接着には支障がない。仮に図5(d)のように副生成物とともに接着層を全て除去してしまうと、基板との接着は不可能である。後表面加工後に残す接着層の厚みとしては、接合する相手である基板の、ヒータ近傍の基板表面の凹凸の段差以上の大きさであればよく、より好ましくは、該段差の大きさより1μm以上大きな厚みを残すことである。
【0021】
接着層表面は、副生成物とともにアブレーションで除去されるが、一般に被アブレーション加工部に多少の加熱昇温があることが知られている。しかし、加熱はレーザーが照射されるごく短時間であり、本実施例のように、熱反応性接着剤を用いる場合でも、残った接着層が接着性能を失うことはない。
以上のように、副生成物を接着層の表面部分とともに除去する工程を用いることで、犠牲層を水洗浄する際に必要な乾燥工程を省略し、水洗浄時にしばしば問題となる接着剤の接着力低下の原因となる洗浄しみの発生を防止する。
【0022】
図5の後表面加工では、溝4や開口5の内部にもレーザー光が照射されるが、新たに削られる量は、図3(c)(d)による加工に比べはるかに小さく、後表面処理の前後の溝4、開口5、オリフィス9の形状の変化はほとんど無視できる。
なお、本実施例ではヒータ2はオリフィス9と正対する位置に配置したが、オリフィス9の基板1への投影位置がヒータ2と重ならなくても本実施例の特徴を損なうものではないことは明らかである。
また、滴吐出手段としてヒータを用いたが、ピエゾ素子を用いることも考えられる。
【0023】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明によれば、前述の後表面加工する構成によって、複雑な洗浄工程を追加せずに、かつアブレーション加工後の接着性に大きなダメージを与えることなく、堆積した副生成物を除去することができ、信頼性の高い基板−樹脂フィルムの接合が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に用いられるインクジェットヘッドの構成を説明する図。
【図2】 本発明に用いられるインクジェットヘッドの構成を説明する図。
【図3】 本発明における実施例の工程フローを説明する図。
【図4】 本発明における実施例の特徴を比較例を用いて説明する図。
【図5】 本発明における実施例の特徴を比較例を用いて説明する図。
【符号の説明】
1:基板
2:ヒータ
3:樹脂フィルム
4:溝
5:開口
6:凹部
7:液室
8:接着層
9:オリフィス
10:吐出ノズル
11:ノズル
12:供給口
13:フェイス面
14:撥水膜
15:副生成物
Claims (1)
- 樹脂フィルムに、オリフィスとなる開口をレーザーによるアブレーションにて加工し、該樹脂フィルムを、吐出エネルギー発生手段を有する基板に接合してインクジェットヘッドを形成するインクジェットヘッドの製造方法であって、
前記樹脂フィルムの、前記基板と接合する接合面の表面に予め接着層を露出して設ける工程と、
前記接合面側から前記接着層を介して前記樹脂フィルムに、オリフィスとなる開口をレーザーによるアブレーションにて加工する加工工程と、
前記加工工程における加工後に、その加工により生成した副生成物を除去するため、前記接着層の表面をアブレーション加工する際に、前記樹脂フィルムの被加工面に達することなく、該被加工面に接着層を残すように制御してアブレーション加工する工程と、
前記被加工面に残された前記接着層を介して前記樹脂フィルムと前記基板とを、前記オリフィスと前記吐出エネルギー発生手段が対向するように位置合せをして接合する工程と、
を有することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
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