JP3642665B2 - 焼入用治具及び焼入方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、円筒形状の被加熱物の内壁を高周波焼入れする際に使用される焼入用治具、及びこの内壁を高周波焼入れする焼入方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
誘導加熱を利用して金属部材などの被加熱物を加熱した後に急冷して硬化させる高周波焼入れが従来から広く行われている。この高周波焼入れの対象となる被加熱物の一つに円筒形状の金属部材がある。円筒形状の金属部材の内壁を高周波焼入するに際しては、通常、図7(a)に示すように、円筒形状の金属部材10を、その底壁12を上にして回転台(図示せず)に置いて下端部(回転台に近い部分)を外側から治具20で拘束し、金属部材10の下方からその中空部14に誘導加熱コイル(図示せず)を挿入させておき、金属部材10を治具20と共に回転させながらその内壁16を誘導加熱コイルで加熱した後に急冷する。これにより、円筒形状の金属部材10の内壁16が硬化される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
円筒形状の金属部材10ではその中空部14に相手部品(図示せず)を組み込んで使用することがある。この場合、相手部品が内壁16に接触して固定されたり内壁16を摺動したりすることが多い。ところが、上述した従来の方法では、図7(b)に示すように、金属部材10の高さ方向中央部18が膨張し、全体として樽形になることが本発明者によって判明された。
【0004】
このように金属部材10の高さ方向中央部18が膨張していると、高さ方向中央部18の内壁16aと相手部品との間に隙間ができることがあり、この隙間に起因して振動や騒音が起こることがある。この振動や騒音を防止する方法としては、例えば高周波焼入れ後の切削加工によって内壁16を所定形状に成形して内壁16と相手部品との間の隙間を無くす方法が考えられる。しかし、この方法では、切削加工するための手間がかかりコストアップになる。また、場合によっては切削加工によって内壁16の硬化層が削り取られてしまい、高周波焼入れが無駄になる。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、円筒形状の被加熱物を高周波焼入しても高さ方向中央部の膨張をほとんど無くせる焼入用治具及び焼入方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明の焼入用治具は、円筒形状の被加熱物の内壁を高周波焼入れする際に上記被加熱物を拘束する焼入用治具において、
(1)上記被加熱物の高さ方向一端部を外側から拘束する第1拘束部
(2)上記被加熱部の高さ方向中央部のうち、この被加熱物の底部からこの被加熱物の高さの40%以上60%以下の範囲内の部分を外側から拘束する第2拘束部
を備えたことを特徴とするものである。
【0007】
ここで、焼入用治具は、
(3)上記第1拘束部と上記第2拘束部との間隔を変更する変更手段を備えてもよい。
【0008】
また、上記第2拘束部は、
(4)上記被加熱物の上記中央部の外径よりも大きい内径を有する外側リング
(5)上記被加熱物の上記中央部の外径とほぼ等しい内径を有する、上記外側リングの内側に着脱自在に嵌め込まれた内側リング
を備えてもよい。
【0009】
また、上記目的を達成するための本発明の焼入方法は、円筒形状の被加熱物の内壁を高周波焼入れする焼入方法において、
(6)上記被加熱物の高さ方向一端部を外側から拘束すると共に、上記被加熱物の高さ方向中央部のうち、この被加熱物の底部からこの被加熱物の高さの40%以上60%以下の範囲内の部分を外側から拘束しながら上記被加熱物の上記内壁を高周波焼入れする
ことを特徴とするものである。
【0010】
ここで、円筒形状の被加熱物とは、高さ方向の一端に開口が形成されて他端に底壁が形成されたもの、この底壁に軸が形成されたもの、外周にフランジが形成されたものなどを含む概念である。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0012】
図1、図2を参照して焼入用治具の一例を説明する。
【0013】
図1は、本発明の焼入用治具の一実施形態の概略構成を示す斜視図であり、図2は、図1の焼入用治具が備え付けられた高周波焼入装置を示す断面図である。図1に示すように、焼入用治具30は、中央部に孔40aが形成されたリング状の第1拘束部40と、この第1拘束部40から所定間隔離れて平行に配置されたリング状の第2拘束部50を備えている。第1拘束部40と第2拘束部50は複数のボルト32とナット34(本発明にいう変更手段の一例である)で互いに固定されている。ナット34の位置を変えることにより第2拘束部50を移動させて第1拘束部40との間隔を自在に調節できる。このため、異なる高さの円筒形状の金属部材60に焼入用治具30を対応させることができる。
