JP3639281B2 - 磁気記録媒体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気記録媒体の製造方法に関し、特に磁性膜の結晶粒の結晶学的配向性が高密度磁気記録に適するように改良された磁気記録媒体の製造方法に関する。
【0002】
【0003】
【従来の技術】
高密度磁気記録を実現するために、連続磁性膜を磁気記録媒体に用いる研究開発が進められている。これらの磁気記録媒体は、高分子フィルム、NiP膜を被覆したアルミニウム、ガラスなどの非磁性材料よりなる基板上に、強磁性金属のCoやCo合金からなる薄膜を、高周波スパッタリング法、イオンビームスパッタ法、真空蒸着法、電気メッキ法、あるいは化学メッキ法などで形成して作製されている。このようにして作製された磁気記録媒体において、磁性膜の微細構造と磁気特性との間には密接な関係があり、磁気記録の記録密度や再生出力を高めるために磁性膜の改良が種々試みられている。
【0004】
面内磁気異方性をもつ磁性膜の微細構造を改良し記録再生特性を向上させるために、基板と磁性膜の間に下地層を設ける方法が検討されており、例えば、特開昭62−257617号公報にはCo−Pt系磁性膜の下地層としてW,Mo,Nb又はVの膜を用いることが、特開昭62−257618号公報には下地層としてV−Cr又はFe−Cr合金材料を用いることが記載され、特開昭63−106917号公報にはCo,Ni,Cr及びPtからなる磁性膜の下地層としてCr,Ho,Ti,Ta等の非磁性材料の膜を形成する方法が、特開昭63−187414号公報にはCo−Pt−Cr磁性膜の下地層としてCr又はCr−V合金が有効であることが記載されている。
【0005】
基板上に下地層としてCr又はCr合金をスパッタ法等で形成すると(100)又は(110)配向膜が得られ、Co合金磁性膜を(100)配向膜上に形成すると磁化容易軸は基板と平行になり、一方、(110)配向膜上に形成すると磁化容易軸は基板表面から約30度傾いてはいるが基板とほぼ平行になるため、面内磁気記録媒体として望ましいことが知られている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
高密度磁気記録が可能で再生出力の大きい面内磁気記録媒体としては、磁性膜の保磁力(Hc)、飽和磁化(Ms)が大きいことに加えて、残留磁化率(Mr/Ms)が大きいこと、磁気異方性の分散が小さいことが必要である。上記の公知技術は、HcとMsが大きい磁気記録媒体を形成することはある程度可能であるが、残留磁化率が大きくてしかも磁気異方性の分散が小さい媒体を形成するには不十分である。
【0007】
残留磁化率、磁気異方性の分散は磁性薄膜を構成する結晶粒の粒径分布、磁化容易軸分布と相関があり、大きな残留磁化率及び小さな磁気異方性の分散を実現するためには、結晶粒径が揃っていて、かつ、結晶粒の磁化容易軸がほぼ面内方向に揃っていることが必要である。さらに望ましくは磁化容易軸が記録再生の際に用いられる磁気ヘッドの走行方向に揃っているほうが良い。
【0008】
本発明は、磁性膜の磁化容易軸が面内を向き、かつ磁気異方性の分散が小さい、高密度磁気記録に適した面内磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的は以下の方法により達成できることが、本発明者等の実験の結果明らかになった。
すなわち、基板もしくは下地層としてNaCl型結晶構造を持つ(110)単結晶もしくは(110)配向膜を用いて、その上に体心立方構造(bcc)を持つ下地層材料を形成すると、(211)面方位が基板と平行な単結晶もしくは配向膜が得られる。この膜上に六方最密構造(hcp)を持つCo基合金磁性膜を形成すると、磁性膜は(1−100)面が基板と平行な単結晶膜もしくは配向膜が得られる。この場合磁性膜の磁化容易軸である[0001]軸は基板と平行になる。
