JP3631936B2 - 溶接方法及び溶接装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アーク溶接とレーザ溶接とを併用した溶接方法及び溶接装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の溶接方法には、例えば、アーク溶接方法及びレーザ溶接方法がある。アーク溶接方法は、母材と電極との間、あるいは2つの電極の間にアークを発生させ、その熱によって母材の突き合わせ面を溶融して溶接するものである。一方、レーザ溶接方法は、母材の突き合わせ面にレーザを照射し、母材を溶融しながら溶け込みを深くして溶接するものである。
【0003】
ところで、アーク溶接方法は、ギャップ許容度が大きく、様々な母材に対して広く用いられているが、入熱量が大きいので大きな熱歪を生じる場合があるとともに、使用する電力も大きい。したがって、溶接後の製品が低品質化するとともに製造効率も低下する場合がある。一方、レーザ溶接方法は、エネルギー密度が高いため、高速且つ低入熱(低歪)な溶接を行うことができるが、装置自体が高価であるとともに、ギャップ許容度が小さいため、溶接対象となる母材の形態が限られる。このため、近年において、安価な装置を用いるアーク溶接方法とレーザ溶接方法とを組み合わせて、深溶け込みや溶接速度の向上を図る試みがされている。このようなアーク溶接方法とレーザ溶接方法とを組み合わせた溶接方法として、例えば、特開平10−225782号公報、特開昭59−66991号公報、特開平10−272577号公報などに開示された技術がある。
【0004】
このうち、特開平10−225782号公報(以下、「従来例1」という)に開示された技術は、相対向する母材の突き合わせ面間に、開先の底部に続いてレーザ導光用ギャップを形成し、アーク溶接に先立ってレーザ導光用ギャップにレーザを照射し、レーザ導光用ギャップを形成する母材の表面を板厚方向の全長に亘ってレーザ熱により溶融し、続いてアーク熱で溶融した溶湯を開先およびレーザ導光用ギャップに導入して双方の母材を溶接するものである。
【0005】
また、特開昭59−66991号公報(以下、「従来例2」という)に開示された技術は、ミグ溶接で母材を溶融させ、液滴の衝撃力およびプラズマ気流により深く掘込んだクレータの底部近くにレーザ光線の焦点位置を合わせ、深溶け込みの溶接を行うレーザとミグとを併用して溶接するものである。
【0006】
特開昭10−272577号公報(以下、「従来例3」という)に開示された技術は、鋼材の開先をミグ溶接する際、レーザをミグアークに先行して照射して、鋼材表面を加熱あるいはレーザ誘起プラズマを発生させ、この照射部にアークの陰極点を誘導することにより溶接するものである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上述した従来例1においては、開先の底部に続いてレーザ導光用ギャップを形成する構成であり、複数の工程を必要とするため、作業性が低下する。また、従来例2、従来例3においては、アークによる溶け込み深さが不十分で、融合不良を引き起こす場合がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、アーク溶接とレーザ溶接とを併用した溶接において、低出力で効率良い溶接が行えるとともに、所定の品質を有する製品を生成可能な溶接方法及び溶接装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、本発明の溶接方法は、アーク溶接とレーザ溶接とを併用した溶接方法において、母材の突き合わせ面における開先部に対して予め設定された所定の駆動電力によって所定のガス雰囲気下でアークを発生させ、該アークによる熱により母材内部を溶融してクレータ部を形成するとともに、該クレータ部の底部にレーザビームを照射し、前記母材を溶接し、前記レーザビームの集光角度に応じて、前記開先部の開先角度を設定することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、所定のガス雰囲気下において所定の駆動電力で母材内部にアークを発生させることにより、溶融範囲を過剰に拡大させることなく所定の深さを有する深溶け込みなクレータ部を形成することができる。この深く形成されたクレータ部に対してレーザを照射するすることにより、レーザは効率良く母材に吸収される。そして、レーザを照射した部分からは金属蒸気が発生するため、この部分にはアークの極点が安定して形成されるので、アークのエネルギーもクレータ部の底部に集中する。したがって、母材の突き合わせ面は深く溶け込むので、安定した溶接を行うことができる。このように、アークとレーザとの相乗効果によって深溶け込みなクレータ部を形成することができるので、予め深い開先部を形成する必要がないなど、作業性を向上させることができる。また、2種類の溶接方法で深溶け込みを行う構成であり、使用するエネルギー(電力)を抑えることができるとともに、低入熱を実現することができるので、所望の品質を有する溶接を行うことができる。また、レーザビームの集光角度に応じて、開先部の開先角度を設定することにより、開先部に照射されたレーザビームは開先部の外部で反射されることなく安定して開先部の内部に照射される。
【0011】
このような溶接方法は、母材の突き合わせ面における開先部内部でアークを発生させるアーク溶接装置と、アークによる熱により母材に形成されたクレータ部の底部にレーザビームを照射するレーザ溶接装置と、母材の突き合わせ面近傍に所定のガスを供給するガス供給装置と、アークが母材内部で発生するよう駆動電力を制御する制御装置とを備え、制御装置は、アーク溶接装置及びレーザ溶接装置から出力されるアーク及びレーザビームのそれぞれの出力信号を所定の周期を有するパルス信号とするとともに、それぞれの信号を同期させつつ出力させることを特徴とする溶接装置によって行うことができる。それぞれの信号を所定時間の位相差で同期させることにより、さらに効率良く溶接を行うことができる。