【0014】
第1拘束部40は、金属部材60の高さ方向一端部62の外径よりもかなり大きい内径を有する第1外側リング部42と、この一端部62の外径とほぼ等しい内径を有する第1内側リング44を備えており、第1内側リング44は第1外側リング42の内側に着脱自在に嵌め込まれている。このため、内径の異なる複数個の第1内側リング44を用意しておくことにより、金属部材60の高さ方向一端部62の外径が異なっても対応できる。また、第1拘束部40には、金属部材60が安定して載置される載置台46が形成されている。
【0015】
第2拘束部50には、金属部材60が貫通する孔50aが形成されている。また、この第2拘束部50は、金属部材60の高さ方向中央部64の外径よりもかなり大きい内径を有する第2外側リング部52と、この中央部64の外径とほぼ等しい内径を有する第2内側リング54を備えている。第2内側リング54は第2外側リング52の内側に着脱自在に嵌め込まれている。このため、内径の異なる複数個の第2内側リング54を用意しておくことにより、金属部材60の高さ方向中央部64の外径が異なっても対応できる。
【0016】
上述したように、第1拘束部40の第1内側リング44及び第2拘束部50の第2内側リング54はそれぞれ、第1外側リング42及び第2外側リング52の内側に着脱自在に嵌め込まれている。このため、金属部材60の一端部62の外径と中央部64の外径に合わせて第1内側リング44と第2内側リング54を取り替えることにより、異なるサイズの金属部材60の焼入用治具として使用できる。
【0017】
図2に示すように、高周波焼入装置70は焼入用治具30の他、焼入用治具30と共に金属部材60を回転させる回転台72や、金属部材60の中空部66に挿入される誘導加熱コイル74を備えている。焼入用治具30の第2拘束部50は、金属部材60の高さの40%以上60%以下の範囲内にある中央部64に接触する位置に配置されている。また、高周波焼入装置70は、金属部材60を外側から冷却する冷却器76も備えており、冷却器76には冷却液が噴出する多数の噴出孔76aが形成されている。
【0018】
高周波焼入装置70を用いて金属部材60を高周波焼入れするに当っては、底壁68を上にして金属部材60を第1及び第2拘束部40,50の孔40a,50aに貫通させて第1拘束部40の載置台46に載置する。上述したように第1拘束部40の第1内側リング44の内径は金属部材60の高さ方向一端部62の外径とほぼ同じであり、第2拘束部50の第2内側リング54の内径は金属部材60の高さ方向中央部64の外径とほぼ同じであるので、第1拘束部40が金属部材60の高さ方向一端部62に外側から接触し、一方、第2拘束部50が金属部材60の高さ方向中央部64に外側から接触する。これにより、金属部材60の高さ方向一端部62が第1拘束部40によって外側から拘束されると共に金属部材60の高さ方向中央部64が第2拘束部50によって外側から拘束されながら、金属部材60の内壁69が高周波焼入れされることとなる。
【0019】
このように金属部材60の高さ方向中央部64を第2拘束部50によって外側から拘束しながら金属部材60の内壁69を高周波焼入れするので、この高さ方向中央部64が誘導加熱コイル74によって誘導加熱されて外側に膨張しようとしても、第2拘束部50の第2内側リング54に拘束されてその膨張が妨げられる。この結果、円筒形状の金属部材60を高周波焼入れしても、金属部材60はその中央部64が膨れた樽状にならず高周波焼入れ前とほぼ同様の形状もしくは若干鼓状になる。従って、金属部材60の中空部66に相手部品を組み込んでも、高さ方向中央部66の内壁69aと相手部品との間に隙間ができず、隙間に起因する騒音や振動が防止される。
【0020】
また、焼入用治具30では、金属部材60の高さ方向一端部62及び高さ方向中央部64をそれぞれ第1及び第2拘束部40,50によって外側から拘束できるので、内径の異なる第1内側リング44及び第2内側リング54を使用することにより、高周波焼入後の金属部材60が所定の形状になるように変形(定変形)させることもできる。
【0021】
上述した高周波焼入装置70を使用して円筒形状の金属部材60を高周波焼入れした際の内径の変化について表1を参照して説明する。
【0022】