【0010】
また、NaCl型結晶構造を持つ(110)単結晶もしくは(110)配向膜の上に直接hcp構造を持つCo基合金磁性膜を形成しても、磁性膜の磁化容易軸である[0001]軸は基板と平行になる。bcc構造の膜を用いた場合、成膜条件を制御することにより(211)配向性を保った状態で結晶粒径や結晶粒間の距離を調整できるので、磁気記録媒体の微細構造を調整できるという特徴があるため、磁気記録媒体の使用目的に応じて利用すれば良い。
【0011】
ベースとなる基板上にNaCl構造をもつ材料の(110)配向膜を形成する方法として、例えば基板上にグレーティングあるいはテクスチャと呼ばれる微細な起伏を形成し、この上にグラフォエピタキシャル成長を利用して(110)配向膜を成長させることが可能である。グラフォエピタキシャル成長技術に関しては、例えば、「固体物理」第20巻、第10号(1985)、第815〜820頁に記載されている。グレーティングやテクスチャを円板状の基板の周方向に形成しておけば、Co基合金磁性膜の磁化容易軸を周方向に揃えることが可能となる。
【0012】
上記の方法を用いれば、磁性膜の磁化容易軸を基板と平行に制御でき、さらに円板状の基板では円周方向に磁化容易軸を揃えることができるので、磁気記録の際の磁気ヘッドの走行方向と同一にでき、この結果、面内磁気記録媒体の性能が向上する。磁性膜の結晶粒の分布を制御することもできるので、高密度磁気記録に適した記録媒体を提供することができる。
【0013】
さらに磁気ヘッドと組み合わせて磁気記録媒体を使用する場合、高いトラック密度を実現することを考慮して、上記方法で作製した磁気記録媒体に溝や窪みを設けたり、非磁性領域や光反射率の異なる領域を設けても良い。
NaCl型結晶構造を持つ材料としては、MgO,CaO,TiO,VO,MnO,CoO,NiOのいずれか又はこれらを主成分とする混晶、あるいはLiCl,NaCl,KClのいずれか又はこれらを主成分とする混晶、あるいはLiF、あるいはTiC,ZrC,HfC,NbC,TaCのいずれか又はこれらを主成分とする混晶が適当である。膜厚は、10nm以上100μm以下が望ましい。10nm以下になるとベース基板がbcc構造を持つ膜の成長に及ぼす影響を遮断し難くなり、100μm以上になると、膜形成に要する時間が長くなり、さらに配向膜の結晶粒の粗大化などの望ましくない現象が生ずる。
【0014】
bcc構造を持つ膜としては、Cr,V,Nb,Moもしくはこれらの元素を主成分とする合金が利用可能である。膜厚は1μm以下が望ましく、スパッタ法などの成膜法で形成することを考慮すると、経済的かつ実用的には200nm以下がさらに望ましい。
hcp構造を持つCo基合金磁性膜としては、Coをベースとして、Cr,Ni,Fe,V,Ti,Zr,Hf,Mo,W,Ta,Re,Ru,Rh,Ir,Pt,Pd,Au,Ag,Cu,B,Al,C,Si,P,Nの少なくとも1元素を含んだ合金膜が利用可能である。例えば、Co−Cr,Co−Ni,Co−Fe,Co−V,Co−Mo,Co−Ta,Co−Re,Co−Pt,Co−Pd等の2元系合金、あるいはこれらの2元系合金に第3元素を加えたCo−Cr−Ta,Co−Cr−Pt,Co−Cr−Mo,Co−Cr−W,Co−Cr−Re,Co−Ni−Zr,Co−Pt−Ta,Co−Pt−B等の3元系合金、又は第4元素を加えたCo−Cr−Ta−B,Co−Cr−Ta−Si,Co−Cr−Ta−C,Co−Cr−Ta−P,Co−Cr−Ta−N,Co−Cr−Pt−B等である。Coの比率が最大でしかも結晶構造がhcpとなるなら、本発明で対象とするCo基合金磁性膜となりうる。また、磁性膜は単層に限らず多層膜あるいは膜厚方向に組成傾斜を持たせた膜でも利用可能である。膜厚は、2nm以上100nm以下、望ましくは5nm以上50nm以下が良い。
【0015】
