JP3629103B2 - 誘導電動機の制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は工作機械の主軸駆動などに利用され、誘導電動機の出力トルクを任意に制御する誘導電動機の制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
工作機械の主軸駆動などの用途には、すべり周波数型ベクトル制御によって駆動される誘導電動機が多く用いられている。このすべり周波数型ベクトル制御において、出力トルクを任意に制御するためには、モータの二次抵抗r2 、励磁インダクタンスMおよびトルク電流i1qに応じて正確なすべり周波数をモータに与える必要がある。しかしながら、二次抵抗r2 は、モータの温度変化等によって2倍程度に大きく変動する。また、励磁インダクタンスMは、鉄心の磁気飽和の影響やモータの製造上の寸法精度によって大きく変動する。しかしながら制御装置内においては、これら二次抵抗r2 、励磁インダクタンスMの値は変動を考慮されていない。その結果、モータに与えられるすべり周波数が不正確となり、出力トルクを正確に制御することができない。この問題を解決するべく、本出願人等は既に特願平7−92165号において、誘導電動機の励磁インダクタンスMおよび二次抵抗r2 の値が正確に把握できない場合や、これらの値が変動する場合においても常に出力トルクを精度良く制御できる誘導電動機の制御装置を提案している。
【0003】
図3に特願平7−92165号による誘導電動機の制御装置のシステム構成の一例を示す。この制御装置に対して外部からの入力指令として、トルク指令T* および磁束密度指令φ* が入力される。変換器1は、磁束密度指令φ* に応じて必要な励磁電流指令値i1d* を発生する励磁電流指令発生器であり、磁束密度と励磁電流の関係は後述するように励磁インダクタンスMを意味している。この変換器1では、Mの逆数を乗算することによって励磁電流指令値i1d* が出力される。なお、図中においてi1d* はid*と略記されている。除算器2は、入力されたトルク指令T* を入力された磁束密度指令φ* で除算するものであり、誘導電動機の出力トルクは磁束密度とトルク電流値との積に比例することから、除算器2の出力がトルク電流指令値i1q* として出力される。なお、図中においてi1q* はiq*と略記されている。
【0004】
この特願平7−92165号による誘導電動機の制御装置の動作を図4の誘導電動機の等価回路をもとに説明する。モータの一次電流I1,励磁電流Io,一次電圧E1 は磁束の回転周波数ωに同期して回転するdq軸座標上の電流i1d, i1q, iod, ioq、電圧e1d, e1qを用いて次のように表される。
【0005】
【数1】
I1 =i1d・sinωt+i1q・cosωt … (1)
【数2】
Io =iod・sinωt+ioq・cosωt … (2)
【数3】
E1 =e1d・sinωt+e1q・cosωt … (3)
このとき誘導電動機の一次回路について電圧方程式は次のように表される。
【0006】
【数4】
e1d=( r1 +pLσ) i1d−ωLσ・ i1q+pM・ iod−ωM・ ioq … (4)
【数5】
e1q=ωLσ・ i1d+( r1 +pLσ) i1q+ωM・ iod+pM・ ioq … (5)
ここでpは微分演算子d /dt、r1 は一次巻線抵抗、Lσは漏れインダクタンス、Mは励磁インダクタンスである。
【0007】
次に二次回路についても同様に電圧方程式は次のように表される。
【0008】
【数6】
−r2 ・ i1d+( r2 +pM) iod−ωs ・ M・ ioq=0 … (6)
【数7】
−r2 ・ i1q+ωs ・ M・ iod+( r2 +pM) ioq=0 … (7)
ここでr2 は二次巻線抵抗、ωs はすべり周波数である。このωs はモータの回転角周波数ωm を用いて次のように表される。
【0009】
【数8】
ωs =ω−ωm … (8)
