JP3635887B2 - インバータ装置のトルクブースト方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、汎用インバータで誘導電動機をV/f制御するインバータ装置のトルクブースト方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
誘導電動機をV/f制御するインバータ装置は、V/f一定制御(図13のc)で始動すると、モータの一次抵抗による電圧降下によって十分な磁束が確立せず、トルクが発生できない。これに対し、始動トルクを得る手段として出力周波数によって比例推移するような電圧ブースト方法(図13のa)がある。
【0003】
この電圧ブースト方式(以下マニュアルブーストという)は、ブースト電圧(図13のb)をより大きくすれば、モータ内の磁束が多くなり、より大きな始動トルクを得ることができる。しかし、実際には、磁気飽和による過大な励磁電流が流れることや、インバータ素子の過電流制限リミッタの制約がああること等により、単純にブースト電圧を大きくするわけにはいかない。また、常時過励磁の状態にあるので、運転効率も低下することになる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来のマニュアルブースト方式は、十分なトルクを得るためには常時過励磁にしておかなくてはならず、運転効率が悪い。また、どれだけ電圧をブーストしてよいか明確でなかったため、ブースト量は試行錯誤的に決定されてきた。
【0005】
この発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、トルクが必要な時に電圧をブーストしうるインバータ装置のトルクブースト方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この発明は、周波数指令と、この周波数指令をV/f変換した電圧にマニュアルブースト電圧を加えた電圧指令とによりPWMインバータを制御して誘導電動機を駆動するインバータ装置において、誘導電動機のトルク電流を検出し、上記周波数指令とトルク電流から最大トルクブースト処理によりトルク電流に比例した最大トルクブースト量を求め、これを前記電圧指令に加えて上記PWMインバータを制御し、トルク0からリニアに200%近いトルクの出力を可能とする。
【0007】
上記最大トルクブースト処理は、図7に示す手順で行う。(発明の原理)
(1)最大ブーストリミッタ計算(101)
ブースト量は、図8(a)に示すように出力周波数に対して低減特性を持たせている。ここで、出力周波数がゼロのとき最大ブーストリミッタ値(BST_MAX)は、磁気飽和関数から求めたトルク推定量である。
【0008】
また、電圧余裕を考えると、低い周波数ではよりブーストできるため、ブースト量を図8(b)に示すように低周波数でトルクを重視したものとすることもできる。
【0009】
(2)最大ブーストブースト量計算(102)
最大トルクブースト量は、トルク電流の関数として求められる。このブースト関数は、トルク電流に対して、比例や二乗算の関数を取ることができる。
ブースト量=ブーストゲイン×ブースト関数(トルク電流)
1)比例関数
ブースト関数=トルク電流
この場合、ブースト量は図9(a)のようにトルク電流に比例する。
【0010】
2)オフセット関数
この場合、ブースト量は図9(b)のようにトルク電流値(BST_OFST)以上で出力する。
【0011】
3)二乗関数
ブースト関数=(トルク電流)2
この場合、ブースト量は図9(c)のようにトルク電流の二乗に比例する。
【0012】
(3)クッション処理(103)
上記のブースト量を瞬時に行うと、電流検出のノイズ等の影響を受けたり瞬時的に過補償になることで、不安定になる。よって上記(2)で求めたブースト量を目標値としてクッション処理を行う。クッションは二次時定数よりも大きな値を設定する。
【0013】
(4)リミット処理(104)
上記(3)のクッション処理が終了し、トルクブースト量が定まったら、上記(1)で求めたリミット値を用いてリミットし最終的なブースト量を求める。ただし、最大トルクブーストは、従来のマニュアルトルクブーストと連動して動値しなければならず、最大トルクブースト量の実際値は以下のようになる。