成膜法としては、高周波スパッタ法、高周波マグネトロンスパッタ法、イオンビームスパッタ法、イオンビームプレーティング法、真空蒸着法等の物理蒸着法がいずれも利用可能である。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態による円板状の磁気ディスクの一部の断面斜視図である。この図を参照して説明する。外形が円板状の非磁性基板101の表面に、例えば頂角θが約90度のグレーティングもしくはテクスチャ102を設け、この上にNaCl型結晶構造を持つ材料をグラフォエピタキシャル成長させると、表面が(110)を持つ配向膜103が得られる。
【0017】
グレーティングもしくはテクスチャの方向は、円板の周方向に揃えるのが有効である。この場合、グレーティングもしくはテクスチャは全周連続している必要性は必ずしもなく、断続していても良い。NaCl型結晶構造を持つ材料は{100}面が発達する傾向があり、図1に示すような頂角がほぼ90度の起伏があると、斜面に{100}面が平行に成長することになり、その結果、ベース基板と平行な膜の表面は(110)面となる。頂角は90度を中心に30度程度のずれがあっても、ほぼ(110)面をベース基板と平行に持つNaCl配向膜が得られる。個々の起伏の深さにも平均の深さにたいして数十%の誤差があっても、(110)面が優先的に配向したNaCl型結晶構造を持つ膜が得られる。この膜の表面を平坦にしたい場合は、グラフォエピタキシャル成長後、研磨するのが望ましい。
【0018】
NaCl型結晶構造を持つ配向膜の個々の結晶粒の[001]方向は、ほぼグレーティングもしくはテクスチャの筋の方向と平行、すなわち円板状の基板の周方向と平行になる。この膜の上に、bcc構造を持つ膜を形成すると、エピタキシャル現象により、(211)面がベース基板と平行な配向膜104が成長する。次いで、hcp構造を持つCo基合金磁性膜を形成すると、エピタキシャル現象により、(1−100)面がベース基板と平行な配向膜105が成長する。磁性膜の磁化容易軸[0001]は基板と平行になり、しかもほぼグレーティングもしくはテクスチャの筋の方向と平行、すなわち円板状の基板の周方向と平行になる。この上に保護膜106を形成することにより、磁気記録媒体が得られる。
【0019】
グレーティングもしくはテクスチャの深さは、その上に形成されるNaCl型結晶構造を持つ配向膜の個々の結晶粒の大きさと関係があり、成膜条件が同じ場合、深さが小さいほど小さな結晶粒が形成される。磁性膜を構成するhcp構造を持つ材料の結晶粒の望ましい大きさの範囲は、2nm以上100nm以下である。このような磁性膜を形成するためには、グレーティングもしくはテクスチャの深さも1nm以上200nm以下であるのが望ましい。また、テクスチャの山の平均のピッチも、円板状の基板の半径方向で1nm以上500nm以下であることが望ましい。ピッチが1nm以下になるとグラフォエピタキシャル成長が起こり難くなり、500nm以上になると磁性膜の磁化容易軸が円板の周方向に揃い難くなる。
【0020】
図2は、bcc構造からなる材料膜を省いて、(110)配向したNaCl型結晶構造を持つ膜の上に直接hcp構造を持つCo基合金磁性膜を形成した構成からなる磁気記録媒体の断面構造模式図である。この場合も磁性膜の磁化容易軸は基板と平行になり、上記と類似の効果が生ずる。
図3は、非磁性基板301の表面に離散的なグレーティングもしくはテクスチャを設けた場合であり、起伏直上に形成されたbcc結晶構造を持つ材料膜は(211)配向を、hcp結晶構造を持つCo基合金磁性膜は(1−100)配向を示す。さらに、起伏直上に形成された磁性膜の磁化容易軸はテクスチャもしくはグレーティングの方向に沿っており、さらに基板上の結晶粒の分布もその方向に沿っているため、磁気記録を行なう際には、前述のケースに準ずる望ましい効果が生じる。なおこの場合、起伏間の距離は磁気ヘッドのトラック幅で規定される磁気記録の幅の数分の1以下にすることが必要であり、1Gb/in2以上の磁気記録密度を達成するためには、100nm以下とすることが望ましい。
