JP3612094B2 - 自転車用ブレーキ装置 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、自転車のブレーキ装置とブレーキレバーとに関し、より詳しくは、ブレーキレバー体の引き操作中にブレーキレバー体の操作力が大きく変化するように構成したブレーキ装置と、そのブレーキ装置に使用するブレーキレバーとに関する。
【0002】
【従来の技術】
このようなブレーキ装置ならびにブレーキレバーとしては、例えば特開平5−16865号公報に開示のものが知られている。
まず、この公知のブレーキレバーにつき、添付の図9に基づいて説明すると、ハンドルバー1に固定のブラケット2に枢支軸32を介してブレーキレバー体3が回動可能に枢着され、かつ、このブラケット2にボルト33を介して一端が自由なコイルばね34が取り付けられ、ブレーキレバー体3を引き操作すると、一定のストローク回動した後に、ブレーキレバー体3からの延出部35がこのコイルばね34の自由端に当接するように構成されている。
したがって、この公知のブレーキレバーを使用するブレーキ装置にあっては、図10に示すように、ブレーキレバー体3を一定のストローク引き操作して延出部35がコイルばね34に当接する操作点Bにまで至ると、その後においては操作抵抗が増大して大きな操作力を必要とし、ブレーキレバー体3の操作ストロークをサイクリストが感覚的に把握できるように構成され、かつ、前記ボルト33の調節で操作点Bの位置も変更できるようになっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、この公知のブレーキレバーを使用するブレーキ装置では、ブレーキレバー体3の延出部35がコイルばね34に当接する操作点Bの前後において、図10に示すように、制動力に対するブレーキレバー体3の操作力の傾斜勾配がただ単に変化するだけであるから、起こりうるあらゆる状況に対応できるというものではなく、この点に改良の余地があった。
すなわち、上述した従来の装置においても、通常の場合であればブレーキレバー体の操作ストロークを感覚的に把握することはできる。しかしながら、非常事態に直面したような場合、サイクリストは往々にしてブレーキレバー体を無意識のうちに強く握るものであり、咄嗟にブレーキレバー体を強く握ってしまうと、制動力が一挙に上昇して車輪がロックしてしまう危険な状態となる。
【0004】
本発明は、このような従来の問題点を解決するもので、無意識のうちにブレーキレバー体を強く握ろうとも、車輪がロックすることを極力防止し得て、かつ、通常のブレーキ操作を軽い操作力で安全に行うことができ、しかも、サイクリストの体格や好みに応じてブレーキ感などを自由に変更することの可能なブレーキ装置と、そのブレーキ装置に使用するブレーキレバーの提供を目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するため、本発明によるブレーキ装置は、請求項1に記載のように、ブレーキシューによる車輪制動力がある設定値になる設定操作位置にまでブレーキレバー体の回動中心となる第1枢支軸を設け、ブレーキレバー体が設定操作位置まで第1枢支軸回りに引き操作された際に、前記ブレーキレバー体の引き操作力に抵抗力を付与してブレーキレバー体の動作を不能にするとともに、前記抵抗力より大きな引き操作力がブレーキレバー体に付与された際にストッパー作用が解除されるストッパー手段を設け、前記ストッパー手段のストッパー作用が解除された後に、ブレーキレバー体の引き操作の回動中心となる第2枢支軸を設け、ストッパー手段によって設定される設定値を変更する設定値変更手段を設けることを主たる特徴とする。
【0006】
請求項2に記載のように、前記設定値変更手段によって変更可能な前記設定値が、車輪制動力0から車輪がロックする値の範囲であることをも特徴とする。
【0007】
請求項3に記載のように、前記ブレーキレバー体にブレーキ用のインナーワイヤの連結部を設けるとともに、このブレーキレバー体を第1枢支軸を介して枢支部材に枢支連結し、この第1枢支軸を中心として前記連結部の反対側に位置する第2枢支軸を介して前記枢支部材をブレーキレバー体のブラケットに枢支連結し、前記枢支部材とブレーキレバー体との間に前記ストッパー手段を介装してあることをも特徴とする。
