JP3633129B2 - 軸受用鋼 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ころ軸受、玉軸受のような転がり軸受に用いて好適な転動疲労寿命特性に優れた安価な軸受用鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
産業機械や自動車部品等に用いられる軸受部品には、JIS G 4805に規定されているSUJ2に代表される鋼、即ち、0.95〜1.10mass%のCと1.30〜1.60mass%のCrを含む高炭素クロム軸受鋼が最も多く用いられている。この高炭素クロム軸受鋼は、溶製後、1250℃程度で約30時間の高温, 長時間の拡散焼なましを経て、所定の寸法の棒鋼に圧延され、次いで軸受部品に仕上げるため、球状化焼なましを施した後、切削加工や冷間圧延あるいは温間加工等の成形加工を行い、その後さらに、焼入れ, 焼もどしを施して製造されている。
【0003】
前記製造プロセスの中において、拡散焼なましの目的は、溶製時に発生して転動疲労寿命に悪影響を及ぼすCやCr等が結合した巨大炭化物を消滅させるために行い、また、前記球状化焼なましの目的は、高い炭素濃度に起因した圧延ままの非常に高い硬さを低下させ、引き続く各種の加工を容易にするために行い、そして前記焼入れおよび焼もどしは、転がり軸受に必要な硬さと靱性を確保するために実施する処理である。
【0004】
ところで、この転がり軸受用材料に求められている特性の1つには転動疲労寿命特性があり、この寿命の永い材料が望ましい事はいうまでもない。こうした要求を達成するために、これまでも多くの技術が提案されている。例えば、その先行提案技術を俯瞰すると、大きく分けて次のような2つのものが代表的である。
【0005】
▲1▼ 第1に、鋼中酸素量 (酸化物系介在物起因) を低減することにより高寿命化を図る方法である。この技術は、転動疲労寿命低下の主因が鋼中に分散する硬質の介在物に基づくという考え方の下で主としてそれの抑制を図るというものである。このような考え方に基づく既知技術としては、特開昭62−294150号公報、特開昭62−63650 号公報、特開平1−306542号公報および特公平4−5742号公報等の開示がある。
これらの技術によれば、鋼中酸素量を30ppm から10ppm 程度のレベルにまで低減することにより、前記転動疲労寿命は約30倍以上にも向上したといわれている。
【0006】
▲2▼ 第2に、画像解析で計測した介在物粒径の極値統計処理により、被検材中の最大介在物 (介在物粒子面積の0.5 乗として介在物径を算出し、それの最大値をいう) を推定する新介在物評価法である。この評価方法の採用により、鋼中酸素量 (酸化物系介在物の総量に対応する) が同一でも介在物の大きさを小さくすることにより、前記転動疲労寿命をさらに延長できるというものである。
そして、このような知見に基づき大きな介在物を低減する新しい精錬法をも開発している。こうした新提案技術については、例えば、特開平3−126839号公報、特開平4−280941号公報、特開平5−25587 号公報などに開示されている。
この新提案技術によれば、酸素量10ppm 程度以下の高清浄鋼に比べて、転動疲労寿命のばらつきがやや小さくなり、従来のばらつき範囲内での高位側の寿命が得られるようになったといわれている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上述したような各種の従来技術の採用により、軸受用材料の転動疲労寿命は飛躍的に向上した。しかしながら、鋼中酸素量低減による介在物制御の技術および大きな介在物を低減する技術は、現在ほぼ飽和の状態にあり、これ以上の転動疲労寿命特性の向上は望めないのが実情である。
従って、新たな技術開発による一層の高寿命化, 即ち、転動疲労寿命のさらなる向上、さらには寿命のばらつきの解消を図るという課題については依然として未解決のままに残されている。
【0008】
そこで本発明の主たる目的は、寿命のばらつきがない上に、より一層の転動疲労寿命特性に優れた軸受用鋼を提供することにある。
