JP2004223543A - レーザとアークの複合溶接方法およびそれに用いる溶接継手の開先形状 - Google Patents
レーザとアークの複合溶接方法およびそれに用いる溶接継手の開先形状 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】被溶接材1、2の突き合わせ、その突合せ面に設けられた開先3をレーザとアークにより複合溶接する方法において、アーク溶接法は消耗電極式ガスシールドアークによる短絡移行形態とし、かつ、レーザ溶接とアーク溶接の順序はレーザ先行・アーク後行とし、開先3の突合せ面のルートギャップLGをレーザ光11のスポット径以上として、キーホール形成用間隙を設け、アーク溶接により形成される溶融池23上にレーザ光を照射してキーホール12を形成しながら、アーク溶接による溶着金属をそのキーホールおよびキーホール形成用間隙内に流入させることにより溶接する。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、レーザとアークの複合溶接方法に関し、特に厚板の突き合わせ溶接に好適なレーザとアークの複合溶接方法およびその複合溶接に用いる溶接継手の開先形状に関する。
【0002】
【従来の技術】
レーザとアークを組み合わせた複合溶接方法は従来より多くの提案がなされており、例えば、特許文献1には、溶接進行方向の先行をレーザとし、後行をアークとするレーザとアークの複合溶接方法が開示されている。そして、この複合溶接方法は、開先のルートギャップを被溶接材の板厚の10%以上でレーザ光のビーム径以下として突き合わせ溶接を行うものである。すなわち、開先のルートギャップを被溶接材の板厚の10%以上レーザ光のビーム径以下に設定することにより、レーザ光がルートギャップの深部まで入り込むため、レーザによる溶込み深さを深くすることができ、比較的低出力のレーザでも厚板の高速溶接が可能であるとされている。
【0003】
また、特許文献2には、同じく溶接進行方向の先行をレーザとし、後行をアークとするレーザとアークの複合溶接方法において、図9に示すように、開先3の底部に連続してレーザ導光用ギャップ38を設けてレーザ光を被溶接材1、2の板厚方向の深部にまで到達させて突き合わせ溶接することが開示されている。またこの場合、レーザ光の焦点深度が一定のビーム径となる焦点平行部D内に被溶接材1、2の板厚を内包するようにして溶接することとしている。これは言い換えると、ルートギャップはレーザ光のビーム径以下としているという意味である。
【0004】
上にあげた各特許文献に開示された複合溶接方法はいずれも、レーザの有する深溶込みの特性を活用し、より深い溶込みを得るべく開先のルートギャップを特定ないし改良したものである。すなわち、特許文献1では、ルートギャップを、被溶接材の板厚の10%以上レーザ光のビーム径以下とするものであり、特許文献2では、開先の底部に連続してレーザ導光用ギャップを設けるものである。
【0005】
【特許文献1】
特開平10−216972号公報(段落[0006]−[0016]、図1、図2)
【特許文献2】
特開平10−225782号公報(段落[0006]−[0020]、図1、図2)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記の複合溶接方法はいずれも、アーク溶接による溶着金属を生成する前に先立ってレーザ光を前記ルートギャップに照射し、そのルートフェイス面をレーザにより溶融させたのちに、アーク溶接による溶着金属を流入させるものである。そのために、特許文献1では、ルートギャップの上限値をレーザ光のビーム径以下としている。ビーム径すなわち収束させたレーザ光の焦点平行部のビーム径(本明細書では、「スポット径」という)は、一般に1mm以下、通常は0.4〜0.8mmである。ルートギャップの無い開先と比較すると、この程度の小さいルートギャップでも溶込み深さは増加するが、その増加量は厚板溶接の分野では必ずしも十分とはいえない。特許文献1に示された実施例に該当する文献を調査したところ、7kWの大出力CO2レーザによる報告がなされているが、4kWの低出力YAGレーザにおいて十分な溶込み深さを得るには、未だ不十分である。
一方、特許文献2では、V形開先の底部に連続してレーザ導光用ギャップを設けたものであるが、レーザ導光用ギャップはビームウェスト(レーザスポット径)よりも小さいため、本質的には上記特許文献1の技術と同様の問題がある。