【0008】
請求項4に記載のように、前記ストッパー手段が、前記枢支部材に設けられたストッパー部材と、このストッパー部材に当接すべく前記ブレーキレバー体から延設の当たり部材とからなることをも特徴とする。
【0009】
請求項5に記載のように、前記ストッパー部材が、前記枢支部材に対して回動可能に設けられるとともに、その周囲に複数個の当接面を有し、これら複数個の当接面と前記ストッパー部材を回動操作する操作部とにより前記設定値変更手段を構成してあることをも特徴とする。
【0010】
また、本発明のブレーキ装置は、請求項6に記載のように、ハンドルバーに固定されるブラケットに、ブレーキレバー体を枢支する第1枢支軸を設け、前記ブラケットに、ブレーキに連結されるワイヤを保持するための取付け具を支持する揺動部材を、第2枢支軸を介して揺動自在に設け、ブレーキレバー体が設定操作位置まで第1枢支軸回りに引き操作された際にブレーキレバー体の引き操作力に抵抗力を付与するストッパー手段を設け、ストッパー手段は、ブレーキレバー体と一体に回動する操作部材と、前記揺動部材に取付けられてブレーキレバー体の引き操作に伴い操作部材が第1枢支軸回りに回動することで操作部材のカム面が当接するローラとを備え、前記抵抗力より大きな引き操作力がブレーキレバー体に付与されてローラがカム面の頂点を越えてストッパー手段のストッパー作用が解除されることで、ブレーキレバー体を第1枢支軸回りに引き操作可能とするとともに、揺動部材が第2枢支軸回りにブレーキレバー体と反対方向に回動する構成を有していることを特徴とする。
【0011】
【作用】
本発明によるブレーキ装置の主たる特徴によれば、ブレーキシューによる車輪制動力がある設定値になる設定操作位置にまでブレーキレバー体が第1枢支軸回りに引き操作されると、このブレーキレバー体に対して車輪制動力が増大する側への引き操作に抵抗力を付与してブレーキレバー体の作動を不能にするよう作用するストッパー手段を備えるものであるから、車輪制動力がある設定値になると、一旦それ以上の制動力の増大が阻止される。そして、この設定操作位置にあるブレーキレバー体に前記抵抗力より大なる引き操作力を付与すると、前記ストッパー手段によるストッパー作用が解除されて、前記ブレーキレバー体の第2枢支軸回りの引き操作による車輪制動力の増大操作を可能にするものであるから、ブレーキレバー体にある設定力よりも大きな操作力を付与し始めて、それ以上の制動力の増大が可能となるものである。
【0012】
したがって、図4に示すように、制動力がある設定値Pのまま一定で、ブレーキレバー体の操作力のみが操作点BからCへと増大する領域が生じ、操作点Cの操作力、具体的にはストッパー手段による抵抗力を適切に設定しさえすれば、例え咄嗟の場合にブレーキレバー体を強く握ろうとも一挙に車輪がロックする事態を回避することができる。
殊に、通常のブレーキ操作においては、ほとんどの場合、車輪がロックする制動力に満たない力でブレーキを掛けるものであり、かかる現状を踏まえた上で、前述の設定値Pを車輪がロックする制動力よりも若干低く設定すれば、例え操作点Bに至るまでのブレーキレバー体の操作力を大幅に軽くしたとしても車輪のロックを回避して、安全に軽くブレーキ操作を行うことができ、それでいて必要によっては、操作点Cに示す以上の操作力で設定値P以上の制動力を得ることもできる。
【0013】
その上、前記ストッパー手段によって設定される前記設定値の値を変更する設定値変更手段を設けるものであるから、サイクリストの体重などに応じて設定値を変更することで、種々の条件に対応して使用することができる。
つまり、車輪がロックする制動力は、サイクリストの体格、特に体重によって左右され、さらに、坂道を上る場合と下る場合などのように、各種の条件によって微妙に異なるものである。かかる場合、必要に応じて、前記設定値変更手段で設定値を変更することにより、種々の条件に合致した状態での使用が可能となり、また、サイクリストの好みに応じて所望の設定値にして使用することもできるのである。
【0014】
