JP3610452B2 - 地中連続壁防水工法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、地下構造物のコンクリート外壁面と接することになる地中連続壁の防水工法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
非加硫ブチルゴムと総称されるブチル再生合成ゴムは、生コンクリートと接触したときセメントの硬化反応に伴ってセメントと反応することにより、硬化後のコンクリート構造物にタイトに接着する機能を有していることが知られている。この非加硫ブチルゴムの接着機能は、地下構造物におけるコンクリート外壁の防水に有効に活用できることが期待され、特許第2849336号公報には、山留壁にこの種のゴムシートを先付けした後、生コンクリートをこのゴムに接触するように打設する地下外壁の防水施工法が提案されている。また同公報には、非加硫ブチルゴムシートは容易に塑性変形するため、下地である山留壁の凹凸に対しても簡単に追従することが記載されている(同公報段落0014)。
【0003】
しかし、上記特許第2849336号公報には、当該ゴムシートをそのまま直接山留壁に先付けする工法を実施した具体例は示されていない。もし実際にそのような工法を実施したとすれば、壁面から湧き出してくる水に対する排水が不十分となり、壁面とゴムシートの間を流れる水の圧力が高くなった部分でゴムシートが膨れたり、場合によってはゴムシートに亀裂が生じて水漏れしたり、あるいはゴムシートの継ぎ目部分から水漏れするといったトラブルが発生することが予想される。このため、非加硫ブチルゴムシートを山留壁に先付けする工法においては、下地の壁面とゴムシートの間に何らかの排水手段を設けることが必要となる。
【0004】
上記特許第2849336号公報においては、そのような排水手段として、山留壁と非加硫ブチルゴムシートとの間に排水性能および緩衝性能を有する補強シートを挟む手法が提案されており、その補強シートとしては、不織布やポリエチレン発泡体が好ましいと教示されている。具体的な施工例として、非加硫ブチルゴムシートと補強シートを予め接合してある「複合シート」を準備し、この複合シートを、補強シート側が山留壁に接するように、山留壁に機械的に固定する方法が開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記の「複合シート」を山留壁に先付けする工法を採用すれば、山留壁から湧き出してくる水は補強シートの層を伝わって排水され、しかも非加硫ブチルゴムシートは地下外壁を構成するコンクリートとタイトに接着するため、地下構造物に対して非常に優れた防水性能を付与することが可能となる。
【0006】
しかしながら、この複合シートを先付けする工法にも、次のような問題点がある。
▲1▼複合シートは、ゴムシート単体に比べぶ厚くかつ重いので、通常、長尺シートの状態で山留壁に取り付けることが困難である。そのため、予めパネル状の複合シートを多数準備し、これを割り付けに従って山留壁に隙間なく取り付けなくてはならず、手間がかかる。
▲2▼複合シートのパネルは比較的ぶ厚く、しかも端部には防水能のない補強シートが露出しているため、山留壁に取り付ける際に隣接するパネル同士が一部重なるような施工をすると、その継ぎ目部での防水能を確保することが難しくなる。このため通常は、隣接するパネル同士が重ならないように両者の端部を接して並べるように施工するが、この場合にはパネルに高い寸法精度が要求される。
▲3▼またその場合、例えば図1に示すように、排水性補強シート30aと非加硫ブチルゴムシート30bからなる複合シートパネル30を山留壁32に取り付けた後、隣接する複合シートパネル30の継ぎ目部は、非加硫ブチルゴムの帯状パッチ材31をあとから張り付ける等して防水処理する必要があり、手間がかかる。
▲4▼さらに、▲3▼の方法で防水処理した場合であっても、下地の山留壁の凹凸形状によっては、打設した生コンクリートの圧力等で複合シートパネル30の継ぎ目部に狂いが生じ、帯状パッチ材31によって本来確保されるべき水密性が破れる場合もあり得る。
【0007】
実際の施工現場からは、非加硫ブチルゴムシートを山留壁に先付けする地中連続壁防水工法において、上記のような問題点のない、より簡便で信頼性の高い防水工法の確立が強く望まれているところである。もし、非加硫ブチルゴムシートを素材のまま直接(つまり、該ゴムシートの下地に別の材料層を設けたり、予め複合シートの状態にしたりすることなく直接)山留壁に取り付ける工法が実施可能になれば、上記▲1▼〜▲4▼の問題点は一挙に解消するであろう。ただしそれには、前述のとおり、下地の壁面から湧き出してくる水の排水処理に関わる問題を克服しなくてはならない。