【0012】
なお、このときの所定のガスは、解離性ガスなどの電位傾度の高いガス、これらの混合ガス、あるいはこれらを含むガスであり、これらのガスを用いて予め設定しておいた駆動電力によってアークを発生させることにより、このアークによって母材を深く溶け込ますことができる。
【0014】
この場合、レーザビームの集光角度をθA、開先角度をθBとしたとき、
θA < θB ≦ θA+30°
に設定することにより、母材の開先部におけるレーザビームの吸収率は所定値以上となる。したがって、レーザビームによる溶接を効率良く行うことができる。
【0015】
また、アークとレーザビームとのそれぞれの出力信号を所定の周期を有するパルス信号とするとともに、それぞれの信号を同期させつつ母材に対して作用させることによっても、アーク及びレーザビームのエネルギーを効率良く母材に吸収させることができる。
このとき、それぞれの信号を所定時間の位相差で同期させることにより、さらに効率良く溶接を行うことができる。
【0017】
本発明のもう一つの溶接方法は、アーク溶接とレーザ溶接とを併用した溶接方法において、アーク及びレーザビームのそれぞれの出力信号を所定の周期を有するパルス信号とするとともに、前記それぞれの信号を同期させつつ前記母材に対して作用させることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、レーザビームによって照射された位置からは金属蒸気が発生し、この金属蒸気発生位置にアークが導かれる。そして、このレーザビーム及びアークのそれぞれの出力信号を、所定の周期を有するパルス信号とするとともに、それぞれの信号を同期させつつ母材に対して作用させることにより、レーザビーム及びアークのエネルギーを効率良く母材に吸収させることができる。すなわち、母材に開先部を設けない構成であっても、アークとレーザビームとのパルスを同期させつつ出力することにより、母材は効率良く溶接される。
【0019】
このような溶接方法は、母材の突き合わせ面でアークを発生させるアーク溶接装置と、母材におけるアーク発生点近傍にレーザビームを照射するレーザ溶接装置と、アーク及びレーザビームのそれぞれの出力信号を所定の周期を有するパルス信号とするとともに、それぞれの信号を同期させつつ出力させる制御装置とを備えることを特徴とする溶接装置によって行うことができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る溶接方法及び溶接装置の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は本発明の溶接方法及び溶接装置の一実施形態を説明するための概略構成図である。
【0021】
図1において、溶接装置1は、支持台Tに保持された母材Bの突き合わせ面Mにおける開先部Kに対してアークAbを作用させるアーク溶接装置2と、レーザビームLbを照射するレーザ溶接装置3と、溶接部分(突き合わせ面M)近傍に所定ガスGを供給し、この溶接部分近傍を所定ガス雰囲気下にするガス供給装置4とを備えている。そして、溶接装置1は制御装置CONTの指示に基づいて動作されるようになっている。
【0022】
アーク溶接装置2は、母材(被溶接物)Bに近接して設けられた溶接トーチ5と、この溶接トーチ5から突出する溶接電極(ワイヤ)6と、溶接トーチ5及びワイヤ6に電力を供給する駆動電源7と、溶接トーチ5にワイヤ6を連続的に供給可能なワイヤ供給装置8と、駆動電源7と母材Bとを連結する給電ケーブル9と、この給電ケーブル9に設けられた電流計10及び電圧計11とを備えている。このとき、ワイヤ6は駆動電源7の陽極(+極)側に接続されて通電可能となっている。一方、母材Bに接続された給電ケーブル9は駆動電源7の陰極(−極)側に接続されて通電可能となっている。この場合、ワイヤ6を陰極側に、給電ケーブル9を陽極側に接続することも可能である。なお、本実施形態においては、アーク溶接装置2は、ミグ溶接装置によって構成されているが、TIG、プラズマなどを用いた種々のアーク溶接装置によって構成することができる。
【0023】
レーザ溶接装置3は、母材Bに近接して設けられたレーザヘッド12と、レーザ発振器13と、レーザ発振器13から出射したレーザビームLbをレーザヘッド12に伝送するためのファイバケーブル14とを備えている。レーザ発振器13は、ロッド13a、出力鏡13b、パワーメータ13cを備えており、所定の出力でレーザビームLbを出射するようになっている。また、レーザヘッド12は、レーザ発振器13からファイバケーブル14によって伝送されたレーザビームLbを集光するための集光光学系15を備えており、母材Bの所定の位置に、集光したレーザビームLbを照射するようになっている。なお、本実施形態においては、レーザ溶接装置3は、YAGレーザ溶接装置によって構成されているが、CO2レーザなど、種々のレーザ溶接装置によって構成することができる。また、レーザ光学部品の汚染を低減するために、レーザビームLbの光軸に対して垂直方向に高速のガス流が供給されるようになっている。
【0024】