【0021】
図4は、図3においてbcc構造からなる材料膜を省いて、(110)配向したNaCl型結晶構造を持つ膜の上に直接hcp構造を持つCo基合金磁性膜を形成した構成からなる磁気記録媒体の断面構造模式図である。この場合も、起伏直上に形成された磁性膜の磁化容易軸は基板と平行になり、図3の場合と類似の効果が生ずる。
【0022】
図5は、(110)面を基板面に持つNaCl型結晶構造をもつ材料の単結晶基板を用いた場合である。bcc構造の膜は(211)面がエピタキシャル成長し、hcp構造の膜は(1−100)面がエピタキシャル成長するため、磁化容易軸は基板と平行になる。基板とbcc結晶構造を持つ材料の間に通常格子定数のミスマッチがあるため、このミスマッチを緩和するためbcc及びhcp結晶構造を持つ材料膜には亜粒界が形成される。膜の形成条件、例えば基板温度や成膜速度を調整することにより、この亜粒界で分割される結晶粒の大きさを磁気記録に望ましい5〜100nmに制御することができる。
【0023】
図6は、図5においてbcc構造からなる材料膜を省いて、(110)面からなるNaCl型結晶構造を持つ単結晶基板の上に直接hcp構造を持つCo基合金磁性膜を形成した構成からなる磁気記録媒体の断面構造模式図である。この場合も、磁性膜の磁化容易軸は基板と平行になり、図3の場合と類似の効果が生ずる。
【0024】
図5及び図6に示した単結晶基板を用いた磁気記録媒体は、円板状の磁気ディスクとして磁気記録に用いることができる。この場合、磁気記録媒体における磁化容易軸の磁気ヘッドに対する向きは円板の方向によって変化し、例えば再生出力に変化が生ずる。しかし、この変化は円板の結晶方位に対して周期をもって生ずる変化であり、記録再生の際に補正することは可能である。また、矩形状の単結晶基板に形成した磁気記録媒体と基板上で単振動運動をする磁気ヘッドとを組み合わせれば新しい磁気記録系として用いることができる。磁気ヘッドの動きと直交する方向に磁気記録媒体を動かせば、矩形状の磁気記録媒体に記録再生することができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
〔実施例1〕
直径1.8インチの石英ガラス基板101の表面に、先端角90度のダイヤモンド端子を用いて、深さ50nm、ピッチ100nmの同心円状のグレーティング102を形成した。この基板を用いて、図1に示す構造を有する磁気記録媒体を以下の手順で作製した。
【0026】
高周波スパッタ法で基板101を高温度に保って、NaCl構造を持つLiF膜103を100nmの厚さに形成した。膜の形成後、不活性ガス雰囲気に保った電気炉中で熱処理した。X線回折法でLiF膜を調べた結果、LiF膜は、(110)面が基板とほぼ平行になった配向多結晶膜であり、さらに結晶粒の[001]方向はほぼ同心円状に分布していることが分かった。走査型電子顕微鏡でLiF膜の微細構造を調べたところ、粒子径50〜100nmの結晶粒からなっており、さらに表面には30〜100nmの起伏が存在することが確認された。
【0027】
そこで表面を研磨して平坦化した後、高周波マグネトロンスパッタ法によって、bcc結晶構造を持つ厚さ50nmのCr膜104、厚さ30nmのhcp結晶構造を持つCo−Cr−Pt膜105を形成した。磁性膜用にはCo−18at%Cr−6at%Ptターゲットを用いた。Cr膜形成時の基板温度は400゜C、Co−Cr−Pt磁性膜形成時の基板温度は180゜Cとした。スパッタのArガス圧力は3〜10mTorr、スパッタパワーは6〜10W/cm2とした。さらに、保護膜106としてカーボン膜を10nmの厚さに形成し、磁気記録媒体を作製した。X線回折で膜構造を調べ、Cr膜は(211)配向を、Co−Cr−Pt膜は(1−100)配向をした多結晶膜であることを確認した。
【0028】