磁束方向がd軸に一致していると仮定すると、モータ内部の励磁電流io は次のように表される。
【0010】
【数9】
io =φ/M=iod,ioq=0 … (9)
(9)式と(6)式よりio とi1dとの関係を求めると次式を得る。
【0011】
【数10】
io /i1d=1/( 1+pM/r2 ) … (10)
すなわち、励磁電流io はi1dに対して一次遅れで応答し、その時定数はM/r2 である。この時定数は一般的な誘導電動機において数100ms であり、io の変化は十分に緩慢であると近似できる。
【0012】
一方、(9)式と(7)式より、次式を得る。
【0013】
【数11】
ωs =r2 ・ i1q/(M・ io ) … (11)
これがいわゆるベクトル制御条件と呼ばれるもので、この式を満たすωs をモータに与えるとき、磁束方向がd軸に一致する。このときi1qが磁束に直交することからモータの発生トルクTは、以下のようになる。
【0014】
【数12】
T=φ・ i1q=M・ io ・ i1q … (12)
従って、i1qを制御することによって任意にトルクを制御することができる。
前記のようにio の変化は十分に緩慢であると近似するとき、(4),(5)式は次のように書き直すことができる。
【0015】
【数13】
e1d=( r1 +pLσ) i1d−ωLσ・ i1q … (13)
【数14】
e1q=ωLσ・ i1d+( r1 +pLσ) i1q+ωM・ io … (14)
これらの式より、i1d, i1qを任意に制御しようとするとき、モータに印加する電圧を次のように制御すればよい。
【0016】
【数15】
e1d* =Gd ・ Δi1d−ωLσ・ i1q* … (15)
【数16】
e1q* =ωLσ・ i1d* +Gq ・ Δi1q+ωMc ・ io* … (16)
ここで添え字* は指令値であることを意味しており、またΔi1d, Δi1qは次式で表される電流誤差である。
【0017】
【数17】
Δi1d=i1d* −i1d,Δi1q=i1q* −i1q … (17)
Mc はコントローラ内で想定した励磁インダクタンスであり、実際の励磁インダクタンスMとは異なるものである。また、Gd,Gq は十分に大きなゲインであり、pi演算増幅器などを用いて実現する。この(15),(16)式は図3のdq軸電圧指令算出部4で演算されており、その内部ブロック図は図2に表される。また、(11)式を満たすように除算器7、乗算器8によってωs が出力される。
【0018】
(12)式で表される出力トルクTを正確に制御しようとするとき、実際の励磁インダクタンスMがコントローラ内のMc と等しいこと、および(11)式のベクトル制御条件が成立し、磁束位置がd軸に一致していることが必要である。しかしながら先に述べたように、励磁インダクタンスおよび(11)式中の二次抵抗r2 を正確に把握することは困難であり、その結果、出力トルク精度が悪化する。そこで特願平7−92165号においては、まず励磁インダクタンスについて次式に基づいて同定を行なっている。
【0019】
【数18】
Gq ・ Δi1q=ω( M−Mc)io = ω・ ΔM・ io … (18)
ここでΔMはコントロ−ラ側で想定した励磁インダクタンスMc と実際のモ−タ内部の真値Mとの間の設定誤差である。なお、(18)式は次のように導出されている。モ−タが無負荷でi1q=i1q* =0であるとすると、(14),(16)式は次のように変形できる。
【0020】
【数19】
e1q=ωLσ・ i1d+ωM・ io … (19)
【数20】
e1q* =ωLσ・ i1d* +Gq ・ Δi1q+ωMc ・ io* … (20)