母材(被溶接物)Bを保持する支持台Tは、不図示の駆動機構によって図1中、+X方向に移動するように設けられている。すなわち、母材Bに対する溶接方向は+Xとなっている。このとき、図1に示すように、アーク溶接装置2の溶接トーチ5及びワイヤ6は、レーザ溶接装置3のレーザヘッド12に対して−X側に配置されている。すなわち、母材Bに対する溶接方向の上流側にレーザ溶接装置3が配置され、下流側にアーク溶接装置2が配置された構成となっている。このため、母材Bに対する溶接は、レーザビームLbによるものが先行される構成となっている。また、溶接トーチ5とレーザヘッド12とは、Z軸(垂線)に対して所定角度ずつ、同じ角度で傾斜して配置されている。すなわち、溶接トーチ5は溶接方向に対して上流側に、レーザヘッド12は下流側に向けて傾斜して配置されている。なお、本実施形態においては、支持台Tに保持された母材B側を移動する構成であるが、溶接トーチ5及びレーザヘッド12側を移動させることももちろん可能である。すなわち、母材Bは、アーク溶接装置2及びレーザ溶接装置3に対して相対的に移動可能となっている。
【0025】
ガス供給装置4は、溶接部分(突き合わせ面M)近傍に所定ガス(シールドガス)Gを供給し、この溶接部分近傍を所定ガスG雰囲気下にするものである。ガス供給装置4は、シールドガスGを収容したガス収容部(シールドガスボンベ)4aと、このシールドガスボンベ4aと溶接トーチ5とを接続する配管4bとを備えている。そして、シールドガスGは、溶接トーチ5から溶接部分に供給されるようになっており、溶接部分近傍はこのシールドガスGによってシールドされる。なお、溶接部分近傍をシールドボックスで囲み、このシールドボックス内にシールドガスGを供給する構成とすることも可能である。
【0026】
所定ガス(シールドガス)Gは、電位傾度の高いガス(解離性ガス等)、これらの混合ガス、あるいはこれらを含む混合ガスによって構成されている。例えば、電位傾度の高いガスはN2、He、H2、CO2、混合ガスはAr+N2、Ar+He、空気である。
【0027】
ところで、上記シールドガスG雰囲気下でアーク溶接を行った場合、アークAbは母材Bの内部(深部)で発生可能となる。すなわち、通常のアーク溶接では、アークAbは母材B表面よりも出た状態となるが、シールドガスGとして上記所定ガスを用いるとともに所定の条件下(所定の駆動電力)で溶接を行うことにより、母材B内部でアークAbを発生させることができる。このことについて、以下、図2、図3、図4を参照しながら説明する。なお、母材B内部にアークAbが発生する状態を、以降「埋もれアーク状態」と称する。
【0028】
例えば、アーク溶接近傍のシールドガスが上記所定ガスでない場合、母材Bを溶融させるためには、図2(a)に示すように、アーク長を所定の長さ確保しなければ、溶接を行うのに十分なエネルギーを得ることができない。このアーク長が長い状態で、母材Bの内部(深部)まで溶融させようとすると、溶融範囲(溶融池)16が広がるとともに、入熱量や熱歪が大きくなる。アーク長を短く設定することができれば狭い範囲を集中的に溶融させることができるが、アーク長を短くするためにはアーク電圧を低く設定する必要があり、アーク電圧を低くするとアークが維持できなくなり短絡してしまう。
【0029】
一方、上記所定ガスGの雰囲気下でアーク溶接を行う場合、図2(b)に示すように、溶接するのに十分な熱量を確保しつつアーク長を短くし、母材Bに対して集中的にアークAbを作用させることができる。すなわち、高温度のアークAbが作用したとき、所定ガスである解離性ガスは解離するが、解離に際しエネルギーを奪われる。すると、アークAbを維持するためにアークAbは縮まろうとし、エネルギー密度があがる。したがって、母材Bを溶融するのに十分なエネルギーを維持しつつアーク長を短くすることができる。したがって、溶融池16の範囲を拡大させずに、つまり、熱歪(入熱量)を抑えつつ、母材Bを内部(深部)まで溶融させることができる。
【0030】
なお、Heガスは解離性ガスではないが、密度が小さいため拡散速度が速い。したがって、解離性ガスと同様、アークAbを維持するために多くのエネルギーを必要とする。その結果、所定のエネルギーを維持したままアーク長を短くすることができる。
【0031】
このように、狭い範囲に対して集中的にアークAbを作用させることができるので、図2に示すように溶融池16の範囲を広げることなく(つまり、入熱量や熱歪を大きくすることなく)、母材Bに対して内部(深部)まで溶融させることができる。
【0032】
さらに、図2(c)に示すように、この埋もれアークによって形成されたクレータ部Cの底部CbにレーザビームLbが焦点を結ぶように照射することにより、クレータ部Cをさらに狭い範囲で集中的に深く形成することができる。すなわち、図3(a)に示すように、母材Bに対してアークAbのみを作用させた場合、アーク発生点は安定しない場合がある。しかしながら、図3(b)に示すように、母材Bであるクレータ部Cの所定位置CbにレーザビームLbを照射することにより、このレーザビーム照射位置Cbにアーク発生点が導かれる現象がおこる。これは、レーザビームLbが照射された位置Cbは高温となり、電子の移動が容易になるとともにプラズマ状態である金属蒸気が発生し、アークの極点(この場合、陰極)が生成されやすくなる。すると、ワイヤ6からのアークAbは、図3(b)に示すように、この金属蒸気が生じるレーザビームLbの照射位置Cbに導かれる。したがって、レーザビームLbの照射位置CbにアークAbを作用させることができるので、アークAbを所定の位置に集中させつつ安定して作用させることができる。
【0033】
さらに、クレータ部C(開先部K)によって、照射されるレーザビームLbは母材Bに対して効率良く吸収される。すなわち、母材Bに開先部Kがない状態(すなわち、母材Bが平板状である状態)では、図4(a)に示すように、レーザビームLbは母材Bの表面で反射して、母材Bに十分に吸収されない場合がある。一方、開先部Kがある状態では、図4(b)に示すように、照射されたレーザビームLbは開先部Kの内部で反射を繰り返す(多重反射)ので、レーザビームLbの吸収効率を向上させることができる。
