JP3644554B2 - フルオロポリマー水性エマルジョン及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、機械的安定性及び熱的安定性が高い新規なフルオロポリマー水性エマルジョン及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリテトラフルオロエチレン(以下PTFEという)水性エマルジョンの原液は、米国特許第2,559,752号に開示されている乳化重合法、即ちテトラフルオロエチレンを水溶性重合開始剤及びフルオロアルキル基を疎水基とするアニオン系界面活性剤を乳化剤として含む水性媒体中に圧入、重合させ、該媒体中にPTFEのコロイド粒子を生成させる方法によって製造される。また多くのフルオロポリマーの水性エマルジョン原液も同様な方法で製造される。かかる方法によって得られたフルオロポリマーの水性エマルジョン原液は、それ自体は機械的安定性に乏しいため、原液に乳化安定剤を加えて安定化させる。
【0003】
乳化安定剤としては、主として経済的な理由からふっ素系界面活性剤は使用されず、炭化水素系界面活性剤が使用される。一般に使用されている乳化安定剤はP−アルキルフェニルポリエチレングリコールエーテル(アルキル基の炭素数は8〜10)のごときノニオン系界面活性剤であるが、上記界面活性剤の使用によっても未だエマルジョンの安定性は不十分であり、蒸発、濃縮、希釈、移送、計量などを行う際に与えられる機械的作用により不安定化する傾向がある。
【0004】
アニオン界面活性剤を乳化安定剤として使用することも提案されており、例えば米国特許第4,369,266号には、アルキルスルホン酸、アルキル硫酸、アルキルアリールスルホン酸、アルキルアリール硫酸、高級脂肪酸、アルキル燐酸エステル、アルキルアリール燐酸エステル、スルホコハク酸のエステル又はその塩などが包括的に羅列されている。しかしながら、これらのアニオン界面活性剤を乳化安定剤として使用している例は同米国特許の実施例には見られず、また実際商業的に使用されている例も殆ど見られない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、機械的安定性の高いフルオロポリマー水性エマルジョンを提供することにある。例えば本発明のエマルジョンの使用により機械的安定性の低さに起因する問題、即ちエマルジョンを撹拌、移送、噴霧する際に生ずるフルオロポリマーのコロイド粒子の凝集によるポンプ、バルブ、ノズルなどの閉塞、及び同凝集物の容器壁、撹拌機などへの付着、更には同凝集物のエマルジョン内での浮遊などの現象を防止することが可能となる。本発明の第2の目的は、熱的安定性の高いフルオロポリマー水性エマルジョンを提供することにある。例えば本発明のエマルジョンの使用により、熱的安定性の低さに起因する問題、即ち高温時におけるエマルジョンの粘度上昇により生ずる金属及びガラス織布などへの塗装性及び含浸性の劣化を防止することが可能となる。本発明の他の目的は、機械的及び熱的安定性が高いフルオロポリマー水性エマルジョンを短時間で生産性良く製造する方法を提供することにある。
【0006】
本発明者らは、機械的安定性及び熱的安定性の高いフルオロポリマー水性エマルジョンを得るため、乳化安定剤として有効と思われる上記界面活性剤を含む多くの界面活性剤について試験を行った。その多くはエマルジョンの安定化が不十分であったり、エマルジョンの起泡性が大きすぎたり、またガラス織布コーティングにおいて界面活性剤が着色原因となったりするなどの理由により、乳化安定剤として適切なものではなかったが、特定のアルキルスルホコハク酸ナトリウムはフルオロポリマーの低濃度水性エマルジョン領域において乳化安定剤として有効であることを確認し、鋭意研究の結果、フルオロポリマーの高濃度水性エマルジョン領域においても、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウムを乳化安定剤として使用することにより、同エマルジョンを安定化させることに成功し本発明を完成した。また生産性良く本発明のフルオロポリマー水性エマルジョンを製造することにも成功した。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明に関わるフルオロポリマー水性エマルジョンは、フルオロポリマーに対し1.5重量%以上のジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、及びN−メチルピロリドンを含むことを特徴とする。また本発明に関わる安定化されたフルオロポリマー水性エマルジョンの製造方法は、乳化重合により得られるフルオロポリマー水性エマルジョン原液にN−メチルピロリドン又はその水溶液に溶解したジアルキルスルホコハク酸ナトリウムを混合することよりなる。