電流制御系の働きにより、i1d* =i1d,io*=io ,e1q=e1q* として(19),(20)式の差より、(18)式が導出される。上記のように、i1q=i1q* =0の状態において励磁インダクタンスの同定がおこなわれる。すなわち、i1q=i1q* =0の状態のとき図3のコンパレータ22によってトルク指令T* が小さいことが検出され、無負荷状態の時のみ、スイッチ23が閉となり増幅器21によってGq ・ Δi1qが増幅されて同定が行なわれる。この増幅器21の出力は、磁束密度指令φ* の値をアドレスとするデータテーブル24に各磁束密度ごとに積分して保持される。この積分値は励磁インダクタンスMの設定誤差ΔMであり、トルク指令が0でない場合においても、磁束密度指令φ* に応じて保持されている設定誤差ΔMを取り出して、変換器1の係数1/Mを補償しているので、常に励磁インダクタンスMの真値を用いて制御すること可能である。
【0021】
次に二次抵抗r2 については次式に基づいて同定が行なわれる。
【0022】
【数21】
Gq ・ Δi1q=Δr2(ω/ωs)i1q … (21)
ここでΔr2 はコントロ−ラ側で想定した値r2cと実際の値r2 との間の設定誤差である。この(21)式は以下のように導出される。まず(11)式を変形して(22)式を得る。
【0023】
【数22】
ωM・ io =( ω/ωs)r2 ・ i1q … (22)
この(22)式を(14)式に代入することによって、実際にモ−タに発生するq軸電圧は次のように表すことができる。
【0024】
【数23】
e1q=ωLσ・ i1d+( r1 +pLσ) i1q+( ω/ωs)r2 ・ i1q… (23)
一方、コントローラの出力する電圧e1q* は、(22),(16)式から次のように表すことができる。
【0025】
【数24】
e1q* =Gq ・ Δi1q+ωLσ・ i1d* +r1 ・ i1q* +( ω/ωs)r2c・ i1q* … (24)
電流制御系の働きにより、i1d* =i1d,i1q* =i1q,e1q=e1q* として(23),(24)式の差を求めると、次式を得る。
【0026】
【数25】
e1q−e1q* =pLσ・ i1q−Gq ・ Δi1q+( ω/ωs)・(r2 −r2c) ・ i1q=0 … (25)
第1項は他の項に比べて比較的小さいので無視すると(21)式が、導き出される。
【0027】
すなわち(21)式よりGq ・ Δi1qは二次抵抗r2 の設定誤差Δr2 を表しており、この誤差はGq ・ Δi1qを用いて補正することが可能である。そこで、図3において、増幅器25の出力すなわちGq ・ Δi1qに同定ゲインGr を乗算し、その出力に応じて変換器8の係数r2 を補償している。
【0028】
以上のように、特願平7−92165号の発明では、制御に用いられるパラメータの励磁インダクタンスM、二次抵抗r2 について、実際のモータにおける真値を同定し、自動的に制御パラメータを適性に追従させているので、鉄心の磁気飽和の影響やモータの製造上の寸法精度などによる励磁インダクタンスMの変動およびモータの温度変化等による二次抵抗r2 の変動の影響を受けず、精度良く所望の出力トルクを得ることができる。
【0029】
特願平7−92165号の発明における他の構成要素の動作を以下に簡単に説明する。dq軸電圧指令算出部4は(15),(16)式の演算を行なっており、その内部構成を図2に示す。図中の減算器11が励磁電流指令値i1d* から励磁電流検出値i1dを減算して励磁電流誤差Δi1dが出力され、増幅器12はΔi1dを増幅してGd ・ Δi1dが出力される。変換器13、乗算器14ではトルク電流指令値i1q* と回転周波数ω、漏れインダクタンスLσから(15)式の第2項が算出され、これがGd ・ Δi1dと加算されて、d軸電圧指令e1d* が出力される。同様に減算器15はトルク電流指令値i1q* からトルク電流検出値i1qを減算して、トルク電流誤差Δi1qが求められ、これが増幅器16で増幅されて(16)式の第2項Gq ・ Δi1qが得られている。変換器18は励磁電流指令i1d* に漏れインダクタンスLσを乗算し、さらに乗算器19で回転周波数ωが乗算されることによって(16)式の第1項ωLσ・ i1d* が得られている。