JP3622566B2 - 車両用制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両用制御装置に係り、特に、車輪の回転速度に基づいて車輪速を演算し、その車輪速と所定のしきい値との比較に基づいて車両制御を行う車両用制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、例えば特開平7−9977号に開示される如く、車輪の速度(以下、車輪速と称す)Vw に基づいて車輪が路面に対してスリップしているか否かを判別し、その判別結果に応じて、車輪のスリップを防止するアンチロックブレーキ制御(以下、ABS制御と称す)を実行する装置が知られている。かかる装置は、すべての車輪の車輪速Vw に基づいて車体速度SPDを推定し、その推定車体速度SPDと各車輪の車輪速Vw とに基づいて設定されるスリップ率が所定値を越えている場合に車輪がスリップしていると判別し、その車輪に対してABS制御を開始する。従って、上記従来の装置によれば、車輪速Vw を検出することにより、車輪のスリップを防止することが可能となる。
【0003】
上記従来の装置は、更に、内燃機関の駆動力を前輪側と後輪側とに伝達することが可能なセンタディファレンシャルを備える車両に搭載されている。センタディファレンシャルがアンロック状態にある場合は、前輪と後輪との回転差が許容され、車両の通常走行が可能になる。一方、センタディファレンシャルがロック状態にある場合は、前輪と後輪とが同一の回転速度で回転し、例えば前輪だけ空転している場合でも後輪に駆動力が伝達され、雪道上等においても走行が容易になる。
【0004】
ところで、センタディファレンシャルがロック状態にある状況下でブレーキペダルが踏み込まれると、すべての車輪は同時にロックされ易い。このため、かかる場合には、車輪のスリップ率が所定値を越えることが困難となり、ABS制御の実行が遅れるおそれがある。そこで、上記従来の装置においては、センタディファレンシャルがロック状態にある場合に、ABS制御の制御しきい値が、ABS制御が早期に作動するように変更される。このため、上記従来の装置によれば、センタディファレンシャルがロック状態にある場合に、車輪のロック状態が長時間にわたって継続することがなくなり、ABS制御を適正に実行することが可能となる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、車輪の車輪速Vw は、車輪の回転速度ωに基づいて検出される。車輪の車輪速Vw は、車輪の回転速度ωと車輪の外径とに基づいて特定される。すなわち、車輪速Vw は、回転速度ωに、車輪の外径に応じた定数を乗算することにより演算される。
【0006】
このように車輪速Vw を特定する構成において、車輪に外径の異なるタイヤが装着されている場合は、車輪の回転速度ωに差異が生ずる。すなわち、すべての車輪のうち一輪だけ外径が小さい場合は、その一輪の回転速度ωは、他の車輪の回転速度ωに比して大きくなり、一方、一輪だけ外径が大きい場合は、その一輪の回転速度ωは、他の車輪の回転速度ωに比して小さくなる。このため、回転速度ωに、予め設定されている車輪の外径に応じた定数を乗算するだけでは、車輪速Vw を正確に検出することはできない。
【0007】
車輪に外径の異なるタイヤが装着されている状況下で車輪速Vw を正確に検出するためには、回転速度ωを車輪速Vw に変換する際に、車輪の外径に応じて車輪速の補正を行うことが有効である。かかる補正は、例えば、車両が有するすべての車輪の回転速度ωから平均値ωavを検出し、その平均値ωavと回転速度ωとの偏差に基づいて、回転速度ωに乗算する係数KSを補正することにより実現できる。
【0008】
ところで、センターディファレンシャルを搭載する車両において、センターディファレンシャルがアンロック状態にある場合は、前輪と後輪との回転差は許容される。かかる状態では、前輪の回転速度と後輪の回転速度とに、前輪の外径と後輪の外径との差に応じた速度差が生ずるため、前輪と後輪とが同一の車輪速となるように補正係数KSが設定される。
【0009】