【0007】
したがって、本発明の目的は、低出力のレーザでも十分な溶込み深さが得られるレーザとアークの複合溶接方法を提供すること、及び、その複合溶接に適した開先形状を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るレーザとアークの複合溶接方法は、被溶接材を突き合わせ、その突合せ面に設けられた開先をレーザとアークにより複合溶接する方法において、アーク溶接法は消耗電極式ガスシールドアークによる短絡移行形態とし、かつ、レーザ溶接とアーク溶接の順序はレーザ先行・アーク後行とし、前記開先の突合せ面の間隙をレーザ光のスポット径以上として、キーホール形成用間隙を設け、消耗電極式ガスシールドアーク溶接により形成される溶融池上にレーザ光を照射してキーホールを形成しながら、消耗電極から短絡移行形態にて溶融池に移行した溶着金属をそのキーホールおよびキーホール形成用間隙内に流入させることにより突合せ溶接を行うことを特徴とするものである。
【0009】
本発明においては、
(1)開先突合せ面の間隙(すなわち、ルートギャップ)をレーザ光のスポット径以上とすること、
(2)未溶融の開先にレーザ光を直接照射するのではなく、アーク溶接により形成される溶融池上に照射すること、
(3)アーク溶接法は消耗電極式ガスシールドアークによる短絡移行形態とすること
が最も重要である。
したがって、ルートギャップがレーザ光のスポット径以上であっても、アーク溶接法が消耗電極式ガスシールドアークによる短絡移行形態であるため、アーク圧力が弱く、アーク直下近傍すなわちレーザ照射部に溶融金属が存在するため、レーザ光はルートギャップを通過せずに、アーク溶接により形成される溶融池上にキーホールを形成する。そして、ルートギャップを従来技術よりも大きくできるため、キーホールの深さが増加し、その結果、従来技術よりも溶込み深さを増加することができる。
一方、アーク溶接の溶滴移行形態が短絡移行ではなく、スプレー移行等のオープンアークの場合はアーク圧力が強く、アーク直下すなわちレーザ照射部の溶融金属量が少ないため、ルートギャップを大きくした場合はレーザ光がルートギャップを通過し、溶込み深さは逆に減少する。
よって、本発明では低出力。低価格のレーザでも深い溶込みが得られる。なお、溶込み深さPの定義を図7に示す。
【0010】
また、本発明のレーザとアークの複合溶接方法は、前記開先突合せ面が、レーザ光の入射方向または板厚方向に平行になっている開先に対して溶接するものであり、あるいは、レーザ光の入射方向または板厚方向に末広がり状、または平行な部分と末広がり状の部分とを有する開先に対して溶接するものである。
【0011】
すなわち、本発明では、前記キーホール形成用間隙が、レーザ光の入射方向(入射光軸)または板厚方向に平行な部分、末広がり状の部分、あるいは平行部と末広がり状の傾斜部を有する部分のいずれかに構成されるものであり、そのキーホール形成用間隙をレーザ光のスポット径以上とすることにより、溶込み深さを増加させることができるのである。
しかし、キーホール形成用間隙をあまり大きくすると、溶着金属の抜け落ちや表面張力によりビード表面のひけ(アンダーフィル)が大きくなるため、キーホール形成用間隙は、レーザ光のスポット径以上で、かつ開先突合せ面部分の全厚の1/2以下、または、最大でも4mm以下とする。
ここで、開先突合せ面部分(ルートフェイス部)の全厚とは、キーホール形成用間隙が前記のように平行部と末広がり状の傾斜部とからなる場合は、これらの部分の合計厚さをいい、その他の場合はそれぞれ単独の開先突合せ面部分(ルートフェイス部)の厚さをいう。
【0012】
また、レーザ光の照射位置とアークの狙い位置との距離LAは0〜5mmとする。LAが5mmを超えると、レーザ照射部とアーク直下部とが離れすぎ、アーク溶接による溶融金属がレーザ照射部の方へ流動しにくくなり、その結果、レーザ光はルートギャップを通過するだけとなってしまい、溶込みは得られないからである。
また、LAが0mm未満の場合では、レーザ溶接よりもアーク溶接が先行するため、レーザによるキーホール形成をアーク溶接による溶融金属が阻害し、キーホールを閉じようとするためである。
【0013】