請求項2に記載の特徴によれば、前記設定値変更手段によって変更可能な前記設定値が、車輪制動力0から車輪がロックする値の範囲であるから、サイクリストの体重や走行条件に対応して幅の広い範囲から選択して使用することができるのみならず、図5に示すようなブレーキ性能や図6に示すようなブレーキ性能での使用も可能で、例えばサイクリストの握力に応じて最適な状態で使用することができる。
【0015】
請求項3に記載の特徴によれば、前記ブレーキレバー体にブレーキ用のインナーワイヤの連結部を設けるとともに、このブレーキレバー体を第1枢支軸を介して枢支部材に枢支連結し、この第1枢支軸を中心として前記連結部の反対側に位置する第2枢支軸を介して前記枢支部材をブレーキレバー体のブラケットに枢支連結し、前記枢支部材とブレーキレバー体との間に前記ストッパー手段を介装するものであるから、通常ブレーキ側に設けられているリターンばねの弾性力を利用してブレーキ装置を所望通りに作動させることができ、特別なばねを設ける必要もなく、構造の簡素化を図ることができる。
【0016】
請求項4に記載の特徴によれば、前記ストッパー手段が、前記枢支部材に設けられたストッパー部材と、このストッパー部材に当接すべく前記ブレーキレバー体から延設の当たり部材とからなるものであるから、構造が比較的簡単で、例えば、ストッパー部材を枢支部材と一体的に形成したり、また、当たり部材をブレーキレバー体と一体的に形成することも可能で、このストッパー手段を極力簡単な構造にしながら、しかも、ブレーキレバー体のストッパー作用を確実に実行することができる。
【0017】
請求項5に記載の特徴によれば、前記ストッパー部材が、前記枢支部材に対して回動可能に設けられるとともに、その周囲に複数個の当接面を有し、これら複数個の当接面と前記ストッパー部材を回動操作する操作部とにより前記設定値変更手段を構成するものであるから、このストッパー部材をしてストッパー手段の構成部材と設定値変更手段の構成部材とに兼用することができ、この部材の兼用化により、さらに構造の簡素化を図ることができる。
【0018】
また、請求項6に記載の特徴によれば、前記抵抗力より大きな引き操作力がブレーキレバー体に付与されてローラがカム面の頂点を越えてストッパー手段のストッパー作用が解除されることで、ブレーキレバー体を第1枢支軸回りに引き操作可能とするとともに、揺動部材が第2枢支軸回りにブレーキレバー体と反対方向に回動する構成を有するものであるから、ブレーキレバー体に対する操作力を増加してローラがカム面の頂点を越えると、ブレーキレバー体が回動を再開すると同時に、揺動部材がブレーキレバー体とは逆方向に回動してストロークエンドとなる。そして、ブレーキレバー体に対する操作部材の固定位置を変更し、カム面の位置を変更することにより、設定値を無段階に変更調節することができる。
【0019】
【発明の効果】
以上のように、本発明によるブレーキ装置の主たる特徴によれば、制動力がある設定値のまま一定で、ブレーキレバー体の操作力のみが増大する領域が存在するので、ストッパー手段による抵抗力を適切に設定することで、例え咄嗟の場合にブレーキレバー体を強く握ろうとも一挙に車輪がロックする事態を回避することができ、それによって、通常のブレーキ操作を軽く行うことができ、必要によっては、前記設定値以上の制動力を得ることも可能で、さらに、サイクリストの体重差などの種々の条件に対応して、前記設定値を変更して使用することができる。
【0020】
請求項2に記載の特徴によれば、前記設定値を幅の広い範囲から選択して使用することができるのみならず、図5や図6に示すような従来と同じブレーキ性能での使用も可能で、その場合、サイクリストの握力に応じて最適な状態で使用することができる。
【0021】
請求項3に記載の特徴によれば、通常ブレーキ側に設けられているリターンばねの弾性力を利用することで、構造の簡素化を図ることができる。
【0022】
請求項4に記載の特徴によれば、ストッパー手段を極力簡単な構造にしながら、所望通りのストッパー作用を確実に実行することができる。
【0023】
請求項5に記載の特徴によれば、ストッパー部材をしてストッパー手段と設定値変更手段との構成部材に兼用することができ、さらに構造の簡素化を図ることができる。
【0024】
