JP3615163B2 - ナトリウム−硫黄電池用陽極容器 - Google Patents

ナトリウム−硫黄電池用陽極容器 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ナトリウム−硫黄電池において、陽極活物質を含浸した陽極用導電材を収容するために用いられる陽極容器に関する。
【0002】
【従来の技術】
ナトリウム−硫黄電池は、一方に陰極活物質である溶融金属ナトリウム、他方には陽極活物質である溶融硫黄を配し、両者をナトリウムイオンに対して選択的な透過性を有するβ−アルミナ固体電解質で隔離し、300〜360℃程度の温度で作動させる高温二次電池である。
【0003】
このようなナトリウム−硫黄電池の構造は、例えば図6に示すように、陽極活物質である溶融硫黄Sが含浸されたグラファイトマット等の陽極用導電材12を収容する有底円筒状の陽極容器1と、陰極活物質である溶融金属ナトリウムNaを収容するカートリッジ(ナトリウム保護管)6と、このカートリッジ6を内部に収容し、ナトリウムイオンNaを選択的に透過させる機能を有する有底円筒状の固体電解質管5と、カートリッジ6と固体電解質管5の間の間隙部に、そのカートリッジ6及び固体電解質管5からそれぞれ所定の間隔をおいて配設された有底円筒状の隔壁管11からなる。
【0004】
固体電解質管5はその開口端にガラス接合されたα−アルミナ製の絶縁リング4及び陽極筒状金具3を介して陽極容器1と結合されている。また、絶縁リング4の上端面には陰極金具8が熱圧接合され、この陰極金具8に陰極蓋9が溶接固定されている。陽極容器1の外周上部と陰極蓋9の上面には、それぞれ陽極側端子2と陰極側端子10が設けられている。カートリッジ6の上部空間には、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスGが所定の圧力で封入され、この不活性ガスGによりカートリッジ6内のナトリウムNaがカートリッジ6底部に設けられた小孔7から流出する方向へ加圧されている。
【0005】
このような構造を有するナトリウム−硫黄電池において、放電時にはカートリッジ6の小孔7から供給されるナトリウムNaが、隔壁管11とカートリッジ6との間隙内で上方に移動した後、隔壁管11の上端を乗り越えて、隔壁管11と固体電解質管5との間隙内で下方に移動し、更に、固体電解質管5をナトリウムイオンNaとなって透過して、陽極容器1内の硫黄S及び外部回路を通ってきた電子と反応し多硫化ナトリウムを生成する。充電時には放電とは逆にナトリウムNa及び硫黄Sの生成反応が起こる。
【0006】
図3は従来の陽極容器の部分断面図である。陽極容器1は、アルミニウムやアルミニウム合金等の金属材料からなる有底円筒状の容器であって、開口端部20の近傍に、陽極容器1の熱変化に伴う膨張・収縮を吸収緩和するための径方向に屈曲するU字型くびれ部13が形成されている。また、陽極容器1は、腐食性の活物質に対する耐食性を高めるため、その内周面に、クロム−鉄合金粉末等がプラズマ溶射された耐腐食性の高い金属からなる耐食皮膜14が形成されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
図3に示すような従来の陽極容器1は、実電池としての使用に充分な耐久性を示し、長期間に渡る使用に際しても、耐食皮膜にクラックや剥離等の不具合は生じ難いものであった。
【0008】
ただし、実電池としての使用に充分耐え得るものであれば、より簡便に製造可能であることが望ましい。例えば、図3に示す陽極容器1のU字型くびれ部13に関していえば、効果的に陽極容器1の熱変化に伴う膨張・収縮を吸収緩和することが可能であれば、より簡便に、かつ、低コストで製造可能であることが好ましい。
【0009】
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、熱変化による陽極容器の膨張・収縮を充分に吸収緩和可能な構造であるとともに、簡便、かつ、低コストで製造可能なナトリウム−硫黄電池用陽極容器を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明によれば、金属材料により形成された有底円筒状の容器であるナトリウム−硫黄電池用陽極容器であって、該容器の開口端部の近傍に、該容器の該開口端部側の外径に比して、該容器の底部側の外径が大となる屈曲部を備えてなり、且つ、該屈曲部よりも該開口端部側の外周に、該容器を形成する金属材料に比して熱膨張係数が小である金属からなるリングが嵌合されていることを特徴とするナトリウム−硫黄電池用陽極容器が提供される。
【0011】
本発明においては、屈曲部と、屈曲部以外の部分とが実質的に同等の厚さであることが好ましく、また、耐腐食性の高い金属からなる耐食皮膜が、少なくとも屈曲部の上側の屈曲が開始する屈曲最上端部まで形成されていることが好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜、設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0014】
