JP3638894B2 - ポリマーセメント組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特に、山岳部や臨海部の法面に点在する岩塊のひび割れや間隙等に注入して固化させ、岩塊を一体化させることによって岩塊の崩落等を防止する岩ひび割れ注入材として好適に使用することができるポリマーセメント組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
山岳部や臨海部の法面に点在する岩塊には、ひび割れや間隙が生じている場合があり、これを放置すると降雨や地震などの際にその岩塊が崩落する危険性があり、このような岩塊の崩落を有効に防止することが望まれている。
【0003】
そこで従来、このような岩塊の崩落を防止すべく、岩塊のひび割れや岩塊同士の間隙にポリマーセメント系注入材を注入する方法が知られいる。そして、この種のポリマーセメント系注入材としては、エチレン酢酸ビニル樹脂系ポリマーディスパージョンを用いたものが知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、エチレン酢酸ビニル樹脂系ポリマーディスパージョンを用いたポリマーセメント系注入材は、該ポリマー自体が耐水性に劣る為、十分に乾燥させた後であっても水に接触するとポリマーが再溶解するという問題がある。また、該ポリマー自体の粘性が高いため、所定の作業性や注入性を確保するために混練水量を増やさざるを得ず、結果として硬化体組織の緻密性が損なわれ、強度低下や耐水性の低下を招くという問題がある。
さらに、エチレン酢酸ビニル樹脂系ポリマー自体の分子構造にはセメントの水和反応を遅延させる官能基が存在し、ポリマーセメント系注入材の硬化および強度発現が阻害されるという問題がある。
【0005】
一方、上記以外のポリマーセメント系注入材として、ポリアクリル酸エステル樹脂系、スチレンブタジエン合成ゴム系、エチレン酢酸ビニル系、又は酢酸ビニルベオバアクリル共重合系のポリマーディスパージョンを用いたものがある。
ポリアクリル酸エステル樹脂系等のポリマーディスパージョンを用いたセメント系注入材は、耐水性に優れ且つポリマーの分子構造によってセメントの強度発現が阻害されることがないので、上述したような問題が生じる虞がない。
【0006】
しかしながら、ポリアクリル酸エステル樹脂ポリマーディスパージョンを用いた場合には、強度発現性に優れるが故に、硬化の初期に樹脂が皮ばりを起こし、さらに直射日光や通風過多などにより急激な乾燥を受ける場合には、完全硬化するまでに硬化体表面に所謂プラスチックひび割れを生じるという問題がある。
【0007】
また、前記いずれのポリマーセメント系注入材においても、セメントの乾燥収縮を完全に抑制するのは困難であり、2〜3週間から1〜2ヶ月後にかけてセメントの乾燥収縮に起因すると思われるひび割れの発生が見られることもある。このような乾燥収縮によるひび割れが発生すると、岩塊の接着作用が低下し、注入材本来の機能を低下させる虞がある。
【0008】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑み、施工直後および施工後数ヶ月経過した後にも施工面にひび割れを発生させることのない、安定した岩塊接着能を有するポリマーセメント系注入材を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、その解決手段は、岩ひび割れ注入材として使用されるポリマーセメント組成物であって、セメントと、ポリアクリル酸エステル樹脂系、スチレンブタジエン合成ゴム系、又は酢酸ビニルベオバアクリル共重合系のうち少なくとも1種のポリマーと、界面活性作用を有する有機系の収縮低減剤とを含有してなることを特徴とするポリマーセメント組成物にある。
【0010】
かかるポリマーセメント組成物によれば、有機系の収縮低減剤の主成分であるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエーテル、あるいはそれらの誘導体化合物等が、その収縮低減剤の本来の作用効果を発揮することによりセメントの乾燥収縮を防止する。
さらに、該収縮低減剤によって、セメントの乾燥収縮を抑制するだけでなく、その界面活性作用によって硬化過程の初期におけるポリアクリル酸エステル樹脂等のポリマーによる皮ばりを有効に防止し、初期の硬化過程における所謂プラスチックひび割れの発生を抑制するという予期せぬ効果を奏することができる。
【0011】
また、本発明は、前記ポリマーセメント組成物において、さらに繊維材料が含有してなるものにある。繊維材料が含まれている場合には、該繊維材料によっても乾燥収縮応力を分散させることができ、前記収縮低減剤と繊維材料との双方が相乗的に作用することよって極めて有効に乾燥収縮によるひび割れを抑制することが可能となる。
【0012】
