JP3633921B2 - ダイマー酸コモノマーを含有するナイロン共重合体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ナイロン6共重合体およびナイロン66共重合体に関し、より詳細には、コモノマーとしてのダイマー酸を含有するナイロン6共重合体およびナイロン66共重合体に関する。
【0002】
【従来の技術】
ナイロン繊維は、衣類、織物またはその他の布地を製造するための材料として幅広く用いられており、ナイロン製品の用途を広げるため、または、製品の特性を向上させるべく、ナイロン繊維の改質に関する研究が広範囲にわたって行なわれている。ナイロンを共重合させる方法について、通常はナイロン共重合体に特殊なコモノマーが添加されるが、かかる方法の実施は製造コストが高くつき、かつ開発に長い時間を要する。それにも拘わらず、その製品の特異な性質から、依然として研究に多大な労力が注ぎ込まれる傾向にある。
【0003】
ナイロン共重合体の改質に関して、近年では、染色性、吸湿性および疎水性を変化させてその融点や収縮性を制御することが研究の重点となっており、既に多くの報告がなされている。例えば、特許文献1では、ナイロン66のモノマーに2−メチル−1,5−ペンタンジアミン(MPMD)を加えた後に共重合させて得られたナイロン66は、その吸湿性、染色性、紡績特性および繊維収縮性の面で改善が図られることを開示している。
【0004】
ところで、最近の傾向として、環境によりやさしくあることが求められており、モノマーの原料に天然植物を用いることへの評価が高まっている。このうち、最も代表的なのはダイマー酸(dimeric acid)であり、例として、ダイマーリノレン酸およびダイマー脂肪酸などがあげられる。これらは、天然の豆類から抽出されるカルボキシル重合体で、所定の化学プロセスまたは化学反応を経ると、炭素数30〜40の二量体脂肪族化合物となる。こうして得られる化合物は側鎖(炭素数は9〜20)を有していることから、ナイロン重合体を改質させるコモノマーとして使用することが可能である。これに関して、より早期には例えば、特許文献2において、ナイロン6のモノマーにダイマー酸コモノマーを添加した後に共重合させることにより、低融点のナイロン6共重合体を得ることが開示されている。近年では、ホットメルトに応用される調製法がモンサント社により公開されている(特許文献3および4参照)。
【0005】
さて、コモノマーとしてMPMDおよびダイマー酸の2種類を含有する重合体を開示した先行技術が知られている(たとえば、特許文献5〜8参照)。しかし、これらの発明が提案する主な用途はインクまたは塗料であって、しかも、得られる共重合体の融点(150℃未満)および重量平均分子量(10000未満)は、いずれも非常に低いものである。
【0006】
【特許文献1】
米国特許第5194578号明細書
【特許文献2】
ハンガリー国特許HU8322(1974)
【特許文献3】
米国特許第4219459号明細書
【特許文献4】
米国特許第4219460号明細書
【特許文献5】
米国特許第5162490号明細書
【特許文献6】
米国特許第4032549号明細書
【特許文献7】
特開平5−311099号公報
【特許文献8】
国際公開第96/01866号パンフレット
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
前記従来技術に鑑みて、本発明の目的は、コモノマーとしてMPMDとダイマー酸の2種類を含有するとともに、融点および分子量が高い新規なナイロン共重合体を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため、本発明は、MPMDおよびダイマー酸をコモノマーとして含有するナイロン6共重合体を提供する。
【0009】
すなわち、本発明は、ε−カプロラクタム92.0〜99.8モル%、ダイマー酸0.1〜4.0モル%および2−メチル−1,5−ペンタンジアミン0.1〜4.0モル%からなるナイロン6共重合体に関する。
【0010】
前記ナイロン6共重合体は、重量平均分子量が20000以上、融点が160℃以上であることが好ましい。
【0011】