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明においてフルオロポリマーとは、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン又はふっ化ビニリデンの重合体、或いはこれらの共重合体をいう。例えばPTFE、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・フルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリふっ化ビニリデン、ふっ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体などを挙げることが出来る。
【0009】
本発明において水性エマルジョンとは、平均粒径が0.1〜0.3μのフルオロポリマーのコロイド粒子を水中に1〜75重量%含むものをいう。コロイド粒子の平均粒径は遠心沈降法により測定することができる。本発明においては、遠心沈降式粒度分布測定装置(島津製作所製SA−CP4L)により測定された値を示す。
【0010】
乳化安定剤としてはジアルキルスルホコハク酸ナトリウムが使用される。アルキル基は炭素数が8〜12であり、特にオクチル基またはノニル基であることが好ましい。かかる乳化安定剤をPTFEの水性エマルジョンに使用した例は既に知られているが、そのPTFEの濃度及び乳化安定剤の濃度は共に極めて薄いものであった。例えば、本発明の水性エマルジョンに使用された乳化安定剤であるジオクチルスルホコハク酸ナトリウムは米国特許第2,478,299号の実施例4に記載されてはいるものの、適用されたPTFEエマルジョンは濃度が僅か3.2重量%の希薄エマルジョンであり、更にこれに上記乳化安定剤の1重量%溶液を加えているため、安定化されたPTFEエマルジョンの濃度は更に2.78重量%にまで低下している。即ち、この種の乳化安定剤は水に対する溶解性が僅か1.5%程度と低いため、濃厚PTFE水性エマルジョンを製造するために原液に直接上記乳化安定剤を加えた場合には、乳化安定剤がエマルジョンに溶解し、エマルジョンが安定化するまでの時間が長過ぎるという問題があり、工業的に10重量%以上の濃厚PTFE水性エマルジョンを製造することは困難であった。
【0011】
本発明者らは、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウムのN−メチルピロリドン溶液、或はN−メチルピロリドン水溶液に溶解した溶液を調製し、これをPTFE水性エマルジョン原液に混合する方法が、短時間で安定化された濃厚PTFE水性エマルジョンを製造する方法として有効であることを見いだした。なおN−メチルピロリドンはジアルキルスルホコハク酸ナトリウムの水に対する可溶化促進剤として使用したものであるが、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウムの可溶化有機液体として知られている四塩化炭素、石油エーテル、ナフサ、キシレン、石油系溶剤、アセトン、アルコールなどを可溶化促進剤として使用したときは、PTFE水性エマルジョンは不安定化された。
【0012】
ジアルキルスルホコハク酸ナトリウムの添加量はフルオロポリマーの重量に対し1.5重量%以上、好ましくは2〜5重量%の範囲である。添加量が1.5重量%未満の量ではエマルジョンが不安定化しやすくなる。一方上限値は限定的なものではないが、5重量%を越える量は経済的に不利である。N−メチルピロリドンの量はジアルキルスルホコハク酸ナトリウムの水に対する溶解性を改善できる量で、且つフルオロポリマーの水性エマルジョンが不安定化される量よりも少なければ良い。N−メチルピロリドンの量が多い程、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウムの水に対する溶解性は改善されるが、一方余り多量ではフルオロポリマーの水性エマルジョンを不安定化させることになるためである。従って、N−メチルピロリドンの量はフルオロポリマーの重量に対し10%重量以下、好ましくは5重量%以下の量である。一方N−メチルピロリドンの下限値は必ずしも限定的なものではないが、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウムに対し1重量%以上、好ましくは5重量%以上、更に好ましくは10重量%以上である。
【0013】