請求項6に記載の特徴によれば、ブレーキレバー体に対する操作力を増加してローラがカム面の頂点を越えると、ブレーキレバー体が回動を再開すると同時に、揺動部材がブレーキレバー体とは逆方向に回動する。そしてブレーキレバー体に対する操作部材の固定位置を変更し、カム面の位置を変更することにより、設定値を無段階に変更調節することができる。
【0025】
【実施例】
本発明による自転車用ブレーキ装置とブレーキレバーの第一の実施例を図1から図3に基づいて説明する。
図外自転車のハンドルバー1に固定して使用するブレーキレバーは、ハンドルバー1に固定するためのブレーキレバー用のブラケット2や、このブラケット2に回動操作可能に取り付けられたブレーキレバー体3などからなり、前記ブラケット2には、ブレーキワイヤ4のアウターワイヤ4bを保持する取付具5が螺着されている。
前記ブレーキレバー体3は、ブラケット2に直接枢支されるのではなく、第1枢支軸6を介して枢支部材7に回動可能に枢支連結され、さらに、この枢支部材7が、第2枢支軸8を介してブラケット2に回動可能に枢支連結されている。
【0026】
前記第1枢支軸6よりもブレーキレバー体3の握り部3a側で、かつ、この第1枢支軸6を中心として前記第2枢支軸8の反対側のブレーキレバー体3部分には、ブレーキワイヤ4のインナーワイヤ4aを連結するための連結部として作用する貫通孔9が穿設され、このブレーキレバー体3の貫通孔9に取付具10を介してインナーワイ4aが連結され、このインナーワイヤ4aの他端が、通常のカンチブレーキ11に連動連結されていて、後述するように、ブレーキレバー体3の握り部3aを握ってブレーキレバー体3を引き操作すると、カンチブレーキ11のブレーキシュー12が後車輪13のリムの両側に押圧作用し、この後車輪13にブレーキを掛けるように構成されている。
そして、ブレーキレバー体3を離すと、従来のブレーキ装置と同様に、カンチブレーキ11側に設けられた図外のリターンばねにより、ブレーキレバー体3が元の位置に弾性復帰するように構成されている。
【0027】
前記枢支部材7のうち、第1枢支軸6と第2枢支軸8との中間部には、回動軸14が回動自在に取り付けられ、この回動軸14には、その周囲に複数個の当接面15aを有するストッパー部材15と、ギヤ16とが固着されている。
他方、ブレーキレバー体3の方には、前記ストッパー部材15側に向けて延出する当たり部材3bが一体的に設けられ、ブレーキレバー体3を第1枢支軸6の周りに一定角度回動させると、この当たり部材3bが、ストッパー部材15の当接面15aのいずれかひとつに当接して、一時的にブレーキレバー体3のそれ以上の回動操作を阻止するようになっている。
つまり、後に詳しく説明するように、ストッパー部材15や当たり部材3bから構成されるストッパー手段17の作用で、ブレーキレバー体3の回動操作が一時的に阻止されるのである。
【0028】
前記第2枢支軸8は、ブラケット2に回動可能に保持され、この第2枢支軸8には、第1枢支軸6のギヤ16に噛み合う別のギヤ18が固着され、ブラケット2から突出する部分につまみ状の操作部19が取り付けられている。
そして、この操作部19を回動操作することにより、両ギヤ16,18を介して第1枢支軸6を回動し、この第1枢支軸6に固着のストッパー部材15を回動して、ブレーキレバー体3の当たり部材3bが当接する当接面15aを自由に選択できるように構成されている。
つまり、ストッパー部材15の当接面15aや操作部19などにより、後に詳しく説明する設定値変更手段20が構成されている。
【0029】
つぎに、この第一実施例によるブレーキ装置の作用について説明すると、ブレーキワイヤ4のインナーワイヤ4aは、通常、カンチブレーキ11側に設けられたリターンばねによって図1に示す矢印方向に引っ張られている。
したがって、ブレーキレバー体3は、第1枢支軸6を中心として図1の反時計方向へ回動されるが、ブレーキレバー体3の当接面3cが断面形状コの字形の枢支部材7の内側面7aに当接し、かつ、この枢支部材7の外側面7bがブラケット2に設けられた移動阻止面2aに当接するように構成されているため、通常、この図1に示す状態に維持されている。
【0030】