また、本発明で使用するレーザは、YAGレーザが好ましい。その理由は以下のとおりである。溶接用レーザの主流はCO2レーザとYAGレーザであるが、CO2レーザの波長はYAGレーザの約10倍であるため、CO2レーザはYAGレーザと比較してレーザ照射部近傍に「ブルーム」と呼ばれる金属プラズマが大量に発生し、これがレーザ光を吸収するため、母材に到達するレーザのエネルギが減少するという特徴がある。「ブルーム」の発生はレーザ単独溶接と比較して、レーザ・アーク複合溶接では特に顕著であるためである。
また、シールドガスには、炭酸ガスまたは炭酸ガスの混合比が10%以上の不活性ガスとの混合ガスを用いる。
【0014】
また、本発明のレーザとアークの複合溶接に用いて好適な開先形状は、
第1に、開先突合せ面の間隙が、レーザ光のスポット径以上であり、かつその開先突合せ面の形状が、レーザ光の入射方向または板厚方向に平行になっているものである。
【0015】
第2に、開先突合せ面の間隙が、レーザ光のスポット径以上であり、かつその開先突合せ面の形状が、レーザ光の入射側と反対方向または被溶接材の板裏面側に末広がり状になっているものである。
【0016】
第3に、開先突合せ面の間隙が、レーザ光のスポット径以上であり、かつその開先突合せ面の形状が、レーザ光の入射方向または板厚方向に平行な部分と末広がり状の部分とを有するものである。
【0017】
また、前記の各開先形状は、開先突合せ面のレーザ光入射側にV形またはこれに類似する開口部を設けてなるものである。
このような突合せ継手の開先形状とすることにより、ビード形状が良好で溶込み深さの深いレーザとアークの複合溶接を実施することができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面により説明する。図1は本発明のレーザとアークの複合溶接方法の概要を示す模式図、図2はその溶接部の上面図、図3は複合溶接方法の作用を示す模式図である。これらの図において、1、2は被溶接材であり、溶接線に沿う突合せ面には所定形状の開先3が加工されている。開先3については後で詳しく説明する。溶接進行方向は矢印で示す方向である。ここでは、溶接進行方向の前方にレーザヘッド10を配置し、その後方にアーク溶接トーチ20を配置して突合せ溶接を行っている。すなわち、アーク溶接トーチ20の溶接ワイヤ21の先端部から発生するアーク22による溶融池23上にレーザヘッド10からの収束されたレーザ光11を照射し、レーザ光11によりキーホール12を溶融池23に形成しながら溶接する状況が示されている。また、アーク溶接の溶滴移行形態は短絡移行であり、アーク22が発生する期間と溶接ワイヤ21が溶融池に短絡する期間が交互に繰り返される。なお、図1において、Aはレーザ焦点、Bはアーク発生点をあらわし、24は溶接チップ、25は溶接ビードである。
【0019】
この実施形態において、レーザヘッド10は溶接線に対し垂直に設置され、アーク溶接トーチ20は30゜の前進角で設置されている。また、レーザにはYAGレーザを使用しているが、特にこれに限定されるものではない。アーク溶接トーチ20による溶接は消耗電極式ガスシールドアーク溶接(MGAW)とし、溶滴移行形態が短絡移行となるような溶接条件を用いる。また、レーザ光11の照射位置Aとアーク22の狙い位置Bとの距離LAは、0〜5mmの範囲が適当である。
【0020】
このレーザヘッド10は、光ファイバや光学系等を介して導かれるレーザ光を集光レンズ13で収束し、いわゆるビーム・ウェスト(beam waist)と呼ばれるスポット光11を所定位置に照射するようになっている。また必要に応じて、アシストガス(例えば、炭酸ガス)を噴射するノズル(図示せず)がレーザヘッド10と同軸状に、もしくはその近傍に別体で設けられる。
【0021】
アーク溶接トーチ20は、自動的に送給される溶接ワイヤ21の先端からアーク22を発生させ、短絡移行形態により溶接ワイヤからの溶滴が溶融池23に移行する。また、アーク溶接の際、シールドガス(例えば、CO2等の活性ガス、もしくはArとCO2の混合ガス)をアーク溶接トーチ20を通じて噴出させている。
【0022】
図4は本発明の複合溶接方法に適用される基本的な開先形状の例を示す断面図である。
開先形状の基本形は、主に次の3種類に分けられる。
(1)平行開先型(図4(a)参照)
(2)逆V開先型(図4(b)参照)
(3)複合開先型(図4(c)参照)
【0023】
(1)平行開先型(図4(a)参照)