(16)式の第3項ωMc ・ io*は、図2の図中においてはem*=Mc ・ io*と置き換えて乗算器19によって出力されており、前記の第1項、第2項と加算されて、q軸電圧指令e1q* が出力される。なお、em*は図3の変換器17によって磁束密度指令φ* に誘起電圧係数Kemを掛けることによって求められている。dq軸電圧指令算出部4の出力したe1d* ,e1q* は、図3の2相3相変換器3によって3相の交流電圧指令eu*,ev*,ew*に変換され、インバータ26に入力される。インバータ26は直流電源27をエネルギー源として、この3相の交流電圧指令eu*,ev*,ew*に応じた電圧をモータ28に印加することによって3相交流電流iu ,iv ,iw が流れる。この3相交流電流iu ,iv ,iw は電流検出器6a ,6b ,6c によって検出され、3相2相変換器9によって励磁電流検出値i1dおよびトルク電流検出値i1qに変換される。なお、2相3相変換器3と3相2相変換器9とが座標変換に使用する信号sin ωt,cos ωtは、回転周波数ωを基に2相正弦波発生器10によって出力される。このωは、位置検出器29によって検出されたモータ28の回転位置を微分器30で微分することによって得た回転速度ωm に、すべり周波数ωs を加算することによって得られている。
【0030】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特願平7−92165号において、励磁インダクタンスの同定はトルク電流i1qが0と見なせる無負荷状態にのみ行なわれる。このため、例えば図5に示すような加減速運転を行なう場合、磁束密度φA に対する励磁インダクタンスMA 、磁束密度φB に対する励磁インダクタンスMB はそれぞれ同定され、図3のデータテーブル24に保持されるが、それらの中間に当たる磁束密度に対しては同定値が得られない。この結果、図5に示すように加減速中の励磁インダクタンスは真値に対して大きな誤差を持ち、出力トルク精度が悪化する。
【0031】
さらに励磁インダクタンスが真値に対して大きな誤差を持つことによって、加速期間中などにおけるGq ・ Δi1qに励磁インダクタンスの誤差による成分が含まれることになる。これにより、二次抵抗r2 の同定値はこのGq ・ Δi1qを増幅することとなるため、正確な同定ができなくなる。この結果、加速期間中などにおける出力トルク精度がさらに悪化する。
【0032】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決するために本発明にかかる誘導電動機の制御装置は、直流電流から変換された三相交流電流によって駆動される誘導電動機の制御装置であって、トルク指令と磁束密度指令の二相指令を前記電動機の1次電流を制御するための三相電圧指令に変換し、前記誘導電動機の実際の三相の1次電流をトルク電流検出値と励磁電流検出値の二相の検出値に変換し、フィードバック制御を行う誘導電動機の制御装置において、前記トルク指令に基づいて磁束密度の弱め率を算出し、当該弱め率を前記磁束密度に乗算することによって弱め磁束密度指令を算出する磁束弱め手段と、前記弱め磁束密度指令と、励磁インダクタンス補正値とによって補正された励磁インダクタンスとに基づき励磁電流指令値を算出する励磁電流指令発生手段と、前記励磁電流指令と前記励磁電流検出値に基づき励磁電流誤差を算出し、当該励磁電流誤差に基づき、励磁電流と同相の励磁電流同相電圧指令を算出する励磁電圧指令算出手段と、前記トルク指令と前記弱め磁束密度指令に基づきトルク電流指令を算出するトルク電流指令発生手段と、前記トルク電流指令と前記トルク電流検出値に基づきトルク電流誤差を算出し、当該トルク電流誤差に基づき、トルク電流と同相のトルク電流同相電圧指令を算出するトルク電圧指令算出手段と、前記トルク電流同相電圧指令に基づきモータの二次抵抗の補正値を算出する二次抵抗補正値算出手段と、前記トルク電流指令および前記弱め磁束密度指令と、前記二次抵抗補正値によって補正された