本発明の他の目的は、機械的特性を損なうことなく安価な軸受用鋼を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、不可避的に混入する元素の抑制を通じて、品質の安定した軸受用鋼を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、上記の課題を解決するために、まず寿命のばらつきに注目してそのばらつきの原因について鋭意研究した。その結果、転動疲労寿命のより一層の向上のためには、各種の不可避に混入する微量元素の存在が大きく影響することを見いだした。そして、これらの微量元素量を低減ないし適当量に制御すると、転動疲労寿命が改善できることを突き止めた。
それだけでなく、さらに研究を重ねたところ、或る種の成分についてはこれらを特定の範囲に制御して添加すれば、転動疲労寿命が飛躍的に向上することを見い出し、本発明にかかる軸受用鋼を開発したのである。
【0010】
すなわち、本発明の基本的な考え方は、精錬時に不可避に混入する微量成分に着目して、これを制御する点にある。こうした考え方の下に成立している本発明は、主要成分組成が、C:0.70〜0.95mass%( ただし、 0.95mass %を除く )、Si:0.5〜2.0mass%、Al:0.050mass%以下、O:0.0030mass%以下およびSb:0.0010mass%未満を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる転動疲労寿命特性に優れた軸受用鋼である。
【0011】
本発明はまた、C:0.70〜0.95mass%( ただし、 0.95mass %を除く )、Si:0.5〜2.0mass%、Al:0.050mass%以下、O:0.0030mass%以下およびSb:0.0010mass%未満を含有し、さらにMn:0.10〜2.5mass%、Cr:0.10〜1.0mass%、Mo:0.10〜1.0mass%、Ni:0.10〜2.0mass%、Nb:0.05〜0.50mass%、V:0.05〜0.50mass%、W:0.05〜0.50mass%およびCu:0.10〜2.0mass%のうちから選ばれる1種または2種以上の転動疲労寿命改善成分を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物よりなる転動疲労寿命特性に優れた軸受用鋼を提案する。
【0012】
【発明の実施の形態】
発明者らは、軸受用鋼の転動疲労寿命特性を改善するために、まず不可避的に混入する微量元素に注目し、その種類および含有量と転動疲労寿命の関係を調べた。こうした微量元素のなかでもとくにSbの存在が転動疲労寿命に大きく影響を及ぼしていることがわかった。そこで、このSb量と転動疲労寿命比とのかんけいについて調査した。
【0013】
図1は、鋼中の酸素量 (7〜10ppm ) および最大介在物径 (9〜12μm 、面積320 mm)がほぼ同一のサンプルについて、Sb量と転動疲労寿命比 (転動疲労寿命比1.0 は寿命の平均値と等しい) の関係を求めたものである。
この図に示すように、定性的にはSb量の如何が転動疲労寿命に大きな影響を及ぼしていることがわかった。一方, 定量的な側面について見ると、Sbを0.0015mass%程度までに低減した場合に効果があらわれはじめ、このSb量が0.0005mass%以下になると、低減の効果がほぼ飽和していくことがわかった。この理由は、はっきりとはわからないが、粒界に偏析しやすいSbが、転動疲労亀裂の進展に影響を与えることから、その量が不適当だと、亀裂の進展を助長するためと考えられる。
【0014】
そこで、本発明にかかる転動疲労寿命に優れた軸受用鋼を得るための条件、とくに含有成分とその割合(組成)について以下に説明する。
C:0.70〜0.95mass%( ただし、 0.95mass %を除く )
Cは、本発明において重要元素であり、基地に固溶してマルテンサイトを強化し、転動疲労寿命を向上させる有用な元素であり、強度、耐磨耗性をも向上させる。このような作用効果は0.70mass%未満では小さい。一方、0.95mass%( ただし、 0.95mass %を除く )を超えて添加すると、冷間加工性、温間加工性、被削性および靱性が低下し、かつ他元素との関係より、拡散焼なまし省略が不可能となりコストアップの原因となる。よって、C量は0.70〜0.95mass%( ただし、 0.95mass %を除く )の範囲に限定した。より好ましくは0.70〜0.80mass%とする。
【0015】
Si:0.50〜2.0 mass%
Siは、脱酸の他に、基地に固溶して転動疲労寿命を向上させる元素として必要な元素である。しかし、その含有量が0.50mass%未満では添加効果が小さい。一方、2.0 mass%を超えて添加すると、特に球状化後の硬さが上昇するため被削性および加工性が著しく低下する。よって、Si量は0.50〜2.0 mass%の範囲に限定した。より好ましくは0.50〜1.0 mass%とする。