平行開先型は、被溶接材1、2の表面部(上面部)に形成されるV形開口部31と、開先突合せ面を構成するルートフェイス部32とを連続させ、かつルートフェイス部32が被溶接材1、2の板厚方向(レーザ光の入射方向)に平行になるように形成される開先形状である。いわゆるY形開先である。そして、この相対向するルートフェイス部(開先突合せ面)32の間隙であるルートギャップRGは、レーザ光の前記ビーム・ウェスト部(または前記特開平10−225782号公報に記載の焦点平行部、図9参照)のスポット径以上に設定する。このようにレーザ光のスポット径以上の間隙に設定される開先突合せ面の間隙、すなわちルートギャップRGを、本明細書においては「キーホール形成用間隙」と称している。
【0024】
(2)逆V開先型(図4(b)参照)
逆V開先型は、被溶接材1、2の表面部(上面部)に形成されるV形開口部31と、開先突合せ面を構成する末広がり状のテーパ状ルートフェイス部33とを連続して形成される開先形状である。すなわち、V形開口部31の底部に連続する開先突合せ面が被溶接材1、2の板厚方向(レーザ光の入射方向)に末広がり状に傾斜している形状である。そしてこの場合、前記キーホール形成用間隙RGは、V形開口部31とテーパ状ルートフェイス部33とが接続する位置34における最も狭くなるギャップ幅で規定される。すなわち、この最小のギャップ幅RGがレーザ光のスポット径以上に設定される。また、テーパ状ルートフェイス部33の被溶接材裏面側の最大ギャップ幅は、キーホール形成用間隙RGの上限値(4mm)以下に設定する。なお、貫通ビードの場合にあっては、裏当材を使用することにより、この上限値を若干超えることも許容できる。
【0025】
(3)複合開先型(図4(c)参照)
複合開先型は、前記平行開先型と逆V開先型とを複合(合成)したものであり、V形開口部31の底部に連続して平行なルートフェイス部32を設け、さらに平行ルートフェイス部32に続けてテーパ状ルートフェイス部33を設けた開先形状である。この場合のキーホール形成用間隙RGは、平行ルートフェイス部32の間隙で規定され、その間隙がレーザ光のスポット径以上に設定される。なお、テーパ状ルートフェイス部33は、この例では、裏ビード形状の調整を目的としているため、深さ(厚さ)DBは小さくされる。
【0026】
なお、上に述べたV形開口部31の開先角度α、深さDg、平行ルートフェイス部32の深さ(厚さ)LK、およびテーパ状ルートフェイス部33のテーパ角度β、深さ(厚さ)LKは、被溶接材の板厚、溶接条件(レーザ出力、溶接電流・電圧、溶接速度等)などに応じて決められる。
また、キーホール形成用間隙RGのギャップ幅は、ルートフェイス部の全厚LKの1/2以下、または最大でも4mm以下に設定する。
【0027】
また、本発明においては、前記開先形状に類似する形状を含むものであることはいうまでもない。例えば、開口部31の断面形状はV形に限らずこれに類似する形状、例えばU形や円弧状などとしてもよい。また複合開先型では、V形開口部31に続けて平行ルートフェイス部32、そしてテーパ状ルートフェイス部33と続く形状としているが、これとは逆に、V形開口部31、テーパ状ルートフェイス部33、そして平行ルートフェイス部32と続く形状としてもよいものである。
【0028】
以上のいずれかの開先形状に形成された開先3を用いて本発明のレーザとアークの複合溶接を行う。この複合溶接方法を図1〜図3に基づいて説明する。
まず、アーク溶接トーチ20の溶接ワイヤ21の先端からアーク22を発生させ、開先3のV形開口部31内に溶融池23を形成する。アーク溶接のよう滴移行形態は短絡移行でありアーク圧力が弱いため、アーク直下近傍には溶融金属が存在する。溶融池23が形成されたのち、アーク22の近傍において溶融池23の上方からレーザヘッド10にて収束されたレーザ光11を溶接線に垂直に照射する。レーザ光11は(幾何学上の)焦点位置がV形開口部31とルートギャップ部32の接続点34、または若干下方に位置するように照射する。また、レーザとアーク間距離LAは0〜5mmの範囲内に設定する。そうすると、開先3のルートギャップはレーザ光のスポット径以上に設けられているが、レーザ照射部に溶融金属が存在するので、レーザ光はルートギャップ部を通過することなく、開先3内の深部(被溶接材板厚方向の深部)にまで深いキーホール12を容易に形成することができる。また、アーク溶接による溶着金属はこの深いキーホール12内およびキーホール形成用間隙内に流入し、良好な突合せ溶接継手を形成する。したがって、YAGレーザのような比較的低出力のレーザでも深いキーホールを形成することが可能なので、このようにキーホール12を形成しながら溶着金属をキーホール12およびキーホール形成用間隙内に流入させることにより、溶込み深さの深い突合せ溶接が可能となる。