【0034】
以上説明したような構成を備える溶接装置を用いて、母材Bに対して溶接する方法について説明する。
ここで、本発明の溶接方法は、予め、母材Bに対して所定の開先角度θBを設定する工程(工程1)と、埋もれアーク状態が生成される条件を求める工程(工程2)と、前記設定された開先角度θBを有する開先部Kに対して、埋もれアーク溶接を施すとともにレーザを照射する工程(工程3)とを備えている。
【0035】
<工程1>
まず、図1に示すように、支持台Tに被溶接物である母材Bを保持させる。このとき、母材Bの開先部Kの開先角度θBを、集光光学系15によるレーザビームLbの集光角度θAに応じて予め設定しておく。
【0036】
このとき、開先部Kの開先角度を2θ(=θB)、レーザビームLbの集光角度を2γ(=θA)とした場合、
2γ < 2θ ≦ 2γ+30° (1)
に設定することにより、開先部KにおけるレーザビームLbの多重反射の回数が多くなり、レーザビームLbのエネルギーの吸収効率が向上するので好ましい。この最適な開先角度2θを求める手順について、以下に説明する。
【0037】
<開先角度の設定>
ここで、最適な開先角度2θの設定の仕方について説明する。
図5に示すように、開先角度2θの開先部に対して、集光角度2γでレーザビームLbが照射された場合、図中、θ1、θ2は、
θ1=θ−γ (2)
θ2=θ1+2θ=3θ−γ (3)
となる。したがって、n回目の反射時における角度θnは、
θn=(2n−1)θ−γ (4)
となる。
【0038】
θn<90°のときは、レーザビームLbは、図6(a)に示すように開先部Kの内部へ反射するが、θn>90°のときは、図6(b)に示すように開先部Kの外部へ反射していく。そして、図6(c)に示すように、
θn>180°−2θ (5)
になると、レーザビームLbは開先部Kの外部に出ていく。
【0039】
具体例を図7、図8を用いて説明する。まず、図7に示すように、
開先角度:2θ=30°(θ=15°)
レーザビーム集光角度:2γ=20°(γ=10°) (図7(a)参照)である場合、(4)式より、θ1=5°、θ2=35°、θ3=65°、θ4=95°、θ5=125°、θ6=155°・・・となる(図7(b)参照)。この場合、(5)式より、レーザビームLbは6回目の反射で開先部Kより外部に出る。
【0040】
同様に、図8に示すように、
開先角度:2θ=70°(θ=35°)
レーザビーム集光角度:2γ=20°(γ=10°) (図8(a)参照)である場合、(4)式より、θ1=25°、θ2=95°、θ3=165°・・・となる(図8(b)参照)。この場合、(5)式より、レーザビームLbは3回目の反射で開先部Kより外部に出る。
【0041】
これらをまとめると、レーザビーム集光角度2γ=20°(レンズ径:50mm、焦点距離:100mm)である場合、(4)式より、
となる。したがって、(5)式より、レーザビームLbが開先部Kより外部に出るまでの反射回数は、
(2n−1)θ−γ > 180°−2θ (7)
となり、これをnについてまとめると、
n > (180°+γ)/2θ − 1/2 (8)
となる。
レーザビームLbが開先部Kより外部に出るまでの反射回数nは、(8)式を満たす最も小さい整数となる。つまり、
となる。これをグラフ化したものを、図9の線R1に示す。
【0042】
ところで、強度W0のレーザビームLbが開先部Kに入射した場合、開先部Kの壁面におけるビームの吸収率をAとすると、1回目の反射時における開先部の壁面での吸収量W1は、
W1=AW0 (9)
となる。同様に、2回目及び3回目の反射時における開先部の壁面での吸収量W2及びW3は、
W2=A(1−A)W0 (10)
W3=A[1−{A+A(1−A)}]W0 (11)
となる。
すると、(9)、(10)、(11)式より、計3回の反射による開先部Kに対するレーザビームLbの吸収量Wは、
W=W1+W2+W3 (12)
となる。以上のようにして得られる開先部K(母材B)に対するレーザビームLbの反射回数と吸収率W/W0 との関係を図10に示す。なお、この場合、母材Bをアルミニウム合金とし、レーザをYAGレーザとして、母材Bのレーザビーム吸収率A=0.2とした。
さらに、開先角度2θと吸収率W/W0 との関係を図9に線R2として示す。
【0043】
以上のように、開先角度2θは、レーザビーム集光角度2γに等しいほうがビーム吸収率Aは向上することが分かる。したがって、所望のレーザビーム吸収率に応じて、集光角度2γに基づいて開先角度2θを設定することができる。例えば、所望のビーム吸収率として60%の吸収率を確保したい場合には、2γ=20°の場合、開先角度2θ=50°、つまり、ビーム集光角度2γ+30°以下の開先角度2θが効果的である。
【0044】
一方、開先角度2θの下限値について、図11を参照しながら説明する。
図11に示すように、集光光学系15によって集光されるレーザビームLbは、以下の式を満たすガウス分布を示す。
f(ρ)=e−( ρ / ω )2 (13)
ここで、 ρ:レーザビームLbの光軸と垂直方向の座標
ω:レーザビーム径
f:集光光学系15の焦点距離
図11に示すように、ガウス曲線の振幅が中心の1/eに減少する位置がレーザビーム径ωとなる。しかしながら、レーザビーム径ωの範囲中には、レーザビーム全体のエネルギーの86.5%しか含まれていないことになる。そこで、ガウス曲線の振幅が中心の1/e2まで減少するまでの距離をとると、レーザビーム全体のエネルギーをほぼ100%使用することができる。すなわち、f(ρ)=1/e2となる位置ρは、