一方、センターディファレンシャルがロック状態にある場合は、前輪の車軸に伝達される駆動力と、後輪の車軸に伝達される駆動力とが均等に配分される。このため、かかる場合には、車輪の外径が異なっているか否かにかかわらず、前輪の回転速度と後輪の回転速度とは同一となり、上記の補正係数KSはほぼ1.0に設定される。
【0010】
このように、センターディファレンシャルがロック状態にある場合と、アンロク状態にある場合とでは、車輪速の補正係数KSに差異が生じ得る。このため、センターディファレンシャルをロック状態とアンロック状態とに切り換え可能な装置を搭載する車両においては、センターディファレンシャルの作動状態が切り替わるごとに、車輪速の補正係数KSを算定するための処理を実行し直す必要がある。以下、車輪速の補正係数KSを算定するための処理が実行されている状態を「補正前状態」と、補正係数KSが算定された後の状態を「補正後状態」と、それぞれ称す。
【0011】
センターディファレンシャルの作動状態が切り替わった後、車輪速の補正係数KSを算定するための処理の実行中は、未だ適正な補正係数が設定されていないので、車輪によっては車輪速Vw が他の車輪のものに比して大きく異なるおそれがある。従って、補正前状態でABS制御を実行するためには、ABS制御の開始しきい値を、補正後状態よりもABS制御が行われ難いように設定する必要がある。
【0012】
ところで、車輪にほぼ同径のタイヤが装着されている場合は、センターディファレンシャルの作動状態が切り替わっても、車輪速の補正係数は略一定に維持される。しかし、かかる場合にも補正係数を算定するための処理が実行されると、補正係数が変化しないにもかかわらず、ABS制御の開始しきい値が変更されることにより、補正前状態、すなわち、ABS制御が行われ難い状態が実現される。このため、かかる構成において、車輪にほぼ同径のタイヤが装着されている状況下でセンターディファレンシャルの作動状態が切り替わった場合には、ABS制御を行う必要がある領域で現実にはABS制御が実行されない事態が生じ得る。
【0013】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、すべての車輪に同径のタイヤが装着されている場合は、車輪速の補正が完了しているか否かにかかわらず車両制御の制御しきい値が変更されるのを禁止することで、車輪速に基づいた車両制御を適正に実行することが可能な車両用制御装置を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記の目的は、請求項1に記載する如く、車輪の回転速度を検出する回転速度検出手段と、検出された回転速度に基づいて車輪速を推定する車輪速推定手段と、車両に設けられたセンターディファレンシャルがアンロック状態からロック状態へ切り替わる毎に、すべての車輪の車輪速が同じ値となるように、前記車輪速推定手段により推定された各車輪の車輪速の補正を行う車輪速補正手段と、何れかの前記車輪速が所定のしきい値を越える場合に該車輪の路面に対するスリップを防止するアンチロックブレーキ制御を行う車両制御手段と、前記車輪速補正手段による補正が完了していない場合に前記所定のしきい値を高くするしきい値変更手段と、を備える車両用制御装置において、
すべての車輪に同径タイヤが装着されているか否かを判別する同径タイヤ判別手段と、
前記同径タイヤ判別手段により同径タイヤが装着されていると判別された場合には、前記しきい値変更手段による前記所定のしきい値の変更を禁止する変更禁止手段と、
を備えることを特徴とする車両用制御装置により達成される。
【0015】
本発明において、車輪の回転速度が検出され、かかる回転速度に基づいて車輪速が推定される。車両に設けられたセンターディファレンシャルがアンロック状態からロック状態へ切り替わる毎に、すべての車輪の車輪速が同じ値となるように、推定された各車輪の車輪速の補正が実行される。車輪速の補正が完了する前は、車輪によっては車輪速に大きなバラツキが生じる。従って、かかる状況下では、車輪の路面に対するスリップを防止するアンチロックブレーキ制御が行われ難いように所定のしきい値が通常よりも高くされる。
【0016】