最大トルクブースト値(MAXBST)=MIN(ブースト計算値、リミット値)−マニュアルブースト値(DV_BST)
この場合の電流ベクトル図とブースト量との関係を図10に示す。
【0014】
〔最大トルクブーストゲイン決定方法〕
すなわち、最大トルクブーストは、トルク電流値により電圧をブーストし、負荷トルクによるトルク電流軌跡を図11のように従来通常時よりd軸(磁束軸)方向に寄せて補償するものである。
【0015】
よって、最大トルク点が分かれば、T−II型モータの等価回路(図14)における、ブースト量最大のときの励磁電流増加分ΔI0が図12のように求められる。ここで最大トルク点での電流成分を、
Id_MAX:d軸成分、Iq_MAX:q軸成分
とすると、励磁電流増加分ΔI0は以下のように求められる。
【0016】
よって、トルク電流がIq_MAXのとき、励磁電流がΔI0だけ増加する分の電圧をブーストすればよい。ただし、励磁電流の増加に伴う磁気飽和の影響を考慮しなくてはならない。
【0017】
【発明の実施の形態】
実施の形態1
図1について、1は電圧指令と周波数指令に基づいてPWM出力するインバータ、2はインバータで駆動される誘導電動機(モータ)、3はモータ2の入力電流を検出するCT、11は周波数指令を緩衝するクッション回路、12はクッション回路からの周波数指令を電圧に変換する周波数−電圧変換器、13はこの電圧からマニュアルブースト電圧(図13)を得るマニュアルブースト回路、14はCT3で検出した電流からトルク電流を得るトルク電流検出回路。
【0018】
151はクッション回路11からの周波数指令とトルク電流検出回路14からのトルク電流を取り入れ、図7のフローにより、最大ブーストリミッタ計算し、比例関数(図9(a))による最大ブーストブースト量を計算し、最終的に最大トルクブースト量を計算する最大トルクブースト処理回路、17はマニュアルブースト回路13からのマニュアルブースト量と最大トルクブースト処理回路151からの最大トルクブースト量を加算する加算器、19は周波数−電圧変換器12からの電圧に加算器17からの最大トルクブースト値を加え最大トルクブースト方式による電圧指令をPWMインバータ1に出力する加算器である。
【0019】
この実施の形態1によれば、最大トルクブースト処理回路151によりトルク電流検出値の比例関数として図9(a)のように比例関数として最大トルクブースト値を決定できる。したがって、マニュアルブースト回路13のブースト値を常時過励磁とならないように設定しておくことで、常時過励磁となることなくトルクを必要とする時のみ最大トルクとなるようにインバータ1を制御することが可能となる。
【0020】
実施の形態2
図2について、152はクッション回路11からの周波数指令とトルク電流検出回路14からのトルク電流を取り入れ、図7のフローにより、最大ブーストリミット値を計算し、オフセット関数(図9(b))による最大ブーストブースト量を計算し、最終的に最大トルクブースト量を計算する最大ブースト処理回路である。なお、その他の回路構成は上記図1と変わりがないので、同一構成部分に同一符号を付してその重複する説明を省略する。
【0021】
この実施の形態2によれば、最大トルクブースト処理回路152によりトルク電流検出値のオフセット関数として図9(b)のように、最大トルクブースト値を決定できる。この場合、トルク電流検出がゼロ付近にある(トルクが必要ない)場合のブースト電圧を低減できる。
【0022】
実施の形態3
図3について、153はクッション回路11からの周波数指令とトルク電流検出回路からのトルク電流を取り入れて図7のフローにより、最大ブーストリミット値を計算し、二乗関数(図9(b))による最大ブーストブースト量を計算し、最終的に最大トルクブースト量(図9(c))を算出する最大トルクブースト処理回路である。その他の回路は上記図1と変わりがない。
【0023】
この実施の形態3によれば、最大トルクブースト処理回路153によりトルク電流検出値の二乗関数として図9(c)のように最大トルクブースト量を決定できる。この場合、ブースト電圧の不連続性が解消し、トルクの連続性が保たれる。
【0024】
実施の形態4
図4について、18は加算器17と19との間に設けられたリミッタで、そのリミッタ値は、最大トルクブースト処理回路15(151〜153)で求めた出力周波数ゼロのときの最大ブーストリミッタ値(BST_MAX)となっている(図8(a))。その他の回路は上記図1〜図3と変わりがない。