また、本発明の手段は、前記ポリマーセメント組成物において、さらに膨張材が含有してなるものにある。膨張材が含まれている場合には、前記乾燥収縮の低減がより顕著となり、乾燥収縮によるひび割れをより効果的に防止することが可能となる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るポリマーセメント組成物について、より詳細に説明する。
【0014】
本発明において使用するポリマーとしては、ポリアクリル酸エステル樹脂系、スチレンブタジエン合成ゴム系、又は酢酸ビニルベオバアクリル共重合系のうち、少なくとも1種を使用することができる。
また、該ポリマーは、その使用形態については限定されない。従って、例えばディスパージョン状態となったものを現場において施工直前に混合するものや、該ポリマーを再乳化型の粉末として予めセメント等と混合しておき、水を添加して混練する際にディスパージョン状態となるものなど、いずれの形態でも使用することができる。
【0015】
該ポリマーの配合割合は、セメント100重量部に対して、3〜30重量部となるようにすることが好ましい。3重量部より少なければ、岩塊との付着強度の改善や粘度増加を抑制する効果が不十分であり、30重量部より多くしてもそれ以上の効果を得られず、かえってコスト高となる。
【0016】
また、収縮低減剤としては、アルコール系、低級アルコールアルキレンオキシド誘導体系、グリコール系、グリコールエーテル・アミノアルコール誘導体系、ポリエーテル系などの界面活性作用を有する有機系の化合物を使用することができる。
これらの収縮低減剤は、未反応水分の逸散を防止してセメント水和物の乾燥収縮を抑制するという効果を発揮する。さらに、どのような作用によるものかは、解明されていないが、ポリマーの皮ばりを防止する効果を発揮するものである。従って、該収縮低減剤を添加することにより、セメントおよびポリマーの双方に起因する収縮現象およびひび割れの発生を効果的に防止することが可能となる。
収縮低減剤の配合割合としては、セメント100重量部に対して、0.3〜6重量部となるようにすることが好ましい。0.3重量部より少なければ改善効果が不十分であり、6重量部より多くしても、それ以上の改善効果が得られずにかえってコスト高となる。
【0017】
また、本発明における繊維材料としては、ポリビニルアルコール(ビニロン)繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、アラミド繊維、炭素繊維および耐アルカリガラス繊維などを使用することができる。
かかる繊維材料が岩ひび割れ注入剤に含まれている場合には、収縮応力を分散させてひび割れの発生を抑制することができる。
中でも、ポリビニルアルコール繊維、ポリアミド繊維、ポリアクリロニトリル繊維および耐アルカリガラス繊維は、セメント水和物との化学的結合による極めて優れた付着性を有するものであるため、より好適に使用することができる。
【0018】
繊維材料の配合割合としては、セメント100重量部に対して、0.1〜1重量部となるようにすることが好ましい。0.1重量部より少なければ前記ひび割れ抑制効果が不十分であり、1重量部より多くしても、それ以上の効果が得られずにかえってコスト高となる。
【0019】
また、セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントや、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント等の各種混合セメント、または前記ポルトランドセメントに高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカヒューム、石灰石粉等の混和材を添加したセメントを使用することができる。
【0020】
また、本発明のポリマーセメント組成物には、前記各成分の効果を妨げない範囲において細骨材を添加することが好ましく、該細骨材としては、川砂、山砂、海砂、砕砂、石灰岩砂、寒水石などを使用することができる。
該細骨材の配合割合は、前記セメント100重量部に対して30〜300重量部の範囲とすることが好ましい。該範囲外であれば、注入材のフレッシュ時の作業性が悪化したり、或いは硬化後の物性が著しく変わってしまい、良好な注入材を得ることが困難となる。
【0021】
さらに、該ポリマーセメント組成物の水/セメント比は、強度発現性を考慮して20〜45%とすることが好ましく、該水/セメント比において注入剤としての流動性を確保するためには、流動化剤を添加することが好ましい。
流動化剤としては、リグニンスルホン酸塩系、ナフタレンスルホン酸塩系、メラミンスルホン酸塩系、ポリカルボン酸塩系の中から1種以上を選択して使用することができる。
該流動化剤の混合割合は、前記セメント100重量部に対して0.3〜3.0重量部となるように添加することが好ましい。0.3重量部より少なければ、注入時の作業性向上を十分に図ることができず、一方、3.0重量部より多く添加しても、それ以上の効果を得ることができず逆にコスト高となる。
【0022】
尚、本発明のポリマーセメント組成物には、必要に応じて他の化学混和剤、即ち増粘剤、消泡剤、金属アルミニウム系発泡剤などを添加しても良い。
【0023】