車輪に同径のタイヤが装着されている場合は、車輪速の補正結果に変化が生ずることはない。本発明において、すべての車輪に同径のタイヤが装着されている場合は、アンチロックブレーキ制御の所定のしきい値の変更が禁止される。従って、本発明によれば、すべての車輪に同径のタイヤが装着されている場合に、車輪速に基づいたアンチロックブレーキ制御を適正に実行することができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の一実施例である車両用制御装置の全体構成図を示す。本実施例の車両用制御装置は、電子制御ユニット(以下、ECUと称す)10を備えており、ECU10により制御される。
本実施例の車両用制御装置を搭載する車両は、左右前輪FL, FRおよび左右後輪RL,RRを備えている。左前輪FLと右前輪FRとは、互いにフロントアクスル12を介して連結されている。また、左後輪RLと右後輪RRとは、互いにリアアクスル14を介して連結されている。フロントアクスル12は、内燃機関の、前輪側に配分される出力を、前輪FL,FRに対して伝達する役割を有している。また、リアアクスル14は、内燃機関の、後輪側に配分される出力を、後輪RL,RRに対して伝達する役割を有している。
【0018】
フロントアクスル12にはフロントディファレンシャル16が、リアアクスル14にはリアディファレンシャル18が、それぞれ設けられている。フロントディファレンシャル16は、車両旋回時等における左前輪FLと右前輪FRとの回転差を吸収するように構成されている。リアディファレンシャル18は、車両旋回時等における左後輪RLと右後輪RRとの回転差を吸収するように構成されている。また、フロントアクスル12とリアアクスル14との間には、センタディファレンシャル20が設けられている。センタディファレンシャル20は、前輪と後輪との回転差を吸収するように構成されている。
【0019】
ECU10には、センタデフロックスイッチ(以下、CDLスイッチと称す)22が接続されている。CDLスイッチ22は、センタディファレンシャル20のロック状態とアンロック状態とを切り換えるスイッチである。CDLスイッチ22は、センタディファレンシャル20がアンロック状態にある場合にオフ状態を維持し、ロック状態にある場合にオン信号をECU10に出力する。センタディファレンシャル20がアンロック状態にある場合は、前輪と後輪との回転差は許容される。一方、センタディファレンシャル20がロック状態にある場合は、前輪と後輪とに回転差が生じることはない。ECU10は、CDLスイッチ22の出力信号に基づいて、センタディファレンシャル20がロック状態にあるか否か、あるいは、アンロック状態にあるか否かを判別する。
【0020】
左右前輪FL, FRおよび左右後輪RL,RRには、ホイルシリンダ24〜30が設けられている。ホイルシリンダ24〜30には、液圧回路32が接続されている。液圧回路32は、ホイルシリンダ24〜30に対して、所定のブレーキ液圧を供給する。ホイルシリンダ24〜30は、液圧回路32から供給されたブレーキ液圧に応じた制動力を発生する。
【0021】
液圧回路32は、ブレーキペダルに連結するマスタシリンダと、ポンプおよびアキュムレータから構成される高圧源とを液圧源としてブレーキ液圧を発生させる回路である。液圧回路32は、運転者がブレーキペダルを踏み込む際のブレーキ踏力、または、車両の運転状態に応じて、ホイルシリンダ24〜30に適切なブレーキ液圧を供給する。
【0022】
本実施例において、液圧回路32は、▲1▼ブレーキ踏力に応じた制動力を発生する通常の機能(以下、通常ブレーキ機能と称す)、および、▲2▼ブレーキ操作中に何れかの車輪に所定値(以下、この所定値を「開始スリップ率」と称す)を越える過大なスリップ率が生じた場合にその車輪のスリップ率を減少させるアンチロックブレーキ機能(以下、ABS機能と称す)を実現する。
【0023】
各車輪FL,FR,RL,RRの近傍には、回転速度センサ40〜46が配設されている。回転速度センサ40〜46は、それぞれ、車輪FL,FR,RL,RRが所定角回転するごとにパルス信号をECU10に出力する。ECU10は、回転速度センサ40〜46の出力信号に基づいて、車輪FL,FR,RL,RRの回転速度ωfl, ωfr, ωrl, ωrr(以下、これらを総称する場合は回転速度ω**と称す)を検出する。
【0024】