上記と同様の条件で、Crの代わりにV,Nb,Mo,Cr−5at%Ti,Cr−2at%Zr,Cr−20at%V,Cr−1at%Bを用いた磁気記録媒体を作製した。bcc構造を持つ下地膜、hcp構造をもつ磁性膜ともに上記と類似の組織が実現されていることをX線回折法によって確認した。
比較試料として、グレーティングを形成しない石英ガラス基板上に直接Cr膜、Co−Cr−Pt磁性膜、C保護膜を上記と同様な条件で形成した磁気記録媒体を作製した。X線回折による分析の結果、Cr膜は(100)と(110)の2種類が混ざった配向を示し、磁性膜の磁化容易軸は基板と平行な結晶粒と磁化容易軸が基板から約30度傾いた結晶粒が混在しており、磁化容易軸の方向は基板の面内で不規則に分布していることが分かった。
【0029】
これらの磁気記録媒体の記録再生特性の評価を薄膜磁気ヘッドを用いて行なった。磁気ヘッドトラック幅は5μm、ギャップ長さは0.2μm、測定時の磁気ヘッドと磁気記録媒体の距離は0.06μm、相対速度は10m/sとした。評価項目として、記録密度特性、シグナルとノイズの比率(S/N比)、オフトラック特性を選んだ。記録密度特性は低周波の再生出力の半分になる出力半減記録密度(D50)、S/N比は比較試料のS/N比を基準とした相対値、オフトラック特性はトラックエッジ部の記録にじみの距離を比較試料と比べた相対値として測定した。S/N比は値が大きいほど、オフトラック特性は値が小さいほど高密度磁気記録に適することを示す。
【0030】
【表1】
【0031】
本実施例の磁気記録媒体は、比較例に比べ記録密度特性、S/N比及びオフトラック特性がいずれも改善されており、高密度磁気記録媒体として望ましい特性を持つことが確認された。
また、NaCl型結晶構造を持つ材料としてLiFのかわりにLiCl,NaCl,KCl,MgO,CaO,TiO,VO,MnO,CoO,NiO,TiC,ZrC,HfC,NbC,TaCのいずれかの材料からなる(110)配向膜を用いた実験も行なった。材料が異なるとグラフォエピタキシ成長の条件が変化し、材料に適した成膜法あるいは成膜時の基板温度、成膜後の熱処理などの条件を選択する必要があったが、いずれの(110)優先配向膜を用いた場合も、上記と同様に高密度磁気記録媒体として望ましい特性を持つことがわかった。
【0032】
〔実施例2〕
実施例1において、bcc結晶構造からなる材料の膜形成を省いた以外は同様な手順で、深さ50nm、ピッチ100nmの同心円状のグレーティング202を形成した直径1.8インチの石英ガラス基板201の表面上にNaCl構造の(110)配向膜203、hcp構造の配向磁性膜204及び保護膜205を順次形成して、図2に示す構造を有する磁気記録媒体を作製した。
【0033】
磁性膜204としては、Co−18at%Cr,Co−12at%Ni,Co−18at%Fe,Co−20at%V,Co−20atMo,Co−16at%Ta,Co−20at%Re,Co−16at%Pt,Co−15at%Pdからなる2元合金、Co−18at%Cr−2at%Ta,Co−21at%Cr−3at%Mo,Co−19at%Cr−1.5at%W,Co−15at%Cr−7at%Re,Co−14at%Ni−1at%Zr,Co−16at%Pt−2at%Ta,Co−18at%Pt−0.8at%Bからなる3元合金、Co−18at%Cr−2at%Ta−2at%B,Co−20at%Cr−1.5at%Ta−0.3at%Si,Co−19at%Cr−2.5at%Ta−0.8at%C,Co−22at%Cr−1.6at%Ta−0.2at%P,Co−21at%Cr−1at%Ta−0.2at%N,Co−12at%Cr−8at%Pt−0.7at%Bからなる4元合金を用いた。
【0034】
比較試料として、平坦な石英ガラス基板上に下地膜として50nmのCr膜を形成した上に上記の磁性膜を形成し、次いでC保護膜を形成した磁気記録媒体をそれぞれ準備した。