二次抵抗値とに基づきすべり角周波数を算出するすべり角周波数算出手段と、前記すべり角周波数と実際のモータの角周波数に基づき角周波数指令を算出する角周波数指令算出手段と、前記トルク指令が、予め定められたしきい値以下である場合には前記トルク電流同相電圧指令に基づいて前記励磁インダクタンス補正値を算出し、当該励磁インダクタンス補正値を前記弱め磁束密度指令の値をアドレスとするデータテーブルに複数個のデータとして保持する励磁インダクタンス補正値算出手段と、前記励磁電圧指令および前記トルク電圧指令と、前記角周波数指令とに基づきモータに印加する三相電圧指令を算出する三相電圧指令発生手段とを有することを特徴とする。
【0033】
また、本発明に係る誘導電動機の制御装置の前記磁束弱め手段は、前記トルク指令をフィルタ処理することによって前記弱め率を算出し、前記フィルタ処理に使用される時定数は、前記トルク指令に応じて弱め用時定数と強め用時定数とを切り替えることを特徴とする。
【0034】
本発明による誘導電動機の制御装置によれば、誘導電動機の実際の3相の1次電流をトルク電流検出値と励磁電流検出値の2相の検出値に変換する3相2相変換手段によって、モータ電流の3つの瞬時値(例えばiu 、iv 、iw )からモータ内部の励磁電流(例えばi1d)およびトルク電流(例えばi1q)を直流量として検出し、これらを磁束密度指令から変換した励磁電流指令(例えばi1d* )およびトルク指令を変換したトルク電流指令(例えばi1q* )のそれぞれに対して独立にフィードバック制御を行い、更に、トルク指令が小さな無負荷状態においては、磁束密度指令を徐々に弱めながら、種々の磁束密度指令に対する励磁インダクタンス(M)をトルク電流の誤差アンプ出力(Gq ・ Δi1q)を用いてそれぞれ同定し、これら種々の磁束密度指令をアドレスとするデータテーブルに保持するので、加減速期間中などのトルク指令が大きな状態においても正確な励磁インダクタンスの同定値を制御に用いることができる。
【0035】
さらに二次抵抗r2 についてもトルク電流の誤差アンプ出力(Gq ・ Δi1q)を用いて同定しており、上記のように常に正確な励磁インダクタンスの値を使用して制御することができる。これによって、誤差アンプ出力(Gq ・ Δi1q)に含まれる励磁インダクタンスの誤差による成分が0になる。その結果、トルク電流の誤差アンプ出力(Gq ・ Δi1q)は、二次抵抗r2 の設定誤差による成分のみとなり、加減速期間中などにおいても二次抵抗r2 の正確な同定が可能となる。
【0036】
【発明の実施の形態】
図1は本発明に係る誘導電動機の制御装置の一実施形態のブロック図である。図3に示す従来の誘導電動機の制御装置と同じ構成要素は同一符号で示してあり、その説明は重複するので省略する。
【0037】
図1中の磁束弱め率算出部32は、トルク指令T* を入力として弱め率を算出する。その原理は、積分器33に保持されている弱め率とトルク指令T* とを減算器34で比較し、その差分に対して、トルク指令T* が大きな場合には磁束密度を上げるように強め用時定数T1 を乗算し、小さな場合には逆に下げるように弱め用時定数T2 を乗算する。なお、この時定数の切り替えはスイッチ35によって行なっている。通常、強め用時定数T1 は、必要なトルクを即座に出力できるよう素早く磁束密度を上げる必要があるので、十分に大きな値を設定する。また、弱め用時定数T2 は、ゆっくりと磁束密度を下げることによって、後述する励磁インダクタンスの同定が正確に行なわれるように、十分に小さな値を設定する。
【0038】
この磁束弱め率算出部32の出力する弱め率によって、加減速運転時に磁束密度指令がどのように変化するかを図6を用いて説明する。時刻t1 はモータに通電が開始され、初期速度ω1 に加速を開始する時刻である。時刻t1 〜t2 までの間は大きなトルク指令が発生しており、図1中のスイッチ35は強め時定数T1 側にオンして積分器33には急速にトルク指令値が積分される。このため、弱め率として100%、すなわち弱めを行なわないという出力が得られる。従って、モータの磁束密度は初期の指令値φA である。