【0029】
【実施例】
本発明の実施例を図5により説明する。図5の(a)は通常のビードオン複合溶接の場合、(b)は平行開先型(Y形開先)に対する複合溶接の場合で、それぞれキーホール形成用間隙なしとありの場合を示している。実験に供した試験片、レーザ、アーク等の仕様、試験条件は次のとおりである。
【0030】
また、Y形開先の複合溶接におけるルートギャップのギャップ幅と溶込み深さとの関係(試験結果)を図6に示す。図7は溶込み深さの定義を示す図である。溶込み深さPは、開先部31の底部におけるルートフェイス部の接続点34から開先溶融部の最下端までの距離である。
【0031】
まず、レーザ・アーク複合溶接と同条件でレーザ単独溶接を行った場合、ルートギャップゼロにおける溶込み深さPは約5mmである。また、従来技術のようにルートギャップをレーザ光のスポット径以下とした場合、溶込み深さは7mm程度まで増加するが、ルートギャップがレーザ光のスポット径以上の場合は、レーザ光がルートギャップを通過するため、溶込みはゼロとなる。
一方、レーザ・アーク複合溶接の場合、キーホール形成用間隙なし(ルートギャップゼロ)のときには、溶込み深さはレーザ単独溶接のときとほとんど変わらないが、所定のギャップ幅のキーホール形成用間隙を設けると、図6に示すように、溶込み深さが大幅に増加する。例えば、ギャップ幅がスポット径と同等の0.5mmのときは、溶込み深さは7mm程度であるが、ギャップ幅がスポット径以上の2mmのときは、溶込み深さは10mm以上にもなる。また、この条件では溶込み深さの極大値はギャップ幅が2mmのときにみられ、3mmを超えると、溶込み深さが急激に減少する傾向を示す。また、溶込み深さはレーザとアーク間距離LAにより影響を受けるが、LA=0〜5mmの範囲では、ギャップ幅の上限値は3mmが適当である。その理由は、これ以上ギャップ幅が大きくなると、前述のように溶け落ちが生じるからである。従って、ギャップ幅の上限値は、一般的にルートフェイス部の全厚LKの1/2であるが、最大でも3mmが適当なようである。
【0032】
本発明は、前述のように従来技術と比較して更なる溶込み深さの増加が可能であるので、厚板の突き合わせ溶接、特に溶接鋼管や造船、一般構造物等の突き合わせ溶接に好適なものである。
また、開先形状についても、例えば、図8(a)に示すようなI形開先であっても、そのルートギャップRGが本発明でいう「キーホール形成用間隙」の要件を充足する限り、適用可能である。
さらに、図8(b)に示すように、隅肉溶接の場合はレ形開先とすることで、適用可能である。この場合、レ形開先は、立板1の側面1aと、下板2の傾斜部2bを付けた端面2aとで構成される。そして、立板1の側面1aと下板2の端面2aとで形成されるルートギャップRGは、前記キーホール形成用間隙とする。このレ形開先の複合溶接は、レーザヘッドの中心(レーザ光軸)L0を垂直線から下板2側へ10゜程度傾けて行うため、キーホール形成用間隙の方向はレーザ光に平行ではなく、板厚方向となる。
【0033】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、突き合わせ開先のルートギャップをレーザ光のスポット径以上とし、アークによる溶融池上からレーザ光を照射してキーホールを形成するものであるので、低出力のレーザでも更なる溶込み深さの増加が可能となる効果がある。したがって、厚板に対するレーザとアークの複合溶接を低出力・低価格のレーザ発振器で実施することが可能となる。
また、本発明の溶接継手開先を用いることにより、ビード形状の良好で溶込み深さの深いレーザとアークの複合溶接が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のレーザとアークの複合溶接方法の概要を示す模式図である。
【図2】図1の溶接部の上面図である。
【図3】本発明の複合溶接方法の作用を示す模式図である。
【図4】本発明の複合溶接方法に適用される基本的な開先形状の例を示す断面図である。
