JP3638399B2 - 吸音部材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、空気伝送音を吸収する共鳴型吸音構造を有する吸音部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、騒音を発生するエンジン等が搭載された車両には、その騒音を吸収するための種々の吸音部材が用いられている。このような吸音部材として、例えば図7及び図8に示すものが知られている。この吸音部材は、全体が発泡ウレタン等の柔軟な多孔質発泡体で構成されており、一方の面に開口する導入通路51と該導入通路51の奥に形成され導入通路51よりも大きな断面積をもつ共鳴室52とからなる多数の空洞部5を有する。
【0003】
この吸音部材は、多数の空洞部5により構成された共鳴型吸音構造によって目的とする周波数の騒音を効果的に吸音することができるとともに、吸音部材を構成する多孔質発泡体自体で騒音を良好に吸音することができるので吸音性に優れる。
また、このような共鳴型吸音構造にあっては、図9に示すように、導入通路(孔、穴)61の断面積をS、導入通路61の長さをL、共鳴室62の容積をV、空気中の音速をCとするとき、空気中の共鳴周波数fnは下記の(式1)、(式2)により求められ、これにより目的の共鳴周波数fnがチューニングされる。
【0004】
fn=(C/2π)・√(μ/V) ……(式1)
μ=(L+0.8√S) ……(式2)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記従来の吸音部材は、この吸音部材の全体を構成する多孔質発泡体が発泡成形することにより形成される。しかし、この吸音部材は、導入通路51よりも大きな断面積をもつ共鳴室52を有することから、発泡成形を行う際の型抜きの関係から、分割形成された二つの半部材50a、50bを結合して製造される。そのため、多くの製造工数を必要とし、コスト高を招来する。
【0006】
また一方では、上記吸音部材は優れた吸音性を有するものの、更なる吸音性の向上が求められる。
本発明は上記実状に鑑み案出されたものであり、製造工数が少なく低コスト化を図り得るとともに、より吸音性に優れた吸音部材を提供することを解決すべき課題とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する請求項1記載の発明は、柔軟な多孔質発泡体からなり、一方の面に開口する導入通路と該導入通路の奥に形成され該導入通路よりも大きな断面積をもつ共鳴室とからなる多数の空洞部を有する吸音部材において、前記導入通路を形成する周壁面には、前記導入通路に沿って延び両端が前記一方の面と前記共鳴室に開口し、成型時に前記空洞部を形成する型の型抜きを容易にするスリットが設けられているという手段を採用している。
【0008】
請求項2記載の発明は、柔軟な多孔質発泡体からなり、一方の面に開口する導入通路と他方の面に開口する導出通路と前記導入通路及び前記導出通路の間に形成され前記導入通路及び前記導出通路よりも大きな断面積をもつ共鳴室とからなる多数の空洞部を有する吸音部材において、前記導入通路及び前記導出通路を形成する周壁面の少なくとも一方には、前記導入通路及び前記導出通路に沿って延び両端が前記一方の面又は前記他方の面と前記共鳴室に開口し、成型時に前記空洞部を形成する型の型抜きを容易にするスリットが設けられているという手段を採用している。
【0009】
請求項1及び請求項2記載の発明によれば、導入通路又は導出通路を形成する周壁面にスリットが設けられることによって、成形時に空洞部を形成する型を抜き出す際に、その通路の周壁部が弾性変形し易くなり、型抜きが容易になる。これにより、製造工数を低減し低コスト化が可能となる。
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明において、前記一方の面は凹凸状に形成されているという手段を採用している。
【0010】
本発明によれば、音が衝突する表面積が増大するので吸音部材自体の吸音性が向上する。
請求項4記載の発明は、請求項1乃至請求項3記載の発明において、前記スリットは十文字状に形成されているという手段を採用している。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
〔実施形態1〕
図1は本実施形態に係る吸音部材の斜視図であり、図2は図1のII−II線に沿う部分の断面図である。
【0012】