この状態から、ブレーキレバー体3の握り部3aを握って引き操作すると、まずブレーキレバー体3は第1枢支軸6を中心として回動し、その操作力がインナーワイヤ4aを介してカンチブレーキ11に伝達され、ブレーキシュー12が後車輪13のリム側に移動する。
最初はいわゆる空引きの状態で、ブレーキシュー12がリムに当接するまでの間はほとんど操作力を必要としない。しかし、図4に示すように、ブレーキシュー12がリムに当接した操作点Aから徐々に操作力が増加し、それに比例して制動力も増大する。さらにブレーキレバー体3を引き操作すると、このブレーキレバー体3から延出の当たり部材3bがストッパー手段17を構成するストッパー部材15の当接面15aのいずれかに当接して図4に示す操作点Bに至る。
【0031】
すると、ブレーキレバー体3の第1枢支軸6周りでのそれ以上の回動が阻止されるので、このブレーキレバー体3は、第2枢支軸8を中心として時計方向に回動しようとする。ところが、第1枢支軸6からインナーワイヤ4aまでの距離よりも、第2枢支軸8からインナーワイヤ4aまでの距離の方が長いので、インナーワイヤ4aの引張力に起因する回転モーメントが急に大きくなり、操作点Bの位置からさらにブレーキレバー体3を引き操作しようとしても、単に操作力が増加するのみでブレーキレバー体3は回動せず、制動力も横這いの状態となる。
さらにブレーキレバー体3に対する操作力を増加して操作点Cに至ると、図2に示すように、ブレーキレバー体3は、枢支部材7と一体的に第2枢支軸8を中心として回動し、この回動再開後においては、操作力の増加に比例して制動力も増大してストロークエンドDにまで至る。
【0032】
すなわち、ブレーキシュー12による後車輪13の制動力がある特定の設定値Pになる設定操作位置Bにまでブレーキレバー体3を引き操作すると、ストッパー手段17の作用によって、一旦それ以上の制動力の増大を不能にする。
しかし、その後において、さらにブレーキレバー体3に操作力を付与すると、再びブレーキレバー体3の引き操作が可能となり、換言すると、ストッパー手段17のストッパー作用が解除されて、制動力が設定値P以上に増大するのである。
【0033】
この場合、前記設定値Pを後車輪13がロックするロック制動値Qよりも若干低い値に設定しておくと、ブレーキレバー体3の操作を非常に軽く操作できるように設計することが可能となる。
詳述すると、ブレーキレバー体3はできるだけ軽く操作できるのが好ましいのであるが、ただ単に軽くするだけでは咄嗟の場合にブレーキレバー体3を無意識のうちに強く引き過ぎると、一挙に制動力がロック制動値Q以上になり、非常に危険な状態となる。
その点、本発明のブレーキ装置にあっては、図4の操作点Bから操作点Cに示すように、制動力は設定値Pのまま一定でブレーキレバー体3の操作力のみが増大する領域があるので、この設定値Pをロック制動値Qよりも若干低く設定することにより、例え操作点Aから操作点Bまでのブレーキレバー体3の操作力を大幅に軽くしたとしても、制動力が一挙にロック制動値Qに至ることを防止することができる。
さらに、場合によってはロック制動値Q以上の制動力を必要とすることもあり、かかる場合には、多少大きな操作力を要するが、操作点Cに示す以上の操作力を付与すれば、確実にロック制動値Q以上の制動力を得ることもできる。
【0034】
このロック制動値Qの値はサイクリストの体格、特に体重によって左右され、さらに、坂道を上る場合と下る場合などのように、各種の条件によって微妙に異なるものであるから、必要に応じて、設定値変更手段20を構成する操作部19を回動し、前記設定値Pを所望の値に変更するのである。
つまり、操作部19の回動に伴って回動するストッパー部材15の各当接面15aは、その回動軸14の中心からの距離がそれぞれ異なっているため、当接面15aを選択することで、ブレーキレバー体3の当たり部材3bがその当接面15aに当接するまでのブレーキレバー体3の回動角度、つまり、図4に示す操作点Bの位置を変えて、前記設定値Pを所望の値に変更することができる。
【0035】
このようにして、サイクリストの体重や使用条件に対応するように設定値Pを変更調節することができるのであるが、前記当接面15aのうち、回動軸14の中心からの距離が最も短いものは、ブレーキレバー体3を引き操作して当たり部材3bがこの当接面15aに当接する前にストロークエンドDに至るように設定されている。