前記ナイロン6共重合体において、ε−カプロラクタムを90.0〜99.9モル%とし、ダイマー酸を0.1〜2.0モル%とし、2−メチル−1,5−ペンタンジアミンを0.1〜2.0モル%とすると、重量平均分子量が30000以上、融点が190℃以上となり、分子量および融点がさらに高くなる。
【0017】
さらに、本発明は、前記ナイロン6共重合体からなり、沸水収縮率が25〜70%である繊維に関する。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明は、ダイマー酸コモノマーを含有するナイロン6共重合体の製造方法に関し、ε−カプロラクタム、ダイマー酸および2−メチル−1,5−ペンタンジアミン(MPMD)を、それぞれ特定の比率で添加して重合反応させる工程からなる。
【0019】
前記工程において、ε−カプロラクタムは80.0〜99.9モル%、好ましくは90.0〜99.9モル%、より好ましくは92.0〜95.0モル%添加する。ε−カプロラクタムの添加量が80.0モル%未満では、融点が低過ぎて耐熱性が悪くなり、99.9モル%よりも多いと繊維の収縮性が過度に低くなる。
【0020】
前記工程において、ダイマー酸は0.1〜3.0モル%、好ましくは0.1〜2.0モル%、より好ましくは1.8〜2.0モル%添加する。ダイマー酸の添加量が0.1モル%未満では、繊維の収縮率が低くなり過ぎ、3.0モル%よりも多いと繊維の融点が低過ぎて耐熱性が悪くなる。
【0021】
前記工程において、MPMDは0.1〜3.0モル%、好ましくは0.1〜2.0モル%、より好ましくは1.8〜2.0モル%添加する。MPMDの添加量が0.1モル%未満では繊維の収縮率が低くなり過ぎ、3.0モル%よりも多いと繊維の融点が低過ぎて耐熱性が悪くなる。
【0022】
前記重合反応における反応温度は、200〜280℃が好ましく、234〜238℃がより好ましい。反応温度が200℃未満では重合し難く、分子量の要求が満たされない傾向があり、280℃を超えると重合体が分解して黒褐色に変わる傾向がある。
【0023】
前記重合反応は、さらに溶媒を添加する工程を含むことが好ましい。溶媒を添加することにより、比較的高い分子量および比較的狭い分子量分布が得られる。
【0024】
前記溶媒としては、とくに限定されないが、共重合体に対する溶解度が他の溶媒より優れているという点からm−クレゾールが好ましい。
【0025】
以上の工程により、ダイマー酸コモノマーを含有するナイロン6共重合体を製造することができ、該ナイロン6共重合体は高分子量・高融点を有する。
【0026】
前記高分子量とは、具体的には重量平均分子量が20000以上、とくには30000以上のことである。
【0027】
前記高融点とは、具体的には160℃以上、とくには190℃以上のことである。
【0028】
また、本発明は、ダイマー酸コモノマーを含有するナイロン66共重合体の製造方法に関し、ヘキサン二酸(アジピン酸)およびヘキサメチレンジアミン、ダイマー酸ならびにMPMDを、それぞれ特定の比率で添加して重合反応させる工程からなる。
【0029】
前記工程において、アジピン酸およびヘキサメチレンジアミンは60.0〜90モル%、好ましくは90.0〜99.0モル%、より好ましくは90.0〜94.0モル%添加する。アジピン酸およびヘキサメチレンジアミンの添加量が60.0モル%未満では繊維の融点が低過ぎて耐熱性に劣ることとなり、90.0モル%よりも多いと繊維の収縮性が過度に低くなる。
【0030】
前記工程において、ダイマー酸は0.1〜3.0モル%、好ましくは0.1〜2.0モル%、より好ましくは1.8〜2.0モル%添加する。ダイマー酸の添加量が0.1モル%未満では繊維の収縮性が過度に低くなり、3.0モル%よりも多いと繊維の融点が低過ぎて耐熱性が悪くなる。
【0031】
前記工程において、MPMDは0.1〜3.0モル%、好ましくは0.1〜2.0モル%、より好ましくは1.8〜2.0モル%添加する。MPMDの添加量が0.1モル%未満では繊維の収縮性が過度に低くなり、3.0モル%よりも多いと繊維の融点が低過ぎて耐熱性が悪くなる。
【0032】