【図5】実施例における、通常のビードオン複合溶接の場合と平行開先型(Y形開先)に対する複合溶接の場合を示す図である。
【図6】Y形開先の複合溶接におけるルートギャップのギャップ幅と溶込み深さとの関係(試験結果)を示す図である。
【図7】溶込み深さの定義を示す図である。
【図8】本発明が適用される他の開先形状(I形開先とレ形開先)を示す図である。
【図9】特開平10−225782号公報による複合溶接におけるレーザ溶接の模式図である。
【符号の説明】
1、2 被溶接材
3 開先
10 レーザヘッド
11 レーザ光
12 キーホール
13 集光レンズ
20 アーク溶接トーチ
21 溶接ワイヤ
22 アーク
23 溶融池
31 V形開口部
32 平行ルートフェイス部
33 テーパ状ルートフェイス部
Claims (12)
- 被溶接材を突き合わせ、その突合せ面に設けられた開先をレーザとアークにより複合溶接する方法において、
アーク溶接法は消耗電極式ガスシールドアークによる短絡移行形態とし、かつ、レーザ溶接とアーク溶接の順序はレーザ先行・アーク後行とし、
前記開先の突合せ面の間隙をレーザ光のスポット径以上として、キーホール形成用間隙を設け、消耗電極式ガスシールドアーク溶接により形成される溶融池上にレーザ光を照射してキーホールを形成しながら、消耗電極から短絡移行形態にて溶融池に移行した溶着金属をそのキーホールおよびキーホール形成用間隙内に流入させることにより突合せ溶接を行うことを特徴とするレーザとアークの複合溶接方法。 - 前記開先突合せ面が、レーザ光の入射方向または板厚方向に平行になっている開先に対して溶接することを特徴とする請求項1記載のレーザとアークの複合溶接方法。
- 前記開先突合せ面が、レーザ光の入射方向または板厚方向に末広がり状になっている開先に対して溶接することを特徴とする請求項1記載のレーザとアークの複合溶接方法。
- 前記開先突合せ面が、レーザ光の入射方向または板厚方向に平行な部分と末広がり状の部分とを有する開先に対して溶接することを特徴とする請求項1記載のレーザとアークの複合溶接方法。
- 前記キーホール形成用間隙は、レーザ光のスポット径以上で、かつ開先突合せ面部分の全厚の1/2以下、または、最大でも4mm以下とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のレーザとアークの複合溶接方法。
- レーザ光の照射位置とアークの狙い位置との距離を0〜5mmとすることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のレーザとアークの複合溶接方法。
- レーザにYAGレーザを用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のレーザとアークの複合溶接方法。
- シールドガスには、炭酸ガスまたは炭酸ガスの混合比が10%以上の不活性ガスとの混合ガスを用いることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のレーザとアークの複合溶接方法。
- 請求項1記載のレーザとアークの複合溶接方法において、
開先突合せ面の間隙が、レーザ光のスポット径以上であり、かつその開先突合せ面の形状が、レーザ光の入射方向または板厚方向に平行になっていることを特徴とするレーザとアークの複合溶接用の開先形状。 - 請求項1記載のレーザとアークの複合溶接方法において、
開先突合せ面の間隙が、レーザ光のスポット径以上であり、かつその開先突合せ面の形状が、レーザ光の入射側と反対方向すなわち被溶接材の板裏面側に末広がり状になっていることを特徴とするレーザとアークの複合溶接用の開先形状。 - 請求項1記載のレーザとアークの複合溶接方法において、
開先突合せ面の間隙が、レーザ光のスポット径以上であり、かつその開先突合せ面の形状が、レーザ光の入射方向または板厚方向に平行な部分とその下方に末広がり状の部分とを有することを特徴とするレーザとアークの複合溶接用の開先形状。 - 前記開先突合せ面のレーザ光入射側にV形またはこれに類似する開口部を設けてなることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載のレーザとアークの複合溶接方法用の開先形状。
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