JP3619705B2 - 光記録媒体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光記録媒体の製造方法に関し、詳しくは、ばらつき等の少ない良好な特性の記録層を備えた光記録媒体の工業的に有利な製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
記録・消去が何度でも可能な書き換え型光記録媒体として、光磁気効果を利用した光磁気記録媒体や、可逆的な結晶状態の変化に伴う反射率変化を利用した相変化媒体が知られている。
【0003】
上記の光記録媒体は、何れも、少なくとも予備排気室と成膜室とを備えた成膜機を使用し、予備排気室内に樹脂基板を所定時間収容して基板の脱ガスを行った後、脱ガス処理された樹脂基板を成膜室内に移送し、当該樹脂基板上に少なくとも記録層を形成する方法によって製造される。
【0004】
上記の脱ガス処理は、記録層に取り込まれて記録特性に影響を与える樹脂基板中の空気や水蒸気成分の除去のために行われる処理である。すなわち、樹脂基板の成形工程から供給された所定形状の樹脂基板は、成膜機の予備排気室において、真空設備の作用により、脱ガス処理(予備排気処理)された後、得られた活性表面を維持するために減圧状態を解除することなく、次の成膜室に移送される。そして、上記の成膜機からの製品の搬出の際の減圧解除は、通常、大気の導入によって行われる。
【0005】
しかしながら、上記の様な従来の製造方法による場合、記録層の特性がばらついて安定しないという問題があり、しかも、予備排気室でのタクトタイムが数分以上(時には数時間)に及ぶという欠点がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、ばらつき等の少ない良好な特性の記録層を備えた光記録媒体の製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、成膜機の予備排気室でのタクトタイムが著しく短縮された工業的に有利な光記録媒体の製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、種々検討を重ねた結果、成膜機からの製品の搬出の際の減圧解除を特定のガスによって行うことにより、上記の目的を容易に達成し得るとの知見を得た。
【0008】
本発明は、上記の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は、少なくとも予備排気室と成膜室とを備えた成膜機を使用し、予備排気室内に樹脂基板を所定時間収容して基板の脱ガスを行った後、脱ガス処理された樹脂基板を成膜室内に移送し、当該樹脂基板上に少なくとも記録層を形成する光記録媒体の製造方法において、上記の成膜機からの製品の搬出の際の減圧解除を希ガスの導入によって行うことを特徴とする光記録媒体の製造方法に存する。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。先ず、本発明の製造方法で得られる光記録媒体についてヒートモード光記録媒体を例に挙げて説明する。樹脂基板の材料としては、ポリカーボネート(PC)、アクリル、ポリオレフィン等の透明性に優れる樹脂が使用される。特に分子量14500〜16000のPCが好ましい。
【0010】
樹脂基板上に形成される記録層の材料は、光磁気型と相変化型で異なり、光磁気型媒体の場合は、TbFeCo、GdTeCo等、相変化型媒体の場合は、GeSbTe、AgInSbTe、ZnGeSbTe等が使用される。光磁気型媒体では、組成の異なる複数の磁気記録層を積層して使用する場合もある。
【0011】
上記の記録層は、集束した光ビームを吸収して発熱することにより、局所的に可逆的物理変化を生じる。そして、それに伴う局所的光学特性変化を検出することにより記録再生を行う。光磁気型媒体の場合は、外部磁界の印加により記録層面垂直方向の磁化の向きを反転させてカー回転角の方向を反転させる。相変化型媒体では異なる結晶状態の間または非晶質状態と結晶状態との間の反射率変化を使用する。
【0012】
そして、上記の何れの媒体の場合も、記録層の上下を誘電体保護層で挟み込むことにより、酸素などの拡散による化学的劣化や温度上昇による変形劣化を抑制することが出来る。
【0013】
誘電体保護層は、通常、記録再生光に対して透明であり、多重干渉効果を利用して、光磁気記録におけるカー回転角を見かけ上おおきくしたり、相変化における非晶質・結晶間の反射率差を見かけ上大きくしたりして、再生時の信号振幅を大きくする効果もある。また、記録層の上下の誘電体保護層は、記録層の上下の何れの場合も、熱伝導率や光学定数の異なる材料を積層して更に光学的・熱的に高度な設計を行う場合がある。
【0014】
