JP3608934B2 - 光記録媒体及び光記録媒体用保護膜 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、相変化型記録材料からなる記録膜を有する光記録媒体及び光記録媒体に好適な光記録媒体用保護膜に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、高密度記録が可能で、しかも記録情報を消去して書き換えることが可能な光記録媒体が注目されている。書き換え可能型の光記録媒体のうち相変化型の光記録媒体は、レーザー光を照射することにより記録膜の結晶状態を変化させ、このような状態変化に伴う記録膜の反射率変化を検出するものである。
【0003】
相変化型光記録媒体の記録膜の材料としては、結晶状態と非晶質状態とで反射率の差が大きく、非晶質状態の安定度が比較的高い、Ge−Te 系材料が用いられることが多い。その代表的な材料例として、米国特許第 3,530,441号に開示されているように、Ge−Te 、Ge−Te−Sb−S、Ge−Te−S 、Ge−Se−S 、Ge−Se−Sb、Ge−As−Se、In−Te 、Se−Te 、Se−As 等のいわゆるカルコゲン系合金材料があげられる。
【0004】
また、安定性、高速結晶化等の向上を目的にGe−Te 系にAu(特開昭61−219692 号公報)、Sn及びAu(特開昭61−270190 号公報)、Pd(特開昭62−19490号公報)等を添加した材料の提案や、記録/消去の繰り返し性能向上を目的に Ge−Te−Se−Sbの組成比を特定した材料(特開昭62−73438号公報)の提案等もなされている。しかしながら、上述した組成のいずれもが相変化型書き換え可能光記録媒体の記録膜として要求される諸特性のすべてを満足し得るものとはいえない。特に、記録感度、消去感度の向上、オーバーライト時の消し残りによる消去比低下の防止、並びに繰り返し記録消去特性の長寿命化が最も重要な課題となっている。
【0005】
これに対し、最近、化学周期律表を用いるとIb−IIIb−VIb2 やIIb−IVb−Vb2 で表されるカルコパイライトと呼ばれる化合物を記録膜材料に応用することが提案されている。カルコパイライト型化合物の中でも特にAgInTe2 は、SbやBiを用いて希釈することにより、光記録媒体の良好な記録膜材料として使用できることが知られている(特開平3−240590号公報、特開平3−99884 号公報、特開平3−82593 号公報、特開平3−73384 号公報等)。更に、この他、特開平4−267192号公報や特開平4−232779号公報、特開平6−166268号公報には、記録膜が結晶化する際にAgSbTe2 相が生成する相変化型光記録媒体が開示されている。
【0006】
しかしながら、これらのカルコパイライト系の記録膜材料を用いた光記録媒体は、確かに優れたC/N、消去比、変調度、記録感度を有するが、繰り返し記録消去の寿命が一千回程度しかないという問題点があった。
この問題点を解決するために、本発明者等は特定の組成を有するAu−In−Sb−Te 記録膜材料を開発し、先に出願した(特願平9−46225 号、特願平9−210745号、特願平9−285785号等) 。この記録膜材料は、優れたC/N、消去比、変調度、記録感度、及び繰り返し記録消去特性を有する。特に、繰り返し記録消去特性の寿命が、線速1〜3m/s で1万回、線速5〜7m/s で10万回と、前記AgSbTe2 相を有する記録膜材料に比べて1桁以上大きく、相変化型光記録媒体の記録膜材料として極めて優れた特性を有している。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述したAu−In−Sb−Te 記録膜材料を用いても、全ての線速において繰り返し記録消去の寿命が10万回を越えるわけではなく、光磁気ディスクの繰り返し記録消去の寿命が100 万回であることに比べると、必ずしも十分ではないという問題点があった。
【0008】
本発明はこのような従来の問題点に鑑み、繰り返し記録消去特性の更に優れた光記録媒体及び光記録媒体に好適な光記録媒体用保護膜を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
このため、請求項1に係る発明では、使用する光ビームに対して略透明な基板上に、少なくとも第1保護膜、記録膜、第2保護膜、反射膜をこの順で積層した光記録媒体において、前記記録膜が、 Au-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te-V 合金、 Cu-In-Sb-Te 合金及び Pd-In-Sb-Te 合金のいずれかの合金からなり、前記第2保護膜が、ZnS とSiO2の混合膜からなり、前記第1保護膜が、ZnSとSiO2の混合膜に窒素を含み、当該窒素の濃度を前記基板側より前記記録膜側が高くなるよう形成することを特徴とする。
【0010】
第1保護膜は、具体的には、請求項2に係る発明のように、前記基板側にZnS とSiO2の混合膜を有し、前記記録膜側にZnS とSiO2と窒素を含む混合膜を有する複合膜としてもよく、また、請求項3に係る発明のように、ZnS とSiO2と窒素を含む混合膜からなり、膜の前記基板側の面の窒素濃度が略0原子%で、基板側から記録膜側に向けて窒素濃度が漸次増加するようにしてもよい。
【0011】
かかる構成の光記録媒体では、第1保護膜が適度な柔軟性を有し、記録消去の際の加熱・冷却の繰り返しに伴う保護膜の劣化が抑制される。また、Au-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te-V 合金、 Cu-In-Sb-Te 合金及び Pd-In-Sb-Te 合金のいずれかの合金からなる記録膜側の窒素濃度を高くすることで、記録膜に悪影響を与える保護膜中の元素(特にイオウ)の拡散が効果的に抑制でき、光記録媒体の繰り返し記録消去特性を格段に向上させることができる。
【0013】
書き換え型光記録媒体において、保護膜がZnS とSiO2と窒素(N) を含む可能性のある技術は、特公平7−111786号公報、特開平6−4904号公報、特開平6−342529号公報、特開平9−198712号公報等に見ることができる。
しかしながら、特開平6−4904号公報では、ZnS とSiO2と窒素の他に水素を含むことを必須要件としており、本願発明とは構成元素が一致しない。また、特開平9−198712号公報では、ZnS とSiO2にSi3N4 を含ませることを必須要件としており、本願発明とは構成物質が一致しない。
【0014】
一方、特公平7−111786号公報には、ZnS とSiO2に窒素を含ませることを構成要件とする光記録媒体並びに光記録媒体用保護膜が開示されている。しかしながら、特公平7−111786号公報では、ZnS とSiO2の混合膜に窒素を含ませてある保護膜は、膜厚方向に均一な窒素濃度を有すると認識されており、本願発明のように、窒素濃度分布を設けたものではない。また、本願発明では、窒素濃度分布を有するZnS−SiO2−N混合膜を、Au−In−Sb−Te 合金、Ag−In−Sb−Te 合金等のカルコパイライト型化合物からなる記録膜と組み合わせた時に特に書き換え寿命向上の効果が顕著になるということを示したが、特公平7−111786号公報にはこのような記述も示唆も見られない。
【0015】
また、特開平6−342529号公報には、保護膜と記録膜の間に窒素を含有する補助膜を備えるという、広範な構成要件の相変化型光記録媒体が開示されている。同公報では、補助層の挿入は第1保護膜と記録膜との間、或いは、第2保護膜と記録膜との間のどちらでも良いとの認識があり、更に、どちらかというと同公報の実施例に見られるように第2保護膜と記録膜との間に補助層を挿入することが主に検討されている。一方、本願発明では、窒素濃度分布を有するZnS−SiO2−N混合膜を、特に第1保護膜に用いることを必須要件としており、特開平6−342529号公報とは異なっている。また、本願発明では、窒素濃度分布を有するZnS−SiO2−N混合膜を、Au−In−Sb−Te 合金、Ag−In−Sb−Te 合金等のカルコパイライト型化合物からなる記録膜と組み合わせた時に特に書き換え寿命向上の効果が顕著になるということを示したが、特開平6−342529号公報にはこのような記述も示唆も見られない。
【0019】
請求項4に係る発明では、使用する光ビームに対して略透明な基板上に、 Au-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te-V 合金、 Cu-In-Sb-Te 合金及び Pd-In-Sb-Te 合金のいずれかの合金からなる記録膜を備える光記録媒体の前記記録膜表面に設ける光記録媒体用保護膜であって、ZnSとSiO2の混合膜に窒素を含ませ、当該窒素の濃度が膜厚方向において、前記記録膜側が他側より高くなるようにしたことを特徴とする。
具体的には、光記録媒体用保護膜は、請求項5に係る発明のように、前記記録膜側が、ZnSとSiO2と窒素を含む混合膜からなり、前記他側が、ZnSとSiO2の混合膜からなる複合膜としてもよく、請求項6に係る発明のように、ZnSとSiO2と窒素を含む混合膜であって、膜の前記他側の面の窒素濃度が略0原子%で、前記記録膜側に向けて窒素濃度が漸次増加するようにしてもよい。
【0020】
かかる構成の保護膜を用いることで、光記録媒体の繰り返し記録消去特性を向上させることができる。
また、本発明の光記録媒体用保護膜では、光記録媒体の諸性質に影響を与えない範囲で、請求項7に係る発明のように、酸素を含ませるようにしてもよい。
更に、請求項8に係る発明のように、膜中に含まれるSiO2のモル数が、ZnSのモル数の10%〜40%であることが好ましい。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1〜図3は、本発明の光記録媒体の好ましい構成例を示す断面図である。
図1に示した光記録媒体1は、基板2上に、第1保護膜3、記録膜4、第2保護膜5、反射膜6、及びラッカー層7をこの順で積膜した構造を有する、片面記録用の光記録媒体である。
【0022】
また、図2に示した光記録媒体1は、基板2上に、第1保護膜3、記録膜4、第2保護膜5、反射膜6、ラッカー層7、接着層8、及び上部基板9をこの順で積膜し、機械的強度を高めた片面記録用の光記録媒体である。
また、図3に示した光記録媒体1は、2枚の基板2の上に、それぞれ第1保護膜3、記録膜4、第2保護膜5、反射膜6、及びラッカー層7をこの順で積膜し、この2枚の光記録媒体を、ラッカー層7側を対向させて、接着層8を介して接合した両面記録用の光記録媒体である。尚、図2及び図3に示した光記録媒体では、ラッカー層7を省くこともできる。
【0023】
