JP3615159B2 - エアバッグドア成形方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エアバッグドアをインストルメントパネルに対して一体的に成形するためのエアバッグドア成形方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車などの高速移動車両には、乗員の安全性を確保することを目的として、エアバッグシステムが装備されることが多い。エアバッグシステムは、衝突事故などにおいて車両に衝撃が加わった際に、その衝撃の乗員への伝達を吸収するための装置であって、一般に、車両への衝撃を検知し且つその衝撃の程度を判断して作動信号を発信するセンサ、この作動信号に基づいて所要のガスを発生するガス発生器、および、ガス発生器からのガスにより膨張展開して乗員を保護するエアバッグの3つのサブシステムより構成されている。エアバッグシステム作動時に膨張展開するエアバッグは、通常、非作動時には折り畳まれて所定箇所に格納されている。例えば自動車用エアバッグシステムにおける助手席用エアバッグの場合は、インストルメントパネルの内側に収納されている。従って、エアバッグが収納装備されたインストルメントパネルには、システム作動緊急時にエアバッグの乗員方向への膨出を許容するための開口部、および、システム非作動通常時にこの開口部を閉塞し且つシステム作動時には開口部を開放するためのエアバッグカバー体ないしエアバッグドアが必要とされる。
【0003】
図9は、従来の方法により別体として樹脂成形されたエアバッグドア101が配設されたインストルメントパネル100の斜視図であり、図10は、図9に示すインストルメントパネル100におけるエアバッグドア101配設箇所の一部断面拡大斜視図である。図10に示される断面形状は、図9の線X―Xに沿った断面形状に相当する。
【0004】
インストルメントパネルへのエアバッグドアの形成においては、従来、インストルメントパネル100とエアバッグドア101は互いに別体として樹脂成形され、その後に、エアバッグドア101がエアバッグ用開口部102を閉塞するようにインストルメントパネル100に取付けられていた。しかしながら、別部材としてのエアバッグドア101をインストルメントパネル100に取付けると、図10によく表されているように、インストルメントパネル100の外表面ないし意匠面において、エアバッグドア101とパネル本体との境目に隙間ないし段部103が形成されてしまう。このような隙間ないし段部103は、図9に示すように、美観が重んじられるインストルメントパネルの外観構成に影響を与えてしまうので、好ましくない。また、そのような隙間ないし段部103には埃が溜まり易いという問題もある。加えて、このような従来の構成では、パネル本体の成形とは独立したエアバッグドア成形工程、およびそのための金型などが別途必要であって、インストルメントパネルの製造工程が煩雑なものとなっていた。
【0005】
例えば、特開平11−291069号公報、特開平6−143357号公報および特開2000−108833号公報には、エアバッグドアの別体成形に基づく以上のような問題を解消するため、エアバッグドアとインストルメントパネルとを一体的に成形するための技術が開示されている。
【0006】
具体的には、特開平11−291069号公報によると、インストルメントパネル本体をエアバッグ用開口部を設けずに射出成形した後、パネルの裏面におけるエアバッグ収納位置に対応する所定箇所に、レーザ加工により破断溝が形成される。ここで破断溝とは、エアバッグシステム作動時にエアバッグの膨張力を受けることにより破断して、エアバッグ収納位置に対応するインストルメントパネルの所定部位、即ちエアバッグドアを開裂可能にするために形成される溝をいう。このような破断溝をインストルメントパネルに形成することにより、破断溝により規定されるエアバッグドアが、インストルメントパネルに対して一体的に成形されることとなる。
【0007】
一方、特開平6−143357号公報および特開2000−108833号公報によると、インストルメントパネルの裏面側に所望の破断溝が形成されるように、型締されたインストルメントパネル金型によって規定される空隙部に対して破断溝形成用コアが予め配設され、この状態で空隙部に樹脂材料が充填される。すると、インストルメントパネルを射出成形する際に、破断溝により規定されたエアバッグドアがインストルメントパネルに一体的に成形されることとなる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述のレーザ加工法では、レーザ照射によってインストルメントパネルに形成される破断溝の深さについて微調節することが比較的困難であり、特に単層構造のインストルメントパネルに対してレーザ加工する場合には、過剰なレーザ照射によってインストルメントパネルを貫通してしまうおそれがある。また、レーザ加工法を採用すると、インストルメントパネルの射出成形工程とは別に、複雑なレーザ加工機による加工工程を必要とするため、インストルメントパネルの製造効率の低下を招来してしまう。