誘電体保護層に使用される材料は、金属や半導体の酸化物、窒化物、炭化物、弗化物、カルコゲン化物およびそれらの混合物から成る誘電体である。具体的には、Mg、Ca、Sr、Y、La、Ce、Ho、Er、Yb、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Zn、Al、Si、Ge、Pb等の酸化物、窒化物、炭化物、Ca、Mg、Li等のフッ化物、TaS2、ZnS、ZnSe等が挙げられる。特に、光磁気型媒体の場合は、窒化シリコンや酸化タンタル、相変化型媒体の場合は、ZnSとSiO2 、ZnO、希土類酸化物または希土類硫化物との混合物が好適である。
【0015】
通常、記録層の上部の誘電体保護層の上には更に金属反射層が設けられる。金属反射層は、光学的な干渉効果を制御すると共に透過光をなくすことで入射光エネルギーを有効に記録層に吸収せしめる。更にまた、金属反射層は、それ自身の高熱伝導率により、その下部の誘電体保護層を介して記録層の熱を拡散せしめ、記録層の温度分布や変化を制御する機能も有する。
【0016】
上記の様な光記録媒体は、従来公知の方法に従い、少なくとも予備排気室と成膜室とを備えた成膜機を使用し、予備排気室内に樹脂基板を所定時間収容して基板の脱ガスを行った後、脱ガス処理された樹脂基板を成膜室内に移送し、当該樹脂基板上に少なくとも記録層を形成する方法で製造される。
【0017】
本発明の特徴は、上記の成膜機からの製品の搬出の際の減圧解除を希ガスの導入によって行う点にある。希ガスとしては、He、Ne、Ar、Kr、Xe等が挙げられる。これらの希ガスによる減圧解除により、脱ガス処理によって得られた樹脂基板の活性表面が保護される。その結果、後述の実施例および比較例によって明らかな様に、ばらつき等の少ない良好な特性の記録層を備えた光記録媒体が得られる。
【0018】
また、本発明によれば、予備排気室の内壁面、内部の微細構造、内部に配置された基板ホルダー等も希ガスによる減圧解除によって常にクリーンな状態に維持される。その結果、後述の実施例および比較例によって明らかな様に、予備排気室でのタクトタイムが著しく短縮することが出来る。
【0019】
成膜機からの製品の搬出は、通常、脱ガス処理(予備排気処理)を行った予備排気室を通し、脱ガス処理する次の樹脂基板の搬入と同時に行われ、その意味において、本発明における成膜機からの製品の搬出は、予備排気室への樹脂基板の搬入を意味する。なお、製品の搬出が上記と同様の排気処理機能を備えた他の排気室(搬出室)を通して行われる場合もあるが、斯かる場合は、減圧解除される何れの排気室(搬入室と搬出室)についても減圧解除ガスとして希ガスを使用するのが好ましい。
【0020】
本発明の製造方法は、予備排気室でのタクトタイムを短縮し得る効果を有するため、量産性の高いシステムのために提案された枚葉式成膜機を効果的に使用することが出来る。この枚葉式システムは、樹脂基板を1枚当たり数秒から十数秒で順次に枚葉式成膜機に移送し、連続的な操作によって多層構成の成膜を行う方法であり、装置の簡便化と共に処理時間の短縮化により製造コストの低減を目的としたものである。
【0021】
また、本発明においては、予備排気室に供給する前において樹脂基板の記録層非形成面側に誘電体保護層を形成するのが好ましい。斯かる実施態様によれば、樹脂記録層非形成面側に形成された誘電体保護層により、酸素、窒素および水分の分解物の成膜雰囲気中への放出が抑制され、一層良好な結果が得られる。上記の誘電体保護層の厚さは、通常10〜500nm、好ましくは30〜200nmとされる。
【0022】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0023】
実施例1並びに比較例1及び2
以下の例においては、1つの予備排気室と7つのスパッタ成膜室を有する枚葉式成膜機を使用した。
【0024】
先ず、成形機で射出成形され且つ予備排気室にて脱ガス処理された樹脂基板の表面に誘電体保護層/記録層/誘電体保護層/金属反射層の順にスパッタ成膜した。成形機でのタクトタイムは約8秒であり、上記の各要素の仕様は次の表1に示す通りである。
【0025】
【表1】
樹脂基板 :分子量約15,000のPC(厚み1.2mm、直径120mm)
下部誘電体保護層:ZnS:SiO2 混合膜(100nm)
記録層 :AgInSbTe(20nm)
上部誘電体保護層:ZnS:SiO2 混合膜(80nm)
金属反射層 :Al合金(200nm)
【0026】
次いで、金属反射層の上に、スピンコーターにより紫外線硬化樹脂の保護コートを設けた後、長さ100μm、幅1μm程度の楕円レーザー光ビームの照射により初期化を行った。以上の操作を連続的に行って相変化型光ディスク(CD−Rewritable:CD−RW)を製造した。全体で8秒のタクトタイムを実現するため、下部誘電体保護層は3つの、金属反射層は2つのスパッタ成膜室に分割して成膜した。