上記の図1〜図3に示す構成例の他にも、C/N、消去比、変調度、記録感度、繰り返し記録消去の寿命等の改善を目的として、図1〜図3に示した光記録媒体1の基板2と第1保護膜3の間、及び/又は第1保護膜3と記録膜4の間、及び又は記録膜4と第2保護膜5の間、及び/又は第2保護膜5と反射膜6の間に、1層或いは複数層の補助層を挿入した構成の光記録媒体も可能である。この場合、補助層を構成する物質は誘電体或いは金属等が好ましい。
【0024】
基板2には、用いる光ビームに対して透明である材質、例えば、樹脂やガラス等から構成することが好ましく、特に、取り扱いが容易で安価であることから、樹脂が好ましい。樹脂として具体的には例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ABS樹脂等を用いることができる。基板の形状及び寸法は特に限定されないが、通常、ディスク状であり、その厚さは、通常、0.5 〜3mm程度、直径は40〜360 mm程度である。また、基板の表面には、トラッキング用やアドレス用等のために、グルーブ等の所定のパターンが必要に応じて設けられる。
【0025】
第1保護膜3及び第2保護膜5は、記録膜4の結晶状態の変化に伴う反射率の変化を、第1保護膜3と第2保護膜5との間での多重反射によって拡大し、変調度(結晶状態と非晶質状態との反射率の差)を高める作用、並びに、記録時に、記録膜4に残った熱を熱伝導により適度な速度で放出する作用を有する。
第1保護膜3は、ZnS とSiO2の混合膜に窒素(N)を含み、窒素濃度が基板2側よりも記録膜4側の方が高くなるように形成する。具体的には、例えば、前記基板側にZnS とSiO2の混合膜を有し、前記記録膜側にZnS とSiO2と窒素を含む混合膜を有する複合膜とするようにしたり、或いは、ZnS とSiO2と窒素を含む混合膜で、当該混合膜の基板2側の面の窒素濃度を略0原子%とし、基板2側から記録膜4側に向けて窒素濃度を漸次増加させるようにする。尚、濃度が漸次増加するとは、濃度が決して減少しない(一定値に留まることはあってもよい)ことを意味する。また、第1保護膜3中に含まれるSiO2のモル数は、ZnS のモル数の10%〜40%であることが好ましい。SiO2のモル数が10%未満だと結晶粒径が大きくなり、膜の緻密性が悪くなる。一方、40%を越えると混合膜の屈折率が小さくなり、光学特性の観点から好ましくない。
【0026】
ZnS とSiO2のモル比が上記範囲で与えられるZnS とSiO2の混合膜は、光記録媒体用に通常用いられる350nm 〜850nm の波長の光ビームに対して略透明であり、記録膜物質よりも高融点で、しかも適度な硬度と柔軟性を持つ等、光記録媒体用保護膜として優れた性能を持っている。しかしながら、記録・消去を行う際の加熱、冷却の繰り返しに伴い保護膜が劣化したり、保護膜中の元素(特にイオウ)が記録膜中に拡散して記録膜の性能を劣化させる等のため、光記録媒体の記録消去の繰り返し回数には限界があった。特に、上記保護膜に関連する記録消去繰り返し寿命の限界は、Ag−In−Sb−Te 合金やAu−In−Sb−Te 合金等のカルコパイライト型化合物を記録膜に用いた時に顕著であり、ZnS とSiO2とからなる保護膜を、Ge−Sb−Te合金からなる記録膜と組み合わせて用いた場合には既に10万回程度の記録消去の繰り返しが可能であるのに対し、カルコパイライト型化合物からなる記録膜と組み合わせて用いた場合には繰り返し寿命は一千回〜数万回に留まっていた。加熱、冷却の繰り返しに伴う保護膜の劣化は記録膜の種類に依らず生じているはずであるから、Ge−Sb−Te合金とカルコパイライト型化合物との繰り返し寿命差は、Ge−Sb−Te合金からなる記録膜が保護膜中の元素(特にイオウ)との拡散混合によってあまり劣化しないのに対し、カルコパイライト型化合物からなる記録膜は大きく劣化するためであると考えられる。
【0027】
従来、このような問題を解決するために、ZnS とSiO2の混合膜に窒素を含ませ、欠陥の少ない緻密な膜とする方法が考えられていた。しかしながら、窒素を第1保護膜3全体に均一に含ませても、第1保護膜3中の元素の記録膜への拡散を阻止する効果は低い。しかも、窒素を第1保護膜3全体に均一に含ませると膜全体が硬くなり、かえって膜の柔軟性が減少する。このため、記録膜4の加熱・冷却に伴う膨張と収縮の繰り返しに対して第1保護膜3の耐久性が減少する。
【0028】
従って、本実施形態では第1保護膜3中に膜厚方向の窒素濃度分布を導入して、第1保護膜3に硬い部分と柔軟な部分を設け、記録消去時の膨張と収縮に伴う第1保護膜3の劣化を防止した。しかも、第1保護膜3中の元素(特にイオウ)の記録膜4への拡散を阻止するため、記録膜4に近い方の窒素濃度が高くなるようにした。このような窒素濃度分布を設けたことにより、イオウ等の拡散が効果的に防止され、Ag−In−Sb−Te 合金やAu−In−Sb−Te 合金等のカルコパイライト型化合物からなる記録膜4を用いた光記録媒体1において、特に顕著に繰り返し寿命の向上を実現できる。
【0029】
このような第1保護膜3は、例えば次のような2通りの方法で作製することができる。第1の方法は、まず、ZnS−SiO2ターゲットをArガス雰囲気中でスパッタし、基板2上にZnS とSiO2の混合膜を適当な厚さで形成する。その後、ArガスにN2ガスを徐々に添加して、N2ガスの分圧を少しずつ増加させながらスパッタ(反応性スパッタ)を継続し、ZnS−SiO2−Nの混合膜を形成する。このとき、N2ガスの分圧を増加させるやり方は、一定比率で単調に増加させてもよいし、ステップ的に増加させてもよい。第1保護膜3中の窒素濃度分布は、N2ガス分圧の増加のさせ方によって決定される。第2の方法は、第1の方法と同じ方法で基板2上にZnS とSiO2の混合膜を形成後、基板2を一定濃度のAr+N2ガス雰囲気を有する別のチャンバーに移し、ZnS−SiO2ターゲットを用いて反応性スパッタを行いZnS−SiO2−Nの混合膜を形成する。更に、必要に応じて、N2ガス濃度のより高いAr+N2ガス雰囲気を有するチャンバーに、基板2を必要回数移しかえながら反応性スパッタを続け、多層膜状に窒素の濃度の増えたZnS−SiO2−Nの混合膜を作製する。上記2つの方法共に、雰囲気ガス中のN2ガス分圧は0.01Pa以上0.7Pa 以下であることが好ましい。これより小さいと、第1保護膜3への窒素混合の効果が現れない。また、これより大きいと成膜効率が低下する。
【0030】
第1保護膜3を形成するには、この他にも、上述の方法を応用しながら、真空蒸着法、プラズマCVD 法、光CVD 法、電子ビーム蒸着法等の気相成長法により形成してもよい。尚、第1保護膜3中には、影響の少ない範囲内で、酸素、水素、炭素、フッ素等の他の元素を含めることもできる。
高い変調度を得るという光学特性の観点からは、第1保護膜3の厚さは50〜300 nmであることが好ましい。更に、第1保護膜3中の窒素を含まない部分の厚さは少なくとも30nm以上であることが好ましい。これより薄いと膜の柔軟性が減少し、膨張と収縮の繰り返しに対する膜の耐久性が低下する。
【0031】
第2保護膜5は、ZnS とSiO2とを含む混合膜である。このとき、第1保護膜3におけるのと同じ理由から、第2保護膜5中に含まれるSiO2のモル数は、ZnS のモル数の10%〜40%であることが好ましい。第2保護膜5は、スパッタ法、真空蒸着法、プラズマCVD 法、光CVD 法、電子ビーム蒸着法等の気相成長法により形成できる。この第2保護膜5には、性能の大きな低下をもたらさない範囲内で、窒素、酸素、水素、炭素、フッ素等の他の元素を含めることもできる。
【0032】
第2保護膜5に、第1保護膜3で用いたような窒素濃度分布を有するZnS−SiO2−Nの混合膜を用いても、繰り返し記録消去特性の大きな向上は期待できない。なぜならば、第2保護膜5は高い放熱作用を持つ反射膜6と接しているため、第1保護膜3に比べてあまり高温にならず、従って、もともと第2保護膜5から記録膜4への元素(特にイオウ)の拡散はそれほど頻繁には生じないためである。勿論、第2保護膜5に第1保護膜3で用いたZnS−SiO2−Nの混合膜を用いてもディスク特性が低下することはないが、生産工程が複雑になるためメリットは少ない。
【0033】
高い変調度を得るという光学特性の観点からは、第2保護膜5の厚さは10〜60nm又は100 〜250nm であることが好ましい。熱的には、第2保護膜5の厚さが薄いと、記録膜4と反射膜6の間を断熱する効果が小さくなり、記録時に記録膜4に蓄熱された熱は高い放熱作用を持つ反射膜6に速やかに散逸する。従って、10〜60nm程度の薄い第2保護膜5を持つ光記録媒体1で記録並びに消去を実現するためには、記録膜材料がレーザー光による加熱に対し高い感度を持つ必要がある。
【0034】
従来、Ge−Sb−Te等のカルコゲン系記録材料を用いた光記録媒体では、記録膜材料が十分な感度をもっていないために、第2保護膜5の厚さを100 〜250 nmとした構造をとっていた。一方、Au−In−Sb−Te 系合金並びにAg−In−Sb−Te 系合金の記録膜材料は、レーザー光による加熱に対し高い感度をもつため、それらを記録膜4に用いた光記録媒体においては、第2保護膜5の厚さを10〜60nmとすることができる。この構造では、記録時の記録膜4の冷却速度が速くなる急冷型となるため、記録マークのエッジが明瞭となって記録密度の高密度化が可能であり、しかも、ジッターが低くなるという利点がある。更に、膜厚が薄いので第2保護膜5をスパッタ等によって作製する時間を短縮でき、生産性の向上につながる。
【0035】
記録膜4には、上述したような理由から、カルコパイライト系化合物である Au-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te-V 合金、 Cu-In-Sb-Te 合金及び Pd-In-Sb-Te 合金のいずれかの合金を用いる。第1保護膜をZnS-SiO2-N複合膜にした効果は、カルコパイライト系化合物を記録膜に用いた時に顕著に現れ、記録消去の繰り返し性能の顕著な向上が得られる。記録膜4の厚さは特に限定されないが、高反射率と高変調度(記録状態と未記録状態との反射率の差が大きいこと)を実現するために、通常、10〜200nm、特に15〜150nmとすることが好ましい。また、記録膜4の形成方法は特に限定されないが、スパッタ法や真空蒸着法、プラズマCVD法、光CVD法、電子ビーム蒸着法等の気相成長法により形成することが好ましい。
【0036】