【0009】
一方、樹脂材料の射出時に破断溝形成用コアを予め配設しておく方法では、コアは、インストルメントパネルに破断溝すなわち薄肉部を形成するために他の金型部分に比べて空隙部内に突出して配設されているため、樹脂材料射出工程において、空隙部内を流動する樹脂材料の障害となってしまう。すると、コアに挟まれた領域や囲まれた領域、即ちエアバッグドア形成領域には、充分量の樹脂が供給され難くなる。その結果、インストルメントパネルに一体成形されたエアバッグドアの一部または全体が所望の肉厚よりも薄い状態になるという、いわゆる欠肉の問題が生じてしまう。
【0010】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、以上に述べた問題点を解消または軽減することを課題とし、インストルメントパネルの美観を維持しつつ欠肉を生ぜずにエアバッグドアをインストルメントパネルに一体的に成形する際などに使用することができる射出成形用金型、およびこれを用いたエアバッグドア成形方法を提供することを目的とする。
【0011】
【発明の開示】
本発明の成形方法に用いられる射出成形用金型は、第1の型体および第2の型体と、第2の型体に摺動可能に設けられ、第1の型体に対して進退動可能な破断溝形成用のコアと、当該コアを、コアの進退方向に加振するための加振装置と、を備えることを特徴とする。
【0012】
このような構成の金型を用いると、例えばエアバッグドアをインストルメントパネルに一体成形する際には、エアバッグドアに欠肉が発生するのを回避ないし充分に抑制することができる。具体的には、本発明の第1の側面に係る金型をインストルメントパネル金型として用いた射出成形において、樹脂材料射出工程では、破断溝形成用のコアがその破断溝形成位置よりも退避した位置にある状態で樹脂材料を空隙部に射出し、その後、空隙部に対して樹脂材料を充填中または充填完了後に破断溝形成用コアを破断溝形成位置に変位させることができる。これによると、破断溝形成用コアは空隙部における樹脂材料の流動を一切または殆ど妨害せず、空隙部において破断溝形成用コアによって規定されるエアバッグドア形成領域には充分量の樹脂材料を供給することが可能となる。その結果、完成品のエアバッグドアにおいて欠肉の発生が回避され、所望の肉厚を有するエアバッグドアがインストルメントパネルに一体的に成形されるのである。
【0013】
また、上記構成の金型を用いると、インストルメントパネルに対して、良好な美観でエアバッグドアを一体成形することができる。具体的には、破断溝形成用のコアをその進退方向に加振するための加振装置が設けられているので、上述のように、金型によって規定される空隙部への樹脂材料の充填中または充填完了後において、破断溝形成用コアを破断溝形成位置に変位させる際に、当該コアを、その移動方向に加振することができる。空隙部に存在する樹脂材料に対してコアを押入するときに、コアが、その押入方向に加振していると、コアの押入によってコア先端と第1の型体表面に挟まれる樹脂材料が、コアより伝達される微小振動により、コアの押入が予定される経路から外れる方向へ徐々に移動し、樹脂材料の良好な分散化が図られる。すると、コアが、その破断溝形成位置に変位して、押入動作を終了したときには、コアの先端と第1の型体との間に介在する樹脂材料が、他の領域に在る樹脂材料よりも高い圧縮状態となることが回避される。破断溝形成工程の後の冷却工程において、樹脂材料は放熱して収縮するところ、本発明の金型を用いた射出成形においては、コアを押入した箇所が他の領域と同等の収縮率で収縮し、その結果、最終的に得られる成形品の意匠面において、コアを押入した箇所と他の領域とを面一状に成形することが可能となる。
【0014】
