JP3617247B2 - Icp質量分析装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、イオン源としてプラズマトーチを用いるICP質量分析装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、ICP質量分析装置に用いられるプラズマトーチは中心管、中間管、および外側管を備えた三重管構造をしており、これらの各管には、キャリアガス(中心管)、プラズマガス(中間管)、冷却ガス(外側管)がそれぞれ供給されている。また、プラズマトーチの外周には高周波磁界を発生させる高周波コイルが配設されている。試料は霧化部で霧化されたうえでキャリアガスと混合されてプラズマトーチ内に送り込まれる。プラズマトーチに送り込まれた試料は、高周波コイルの高周波磁界によって生じる高周波誘導結合プラズマによってイオン化されたのち、そのイオンが質量分析部で分析されるようになっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従来のICP質量分析装置には、分析する元素によっては、分析中に発生する分子イオンによって分析が妨害される結果、分析精度が低下するという課題があった。以下、説明する。
【0004】
通常、キャリアガスはアルゴン(Ar)ガスから構成されている。また、試料は水溶液にした状態で霧化されてキャリアガスに混合される。そのため、キャリアガス中の試料をプラズマトーチ内でイオン化する際に、アルゴン(Ar)がイオン化するうえ、水溶液中の水(H2O)も分解して、酸素イオンや水素イオンが発生する。このようにして発生したイオンは、プラズマトーチ内で結合して、ArOやArHなどの分子イオンを発生させる。これら分子イオンの分子量は鉄(Fe)やカリウム(K)の原子量とほぼ同じである。すなわち、Fe(55.847)≒ArO(55.9474),K(39.098)≒ArH(40.9559)である。そのため、鉄やカリウム(水質分析や不純物分析等にICP質量分析装置を用いる場合に頻繁に分析される元素である)の分析を行う場合、プラズマトーチ内に発生する分子(ArO,ArH)が分析を妨害していた。具体的にいえば、鉄(Fe)やカリウム(K)を分析する場合、妨害分子(ArO,ArH)によってバックグラウンドが上昇する結果、分析下限が高くなり、微量分析が行えなくなっていた。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の課題を解決するために、中心管の径方向外側に中間管を配置しさらにこの中間管の径方向外側に外管を配置してなるプラズマトーチと、前記中心管に、試料を含有するキャリアガスを供給するキャリアガス供給手段と、前記中心管と前記中間管との間に、プラズマガスを供給するプラズマガス供給手段と、前記中間管と前記外管との間に第1の冷却ガスを供給する第1冷却ガス供給手段とを備えたICP質量分析装置において、前記中心管を、前記キャリアガスが流通する内側管とこの内側管の径方向外側に配置された外側管とを備えた2重管構造とし、かつ、前記内側管と前記外側管との間に、第2の冷却ガスを供給する第2冷却ガス供給手段を備えたことに特徴を有している。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0007】
図1は、本発明の一実施の形態のICP質量分析装置の要部の構成を示す図である。このICP質量分析装置1は水質分析や不純物分析等に用いられるものであって、プラズマトーチ2と、質量分析部3と、キャリアガス供給手段4と、プラズマガス供給手段5と、第1冷却ガス供給手段6と、第2冷却ガス供給手段7とを備えている。
【0008】
プラズマトーチ2は、中心管8と、中心管8の径方向外側に同心状に配置された中間管9と、中間管9の径方向外側に同心状に配置された外管10と、高周波コイル11とを備えている。中心管8は、内側管12と、内側管12の径方向外側に同心状に配置された外側管13とからなる2重管構造となっている。これらの各管12,13,9,10の先端、すなわち、質量分析部3側に位置する管端部は開放されている一方、各管12,13,9,10の基端には、ガス供給口12a,13a,9a,10a,が形成されている。
【0009】