本発明のフルオロポリマー水性エマルジョンを製造する方法においては、予めジアルキルスルホコハク酸ナトリウムのN−メチルピロリドン溶液又はN−メチルピロリドン水溶液に溶解した溶液を調製しておき、これをフルオロポリマー水性エマルジョン原液に混合し、本発明のエマルジョンを製造することが肝要である。先にフルオロポリマー水性エマルジョン原液とジアルキルスルホコハク酸ナトリウムを混合してからN−メチルピロリドンを添加しても、或は先にフルオロポリマー水性エマルジョン原液とN−メチルピロリドンを混合してからジアルキルスルホコハク酸ナトリウムを添加しても、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウムがなかなか溶解しないことがあるためである。
【0014】
フルオロポリマーエマルジョンの機械的安定性は、当該エマルジョンを高速で撹拌することによりエマルジョン中に含まれるコロイド粒子が衝突しあうことによって会合し、見掛けの粒径が増加する割合を見て判断することが出来る。また撹拌によってコロイド粒子の一部は凝集物となって撹拌機のローター、容器の壁に付着するか、またはフロックとなってエマルジョンから分離する。この様な場合には、エマルジョン中に残存するコロイド粒子の粒径の増減に関わり無く安定性が悪いと判断することが出来る。本発明においては以下に測定法を示す粒径増加率を以て機械的安定性の尺度とした。平均粒径(S1 )のエマルジョン200mlを内径60mmのビーカーに取り、撹拌機(JANKE & KUNKELGMBH & Co.KG製,ULTRA−TURRAX)のゼネレーター付シャフトをビーカーの底面から15mmの高さ、またビーカーの中心より5mmずらしてセットし、ロータの回転速度20,500rpmで5分間撹拌し、次いで撹拌後のエマルジョンの平均粒径(S2 )を測定し下式によって粒径増加率を計算した。
粒径増加率(%)=(S2 −S1 )/S1 ×100
機械的安定性は下記の基準により判断される。
粒径増加率が 0%以上− 5%未満では 良
粒径増加率が 5%以上−10%未満では 普通
粒径増加率が10%以上 では 悪
また撹拌により多量の凝集物が発生した場合も悪と判断される。
【0015】
水性エマルジョンの粘度はエマルジョンの温度が上昇するに従って上昇する。夏季エマルジョンを保存中に到達する30〜50℃の温度で粘度が急上昇するエマルジョンは好ましくない。本発明においては、フルオロポリマーの濃度が約60重量%の水性エマルジョンの20〜60℃までの範囲の粘度をB型粘度計(東京計器製:型式BL)で測定し、粘度が急激に上昇する温度を調べた。30〜50℃の範囲で粘度が急激に上昇するエマルジョンは熱的安定性が悪いと判定される。
【0016】
以下、最も安定化することが困難なPTFE水性エマルジョンをフルオロポリマー水性エマルジョンの例として、実施例を示す。
【0017】
【実施例1】
機械的安定性試験:乳化重合法により得られた濃度約45重量%のPTFE水性エマルジョン原液300mlに、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムをN−メチルピロリドンに溶解して表1に示される量を加え、容量500mlのビーカー中でスターラーを回転(100rpm)させ、5分間緩やかに撹拌しつつ水を加え濃度30重量%のPTFE水性エマルジョンを調製して試料Aとし、前記の方法により粒径増加率を測定した。結果を表1に示す。粒径増加率は僅少であった。
【0018】
【表1】
【0019】
【実施例2〜5】
機械的安定性試験:乳化重合法により得られた濃度約45重量%のPTFE水性エマルジョン原液300mlに、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムをN−メチルピロリドンの50重量%水溶液に溶解して表2に示される量を加え、容量500mlのビーカー中でスターラーを回転(100rpm)させ、5分間ゆるやかに撹拌しつつ水を加え濃度30重量%のPTFE水性エマルジョンを調製して試料B(実施例2),C(実施例3),D(実施例4)及びE(実施例5)とし、それぞれについて前記の方法により粒径増加率を測定した。結果を表2に示す。
【0020】
【比較例1及び2】
表1に示すように、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムの溶媒としてケロシン又はアルコール類を用いた他は実施例1と同様にして試料F(比較例1)及びG(比較例2)を調製し、それぞれについて粒径増加率を測定した。結果を表2に示す。
【0021】
【表2】
【0022】
表2から明らかなように、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムの溶媒としてケロシン又はアルコール類を用いた試料F,Gに比べて、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウムの溶媒としてN−メチルピロリドンを用いたPTFE水性エマルジョン試料B〜Eの粒径増加率は小さく、機械的安定性に優れている。