空隙部に充填中または充填完了後に破断溝形成用のコアを破断溝形成位置に変位させる際に、当該コアを加振させなければ、コアの先端と第1の型体との間に挟まれている樹脂材料は、コアが破断溝形成位置に変位することによって、他の領域に存在する樹脂よりも圧せられた状態となってしまう。このようにして圧縮状態とされた樹脂材料は、冷却工程では、他の部位に存在する樹脂材料よりも、部材厚方向において、見かけ上、小さな収縮率で収縮することとなる。その結果、冷却工程を経た成形品において、コアを押入した箇所が、意匠面側に膨らんでしまい、成形品の美観に影響を与えてしまうのである。これに対し、本発明の成形方法で用いる金型は、コアが破断溝形成位置へ変位する際に、樹脂材料において異なる圧縮状態が生じるのを回避することによって、冷却終了後に得られる成形品において、パネル本体およびエアバッグドアの外表面が面一に連接した形状とすることができるのである。
【0015】
本発明によると、インストルメントパネルにエアバッグドアを一体成形する方法が提供される。この成形方法は、第1の型体と第2の型体とを接近させて型締を行う工程と、第1の型体および第2の型体によって規定される空隙部に樹脂材料を射出する工程と、第2の型体に摺動可能に設けられ、第1の型体に対して進退動可能な破断溝形成用のコアを、当該コアの進退方向に加振しつつ、第1の型体に向けて退避位置から破断溝形成位置まで変位させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
このような成形方法によると、前述した金型を用いて、インストルメントパネルにエアバッグドアを一体的に成形することができる。したがって、本発明の成形方法によれば、上述したのと同様の効果が奏される。
【0017】
本発明に係る射出成形で用いられる樹脂材料としては、スチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)系樹脂などの熱可塑性樹脂を挙げることができる。また、樹脂成形体の補強の観点から、樹脂材料は、ガラス繊維、炭素繊維、炭酸カルシウム、タルク、マイカなどの無機充填材を含んでいてもよい。
【0018】
本発明において、破断溝形成用のコアは、所望のエアバッグドアに対応する破断溝を形成するための形状をしており、好ましくは、突端部を有する先細状に形成されていている。
【0019】
加振装置は、好ましくは、コアを進退駆動するためのシリンダに取付けられており、例えば、シリンダのピストンロッドからコアにかけてを加振する。加振装置に組み込まれている振動発生素子としては、例えば加振プレートなどが挙げられる。これに代えて、コアの進退動自体を加振的に駆動する加振シリンダを設けてもよい。この場合、シリンダ自体が加振装置を担うこととなる。
【0020】
本発明の成形方法において、好ましくは、コアの退避位置とは、コアの最先端が第2の型体の空隙規定面と同一面上に存在する位置あるいは空隙規定面よりも後退する位置をいうが、完成品のエアバッグドアに欠肉を生じない限りにおいて、破断溝形成位置よりも退避した位置であって、コアの最先端が、第2の型体の空隙規定面を超えて第1の型体に向かって延出する位置をコアの退避位置としてもよい。このような構成を採用する場合には、コアが空隙規定面から延出する長さは、好ましくはカバー体の肉厚の2分の1以下であり、より好ましくは5分の1以下であり、更に好ましくは10分の1以下である。
【0021】
好ましい実施の形態では、コアを破断溝形成位置まで変位させる工程は、樹脂材料が固化する前に行う。樹脂材料が固化する前にコアを破断溝形成位置に変位させる場合には、好ましくは、当該コアに付与する加振の周波数は5〜100Hzであり、それによって生じるコアの進退方向への振幅は9〜400μmであり、コアの進入速度は0.5〜10.0mm/sである。
【0022】
樹脂が固化する前にコアを破断溝形成位置に変位させる場合には、樹脂材料射出工程において、型体をヒータで加温することによって空隙部に存在する樹脂材料の溶融軟化状態を維持しつつ、空隙部に樹脂材料を射出するのが好ましい。特に、第1の型体および/または第2の型体における破断溝形成部位に対応する箇所およびその付近を加温することが望ましい。このような構成により、コアを破断溝形成位置に変位させる前に空隙部の樹脂材料が固化してしまうことを適切に回避することができる。このようなヒータは、ヒータが内設されたコアを第1の型体および/または第2の型体に嵌設することによって設けてもよいし、型体内に直接的に設置してもよい。また、ヒータには温度センサを付設し、温度センサの信号に基いてヒータが所定温度にコントロールされるように構成するのが望ましい。
【0023】
他の実施の形態では、コアを破断溝形成位置まで変位させる工程は、樹脂材料が固化した後に行う。樹脂材料が固化した後にコアを破断溝形成位置に変位させる場合には、好ましくは、当該コアに付与する加振の周波数は5〜100Hzであり、それによって生じるコアの進退方向への振幅は9〜400μmであり、コアの進入速度は0.5〜10.0mm/sである。