【0039】
時刻t2 は加速が終了し、無負荷状態がスタートする時刻である。従って、トルク指令T* は0になっている。ここでトルク指令が0になることによって、スイッチ35は弱め時定数T2 側にオンする。また減算器34の出力が負になることによって、積分器33に保持された弱め率は100%から次第に減少する。すなわち、時刻t2 〜t3 において、積分器33に保持された弱め率は、弱め時定数T2 の設定値に応じて徐々に減少していく。このため、モータの磁束密度は初期の指令値φA から徐々に減少する。仮に、t2 〜t3 間に時刻磁束密度がφB まで減少したとしても、弱め時定数T2 を十分に小さく設定しておけば、磁束密度が減少していく過程中において磁束密度φA 〜φB に対する励磁インダクタンスの変化が連続的に同定できる。なお図6中のMA は磁束密度φA に対する励磁インダクタンス、MB は磁束密度φB に対する励磁インダクタンスを表している。
【0040】
時刻t3 は、初期速度ω1 からω2 に加速を開始する時刻であり、トルク指令T* に大きな値が発生するため、スイッチ35は強め時定数T1 側にオンする。これにより、減少していた弱め率は、積分器33が急速に積分されるので、速やかに100%に復帰する。
【0041】
時刻t3 〜t4 は、速度ω2 までの加速期間である。加速して速度が増加することによって磁束密度の指令が減少するため、励磁インダクタンスの真値は変化する。一方、この期間中はトルク指令T* が大きな値であるため、図1中のスイッチ23がオフになり、励磁インダクタンスの同定は行なわれない。しかし、既に時刻t2 〜t3 において、磁束密度φA 〜φB に対する励磁インダクタンスが既に同定されており、その補正値が図1中のデータテーブル24に保持されている。従って、時刻t2 〜t3 においてこの保持された補正値を磁束密度の指令値に応じて出力し、図1中の変換器1の励磁インダクタンスを逐次、補正することができる。この結果、時刻t3 〜t4 は加速中であるにも係わらず、正確な励磁インダクタンスの値を制御パラメータとして使用することができる。
【0042】
本発明において、図6に示したように磁束密度の指令は弱め率に応じて変化する。この磁束密度指令の変化に対して、実際のモータ内部の磁束密度を正確に応答させるためには以下に示すような補償処理が必要となる。すなわち(10)式に示したようにモータ内部の励磁電流io は、一次電流のd軸成分i1dに対して時定数M/r2 の一次遅れ応答となるので、図1中の一次進み補償回路5によって励磁電流指令io*に対して時定数M/r2 の一次進み補償を行ない、i1d* を算出する。この補償後のi1d* は次式で表される。
【0043】
【数26】
i1d* =(1+pM/r2 )io* … (26)
このi1d* に対して電流制御系の働きにより、実際の一次電流のd軸成分i1dは等しく制御され(i1d* =i1d)、この結果、実際のモータ内部の励磁電流io は次式で表されるようにio*に等しく制御される。
【0044】
【数27】
io =1/(1+pM/r2 )i1d* =io* … (27)
【0045】
【発明の効果】
以上、説明したように本発明においてモータ内部の励磁電流およびトルク電流は、それぞれ独立にフィードバック制御されており、その制御に用いられるパラメータの励磁インダクタンスM、二次抵抗r2 は加減速期間中などのトルク指令が大きな状態においても常に正確な値を制御に用いることができる。その結果、鉄心の磁気飽和の影響やモータの製造上の寸法精度などによる励磁インダクタンスMの変動およびモータの温度変化等による二次抵抗r2 の変動の影響を受けず、常に精度良く所望の出力トルクを得ることができる。このため、従来は適用するモータにあわせて制御パラメータの調整が必要であったが、この調整を不要とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による誘導電動機の制御装置の一実施形態のブロック図である。
