JP3635848B2 - 方向性けい素鋼板の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、方向性けい素鋼板の製造方法に関し、とくに該鋼板をコイル状態で高温仕上げ焼鈍する場合に、コイル受け台と接する側のコイル端部において懸念される座屈歪みの発生を効果的に防止しようとするものである。
【0002】
【従来の技術】
方向性けい素鋼板は、所定の成分組成に調整した鋼スラブを、熱間圧延したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施し、ついで脱炭焼鈍後、焼鈍分離剤を塗布・乾燥してから、張力の付与下にコイルに巻き取り、その後所定の雰囲気ガス中で最終仕上げ焼鈍を施すことによって製造される。
【0003】
上記の仕上げ焼鈍は、鋼帯コイルを、その巻き取り軸心を水平面に対して垂直にして焼鈍炉内に設置した状態で、長時間実施することから、コイル受け台と接する側のコイル端部には側歪み(座屈歪み)と呼ばれる歪みが発生する。この傾向は特に厚みが0.30mm以下の薄物材に多い。
このようなコイル側縁部における歪みの発生は、方向性けい素鋼板が積層して使用されることから、磁気特性および加工性の両面で大きな障害となる。
従って、このような側縁部における歪みの発生は極力低減する必要がある。
【0004】
従来、かかるコイル側縁部における歪みの軽減策として、たとえば特開昭55−110721号公報では、ボックス焼鈍の前に塗布する焼鈍分離剤の量をコイル側縁部で増大させることによって、側縁部における変形を小さくする方法を提案している。
しかしながら、コイル側縁部における焼鈍分離剤の量が多いと製品に被膜欠陥が生じ易くなるという問題があった。
【0005】
また、特開昭58-61231号公報では、コイル受け台上に焼鈍される鋼帯コイルと同じ材質の敷板を置き、その上に鋼帯コイルを設置して、鋼帯コイルの下端部における歪み発生を防止する方法を提案している。
上記の方法では、被処理材がけい素鋼の場合には敷板の材質はSi鋼となるが、Si鋼をはじめとするフェライト鋼は高温での熱間強度が非常に低く、そのため高温での焼鈍時にコイル端面が敷板に食い込み易いことから、コイルの敷板とのわずかな熱膨張係数の差に起因して歪みが発生するという問題があった。
【0006】
さらに、特開昭62-56526号公報では、コイルとコイル受け台との間に該コイルよりもかたく巻いたフープコイルを設置する方法を提案している。
この方法もそれなりに有効ではあるが、フープコイルはわずか数回の焼鈍で座屈するため、頻繁な取り替えを必要とし、コストの上昇が著しいことと、焼鈍中フープコイルの座屈が起ると製品コイルに大きな歪みが発生するところに問題を残していた。
【0007】
その他、特開平2-97622号公報では、コイル端面の焼鈍前における結晶粒径を15μm 以上とすることによって、歪みの発生を防止する方法を提案している。
この方法では、下端面での座屈歪みを軽減することはできるけれども、コイル端部の磁気特性を著しく劣化させてしまうという問題があった。
また、特開平5−179353号公報では、コイルとコイル受け台との間に、0.2 wt%以上のCを含有しかつ変態点を有する鋼材を敷板として介挿させた状態で高温仕上げ焼鈍を行う方法を提案している。
この方法も、かなりの低減効果を示すものの、高温で2次再結晶を起こさせる成分設計(例えばAl系等)を用いた場合はあまり有効ではなかった。
特開昭63−100131号公報では、仕上げ焼鈍前のけい素鋼板の片側端部に細粒化剤を付着させ、この部分を下側にして仕上げ焼鈍を行う方法を提案している。