記録膜4にAu−In−Sb−Te 合金を用いる場合には、それぞれα、β、γ、及びδで表されるAu、In、Sb、及びTeの組成比率が、0原子%<α≦25原子%、3原子%≦β≦18原子%、30原子%≦γ≦67原子%、24原子%≦δ≦45原子%(ただし、99原子%≦α+β+γ+δ≦100 原子%)であることが好ましい。特に、光ビームに対する記録膜の記録消去時の相対速度が1〜3m/s で使用される光記録媒体においては、前記α及びβが、0原子%<α≦25原子%、7原子%≦β≦18原子%であり、前記γ及びδが、30原子%≦γ<45原子%の時には32原子%≦δ≦45原子%、45原子%≦γ<49原子%の時には30原子%≦δ≦45原子%、49原子%≦γ≦55原子%の時には35原子%≦δ≦45原子%、ただし、99原子%≦α+β+γ+δ≦100 原子%であることが好ましい。また、光ビームに対する記録膜の記録消去時の相対速度が5〜7m/s で使用される光記録媒体においては、前記α、β、γ、及びδが、1原子%≦α≦16原子%、8原子%≦β≦17原子%、41原子%≦γ<63原子%、24原子%≦δ≦36原子%、ただし、99原子%≦α+β+γ+δ≦100 原子%であるか、前記α、β、γ、及びδが、0原子%<α≦17原子%、3原子%≦β<8原子%、51原子%≦γ≦67原子%、26原子%≦δ≦33原子%、ただし、99原子%≦α+β+γ+δ≦100 原子%であることが好ましい。上記の組成範囲外では、良好な繰り返し記録消去特性が得られなくなる。
【0037】
記録膜4の組成は、X線マイクロアナライザーにより測定するのが簡便であり、本実施形態でもこの方法によって組成を決定している。その他にも蛍光X線、ラザフォード後方散乱、オージェ電子分光、発光分析等の分析法が考えられるが、それらを用いる場合には、X線マイクロアナライザーで得られる値との校正をする必要がある。
【0038】
反射膜6の材質は特に限定されないが、通常、Al、Au、Ag、Pt、Cu等の単体或いはこれらの1種以上を含む合金等の高反射率金属、或いは、Si、窒化Si、炭化Si等の高反射率半導体から構成すればよい。反射膜6の厚さは、30〜300 nmとすることが好ましい。厚さが30nm未満であると十分な反射率が得難くなるし、記録時に、記録膜4に残った熱を放出する効果が低減する。また、300 nmを越えても反射率や熱放出効果の顕著な向上は見られない。反射膜6はスパッタ法や蒸着法等の気相成長法により形成することが好ましい。
【0039】
ラッカー層7は、耐擦傷性や耐腐食性の向上のために設けられる。このラッカー層7は種々の有機系の物質から構成されることが好ましいが、特に、放射線硬化型化合物やその組成物を、電子線、紫外線等の放射線により硬化させた物質から構成されることが好ましい。ラッカー層7の厚さは、通常、0.1 〜100 μm 程度であり、スピンコート、グラビア塗布、スプレーコート等、通常の方法により形成すればよい。
【0040】
接着層8は、種々の有機系の物質から構成されることが望ましいが、熱可塑性物質、粘着性物質、放射線硬化型化合物やその組成物を電子線や放射線により硬化させた物質から構成されることが好ましい。接着層8の厚さは、通常、0.1 〜 100μm 程度であり、接着層8を構成する物質により選ばれる最適な方法、例えば、スピンコート、グラビア塗布、スプレーコート、ロールコート等により形成すればよい。
【0041】
また、上部基板9は、上述した基板2と同様の樹脂で構成することができる。一般に、相変化型光記録媒体の作製時には、記録膜4は非晶質状態であり、オーバーライト可能な光記録媒体とするためには何らかの方法で記録膜4を結晶化(初期化)する必要が生じる。光記録媒体1の初期化方法としては、半導体レーザーによる方法、Arレーザーによる方法、フラッシュランプによる方法等種々の方法を用いることができる。
[実施例]
次に、本発明の具体的実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、これら実施例は本発明を何ら制限するものではない。
【0042】
(実施例1〜4)
直径120mm 、厚さ1.2mm のグルーブ付きポリカーボネート基板2の上に、第1保護膜3、記録膜4、第2保護膜5、反射膜6、及びラッカー層7をこの順で形成し、図1の構成を有する光記録媒体1とした。基板2のグルーブは、トラックピッチ1.6 μm 、幅0.5 μm 、深さ50nmとした。
【0043】
第1保護膜3は、ZnS−SiO2(SiO2:20 mol%)をターゲットとして用い、スパッタ法により以下の方法で作製した。
まず、Arガス雰囲気中でRFスパッタ法によりZnS−SiO2膜を形成し、その厚みが約190nm に達した時点で、ArとN2の混合ガスを雰囲気ガスとして注入しRFスパッタ(RF反応性スパッタ)を継続し、全厚み197nm の複合膜を形成した。このとき注入した混合ガス中のArガスとN2ガスの分圧はそれぞれ0.36Pa、0.18Paであった。
【0044】
記録膜4は、In−Sb−Teターゲット上にIn、Sb、Te、Ag、Cu、Pd、V の各チップを載せて組成を変化させる方法で、DCスパッタ法により作製した。記録膜4の厚さは20nmとした。
記録膜4の組成は、フィリップス社製EDAX装置システムを用い、X線マイクロアナライザーにより測定した。即ち、ポリカーボネート平板上に膜厚が約50nmの記録膜4をスパッタ法により作製後、X線マイクロアナライザーにより試料のエネルギースペクトルを検出した。検出されたエネルギースペクトルからポリカーボネート平板等のバックグラウンドを除去し、記録膜4のみのエネルギースペクトルを導出した。このエネルギースペクトルから記録膜4の構成元素の定量を行い、記録膜4の組成とした。
【0045】
第2保護膜5は、ZnS−SiO2(SiO2:20 mol%)をターゲットとし、Arガス雰囲気中でRFスパッタ法により作製した。第2保護膜5の厚さは20nmとした。
反射膜6は、Alをターゲットとし、DCスパッタ法により作製した。厚さは75nmとした。
ラッカー層7は、紫外線硬化型樹脂をスピンコート法により塗布した後、紫外線照射により硬化して形成した。硬化後のラッカー層7の厚みは10μm であった。
【0046】
光記録媒体1作製後の記録膜4は非晶質であった。このため、波長 810 nm の大出力半導体レーザー光により記録膜4を十分に結晶化させ初期化状態とした。光記録媒体1の評価は、波長780nm の半導体レーザー光をNA=0.5 の対物レンズを通して基板2側から照射し、記録膜4の表面で直径約1μm のスポット径に絞り込むことにより行った。記録時には、照射するレーザーパルスをマルチパルス化して記録を行った。記録パワーは13mW、消去パワーは6mW、マルチパルスのボトムパワーは1mW、再生パワーは1mWとした。
【0047】
ディスク特性としては、繰り返し記録消去の寿命を次のような方法で測定した。
即ち、繰り返し記録消去特性は、線速2.8m/sでEFM変調方式のランダム信号を繰り返しオーバーライトし、所定回数のオーバーライト毎に線速1.4m/sで再生を行い、3T信号のジッターを測定した。ジッターが35nsを越える回数を繰り返し記録消去の寿命とし、例えば「1,000 〜10,000」等のように一定の範囲で示した。これは製造条件や評価条件により、表示した範囲内で特性が変わり得ることを示す。
【0048】
このような方法で作製した実施例1〜4の光記録媒体の記録膜組成とディスク特性を表1に示す。
(比較例1〜4)
第1保護膜3を、途中でArとN2の混合ガスを注入せずに形成した以外は実施例1〜4と同様にして光記録媒体を作製した。このとき、第1保護膜3は厚さ197nm のZnS−SiO2(SiO2:20 mol%)混合膜となった。このような方法で作製した比較例1〜4の光記録媒体の記録膜組成とディスク特性を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
実施例1〜4の光記録媒体は、それぞれ、比較例1〜4の中の対応する記録膜組成の光記録媒体に比べ、繰り返し記録消去特性が向上していることがわかる。これにより、第1保護膜3に窒素を含ませることで、光記録媒体の記録消去特性が格段に向上することが明白である。
(実施例5)
記録膜4を、In−Sb−Teターゲット上にIn、Sb、Te、Auの各チップを載せてDCスパッタ法により作製した以外は、実施例1と同様にして光記録媒体を作製し、実施例5とした。
【0051】
(比較例5)
記録膜4を、In−Sb−Teターゲット上にIn、Sb、Te、Auの各チップを載せてDCスパッタ法により作製した以外は、比較例1と同様にして光記録媒体を作製し、比較例5とした。
このような方法で作製した実施例5と比較例5の光記録媒体の記録膜組成とディスク特性を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
この場合も、実施例5の光記録媒体は、比較例5の光記録媒体に比べ、繰り返し記録消去特性が向上していることがわかる。また、実施例5を表1の実施例1〜4と比較すると、記録膜4にAu−In−Sb−Te 合金を用いた場合に、特に記録消去特性の向上が顕著であることがわかる。
(実施例6)
第1保護膜3を、以下の方法で作製した以外は実施例5と同様にして光記録媒体を作製した。
【0054】
即ち、ZnS−SiO2(SiO2:20 mol%)をターゲットとし、Arガス雰囲気中でRFスパッタ法により180nm 厚のZnS−SiO2膜を基板2上に形成する。そのディスクをArとN2の混合ガスを雰囲気ガスとして流すチャンバーに移し、ZnS−SiO2(SiO2:20 mol%)をターゲットに用いてRF反応性スパッタを行い、10nm厚のZnS−SiO2−N膜を形成した。このときのArガスとN2ガスの分圧はそれぞれ0.36Pa、0.18Paであった。
【0055】
(実施例7)
第1保護膜3を、以下の方法で作製した以外は実施例5と同様にして光記録媒体を作製した。
即ち、ZnS−SiO2(SiO2:20 mol%)をターゲットとし、Arガス雰囲気中でRFスパッタ法により150nm 厚のZnS−SiO2膜を基板2上に形成する。そのディスクをArとN2の混合ガスを雰囲気ガスとして流すチャンバーに移し、ZnS−SiO2(SiO2:20 mol%)をターゲットに用いてRF反応性スパッタを行い、30nm厚のZnS−SiO2−N膜を形成した。このときのArガスとN2ガスの分圧はそれぞれ0.45Pa、0.09Paであった。更に、このディスクを異なる濃度のArとN2の混合ガスを雰囲気ガスとして流すチャンバーに移し、ZnS−SiO2(SiO2:20 mol%)をターゲットに用いてRF反応性スパッタを行い、10nm厚のZnS−SiO2−N膜を形成した。このときのArガスとN2ガスの分圧はそれぞれ0.36Pa、0.18Paであった。このようにして全厚190nm の複合膜を形成した。
【0056】
(実施例8)
第2保護膜5を、ZnS−SiO2(SiO2:20 mol%)をターゲットとし、ArとN2の混合ガス雰囲気中でRF反応性スパッタ法により作製し、厚み20nmのZnS−SiO2−N膜とした以外は、実施例5と同様にして光記録媒体を形成した。このときのArガスとN2ガスの分圧はそれぞれ0.36Pa、0.18Paであった。