【図2】dq軸電圧指令算出部の内部ブロック図の一例である。
【図3】従来の誘導電動機の制御装置のブロック図の一例である。
【図4】誘導電動機の等価回路である。
【図5】従来の誘導電動機の制御装置における課題を説明するための波形図である。
【図6】本発明による作用を説明するための波形図である。
【符号の説明】
1 変換器、2 除算器、3 2相3相変換器、4 dq軸電圧指令算出部、5 一次進み補償回路、6 電流検出器、7 除算器、8 変換器、9 3相2相変換器、10 2相正弦波発生器、11 減算器、12 増幅器、13 変換器、14 乗算器、15 減算器、16 増幅器、17 変換器、18 変換器、19 乗算器、20 変換器、21 増幅器、22 コンパレータ、23 スイッチ、24 データテーブル、25 増幅器、26 インバータ、27 直流電源、28 モータ、29 位置検出器、30 微分器、31 変換器、32 磁束弱め率算出部、33 積分器、34 減算器、35 スイッチ。

Claims (1)

  1. 直流電流から変換された三相交流電流によって駆動される誘導電動機の制御装置であって、トルク指令と磁束密度指令の二相指令を前記電動機の1次電流を制御するための三相電圧指令に変換し、前記誘導電動機の実際の三相の1次電流をトルク電流検出値と励磁電流検出値の二相の検出値に変換し、フィードバック制御を行う誘導電動機の制御装置において、
    前記トルク指令をフィルタ処理することによって磁束密度の弱め率を算出し、当該弱め率を前記磁束密度に乗算することによって弱め磁束密度指令を算出する手段であって、前記フィルタ処理に使用される時定数は、前記トルク指令に応じて弱め用時定数と強め用時定数とを切り替えて使用する磁束弱め手段と、
    前記弱め磁束密度指令と、励磁インダクタンス補正値とによって補正された励磁インダクタンスとに基づき励磁電流指令値を算出する励磁電流指令発生手段と、
    前記励磁電流指令と前記励磁電流検出値に基づき励磁電流誤差を算出し、当該励磁電流誤差に基づき、励磁電流と同相の励磁電流同相電圧指令を算出する励磁電圧指令算出手段と、
    前記トルク指令と前記弱め磁束密度指令に基づきトルク電流指令を算出するトルク電流指令発生手段と、
    前記トルク電流指令と前記トルク電流検出値に基づきトルク電流誤差を算出し、当該トルク電流誤差に基づき、トルク電流と同相のトルク電流同相電圧指令を算出するトルク電圧指令算出手段と、
    前記トルク電流同相電圧指令に基づきモータの二次抵抗の補正値を算出する二次抵抗補正値算出手段と、
    前記トルク電流指令および前記弱め磁束密度指令と、前記二次抵抗補正値によって補正された二次抵抗値とに基づきすべり角周波数を算出するすべり角周波数算出手段と、
    前記すべり角周波数と実際のモータの角周波数に基づき角周波数指令を算出する角周波数指令算出手段と、
    前記トルク指令が、予め定められたしきい値以下である場合には前記トルク電流同相電圧指令に基づいて前記励磁インダクタンス補正値を算出し、当該励磁インダクタンス補正値を前記弱め磁束密度指令の値をアドレスとするデータテーブルに複数個のデータとして保持する励磁インダクタンス補正値算出手段と、
    前記励磁電圧指令および前記トルク電圧指令と、前記角周波数指令とに基づきモータに印加する三相電圧指令を算出する三相電圧指令発生手段と、を有し、
    前記強め用時定数は十分に大きな時定数に設定するとともに、前記弱め用時定数は十分に小さな値に設定され、前記弱め磁束密度指令が次第に減少する過程において磁束密度に対する前記励磁インダクタンス補正値の変化を連続的に算出して前記データテーブルに保持する、
    ことを特徴とする誘導電動機の制御装置。
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