【0016】
Al:0.050amass%以下
Alは、脱酸材として添加される。しかし、Oと結合して硬い酸化物系介在物を形成するため、転動疲労寿命を低下させるので、その上限を0.050 mass%とした。より好ましくは0.040 mass%以下とする。
【0017】
O:0.0030mass%以下
Oは、Alと結合し硬い酸化物系非金属介在物を形成するため、転動疲労寿命を低下させるので少ない方が望ましい。よって、Oの上限は0.0030mass%とした。より好ましくは0.0015mass%以下とする。
【0018】
Sb:0.0010mass%未満
Sbは、本発明において特に重要な元素である。脱炭層の発生を阻止して熱処理生産性を向上させる作用があるが、熱間加工性および靱性の低下を招くだけでなく、軸受用鋼に求められている重要な特性である転動疲労寿命に非常な悪影響を及ぼすことから、抑制しなければならない。こうした悪影響をなくし製造コストを考慮すると、その上限は0.0010mass%未満にしなければならない。かかる悪影響を完全に払拭するには、0.0005mass%程度にする必要がある。従って、Sbの好ましい範囲は0.0005〜0.0010mass%である。
【0019】
以上、基本含有成分について説明したが、本発明では、さらにMn, Cr, Mo, Nb, V,W,Cuのうちから選んだ1種または2種以上の転動疲労寿命改善成分を添加することができる。上記各元素の好適添加量範囲は次の通りである。
【0020】
Mn:0.10〜2.5 mass%
Mnは、鋼の焼入れ性を向上させることによって基地マルテンサイトの靱性を高め、転動疲労寿命の向上にも有効に寄与する。しかし、0.10mass%に満たないとその添加効果に乏しく、一方、2.5 mass%を超えると被削性、靱性および加工性が著しく低下するので、Mn量は0.10〜2.5 mass%の範囲に限定した。なお、より好ましくは0.50〜1.5 mass%の範囲とするのがよい。
【0021】
Cr:0.10〜1.0 mass%
Crは、鋼の焼入れ性を高め、基地の強度および靱性を改善して転動疲労寿命を向上させるだけでなく、冷間加工性向上に密接に関係のある有効な元素であるが、1.0 mass%を超えると冷間加工性向上の効果は飽和し、また、他元素との関係より拡散焼なまし省略が不可能となる。よって、Cr量は1.0 mass%以下の範囲に限定した。
【0022】
Ni:0.10〜1.0 mass%
Niは、鋼の焼入れ性を高め、転動過程での転位密度の低下を抑制することにより、また、繰り返し過程でセメンタイトの生成を抑制することにより、繰り返し軟化防止を通じて転動疲労寿命を向上させるのに有効である。しかしながら、1.0 mass%を超えるとその効果は飽和し、むしろ最終製品の靱性の低下を招くので、その含有量を上記の範囲に限定した。
【0023】
Mo:0.10〜1.00mass%および/またはCu:0.05〜2.0 mass%
MoおよびCuはいずれも、焼入れ性を高め、鋼の転動疲労寿命を向上させる有用元素である。しかし、Mo, Cuが多すぎる場合には鋼の被削性が低下する。そこで、これらの元素も、かかるおそれのない上記の各範囲で添加するものとした。
【0024】
Nb:0.05〜0.50mass%、V:0.05〜0.50mass%、W:0.05〜0.50mass%
Nb, VおよびWはいずれも、鋼中のCと結合し、耐磨耗性を向上させるとともに、結晶粒の微細化により転動疲労寿命および靱性の向上に有効に寄与する。
しかし、いずれの元素も、多すぎる場合には炭化物が高温で安定化し、鋼材の硬さの低下を招いて転動疲労寿命を低下させるだけでなく、鋼の被削性をも低下させる。そこで、これらの元素の添加量は、かかるおそれのない上記の各範囲内で添加するものとした。
【0025】
なお、本発明軸受用鋼の製造方法については、基本的には常法に従う処理法がそのまま適用できる。たとえば、転炉、電気炉等いずれの方法で溶製してもよく、また、スラブ製造に当たっては連鋳法、造塊法のいずれでもよい。さらに、熱間圧延条件および拡散焼なまし, 球状化焼なまし、あるいは焼入れ−焼もどしの条件も特に限定されることはなく、常法に従って行なえばよい。
【0026】
【実施例】
以下、本発明を実施例にもとづいて説明する。