前記重合反応における反応温度は、200〜280℃が好ましく、240〜260℃がより好ましい。反応温度が200℃未満では、重合体の分子量が低くなり過ぎる傾向があり、280℃を超えると重合体が分解して黒褐色に変わる傾向がある。
【0033】
前記重合反応は、さらに溶媒を添加する工程を含むことが好ましい。溶媒を添加することにより、比較的高い分子量および比較的狭い分子量分布が得られる。
【0034】
前記溶媒としては、とくに限定されないが、重合体に対する溶解性が他の溶媒より良好であるという点からm−クレゾールが好ましい。
【0035】
以上の工程により、ダイマー酸コモノマーを含有するナイロン66共重合体を製造することができ、該ナイロン66共重合体は高分子量・高融点を有する。
【0036】
前記高分子量とは、具体的には重量平均分子量が20000以上、とくには30000以上のことである。
【0037】
前記高融点とは、具体的には160℃以上、とくには190℃以上のことである。
【0038】
本発明のナイロン6共重合体またはナイロン66共重合体の製造方法においては、通常ナイロン共重合体に添加され得る薬品、たとえば、あわ止め剤、高級リン酸(hyperphosphoric acid)または抗酸化剤などを適宜配合できる。
【0039】
本発明の製造方法から得られるナイロン6共重合体またはナイロン66共重合体は、前述のとおり高融点・高分子量を有するので、繊維などの用途に好適である。
【0040】
【実施例】
本発明がより理解されるように、以下に実施例をあげて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
実施例1
ナイロン6共重合体(コモノマーとしてのダイマー酸=0.8モル、MPMD=0.8モル)の合成
5Lの反応容器に、ε−カプロラクタム22.14モル、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン(MPMD)0.80モル、ダイマー酸0.8モル、H2O5.00モル、あわ止め剤(信越化学工業(株)製 KS−69、シリコーンオイル乳化剤)0.25mlおよび高級リン酸(メルク社(MERK社)製、50重量%)0.25mlを室温下で入れてから、その混合物を均一に攪拌した。30分経過後、昇温速度0.5℃/分で245℃まで上げ、この温度を維持した。6時間経過後、トルクが所定値に達した時に、その混合物を取り出して一片を切り取り、ナイロン6共重合体を得た。得られたナイロン6共重合体の各データはつぎのとおりであった。
残留アミノ末端[−NH2]:51.85meq/kg
残留カルボキシル末端[−COOH]:61.36meq/kg
重量平均分子量(Mw):38096
ポリマー多分散性(Mn/Mw):2.52
ソクスレー抽出:8.21重量%
融点(Tm):206.2℃
分解点(Td):427.7℃
なお、MwはGPCにより測定した。測定温度は30℃、溶媒にm―クレゾールを用い、ポリスチレンの分子量を基準とした。
【0042】
実施例2
ナイロン6共重合体(コモノマーとしてのダイマー酸=0.39モル,MPMD=0.39モル)の合成
5Lの反応容器に、ε−カプロラクタム25.00モル、MPMD0.39モル、ダイマー酸0.39モル、H2O6.25モル、あわ止め剤(信越化学工業(株)製 KS−69、シリコーンオイル乳化剤)0.30mlおよび高級リン酸(メルク社(MERK社)製、50重量%)0.30mlを室温下で入れてから、その混合物を均一に攪拌した。30分経過後、昇温速度0.38℃/分で245℃まで上げ、この温度を維持した。6時間経過後、トルクが所定値に達した時に、その混合物を取り出して一片を切り取り、ナイロン6共重合体を得た。得られたナイロン6共重合体は、実施例1と同様にして各データを測定した。得られた各データを下記に示す。
[−NH2]:57.54meq/kg
[−COOH]:65.98meq/kg
Mw:37550
ポリマー多分散性(Mn/Mw):1.89
ソクスレー抽出:9.78重量%
Tm:219.4℃
Td:397.0℃
【0043】
実施例3
ナイロン66共重合体の合成(コモノマーとしてのダイマー酸=1.8モル,MPMD=1.8モル)