【0027】
なお、成形機から成膜機を介し、保護コート及び初期化にいたる製造工程全体は、クリーン度100以下のクリーントンネル内に設置されており、また、その湿度は22℃±2℃、相対湿度は50%RH±5%に制御されている。
【0028】
上記の製造方法において、製品の搬出の際に予備排気室に導入する減圧解除ガスとして、実施例1の場合は純度99.9%以上のAr、比較例1の場合は大気(空気)、比較例2の場合は99.9%以上のN2を使用した。また、何れの場合も、予備排気室の減圧解除開始から、樹脂基板の装脱着後、次の排気開始までのタクトタイムは約4秒であった。得られた各CDの記録特性を評価した。表2に結果を示す。
【0029】
【表2】
【0030】
比較例1(大気)の場合、光ディスクの記録再生特性にばらつきが大きく、再現性が不安定であった。予備排気時間が実質的に4秒程度という条件下では、大気開放では予備排気不十分で記録層に酸素、窒素および水分の分解物が混入されているものと考えられる。大気の湿度は、都度、微妙に変化するため、水分の影響が特性ばらつきの原因であると推定できる。実際、記録層のオージェ分析法による深さ分析を試みたところ、記録層中に3〜5%程度の酸素が混入していた。特に、反射率およびジッタは記録層中の酸素による汚染の影響に顕著に影響され、反射率は概ね1%程度低めであった。また、EFM信号記録後、80℃/80%RHでの加速試験500時間後に投入したところ、2%以上の反射率低下が測定された。これに対し、比較例2(N2)及び実施例1(Ar)の場合、反射率低下は1%未満であった。
【0031】
比較例2(N2)及び実施例1(Ar)を比較した場合、初期化工程および記録再生特性においてディスク面内の特性分布に次の様な差が見られた。
【0032】
比較例2(N2)では、特に記録面の内外周端において初期結晶化が困難な部分が見られた。記録面の内外周端は、(1)裏面から樹脂基板全面に放出されてくる基板ホルダに巻き込まれたガス、(2)内外周マスクや室側壁に吸着し再放出されたガス等に晒され易い領域であるため、特にN2ガスの再放出の影響を受け易い。
【0033】
N2ガスは通常不活性ガスと見做されているが、記録層に微量のN2ガスをドープした別途の実験において、5%未満のN2ガスのドープでも記録層の結晶化が困難になることが確認されている。従って、最放出されたN2ガスがスパッタ放電中のプラズマで乖離され記録層中に不均一に取り込まれたため、初期結晶化速度および消去特性にばらつきを生じさせたと考えられる。なお、N2ガスによる減圧解除の場合、タクトタイムを30秒まで落として排気時間を長くしない限り、上記の様な不均一性の問題は解決されなかった。
【0034】
一方、実施例1(Ar)の場合、上記の様な不均一性は全く観測されず、初期化不良による歩留まり低下、初期化時間延長によるタクト低下、排気時間延長によるタクト低下の問題を全て解決することが出来、8秒タクトでの安定な製造が可能となった。また、ディスク面内の結晶化特性分布による記録特性分布もなかった。
【0035】
実施例2
実施例1において、枚葉式成膜機の前に単層成膜機を配置し、成形工程で射出成形された樹脂基板の裏面(記録層成膜面の反対面)に誘電体保護層としてSiO2(40nm)をスパッタにて成膜し、その後に、樹脂基板を予備排気室に供給した以外は、実施例1と同様に操作してCDを連続的に製造した。得られた各CDの記録特性を評価した。表3に結果を示す。
【0036】
【表3】
【0037】
実施例2の場合は、実施例1に比し、記録再生特性のばらつきが一層軽減された結果が得られた。これは、樹脂基板の裏面に形成されたSiO2膜により、酸素、窒素および水分の分解物の成膜雰囲気中への放出が抑制されたことによるものと考えられる。
【0038】
【発明の効果】
以上説明した本発明によれば、ばらつき等の少ない良好な特性の記録層を備えた光記録媒体を量産性に優れた枚葉式システムにより製造することが出来、工業的に有利である。
Claims (2)
- 少なくとも予備排気室と成膜室とを備えた成膜機を使用し、予備排気室内に樹脂基板を所定時間収容して基板の脱ガスを行った後、脱ガス処理された樹脂基板を成膜室内に移送し、当該樹脂基板上に少なくとも記録層を形成する光記録媒体の製造方法において、上記の成膜機からの製品の搬出の際の減圧解除を希ガスの導入によって行うことを特徴とする光記録媒体の製造方法。
- 予備排気室に供給する前において樹脂基板の記録層非形成面側に誘電体保護層を形成する請求項1に記載の製造方法。
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