ρ=2(1/2)ω=ω’ (14)
γ=tan(−1)(ω/f) (15)
γ’=tan(−1)(2(1/2)ω/f) (16)
となる。ω=20mm、f=100mmとすると、γ=10°、γ’=15°となり、2γ’=30°≦開先角度(2θ)となる。
【0045】
以上説明したように、開先角度2θがレーザビーム集光角度2γに近すぎると開先部の外部で反射されて開先部の内部へ導入できないビームが生じレーザビームLbの母材Bに対する吸収率が低下する。一方、開先角度2θが大きくなると開先部K内部でのレーザビームLbの反射回数が減少し吸収率が低下する。したがって、(1)式で示した関係を満たすように、集光角度2γに応じて開先角度2θを設定することにより、レーザビームLbの母材Bに対する吸収率を所定値以上にすることができる。
さらに、一例として、レーザビーム集光角度2γ=20°の場合、
2γ+10°=30°≦ 2θ ≦ 50°= 2γ+30°
とすることにより、さらに所望の効果を得ることができる。
【0046】
<工程2>
次に、埋もれアーク状態が生成される条件を求める。
前述したように、アーク溶接を埋もれアーク状態とする。埋もれアーク状態は、所定ガスG雰囲気下において所定条件下でアーク溶接を施すことにより生成される。この所定条件とは、使用するシールドガスGの種類やアークの駆動電源の出力に応じて変化するものであって、予め実験によって設定することが可能である。この所定条件を設定するための実験結果の一例を図12に示す。
【0047】
図12は、所定ガスGの組成とアーク電圧との関係を示すグラフであって、横軸は所定ガスGの組成のうちArとN2との混合比を、縦軸はアーク電圧を示している。そして、アーク電圧と所定ガスGの組成との組み合わせに応じて、図12中、斜線部の範囲に示すように埋もれアーク状態が生成される。このように、所定ガスGの組成やアーク駆動電力をはじめとする溶接時における様々な条件によって、埋もれアーク状態が生成されるか否かが決定される。埋もれアーク状態が生成されるか否かの条件は、予め実験によって求めることができる。
なお、図12に示す埋もれアーク状態は一例であって、使用するシールドガスGやアーク溶接装置2の種類、アーク電圧によって異なり、予め実験によって最適な条件を求めることができる。
【0048】
<工程3>
工程1で設定したような開先角度2θを備える開先部Kに対してアーク溶接及びレーザ溶接を施す。
すなわち、支持台Tに保持された母材Bに対して、シールドガスGをガス供給装置4から供給しつつ、所定の出力で埋もれアーク溶接を行うとともに、形成されるクレータ部Cの底部Cbに向かってレーザビームLbを照射する。レーザビームLbが照射された位置からは、図3で説明したように、金属蒸気が発生しこのビーム照射位置に向かってアークAbが導かれるようになる。すなわち、照射位置を制御しやすいレーザビームLbを、所定の位置に焦点を結ぶように照射することによって、アークAbの発生点を制御することができる。このようにして、溶接部分の所望の位置に対してアークエネルギー及びレーザエネルギーを集中させることができる。
【0049】
さらに、所定の開先角度2θを有する開先部KにレーザビームLbを照射することにより、このレーザビームLbは開先部Kの壁面において反射を繰り返すので、レーザビームLbのエネルギーは効率良く母材Bに吸収される。このようにして、アーク溶接とレーザ溶接とを併用した溶接方法によって母材Bに対する溶接が行われる。
【0050】
以上説明したように、母材B内部の開先部KにおいてアークAbを発生させることにより、溶融範囲(溶融池)16を過剰に拡大させることなく所定の深さを有する深溶け込みなクレータ部Cを形成することができる。そして、このクレータ部Cに対してレーザビームLbを照射するすることにより、レーザビームLbは母材Bに効率良く吸収される。さらに、レーザビームLbを照射した位置(底部)Cbからは金属蒸気が発生しこの位置CbにアークAbの極点が安定して形成されるので、アークエネルギーもクレータ部Cの底部Cbに安定して集中させることができる。したがって、少ない駆動電力で深溶け込みな溶接を高速且つ安定して行うことができる。
【0051】
そして、アークAbとレーザビームLbとの相乗効果によって深溶け込みなクレータ部Cを形成することができるので、予め、深い開先部Kを形成する必要がないなど、作業性を向上させることができる。また、2種類の溶接方法で深溶け込みを行う構成であり、使用するエネルギー(電力)を抑えることができるとともに高速な溶接が可能となるので、低入熱を実現することができる。したがって、熱歪の少ない所望の品質を有する溶接を行うことができる。
【0052】
すなわち、溶接速度の向上や、低出力且つ低歪化による歪取工数低減を実現することができるので、高効率な溶接作業を行うことができる。さらに、銅合金やアルミニウム合金など、レーザ反射率の高い材料における溶接割れやブローホール生成などの溶接欠陥を低減することができるので、高品質な製品を生成することができる。
【0053】
また、レーザビームLbの集光角度2γ(θA)に応じて、開先部Kの開先角度2θ(θB)を設定することにより、レーザビームLbは開先部の外部で反射されることなく安定して開先部Kの内部に照射される。そして、レーザビームLbの集光角度を2γ、開先角度を2θとしたとき、
2γ < 2θ ≦ 2γ+30°
に設定することにより、母材Bの開先部KにおけるレーザビームLbの吸収率を所望の値以上とすることができる。したがって、レーザビームLbによる溶接を効率良く行うことができる。
【0054】