ここでは、底壁68に近い位置、中央部64、及び一端部62の3箇所の内径を測定した。内径の測定に際しては、同一の位置で120°ずつずらして内径を測定した。表1中のa、b、cは、120°ずつずらして内径を測定したときの値を表わす。また、「焼入れ前」の欄は高周波焼入れする前の内径を表わし、「第2拘束部無し」の欄は、図1に示す焼入用治具30を用いずに金属部材60の一端部62だけを外側から拘束しながら高周波焼入れしたときの、「焼入れ前」の内径との差を示す。「第2拘束部有り」の欄は、図2に示すようにして金属部材60を高周波焼入れしたときの、「焼入れ前」の内径との差を示す。なお、表中の「−」は縮小を表わす。
【0023】
金属部材60の材質はS53C(JIS規格)であり、外形寸法は高さ70mm、内径80mm、肉厚5mmである。金属部材60の内壁69を誘導加熱する際の高周波電源の周波数を80kHz、出力を100kWとして30秒間加熱した。また、加熱後に冷却するときは、冷却器70を用いて金属部材の外側から冷却液を5.0秒間噴出して急冷した。
【0024】
【表1】
Figure 0003642665
表1に示すように、高周波焼入れする前には80.00mmであった内径が高周波焼入れすることにより変化した。「第2拘束部無し」の場合、金属部材60の中央部64が10μm〜30μmの範囲内で膨張した。この膨張の原因は、中央部64を外側から拘束せずに高周波焼入れしたためだと考えられる。一方、「第2拘束部有り」の場合、中央部64の変形は−10μm〜10μmの範囲内であり、「第2拘束部無し」に比べて変形が小さい。このように変形が小さい原因は、中央部64を第2拘束部50で外側から拘束しながら高周波焼入れしたためだと考えられる。なお、表1に示すように、底壁に近い位置や一端部における変形も低減できた。
【0025】
次に、図4と表2を参照して、第2拘束部50で拘束する位置を変えた場合の例を説明する。
【0026】
図4は、図1の焼入用治具の第2拘束部で拘束する位置を示す模式図である。表2中のa、b、cは、120°ずつずらして内径を測定したときの値を表わし、数値の前に付された「−」は縮小を表わす。
【0027】
【表2】
Figure 0003642665
表2に示すように、金属部材60の高さ方向中央部のうち、底壁から40%以上60%以下の範囲内の部分を拘束したときは、変形量±10μm以下に抑えることができた。一方、この範囲を外れた部分を拘束したときは、変形量が±40μmの範囲内のものとなり変形量にばらつきが生じた。
【0028】
図4を参照して、金属部材の高さ方向中央部の硬さ分布を示す。
【0029】
図4は、金属部材60の高さ方向中央部の内壁69aの硬さ分布を示すグラフであり、白丸、黒丸共に、金属部材60の高さ方向中央部の内壁69aの硬さを示すが、測定位置は互いに180°ずれた位置である。
【0030】
図4に示すように、第2拘束部で高さ方向中央部を外側から拘束して焼入れしても、1.5mmの深さでの硬さが約HV513であり、ここでは規格を満足した。
【0031】
次に、図5、図6を参照して、図2に示す円筒形状とは異なる他の円筒形状の金属部材を高周波焼入れしたときの内径の変化と硬さ分布を説明する。
【0032】
図5(a)は、一端部にフランジが形成された円筒形状の金属部材を示す断面図、(b)は、底壁に軸が形成された円筒形状の金属部材を示す断面図であり、(a)、(b)共に長手方向中心軸に対して対称であるので半分だけを示す。また、図6(a)は、図5(a)の金属部材の硬さ分布を示すグラフであり、図6(b)は、図5(b)の金属部材の硬さ分布を示すグラフである。図6(a)では、白丸で示す硬さ分布は図5(a)におけるa方向の硬さ分布、三角で示す硬さ分布は図5(a)におけるb方向の硬さ分布、四角で示す硬さ分布は図5(a)におけるc方向の硬さ分布である。図6(b)では、白丸で示す硬さ分布は図5(b)におけるd方向の硬さ分布、三角で示す硬さ分布は図5(b)におけるe方向の硬さ分布、四角で示す硬さ分布は図5(b)におけるf方向の硬さ分布である。
【0033】
金属部材80,90の材質はS53C(JIS規格)であり、外形寸法は高さ70mm、内径65mm、肉厚5mmである。金属部材80,90の内壁を誘導加熱する際の高周波電源の周波数を30kHz、出力を250kWとして3〜5秒間加熱した。また、加熱後に冷却するときは、金属部材の外側から冷却液を5〜7秒間噴出して急冷した。
【0034】
図5(a)に示す金属部材の内径の変化として、底壁に近い位置、中央部、及びフランジ84の部分の3箇所の内径を測定した。内径の測定に際しては、同一の位置で120°ずつずらして内径を測定した。変形量はいずれも焼入れ前の寸法に対し±15μmの範囲内であった。このように変形が小さい理由は、高さ方向中央部を第2拘束部50(図2参照)で外側から拘束しながら高周波焼入れしたためだと考えられる。
【0035】