【0057】
(実施例9)
第1保護膜3を、ZnS−SiO2(SiO2:20 mol%)をターゲットとして用い、以下の方法で作製した以外は実施例5と同様にして光記録媒体を作製した。
まず、Arガス雰囲気中でRFスパッタ法によりZnS−SiO2膜を形成し、その厚みが約190nm に達した時点で、ArとN2とO2の混合ガスを雰囲気ガスとして注入しRFスパッタ(RF反応性スパッタ)を継続して、全厚み197nm 厚のZnS−SiO2−N−O複合膜を形成した。このとき注入した混合ガス中のArガスとN2ガスとO2ガスの分圧はそれぞれ0.36Pa、0.18Pa、0.05Paであった。
【0058】
上述したような各方法でそれぞれ作製した実施例6〜9の各光記録媒体の記録膜組成とディスク特性を表2に示す。
(比較例6)
第2保護膜5を、以下の方法で作製した以外は比較例5と同様にして光記録媒体を作製した。
【0059】
まず、ArとN2ガスの混合ガス雰囲気中でRF反応性スパッタ法によりZnS−SiO2−N膜を形成し、その厚みが約10nmに達した時点で、Arガスのみを雰囲気ガスとしてRFスパッタを継続して、全厚み20nm厚の複合膜を形成した。このときの混合ガス中のArガスとN2ガスの分圧はそれぞれ0.36Pa、0.18Paであった。
(比較例7)
第1保護膜3全体を、ZnS−SiO2(SiO2:20 mol%)をターゲットと、ArとN2ガスの混合ガス雰囲気中でRF反応スパッタ法により作製した以外は、実施例5と同様にして光記録媒体を作製した。この光記録媒体では、第1保護膜3が、膜厚方向に均一な窒素濃度分布をもつ、厚み197nm のZnS−SiO2−N膜となっている。
【0060】
上述したような各方法でそれぞれ作製した比較例6、7の各光記録媒体の記録膜組成とディスク特性を表2に示す。
上述の実施例6〜9は、比較例6、7に比較していずれも良好な繰り返し記録消去特性を示すことがわかる。また、第2保護膜5のみに窒素を含ませた比較例6では、比較例5と同様な記録消去特性を示し、第1保護膜3側に窒素を含ませた実施例5〜9に比較して顕著な繰り返し記録消去特性の向上は見られない。これにより、第2保護膜5に窒素を含ませても記録消去特性の改善効果はあまり得られないことがわかる。また、第1保護膜3に窒素を均一に含ませた比較例7の繰り返し記録消去特性は、比較例5よりも向上してはいるが、実施例5〜9ほどの顕著な向上は見られない。これにより、第1保護膜3に窒素の濃度分布を持たせることが、記録消去特性の向上に効果的であることがわかる。
【0061】
(実施例10、11)
記録膜4を、In−Sb−Teターゲット上にIn、Sb、Te、Auの各チップを載せて組成を振りながらDCスパッタ法により作製した以外は、実施例1と同様にして光記録媒体を作製し、実施例10、実施例11とした。
(比較例8〜10)
記録膜4の組成を異ならせた以外は、実施例10、11と同様にして光記録媒体を作製し、比較例8〜10とした。
【0062】
このような方法で作製した実施例10、11と比較例8〜10の光記録媒体の記録膜組成とディスク特性を表2に示す。
表2から、それぞれα、β、γ及びδで表される、Au、In、Sb、及びTeの組成比率が、0原子%<α≦25原子%、7原子%≦β≦18原子%、30原子%≦γ<45原子%の時には32原子%≦δ≦45原子%、45原子%≦γ<49原子%の時には30原子%≦δ≦45原子%、49原子%≦γ≦55原子%の時には35原子%≦δ≦45原子%、ただし、99原子%≦α+β+γ+δ≦100 原子%を満たす実施例5〜11は、良好な繰り返し記録消去特性を示すが、組成比率が上記範囲にない比較例8〜10は良好な繰り返し記録消去特性を示さないことがわかる。
【0063】
(実施例12)
直径120 mm、厚さ0.6 mmのランド/グルーブを有する、2枚のポリカーボネート基板2の上に、それぞれ第1保護膜3、記録膜4、第2保護膜5、反射膜6、及びラッカー層7をこの順で積層し、この2枚の光記録媒体を、ラッカー層7側を対向させて、接着層8を介して接合し、図3の構成を有する光記録媒体1とした。基板2のランド/グルーブは、トラックピッチ0.74μm 、深さ70nmとした。
【0064】
第1保護膜3は、ZnS−SiO2(SiO2:20 mol%)をターゲットとして用い、スパッタ法により以下のように作製した。
まず、Arガス雰囲気中でRFスパッタ法によりZnS−SiO2膜を形成し、その厚みが約133nm に達した時点で、ArとN2の混合ガスを雰囲気ガスとして注入しRFスパッタ(RF反応性スパッタ)を継続して、全厚み140nm のZnS−SiO2−N混合膜を形成した。このとき注入した混合ガス中のArガスとN2ガスの分圧はそれぞれ0.36Pa、0.18Paであった。
【0065】
記録膜4は、厚さを22nmとした以外は実施例5と同様にして作製した。第2保護膜5は、厚さを25nmとした以外は、実施例1と同様して作製した。反射膜6は厚さを100nm とした以外は実施例1と同様にして作製した。ラッカー層7は、実施例1と同様にして作製した。接着層8は、紫外線硬化型樹脂をスクリーンコート法により塗布した後、紫外線照射により硬化して形成した。硬化後の接着層8の厚みは30〜50μm であった。
【0066】
光記録媒体1作製後の記録膜4は非晶質であった。このため、波長 810 nm の大出力半導体レーザー光により記録膜4を十分に結晶化させ初期化状態とした。光記録媒体1の評価は、波長635nm の半導体レーザー光をNA=0.6 の対物レンズを通して基板2側から照射し、記録膜4の表面で直径約1μm のスポット径に絞り込むことにより行った。記録時には、照射するレーザーパルスをマルチパルス化して記録を行った。記録パワーは12mW、消去パワーは6mW、マルチパルスのボトムパワーは1mW、再生パワーは1mWとした。
【0067】
ディスク特性としては、繰り返し記録消去の寿命を次のような方法で測定した。
即ち、繰り返し記録消去特性は、線速6.0m/sで8/16変調方式のランダム信号を繰り返しオーバーライトし、所定回数のオーバーライト毎に線速6.0m/sで再生を行い、ランダム信号のジッターを測定した。ジッターが基準クロック(34.27ns)の15%を越えるまでのオーバーライトの回数を繰り返し記録消去の寿命とした。
【0068】
(比較例11)
第1保護膜3を、途中でArとN2の混合ガスを注入せずに形成した以外は実施例12と同様にして光記録媒体を作製した。このとき、第1保護膜3は厚さ140nm のZnS−SiO2(SiO2:20 mol%)混合膜となった。
上述の方法で作製した実施例12、比較例11の光記録媒体の記録膜組成とディスク特性を表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
実施例12の光記録媒体は、比較例11の光記録媒体に比べ、繰り返し記録消去特性が向上していることがわかる。
(実施例13、14)
記録膜4を、In−Sb−Teターゲット上にIn、Sb、Te、Auの各チップを載せて組成を振りながらDCスパッタ法により作製した以外は、実施例12と同様にして光記録媒体を作製し、実施例13、14とした。
【0071】
(比較例12〜14)
記録膜4の組成を異ならせた以外は、実施例13、14と同様にして光記録媒体を作製し、比較例12〜14とした。
このような方法で作製した実施例13、14と比較例12〜14の光記録媒体の記録膜組成とディスク特性を表3に示す。
【0072】
表3から、それぞれα、β、γ及びδで表される、Au、In、Sb、及びTeの組成比率が、1原子%≦α≦16原子%、8原子%≦β≦17原子%、41原子%≦γ≦63原子%、24原子%≦δ≦36原子%、或いは、0原子%<α≦17原子%、3原子%≦β<8原子%、51原子%≦γ≦67原子%、26原子%≦δ≦33原子%、ただし、99原子%≦α+β+γ+δ≦100 原子%を満たす実施例12〜14は、良好な繰り返し記録消去特性を示すが、組成比率が上記範囲にない比較例12〜14は良好な繰り返し記録消去特性を示さない。
【0073】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1〜3に係る発明によれば、カルコパイライト系化合物である Au-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te-V 合金、 Cu-In-Sb-Te 合金及び Pd-In-Sb-Te 合金のいずれかの合金からなる記録膜を備える光記録媒体の繰り返し記録消去特性を向上できるという効果がある。
【0074】
請求項4〜8に係る発明によれば、Au-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te-V 合金、 Cu-In-Sb-Te 合金及び Pd-In-Sb-Te 合金のいずれかの合金からなる記録膜の表面に設ける光記録媒体用保護膜として、ZnSとSiO2の混合膜に濃度分布を持たせて窒素を含ませた光記録媒体用保護膜とすることで、光記録媒体の繰り返し記録消去特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の光記録媒体の膜構成の一例を示す断面図
【図2】本発明の光記録媒体の膜構成の他の例を示す断面図
【図3】本発明の光記録媒体の膜構成の更に他の例を示す断面図
【符号の説明】
1 光記録媒体
2 基板
3 第1保護膜
4 記録膜
5 第2保護膜
6 反射膜
7 ラッカー層
8 接着層
9 上部基板
【発明の属する技術分野】
本発明は、相変化型記録材料からなる記録膜を有する光記録媒体及び光記録媒体に好適な光記録媒体用保護膜に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、高密度記録が可能で、しかも記録情報を消去して書き換えることが可能な光記録媒体が注目されている。書き換え可能型の光記録媒体のうち相変化型の光記録媒体は、レーザー光を照射することにより記録膜の結晶状態を変化させ、このような状態変化に伴う記録膜の反射率変化を検出するものである。
【0003】
相変化型光記録媒体の記録膜の材料としては、結晶状態と非晶質状態とで反射率の差が大きく、非晶質状態の安定度が比較的高い、Ge−Te 系材料が用いられることが多い。その代表的な材料例として、米国特許第 3,530,441号に開示されているように、Ge−Te 、Ge−Te−Sb−S、Ge−Te−S 、Ge−Se−S 、Ge−Se−Sb、Ge−As−Se、In−Te 、Se−Te 、Se−As 等のいわゆるカルコゲン系合金材料があげられる。
【0004】