本発明は、金属材料により形成された有底円筒状の容器であるナトリウム−硫黄電池用陽極容器(以下、「陽極容器」と記す。)であり、容器の開口端部の近傍に、開口端部側の外径に比して、容器の底部側の外径が大となる屈曲部を備えてなり、且つ、屈曲部よりも開口端部側の外周に、容器を形成する金属材料に比して熱膨張係数が小である金属からなるリングが嵌合されていることを特徴とするものである。
【0015】
図1は、本発明の陽極容器の一実施態様を示す部分断面図であり、陽極容器1の開口端部20の近傍には、S字型屈曲部21が設けられている状態を示している。本発明の陽極容器は屈曲部、例えばS字型屈曲部21によって、開口端部側外径Aに比して、底部側外径Bが大きくなるように形成されている。即ち、有底円筒状の容器の開口端部が絞られた状態であり、このような形状の屈曲部を有することによって、熱変化による陽極容器の膨張・収縮を吸収緩和することができる。
【0016】
また、本発明の陽極容器の屈曲部は、従来の陽極容器のU字型くびれ部に比して簡単な形状であるために、寸法等の検査が簡単であり、検査に要する時間を短縮することも可能である。
【0017】
本発明においては、屈曲部と屈曲部以外の部分とが、実質的に同等の厚さであることが好ましい。このことにより、本発明の陽極容器はその全体に渡って均等な強度・耐久性を示し、局部的な破損や腐食等の不具合が生じ難いといった効果を奏する。
【0018】
なお、本発明にいう「実質的に同等の厚さ」とは、厳密に同じ厚みであることを意味するものではなく、屈曲部が、屈曲部以外の部分、即ち、直管部と強度・耐久性に関して実質的な差異を生じない状態であるとともに、偏肉が生じていない状態を意味するものである。
【0019】
また、本発明においては、耐腐食性の高い金属からなる耐食皮膜が、少なくとも屈曲部の上側の屈曲が開始する屈曲最上端部まで形成されていることが好ましい。
耐食皮膜の一般的な形成方法としては、ブラスト加工等による粗面化に次いで、プラズマ溶射等を実施する一連の方法を挙げることができる。図3に示すような従来の陽極容器1のU字型くびれ部13は加工度が大きく、稀に均等な粗面化・溶射を実施することが困難な場合もある。
【0020】
一方、図1に示す本発明の陽極容器1は、従来のU字型くびれ部に比して加工度の小さいS字型屈曲部21を有しているために、より均等に粗面化・溶射を実施することが可能であり、開口端部20まで、少なくともS字型屈曲部21の上側の屈曲が開始するS字型屈曲最上端部22まで耐食皮膜14を形成することができる。従って、本発明の陽極容器は、耐食性により一層の信頼が付与されている。
【0021】
発明の陽極容器は、屈曲部よりも開口端部側の外周に、容器を形成する金属材料に比して熱膨張係数が小である金属からなるリングが嵌合されているものである。図2は、本発明の陽極容器の別の実施態様を示す部分断面図であり、陽極容器1の開口端部20の外周にリング23が嵌合された状態を示している。熱変化により陽極容器1のS字型屈曲部21において、容器の縦方向に生じた膨張・収縮は、開口端部20の径方向の膨張・収縮となり、結果的に開口端部20が拡大して、場合によっては変形等を生ずることも想定される。
【0022】
ここで、本発明の陽極容器1は、開口端部20に陽極容器1を構成する金属材料に比して熱膨張係数が小であるリング23が嵌合されているために、開口端部20の拡大変形が生ずることがない。なお、陽極容器1を構成する金属材料がアルミニウム、又はアルミニウム合金である場合を想定すると、リング23を構成する金属は、例えば鉄系合金、ニッケル系合金、ステンレス等であることが好ましい。
【0023】
図4は、本発明の陽極容器を用いたナトリウム−硫黄電池の構造の一例を示す部分断面図である。電池反応により生成した多硫化ソーダは、陽極容器1の開口端部20と陽極筒状金具24との間隙に堆積する場合があり、開口端部20を圧迫して変形することも想定される。本発明においては、開口端部20にリング23が嵌合されているために前記変形を防止することが可能であり、電池運転に際しての長期信頼性を有する。
【0024】
また、本発明の陽極容器は、従来の陽極容器におけるU字型くびれ部に代えて、図1に代表されるS字型屈曲部21を有しているために、開口端部20が小径化されている。従って、図4に示すようなナトリウム−硫黄電池を作製する際に用いる絶縁リング4を小型化することが可能であり、コスト面においても配慮がなされている。
【0025】
本発明の陽極容器の屈曲部を形成するためには、例えばスエージング加工等の加工方法を用いればよい。図7は、スエージング加工を模式的に示す概略図である。
まず、予め開口端部20、即ち、加工部分がO材化(完全焼鈍)等された、金属材料からなる原料パイプ30を用意する。ここで、金属材料とは、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金等であり、一例としてはJISA1100、A1050、2S材等の一般工業用純アルミニウムや、JISA3003(3S材)等のアルミニウム合金等を挙げることができる。
【0026】