ところで、アーク電流及びレーザビーム出力をそれぞれ所定の周期でパルス化することにより、母材Bに対して効率良くエネルギーを吸収させることができ、母材Bの溶融を大きくすることができる。さらに、パルス化されたアークAb及びレーザビームLbの出力を、所定の位相差で同期させつつ、母材Bに対して作用させることにより、母材Bの溶融を更に効率良く行うことができる。
【0055】
この場合、図13に示すパルス同期装置において、パルス化されたアークAbを出力するアーク溶接駆動電源7のアーク電流波形を検出し、この検出結果をレーザ溶接駆動電源30のパルス制御回路31に入力する。このように制御することにより、図14に示すように、所定の周期t1でパルス幅t2を有するパルス化されたアークAb及びレーザビームLbを、位相差t3で同期させつつ母材Bに対して作用させることができる。ここで、図14(a)はレーザ出力波形を、図14(b)はアーク電流を示す。
【0056】
この場合、位相差t3は任意に設定可能である。しかしながら、母材Bに対してレーザビームLbを照射し金属蒸気が発生するまで(あるいは、キーホールが形成されるまで)に所定時間(例えば1ms以上)かかるとともに、レーザビームLbの照射を止めた時点で金属蒸気の発生(キーホールの形成)が止まることを考慮すると、位相差t3を、周期t1やパルス時間t2に基づいて、予め最適な時間に設定することが好ましい。
【0057】
すなわち、母材Bに対してレーザビームLbを照射し金属蒸気が発生した位置がアーク発生点となるので、レーザビームLbを照射して十分に金属蒸気が発生した後、アークAbを出力することにより、より安定した溶接が可能となる。つまり、金属蒸気の発生時間(あるいは、キーホールの形成時間)に応じて位相差t3を設定することが可能である。例えば、パルス波形の1/4周期に相当する時間に設定することができる。
【0058】
このように、アークAb及びレーザビームLbのそれぞれの出力を所定の周期でパルス化するとともに、それぞれの出力を同期させつつ母材Bに対して作用させることにより、アークAb及びレーザビームLbのそれぞれのエネルギーを効率良く母材Bに吸収させることができる。
【0059】
なお、上述した実施形態においては、開先部KにレーザビームLbを照射し、この開先部Kの内部でレーザビームLbを反射させるように説明したが、例えば、鉄など、レーザビームLbを吸収する特性を有する材料に対しては、開先部Kを設けなくても所望の効果を得ることができる。すなわち、レーザビームLbによってキーホールを形成し、このキーホールに対して埋もれアーク溶接を施すようにしてもよい。
【0060】
一方、銅合金やアルミニウム合金、あるいはステンレスなどは、レーザビームLbを反射する特性を有するので、レーザビームLbを照射しただけではキーホールは形成されにくい。したがって、この場合においては、開先部Kを形成し、この開先部Kに対してレーザビームLbを照射することにより、レーザビームLbはこの開先部K内部で多重反射するので有効である。
【0061】
<実験例1>
次に、本発明の溶接装置1によって母材Bに対して行った溶接方法の第1実験例について、図15、図16、図17を参照しながら説明する。
図15に示すような2種類の母材Bに対して、それぞれ溶接を施した。すなわち、図15(a)に示すように、開先部Kが形成された母材Bと、図15(b)に示すように、開先部がない母材Bとに対して、それぞれ所定の条件で溶接を施した。なお、それぞれの母材Bとして板厚が2.8mmのアルミニウム合金を用いた。
【0062】
そして、上述したような母材Bに対して、レーザ溶接法のみによる溶接、アーク溶接法のみによる溶接、レーザ溶接法とアーク溶接法とを併用した溶接の3つの方法による溶接を施した。
用いた溶接装置は図1において説明したものであり、アーク溶接装置2としてミグ溶接装置を用いた。一方、レーザ溶接装置3としてYAGレーザ装置を用いた。ワイヤはワイヤ径1.2mmとした。レーザビーム出力は2kW、溶接速度は3m/min.とした。ミグ電源はパルスミグに設定し、平均溶接電流及び電圧はそれぞれ210A、19V(パルス電流340A、パルス幅1.2ms、周波数240Hz)とした。シールドガスはArを用い、流量は25L/min.とした。
また、集光光学系15によるレーザビームLbの集光角度2γは22°であり、この集光角度2γに基づいて、レーザビームLbのエネルギーの吸収率を向上させ、溶着量を小さくし入熱を低く抑えるために開催角度2θを30°とした。
【0063】
実験結果を図16、図17に示す。このうち、図16は、開先部Kが形成された母材B(図15(a)参照)に対して溶接を施した場合の結果であり、図17は、開先部Kが形成されていない平板状の母材B(図15(b)参照)に対して溶接を施した場合の結果である。そして、それぞれ図16、図17のうち、(a)はレーザ溶接とアーク溶接とを複合した溶接(以下、「ハイブリッド溶接」と称する)、(b)はアーク溶接のみ、(c)はレーザ溶接のみ、を施した場合の溶接部分近傍の拡大図である。なお、図21、図22には、図16、図17の各写真に対応する模式図及び埋もれアークハイブリッド溶接(開先部あり)を施した場合の模式図が示されている。
【0064】
図16(a)に示すように、開先部Kが形成された母材Bに対してハイブリッド溶接を施した場合、母材Bは裏面側まで溶融されており、大幅に溶融部分が増大している。ところが、図16(b)に示すように、アーク溶接のみの場合においては、開先部Kの底部に融合不良が生じている。また、図16(c)に示すように、レーザ溶接のみの場合においては、開先部Kの内部でのレーザビームLbの多重反射によって、突き合わせ面は溶融するが、十分に接合するに至っていない。