【0024】
本発明の成形方法は、更に、コアを破断溝形成位置から後退させる工程と、当該コア後退工程後に樹脂材料を冷却する工程とを含む。コアを後退させてから空隙部の樹脂材料を冷却すると、冷却過程における樹脂材料は、コアにより規制されることなく収縮することが可能となり、これにより、最終成形品において、パネル本体およびエアバッグドアの外表面が面一に連接した形状とするのを担保することができる。
【0025】
また、本発明においては、好ましくは、第1の型体は、射出成形装置の固定型取付板に支持固定された固定型であり、第2の型体は、同装置の可動型取付板に支持固定され且つ固定型に対して進退可能な可動型である。そして好ましくは、固定型には、その表面に開口し且つ空隙部に連している射出孔が設けられており、樹脂材料射出工程においては、射出装置で用意された溶融状態にある樹脂材料がこの射出孔を介して空隙部に射出される。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0027】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る射出成形用金型Aを備えた射出成形装置の一部断面図である。図1には、エアバッグドア形成領域Sおよびその付近の構成が表されている。ここでエアバッグドア形成領域Sとは、完成したインストルメントパネルにおいて破断溝により規定される部位すなわちエアバッグドアとして機能する部位に対応する領域をいうものとする。
【0028】
射出成用金型Aは、射出成形装置の固定型取付板1に固定支持される固定型3、および、固定型取付板1に対して進退可能な可動型取付板2に固定支持される可動型4を備える。固定型3には、エアバッグドア形成領域Sに対応する位置にヒータ付コア5が配設されている。ヒータ付コア5は、その露出面が固定型3の空隙規定面3aに対して面一状となるように固定型3に嵌設されている。可動型4には、エアバッグドア形成領域Sに対応する位置にエアバッグドア形成機構6が配設されている。
【0029】
エアバッグドア形成機構6は、所望形状の破断溝に対応するコア7と、このコア7を固定支持するためのコア支持板8と、この支持板8を上下動させるためのシリンダ9とを備える。このエアバッグドア形成機構6を配設するために、可動型4には、コア用貫通溝10、支持板収容室11、およびシリンダ収容室12が開設されている。
【0030】
シリンダ9は、固定型4のシリンダ収容室12に固定されており、伸縮動可能なピストンロッド9aを有する。シリンダ9の駆動方式は、油圧式および空圧式などである。ピストンロッド9aは、支持板収容室11内で支持板8に連結されている。支持板8は、ピストンロッド9aの伸縮動により、支持板収容室11内を上下動する。支持板8に支持固定されているコア7は、支持板8とともに上下動するところ、コア7の形状に対応して開設されているコア用貫通溝10内を摺動可能とされている。コア7は、シリンダ9により支持板8を介して位置決めされる。図1の断面図においては、見かけ上2本のコア7が示されているが、これらは、図外で繋がって一体のコア7を構成している。また、コア7および支持板8の運動方向がピストン伸縮方向から傾斜するのを防止するため、ピストン伸縮方向に対して平行な方向に支持板8を貫通するガイドポスト13が、支持板収容室11に固定されている。
【0031】
また、シリンダ9は、その低部に加振装置9bが取付けられて、加振シリンダとして構成されている。ただし、シリンダ9の低部に代えて、ピストンロッド9aの内部および外部に加振装置9bを取付けてもよい。加振装置9には、振動発生素子として加振プレートが組み込まれている。また、加振装置9bが発生する微小振動の周波数は調節可能とされている。
【0032】
図1に示す射出成形用金型Aは、インストルメントパネルにエアバッグを一体成形するための一連の工程における型締工程の配置をとる。型締工程においては、可動型4は、可動型取付板2と一体となって固定型3に接近し、図外の所定箇所にて固定型3に合わされる。可動型4が固定型3に対して合わされた状態すなわち型締状態において、両型の間には樹脂が充填される空間としての空隙部14が形成される。本実施形態においては、当該型締工程によって、空隙部14におけるエアバッグドア形成領域Sの幅L1は1〜5mmとされ、これに対してコア7の幅L2は0.3〜5.0mmとされている。コア7は、本工程では、シリンダ9によって退避位置に位置決めされており、待機状態にある。図1においては、コア7の先端部は先細状とされており、退避位置とはコア7の最先端が可動型4の空隙規定面4aから退避した位置をいう。このとき、内部に温度センサ(図示略)を備えるヒータ付コア5は、エアバッグドア形成領域Sおよびその近傍の金型を30〜300℃の温度範囲で加温している。