本実施形態の吸音部材は、例えば車両のエンジンルームの壁面などに取付けられ、エンジンから発生する騒音を低減するものである。この吸音部材は、図1及び図2に示すように、ウレタンを発泡倍率約10倍で発泡成形することにより厚板状に形成したウレタンフォームで構成されている。この吸音部材の一方の面(音源に対向して配置される面)には、方形ブロック状の凸部1aが縦方向及び横方向に等間隔毎に設けらており、隣り合う凸部1aの間には凹部1bが形成されている。
【0013】
そして、各凸部1a及び凹部1bの中央部には、一方の面の表面に開口し容積の異なる空洞部1がそれぞれ設けられている。各空洞部1は、一方の面に開口する導入通路11と、導入通路11の奥に形成され導入通路11よりも大きな断面積をもつ共鳴室12と、導入通路11を形成する周壁面に設けられ両端が一方の面と共鳴室12に開口する4本のスリット13とからなる。
【0014】
この共鳴型吸音構造を有する各空洞部1は、導入通路11及びスリット13の断面積S、導入通路11及びスリット13の長さL、共鳴室12の容積Vなどに基づいて前記(式1)、(式2)により、それぞれ低減を目的とする共鳴周波数fnにチューニングされている。
本実施形態の吸音部材は次のようにして作製される。先ず、吸音部材の発泡成形に用いる成形型を用意する。この成形型の一方の型面には、形成すべき各空洞部1と対応する形状をもつ軸状の中型が突設されている。
【0015】
次に、所定量のウレタン及び発泡剤等を配合してなるウレタン発泡材料を成形型のキャビティ内に注入して発泡成形を行う。これによりキャビティ内には、導入通路11、共鳴室12及びスリット13からなる多数の空洞部1を有するウレタンフォームが形成される。その後、形成されたウレタンフォームを成形型から取出して吸音部材の作製が完了する。
【0016】
なお、各空洞部1を形成する中型が型抜きされる際には、ウレタンフォームの弾性変形を利用して導入通路11から抜き出される。このとき、中型の先端にある共鳴室形成部分が導入通路11を通過する際には、導入通路11の周壁面に設けられた各スリット13の間部分の周壁部がスリット13の存在により容易に弾性変形するので、中型の共鳴室形成部分が容易に抜き出される。
【0017】
以上のように構成された本実施形態の吸音部材は、例えば車両のエンジンルームの壁面等に、導入通路11の開口している面がエンジンと対向するようにして取付けられる。
そして、エンジンから発生する騒音は、吸音部材の表面に衝突すると音エネルギを消失することにより吸音される。この場合、吸音部材の表面には、凸部1a及び凹部1bが設けられていることにより表面積が大きいため、吸音効率が良好となる。
【0018】
また、各空洞部1にチューニングされた共鳴周波数fnと同じ周波数の音がその導入通路11及びスリット13より共鳴室12に向かって進入すると、各共鳴周波数fnと同じ周波数の音は効果的に吸音される。
この場合、本実施形態の吸音部材には、導入通路11の周壁面にスリット13が設けられていることにより吸音効率が良好となる。これは、スリット13が設けられていることにより、音の進入する通路の幅間隔が狭くなったり、その通路の表面積が増大するため、音エネルギの消失を増大させるものと考えられる。なお、音の進入する通路が、導入通路11及びスリット13の断面積と同じ断面積の例えば円孔である場合と比較すると、その表面積は導入通路11及びスリット13からなる方が大きくなる。
【0019】
以上のように、本実施形態の吸音部材によれば、導入通路11を形成する周壁面に、導入通路11に沿って延び両端が一方の面と共鳴室12に開口するスリット13が設けられているため、発泡成形により形成する際に、空洞部1を形成する中型を容易に抜き出すことができるので、1回の成形工程により簡単に作製することができる。これにより製造工数を低減し低コスト化を図ることができる。
【0020】
また、本実施形態の吸音部材によれば、導入通路11の周壁面にスリット13が設けられていることにより、各空洞部1にチューニングされた共鳴周波数fnと同じ周波数の音を良好に低減することができ、吸音性を向上させることができる。
さらに、本実施形態の吸音部材は、音源に対向する面が凹凸状に形成され、音の衝突する表面積が増大されているので、吸音部材自体の吸音性を向上させることができる。
【0021】
なお、上記実施形態では、各導入通路11の周壁面に4本のスリット13が設けられているが、このスリット13の本数や断面形状は、各空洞部1の共鳴型吸音構造の共振周波数fnをチューニングする際に、適宜選択することができる。また、上記実施形態では、吸音部材を形成する多孔質発泡体としてウレタン発泡体が用いられているが、これに代わり、例えばゴム等のエラストマー発泡体や、ポリエチレン、塩化ビニール等の軟質樹脂発泡体を用いることができる。