本実施例においては、車輪の回転速度ω**に所定の係数を乗算することにより、各車輪の車輪速Vw/fl,Vw/fr,Vw/rl,Vw/rr(以下、これらを総称する場合は車輪速Vw/**と称す)を求めることとしている。車輪速Vw/**は、車輪の半径とその回転速度とを乗算することにより求められる。従って、車輪の半径が常に一定であるとすると、回転速度に乗算される係数は、定数とすることが可能となる。
【0025】
しかし、車輪の半径は、タイヤの摩耗やエア圧等に起因して変化する。また、車輪にテンパータイヤが装着されている場合等には、現実の車輪外径が、当初予定していた車輪外径に比して変化する場合がある。このような場合に回転速度ω**に乗算する係数が一定の値に固定されていると、正確な車輪速度Vw/**を求めることができない。従って、回転速度ω**に基づいて正確な車輪速度Vw/**を求めるためには、車輪の外径を考慮する必要がある。
【0026】
本実施例において、回転速度センサ40〜46から発せられるパルス信号の数Pfl,Pfr,Prl,Prr(以下、これらを総称する場合はパルス数P**と称す)がカウントされる。そして、所定時間中のパルス数P**の平均値Pavと各車輪のパルス数P**とを次式に代入することにより、各車輪に対する補正係数KSfl,KSfr,KSrl,KSrr(以下、これらを総称する場合は補正係数KS**と称す)が演算される。
【0027】
KS**=Pav/P** ・・・(1)
補正係数KS**は、パルス数P**が平均値Pavと等しい場合に1.0となり、パルス数P**が平均値Pavに比して大きい領域で1.0より小さい値となり、また、パルス数P**が平均値Pavに比して小さい領域で1.0より大きな値となる。
【0028】
本実施例において、車輪速Vw/**は、パルス数P**に、車輪FL,FR,RL,RRの基準外径に応じて設定された定数αと、補正係数KS**とを乗算することにより、次式の如く演算される。
Vw/**=α・KS**・P** ・・・(2)
車輪がすべての車輪の外径の平均値に比して大きな外径を有する場合は、そのパルス数P**は、平均値Pavに比して小さな値となり、補正係数KS**は1.0より大きな値に設定される。一方、車輪がすべての車輪の外径の平均値に比して小さな外径を有する場合は、そのパルス数P**は、平均値Pavに比して大きな値となり、補正係数KS**は1.0より小さな値に設定される。
【0029】
このように、補正係数KS**と車輪の回転パルス数P**とを用いて車輪速を演算する手法によれば、車輪の外径の大小にかかわらず、4輪とも同等の車輪速Vw/**を求めることができる。従って、本実施例のシステムによれば、車輪の外径の変化に対応して正確な車輪速Vw/**を得ることができる。
本実施例において、車両は、上述の如く、フロントアクスル12とリアアクスル14との間にセンタディファレンシャル20を有している。センタディファレンシャル20がアンロック状態にある場合は、前輪と後輪との回転差が許容されるので、それらの補正係数KS**には、車輪の外径に応じた値が設定される。一方、センタディファレンシャル20がロック状態にある場合は、前輪の回転速度と後輪の回転速度とが同一となり、補正係数KS**はほぼ1.0に設定される。このように、補正係数KS**は、センタディファレンシャル20の作動状態に応じて変化する。このため、センターディファレンシャル20をロック状態とアンロック状態とに切り換え可能な車両においては、その状態が切り替わるごとに、補正係数KS**を設定し直す必要がある。
【0030】
車輪速の補正係数KS**を算定するための処理の実行中は、未だ適正な補正係数KS**が設定されていないので、すべての車輪について車輪速Vw/**が略同一の値とならない場合がある。すなわち、車輪によっては車輪速Vw/**が他の車輪のものに比して大きく異なっている場合がある。かかる場合にABS制御の誤作動を防止するためには、ABS制御の開始スリップ率を、通常時の値よりも高く設定することが有効である。開始スリップ率が高く設定されていれば、一部の車輪の車輪速が他の車輪のものに比して大きく異なっていても、車輪のスリップ率が開始スリップ率を越えることが有効に抑制され、ABS制御の誤動作を防止することが可能となる。
【0031】