本発明にかかるポリマーセメント組成物は、従来知られている工法と同様の注入工法によって岩塊のひび割れや岩塊の間隙に注入することができる。即ち、まず初めに岩塊のひび割れや岩塊同士の間隙の周縁部に注入口を残しつつ目地材を充填する。そして、前記注入口より本発明にかかるポリマーセメント組成物を注入し、ひび割れや間隙の全体を該注入材で充填し、固化させる。
【0024】
ここでいう目地材としては、前記ポリマーセメント組成物の配合を調整することにより、具体的にはポリマーディスパージョンおよび混練水の量を減らして混練することにより、ポリマーセメント組成物より高粘度のスラリー状に調製した目地材を好適に使用することができる。
【0025】
このようにして、岩塊のひび割れや間隙は、前記ポリマーセメント組成物によって略完全に充填されることとなり、該注入材が固化することによって岩塊全体が一体化されたものとなる。
また、本発明にかかるポリマーセメント組成物は、上述したように、セメントの乾燥収縮だけでなく、ポリマーディスパージョンに起因する皮ばりやプラスチックひび割れをも効果的に抑制されたものである。従って、充填された注入材(硬化体)と岩塊との強固な接着状態が長期にわたって保たれることとなり、岩塊の崩落防止効果がより永続的に維持されることとなる。
【0026】
【実施例】
下記に示すセメント材料を使用し、表1に示す配合で実施例1〜3および比較例1〜3のポリマーセメント組成物を調製した。
(材料)
セメント:普通ポルトランドセメント、住友大阪セメント(株)製
流動化剤:メラニン系流動化剤、日本シーカ(株)製、シーカメントFF86/100
収縮低減剤:日本油脂(株)製、シュドックスE−40
繊維材料:ビニロン繊維、クラレ(株)製、RF−S602(6mm)
骨材:珪砂N40および珪砂N60(重量比3:2)
【0027】
【表1】
Figure 0003638894
【0028】
(試験1)
コンクリート板を用いて型枠(内寸:間口90cm×奥行30cm×厚み10cm)を作成し、これを模擬的に岩塊のひび割れと仮定して前記実施例および比較例のポリマーセメント組成物を充填し、5、20、35℃にて促進試験を行った。結果を表2に示す。
【0029】
【表2】
Figure 0003638894
【0030】
表2に示したように、PAE系およびSBR系のポリマーディスバージョンを添加した実施例1および2では、いずれの温度においてもひび割れが発生せず、一方、同じくPAE系およびSBR系のポリマーディスバージョンを添加した比較例1および2では、収縮低減材を添加しないために、いずれの温度においてもひび割れが発生した。
【0031】
(試験2)
前記実施例および比較例のポリマーセメント組成物について、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準じて凝結試験と、曲げおよび圧縮強度試験を行った。結果を表3に示す。
【0032】
【表3】
Figure 0003638894
【0033】
表3に示すように、EVA系のポリマーディスパージョンを用いた比較例1は、他のポリマーディスパージョンと比較して凝結時間が2倍以上かかることが明らかである。また、圧縮強度および曲げ強度の試験からも、EVA系のポリマーディスパージョンを用いた比較例1が、強度発現性に劣ることが明らかである。
【0034】
(試験3)
PAE系のポリマーディスパージョンを用いた実施例1および比較例2のポリマーセメント組成物を使用し、JIS A 1171「ポリマーセメントモルタルの試験方法」に準じて試験体を作製し、JIS A 1129「モルタル及びコンクリートの長さ変化試験方法」に準じて、打設の翌日を基長として乾燥収縮を測定した。結果を表4に示す。
【0035】
【表4】
Figure 0003638894
【0036】
表4に示すように、収縮低減材を添加した実施例1のポリマーセメント組成物によれば、8〜13週におけるセメントの乾燥収縮が比較例の約1/2に低減されており、なお且つ、硬化の初期(1日〜3日)の収縮についても効果的に低減されていることがわかる。
【0037】
【発明の効果】
以上のように、本発明に係るポリマーセメント組成物によれば、プラスチックひび割れと乾燥収縮の双方を効果的に抑制することができ、施工直後および施工後数ヶ月経過した後にも施行面にひび割れの発生を生じさせることがなく、安定した接着層を形成することができる。

Claims (3)

  1. 岩ひび割れ注入材として使用されるポリマーセメント組成物であって、セメントと、ポリアクリル酸エステル樹脂系、スチレンブタジエン合成ゴム系、又は酢酸ビニルベオバアクリル共重合系のうち少なくとも1種のポリマーと、界面活性作用を有する有機系の収縮低減剤とを含有してなることを特徴とするポリマーセメント組成物。
  2. さらに、繊維材料を含有してなることを特徴とする請求項1記載のポリマーセメント組成物。
  3. さらに、膨張材を含有してなることを特徴とする請求項1又は2記載のポリマーセメント組成物。
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