JP3627658B2 - 内燃機関の燃料噴射制御装置 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は内燃機関の燃料噴射制御装置に関し、特に、燃料の動的挙動をモデル化した燃料挙動モデルを用いて燃料噴射装置による燃料供給量を制御する内燃機関の燃料噴射制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関の燃料供給量を運転条件に応じて制御する装置として、吸気系における燃料挙動を記述する数式モデルを設定し、運転条件や燃料条件から設定した数式モデルを演算することで燃料挙動をシミュレートすることにより必要な燃料供給量を求めて燃料噴射装置を制御する燃料挙動モデルによる制御技術が知られている。
【0003】
しかし、内燃機関の始動時から始動直後においては吸気系に付着している燃料が定常時に比べて少なく、過渡的に形成される過程であり、燃料挙動は不安定である。そのために、定常時を基準として設定された燃料挙動モデルでは燃料挙動、特に壁面等への付着、蒸発の現象を正確に予測することができない。そこで、付着、蒸発の関係が安定するまでの間は燃料挙動モデルを用いた制御を禁止して気筒内への要求噴射量を補正することなく燃料噴射装置からの噴射量を制御する技術が特開平8−74621号公報等に開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このように補正を全く行わないとすると、空燃比制御の精度を確保することは困難になる。特に始動直後は壁面に付着する燃料の量が壁面付着分から蒸発する燃料よりも多いため、予想より燃料がリーン状態となってエミッションやドライバビリティーの悪化を招くおそれがある。また、この技術においては、吸気充填効率の演算値を基にして燃料挙動モデルを利用した補正へ移行すると開示されているが、吸気充填効率のみでは挙動に正確に対応しないため、移行直後の空燃比制御性が悪化してしまう。
【0005】
そこで本発明は、始動時や始動直後においても良好な空燃比制御が可能な内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明に係る内燃機関の燃料噴射制御装置は、燃料噴射装置から内燃機関の気筒へと流入する燃料の動的挙動をモデル化した燃料挙動モデルを利用して燃料噴射装置による燃料供給量を制御する制御部を備え、この制御部は内燃機関の始動時および始動直後は燃料挙動モデルに基づく制御を制限もしくは禁止する内燃機関の燃料噴射制御装置において、制御部が、内燃機関の始動後に、燃料挙動モデルに基づいて求めた計算上の前記燃料噴射装置からの必要燃料供給量と目標筒内流入燃料量との差が所定値未満となった場合に、制御の制限もしくは禁止を解除することを特徴とする。
【0007】
あるいは、制御部は、内燃機関の始動後に燃料挙動モデルに基づく付着量変化が所定値未満となった場合に、制御の制限もしくは禁止を解除するものでもよい。
【0008】
燃料挙動モデルに基づいて求めた計算上の燃料噴射装置からの必要燃料供給量と目標筒内流入燃料量との差(補正量)が所定値未満となった場合、あるいは付着量変化が所定値未満となった場合とは、内燃機関始動後に補正量あるいは付着量の挙動が安定した時点を意味するから、この時点で燃料挙動モデルに基づく制御の制限もしくは禁止を解除することで、安定した制御に速やかに移行することが可能となる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の参照番号を附し、重複する説明は省略する。
【0013】
図1は、本発明に係る内燃機関の燃料噴射量制御装置の実施形態をこれを適用した内燃機関とともに示す構成図である。
【0014】
火花点火式のガソリン多気筒内燃機関(以下、単に内燃機関と称する)1には吸気管2と排気管3とが接続されている。吸気管2には吸入空気の温度を検出する吸気温センサ22と、吸入空気量を検出するエアフローメータ23と、アクセルペダル4の操作に連動するスロットル弁24が配置されるとともにこのスロットル弁24の開度を検出するスロットル開度センサ25が配置されている。また、吸気管2のサージタンク20には、吸気管2の圧力を検出するための吸気圧センサ26が配置されている。さらに、内燃機関1の各気筒に接続される吸気ポート21には電磁駆動式のインジェクタ(燃料噴射装置)27が設けられており、このインジェクタ27には燃料タンク5から燃料であるガソリンが供給される。図示の内燃機関1は、各気筒ごとに独立してインジェクタ27が配置されているマルチポイントインジェクションシステムである。
【0015】
内燃機関1の各気筒を構成するシリンダ10内には図の上下方向に往復動するピストン11が設けられ、このピストン11はコンロッド12を介して図示していないクランク軸に連結されている。ピストン11の上方には、シリンダ10とシリンダヘッド13とによって区画された燃焼室14が形成されている。この燃焼室14の上部には点火プラグ20が配置されるとともに、開閉可能な吸気バルブ16と排気バルブ17を介してそれぞれ吸気管2と排気管3に接続されている。