この方法では、コイル側端部の2次再結晶粒を細粒化することによる端部形状の改善を目指しているが、高温域では変形要因として粒界すべりが支配的であるため、2次粒が細粒である場合には、下端部形状は逆に劣化しがちとなるという問題があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上述したとおり、従来の方法はいずれも、実用上十分とは言えず、それぞれ解決すべき課題を残していた。
この発明は、上記の課題を有利に克服するもので、コイル状態での高温焼鈍において懸念されたコイル下端部における歪みの発生を有利に回避して、製品歩留りを大幅に向上させると共に、製品の形状をより平坦にすることよって変圧器における磁気的特性の劣化を効果的に防止することができる、方向性けい素鋼板の有利な製造方法を提案することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
以下、この発明の解明経緯について説明する。
脱炭焼鈍板の結晶粒径が小さい場合には、高温域で結晶粒界すべりが起き易く高温クリープ強度が小さいため、高温での変形が促進されることは前述したとおりである。
従って、2次再結晶して粗大化した2次再結晶粒は高温域でも変形し難いが、2次再結晶することなく高温域に突入した2次再結晶不良部は変形が起き易く、これがコイル下端部での形状欠陥の原因となる。
【0010】
ところで、近年開発されたAlN等を含有する材料は、強力なインヒビターを用いて2次再結晶開始温度を 950〜1000℃程度にまで高めることによってゴス方位を先鋭化し高磁束密度を達成しているが、このような材料においては、2次再結晶不良が生じない場合であっても形状欠陥が生じ易い。
また、この形状欠陥はコイルの最外側で顕著であり、内側に向かうに従って徐々に減少することが判明している。
【0011】
上記したような2次再結晶開始温度が高い材料では、粒径の小さい1次粒のままで高温領域に移行するため、結果的に2次再結晶が良好に進行する部分であっても、2次再結晶に先立って前述した粒界すべりによって変形が起ることが原因で形状欠陥が発生するものと予想される。
従って、2次再結晶開始温度の高い磁性の良好な材料で、とくに形状欠陥が生じ易いといえる。
【0012】
また、コイルの最も外側の部分は、コイル受け台の熱変形の影響を受け易い部分であるため、仕上げ焼鈍中の最も早い時期に変形・座屈をし始めると共に、コイル外巻き部分での支持を失ったコイルは変形領域を徐々に半径方向内側に拡大して行くため、下端部での歪みは広範囲に及ぶものと推定される。
【0013】
以上のような知見をもとに、発明者らは、
(1) 2次再結晶が低温で始まる場合にはコイル下端部での歪みが少ない、
(2) 仕上げ焼鈍中の早い時期に発生するコイル外巻き部における歪みを軽減することができればコイル全体の歪みを減少させることができる、
との新しい技術思想に基づいて、形状欠陥の少ない方向性けい素鋼板の製造方法について、鋭意研究を重ねた結果、この発明を完成させるに至ったのである。
【0014】
すなわち、この発明は、含けい素鋼スラブを、熱間圧延し、ついで1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施した後、脱炭焼鈍し、ついでコイルに巻き取ってから、該コイルをその軸心が水平面に対して垂直となる向きに設置して最終仕上げ焼鈍を施すことによって方向性けい素鋼板を製造するに当たり、
鋼帯コイルの最外側からの巻き厚み比率で 0.2〜3.0 %に相当する部分をコイル外巻き部分、残りをコイル内巻き部分とするとき、最終仕上げ焼鈍におけるコイル外巻き部分の平均2次再結晶開始温度を、コイル内巻き部分の平均2次再結晶開始温度の0.95倍以下とすることを特徴とする方向性けい素鋼板の製造方法(第1発明)である。
【0015】
また、この発明は、含けい素鋼スラブを、熱間圧延し、ついで1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施した後、脱炭焼鈍し、ついでコイルに巻き取ってから、該コイルをその軸心が水平面に対して垂直となる向きに設置して最終仕上げ焼鈍を施すことによって方向性けい素鋼板を製造するに当たり、