ところで、すべての車輪にほぼ同径のタイヤが装着されている場合は、センタディファレンシャル20の作動状態にかかわらず、車輪速の補正係数KS**は、略一定の値に維持される。しかし、かかる場合に補正係数KS**を算定するための処理が実行されると、補正係数KS**が変化しないにもかかわらず、ABS制御の開始スリップ率が高く設定され、その結果、ABS制御を行う必要がある領域で現実にはABS制御が行われない事態が生じてしまう。
【0032】
本実施例のシステムは、すべての車輪に同径のタイヤが装着されている場合は、センタディファレンシャル20の作動状態が切り替わっても、車輪速の補正係数KS**を算定するための処理を禁止することで、ABS制御を適正に実行することができる点に特徴を有している。以下、図2および図3を参照して、本実施例の特徴部について説明する。
【0033】
図2は、車輪速を補正すべく、本実施例の車両用制御装置においてECU10が実行する制御ルーチンの一例のフローチャートを示す。図2に示すルーチンは、所定時間ごとに起動される定時割り込みルーチンである。図2に示すルーチンが起動されると、まずステップ100の処理が実行される。
ステップ100では、車両が出荷前の状態にあるか否かが判別される。車両が出荷前の状態にある場合は、車輪速の補正は未だ行われていない。この場合は、車輪速の補正を行うことが適切である。従って、かかる判別がなされた場合は、次にステップ108の処理が実行される。一方、車両が出荷前の状態にないと判別された場合は、次にステップ102の処理が実行される。
【0034】
ステップ102では、前回の処理サイクルから今回の処理サイクルにかけてCDLスイッチ22がオフ状態からオン状態に切り替わったか否かが判別される。その結果、CDLスイッチ22がオフ状態からオン状態に切り替わったと判別された場合は、次にステップ104の処理が実行される。
ステップ104では、補正係数KS**から1.00を減算した値の絶対値が所定値D以上であるか否かが判別される。尚、所定値Dは、車輪に同径のタイヤが装着されていると判断できる補正係数の誤差の最大値であり、例えば0.01等の値に設定されている。|KS**−1.00|≧Dが成立する場合は、補正係数KS**が大きく、車輪に異径のタイヤが装着されていると判断できる。この場合は、かかる車輪の車輪速Vw/**における補正係数KS**を補正する処理を実行することが適切である。従って、|KS**−1.00|≧Dが成立すると判別された場合は、次にステップ106の処理が実行される。
【0035】
一方、|KS**−1.00|≧Dが成立しない場合は、車輪に同径のタイヤが装着されていると判断できる。この場合は、車輪速Vw/**における補正係数KS**を補正する処理を実行する必要はない。従って、|KS**−1.00|≧Dが成立しないと判別された場合は、今回のルーチンは終了される。
ステップ106では、補正完了フラグFrをオフ状態にする処理が実行される。尚、補正完了フラグFrは、車輪速Vw/**を算出する際に、回転速度ω**に乗算される補正係数KS**の補正が完了しているか否かを表すフラグである。本ステップ106の処理が実行されると、以後、現時点までに用いられていた補正係数KS**がクリアされる。
【0036】
ステップ108では、車輪速の補正係数KS**を更新するための処理が実行される。具体的には、すべての車輪について、回転速度センサ40〜46から発せられるパルス信号の数P**とその平均値とに基づいて、補正係数KS**が演算される。
ステップ110では、車輪速の補正係数KS**を更新するための処理の実行が完了したか否かが判別される。本ステップ110の処理は、補正係数KS**の更新が完了したと判別されるまで繰り返し実行される。その結果、補正係数KS**の更新が完了したと判別された場合は、次にステップ112の処理が実行される。
【0037】
ステップ112では、補正完了フラグFrをオン状態にする処理が実行される。本ステップ112の処理が終了すると、今回のルーチンが終了される。
上記ステップ102において上記判別がなされなかった場合は、次にステップ114の処理が実行される。
ステップ114では、前回の処理サイクルから今回の処理サイクルにかけてCDLスイッチ22がオン状態からオフ状態に切り替わったか否かが判別される。その結果、CDLスイッチ22がオン状態からオフ状態に切り替わったと判別された場合は、次にステップ116の処理が実行される。一方、上記の判別がなされなかった場合は、今回のルーチンが終了される。