【0016】
そして、排気管3には、排気ガス中の酸素濃度に応じた所定の電気信号を出力する空燃比センサ31が配置されている。
【0017】
内燃機関1を制御するエンジンECU6(本発明に係る内燃機関の燃料噴射制御装置を含む)は、マイクロコンピュータを中心に構成されており、上述した各センサ(吸気温センサ22、エアフローメータ23、スロットル開度センサ25、吸気圧センサ26、空燃比センサ31)や車速センサ60、クランクポジションセンサ61の各出力信号が入力されるとともに、点火プラグ15、インジェクタ27の動作を制御するものである。
【0018】
本発明に係る内燃機関の燃料噴射制御装置における燃料制御について説明する前に、この燃料制御において用いられる燃料挙動モデルを図2を参照して説明する。図2は、インジェクタ27近傍(吸気ポート21付近)における燃料挙動のシミュレーションモデルを示す模式図である。以下の説明では、コンピュータによる数値化処理を考慮して時刻を表すカウンタ(サイクル)値を「k」で表す。
【0019】
図2において、Fi(k)は、時刻kにおいてインジェクタ27から噴射される燃料量(インジェクタ噴射量)を、Fw(k)は、時刻kにおいて吸気ポート21の壁面や吸気バルブ16の吸気ポート21側表面(以下、吸気ポート21の壁面等と呼ぶ)に付着している燃料量(壁面付着燃料量)を、Fc(k)は、時刻kにおいて気筒内(シリンダ10内の燃焼室14内)へと流入する燃料量(筒内流入燃料量)をそれぞれ示している。ここで、時刻kにおけるインジェクタ噴射量Fi(k)のうち、吸気ポート21の壁面等に付着する割合(壁面付着率)をR(k)とし、時刻kにおいて壁面付着燃料量Fw(k)のうち、気化せずに吸気ポート21の壁面等に残留する割合(壁面残留率)をP(k)とすると、以下の式(1)、(2)が成立する。これらの式は、C.F.アキノの式として一般に知られている。
【0020】
【数1】
一方、目標空燃比(混合比A/F)λでの燃焼を実現する場合に時刻kにおいて実際に筒内に流入させるべき目標筒内流入燃料量Fcr(k)は、吸気流量をQ(k)とすると、
【数2】
で表せる。(1)〜(3)式より前記の筒内流入燃料量Fc(k)をこの目標筒内流入燃料量Fcr(k)に一致させるためには、インジェクタ27の噴射量Fi(k)を
【数3】
となるように制御すればよいことがわかる。
【0021】
すなわち、目標筒内流入燃料量Fcr(k)に対してインジェクタ噴射量Fi(k)を増量あるいは減量すべき燃料補正量Fpr(k)は、
【数4】
で表されることになる。
【0022】
機関始動時および始動直後においては、壁面への燃料付着が形成過程に有るため、その付着、蒸発過程は準定常状態にあるとはいえず、従来の(4)式を用いた制御方法では、その形成過程を正確に模擬することができない。そのため、本発明においては機関始動時または始動直後においては上述の燃料挙動モデルを使用した燃料制御を制限もしくは禁止する制御を行う。
【0023】
以下に示す制御形態においては、この燃料制御の制限もしくは禁止の解除判定に燃料モデルによる算出値を利用する。図3は、この制御形態の制御の処理フローを示したフローチャートである。この制御はエンジンECU6によって実施されるものであり、車両の電源がオンにされてから、所定のタイミングで繰り返し実行される。このタイムサイクルのカウンタ値をkで表す。つまり、ある時点で本制御フローを実行した時のカウンタ値がkであるとき、次に本制御フローが実行されるときのカウンタ値がk+1となる。
【0024】
まず、ステップS1において、エンジンECU6は、機関運転条件を読込む。この機関運転条件とは、エアフローメーター23から得られた吸入空気量、車速センサ60から得られた車速、クランクポジションセンサ61から得られたエンジン回転数等である。そして、ステップS2においては、(1)、(2)、(4)式において使用される各パラメータP(k)、R(k)の設定を行う。これらのパラメータは実験等により求めた値をエンジンECU6のメモリ内に機関運転条件に対するマップ形式で保持しておき、機関運転条件に対応させて読み出すことで設定すればよい。
【0025】
ステップS3では、こうして読み出したパラメータを基にして(1)〜(4)式により燃料モデル計算を行い、壁面付着量Fw(k)とインジェクタ噴射量Fi(k)を更新し、補正量Fpr(k)を算出する。
【0026】
続くステップS4では、完爆以降か否かを判定する。完爆以降か否かはエンジン回転数が所定の回転数以上に達しているか否かによって判定できる。
【0027】
ステップS4で完爆以降でないと判定された場合は、ステップS5へと移行して補正制限フラグをセットし、ステップS6で補正量Fpr(k)を強制的に0に設定する。この後、ステップS7で補正量Fpr(k)に基づいてインジェクタ27から燃料を供給するが、この時は、Fpr(k)=0に設定されているため、目標筒内流入燃料量Fcr(k)が噴射される。
【0028】