また、安定性、高速結晶化等の向上を目的にGe−Te 系にAu(特開昭61−219692 号公報)、Sn及びAu(特開昭61−270190 号公報)、Pd(特開昭62−19490号公報)等を添加した材料の提案や、記録/消去の繰り返し性能向上を目的に Ge−Te−Se−Sbの組成比を特定した材料(特開昭62−73438号公報)の提案等もなされている。しかしながら、上述した組成のいずれもが相変化型書き換え可能光記録媒体の記録膜として要求される諸特性のすべてを満足し得るものとはいえない。特に、記録感度、消去感度の向上、オーバーライト時の消し残りによる消去比低下の防止、並びに繰り返し記録消去特性の長寿命化が最も重要な課題となっている。
【0005】
これに対し、最近、化学周期律表を用いるとIb−IIIb−VIb2 やIIb−IVb−Vb2 で表されるカルコパイライトと呼ばれる化合物を記録膜材料に応用することが提案されている。カルコパイライト型化合物の中でも特にAgInTe2 は、SbやBiを用いて希釈することにより、光記録媒体の良好な記録膜材料として使用できることが知られている(特開平3−240590号公報、特開平3−99884 号公報、特開平3−82593 号公報、特開平3−73384 号公報等)。更に、この他、特開平4−267192号公報や特開平4−232779号公報、特開平6−166268号公報には、記録膜が結晶化する際にAgSbTe2 相が生成する相変化型光記録媒体が開示されている。
【0006】
しかしながら、これらのカルコパイライト系の記録膜材料を用いた光記録媒体は、確かに優れたC/N、消去比、変調度、記録感度を有するが、繰り返し記録消去の寿命が一千回程度しかないという問題点があった。
この問題点を解決するために、本発明者等は特定の組成を有するAu−In−Sb−Te 記録膜材料を開発し、先に出願した(特願平9−46225 号、特願平9−210745号、特願平9−285785号等) 。この記録膜材料は、優れたC/N、消去比、変調度、記録感度、及び繰り返し記録消去特性を有する。特に、繰り返し記録消去特性の寿命が、線速1〜3m/s で1万回、線速5〜7m/s で10万回と、前記AgSbTe2 相を有する記録膜材料に比べて1桁以上大きく、相変化型光記録媒体の記録膜材料として極めて優れた特性を有している。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述したAu−In−Sb−Te 記録膜材料を用いても、全ての線速において繰り返し記録消去の寿命が10万回を越えるわけではなく、光磁気ディスクの繰り返し記録消去の寿命が100 万回であることに比べると、必ずしも十分ではないという問題点があった。
【0008】
本発明はこのような従来の問題点に鑑み、繰り返し記録消去特性の更に優れた光記録媒体及び光記録媒体に好適な光記録媒体用保護膜を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
このため、請求項1に係る発明では、使用する光ビームに対して略透明な基板上に、少なくとも第1保護膜、記録膜、第2保護膜、反射膜をこの順で積層した光記録媒体において、前記記録膜が、 Au-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te-V 合金、 Cu-In-Sb-Te 合金及び Pd-In-Sb-Te 合金のいずれかの合金からなり、前記第2保護膜が、ZnS とSiO2の混合膜からなり、前記第1保護膜が、ZnSとSiO2の混合膜に窒素を含み、当該窒素の濃度を前記基板側より前記記録膜側が高くなるよう形成することを特徴とする。
【0010】
第1保護膜は、具体的には、請求項2に係る発明のように、前記基板側にZnS とSiO2の混合膜を有し、前記記録膜側にZnS とSiO2と窒素を含む混合膜を有する複合膜としてもよく、また、請求項3に係る発明のように、ZnS とSiO2と窒素を含む混合膜からなり、膜の前記基板側の面の窒素濃度が略0原子%で、基板側から記録膜側に向けて窒素濃度が漸次増加するようにしてもよい。
【0011】
かかる構成の光記録媒体では、第1保護膜が適度な柔軟性を有し、記録消去の際の加熱・冷却の繰り返しに伴う保護膜の劣化が抑制される。また、Au-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te-V 合金、 Cu-In-Sb-Te 合金及び Pd-In-Sb-Te 合金のいずれかの合金からなる記録膜側の窒素濃度を高くすることで、記録膜に悪影響を与える保護膜中の元素(特にイオウ)の拡散が効果的に抑制でき、光記録媒体の繰り返し記録消去特性を格段に向上させることができる。
【0013】
書き換え型光記録媒体において、保護膜がZnS とSiO2と窒素(N) を含む可能性のある技術は、特公平7−111786号公報、特開平6−4904号公報、特開平6−342529号公報、特開平9−198712号公報等に見ることができる。
しかしながら、特開平6−4904号公報では、ZnS とSiO2と窒素の他に水素を含むことを必須要件としており、本願発明とは構成元素が一致しない。また、特開平9−198712号公報では、ZnS とSiO2にSi3N4 を含ませることを必須要件としており、本願発明とは構成物質が一致しない。
【0014】
一方、特公平7−111786号公報には、ZnS とSiO2に窒素を含ませることを構成要件とする光記録媒体並びに光記録媒体用保護膜が開示されている。しかしながら、特公平7−111786号公報では、ZnS とSiO2の混合膜に窒素を含ませてある保護膜は、膜厚方向に均一な窒素濃度を有すると認識されており、本願発明のように、窒素濃度分布を設けたものではない。また、本願発明では、窒素濃度分布を有するZnS−SiO2−N混合膜を、Au−In−Sb−Te 合金、Ag−In−Sb−Te 合金等のカルコパイライト型化合物からなる記録膜と組み合わせた時に特に書き換え寿命向上の効果が顕著になるということを示したが、特公平7−111786号公報にはこのような記述も示唆も見られない。
【0015】
また、特開平6−342529号公報には、保護膜と記録膜の間に窒素を含有する補助膜を備えるという、広範な構成要件の相変化型光記録媒体が開示されている。同公報では、補助層の挿入は第1保護膜と記録膜との間、或いは、第2保護膜と記録膜との間のどちらでも良いとの認識があり、更に、どちらかというと同公報の実施例に見られるように第2保護膜と記録膜との間に補助層を挿入することが主に検討されている。一方、本願発明では、窒素濃度分布を有するZnS−SiO2−N混合膜を、特に第1保護膜に用いることを必須要件としており、特開平6−342529号公報とは異なっている。また、本願発明では、窒素濃度分布を有するZnS−SiO2−N混合膜を、Au−In−Sb−Te 合金、Ag−In−Sb−Te 合金等のカルコパイライト型化合物からなる記録膜と組み合わせた時に特に書き換え寿命向上の効果が顕著になるということを示したが、特開平6−342529号公報にはこのような記述も示唆も見られない。
【0019】
請求項4に係る発明では、使用する光ビームに対して略透明な基板上に、 Au-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te-V 合金、 Cu-In-Sb-Te 合金及び Pd-In-Sb-Te 合金のいずれかの合金からなる記録膜を備える光記録媒体の前記記録膜表面に設ける光記録媒体用保護膜であって、ZnSとSiO2の混合膜に窒素を含ませ、当該窒素の濃度が膜厚方向において、前記記録膜側が他側より高くなるようにしたことを特徴とする。
具体的には、光記録媒体用保護膜は、請求項5に係る発明のように、前記記録膜側が、ZnSとSiO2と窒素を含む混合膜からなり、前記他側が、ZnSとSiO2の混合膜からなる複合膜としてもよく、請求項6に係る発明のように、ZnSとSiO2と窒素を含む混合膜であって、膜の前記他側の面の窒素濃度が略0原子%で、前記記録膜側に向けて窒素濃度が漸次増加するようにしてもよい。
【0020】
かかる構成の保護膜を用いることで、光記録媒体の繰り返し記録消去特性を向上させることができる。
また、本発明の光記録媒体用保護膜では、光記録媒体の諸性質に影響を与えない範囲で、請求項7に係る発明のように、酸素を含ませるようにしてもよい。
更に、請求項8に係る発明のように、膜中に含まれるSiO2のモル数が、ZnSのモル数の10%〜40%であることが好ましい。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1〜図3は、本発明の光記録媒体の好ましい構成例を示す断面図である。
図1に示した光記録媒体1は、基板2上に、第1保護膜3、記録膜4、第2保護膜5、反射膜6、及びラッカー層7をこの順で積膜した構造を有する、片面記録用の光記録媒体である。
【0022】
また、図2に示した光記録媒体1は、基板2上に、第1保護膜3、記録膜4、第2保護膜5、反射膜6、ラッカー層7、接着層8、及び上部基板9をこの順で積膜し、機械的強度を高めた片面記録用の光記録媒体である。
また、図3に示した光記録媒体1は、2枚の基板2の上に、それぞれ第1保護膜3、記録膜4、第2保護膜5、反射膜6、及びラッカー層7をこの順で積膜し、この2枚の光記録媒体を、ラッカー層7側を対向させて、接着層8を介して接合した両面記録用の光記録媒体である。尚、図2及び図3に示した光記録媒体では、ラッカー層7を省くこともできる。
【0023】
上記の図1〜図3に示す構成例の他にも、C/N、消去比、変調度、記録感度、繰り返し記録消去の寿命等の改善を目的として、図1〜図3に示した光記録媒体1の基板2と第1保護膜3の間、及び/又は第1保護膜3と記録膜4の間、及び又は記録膜4と第2保護膜5の間、及び/又は第2保護膜5と反射膜6の間に、1層或いは複数層の補助層を挿入した構成の光記録媒体も可能である。この場合、補助層を構成する物質は誘電体或いは金属等が好ましい。
【0024】
基板2には、用いる光ビームに対して透明である材質、例えば、樹脂やガラス等から構成することが好ましく、特に、取り扱いが容易で安価であることから、樹脂が好ましい。樹脂として具体的には例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ABS樹脂等を用いることができる。基板の形状及び寸法は特に限定されないが、通常、ディスク状であり、その厚さは、通常、0.5 〜3mm程度、直径は40〜360 mm程度である。また、基板の表面には、トラッキング用やアドレス用等のために、グルーブ等の所定のパターンが必要に応じて設けられる。
【0025】