【0033】
図2は、上述の型締工程に続いて行われる樹脂材料射出工程を表す。本工程では、型締工程で形成された空隙部14に、溶融状態にある樹脂材料15が充填される。具体的には、図外の樹脂射出装置で溶融された樹脂材料15が、当該射出装置から、空隙部に連通するように固定型3に形成された図外の射出孔を介して、所定の圧力で空隙部14に射出される。このとき、コア7は上述の退避位置に待機したままとされる。そのため、樹脂材料15が空隙部14におけるエアバッグドア形成領域Sを通過する際、コア7の先端は樹脂材料15の流動の妨げとはならず、エアバッグドア形成領域Sには充分な樹脂材料15が供給される。ヒータ付コア5は、エアバッグドア形成領域Sを通過または填塞する溶融状態の樹脂材料15を100〜300℃の温度範囲で加温しており、樹脂材料15が次の破断溝形成工程以前に固化することを防止する役割を担う。
【0034】
図3は、空隙部14に樹脂材料15が充填された後に行われる破断溝形成工程を表す。本工程では、シリンダ9が、そのピストンロッド9aを伸長駆動することによって、支持板8およびこれに支持固定されるコア7を上述の退避位置から破断溝形成位置に進出させる。ここで破断溝形成位置とは、コア7の先端が、空隙部14に既に充填された樹脂材料15に押入して、インストルメントパネルの本体とエアバッグドアとの境界である破断溝を形成する位置をいう。本実施形態では、破断溝形成位置におけるコア7の先端と、ヒータ付コア5の空隙規定面との距離は、0.1〜4.0mmである。
【0035】
破断溝形成工程では、コア7は、樹脂材料15に押入するとともに、ピストン9の加振装置9bにより、加振されている。本実施形態では、加振の周波数は5〜100Hzであり、このときのコア7の進入方向の振幅は9〜400μmで、コア7の進入速度は0.5〜10.0mm/sである。図4は、破断溝形成工程において、加振されているコア7の進入を受ける樹脂の状態を説明するための図である。コア7が加振されているため、コア7の進入が予定される経路に存在してコア7の押圧を受ける樹脂材料15は、コア7の微小振動により、コア7の経路から外れる方向へ徐々に移動し、その結果、樹脂材料15の良好な分散化が図られる。図4に示すように、コア7が、突端部7aおよび先端斜面7bからなる先細状に形成されている場合には、樹脂材料15の分散化を良好に達成することができる。樹脂材料15が、コア7の進入方向に対して垂直な方向の成分を有する押圧力を、先端斜面7bから受けることができるからである。このように、樹脂材料15の局所的な高密度化を回避することによって、後述の冷却工程を経た成形品において、意匠面の平面化が担保されることとなる。
【0036】
コア7が破断溝形成位置に変位した後、ヒータ付コア5は、それまで継続していた加温動作を停止する。そして、溶融していた樹脂材料15が型崩れしない程度に固化するまで、コア7を破断溝形成位置に待機させ、空隙部14に充填された樹脂材料15を保圧する。この保圧過程の期間については、予め装置に設定しておくことによって当該期間経過後に自動的に次の工程に移るように装置を構成してもよいし、ヒータ付コア5に設けられた温度センサ(図示略)により空隙部14に充填された樹脂材料15の温度を検知し、所定温度にまで樹脂材料温度が低下したときに自動的に次の工程に移るように装置を構成してもよい。また、本実施形態では、樹脂材料15が空隙部14に完全に充填された後に破断溝形成工程が開始されるが、完全に充填される以前であっても、樹脂材料15が空隙部14におけるエアバッグドア形成領域Sを通過した後であれば、コア7を空隙部14の樹脂材料15に対して押入してもよい。このようなタイミングで破断溝形成工程を行っても、樹脂材料15は既にエアバッグドア形成領域Sに充分に供給されているため、成形されたエアバッグドアに欠肉は生じない。また、樹脂材料15は、領域S以外の空隙部14には破断溝形成位置に変位したコア7を迂回して流入可能であるので、インストルメントパネルの他の領域においても欠肉の問題は回避される。
【0037】