キャリアガス供給手段4は、霧化試料を混合させたキャリアガス(アルゴンガス等から構成される)Aを、ガス供給口12aから内側管12に供給している。プラズマガス供給手段5はアルゴン等のプラズマガスBをガス供給口9aから中間管9の内部、すなわち、中間管9と中心管8との間の隙間に供給している。第1冷却ガス供給手段6は、アルゴンガス等からなる第1の冷却ガスCを、ガス供給口10aから外管10の内部、すなわち、外管10と中間管9との間に供給している。第2冷却ガス供給手段7は、窒素ガス等の高イオン化エネルギーガスからなる第2の冷却ガスDを、ガス供給口13aから外側管13の内部、すなわち、外側管13と内側管12との間に供給している。各ガス供給口9a,10a,12a,13aから各管9,10,12,13に供給された各ガスA,B,C,Dは、各管9,10,12,13の先端から質量分析部3に向けて噴き出るようになっている。
【0010】
高周波コイル11は、プラズマトーチ2に高周波磁界を形成するものであって、外管10の先端を囲んで配置されている。高周波コイル11には高周波電源14が接続されている。また、第2冷却ガス供給手段7と外側管13との間のガス流路には、第2の冷却ガスDの流量を調整するマスフローバルブ15が設けられている。
【0011】
質量分析部3は四重極型のマスフィルタおよびエレクトロンマルチプライヤ(共に図示省略)といったような構成を備えて、プラズマトーチ2で作成された試料イオンの質量分析を行っている。
【0012】
なお、第2冷却ガス供給手段7が供給する第2の冷却ガスとして、上記した窒素ガスのほか、アルゴンガス、酸素ガス,キセノンガス、クリプトンガス等を用いることができる。
【0013】
次に、このICP質量分析装置1による質量分析操作を説明する。プラズマガス供給手段5から中間管9の内部にプラズマガスBを供給する一方、第1冷却ガス供給手段6から外管10の内部に第1の冷却ガスCを供給する。そして、この状態で、高周波電源14から高周波コイル11に高周波電力を供給して、プラズマトーチ2の先端に高周波磁界を形成し、この高周波磁界によって、中間管9の先端から噴き出るプラズマガスBをICPプラズマ化する。
【0014】
一方、キャリアガス供給手段4を構成する霧化部(図示省略)において試料を霧化したうえでキャリアガスAに混合させておく。そして、キャリアガス供給手段4から、試料混合済のキャリアガスAを内側管12に供給し、さらには、第2冷却ガス供給手段7から外側管13に第2の冷却ガスDを供給する。すると、内側管12の先端からICPプラズマP中に第2の冷却ガスDが噴き出る。さらに、噴き出た第2の冷却ガスD中にキャリアガスAが噴き出る。すると、キャリアガスAとICPプラズマPとの間に流通する第2の冷却ガスDがICPプラズマPの熱を吸収するため、ICPプラズマPの熱が若干キャリアガスAに伝達しにくくなる。そのため、第2の冷却ガスDを流通させたICP質量分析装置1と第2の冷却ガスDを流通させない従来のICP質量分析装置とを、ICPプラズマ中のキャリアガスAの温度で比較する場合、ICP質量分析装置1の方がキャリアガスAの温度が若干低くなる結果、分析精度が向上する。以下、その理由を説明する。
【0015】
ICP質量分析装置1で質量分析する元素のうちの鉄やカリウム(水質分析や不純物分析等にICP質量分析装置1を用いる場合に頻繁に分析される元素である)について考える。これら金属元素(以下、分析対象金属元素と称す)の原子量は、ICPプラズマPの作用によってキャリアガスAから発生するArHイオンやArOイオン(以下、これら分子イオンを妨害分子イオンという)の分子量と同等となる。このことは”発明が解決しようとする課題”の欄において説明した通りである。そのため、これら妨害分子イオンの生成を許容していたのでは、分析対象金属元素の分析の障害となる。
【0016】
これに対して、ICP質量分析装置1では、次のようにして上記分子イオン(以下、障害分析イオンという)の生成を抑制している。すなわち、キャリアガスAとICPプラズマPとの間に第2の冷却ガスDを流通させることで、ICPプラズマP内におけるキャリアガスAの温度を若干低くすると、分析対象金属元素(鉄、カリウム)およびキャリアガス成分(アルゴン、水)は、温度が低下した分だけイオン化しにくくなる。
【0017】
しかしながら、分析対象金属元素のイオン化エネルギーと、キャリアガスAの成分(アルゴン、水)のイオン化エネルギーとを比較すると、分析対象金属元素のイオン化エネルギーの方が小さい、つまり、イオン化しやすい。そのため、ICPプラズマP内におけるキャリアガスAの温度を若干低くすると、キャリアガスAの方が分析対象金属元素よりイオン化しにくくなり、分析対象金属元素のイオン化をほとんど阻害することなく、キャリアガス成分のイオン化だけを有効に抑制することができる。そして、キャリアガス成分のイオン化を抑制できる分、キャリアガス成分のイオンから発生する妨害分子を減らすことができる。