さらにAr+40%N2を使用して埋もれアークにすると、図23に示すように埋もれアークのみの場合でも溶込み深さが大幅に大きくなっていることからレーザとの併用によりさらに深溶込み溶接が可能になる。
【0065】
図17(a)に示すように、平板溶接の母材Bに対してハイブリッド溶接を施した場合、母材Bの溶融部分は大きい。また、図17(b)に示すように、アーク溶接によって平板溶接を行った場合、母材Bの溶融部分は小さくなっている。図17(c)に示すように、レーザ溶接を施した場合には、レーザビームはアルミニウム合金からなる母材Bに対して反射し、十分に溶融させることができない。また、図16(a)と図17(a)とから分かるように、平板溶接のほうが、開先部Kを設けた場合に比べて溶融部分が小さい。これは、開先部Kを設けたことによるレーザビームLbの母材Bに対する吸収性が向上されたとともに、開先部K底部にアークエネルギーが集中されたためである。
【0066】
このように、母材Bの突き合わせ面Mに所定の角度を有する開先部Kを形成し、この開先部Kに対してハイブリッド溶接を施すことにより、突き合わせ面Mの溶融部分を増大させることができ、安定した溶接を行うことが確認できる。
【0067】
すなわち、レーザビームLbを照射することによってアークAbを所定位置へ誘導することができるとともに、アークAbの発生を安定化させることができる。そして、従来のミグ溶接方法では、開先部Kにおいて図16(b)に示したように融合不良など溶接欠陥が発生する場合が生じるが、アークAbと同時にレーザビームLbを照射することにより、深溶け込み溶接が可能であることが確認できる。
【0068】
さらに、ハイブリッド法により、溶接速度が3m/min.(従来のミグ溶接法の約3倍)といった高速溶接を実現することができるとともに、この場合、溶接入熱1.2kJ(従来のミグ溶接法の約1/2)といった低入熱溶接を実現することができる。このため、作業性は向上するとともに、熱歪を抑えることができるので、高精度な溶接が可能であることが確認できる。
【0069】
<実験例2>
次に、本発明の溶接装置1によって母材Bに対して行った溶接方法の第2実験例について、図18、図19、図20を参照しながら説明する。第2実験例は、溶融特性に及ぼすレーザビーム波形の影響を調べるためのものであり、レーザビームLbを連続発振した場合と、パルス発振した場合とにおける溶融特性を調べた。この場合、レーザビーム平均出力は、第1実験例と同様、2kWに設定し、レーザビームを連続発振した場合と、ピーク出力3.5kW、周波数500Hzでパルス発振した場合と、ピーク出力5kW、周波数100Hzでパルス発振した場合との3つの条件において実験を行った。また、第1実験例と同様、溶接速度を3m/min.に設定し、ミグ溶接の駆動電流は200A、駆動電圧は20Vに設定した。
【0070】
図18、図19、図20に実験結果を示す。このとき、各図の(a)は、溶接部分近傍の拡大図であり、各図の(b)は、そのときのレーザビーム波形であって、縦軸はレーザビーム出力を、横軸は時間を示している。そして、図18はレーザビームを連続発振した場合、図19はレーザビームをピーク出力3.5kW、周波数500Hzでパルス発振した場合、図20はレーザビームをピーク出力5kW、周波数100Hzでパルス発振した場合をそれぞれ示している。
【0071】
これらの図に示したように、レーザビームを連続発振した場合では溶融量はほとんど増大していないが、パルス発振で3.5kW程度のピークがあれば深く安定した溶融が得られることがわかる。
さらにパルス化されたアークとレーザビームとを同期させることによって、アークとレーザとのエネルギーを効率良く母材に吸収させることができ、深溶込み溶接が可能になる。
【0072】
【発明の効果】
本発明の溶接方法及び溶接装置は以下のような効果を有するものである。
本発明によれば、所定のガス雰囲気下において所定の駆動電力で母材内部にアークを発生させることにより、溶融範囲を過剰に拡大させることなく所定の深さを有する深溶け込みなクレータ部を形成することができる。この深く形成されたクレータ部に対してレーザを照射するすることにより、レーザは効率良く母材に吸収される。そして、レーザを照射した部分からは金属蒸気が発生するため、この部分にはアークの極点が安定して形成されるので、アークのエネルギーもクレータ部の底部に集中する。したがって、母材の突き合わせ面は深く溶け込むので、安定した溶接を行うことができる。このように、アークとレーザとの相乗効果によって深溶け込みなクレータ部を形成することができるので、予め深い開先部を形成する必要がないなど、作業性を向上させることができる。また、2種類の溶接方法で深溶け込みを行う構成であり、使用するエネルギー(電力)を抑えることができるとともに、低入熱を実現することができるので、所望の品質を有する溶接を行うことができる。
【0073】
所定のガスは、電位傾度の高いガス、これらの混合ガス、あるいはこれらを含むガスであり、これらのガスを用いて予め設定しておいた駆動電力によってアークを発生させることにより、このアークによって母材を深く溶け込ますことができる。
【0074】
レーザビームの集光角度に応じて、開先部の開先角度を設定することにより、開先部に照射されたレーザビームは反射されることなく安定して開先部の内部に照射される。
この場合、レーザビームの集光角度をθA、開先角度をθBとしたとき、
θA < θB ≦ θA+30°
に設定することにより、母材の開先部におけるレーザビームの吸収率は所定値以上となる。したがって、レーザビームによる溶接を効率良く行うことができる。
【0075】