図5は、上述の破断溝形成工程の保圧過程に続いて行われるコア後退工程を表す。本工程では、シリンダ9が、そのピストンロッド9aを短縮駆動することによって、支持板8およびこれに支持固定されるコア7を上述の破断溝形成位置から退避位置に後退させる。本工程の後、コア7を退避位置に待機させ、空隙部14の樹脂材料15が充分に固化するまで冷却する。冷却前の樹脂材料は全領域において略同一の密度状態にあるので、冷却工程では、樹脂材料は全領域において略同一の収縮率で徐々に収縮する。なお、冷却手段としては、自然放冷でもよいし、固定型3および/または可動型4に空冷式や水冷式などの冷却機構(図示略)を設けてもよい。冷却工程の後、可動型取付板2を駆動して可動型4を固定型3から離隔して型開し、成形されたインストルメントパネルを取出す。
【0038】
本発明では、このような一連の工程のうち、上述のような破断溝形成工程に代えて、樹脂材料15が固化した後にコア7を破断溝形成位置に変位させる破断溝形成工程を行ってもよい。具体的には、空隙部14に充填された樹脂材料15を冷却して固化させた後、ピストン9の加振装置9bの作用によりコア7を加振しつつ、コア7を樹脂材料15に対して押入させる。この場合、加振の周波数を5〜100Hz、コア7の進入方向への振幅を9〜400μm、コア7の進入速度を0.5〜10.0mm/sとする。コア7が加振されているため、樹脂材料15が固化状態にあっても、当該樹脂材料15に対して良好に破断溝を形成することができる。このように、固化後の樹脂材料に対して、加振された破断溝形成用のコア7を押入することによっても、成形品において、意匠面の平面化が担保することが可能である。
【0039】
図6は、上述の一連の工程によりインストルメントパネル20に一体成形されたエアバッグドア21の一部断面斜視図である。本発明によると、インストルメントパネル20の裏面側に破断溝24が形成されることにより、鎖線で示すような形状で、他の箇所よりも薄肉の脆弱部25が形成される。この脆弱部25により規定される領域が、エアバッグドア21としてインストルメントパネルに一体的に成形されている。エアバッグドア21のうち図示されていない部分の形状は、断面を対称面として、図示されている部分の形状と略対称であるものとする(後出の図8においても同様である)。
【0040】
エアバッグドア21を規定する脆弱部25は、インストルメントパネル20の外表面ないし意匠面(図中上面)において膨らんでおらず、意匠面側では、エアバッグドア21とパネル本体が面一状に連接した形状となっている。また、本発明により成形されたエアバッグドア21は、射出成形の際の空隙部14に相応した充分な肉厚を有し、部材厚において薄肉な箇所は形成されていない。そのため、システム作動時に膨張展開しようとするエアバッグから押圧力を受けた場合には、鎖線で示された脆弱部25のみが適切に破断可能である。また、エアバッグドア21はインストルメントパネル20に対して一体成形されているため、パネル20の意匠面において隙間や段部は形成されない。従って、エアバッグドアの存在によりインストルメントパネルの外観構成が影響ないし制約を受けることはなく、インストルメントパネルの美感は損なわれない。本実施形態では、矩形郭をなす破断溝を形成することによって矩形のエアバッグドア21が成形されているが、破断溝24の形状を適宜変更することによって、円形や他の多角形のエアバッグドアを形成することもできる。また、破断溝24をコの字型に形成し、且つコの字の開放部に、破断しない程度の脆弱部を形成することにより、当該脆弱部をヒンジ部として、エアバッグドア21を片開き可能に構成してもよい。
【0041】
図7は、本発明の第2の実施形態に係る射出成形用金型Bを備えた射出成形装置の一部断面図である。射出成形用金型Bは、上述の実施形態とは異なる形状のコア7’を備えたエアバッグドア形成機構6’を具備する。このコア7’は、エアバッグドアを規定する破断溝のみならず、エアバッグドア自体を開裂可能にするような破断溝を形成するための形状を有する。即ち、図7の断面図における見かけ上3本のコア7’のうち、両側の2本がエアバッグドアを規定する破断溝形成用であり、中央の1本がエアバッグドアを開裂可能にする破断溝形成用である。ただし、本実施形態においては、これら見かけ上3本のコア7’は、図外で繋がり、一体のコア7’を構成している。そして可動型4には、このようなコア7’の形状に対応したコア用貫通溝10’が形成されている。その他の構成については、第1の実施形態に関して上述したのと同様である。
【0042】