2Lの反応容器に、ヘキサメチレンジアミン4.00モル、アジピン酸4.00モル、MPMD0.15モル、ダイマー酸0.15モル、H2O1.00モル、あわ止め剤(信越化学工業(株)製 KS−69、シリコーンオイル乳化剤)0.1mlおよび高級リン酸(メルク社(MERK社)製、50重量%)0.1mlを室温下で入れてから、その混合物を均一に攪拌し、反応容器内の空気を窒素で置換した。30分経過後、昇温速度5℃/分で260℃まで上げ、この温度を維持した。2時間経過後、トルクが所定値に達した時に、その混合物を取り出して一片を切り取り、ナイロン66共重合体を得た。得られたナイロン66共重合体の各データはつぎのとおりであった。
[−NH2]:58.72meq/kg
[−COOH]:66.24meq/kg
Mw:34122
ポリマー多分散性(Mn/Mw):2.11
ソクスレー抽出:0.65重量%
Tm:245.8℃
Td:442.3℃
【0044】
紡糸試験
得られた実施例1〜3の共重合体について、4つの巻取り部を備えた紡績機を用いて紡糸試験を行なった。回転ゾーンの温度を237〜300℃とし、紡績口金の温度を250〜300℃としたが、これらの温度は重合体の融点に応じて適宜調整することができる。紡績口金には、42個の開口を備える円形紡績口金を使用し、その巻き取り速度を4500m/分以上とした。各共重合体から得られた繊維の物性は、つぎの範囲であった。
繊度:42d/42f
密度:2.3〜3.0g/d
伸度:70〜75%
沸水収縮率:25〜70%(伸び条件とコモノマーの量の変化に応じて適宜調整され得る)
【0045】
以上の実施例の結果からわかるように、本発明の製造方法によれば、コモノマーとしてMPMDおよびダイマー酸の2種類を含有するナイロン6共重合体、ならびにコモノマーとしてMPMDおよびダイマー酸の2種類を含有するナイロン66共重合体を得ることができ、得られたナイロン共重合体はいずれも高融点および高分子量であった。さらに、これら共重合体の紡糸特性は極めて優れたものであった。
【0046】
本発明を説明するために好適な実施例を例示したが、以上に開示した発明に基づいての変更や修飾は可能である。前記実施例は、本発明の原理を説明するための最良の態様を提示すべく選択し記載したものである。これによって、当該分野の知識を有する者は、多様な実施の形式において、また、所定の用途に応じた多種の変形を施すことによって、本発明を利用することができるようになる。なお、これら変更及び修飾はいずれも、上記した特許請求の範囲が適法に認められた場合に、それにより決定される本発明の範囲内において行なわれるものとする。
【0047】
【発明の効果】
本発明が提供する方法によれば、コモノマーとしてダイマー酸と2−メチル−1,5−ペンタンジアミン(MPMD)の2種類を含有するナイロン6共重合体およびナイロン66共重合体を得ることができ、これらナイロン共重合体はいずれも、高融点・高分子量を備えるものとなる。さらに、これらの共重合体は、極めて優れた紡糸特性を有する。また、本発明によれば、天然植物からの抽出物を原料として使用するため、従来の諸方法に比べて、より環境保護に寄与することができる。
Claims (7)
- ε−カプロラクタム92.0〜99.8モル%、ダイマー酸0.1〜4.0モル%および2−メチル−1,5−ペンタンジアミン0.1〜4.0モル%からなるダイマー酸コモノマーを含有するナイロン6共重合体。
- 前記ナイロン6共重合体の重量平均分子量が20000以上である請求項1記載のナイロン6共重合体。
- 前記ナイロン6共重合体の融点が160℃以上である請求項1記載のナイロン6共重合体。
- ε−カプロラクタム96.0〜99.8モル%、ダイマー酸0.1〜2.0モル%および2−メチル−1,5−ペンタンジアミン0.1〜2.0モル%からなる請求項1記載のダイマー酸コモノマーを含有するナイロン6共重合体。
- 前記ナイロン6共重合体の重量平均分子量が30000以上である請求項4記載のナイロン6共重合体。
- 前記ナイロン6共重合体の融点が190℃以上である請求項4記載のナイロン6共重合体。
- 請求項1〜6記載のナイロン共重合体からなり、沸水収縮率が25〜70%である繊維。
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