なお、O材化(完全焼鈍)は、加工部分を軟化して加工性を良好にするために実施するものであるが、必ずしも実施する必要性はなく、用いる原料パイプの材質や、加工度によって適宜実施すればよい。また、例えば、加熱処理しながらスエージング加工を施してもよい。
【0027】
U字型くびれ部を形成するためには、一般的にはビーディング加工が採用されるが、加工用の型を変更等する場合には、新たな型をセットするために多大な時間が必要とされる。これに対してスエージング加工においては比較的簡単に金型変更が可能である。
【0028】
原料パイプ30を適当な治具31に固定し、所望形状の金型32と原料パイプ30を嵌合することにより、S字型屈曲部を形成することができる。設計の都合上、原料パイプ30の外径寸法を若干変更した場合であっても、同一の金型32を用いることにより、開口端部20の外径寸法を均一に仕上げることができる。従って、作製した陽極容器を用いてナトリウム−硫黄電池を組立てる際に、陽極容器の外径寸法の変更に合わせて、開口端部に取り付ける各種陰極側の部品の寸法等の再設計を行う必要がなく、ナトリウム−硫黄電池の製造コスト低減を図ることができる。
【0029】
【実施例】
以下、本発明の具体的な実施結果を説明する。
(実施例1、2)
長さ350mm、外径70mmであって、厚みが1.4mmと2.8mmの2種類のアルミニウム(JISA1050)からなるパイプを用意し、スエージング加工を実施することにより、一方の開口端部の近傍に図1に示す形状のS字型屈曲部21を設けた。次いで、S字型屈曲部21を含めた内周面にブラスト処理を施して粗面化した後、クロム−鉄合金(クロム含有量が75質量%)を溶射し、厚さ100μmの耐食皮膜14を形成した。
【0030】
次に、その近傍にS字型屈曲部21を有する開口端部と反対側の開口端部に、常法に従って底蓋(図示せず)を取り付けた後、厚みが5mmのリング(ステンレス製)を嵌合して、各5個(計10個)の陽極容器(実施例1、2)を作製した。
こうして得られた陽極容器(実施例1、2)を使用して、図5に示すような構造のナトリウム−硫黄電池を計10本作製した。
【0031】
(実電池によるヒートサイクル試験)
作製したナトリウム−硫黄電池を使用して、運転時の最高温度を380℃として室温〜380℃までの40回のヒートサイクル試験を実施した。10サイクル経過毎に耐食皮膜におけるクラック発生の有無を、X線により観察した。
【0032】
この結果、いずれの陽極容器においても、その耐食皮膜にクラックは発生しておらず、良好な状態であった。即ち、本発明の陽極容器は、従来のU字型くびれ部を有する陽極容器と比較して、実電池として使用した場合における耐久性に関しても、何ら遜色のない優れた陽極容器であることを確認することができた。
【0033】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のナトリウム−硫黄電池用陽極容器は、開口端部の近傍に所定の屈曲部を備えているために、熱変化による陽極容器の膨張・収縮を充分に吸収緩和可能である。更に、当該屈曲部は比較的簡単な構造であるために、簡便、かつ、低コストで加工可能であり、製造コスト低減も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の陽極容器の一実施態様を示す部分断面図である。
【図2】本発明の陽極容器の別の実施態様を示す部分断面図である。
【図3】従来の陽極容器の一例を示す部分断面図である。
【図4】本発明の陽極容器を用いたナトリウム−硫黄電池の構造の一例を示す部分断面図である。
【図5】本発明の陽極容器を用いたナトリウム−硫黄電池の構造の一例を示す断面図である。
【図6】従来の陽極容器を用いたナトリウム−硫黄電池の構造の一例を示す断面図である。
【図7】スエージング加工を模式的に示す概略図である。
【符号の説明】
1…陽極容器、2…陽極側端子、3…陽極筒状金具、4…絶縁リング、5…固体電解質管、6…カートリッジ、7…小孔、8…陰極金具、9…陰極蓋、10…陰極側端子、11…隔壁管、12…陽極用導電材、13…U字型くびれ部、14…耐食皮膜、20…開口端部、21…S字型屈曲部、22…S字型屈曲部最上端部、23…リング、24…陽極筒状金具、25…鞘管、26…溶接部、30…原料パイプ、31…治具、32…金型、A…開口端部側外径、B…底部側外径。

Claims (3)

  1. 金属材料により形成された有底円筒状の容器であるナトリウム−硫黄電池用陽極容器であって、
    該容器の開口端部の近傍に、該容器の該開口端部側の外径に比して、該容器の底部側の外径が大となる屈曲部を備えてなり、且つ、該屈曲部よりも該開口端部側の外周に、該容器を形成する金属材料に比して熱膨張係数が小である金属からなるリングが嵌合されていることを特徴とするナトリウム−硫黄電池用陽極容器。
  2. 屈曲部と、該屈曲部以外の部分とが実質的に同等の厚さである請求項1に記載のナトリウム−硫黄電池用陽極容器。
  3. 耐腐食性の高い金属からなる耐食皮膜が、
    少なくとも屈曲部の上側の屈曲が開始する屈曲最上端部まで形成されている請求項1又は2に記載のナトリウム−硫黄電池用陽極容器。
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