表1 (本発明鋼No.1〜20) 、表2 (従来鋼No.21 および比較鋼No.22 〜32) に示す鋼材を、転炉により溶製し、連続鋳造法の下で鋼片としたのち、65mmφの棒鋼に圧延した。なお、表2の鋼材No.21 については、連続鋳造法で鋼片としたのち、さらに1250℃で30時間の拡散焼なましを行い、巨大炭化物の消失後、65mmφの棒鋼に圧延する方法によって製造した。
その後、上記各棒鋼は、転動疲労寿命を評価するために球状化焼なまし後に焼入れ、焼もどしを行い、サンプルを採取した。
なお、熱処理条件は次のとおりである。
Figure 0003633129
【0027】
上掲の転動疲労寿命評価のための試験は、円筒型転動疲労寿命試験機により、ヘルツ最大接触応力:600 kgf/mm、繰り返し応力数:約46500cpmの条件で行った。その試験結果は、ワイブル分布に従うものとして確率紙上にまとめ、表2中の鋼材No. 21のB10寿命 (累積破損確率:10%における、剥離発生までの総負荷回数) を1として相対評価した。転動疲労寿命の評価結果および冷間鍛造性は表1, 2の成分組成にあわせて示す。
【0028】
表に示す結果から明らかなように、Sb含有量が本発明範囲より高い比較鋼No. 22, 23は、転動疲労寿命は従来鋼No.21 の0.5 倍と0.7 倍にすぎなかった。C含有量が本発明鋼よりも低い比較鋼No.24, 25 は、冷間加工性の点ではやや改善されていたが転動疲労寿命は共に0.7 倍であった。Si含有量が本発明鋼より低い比較鋼No.26, 27 およびMn含有量が本発明鋼より高い比較鋼No.28, 29 も同様に転動疲労寿命が低い。C含有量が本発明鋼より高い比較鋼No.30, 31 およびCr含有量が本発明鋼より高い比較鋼No.32 は、転動疲労寿命がNo.21 従来鋼のそれぞれ0.5 倍、0.6 倍および0.8 倍にすぎなかった。
【0029】
これらに対し、鋼No.1〜20の本発明鋼はいずれも、従来鋼に比較して転動疲労寿命が良好で従来の3.3 〜15.3倍も改善されている。
また、この実施例に示したように、鋼No.12 〜20の、Mn, Cr, Mo, Ni, Nb, V, W, Cuの1種または2種以上を添加した鋼は、転動疲労寿命が一層向上している。従って、これらの鋼は添加元素の作用効果を勘案し、その使用目的に応じて自由な組み合わせの鋼とすることができる。
【0030】
【表1】
Figure 0003633129
【0031】
【表2】
Figure 0003633129
【0032】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、転動疲労寿命特性に優れる軸受用鋼を提供することができる。また、転動疲労寿命のばらつきの少ない品質の安定した軸受用鋼をあ売ることができると共に、C, Crの低減により合金コストの低減を通じて素材コストの低減が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】Sb量と転動疲労寿命との関係を示すグラフである。

Claims (2)

  1. C:0.70〜0.95mass%( ただし、 0.95mass %を除く )、Si:0.5〜2.0mass%、Al:0.050mass%以下、O:0.0030mass%以下およびSb:0.0010mass%未満を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる転動疲労寿命特性に優れた軸受用鋼。
  2. C:0.70〜0.95mass%( ただし、 0.95mass %を除く )、Si:0.5〜2.0mass%、Al:0.050mass%以下、O:0.0030mass%以下およびSb:0.0010mass%未満を含有し、さらにMn:0.10〜2.5mass%、Cr:0.10〜1.0mass%、Mo:0.10〜1.0mass%、Ni:0.10〜2.0mass%、Nb:0.05〜0.50mass%、V:0.05〜0.50mass%、W:0.05〜0.50mass%およびCu:0.10〜2.0mass%のうちから選ばれる1種または2種以上の転動疲労寿命改善成分を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物よりなる転動疲労寿命特性に優れた軸受用鋼。
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