鋼帯コイルの最外側からの巻き厚み比率で 0.2〜3.0 %に相当する部分をコイル外巻き部分、残りをコイル内巻き部分とするとき、仕上げ焼鈍直前におけるコイル外巻き部分の平均1次粒径を、コイル内巻き部分の平均1次粒径の0.90倍以下とすることを特徴とする方向性けい素鋼板の製造方法(第2発明)である。
【0016】
この発明において、2次再結晶開始温度とは、仕上げ焼鈍中に2次再結晶粒が発生・成長し始める温度とする。
また、仕上げ焼鈍には、一定温度に保持した状態で鋼板素材を2次再結晶させる場合と、温度上昇中に2次再結晶させる場合が存在するが、前者では脱炭焼鈍板を種々の温度で保持したとき2次再結晶粒が発現した最低の温度を2次再結晶開始温度と定義し、後者では鋼板素材の昇温過程において2次再結晶し始めた温度を2次再結晶開始温度と定義する。
【0017】
【発明の実施の形態】
この発明は、コイルの最も外側の数層〜数十層に相当する部分の2次再結晶開始温度を低下させることによって、特にコイル外巻き部での座屈歪みを抑制し、さらに、コイル外巻き部での座屈歪みの抑制により、この歪みがより高温域でコイル内部まで伝搬することを防止し、結果として、コイル全長にわたる平均的な歪みレベルを軽減するものである。
【0018】
ここに、コイル外巻き部分の2次再結晶開始温度を低下させる手段としては、例えば仕上げ焼鈍中にコイル外巻き部分のみのインヒビター強度を弱める、コイル外巻き部分のゴス強度を強化するといった手法が考えられる。
【0019】
また、この発明では、脱炭焼鈍板の1次粒径を部分的に変化させる(ひいては2次再結晶開始温度を有効に変化させる)ことによっても、所期した目的を達成することができる。
すなわち、脱炭焼鈍板の粒径が小さい場合には、2次再結晶は低温で開始することが知られており、仕上げ焼鈍直前のコイルにおいて、外巻き部分の1次粒径を小さくすることによって、この部分の2次再結晶開始温度を低下させ、前述のような機構によりコイルの座屈歪みを低減することができるのである。
ここに、脱炭焼鈍板の1次粒径の低減方法としては、鋼帯の中間焼鈍温度を仕上げ焼鈍コイルにおいて外側になる部分で低下させる等の方法がある。
【0020】
さらに、2次再結晶開始温度をコイル外巻き部分と内巻き部分で変化させる方法としては、2次再結晶温度を変化させる薬剤を焼鈍分離剤中に混合させる方法も有効である。
すなわち、Mg2SO4などの物質を焼鈍分離剤中に混合させてやると、2次再結晶開始温度が上昇することが知られている。従って、脱炭焼鈍後のコイル全長にわたり1次粒径を低下させるなどの方法により、通常条件における2次再結晶開始温度を低下させておき、コイルの内巻き部分には2次再結晶開始温度を高める物質を混合した焼鈍分離剤を塗布する一方、コイルの外巻き部分にはこのような物質を含まない通常の焼鈍分離剤を塗布してやれば、コイル外巻き部分についてのみ2次再結晶の開始を早めてやることができる。
ここに、コイル全長にわたり、2次再結晶開始温度を予め低下させる方法としては、コイル全長にわたる中間焼鈍温度を低下させる等の方法がある。
【0021】
以下、この発明を具体的に説明する。
この発明において、コイルの外巻き部分を、巻き厚み比率(コイルの全巻き厚さに対する対象部分の巻き厚さの比率)で 0.2〜3.0 %の範囲に定めたのは、2次再結晶開始温度や1次粒径の制御領域が、コイル最外側から厚み比率で 0.2%に満たないと、コイルの支持効果が得られず、ひいては十分満足いくほどの座屈歪み低減効果が得られず、一方 3.0%を超えると、座屈歪み低減効果が飽和に達するだけでなく、2次再結晶開始温度の低下領域では結晶方位が分散して2次結晶粒が生じ易いため、この領域が過度に増えると製品の磁気特性を低下させるおそれが生じるからである。