【0038】
ステップ116では、補正完了フラグFrがオン状態にあるか否かが判別される。補正完了フラグFrがオン状態にある場合は、前回の処理サイクルにおいてCDLスイッチ22がオフ状態からオン状態に切り替わった後に新たな補正係数KS**が演算されたと判断できる。この場合は、更に、新たな補正係数KS**を演算する必要がある。従って、かかる判別がなされた場合は、次に上記ステップ108以降の処理が実行される。
【0039】
一方、補正完了フラグFrがオフ状態にある場合は、前回の処理サイクルにおいてCDLスイッチ22がオフ状態からオン状態に切り替わった後に未だ新たな補正係数KS**が演算されていないと判断できる。この場合は、運転者が短時間にCDLスイッチ22を操作したと判断でき、かかる状況下では補正係数KS**を更新するための処理を行うことは適切ではない。従って、かかる判別がなされた場合は、今回のルーチンが終了される。
【0040】
上記の処理によれば、CDLスイッチ22がオフ状態からオン状態に切り替わった場合でも、補正係数KS**が1.00近傍の値である場合、すなわち、すべての車輪が略同一の外径を有している場合には、補正係数KS**を更新するための処理を中止することができる。
図3は、ABS制御を実行すべく、本実施例の車両用制御装置においてECU10が実行する制御ルーチンの一例のフローチャートを示す。図3に示すルーチンは、その処理が終了するごとに繰り返し起動されるルーチンである。図3に示すルーチンが起動されると、まずステップ120の処理が実行される。
【0041】
ステップ120では、上記図2に示すルーチンを処理した結果、補正完了フラグFrがオン状態にあるか否かが判別される。補正完了フラグFrがオン状態にない場合は、補正係数KS**の補正が完了しておらず、ABS制御が実行され難いように開始スリップ率を変更する必要がある。従って、かかる判別がなされた場合は、次にステップ122の処理が実行される。一方、補正完了フラグFrがオン状態にある場合は、補正係数KS**の補正が完了しており、ABS制御の開始スリップ率を通常どおりの値に設定することが適切である。従って、かかる判別がなされた場合は、次にステップ124の処理が実行される。
【0042】
ステップ122では、ABS制御の開始スリップ率SHを、初期値SH0 に所定値βを加算した値にする処理が実行される。本ステップ122の処理が実行されると、以後、開始スリップ率SHが高く設定されることになる。
ステップ124では、ABS制御の開始スリップ率SHを、初期値SH0 にする処理が実行される。
【0043】
ステップ126では、何れかの車輪についてのスリップ率SLIPが、上記ステップ122または124の処理により演算された開始スリップ率SHを越えているか否かが判別される。その結果、SLIP>SHが成立しないと判別された場合は、今回のルーチンは終了される。一方、SLIP>SHが成立すると判別された場合は、次にステップ128の処理が実行される。
【0044】
ステップ128では、ABS制御の実行が開始される。具体的には、SLIP>SHが成立すると判断された車輪について、ホイルシリンダ24〜30に供給するブレーキ液圧を、減圧・保持・増圧させる処理が繰り返し実行される。
ステップ130では、ABS制御の終了条件が成立するか否かが判別される。ABS制御の終了条件は、ブレーキペダルの踏み込みが解除された場合、すべての車輪のスリップ率が適正な範囲に低下した場合、車速SPDが十分に低速となった場合等に成立する。本ステップ130の処理は、ABS制御の終了条件が成立すると判別されるまで繰り返し実行される。その結果、ABS制御の終了条件が成立すると判別された場合は、次にステップ132の処理が実行される。
【0045】
ステップ132では、ABS制御を終了するための処理が実行される。本ステップ132の処理が終了すると、今回のルーチンは終了される。