【0022】
〔実施形態2〕
図3は本実施形態に係る吸音部材の断面図である。
本実施形態の吸音部材は、例えば車両のエンジンに連結された吸気管内に取付けられ、吸気管内を流通する空気によって伝送されてくる騒音を低減するものである。この吸音部材は、上記実施形態1のものと基本的構成は同じであるが、導入通路21の反対側に他方の面に開口する導出通路22及び第2スリット25を有する点で異なる。
【0023】
即ち、本実施形態の吸音部材は、図3に示すように、上記実施形態1と同様に発泡成形により形成した厚板状のウレタンフォームで構成されており、一方の面(音が伝送されてくる側の面)には凸部2a及び凹部2bが設けられている。そして、各凸部2a及び凹部2bの中央部に設けられた空洞部2は、一方の面に開口する導入通路21と、他方の面に開口する導出通路22と、導入通路21及び導出通路22の間に形成され導入通路21及び導出通路22よりも大きな断面積をもつ共鳴室23とからなる。
【0024】
そして、導入通路21を形成する周壁面には、両端が一方の面と拡張通路23に開口する4本の第1スリット24が上記実施形態1と同様に設けられている。また、第2通路22を形成する周壁面には、両端が他方の面と拡張通路23に開口する4本の第2スリット25設けられている。
この拡張室型吸音構造を有する各空洞部2は、第1通路21及び第1スリット24の断面積S、第1通路21及び第1スリット24の長さL、拡張通路23の容積Vなどに基づいて前記(式1)、(式2)により、それぞれ低減を目的とする共鳴周波数fnにチューニングされている。
【0025】
なお、本実施形態の吸音部材は、上記実施形態1と同様にして発泡成形により作製されるが、本実施形態の吸音部材には導出通路22及び第2スリット25が設けられていることに対応して、空洞部2の形成に用いる中型は形状が異なるものが用いられる。この場合でも、中型が型抜きされる際には、ウレタンフォームの弾性変形を利用して導入通路21から抜き出されるので、上記実施形態1の場合と同様に中型の共鳴室形成部分を容易に抜き出すことができる。
【0026】
以上のように構成された本実施形態の吸音部材は、例えば車両のエンジンに連結された吸気管内に、導入通路21の開口している面が流通する空気の上流側となるようにして取付けられる。
そして、吸気管内を流通する空気によって伝送されてくる騒音は、吸音部材の凹凸状に形成された表面に衝突することにより音エネルギを消失し、効率良く吸音される。また、各空洞部2にチューニングされた共鳴周波数fnと同じ周波数の音がその導入通路21及び第1スリット24より共鳴室23に向かって進入すると、各共鳴周波数fnと同じ周波数の音は効果的に吸音される。
【0027】
以上のように、本実施形態の吸音部材によれば、導入通路21を形成する周壁面に第1スリット24が設けられているため、製造工数を低減し低コスト化を図ることができるとともに、吸音性を向上させることができるなど、上記実施形態1の場合と同様に優れた効果を奏する。
なお、上記実施形態では、導入通路21及び導出通路22の両方に第1スリット4又は第2スリット25が設けられているが、成形時の型の抜き出し用に、少なくとも一方のスリットのみを設けるようにしてもよい。
【0028】
〔試験〕
本発明の優れた効果を確認するため、下記の4つの試験片1〜4を用意し、各試験片1〜4の吸音率を調べる試験を行った。
比較例としての試験片1は、ウレタンフォームにより厚さ30mm、直径99mmの中実円板形状に形成したものである。
【0029】
比較例としての試験片2は、図4に示すように、試験片1に対して、一方の面に開口する直径6mm、長さ10mmの導入通路31と、導入通路31の奥に連通して形成された直径60mm、高さ10mmの共鳴室32とからなる空洞部3を設けたものである。
比較例としての試験片3は、導入通路の直径を24mmとした以外は試験片2と同じものである。
【0030】
本発明品としての試験片4は、図5に示すように、試験片2に対して、導入通路41の周壁面に幅4mmの4本のスリット43を十文字状に形成したものである。導入通路41及びスリット43の断面積は試験片3の導入通路の断面積と同じである。
試験片1〜4の吸音率の測定は、垂直入射吸音率測定方法(JIS−A1405)に従って、100〜1600Hzの範囲で吸音率を測定した。その結果を図6に示す。
【0031】