図8は、図7に示された射出成形用金型Bを使用してインストルメントパネル30に一体成形されたエアバッグドア31の一部断面斜視図である。破断溝34aの形成によりインストルメントパネル30に脆弱部35aが形成され、破断溝34bの形成により脆弱部35bが形成されている。脆弱部35aはエアバッグドア31を規定している。このエアバッグドア31は、膨張するエアバッグから押圧力を受けた場合には、脆弱部35aの破断によりインストルメントパネル30から外れるとともに、脆弱部35bの破断により割裂する。破断溝の深さを調節して脆弱部35bを脆弱部35aよりも薄肉に形成すれば、エアバッグ膨張時に脆弱部35bが先に破断し易くなり、従って、エアバッグ用開口部の中央付近からの膨出が担保される。また、エアバッグ膨張力を受けても破断しない程度の脆弱部を、脆弱部35bに平行な脆弱部35aの代わりに形成することにより、当該脆弱箇所をヒンジ部としてエアバッグドア31を蝶開き可能に構成してもよい。脆弱部35aおよび脆弱部35bは、インストルメントパネル30の意匠面において膨らんでおらず、意匠面側では、エアバッグドア31とパネル本体が面一状に連接した形状となっている。
【0043】
以上、本発明の実施形態について助手席用エアバッグのエアバッグドアを例に挙げて説明したが、本発明はステアリング用エアバッグのエアバッグドアにも適用できる。
【0044】
【発明の効果】
本発明によると、エアバッグドアをインストルメントパネルに一体的に成形する方法において、樹脂材料の射出中または射出後であって樹脂材料が固化する前、あるいは樹脂材料が固化した後に、破断溝形成用のコアが樹脂材料に押入され、樹脂材料に破断溝の形状が型取られる。そのため、エアバッグドア形成領域に充分な樹脂材料が供給された状態で、エアバッグドアを成形することが可能となり、その結果、欠肉を生じていないエアバッグドアを備えたインストルメントパネルを製造することができる。更に本発明によると、エアバッグドアを規定する脆弱部が、インストルメントパネル意匠面において、他の部位と面一状に形成され、インストルメントパネル意匠面の美観を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る射出成形用金型を備えた射出成形装置の一部断面図である。
【図2】本発明に係るエアバッグドア成形方法における樹脂材料射出工程を表す。
【図3】本発明に係るエアバッグドア成形方法における破断溝形成工程を表す。
【図4】破断溝形成工程における樹脂の状態を説明するための図である。
【図5】本発明に係るエアバッグドア成形方法におけるコア後退工程を表す。
【図6】本発明によりインストルメントパネルに一体成形されたエアバッグドアの一部断面斜視図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る射出成形用金型を備えた射出成形装置の一部断面図である。
【図8】図7に示された射出成形用金型を用いてインストルメントパネルに一体成形されたエアバッグドアの一部断面斜視図である。
【図9】従来の方法により別体として形成されたエアバッグドアが配設されたインストルメントパネルの斜視図である。
【図10】図9に示すインストルメントパネルにおけるエアバッグドア配設箇所の一部断面斜視図である。
【符号の説明】
S エアバッグドア形成領域
3 固定型
4 可動型
5 ヒータ付コア
7,7’ コア
7a 突端部
7b 先端斜面
8 コア支持板
10,10’ コア用貫通溝
13 ガイドポスト
14 空隙部
15 樹脂材料
20,30,100 インストルメントパネル
21,31,101 エアバッグドア
24,34a,34b 破断溝
25,35a,35b 脆弱部
Claims (2)
- 第1の型体および第2の型体と、破断溝に対応する先細形状の先端部を有するコアとを備える射出成形用金型を用いてインストルメントパネルにエアバッグドアを一体成形する方法であって、
前記第1の型体と前記第2の型体とを接近させて型締を行う工程と、
前記第1の型体および前記第2の型体によって規定される空隙部に樹脂材料を射出する工程と、
前記第2の型体に摺動可能に設けられ、前記第1の型体に対して進退動可能な破断溝形成用の前記コアを、当該コアの進退方向に加振しつつ、前記第1の型体に向けて退避位置から破断溝形成位置まで変位させる工程と、を含み、
前記コアを破断溝形成位置まで変位させる工程は、前記樹脂材料が固化する前において、加振された前記コアの上記破断溝に対応する先細形状の先端部のみによって上記樹脂材料を上記空隙部に押入するようにしたことを特徴とする、エアバッグドア成形方法。 - 前記樹脂材料が型崩れしない程度に固化したときに、上記コアを破断溝形成位置から後退させるコア後退工程を更に含む、請求項1に記載のエアバッグドア成形方法。
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