第1保護膜3及び第2保護膜5は、記録膜4の結晶状態の変化に伴う反射率の変化を、第1保護膜3と第2保護膜5との間での多重反射によって拡大し、変調度(結晶状態と非晶質状態との反射率の差)を高める作用、並びに、記録時に、記録膜4に残った熱を熱伝導により適度な速度で放出する作用を有する。
第1保護膜3は、ZnS とSiO2の混合膜に窒素(N)を含み、窒素濃度が基板2側よりも記録膜4側の方が高くなるように形成する。具体的には、例えば、前記基板側にZnS とSiO2の混合膜を有し、前記記録膜側にZnS とSiO2と窒素を含む混合膜を有する複合膜とするようにしたり、或いは、ZnS とSiO2と窒素を含む混合膜で、当該混合膜の基板2側の面の窒素濃度を略0原子%とし、基板2側から記録膜4側に向けて窒素濃度を漸次増加させるようにする。尚、濃度が漸次増加するとは、濃度が決して減少しない(一定値に留まることはあってもよい)ことを意味する。また、第1保護膜3中に含まれるSiO2のモル数は、ZnS のモル数の10%〜40%であることが好ましい。SiO2のモル数が10%未満だと結晶粒径が大きくなり、膜の緻密性が悪くなる。一方、40%を越えると混合膜の屈折率が小さくなり、光学特性の観点から好ましくない。
【0026】
ZnS とSiO2のモル比が上記範囲で与えられるZnS とSiO2の混合膜は、光記録媒体用に通常用いられる350nm 〜850nm の波長の光ビームに対して略透明であり、記録膜物質よりも高融点で、しかも適度な硬度と柔軟性を持つ等、光記録媒体用保護膜として優れた性能を持っている。しかしながら、記録・消去を行う際の加熱、冷却の繰り返しに伴い保護膜が劣化したり、保護膜中の元素(特にイオウ)が記録膜中に拡散して記録膜の性能を劣化させる等のため、光記録媒体の記録消去の繰り返し回数には限界があった。特に、上記保護膜に関連する記録消去繰り返し寿命の限界は、Ag−In−Sb−Te 合金やAu−In−Sb−Te 合金等のカルコパイライト型化合物を記録膜に用いた時に顕著であり、ZnS とSiO2とからなる保護膜を、Ge−Sb−Te合金からなる記録膜と組み合わせて用いた場合には既に10万回程度の記録消去の繰り返しが可能であるのに対し、カルコパイライト型化合物からなる記録膜と組み合わせて用いた場合には繰り返し寿命は一千回〜数万回に留まっていた。加熱、冷却の繰り返しに伴う保護膜の劣化は記録膜の種類に依らず生じているはずであるから、Ge−Sb−Te合金とカルコパイライト型化合物との繰り返し寿命差は、Ge−Sb−Te合金からなる記録膜が保護膜中の元素(特にイオウ)との拡散混合によってあまり劣化しないのに対し、カルコパイライト型化合物からなる記録膜は大きく劣化するためであると考えられる。
【0027】
従来、このような問題を解決するために、ZnS とSiO2の混合膜に窒素を含ませ、欠陥の少ない緻密な膜とする方法が考えられていた。しかしながら、窒素を第1保護膜3全体に均一に含ませても、第1保護膜3中の元素の記録膜への拡散を阻止する効果は低い。しかも、窒素を第1保護膜3全体に均一に含ませると膜全体が硬くなり、かえって膜の柔軟性が減少する。このため、記録膜4の加熱・冷却に伴う膨張と収縮の繰り返しに対して第1保護膜3の耐久性が減少する。
【0028】
従って、本実施形態では第1保護膜3中に膜厚方向の窒素濃度分布を導入して、第1保護膜3に硬い部分と柔軟な部分を設け、記録消去時の膨張と収縮に伴う第1保護膜3の劣化を防止した。しかも、第1保護膜3中の元素(特にイオウ)の記録膜4への拡散を阻止するため、記録膜4に近い方の窒素濃度が高くなるようにした。このような窒素濃度分布を設けたことにより、イオウ等の拡散が効果的に防止され、Ag−In−Sb−Te 合金やAu−In−Sb−Te 合金等のカルコパイライト型化合物からなる記録膜4を用いた光記録媒体1において、特に顕著に繰り返し寿命の向上を実現できる。
【0029】
このような第1保護膜3は、例えば次のような2通りの方法で作製することができる。第1の方法は、まず、ZnS−SiO2ターゲットをArガス雰囲気中でスパッタし、基板2上にZnS とSiO2の混合膜を適当な厚さで形成する。その後、ArガスにN2ガスを徐々に添加して、N2ガスの分圧を少しずつ増加させながらスパッタ(反応性スパッタ)を継続し、ZnS−SiO2−Nの混合膜を形成する。このとき、N2ガスの分圧を増加させるやり方は、一定比率で単調に増加させてもよいし、ステップ的に増加させてもよい。第1保護膜3中の窒素濃度分布は、N2ガス分圧の増加のさせ方によって決定される。第2の方法は、第1の方法と同じ方法で基板2上にZnS とSiO2の混合膜を形成後、基板2を一定濃度のAr+N2ガス雰囲気を有する別のチャンバーに移し、ZnS−SiO2ターゲットを用いて反応性スパッタを行いZnS−SiO2−Nの混合膜を形成する。更に、必要に応じて、N2ガス濃度のより高いAr+N2ガス雰囲気を有するチャンバーに、基板2を必要回数移しかえながら反応性スパッタを続け、多層膜状に窒素の濃度の増えたZnS−SiO2−Nの混合膜を作製する。上記2つの方法共に、雰囲気ガス中のN2ガス分圧は0.01Pa以上0.7Pa 以下であることが好ましい。これより小さいと、第1保護膜3への窒素混合の効果が現れない。また、これより大きいと成膜効率が低下する。
【0030】
第1保護膜3を形成するには、この他にも、上述の方法を応用しながら、真空蒸着法、プラズマCVD 法、光CVD 法、電子ビーム蒸着法等の気相成長法により形成してもよい。尚、第1保護膜3中には、影響の少ない範囲内で、酸素、水素、炭素、フッ素等の他の元素を含めることもできる。
高い変調度を得るという光学特性の観点からは、第1保護膜3の厚さは50〜300 nmであることが好ましい。更に、第1保護膜3中の窒素を含まない部分の厚さは少なくとも30nm以上であることが好ましい。これより薄いと膜の柔軟性が減少し、膨張と収縮の繰り返しに対する膜の耐久性が低下する。
【0031】
第2保護膜5は、ZnS とSiO2とを含む混合膜である。このとき、第1保護膜3におけるのと同じ理由から、第2保護膜5中に含まれるSiO2のモル数は、ZnS のモル数の10%〜40%であることが好ましい。第2保護膜5は、スパッタ法、真空蒸着法、プラズマCVD 法、光CVD 法、電子ビーム蒸着法等の気相成長法により形成できる。この第2保護膜5には、性能の大きな低下をもたらさない範囲内で、窒素、酸素、水素、炭素、フッ素等の他の元素を含めることもできる。
【0032】
第2保護膜5に、第1保護膜3で用いたような窒素濃度分布を有するZnS−SiO2−Nの混合膜を用いても、繰り返し記録消去特性の大きな向上は期待できない。なぜならば、第2保護膜5は高い放熱作用を持つ反射膜6と接しているため、第1保護膜3に比べてあまり高温にならず、従って、もともと第2保護膜5から記録膜4への元素(特にイオウ)の拡散はそれほど頻繁には生じないためである。勿論、第2保護膜5に第1保護膜3で用いたZnS−SiO2−Nの混合膜を用いてもディスク特性が低下することはないが、生産工程が複雑になるためメリットは少ない。
【0033】
高い変調度を得るという光学特性の観点からは、第2保護膜5の厚さは10〜60nm又は100 〜250nm であることが好ましい。熱的には、第2保護膜5の厚さが薄いと、記録膜4と反射膜6の間を断熱する効果が小さくなり、記録時に記録膜4に蓄熱された熱は高い放熱作用を持つ反射膜6に速やかに散逸する。従って、10〜60nm程度の薄い第2保護膜5を持つ光記録媒体1で記録並びに消去を実現するためには、記録膜材料がレーザー光による加熱に対し高い感度を持つ必要がある。
【0034】
従来、Ge−Sb−Te等のカルコゲン系記録材料を用いた光記録媒体では、記録膜材料が十分な感度をもっていないために、第2保護膜5の厚さを100 〜250 nmとした構造をとっていた。一方、Au−In−Sb−Te 系合金並びにAg−In−Sb−Te 系合金の記録膜材料は、レーザー光による加熱に対し高い感度をもつため、それらを記録膜4に用いた光記録媒体においては、第2保護膜5の厚さを10〜60nmとすることができる。この構造では、記録時の記録膜4の冷却速度が速くなる急冷型となるため、記録マークのエッジが明瞭となって記録密度の高密度化が可能であり、しかも、ジッターが低くなるという利点がある。更に、膜厚が薄いので第2保護膜5をスパッタ等によって作製する時間を短縮でき、生産性の向上につながる。
【0035】
記録膜4には、上述したような理由から、カルコパイライト系化合物である Au-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te-V 合金、 Cu-In-Sb-Te 合金及び Pd-In-Sb-Te 合金のいずれかの合金を用いる。第1保護膜をZnS-SiO2-N複合膜にした効果は、カルコパイライト系化合物を記録膜に用いた時に顕著に現れ、記録消去の繰り返し性能の顕著な向上が得られる。記録膜4の厚さは特に限定されないが、高反射率と高変調度(記録状態と未記録状態との反射率の差が大きいこと)を実現するために、通常、10〜200nm、特に15〜150nmとすることが好ましい。また、記録膜4の形成方法は特に限定されないが、スパッタ法や真空蒸着法、プラズマCVD法、光CVD法、電子ビーム蒸着法等の気相成長法により形成することが好ましい。
【0036】
記録膜4にAu−In−Sb−Te 合金を用いる場合には、それぞれα、β、γ、及びδで表されるAu、In、Sb、及びTeの組成比率が、0原子%<α≦25原子%、3原子%≦β≦18原子%、30原子%≦γ≦67原子%、24原子%≦δ≦45原子%(ただし、99原子%≦α+β+γ+δ≦100 原子%)であることが好ましい。特に、光ビームに対する記録膜の記録消去時の相対速度が1〜3m/s で使用される光記録媒体においては、前記α及びβが、0原子%<α≦25原子%、7原子%≦β≦18原子%であり、前記γ及びδが、30原子%≦γ<45原子%の時には32原子%≦δ≦45原子%、45原子%≦γ<49原子%の時には30原子%≦δ≦45原子%、49原子%≦γ≦55原子%の時には35原子%≦δ≦45原子%、ただし、99原子%≦α+β+γ+δ≦100 原子%であることが好ましい。また、光ビームに対する記録膜の記録消去時の相対速度が5〜7m/s で使用される光記録媒体においては、前記α、β、γ、及びδが、1原子%≦α≦16原子%、8原子%≦β≦17原子%、41原子%≦γ<63原子%、24原子%≦δ≦36原子%、ただし、99原子%≦α+β+γ+δ≦100 原子%であるか、前記α、β、γ、及びδが、0原子%<α≦17原子%、3原子%≦β<8原子%、51原子%≦γ≦67原子%、26原子%≦δ≦33原子%、ただし、99原子%≦α+β+γ+δ≦100 原子%であることが好ましい。上記の組成範囲外では、良好な繰り返し記録消去特性が得られなくなる。
【0037】