なお、コイルの外巻き部分における多少の磁気特性の劣化による不利益は、コイル下部の形状欠陥による歩留まり低下や、広幅の製品が恒常的に得られないことによる不利益に比べると極めて小さく、全体として極めて大きな利益を上げることができるといえる。
【0022】
また、コイルの内巻き部分に対する外巻き部分の2次再結晶開始温度を、内巻き部分の平均2次再結晶開始温度をTSrとしたとき、0.95×TSr以下としたのは、両者の温度差が5%未満ではこの発明で所期したほど十分なコイル外側部分での座屈歪み低減効果が得られないからである。
内巻き部分の平均1次粒径をDとしたとき、外巻き部分の平均1次粒径を0.90×D以下、すなわちコイルの外巻き部分と内巻き部分における平均1次粒径の差を10%以上としたのも、同様の理由による。
【0023】
次に、この発明の好適素材成分について述べる。
C:0.005 〜0.080 wt%
Cは、変態を利用して熱延組織を改善するのに有用な元素であり、少なくとも0.005 wt%を必要とするが、0.080 wt%を超えると脱炭焼鈍において脱炭不良を起こすので、C量は 0.005〜0.080 wt%程度とするのが好ましい。
【0024】
Si:2.0 〜5.0 wt%
Siは、電気抵抗を高めて鉄損を低下させる主要な元素であり、少なくとも2.0 wt%を必要とするが、5.0 wt%を超すと冷延が困難となるので、 2.0〜5.0 wt%程度とするのが好ましい。
【0025】
Mn:0.03〜0.20wt%
Mnは、鋼の熱間加工性の改善に有効に寄与するだけでなく、SやSeを混在させてやると、MnSやMnSe等の析出物を形成しインヒビターとして機能を発揮するので、0.03〜0.20wt%の範囲で添加することが好ましい。
【0026】
また、インヒビター形成元素として、上記組成の鋼にAl, N,S,Seを添加することも良好な磁気特性を得るために有効である。
鋼中にAlとNを含有させることにより、AlNとして析出し、インヒビターとして作用して正常粒成長を抑制する効果がある。このときAlについてはsol.Alとして、 0.010〜0.120 wt%の範囲で含有させることが、またNとしては 0.005〜0.015 wt%程度含有させることが望ましい。AlNをインヒビターとして使用した素材では、特に2次再結晶開始温度が高く、良好な磁気特性が得られるのに対し、前述の機構によりコイル下部での座屈歪みが増加する傾向にある。従って、この発明でのコイル外巻き部分についての2次再結晶開始温度の低下が、形状欠陥改善に有効に作用する。
同様にSやSeも、MnSやMnSe等として析出し、インヒビターとして機能する。好適含有量はそれぞれS:0.005 〜0.020 wt%、Se:0.01〜0.04wt%である。
【0027】
以上、主要成分について説明したが、この他にも抑制力の補強のために以下の元素を添加することができる。すなわち、抑制力補強元素として、Sb, Bi, Mo, Cu, P,Snなどを添加してもよい。
Sb, Biは、粒界に偏析して抑制力を高める効果を有し、またMoは2次粒の核をゴス方位に先鋭化させる効果を有し、いずれも 0.001〜0.20wt%の範囲でその効果が顕著である。
Cuは、Mnと同様、SeやSと結合して、析出物を形成し抑制力を高める元素であり、その効果は0.01〜0.30wt%の範囲で顕著である。
Pは、Sbと同様、粒界に偏析して抑制力を高める元素であるが、0.010 wt%未満ではその添加効果に乏しく、一方0.030 wt%を超えると磁気特性、表面正常を不安定化させるので、 0.010〜0.030 wt%とする。
【0028】
上記の抑制力補強元素の添加によって2次再結晶開始温度が高まるため、このような材料では、この発明を適用することで最終焼鈍時に発生する形状欠陥を有効に低減することが可能である。