NaCl結晶構造をもつ材料としてNiOの(110)配向膜を用いて得られた磁気記録媒体の記録再生特性のうち線記録密度(D50:kFCI)は、以下の通りであった。
【0035】
【表2】
【0036】
線記録密度以外のS/N比、オフトラック特性においても、本実施例に基づく磁気記録媒体は、従来のCr下地を用いて形成した同じ組成の磁性膜を持つ比較試料に比べて10%以上の改善が確認され、高密度磁気記録媒体として優れていることが分かった。また、NiO以外のNaCl結晶構造をもつ(110)配向膜上に磁性膜を形成した場合にも同様の改善効果が認められた。
【0037】
〔実施例3〕
直径1.8インチのガラス基板301の表面に先端角90度のダイヤモンド端子を用いて深さ20nmの溝302を、ピッチ75nmで同心円状に形成した。この基板を用いて、図3に示す構造を持つ磁気記録媒体を以下の手順で作製した。
【0038】
高周波スパッタ法で基板301上にNaCl構造を持つKCl膜303を50nmの厚さに形成した。膜の形成後、水蒸気を含むガス雰囲気に保った電気炉中で熱処理した。X線回折法でKCl膜を調べた結果、KCl膜は、(110)面と(100)面の2種類の面が基板とほぼ平行になった配向多結晶膜であり、X線回折では(110)面の強度が強く、(110)面の優先配向膜であることが確認された。さらに結晶粒は、ほぼ同心円状に分布していることが分かった。走査型電子顕微鏡でKCl膜の微細構造を調べたところ、粒子径30〜100nmの結晶粒からなっており、さらに表面には20〜50nmの起伏が存在することが確認された。
【0039】
表面を研磨して平坦化した後、高周波マグネトロンスパッタ法によって、bcc結晶構造を持つ厚さ50nmのCr−2at%Zr膜304、hcp結晶構造を持つ厚さ20nmのCo−Cr−Ta膜305を形成した。磁性膜用にはCo−18at%Cr−3at%Taターゲットを用いた。Cr−Zr膜形成時の基板温度は300゜C、Co−Cr−Ta磁性膜形成時の基板温度は150゜Cとした。スパッタのArガス圧力は3〜10mTorr、スパッタパワーは6〜10W/cm2とした。さらに、保護膜306としてカーボン膜を10nmの厚さに形成し、磁気記録媒体を作製した。X線回折で膜構造を調べ、Cr−Zr膜は(200)回折が若干認められたが(211)回折線の強度が強く、(211)優先配向膜であることを確認した。Co−Cr−Ta膜は(1−100)優先配向をした多結晶膜であることを確認した。
【0040】
〔実施例4〕
実施例3と同様な方法で、bcc結晶構造を持つCr−Zr膜を形成しないで、溝402を設けたガラス基板401の上に形成したKCl膜403上に直接Co−Cr−Ta磁性膜404を形成し、さらにC保護膜405を設けた図4に示す構造を有する磁気記録媒体を作製した。
【0041】
実施例3及び実施例4に対する比較試料として、平坦なガラス基板上に直接Cr−Zr膜、Co−Cr−Ta膜及びC膜を形成した磁気記録媒体を作製した。
実施例1の場合と同様な条件で、記録再生特性を比較した結果、(110)優先配向を示すKCl膜を設けた実施例3及び実施例4による磁気記録媒体は、いずれも線記録密度が20%、S/N比が45%、オフトラック特性が30%以上、比較試料に較べて優れていることがわかった。
また、KCl膜の代わりに別の材料として、LiCl,NaCl又はLiFを用いた場合にも同様の望ましい効果が確認された。
【0042】
〔実施例5〕
一辺が20mmの矩形状の(110)MgO単結晶を基板501に用いて図5に示す構造を有する磁気記録媒体を以下の手順で作製した。
高周波マグネトロンスパッタ法によって、bcc結晶構造を持つ厚さ30nmのV膜502、hcp結晶構造を持つ厚さ15nmのCo−Cr−Ta−Si膜503を形成した。磁性膜用にはCo−19at%Cr−2at%Ta−2at%Siターゲットを用いた。V膜形成時の基板温度は450゜C、Co−Cr−Ta−Si磁性膜形成時の基板温度は150゜Cとした。スパッタのArガス圧力は3mTorr、スパッタパワーは10W/cm2とした。さらに、保護膜504としてボロン膜を10nmの厚さに形成し、磁気記録媒体を作製した。