記録膜4の組成は、X線マイクロアナライザーにより測定するのが簡便であり、本実施形態でもこの方法によって組成を決定している。その他にも蛍光X線、ラザフォード後方散乱、オージェ電子分光、発光分析等の分析法が考えられるが、それらを用いる場合には、X線マイクロアナライザーで得られる値との校正をする必要がある。
【0038】
反射膜6の材質は特に限定されないが、通常、Al、Au、Ag、Pt、Cu等の単体或いはこれらの1種以上を含む合金等の高反射率金属、或いは、Si、窒化Si、炭化Si等の高反射率半導体から構成すればよい。反射膜6の厚さは、30〜300 nmとすることが好ましい。厚さが30nm未満であると十分な反射率が得難くなるし、記録時に、記録膜4に残った熱を放出する効果が低減する。また、300 nmを越えても反射率や熱放出効果の顕著な向上は見られない。反射膜6はスパッタ法や蒸着法等の気相成長法により形成することが好ましい。
【0039】
ラッカー層7は、耐擦傷性や耐腐食性の向上のために設けられる。このラッカー層7は種々の有機系の物質から構成されることが好ましいが、特に、放射線硬化型化合物やその組成物を、電子線、紫外線等の放射線により硬化させた物質から構成されることが好ましい。ラッカー層7の厚さは、通常、0.1 〜100 μm 程度であり、スピンコート、グラビア塗布、スプレーコート等、通常の方法により形成すればよい。
【0040】
接着層8は、種々の有機系の物質から構成されることが望ましいが、熱可塑性物質、粘着性物質、放射線硬化型化合物やその組成物を電子線や放射線により硬化させた物質から構成されることが好ましい。接着層8の厚さは、通常、0.1 〜 100μm 程度であり、接着層8を構成する物質により選ばれる最適な方法、例えば、スピンコート、グラビア塗布、スプレーコート、ロールコート等により形成すればよい。
【0041】
また、上部基板9は、上述した基板2と同様の樹脂で構成することができる。一般に、相変化型光記録媒体の作製時には、記録膜4は非晶質状態であり、オーバーライト可能な光記録媒体とするためには何らかの方法で記録膜4を結晶化(初期化)する必要が生じる。光記録媒体1の初期化方法としては、半導体レーザーによる方法、Arレーザーによる方法、フラッシュランプによる方法等種々の方法を用いることができる。
[実施例]
次に、本発明の具体的実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、これら実施例は本発明を何ら制限するものではない。
【0042】
(実施例1〜4)
直径120mm 、厚さ1.2mm のグルーブ付きポリカーボネート基板2の上に、第1保護膜3、記録膜4、第2保護膜5、反射膜6、及びラッカー層7をこの順で形成し、図1の構成を有する光記録媒体1とした。基板2のグルーブは、トラックピッチ1.6 μm 、幅0.5 μm 、深さ50nmとした。
【0043】
第1保護膜3は、ZnS−SiO2(SiO2:20 mol%)をターゲットとして用い、スパッタ法により以下の方法で作製した。
まず、Arガス雰囲気中でRFスパッタ法によりZnS−SiO2膜を形成し、その厚みが約190nm に達した時点で、ArとN2の混合ガスを雰囲気ガスとして注入しRFスパッタ(RF反応性スパッタ)を継続し、全厚み197nm の複合膜を形成した。このとき注入した混合ガス中のArガスとN2ガスの分圧はそれぞれ0.36Pa、0.18Paであった。
【0044】
記録膜4は、In−Sb−Teターゲット上にIn、Sb、Te、Ag、Cu、Pd、V の各チップを載せて組成を変化させる方法で、DCスパッタ法により作製した。記録膜4の厚さは20nmとした。
記録膜4の組成は、フィリップス社製EDAX装置システムを用い、X線マイクロアナライザーにより測定した。即ち、ポリカーボネート平板上に膜厚が約50nmの記録膜4をスパッタ法により作製後、X線マイクロアナライザーにより試料のエネルギースペクトルを検出した。検出されたエネルギースペクトルからポリカーボネート平板等のバックグラウンドを除去し、記録膜4のみのエネルギースペクトルを導出した。このエネルギースペクトルから記録膜4の構成元素の定量を行い、記録膜4の組成とした。
【0045】
第2保護膜5は、ZnS−SiO2(SiO2:20 mol%)をターゲットとし、Arガス雰囲気中でRFスパッタ法により作製した。第2保護膜5の厚さは20nmとした。
反射膜6は、Alをターゲットとし、DCスパッタ法により作製した。厚さは75nmとした。
ラッカー層7は、紫外線硬化型樹脂をスピンコート法により塗布した後、紫外線照射により硬化して形成した。硬化後のラッカー層7の厚みは10μm であった。
【0046】
光記録媒体1作製後の記録膜4は非晶質であった。このため、波長 810 nm の大出力半導体レーザー光により記録膜4を十分に結晶化させ初期化状態とした。光記録媒体1の評価は、波長780nm の半導体レーザー光をNA=0.5 の対物レンズを通して基板2側から照射し、記録膜4の表面で直径約1μm のスポット径に絞り込むことにより行った。記録時には、照射するレーザーパルスをマルチパルス化して記録を行った。記録パワーは13mW、消去パワーは6mW、マルチパルスのボトムパワーは1mW、再生パワーは1mWとした。
【0047】
ディスク特性としては、繰り返し記録消去の寿命を次のような方法で測定した。
即ち、繰り返し記録消去特性は、線速2.8m/sでEFM変調方式のランダム信号を繰り返しオーバーライトし、所定回数のオーバーライト毎に線速1.4m/sで再生を行い、3T信号のジッターを測定した。ジッターが35nsを越える回数を繰り返し記録消去の寿命とし、例えば「1,000 〜10,000」等のように一定の範囲で示した。これは製造条件や評価条件により、表示した範囲内で特性が変わり得ることを示す。
【0048】
このような方法で作製した実施例1〜4の光記録媒体の記録膜組成とディスク特性を表1に示す。
(比較例1〜4)
第1保護膜3を、途中でArとN2の混合ガスを注入せずに形成した以外は実施例1〜4と同様にして光記録媒体を作製した。このとき、第1保護膜3は厚さ197nm のZnS−SiO2(SiO2:20 mol%)混合膜となった。このような方法で作製した比較例1〜4の光記録媒体の記録膜組成とディスク特性を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
実施例1〜4の光記録媒体は、それぞれ、比較例1〜4の中の対応する記録膜組成の光記録媒体に比べ、繰り返し記録消去特性が向上していることがわかる。これにより、第1保護膜3に窒素を含ませることで、光記録媒体の記録消去特性が格段に向上することが明白である。
(実施例5)
記録膜4を、In−Sb−Teターゲット上にIn、Sb、Te、Auの各チップを載せてDCスパッタ法により作製した以外は、実施例1と同様にして光記録媒体を作製し、実施例5とした。
【0051】
(比較例5)
記録膜4を、In−Sb−Teターゲット上にIn、Sb、Te、Auの各チップを載せてDCスパッタ法により作製した以外は、比較例1と同様にして光記録媒体を作製し、比較例5とした。
このような方法で作製した実施例5と比較例5の光記録媒体の記録膜組成とディスク特性を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
この場合も、実施例5の光記録媒体は、比較例5の光記録媒体に比べ、繰り返し記録消去特性が向上していることがわかる。また、実施例5を表1の実施例1〜4と比較すると、記録膜4にAu−In−Sb−Te 合金を用いた場合に、特に記録消去特性の向上が顕著であることがわかる。
(実施例6)
第1保護膜3を、以下の方法で作製した以外は実施例5と同様にして光記録媒体を作製した。
【0054】
即ち、ZnS−SiO2(SiO2:20 mol%)をターゲットとし、Arガス雰囲気中でRFスパッタ法により180nm 厚のZnS−SiO2膜を基板2上に形成する。そのディスクをArとN2の混合ガスを雰囲気ガスとして流すチャンバーに移し、ZnS−SiO2(SiO2:20 mol%)をターゲットに用いてRF反応性スパッタを行い、10nm厚のZnS−SiO2−N膜を形成した。このときのArガスとN2ガスの分圧はそれぞれ0.36Pa、0.18Paであった。
【0055】
(実施例7)
第1保護膜3を、以下の方法で作製した以外は実施例5と同様にして光記録媒体を作製した。
即ち、ZnS−SiO2(SiO2:20 mol%)をターゲットとし、Arガス雰囲気中でRFスパッタ法により150nm 厚のZnS−SiO2膜を基板2上に形成する。そのディスクをArとN2の混合ガスを雰囲気ガスとして流すチャンバーに移し、ZnS−SiO2(SiO2:20 mol%)をターゲットに用いてRF反応性スパッタを行い、30nm厚のZnS−SiO2−N膜を形成した。このときのArガスとN2ガスの分圧はそれぞれ0.45Pa、0.09Paであった。更に、このディスクを異なる濃度のArとN2の混合ガスを雰囲気ガスとして流すチャンバーに移し、ZnS−SiO2(SiO2:20 mol%)をターゲットに用いてRF反応性スパッタを行い、10nm厚のZnS−SiO2−N膜を形成した。このときのArガスとN2ガスの分圧はそれぞれ0.36Pa、0.18Paであった。このようにして全厚190nm の複合膜を形成した。
【0056】
(実施例8)
第2保護膜5を、ZnS−SiO2(SiO2:20 mol%)をターゲットとし、ArとN2の混合ガス雰囲気中でRF反応性スパッタ法により作製し、厚み20nmのZnS−SiO2−N膜とした以外は、実施例5と同様にして光記録媒体を形成した。このときのArガスとN2ガスの分圧はそれぞれ0.36Pa、0.18Paであった。
【0057】
(実施例9)
第1保護膜3を、ZnS−SiO2(SiO2:20 mol%)をターゲットとして用い、以下の方法で作製した以外は実施例5と同様にして光記録媒体を作製した。
まず、Arガス雰囲気中でRFスパッタ法によりZnS−SiO2膜を形成し、その厚みが約190nm に達した時点で、ArとN2とO2の混合ガスを雰囲気ガスとして注入しRFスパッタ(RF反応性スパッタ)を継続して、全厚み197nm 厚のZnS−SiO2−N−O複合膜を形成した。このとき注入した混合ガス中のArガスとN2ガスとO2ガスの分圧はそれぞれ0.36Pa、0.18Pa、0.05Paであった。
【0058】
上述したような各方法でそれぞれ作製した実施例6〜9の各光記録媒体の記録膜組成とディスク特性を表2に示す。
(比較例6)
第2保護膜5を、以下の方法で作製した以外は比較例5と同様にして光記録媒体を作製した。
【0059】
まず、ArとN2ガスの混合ガス雰囲気中でRF反応性スパッタ法によりZnS−SiO2−N膜を形成し、その厚みが約10nmに達した時点で、Arガスのみを雰囲気ガスとしてRFスパッタを継続して、全厚み20nm厚の複合膜を形成した。このときの混合ガス中のArガスとN2ガスの分圧はそれぞれ0.36Pa、0.18Paであった。