【0018】
このような理由により、ICP質量分析装置1では、分析対象金属元素(鉄,カリウム)分析時のバックグラウンドが低下して分析下限が低くなり、その分だけ、微量分析が可能となっている。
【0019】
なお、このように構成したICP質量分析装置1では、プラズマトーチ2内でのキャリアガスAの温度制御を綿密に行う必要がある。すなわち、ICPプラズマ中のキャリアガスの温度が低くなり過ぎると、分析感度が低下する一方、キャリアガスの温度があまり低下しないと、妨害分子の抑制効果が得られない。そこで、ICP質量分析装置1では、第2の冷却ガスDの流量を調整することでキャリアガスの温度制御を行っている。第2の冷却ガスDの流量調整はマスフローバルブ15により行う。
【0020】
また、妨害分子の影響を受けない他の分析元素(鉛、水銀等の重金属や希土類等)を分析する場合には、マスフローバルブ15を閉じて第2の冷却ガスDの供給を停止すれば、ICPプラズマP中におけるキャリアガスAの温度が低下して、分析感度が低下するといった不都合がなくなる。
【0021】
ところで、妨害分子の発生を抑制するためには、次のような構成が考えられる。すなわち、キャリアガス供給手段4を構成する霧化部に対して、霧化に用いるガスとは別に、霧化用ガスと同種のガスを供給することでキャリアガス量を増やす。そして、このようにしてガス量を増量したキャリアガスをプラズマトーチ2に供給することでプラズマの温度を下げ、これによって妨害分子の発生を抑制する。
【0022】
しかしながら、このようにして妨害分子の発生を抑制する構成には、次のような不都合がある。すなわち、キャリアガス供給手段4を構成する霧化部には、霧化した試料の粒子をその大きさによって分離させて粒の揃った小粒子だけをプラズマトーチ2に供給し、これによって分析精度を向上させるという整粒機能がある。このような機能を有する霧化部において、上述したようなキャリアガスを増量する構成を採用すると、霧化部のガス流量が設計時の値と大きく異なってしまって十分な整粒機能を発揮することができなくなり分析精度が劣化してしまうという不都合がある。
【0023】
これに対して、本発明のICP質量分析装置1では、プラズマトーチ2の構成を改良する(中心管8を、内側管12と外側管13とから構成し、両管12,13の間に第2冷却ガスDを供給する)ことで、妨害分子の発生を抑制しており、霧化部の機能を阻害するといった不都合は起きない。
【0024】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、第2の冷却ガスをICPプラズマとキャリアガスとの間に供給することで、ICPプラズマ中におけるキャリアガスの温度を若干下げることができ、これによって、キャリアガスから生じるArO,ArHといった妨害分子の発生を抑制することができた。そのため、上記妨害分子の分子量と同等の原子量を有する鉄、カリウムといった分析対象金属元素の分析時のバックグラウンドが低下して分析下限が低くなり、その分だけ、微量分析が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態に係るICP質量分析装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
2 プラズマトーチ 4 キャリアガス供給手段
5 プラズマガス供給手段 6 第1冷却冷却ガス供給手段
7 第2冷却ガス供給手段 8 中心管
9 中間管 10 外管
11 高周波コイル 12 内側管
13 外側管 A キャリアガス
B プラズマガス C 第1の冷却ガス
D 第2の冷却ガス P ICPプラズマ
Claims (1)
- 中心管の径方向外側に中間管を配置しさらにこの中間管の径方向外側に外管を配置してなるプラズマトーチと、
前記中心管に、試料を含有するキャリアガスを供給するキャリアガス供給手段と、
前記中心管と前記中間管との間に、プラズマガスを供給するプラズマガス供給手段と、
前記中間管と前記外管との間に第1の冷却ガスを供給する第1冷却ガス供給手段とを備えたICP質量分析装置であって、
前記中心管を、前記キャリアガスが流通する内側管とこの内側管の径方向外側に配置された外側管とを備えた2重管構造とし、
かつ、前記内側管と前記外側管との間に、第2の冷却ガスを供給する第2冷却ガス供給手段を備えたことを特徴とするICP質量分析装置。
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