【0025】
この実施の形態4によれば、最大トルクブースト処理回路15により求めた出力周波数ゼロのときの最大ブーストリミッタ値、即ち、モータ2の磁気飽和関数から求めたトルク推定値が最大となるときの電圧ブースト量となっているので、磁気飽和による過大な励磁電流が流れるのを防止できる。
【0026】
実施の形態5
上記図4の回路において、その最大ブースト処理回路15に、上記〔最大トルクブーストゲイン決定方法〕(図11,図12)により、最大ブースト点が最大トルク点と一致するようにブースト関数を設定した。
【0027】
この実施の形態5によれば、最大ブースト点が最大トルク点と一致するので、モータ特性における最大出力が可能となる。
【0028】
実施の形態6
図5について、この回路は、最大ブースト回路15と加算器17との間にブースト量を目標値としてクッション処理を行うクッション回路16を設けたものである。その他の構成は図4のものと変わりがない。
【0029】
この実施の形態によれば、トルク電流の急激な変動が生じて最大ブースト回路15のブースト電圧が急変し不安定となった場合でも、ブースト電圧変動がクッション回路16によりクッション処理され安定化されるので、トルク出力が安定化する。
【0030】
実施の形態7
図6について、この回路は、上記図4の加算器17と19との間に設けられているリミッタ181に代えて図8(b)のように低周波で加算器19から出力されるブースト値を制限する可変リミッタ182を用い、電圧飽和対策のための出力周波数による低減特性が得られるようにしたものである。
【0031】
【発明の効果】
この発明は、上述のとおり構成されているので、下記の効果を奏する。
【0032】
(1)請求項1〜5によれば、電圧ブースト量をトルク電流検出値の関数として決定することができる。
【0033】
(2)請求項3によれば、トルクの必要のないトルク電流検出値がゼロ付近にある場合のブースト電圧を低減できる。
【0034】
(3)請求項4によれば、ブースト電圧の不連続性を解消し、トルクの連続性を保つことができる。
【0035】
(4)請求項5によれば、モータ特性における最大トルクの出力が可能となる。
【0036】
(5)請求項6によれば、モータの磁気飽和による過大な励磁電流を防止できる。
【0037】
(6)請求項7によれば、電圧飽和対策のため、出力周波数による低減特性を持たせることができる。
【0038】
(7)請求項8によれば、トルク電流が急激に変動してもトルクを安定に出力することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施の形態1にかかるブースト方式を示す制御ブロック図。
【図2】実施の形態2にかかるブースト方式を示す制御ブロック図。
【図3】実施の形態3にかかるブースト方式を示す制御ブロック図。
【図4】実施の形態4にかかるブースト方式を示す制御ブロック図。
【図5】実施の形態6にかかるブースト方式を示す制御ブロック図。
【図6】実施の形態7にかかるブースト方式を示す制御ブロック図。
【図7】最大トルクブーストモジュールの処理フロー図。
【図8】(a)出力周波数による最大トルクブースト特性図、
(b)低周波数でのトルクを重視した場合の最大トルクブースト特性図。
【図9】(a)比例関数による最大トルクブースト特性、
(b)オフセット関数による最大トルクブースト特性、
(c)二乗関数による最大トルクブースト特性。
【図10】電流ベクトル図とブースト量の関係。
【図11】最大トルクブーストによる電流ベクトル軌跡。
【図12】励磁電流増加分の計算方法を示す線図。
【図13】従来マニュアルブースト概要説明図。
【図14】T−II型モータの等価回路図。
【符号の説明】
1…インバータ
2…誘導電動機(モータ)
3…CT(電流検出器)
11…クッション回路
12…V/f変換器(周波数−電圧変換器)
13…マニュアルブースト回路(マニュアルブースト処理手段)
14…トルク電圧検出回路
15,151〜153…最大ブースト処理回路(最大ブースト処理手段)
16…クッション回路
181,182…リミッタ
BST_MAX…ブースト最大値
FTRO…基底周波数
MAXBST_GN…最大ブーストゲイン
BST_OFST…ブーストオフセット周波数
Id_MAX…最大トルク点でのd軸電流成分
Iq_MAX…最大トルク点でのq軸電流成分。