(比較例7)
第1保護膜3全体を、ZnS−SiO2(SiO2:20 mol%)をターゲットと、ArとN2ガスの混合ガス雰囲気中でRF反応スパッタ法により作製した以外は、実施例5と同様にして光記録媒体を作製した。この光記録媒体では、第1保護膜3が、膜厚方向に均一な窒素濃度分布をもつ、厚み197nm のZnS−SiO2−N膜となっている。
【0060】
上述したような各方法でそれぞれ作製した比較例6、7の各光記録媒体の記録膜組成とディスク特性を表2に示す。
上述の実施例6〜9は、比較例6、7に比較していずれも良好な繰り返し記録消去特性を示すことがわかる。また、第2保護膜5のみに窒素を含ませた比較例6では、比較例5と同様な記録消去特性を示し、第1保護膜3側に窒素を含ませた実施例5〜9に比較して顕著な繰り返し記録消去特性の向上は見られない。これにより、第2保護膜5に窒素を含ませても記録消去特性の改善効果はあまり得られないことがわかる。また、第1保護膜3に窒素を均一に含ませた比較例7の繰り返し記録消去特性は、比較例5よりも向上してはいるが、実施例5〜9ほどの顕著な向上は見られない。これにより、第1保護膜3に窒素の濃度分布を持たせることが、記録消去特性の向上に効果的であることがわかる。
【0061】
(実施例10、11)
記録膜4を、In−Sb−Teターゲット上にIn、Sb、Te、Auの各チップを載せて組成を振りながらDCスパッタ法により作製した以外は、実施例1と同様にして光記録媒体を作製し、実施例10、実施例11とした。
(比較例8〜10)
記録膜4の組成を異ならせた以外は、実施例10、11と同様にして光記録媒体を作製し、比較例8〜10とした。
【0062】
このような方法で作製した実施例10、11と比較例8〜10の光記録媒体の記録膜組成とディスク特性を表2に示す。
表2から、それぞれα、β、γ及びδで表される、Au、In、Sb、及びTeの組成比率が、0原子%<α≦25原子%、7原子%≦β≦18原子%、30原子%≦γ<45原子%の時には32原子%≦δ≦45原子%、45原子%≦γ<49原子%の時には30原子%≦δ≦45原子%、49原子%≦γ≦55原子%の時には35原子%≦δ≦45原子%、ただし、99原子%≦α+β+γ+δ≦100 原子%を満たす実施例5〜11は、良好な繰り返し記録消去特性を示すが、組成比率が上記範囲にない比較例8〜10は良好な繰り返し記録消去特性を示さないことがわかる。
【0063】
(実施例12)
直径120 mm、厚さ0.6 mmのランド/グルーブを有する、2枚のポリカーボネート基板2の上に、それぞれ第1保護膜3、記録膜4、第2保護膜5、反射膜6、及びラッカー層7をこの順で積層し、この2枚の光記録媒体を、ラッカー層7側を対向させて、接着層8を介して接合し、図3の構成を有する光記録媒体1とした。基板2のランド/グルーブは、トラックピッチ0.74μm 、深さ70nmとした。
【0064】
第1保護膜3は、ZnS−SiO2(SiO2:20 mol%)をターゲットとして用い、スパッタ法により以下のように作製した。
まず、Arガス雰囲気中でRFスパッタ法によりZnS−SiO2膜を形成し、その厚みが約133nm に達した時点で、ArとN2の混合ガスを雰囲気ガスとして注入しRFスパッタ(RF反応性スパッタ)を継続して、全厚み140nm のZnS−SiO2−N混合膜を形成した。このとき注入した混合ガス中のArガスとN2ガスの分圧はそれぞれ0.36Pa、0.18Paであった。
【0065】
記録膜4は、厚さを22nmとした以外は実施例5と同様にして作製した。第2保護膜5は、厚さを25nmとした以外は、実施例1と同様して作製した。反射膜6は厚さを100nm とした以外は実施例1と同様にして作製した。ラッカー層7は、実施例1と同様にして作製した。接着層8は、紫外線硬化型樹脂をスクリーンコート法により塗布した後、紫外線照射により硬化して形成した。硬化後の接着層8の厚みは30〜50μm であった。
【0066】
光記録媒体1作製後の記録膜4は非晶質であった。このため、波長 810 nm の大出力半導体レーザー光により記録膜4を十分に結晶化させ初期化状態とした。光記録媒体1の評価は、波長635nm の半導体レーザー光をNA=0.6 の対物レンズを通して基板2側から照射し、記録膜4の表面で直径約1μm のスポット径に絞り込むことにより行った。記録時には、照射するレーザーパルスをマルチパルス化して記録を行った。記録パワーは12mW、消去パワーは6mW、マルチパルスのボトムパワーは1mW、再生パワーは1mWとした。
【0067】
ディスク特性としては、繰り返し記録消去の寿命を次のような方法で測定した。
即ち、繰り返し記録消去特性は、線速6.0m/sで8/16変調方式のランダム信号を繰り返しオーバーライトし、所定回数のオーバーライト毎に線速6.0m/sで再生を行い、ランダム信号のジッターを測定した。ジッターが基準クロック(34.27ns)の15%を越えるまでのオーバーライトの回数を繰り返し記録消去の寿命とした。
【0068】
(比較例11)
第1保護膜3を、途中でArとN2の混合ガスを注入せずに形成した以外は実施例12と同様にして光記録媒体を作製した。このとき、第1保護膜3は厚さ140nm のZnS−SiO2(SiO2:20 mol%)混合膜となった。
上述の方法で作製した実施例12、比較例11の光記録媒体の記録膜組成とディスク特性を表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
実施例12の光記録媒体は、比較例11の光記録媒体に比べ、繰り返し記録消去特性が向上していることがわかる。
(実施例13、14)
記録膜4を、In−Sb−Teターゲット上にIn、Sb、Te、Auの各チップを載せて組成を振りながらDCスパッタ法により作製した以外は、実施例12と同様にして光記録媒体を作製し、実施例13、14とした。
【0071】
(比較例12〜14)
記録膜4の組成を異ならせた以外は、実施例13、14と同様にして光記録媒体を作製し、比較例12〜14とした。
このような方法で作製した実施例13、14と比較例12〜14の光記録媒体の記録膜組成とディスク特性を表3に示す。
【0072】
表3から、それぞれα、β、γ及びδで表される、Au、In、Sb、及びTeの組成比率が、1原子%≦α≦16原子%、8原子%≦β≦17原子%、41原子%≦γ≦63原子%、24原子%≦δ≦36原子%、或いは、0原子%<α≦17原子%、3原子%≦β<8原子%、51原子%≦γ≦67原子%、26原子%≦δ≦33原子%、ただし、99原子%≦α+β+γ+δ≦100 原子%を満たす実施例12〜14は、良好な繰り返し記録消去特性を示すが、組成比率が上記範囲にない比較例12〜14は良好な繰り返し記録消去特性を示さない。
【0073】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1〜3に係る発明によれば、カルコパイライト系化合物である Au-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te-V 合金、 Cu-In-Sb-Te 合金及び Pd-In-Sb-Te 合金のいずれかの合金からなる記録膜を備える光記録媒体の繰り返し記録消去特性を向上できるという効果がある。
【0074】
請求項4〜8に係る発明によれば、Au-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te-V 合金、 Cu-In-Sb-Te 合金及び Pd-In-Sb-Te 合金のいずれかの合金からなる記録膜の表面に設ける光記録媒体用保護膜として、ZnSとSiO2の混合膜に濃度分布を持たせて窒素を含ませた光記録媒体用保護膜とすることで、光記録媒体の繰り返し記録消去特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の光記録媒体の膜構成の一例を示す断面図
【図2】本発明の光記録媒体の膜構成の他の例を示す断面図
【図3】本発明の光記録媒体の膜構成の更に他の例を示す断面図
【符号の説明】
1 光記録媒体
2 基板
3 第1保護膜
4 記録膜
5 第2保護膜
6 反射膜
7 ラッカー層
8 接着層
9 上部基板
Claims (8)
- 使用する光ビームに対して略透明な基板上に、少なくとも第1保護膜、記録膜、第2保護膜、反射膜をこの順で積膜した光記録媒体において、
前記記録膜が、 Au-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te-V 合金、 Cu-In-Sb-Te 合金及び Pd-In-Sb-Te 合金のいずれかの合金からなり、
前記第2保護膜が、ZnSとSiO2の混合膜からなり、
前記第1保護膜が、ZnSとSiO2の混合膜に窒素を含み、当該窒素の濃度を前記基板側より前記記録膜側が高くなるよう形成されてなることを特徴とする光記録媒体。 - 前記第1保護膜は、前記基板側にZnSとSiO2の混合膜を有し、前記記録膜側にZnSとSiO2と窒素を含む混合膜を有する複合膜である請求項1に記載の光記録媒体。
- 前記第1保護膜は、ZnSとSiO2と窒素を含む混合膜からなり、当該混合膜の前記基板側の面の窒素濃度が略0原子%で、基板側から記録膜側に向けて窒素濃度が漸次増加するようにした請求項1に記載の光記録媒体。
- 使用する光ビームに対して略透明な基板上に、 Au-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te 合金、 Ag-In-Sb-Te-V 合金、 Cu-In-Sb-Te 合金及び Pd-In-Sb-Te 合金のいずれかの合金からなる記録膜を備える光記録媒体の前記記録膜表面に設ける光記録媒体用保護膜であって、
ZnSとSiO2の混合膜に窒素を含ませ、当該窒素の濃度が膜厚方向において、前記記録膜側が他側より高くなるようにしたことを特徴とする光記録媒体用保護膜。 - 前記記録膜側が、ZnSとSiO2と窒素を含む混合膜からなり、前記他側が、ZnSとSiO2の混合膜からなる複合膜である請求項4に記載の光記録媒体用保護膜。
- ZnSとSiO2と窒素を含む混合膜であって、膜の前記他側の面の窒素濃度が略0原子%で、前記記録膜側に向けて窒素濃度が漸次増加するようにした請求項4に記載の光記録媒体用保護膜。
- 酸素を含んでなる請求項4〜6のいずれか1つに記載の光記録媒体用保護膜。
- 膜中に含まれるSiO2のモル数が、ZnSのモル数の10%〜40%である請求項4〜7のいずれか1つに記載の光記録媒体用保護膜。
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