ステップS4で完爆以降であると判定された場合には、ステップS8へと移行し、補正制限フラグがクリアされているか否かを判定する。この補正制限フラグがセットされている状態とは、始動中あるいは始動直後の状態と判定されていることを意味する。補正制限フラグがクリアされていない場合には、ステップS9へと移行し、補正量Fpr(k)の絶対値が所定の閾値を下回っているか否かを判定する。
【0029】
ステップS9で補正量Fpr(k)の絶対値が閾値と同じか上回っていたときには、未だ燃料挙動モデルの計算が安定していないと判断して、ステップS6へと移行し、補正制限を継続する。一方、所定の閾値を下回っていたときには、ステップS10へと移行し、カウンタ値jに1を追加する。このカウンタ値jは、補正制限フラグをセットしたときに0に設定しておくことが好ましい。
【0030】
ステップS11では、このカウンタ値jが所定の値Nを超えているか否かを判定する。カウンタ値jがNを超えていない場合には、燃料挙動モデルの計算が未だ十分に安定していないと判定してステップS6へと移行し、補正制限を継続する。逆に、カウンタ値jがNを超えていた場合には、燃料挙動モデルの計算は十分に安定したと判定し、ステップS12へと移行して補正制限フラグをクリアし、ステップS7へと移行して、求めた補正量Fpr(k)に基づく燃料供給量の補正を実行する。
【0031】
ステップS8で補正制限フラグがクリアされていると判定された場合も、ステップS7へと移行して、求めた補正量Fpr(k)に基づく燃料供給量の補正を実行する。
【0032】
このように、補正量Fpr(k)の安定状態により燃料挙動モデルの計算の安定を判定して補正制限を解除することで、始動時及び始動直後の付着燃料補正制限処理と通常運転時の付着燃料補正とを空燃比制御性を悪化させることなく連続的に実現することができる。
【0033】
ステップS6において補正制限時の補正量を0とするのではなく、燃料挙動モデルで求めた補正量のx倍(ただし、0<x<1)を始動時の補正量として設定するようにしてもよい。
【0034】
また、補正制限の解除条件は、補正量の絶対値により判定するのではなく、壁面付着量Fwの変化量(Fw(k)−Fw(k−1))を基に判定するようにしても同様の効果が得られる。
【0035】
本発明によれば、燃料供給量の制御精度が向上し、排気ガス浄化性能やドライバビリティーも向上する。
【0041】
本発明で用いることのできる燃料挙動モデルは必ずしも上述したモデルに限られるものではない。例えば、燃料の付着位置を弁表面と吸気ポートの壁面表面とに分けるなどさらに細分割してもよいし、燃料性状による付着の違いを考慮したモデルであってもよい。これらのモデルを用いた場合、それぞれのモデルでの始動時の補正制限解除を独立して行うことが好ましい。
【0042】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、始動時および始動直後の付着燃料の補正制限処理と通常運転時の付着燃料補正を空燃比制御性を悪化させることなく連続的に結合でき、制御精度が向上するとともに、ドライバビリティーも向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る燃料噴射装置とこれを適用した内燃機関を示す概略構成図である。
【図2】本発明に係る燃料噴射装置における燃料挙動モデルを説明する図である。
【図3】本発明に係る燃料噴射装置における燃料噴射制御を示すフローチャートである。
【符号の説明】
1…内燃機関、2…吸気管、3…排気管、4…アクセルペダル、5…燃料タンク、6…エンジンECU、14…燃焼室、21…吸気ポート、27…インジェクタ。
Claims (2)
- 燃料噴射装置から内燃機関の気筒へと流入する燃料の動的挙動をモデル化した燃料挙動モデルを利用して燃料噴射装置による燃料供給量を制御する制御部を備え、前記制御部は内燃機関の始動時および始動直後は燃料挙動モデルに基づく制御を制限もしくは禁止する内燃機関の燃料噴射制御装置において、
前記制御部は、内燃機関の始動後に、前記燃料挙動モデルに基づいて求めた計算上の前記燃料噴射装置からの必要燃料供給量と目標筒内流入燃料量との差の絶対値が所定値未満となった場合に、制御の制限もしくは禁止を解除することを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。 - 燃料噴射装置から内燃機関の気筒へと流入する燃料の動的挙動をモデル化した燃料挙動モデルを利用して燃料噴射装置による燃料供給量を制御する制御部を備え、前記制御部は内燃機関の始動時および始動直後は燃料挙動モデルに基づく制御を制限もしくは禁止する内燃機関の燃料噴射制御装置において、
前記制御部は、内燃機関の始動後に燃料挙動モデルに基づく付着量変化が所定値未満となった場合に、制御の制限もしくは禁止を解除することを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
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