したがって、この場合には、図5に示すようなブレーキ性能となり、ストロークエンドDに至るまでの間に図4に示すような操作点Bも操作点Cも存在せず、従来と同じような感覚でのブレーキ操作が可能となる。
さらに、この図1から図3に示す実施例においては特に設けてはいないが、回動軸14の中心からの距離を長くしてブレーキレバー体3の引き操作の当初から、当たり部材3bが当接する当接面15aを設けることもでき、この場合には、図6に示すようなブレーキ性能となり、図5に示すよりも若干重い感じでのブレーキ操作が可能となる。
【0036】
つぎに、本発明による自転車用ブレーキ装置とブレーキレバーの第二の実施例と第三の実施例について説明するが、第一の実施例と同じ部品や同じ作用を有する部品については、同じ符号を付すことによって詳細な説明を省略し、極力重複説明を避けることにする。
【0037】
第二の実施例は図7に示すもので、ブレーキレバー体3は、枢支軸21を介してブラケット2に直接枢支連結されている。しかし、この枢支軸21は、ブラケット2に穿設の長孔22内に係入され、この長孔22に沿って移動できるように構成されるとともに、この枢支軸21とブラケット2との間に介装されたコイルばね23によって図中の矢印方向に弾性付勢されている。
そして、この枢支軸21を中心としてインナーワイヤ4aの取付具10と反対側のブレーキレバー体3部分には、ピン24が突設され、ブラケット2側には、前記ピン24が当接するボルト25が螺合されていて、これらピン24やボルト25などによりストッパー手段17が構成されるとともに、前記ボルト25などにより設定値変更手段20が構成されている。
【0038】
この第二の実施例においても、いわゆる空引きの状態と、ブレーキシュー12がリムに当接した操作点Aから徐々に操作力が増加する間は、ブレーキレバー体3が枢支軸21を中心として回動し、このブレーキレバー体3の引き操作に比例して制動力も増大する。さらにブレーキレバー体3を引き操作すると、このブレーキレバー体3に突設したピン24がブラケット2側のボルト25に当接し、図4に示す操作点Bに至る。
すると、ブレーキレバー体3の枢支軸21周りでのそれ以上の回動が阻止され、今まで枢支軸21を中心として回動していたブレーキレバー体3が、急にピン24を中心として回動しようとし、第一の実施例と全く同じ作用で、操作点Bの位置からさらにブレーキレバー体3を引き操作しようとしても、単に操作力が増加するのみでブレーキレバー体3は回動せず、制動力が横這いの状態となる。
【0039】
さらにブレーキレバー体3に対する操作力を増加して操作点Cに至ると、ブレーキレバー体3がピン24を中心として、かつ、枢支軸21も一緒に長孔22に沿って回動を再開して、ストロークエンドDに至るのである。
そして、この第二の実施例においては、ボルト25の調節により設定値Pを無段階に変更調節することができ、ボルト25を引っ込めてピン24から大きく離したり取り外したりすることで、図5に示すようなブレーキ性能となり、また、ボルト25を大きく突出させて、ブレーキレバー体3の引き操作の当初からボルト25をピン24に当接するように設定することで、図6に示すようなブレーキ性能を得ることもできる。
その上、枢支軸21を弾性付勢しているコイルばね23にプリロードを掛けておけば、操作点Cの位置を図4の右側へずらせることも、また、コイルばね23を弾性力の異なるものと取り替えることにより、操作点CからストロークエンドDに至るまでの傾斜を変更することもできる。
【0040】
第三の実施例は図8に示すもので、このブレーキレバー体3も枢支軸(第1枢支軸)26を介してブラケット2に直接枢支連結されているが、先の第二の実施例とは異なり、この枢支軸26は、ブラケット2に対して相対移動不能に構成されている。この枢支軸26の近くのブレーキレバー体3には、枢支軸26を中心として一定の半径Rを有する円弧状の第1カム面27aがブレーキレバー体3と一体的に形成されるとともに、この枢支軸26の周りに回動可能で、かつ、ブレーキレバー体3に対して固定可能な操作部材28が設けられている。この操作部材28には、第1カム面27aの半径Rよりも長い距離を有し、かつ、徐々にその距離が長くなるインボリュート曲線状の第3のカム面27cと、この第3のカム面27cとブレーキレバー体3側の第1カム面27aとを結ぶ突起状の第2カム面27bとが設けられ、これら3つのカム面27a,27b,27cで連続するひとつのカム面を形成するように構成されている。