【0043】
X線回折で膜構造を調べ、V膜は(211)面を基板と平行にエピタキシャル成長し、Co−Cr−Ta−Si膜は(1−100)面を基板と平行にエピタキシャル成長していることを確認した。透過電子顕微鏡で磁気記録媒体の組織を調べたところ、磁性膜には亜粒界が入っており、この亜粒界で隔てられた結晶粒は0.3〜1度の傾きを持っていた。結晶粒の平均の大きさは45nmであった。また、結晶粒内部の組成を調べたところ、Cr及びSiが亜粒界付近に偏析していた。この磁気記録媒体の磁化容易軸は1つの方向に揃っており、この方向は(110)MgO基板の[001]に該当した。
【0044】
〔実施例6〕
実施例5と同様な方法で、bcc結晶構造を持つV膜を形成しないで、直接(110)MgO基板601上にCo−Cr−Ta−Si磁性膜602を形成し、さらにC保護膜603を設けた図6に示す構造を持つ磁気記録媒体を作製した。この磁気記録媒体でも磁化容易軸は一方向に揃っていた。
【0045】
〔実施例7〕
図7に示すように、実施例5や実施例6で作製した矩形状の磁気記録媒体701と、磁気ヘッドを直線上に多数並べたマルチヘッド702を組み合わせて磁気記録装置を作製し、磁気記録再生特性を測定した。
図7に示すマルチヘッド702は、磁気記録媒体701と約0.05μmの間隔を保って高速単振動運動をしており、磁気記録媒体はこの単振動運動と直角方向に高速で任意の距離移動できるように構成されている。この方法で測定した磁気記録媒体の線記録密度特性は、V膜を設けた磁気記録媒体ではD50=72kFCI、設けない磁気記録媒体ではD50=65kFCIであった。
【0046】
〔実施例8〕
直径1.8インチの石英ガラス基板801表面に先端角90度のダイヤモンド端子を用いて深さ50nm、ピッチ100nmの同心円状のグレーティングを形成した。この基板を用いて、図8に示す構造を持つ磁気記録媒体を以下の手順で作製した。
【0047】
高周波スパッタ法で基板801を高温度に保ってNaCl構造を持つMgO膜802を100nmの厚さに形成した。膜の形成後、不活性ガス雰囲気に保った電気炉中で熱処理した。X線回折法でMgO膜を調べた結果、MgO膜は、(110)面が基板とほぼ平行になった配向多結晶膜であり、さらに結晶粒の[001]方向はほぼ同心円状に分布していることが分かった。走査型電子顕微鏡でMgO膜の微細構造を調べたところ、粒子径20〜50nmの結晶粒からなっていた。
【0048】
表面を研磨して平坦化した後、高周波マグネトロンスパッタ法によって、bcc結晶構造を持つ厚さ50nmのCr膜803、hcp結晶構造を持つ厚さ15nmのCo−Cr−Pt膜804を形成した。磁性膜用にはCo−21at%Cr−6at%Ptターゲットを用いた。Cr膜形成時の基板温度は400゜C、Co−Cr−Pt磁性膜形成時の基板温度は180゜Cとした。スパッタのArガス圧力は10mTorr、スパッタパワーは10W/cm2とした。この磁気記録媒体上に、磁気ヘッドフォローイング用の凹状のパターン805をフォトリソグラフィ法によって形成した。すなわち、フォトレジストを用いたパターンエッチング法で、1.5μm×1.5μm×0.1μmの窪みを千鳥状に形成した。ついで、保護膜としてカーボン膜806を10nmの厚さに形成した。
【0049】
本実施例による磁気記録媒体は、磁気記録再生特性が改良されているので原理的に面記録密度を向上できる。これに加えて、媒体上に形成された一連の窪みを磁気ヘッドの一部に搭載された半導体レーザ光の反射率の変化をモニターするか、あるいは磁気ヘッドの出力が窪み直上に磁気ヘッドが来た時に変化する現象を利用して高精度トラッキングを行なうことができるので、トラック方向の記録密度を大幅に向上でき、線記録密度とトラック方向の密度の組合せを広範囲に選べ、この結果、より容易に高密度磁気記録を行なうことができた。