なお上記の各成分において、C, S, Se, N, Al等は各機能を果たしたのち、Cは主として脱炭焼鈍において、またS, Se, N, Al, P, Bi等は仕上げ焼鈍後半の純化焼鈍において除去されるので、製品の地鉄中には不純物として微量残存するのみである。
【0029】
【実施例】
実施例1
C:0.07wt%、Si:3.30wt%、Mn:0.07wt%、Al:0.020 wt%、N:0.0080wt%、Se:0.015 wt%、Sb:0.020 wt%およびMo:0.010 wt%を含有し、残部は実質的にFeの組成になるけい素鋼スラブを、1400℃で30分間加熱後、熱間圧延により板厚:2.5 mmの熱延板としたのち、1000℃、1分の熱延板焼鈍を施し、ついで1回目の冷間圧延により1.7 mmの中間板厚とした。このとき鋼帯の長さは2120mであった。
【0030】
続く中間焼鈍において、図1に示すように、鋼帯両端の10mを1010℃、1020℃、1030℃、1040℃、1050℃にて焼鈍(ただし、図1には、鋼帯両端の焼鈍温度が1030℃の場合について示す)し、これ以外の部分は1050℃にて焼鈍した。
これらの各鋼帯を、2回目の冷間圧延によって0.23mmの最終板厚に仕上げ(鋼帯幅:1100mm) 、 850℃, 2分間の脱炭焼鈍後、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、鋼帯を中央で2分割し(それぞれの鋼帯長さ:6000m)、中間焼鈍温度を低下させた部分(最終板厚時の長さ:57m) がコイルの外側になるように巻取り(中間焼鈍温度を低下させた部分の巻き厚み比率:0.6 %)、コイルの巻き軸心を地面と垂直にして置き、到達温度:1200℃の箱焼鈍を施した。
【0031】
図2に、鋼帯全長にわたるコイル下端部の歪み領域の分布を示す。
また、表1には、仕上げ焼鈍時のコイルの外巻き部分の中間焼鈍温度と2次再結晶開始温度、平均1次粒径との関係を示す。ここで平均1次粒径Dは、以下の手順により算出した。
・圧延方向と平行でかつ圧延面に垂直な断面における観察領域
面積S= 230μm (板厚方向)× 400μm (圧延方向)
面積Sの内部に観察される1次粒の数=N
平均1次粒径 D=2(S/πN)1/2
【0032】
【表1】
Figure 0003635848
【0033】
図2および表1から明らかなように、仕上げ焼鈍において鋼帯コイルの外巻き部分の1次粒径を内巻き部分の1次粒径の0.90倍以下、または2次再結晶開始温度を内巻き部分の2次再結晶開始温度0.95倍以下とすることによって、仕上げ焼鈍において形状欠陥の発生の少ない方向性けい素鋼板を得ることができた。
また、図2からは、コイル外巻き部分の座屈歪みが軽減されることによって、鋼帯全体の形状欠陥を低減し得ることが判る。
【0034】
実施例2
C:0.07wt%、Si:3.20wt%、Mn:0.07wt%、Al:0.025 wt%、N:0.0090wt%、Se:0.025 wt%、Sb:0.030 wt%およびMo:0.010 wt%を含有し、残部は実質的にFeの組成になるけい素鋼スラブを、1400℃で30分間加熱後、熱間圧延により板厚:2.5 mmの熱延板としたのち、1000℃、1分の熱延板焼鈍を施し、ついで1回目の冷間圧延により1.7 mmの中間板厚とした。
続いて1020℃、2分間の中間焼鈍後、2回目の冷間圧延により0.23mmの最終板厚に仕上げた後、レジストエッチングにより鋼板表面に深さ:25μm 、幅:150 μm の圧延方向とほぼ直交する方向に伸びる溝を5mmピッチで形成した。
【0035】
ついで、 830℃、2分間の脱炭焼鈍を施したのち、鋼帯の大部分にはMgOを主成分とし、Mg2SO4を 2.0wt%含有する焼鈍分離剤を塗布する一方、鋼帯の後端にはMg2SO4を含有しない焼鈍分離剤を塗布した。この領域の長さは0mから 340mの範囲で変化させた。