Claims (7)
- 周波数指令値と、この周波数指令値を周波数−電圧変換器で変換した電圧にブースト電圧を加えた電圧指令値とに基づいて誘導電動機を駆動するインバータ装置のトルクブースト方法において、
前記周波数指令値を変換した電圧からマニュアルブースト値を得るマニュアルブースト処理手段と、
誘導電動機の制御出力周波数がゼロ時で磁気飽和関数から求めたトルク推定量を最大ブーストリミットとして出力周波数に対して低減特性を持たせ、誘導電動機のトルク電流検出値から前記最大ブーストリミットを最大とした所定のブースト関数で最大トルクブースト量を計算し、前記周波数指令値とこのブースト量から出力周波数における最大トルクブースト値を計算する最大トルクブースト処理手段を設け、この最大トルクブースト処理手段での前記ブースト関数を比例関数として最大トルクブースト値を算出し、前記周波数指令値を変換した電圧に前記マニュアルブースト値と最大トルクブースト値を加算して電圧指令値としたことを特徴とするインバータ装置のトルクブースト方法。 - 周波数指令値と、この周波数指令値を周波数−電圧変換器で変換した電圧にブースト電圧を加えた電圧指令値とに基づいて誘導電動機を駆動するインバータ装置のトルクブースト方法において、
前記周波数指令値を変換した電圧からマニュアルブースト値を得るマニュアルブースト処理手段と、
誘導電動機の制御出力周波数がゼロ時で磁気飽和関数から求めたトルク推定量を最大ブーストリミットとして出力周波数に対して低減特性を持たせ、誘導電動機のトルク電流検出値から前記最大ブーストリミットを最大とした所定のブースト関数で最大トルクブースト量を計算し、前記周波数指令値とこのブースト量から出力周波数における最大トルクブースト値を計算する最大トルクブースト処理手段を設け、この最大トルクブースト処理手段での前記ブースト関数を二乗関数として最大トルクブースト値を算出し、前記周波数指令値を変換した電圧に前記マニュアルブースト値と最大トルクブースト値を加算して電圧指令値としたことを特徴とするインバータ装置のトルクブースト方法。 - 周波数指令値と、この周波数指令値を周波数−電圧変換器で変換した電圧にブースト電圧を加えた電圧指令値とに基づいて誘導電動機を駆動するインバータ装置のトルクブースト方法において、
前記周波数指令値を変換した電圧からマニュアルブースト値を得るマニュアルブースト処理手段と、
誘導電動機の制御出力周波数がゼロ時で磁気飽和関数から求めたトルク推定量を最大ブーストリミットとして出力周波数に対して低減特性を持たせ、誘導電動機のトルク電流検出値から前記最大ブーストリミットを最大とした所定のブースト関数で最大トルクブースト量を計算し、前記周波数指令値とこのブースト量から出力周波数における最大トルクブースト値を計算する最大トルクブースト処理手段を設け、この最大トルクブースト処理手段での前記ブースト関数をオフセット関数として最大トルクブースト値を算出し、前記周波数指令値を変換した電圧に前記マニュアルブースト値と最大トルクブースト値を加算して電圧指令値としたことを特徴とするインバータ装置のトルクブースト方法。 - 前記ブースト関数を最大ブースト点が最大トルク点と一致するように設定したことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載のインバータ装置のトルクブースト方法。
- 前記周波数指令値を変換した電圧に加算するブースト値を、周波数ゼロにおける前記最大ブーストブースト値をリミッタ値として制限することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載のインバータ装置のトルクブースト方法。
- 前記周波数指令値を変換した電圧に加算するブースト値を制限する可変リミッタを設け、電圧飽和対策のため出力周波数によるトルクブースト特性に低減特性を持たせたことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載のインバータ装置のトルクブースト方法。
- 前記最大トルクブースト処理手段からの最大トルクブースト値にその最大ブースト処理手段で求めたブースト量を目標としてクッション処理を加えたことを特徴とする請求項5又は6記載のインバータ装置のトルクブースト方法。
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