また、図5(a)に示すように、一端部82にフランジ84が形成された円筒形状の金属部材80では、1.5mmの深さでの硬さがHV513を超えており、ここでは規格を満足した。また、図5(b)に示すように、底壁92に軸94が形成された円筒形状の金属部材90では、1.75mmの深さでの硬さがHV513を超えており、ここでは規格を満足した。
【0036】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の焼入用治具では、円筒形状の被加熱物の高さ方向中央部のうち、被加熱物の底部からこの被加熱物の高さの40%以上60%以下の範囲内の部分を第2拘束部で外側から拘束できるので、この高さ方向中央部の膨張をほとんど無くすことができる。
【0037】
ここで、焼入用治具が、第1拘束部と第2拘束部との間隔を変更する変更手段を備えた場合は、変更手段で第1拘束部と第2拘束部との間隔を変更することにより、異なる高さの被加熱物にも焼入用治具を対応させることができる。
【0038】
また、第2拘束部が、被加熱物の中央部の外径よりも大きい内径を有する外側リングと、この中央部の外径とほぼ等しい内径を有する、外側リングの内側に着脱自在に嵌め込まれた内側リングとを備えたものである場合は、異なる内径の内側リングを複数個作製しておくことにより、被加熱物のサイズに応じて内側リングを取り替えることができ、異なるサイズの円筒形状の被加熱物に焼入用治具を使用できる。
【0039】
また、本発明の焼入方法によれば、被加熱物の高さ方向中央部のうち、被加熱物の底部からこの被加熱物の高さの40%以上60%以下の範囲内の部分が外側から拘束されながらこの被加熱物が高周波焼入れされるので、高さ方向中央部の膨張をほとんど無くせる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の焼入用治具の一実施形態の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1の焼入用治具が備え付けられた高周波焼入装置を示す断面図である。
【図3】図1の焼入用治具の第2拘束部で拘束する位置を示す模式図である。
【図4】図2の金属部材の高さ方向中央部の内壁の硬さ分布を示すグラフである。
【図5】(a)は、一端部にフランジが形成された円筒形状の金属部材を示す断面図、(b)は、底壁に軸が形成された円筒形状の金属部材を示す断面図である。
【図6】(a)は、図5(a)の金属部材の硬さ分布を示すグラフであり、(b)は、図5(b)の金属部材の硬さ分布を示すグラフである。
【図7】(a)は、従来の焼入用治具に円筒形状の金属部材を取り付けた状態を示す模式図であり、(b)は、(a)に示す金属部材を高周波焼入れした後の変形を示す模式図である。
【符号の説明】
30 焼入用治具
32 ボルト
34 ナット
40 第1拘束部
50 第2拘束部
52 第2内側リング
54 第2外側リング
60 被加熱物
62 被加熱物の高さ方向一端部
64 被加熱物の高さ方向中央部

Claims (4)

  1. その高さ方向の一端に開口が形成されて他端に底壁が形成された円筒形状の被加熱物を、前記底壁を上にしてその外周方向に回転させながらその内壁を高周波焼入れする際に前記被加熱物を拘束する焼入用治具において、
    前記被加熱物の外周面のうち前記開口の近傍部分を全周にわたって外側から拘束する第1拘束部と、
    前記被加熱物の高さ方向中央部のうち該被加熱物の前記底壁から該被加熱物の高さの40%以上60%以下の範囲内の部分の外周面を全周にわたって外側から拘束する第2拘束部とを備えたことを特徴とする焼入用治具。
  2. 前記第1拘束部と前記第2拘束部との間隔を変更する変更手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の焼入用治具。
  3. 前記第2拘束部は、
    前記被加熱物の前記中央部の外径よりも大きい内径を有する外側リングと、
    前記被加熱物の前記中央部の外径とほぼ等しい内径を有する、前記外側リングの内側に着脱自在に嵌め込まれた内側リングとを備えたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の焼入用治具。
  4. その高さ方向の一端に開口が形成されて他端に底壁が形成された円筒形状の被加熱物を、前記底壁を上にしてその外周方向に回転させながらその内壁を高周波焼入れする焼入方法において、
    前記被加熱物の外周面のうち前記開口の近傍部分を全周にわたって外側から拘束すると共に、前記被加熱物の高さ方向中央部のうち該被加熱物の前記底壁から該被加熱物の高さの40%以上60%以下の範囲内の部分の外周面を全周にわたって外側から拘束しながら前記被加熱物の前記内壁を高周波焼入れすることを特徴とする焼入方法。
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