その後、Mg2SO4を含有しない焼鈍分離剤を塗布した部分がコイルの外側になるように巻き取ったのち、コイルの巻き取り軸心を地面と垂直にして置き、到達温度:1200℃の箱焼鈍を施した。
【0036】
焼鈍分離剤へのMg2SO4の含有は2次再結晶温度を高める作用があり、Mg2SO4含有分離剤塗布部分の2次再結晶開始温度は1000℃であったのに対し、Mg2SO4を含有しない焼鈍分離剤を塗布した部分の2次再結晶開始温度は 920℃であった。
このように、中間焼鈍温度を1020℃に低下させることによって、コイル全長にわたり脱炭焼鈍板の1次粒径が低下ひいては2次再結晶開始温度が低下するが、コイルの外巻き部分を除く内巻き部分のみにMg2SO4を含有する焼鈍分離剤を塗布することによって、内巻き部分では2次再結晶開始温度が上昇し、結果として、コイル外巻き部分の2次再結晶開始温度が通常の素材と比べると低下した素材コイルが得られるのである。
【0037】
図3に、コイル全長にわたる座屈歪み深さの平均値とMg2SO4非含有焼鈍分離剤塗布部分の巻き厚み比率との関係について調べた結果を示す。
同図から明らかなように、仕上げ焼鈍コイルの外巻き部分にのみMg2SO4を含有しない焼鈍分離剤を塗布した領域を形成することによって、鋼帯の座屈歪みの平均値が低減しており、この効果は2次再結晶開始温度低下部分の長さが20m以上、すなわちコイルの巻き厚み比率で 0.2%以上なければ十分に発揮されないことが判る。
【0038】
【発明の効果】
かくして、この発明によれば、コイルの巻き軸心を水平面と垂直に置いて高温の箱焼鈍を施す条件下で方向性けい素鋼板を製造する場合に、受け台と接する側のコイル端部における座屈歪みの発生を格段に軽減することができ、方向性けい素鋼板製造上の歩留り向上および製品の品質の向上に大きく貢献する。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼帯長さ方向の中間焼鈍温度の分布を示したグラフである。
【図2】鋼帯長さ方向に対するコイル下端部の歪み深さの分布を示したグラフである。
【図3】 Mg2SO4非塗布による2次再結晶開始温度低下部分の巻き厚み比率とコイル下端部の歪み領域の鋼帯全長での平均値との関係を示したグラフである。

Claims (2)

  1. 含けい素鋼スラブを、熱間圧延し、ついで1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施した後、脱炭焼鈍し、ついでコイルに巻き取ってから、該コイルをその軸心が水平面に対して垂直となる向きに設置して最終仕上げ焼鈍を施すことによって方向性けい素鋼板を製造するに当たり、
    鋼帯コイルの最外側からの巻き厚み比率で 0.2〜3.0 %に相当する部分をコイル外巻き部分、残りをコイル内巻き部分とするとき、最終仕上げ焼鈍におけるコイル外巻き部分の平均2次再結晶開始温度を、コイル内巻き部分の平均2次再結晶開始温度の0.95倍以下とすることを特徴とする方向性けい素鋼板の製造方法。
  2. 含けい素鋼スラブを、熱間圧延し、ついで1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施した後、脱炭焼鈍し、ついでコイルに巻き取ってから、該コイルをその軸心が水平面に対して垂直となる向きに設置して最終仕上げ焼鈍を施すことによって方向性けい素鋼板を製造するに当たり、
    鋼帯コイルの最外側からの巻き厚み比率で 0.2〜3.0 %に相当する部分をコイル外巻き部分、残りをコイル内巻き部分とするとき、仕上げ焼鈍直前におけるコイル外巻き部分の平均1次粒径を、コイル内巻き部分の平均1次粒径の0.90倍以下とすることを特徴とする方向性けい素鋼板の製造方法。
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