【0050】
【発明の効果】
本発明によれば、記録密度、記録再生時のS/N比及びオフトラック特性の改善された磁気記録媒体を提供できるので、磁気記録装置の高密度化を実現でき、装置の小型化や大容量化が容易になる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1による磁気記録媒体の断面構成模式図。
【図2】本発明の実施例2による磁気記録媒体の断面構成模式図。
【図3】本発明の実施例3による磁気記録媒体の断面図。
【図4】本発明の実施例4による磁気記録媒体の断面図。
【図5】本発明の実施例5による磁気記録媒体の断面図。
【図6】本発明の実施例6による磁気記録媒体の断面図。
【図7】本発明の実施例7による磁気記録装置の構成図。
【図8】本発明の実施例8による磁気記録媒体の断面構成模式図。
【符号の説明】
101,201,301,401,801…基板
102,202…グレーティング
103,203…(110)配向膜(NaCl構造)
104…(211)配向膜(bcc構造)
105…(1−100)配向膜(hcp構造)
106,205,306,405,504,603,806…保護膜
204…配向膜(hcp構造)
302,402…溝
303,403,802…NaCl構造を持つ膜
304,502,803…bcc構造を持つ膜
305,404,503,602,804…hcp構造を持つ磁性膜
501,601…(110)単結晶基板(NaCl構造)
701…磁気記録媒体
702…マルチヘッド
805…凹状パターン
Claims (7)
- 非磁性基板上に、(211)配向した体心立方構造を持つ下地膜、該下地膜上に形成された六方最密構造を持つCo基合金を含む磁性膜を有し、
前記磁性膜は多層構造を有することを特徴とする磁気記録媒体。 - 非磁性基板上に、NaCl型結晶構造を持つ(110)配向した膜、該(110)配向した膜上に形成された(211)配向した体心立方構造を持つ下地膜、該下地膜上に形成された六方最密構造を持つCo基合金を含む磁性膜を有し、
前記磁性膜は多層構造を有することを特徴とする磁気記録媒体。 - 非磁性基板上に、(211)配向したCr,V,Nb又はMoもしくはこれらの元素を主成分とする合金からなる下地層、該下地層上に形成された六方最密構造を持つCo基合金からなる磁性膜を有し、
前記磁性膜は多層構造を有することを特徴とする磁気記録媒体。 - 非磁性基板上に、MgO,CaO,TiO,VO,MnO,CoO,NiOのいずれか又はこれらを主成分とする混晶、あるいはLiCl,NaCl,KClのいずれか又はこれらを主成分とする混晶、あるいはLiF、あるいはTiC,ZrC,HfC,NbC,TaCのいずれか又はこれらを主成分とする混晶からなる(110)配向した層、該(110)配向した層上に形成された(211)配向したCr,V,Nb又はMoもしくはこれらの元素を主成分とする合金からなる下地層、該下地層上に形成された六方最密構造を持つCo基合金からなる磁性膜を有し、
前記磁性膜は多層構造を有することを特徴とする磁気記録媒体。 - 前記多層構造を有する磁性膜の膜厚は、5nm以上、50nm以下であることを特徴とする請求項1乃至4記載の磁気記録媒体。
- 前記磁性膜は、磁化容易軸が基板に平行な方向を向いた(1−100)配向することを特徴とする請求項1乃至4記載の磁気記録媒体。
- 前記磁性膜は、Coを主成分として、Cr,Ni,Fe,V,Ti,Zr,Hf,Mo,W,Ta,Re,Ru,Rh,Ir,Pt,Pd,Au,Ag,Cu,B,Al,C,Si,P,Nからなる元素群のうち少なくとも1元素を含むことを特徴とする請求項1乃至4記載の磁気記録媒体。
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