アークとレーザビームとのそれぞれの出力信号を所定の周期を有するパルス信号とするとともに、それぞれの信号を同期させつつ母材に対して作用させることによっても、アーク及びレーザビームのエネルギーを効率良く母材に吸収させることができる。
このとき、それぞれの信号を所定時間位相させることにより、さらに効率良く溶接を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の溶接装置の一実施形態を示す全体構成図である。
【図2】埋もれアーク状態を説明するための模式図である。
【図3】アークがレーザビーム照射位置に導かれる様子を説明するための模式図である。
【図4】開先部内部においてレーザビームが母材に吸収・反射される様子を説明するための模式図である。
【図5】レーザビーム集光角度と開先部の開先角度との関係を説明するための図である。
【図6】レーザビームが反射する様子を説明するための図である。
【図7】レーザビーム集光角度と開先部の開先角度との関係を説明するための図である。
【図8】レーザビーム集光角度と開先部の開先角度との関係を説明するための図である。
【図9】母材のレーザビーム吸収率と開先部の開先角度との関係を示す図である。
【図10】母材のレーザビーム吸収率と開先部における反射回数との関係を示す図である。
【図11】レーザビーム集光角度と開先部の開先角度との関係を説明するための図である。
【図12】埋もれアーク状態が生成される条件を説明するための図である。
【図13】レーザビームとアークとを同期させる同期装置を説明するための図である。
【図14】レーザビームとアークとの出力波形を説明するための図である。
【図15】第1実験例を説明するための図であって実験に使用した母材を説明するための図である。
【図16】第1実験例を説明するための図であって開先部を備えた母材に対して溶接を行ったときの実験結果を示す図である。
【図17】第1実験例を説明するための図であって平板状の母材に対して溶接を行ったときの実験結果を示す図である。
【図18】第2実験例を説明するための図であってレーザビームを連続発振したときの溶接の状態を説明するための図である。
【図19】第2実験例を説明するための図であってレーザビームをパルス発振したときの溶接の状態を説明するための図である。
【図20】第2実験例を説明するための図であってレーザビームをパルス振したときの溶接の状態を説明するための図である。
【図21】図16に対応する模式図及び埋もれアークハイブリッド溶接の状態の模式図である。
【図22】図17に対応する模式図である。
【図23】開先部を備えた母材に対して埋もれアーク溶接を行ったときの実験結果を示す図である。
【符号の説明】
1 溶接装置
2 アーク溶接装置
3 レーザ溶接装置
4 ガス供給装置
15 集光光学系
B 母材
C クレータ部
G 所定ガス
M 突き合わせ面
K 開先部
Ab アーク
Lb レーザビーム
θA(2γ) レーザビーム集光角度
θB(2θ) 開先角度
Claims (8)
- アーク溶接とレーザ溶接とを併用した溶接方法において、
母材の突き合わせ面における開先部に対して予め設定された所定の駆動電力によって所定のガス雰囲気下でアークを発生させ、該アークによる熱により母材内部を溶融してクレータ部を形成するとともに、該クレータ部の底部にレーザビームを照射し、前記母材を溶接し、前記レーザビームの集光角度に応じて、前記開先部の開先角度を設定することを特徴とする溶接方法。 - 請求項1に記載の溶接方法において、
前記所定のガスは、解離性ガスなどの電位傾度の高いガス、これらの混合ガス、あるいはこれらを含むガスであることを特徴とする溶接方法。 - 請求項1又は2に記載の溶接方法において、
前記レーザビームの集光角度をθA、開先角度をθBとしたとき、
θA < θB ≦ θA+30°
に設定することを特徴とする溶接方法。 - 請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶接方法において、
前記アーク及びレーザビームのそれぞれの出力信号を所定の周期を有するパルス信号とするとともに、前記それぞれの信号を同期させつつ前記母材に対して作用させることを特徴とする溶接方法。 - 請求項4に記載の溶接方法において、
前記それぞれの信号を所定時間の位相差で同期させることを特徴とする溶接方法。 - アーク溶接とレーザ溶接とを併用した溶接方法において、
アーク及びレーザビームのそれぞれの出力信号を所定の周期を有するパルス信号とするとともに、前記それぞれの信号を同期させつつ前記母材に対して作用させることを特徴とする溶接方法。 - 母材の突き合わせ面における開先部内部でアークを発生させるアーク溶接装置と、
前記アークによる熱により前記母材に形成されたクレータ部の底部にレーザビームを照射するレーザ溶接装置と、
前記母材の突き合わせ面近傍に所定のガスを供給するガス供給装置と、
前記アークが母材内部で発生するよう駆動電力を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記アーク溶接装置及びレーザ溶接装置から出力されるアーク及びレーザビームのそれぞれの出力信号を所定の周期を有するパルス信号とするとともに、前記それぞれの信号を同期させつつ出力させることを特徴とする溶接装置。 - 母材の突き合わせ面でアークを発生させるアーク溶接装置と、
母材におけるアーク発生点近傍にレーザビームを照射するレーザ溶接装置と、
前記アーク及びレーザビームのそれぞれの出力信号を所定の周期を有するパルス信号とするとともに、前記それぞれの信号を同期させつつ出力させる制御装置とを備えることを特徴とする溶接装置。
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