【0041】
他方、ブラケット2には、ブレーキレバー体3の枢支軸26とは別の枢支軸(第2枢支軸)29によって揺動部材30が回動可能に枢着され、この揺動部材30に螺着した取付具5にアウターワイヤ4bが取り付けられていて、このアウターワイヤ4bの反力によって揺動部材30が枢支軸29を中心として前記カム面側に揺動付勢されている。そして、この揺動部材30には、前記カム面に当接しカムフォロアとして作用するローラ31が回転可能に枢着され、このローラ31や前記カム面27a,27b,27cなどによりストッパー手段17が構成され、前記操作部材28などにより設定値変更手段20が構成されている。
【0042】
この第三の実施例においては、いわゆる空引きの状態と、ブレーキシュー12がリムに当接した操作点Aから徐々に操作力が増加する間は、ローラ31が第1カム面27aに摺接していて、特に揺動部材30が揺動することもなく、ブレーキレバー体3の引き操作に比例して制動力も増大する。さらにブレーキレバー体3を引き操作すると、このブレーキレバー体3と一体的に回動する操作部材28の第2カム面27bが前記ローラ31に当接して図4に示す操作点Bに至る。
ところが、このローラ31を枢着する揺動部材30には、アウターワイヤ4bの反力によってカム面側に揺動しようとする力が作用しており、かつ、第2カム面27bも第1カム面27aから急に外側へ突出した形状となっているため、この操作点Bの位置からさらにブレーキレバー体3を引き操作しようとしても、単に操作力が増加するのみでブレーキレバー体3は回動せず、したがって、制動力も横這いの状態となる。
【0043】
さらにブレーキレバー体3に対する操作力を増加してローラ31が第2カム面27bの頂点を越えると、つまり、図4の操作点Cに至ると、ブレーキレバー体3が回動を再開すると同時に、第3カム面27cがローラ31を介して揺動部材30をブレーキレバー体3とは逆の方向に強制的に回動させて、ストロークエンドDに至る。
そして、この第三の実施例においては、ブレーキレバー体3に対する操作部材28の固定位置を変更し、第1カム面27aに対する第2カム面27bと第3カム面27cとの位置を変更することによ設定値Pを無段階に変更調節することができ、操作部材28をローラ31の反対側へ大きく離して固定することで、図5に示すようなブレーキ性能となり、また、操作部材28をローラ31側へ回動固定して、ブレーキレバー体3の引き操作の当初から第2カム面27bをローラ31に当接するように設定することで、図6に示すようなブレーキ性能を得ることができる。
【0044】
〔別実施例〕
以上、第一から第三の実施例に基づいて具体的な構造を説明したが、実際の実施にあたってはその他に色々な改変が考えられ、その一例を下記すると、実施例としては、カンチブレーキ11を例として説明したが、ブレーキそのものは特に特定されるものではなく、バンドブレーキでもコースタブレーキでも、その他種々のブレーキでも実施可能である。
また、第一から第三の実施例においては、ストッパー手段17や設定値変更手段20をブレーキレバーそのものに設けた構造のものを示したが、ブレーキレバーとしては通常のものを用いて、前記ストッパー手段17や設定値変更手段20をカンチブレーキ11などのブレーキ側に設けて実施することもできる。
【0045】
第一の実施例において、ストッパー部材15の周面に複数個の当接面15aを形成して、設定値Pを段階的に変更調節するものを示したが、ストッパー部材15の周面を連続する当接面にして設定値Pを無段階に変更調節できるようにして実施することもできる。
逆に、第二の実施例において、ボルト25の代わりに、ブラケット2に対して複数段に突出量を変更できる棒状体を用いたり、第三の実施例において、ブレーキレバー体3に対し操作部材28を複数箇所で固定できるようにし、設定値Pを段階的に変更調節できるように構成して実施することもできる。