上記の処理によれば、補正係数KS**の補正が完了していない場合にABS制御の開始スリップ率SHを大きくすることができると共に、補正係数KS**の補正が完了している場合に開始スリップ率SHを通常どおりの値に維持することができる。このように、本実施例によれば、CDLスイッチ22がオフ状態からオン状態に切り替わっても、それ以前の補正係数KS**が1.00近傍の値であり、すべての車輪に同径のタイヤが装着されていると判断される場合は、ABS制御の開始スリップ率SHを通常どおりの値に維持することができる。
【0046】
このため、すべての車輪にほぼ同径のタイヤが装着されている場合には、ABS制御を行う必要がある領域でABS制御が実行されない事態を回避することができる。従って、本実施例の車両用制御装置によれば、すべての車輪に同径のタイヤが装着されている場合は、ABS制御の開始スリップ率が変更されることがなく、ABS制御を適正に実行することができる。
【0047】
尚、上記の実施例においては、ECU10が回転速度センサ40〜46の出力信号に基づいて車輪の回転速度ω**を検出することにより請求項1記載の「回転速度検出手段」が、回転速度ω**に車輪の基準外径に応じた定数αを乗算することで車輪速VW/**を推定することにより請求項1記載の「車輪速推定手段」が、上記ステップ108の処理を実行することにより請求項1記載の「車輪速補正手段」が、車輪の車輪速VW/**に基づいてABS制御を実行することにより請求項1記載の「車両制御手段」が、上記ステップ120の処理の後に上記ステップ122または124の処理を実行することにより請求項1記載の「しきい値変更手段」が、それぞれ実現されている。
【0048】
また、上記の実施例においては、ECU10が、上記ステップ104の処理を実行することにより請求項1記載の「同径タイヤ判別手段」が、上記ステップ104の処理の後に上記ステップ106以降の処理を実行することなく補正完了フラグFrをオン状態に維持することにより請求項1記載の「変更禁止手段」が、それぞれ実現されている。
【0049】
ところで、上記の実施例においては、車輪速Vw/**を用いた車両制御をABS制御に限定しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、車輪速Vw/**を他の車両制御に用いることとしてもよい。
【0050】
【発明の効果】
上述の如く、本発明によれば、すべての車輪に同径のタイヤが装着されている場合に、車輪速の補正が完了しているか否かにかかわらず車両制御の制御しきい値が変更されるのが禁止されることで、車輪速に基づいた車両制御を適正に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例である車両用制御装置の全体構成図である。
【図2】本実施例の車両用制御装置において、車輪速を補正すべく実行される制御ルーチンの一例のフローチャートである。
【図3】本実施例の車両用制御装置において、ABS制御を実行すべく実行される制御ルーチンの一例のフローチャートである。
【符号の説明】
10 電子制御ユニット(ECU)
20 センタディファレンシャル
22 センタデフロックスイッチ(CDLスイッチ)
24〜30 ホイルシリンダ
40〜46 回転速度センサ
FL,FR,RL,RR 車輪

Claims (1)

  1. 車輪の回転速度を検出する回転速度検出手段と、検出された回転速度に基づいて車輪速を推定する車輪速推定手段と、車両に設けられたセンターディファレンシャルがアンロック状態からロック状態へ切り替わる毎に、すべての車輪の車輪速が同じ値となるように、前記車輪速推定手段により推定された各車輪の車輪速の補正を行う車輪速補正手段と、何れかの前記車輪速が所定のしきい値を越える場合に該車輪の路面に対するスリップを防止するアンチロックブレーキ制御を行う車両制御手段と、前記車輪速補正手段による補正が完了していない場合に前記所定のしきい値を高くするしきい値変更手段と、を備える車両用制御装置において、
    すべての車輪に同径タイヤが装着されているか否かを判別する同径タイヤ判別手段と、
    前記同径タイヤ判別手段により同径タイヤが装着されていると判別された場合には、前記しきい値変更手段による前記所定のしきい値の変更を禁止する変更禁止手段と、
    を備えることを特徴とする車両用制御装置。
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