【0023】
【比較例3〜6】
乳化重合法により得られた濃度約45重量%のPTFE水性エマルジョン原液に、PTFEの重量に対し3.0重量%の試薬一級のジオクチルスルホコハク酸ナトリウム粉末を加えたこと(N−メチルピロリドンは添加せず)、及び撹拌時間を変更したこと以外は実施例と同様にして濃度30重量%のPTFE水性エマルジョンを調製した。撹拌時間が0.5時間、1時間、3時間、又は8時間の試料について粒径増加率を測定した結果を表3に示す。撹拌時間が0.5時間の試料H(比較例3)は機械的安定性試験で凝集してしまい、撹拌時間が1時間(試料I:比較例4)又は3時間(試料J:比較例5)でも機械的安定性は本発明の実施例に比べて劣り、撹拌時間が8時間(試料K:比較例6)の場合にようやく本発明の実施例と同等になった。
【0024】
【表3】
【0025】
【実施例6及び比較例7】
前記試料Aを59.1重量%に濃縮した試料L(実施例6)、および乳化安定剤としてP−ノニルフェニルポリエチレングリコールエーテル(n=9)をPTFEに対し3.0重量%を加えた60重量%PTFE水性エマルジョンの試料M(比較例7)の熱的安定性試験を行った。結果を表4に示す。試料Mは40℃以上で粘度が急激に増加しているのに対し、本発明の試料Lは40℃以上でも粘度上昇が少ない。なお上記試料の粒径増加率はそれぞれ3.4%及び5.4%であった。
【0026】
【表4】
【0027】
【実施例7〜9及び比較例8〜9】
実施例1と同様な方法により表5に示すようにジオクチルスルホコハク酸ナトリウムの濃度が異なる30重量%PTFE水性エマルジョン試料N(実施例7)、O(実施例8)、P(実施例9)、Q(比較例8)及びR(比較例9)を調製し、その粒径増加率を測定した。結果を表5に示す。ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムの濃度が0.5%(試料Q)又は1%(試料R)の場合はエマルジョンが凝集した。
【0028】
【表5】
【0029】
【実施例10〜13】
表5に示した30%PTFE水性エマルジョン試料Nを水で10倍又は30倍に希釈して試料S(実施例10)、試料T(実施例11)、試料Oを水で10倍又は30倍に希釈して試料U(実施例12)、試料V(実施例13)とし、それぞれについて粒径増加率を測定した。結果を表6に示す。試料N,Oのフルオロポリマー水性エマルジョンは、希釈率の如何にかかわらず粒径増加率が低く機械的安定性が良好であった。
【0030】
【表6】
【0031】
【発明の効果】
本発明により、機械的安定性、熱的安定性の高いPTFE水性エマルジョンを得ることができ、また、短時間で生産性良く当該エマルジョンを製造することができる。本発明のフルオロポリマー水性エマルジョンは、弗素樹脂としての優れた表面特性、耐熱性、耐薬品性、及び電気特性などを利用した、金属などへの塗装剤、繊維及び織布などへの含浸剤、またポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂に防炎性を付与するための添加剤など種々の材料への添加剤、さらには防塵処理剤として使用される。フルオロポリマー水性エマルジョンを利用する分野においては、エマルジョンの機械的安定性、及び熱的安定性に起因する問題、例えば製造プロセスにおいては蒸発、濃縮、希釈、撹拌、移送、計量、また加工プロセスにおいては塗装、含浸、混合などを行う際のエマルジョンの不安定化の傾向は、解決されるべき重大な問題であった。しかし、実際商業的に十分に安定性の高いフルオロポリマー水性エマルジョンを短時間で生産性良く得ることは困難であったが、本発明はこれらの問題点を解決し得るフルオロポリマー水性エマルジョン及び当該エマルジョンの製造方法を提供するものである。
Claims (3)
- フルオロポリマーに対し1.5重量%以上のジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、及びN−メチルピロリドンを含むことを特徴とするフルオロポリマー水性エマルジョン。
- N−メチルピロリドンの含有量がジアルキルスルホコハク酸ナトリウムに対し1重量%以上である請求項1に記載のフルオロポリマー水性エマルジョン。
- 乳化重合により得られるフルオロポリマー水性エマルジョン原液にN−メチルピロリドン又はその水溶液に溶解したフルオロポリマーに対し1.5重量%以上のジアルキルスルホコハク酸ナトリウムを混合することよりなる安定化されたフルオロポリマー水性エマルジョンの製造方法。
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