図6から明らかなように、試験片1の場合は、吸音率が600Hz付近でピークとなるゆるやかな山形曲線を示し、最高吸音率は約0.5であった。したがって、試験片1ではそれほど良好な吸音効果が得られていない。
そして、試験片2の場合は、吸音率が500Hz付近でピークとなる急激に立ち上がる山形曲線を示し、最高吸音率は約0.75であった。この場合、400〜550Hzのやや狭い範囲ではあるが吸音率が0.5以上に上昇しており、空洞部の共鳴型吸音構造を有することによって良好な吸音効果が得られていることがわかる。
【0032】
そして、試験片3の場合は、吸音率が1000Hz付近でピークとなる急激に立ち上がる山形曲線を示し、最高吸音率は約0.9であった。この場合は、600Hz以上の範囲で吸音率が0.5以上に上昇しており、空洞部の共鳴型吸音構造を有することによって良好な吸音効果が得られていることがわかる。また、試験片3の最高吸音率は試験片2よりも高い。
【0033】
そして、試験片4の場合は、吸音率が1200Hz付近でピークとなる急激に立ち上がる山形曲線を示し、最高吸音率は約0.9であった。この場合は、550Hz以上の範囲で吸音率が0.5以上に上昇しており、空洞部の共鳴型吸音構造により試験片3と同等以上の吸音効果が得られた。
【0034】
【発明の効果】
請求項1及び請求項2記載の発明によれば、導入通路又は導出通路を形成する周壁面にスリットが設けられているため、成形時に空洞部を形成する型の型抜きが容易になるので、吸音部材を1回の成形工程により簡単に作製することができ、製造工数を低減し低コスト化を図ることができる。
【0035】
また、導入通路又は導出通路を形成する周壁面にスリットが設けられることによって、導入通路又は導出通路とスリットとにより形成される音の通路で、音エネルギを良好に吸収して吸音率を向上できるため、より一層吸音性を向上させることができる。
そして、請求項3の発明によれば、吸音部材の一方の面が凹凸状に形成されていることにより、音が衝突する表面積が増大するので吸音部材自体の吸音性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態1に係る吸音部材の斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿う部分の断面図である。
【図3】本発明の実施形態2に係る吸音部材の断面図である。
【図4】試験における試験片2の構造を示す断面図である。
【図5】試験における試験片4の構造を示す断面図である。
【図6】試験における各試験片の吸音率の測定結果を示すグラフである。
【図7】従来の吸音部材の断面図である。
【図8】従来の吸音部材の平面図である。
【図9】共鳴型吸音構造を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
1、2、3、5…空洞部 1a、2a…凸部 1b、2b…凹部
11、21、31、41、51、61…導入通路
12、23、32、52、62…共鳴室 13、43…スリット
22…導出通路 24…第1スリット 25…第2スリット
Claims (4)
- 柔軟な多孔質発泡体からなり、一方の面に開口する導入通路と該導入通路の奥に形成され該導入通路よりも大きな断面積をもつ共鳴室とからなる多数の空洞部を有する吸音部材において、
前記導入通路を形成する周壁面には、前記導入通路に沿って延び両端が前記一方の面と前記共鳴室に開口し、成型時に前記空洞部を形成する型の型抜きを容易にするスリットが設けられていることを特徴とする吸音部材。 - 柔軟な多孔質発泡体からなり、一方の面に開口する導入通路と他方の面に開口する導出通路と前記導入通路及び前記導出通路の間に形成され前記導入通路及び前記導出通路よりも大きな断面積をもつ共鳴室とからなる多数の空洞部を有する吸音部材において、
前記導入通路及び前記導出通路を形成する周壁面の少なくとも一方には、前記導入通路及び前記導出通路に沿って延び両端が前記一方の面又は前記他方の面と前記共鳴室に開口し、成型時に前記空洞部を形成する型の型抜きを容易にするスリットが設けられていることを特徴とする吸音部材。 - 前記一方の面は凹凸状に形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の吸音部材。
- 前記スリットは十文字状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3記載の吸音部材。
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