【0046】
尚、特許請求の範囲の項に図面との対照を便利にするために符号を記すが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【図1】自転車用ブレーキ装置の第一の実施例を示す一部切り欠き平面図
【図2】同じく第一の実施例を示す一部切り欠き平面図
【図3】第一の実施例を示す縦断側面図
【図4】第一の実施例のブレーキ性能を示すグラフ
【図5】同じく第一の実施例のブレーキ性能を示すグラフ
【図6】同じく第一の実施例のブレーキ性能を示すグラフ
【図7】第二の実施例を示す一部切り欠き平面図
【図8】第三の実施例を示す一部切り欠き平面図
【図9】従来のブレーキ装置を示す一部切り欠き平面図
【図10】従来のブレーキ装置のブレーキ性能を示すグラフ
【符号の説明】
2 ブラケット
3 ブレーキレバー体
3b 当たり部材
4a インナーワイヤ
6 第1枢支軸
7 枢支部材
8 第2枢支軸
9 インナーワイヤの連結部
12 ブレーキシュー
15 ストッパー部材
15a 当接面
17 ストッパー手段
19 操作部
20 設定値変更手段
B 設定操作位置
P 設定値
Claims (6)
- ブレーキシューによる車輪制動力がある設定値になる設定操作位置にまでブレーキレバー体の回動中心となる第1枢支軸を設け、
前記ブレーキレバー体が設定操作位置まで第1枢支軸回りに引き操作された際に、ブレーキレバー体の引き操作力に抵抗力を付与してブレーキレバー体の動作を不能にするとともに、前記抵抗力より大きな引き操作力がブレーキレバー体に付与された際にストッパー作用が解除されるストッパー手段を設け、
前記ストッパー手段のストッパー作用が解除された後に、ブレーキレバー体の引き操作の回動中心となる第2枢支軸を設け、
前記ストッパー手段によって設定される設定値を変更する設定値変更手段を設けてある自転車用ブレーキ装置。 - 前記設定値変更手段によって変更可能な前記設定値が、車輪制動力0から車輪がロックする値の範囲である請求項1記載の自転車用ブレーキ装置。
- 前記ブレーキレバー体にブレーキ用のインナーワイヤの連結部を設けるとともに、このブレーキレバー体を、第1枢支軸を介して枢支部材に枢支連結し、この第1枢支軸を中心として前記連結部の反対側に位置する第2枢支軸を介して前記枢支部材をブレーキレバー体のブラケットに枢支連結し、前記枢支部材とブレーキレバー体との間に前記ストッパー手段を介装してある請求項1または請求項2記載の自転車用ブレーキ装置。
- 前記ストッパーが、前記枢支部材に設けられたストッパー部材と、このストッパー部材に当接すべく前記ブレーキレバー体から延設の当り部材とからなる請求項3記載の自転車用ブレーキ装置。
- 前記ストッパー部材が、前記枢支部材に対して回動可能に設けられるとともに、その周囲に複数個の当接面を有し、これら複数個の当接面と前記ストッパー部材を回動操作する操作部とにより前記設定値変更手段を構成してある請求項4記載の自転車用ブレーキ装置。
- ハンドルバーに固定されるブラケットに、ブレーキレバー体を枢支する第1枢支軸を設け、前記ブラケットに、ブレーキに連結されるワイヤを保持するための取付け具を支持する揺動部材を、第2枢支軸を介して揺動自在に設け、
ブレーキレバー体が設定操作位置まで第1枢支軸回りに引き操作された際にブレーキレバー体の引き操作力に抵抗力を付与するストッパー手段を設け、
ストッパー手段は、ブレーキレバー体と一体に回動する操作部材と、前記揺動部材に取付けられてブレーキレバー体の引き操作に伴い操作部材が第1枢支軸回りに回動することで操作部材のカム面が当接するローラとを備え、
前記抵抗力より大きな引き操作力がブレーキレバー体に付与されてローラがカム面の頂点を越えてストッパー手段のストッパー作用が解除されることで、ブレーキレバー体を第1枢支軸回りに引き操作可能とするとともに、揺動部材が第2枢支軸回りにブレーキレバー体と反対方向に回動する構成を有していることを特徴とする自転車用ブレーキ装置。
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