本発明は、まさにこの点を克服し、非加硫ブチルゴムシートを素材のまま直接山留壁に先付けする簡便かつ確実な地中連続壁防水工法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、非加硫ブチルゴムシートを素材のまま直接山留壁に取り付ける場合の排水処理に関し種々検討を重ねてきた。その結果、以下の知見を得るに至った。
i)ゴムシートを下地壁面に接着して固定しない場合、壁面から湧き出した水は、生コンクリートを打設したときの圧力を受けた状態においても、ゴムシートと下地の壁面の間を比較的自由に通れること。
ii)その水は、ゴムシートと下地壁面の間を通って流れている限り、換言すればゴムシートと下地壁面の間にとどまって行き場をなくしてしまわない限り、内圧が高まってゴムシートの水密性が破れることはないこと。
iii)そして、水の行き場を確保するために、ゴムシートと下地壁面の間に部分的にメッシュパイプを挿入して排水経路を形成しておけば、壁面から湧き出した水はシートと壁面の間を伝わってメッシュパイプに導かれて排水されること。
【0009】
つまり、ゴムシートと下地壁面の間の全面を特段の通水層で覆いつくす必要はないのであって、部分的に導水用のメッシュパイプを挿入したうえでゴムシートを素材のまま直接山留壁に先付けするという簡便な手法によって、山留壁の壁面全体に湧き水の排水能を持たせることができることが明らかになったのである。本発明はこの知見に基づいて完成された。
【0010】
すなわち上記目的を達成するために、請求項1の発明は、山留壁の壁面の一部に、該壁面に沿ってメッシュパイプを下端が排水経路につながるように上下方向に設置したのち、山留壁を前記メッシュパイプの外側から生コンクリートと反応接着する非加硫ブチルゴムシートで覆い、前記非加硫ブチルゴムシートを素材のまま直接山留壁面に取り付ける地中連続壁防水工法である。
【0011】
ここで、メッシュパイプとは、パイプの側面の全体または大部分が網目状あるいはそれに近い透水構造になっているパイプであって、パイプの周囲の水がパイプの側面を通じて容易にパイプ中に流入できる構造のものをいう。また、山留壁の壁面の一部にメッシュパイプを設置するとは、その壁面の大部分(少なくとも面積率で50%以上)がメッシュパイプの設置されていない素地のままであることを意味する。排水経路は、予め導水計画を行って水が排出できるよう設けられた水の流路であり、例えば、山留壁下端部の床面に設けられた溝であって排水孔に通じるものや、山留壁下端部付近に直接設けられた排水孔等である。上下方向に設置するとは、パイプの長手方向が重力の方向になるようにパイプを竪向きに設置することを意味する。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、側面間距離0.1m以下の間隔で並べられた2本以上のメッシュパイプからなるメッシュパイプ群(以下、単に「群」ということがある)を少なくとも1箇所以上形成させるようにして、山留壁の壁面の一部にメッシュパイプを設置するものである。壁面に設置されるメッシュパイプには、群を構成しない単独のメッシュパイプが含まれていてもよい。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、山留壁高さの0.2倍以上の長さのメッシュパイプ、または山留壁高さの0.2倍以上の長さのメッシュパイプを含むメッシュパイプ群を、1〜20mの水平方向距離を開けて設置するものである。すなわち、ここでいう水平方向距離には次の3態様がある。▲1▼群を構成しない単独のメッシュパイプと、群を構成しない他の単独のメッシュパイプの側面間の距離、▲2▼群を構成しない単独のメッシュパイプと、群を構成するメッシュパイプであって当該群の中で最も前記単独のメッシュパイプ側に位置するものの側面間の距離、▲3▼第1の群を構成するメッシュパイプであって隣の第2群に最も近い位置にあるものと、前記第2群を構成するメッシュパイプであって前記第1群に最も近い位置にあるものの側面間の距離。
【0014】
請求項4の発明は、使用するメッシュパイプの外径が10〜50mmのメッシュパイプを使用する点を規定したものである。
請求項5の発明は、使用するメッシュパイプが特にポリエステルの剛毛糸を編んで形成したものである点を規定したものである。
【0015】
請求項6の発明は、山留壁の壁面が、長手方向が上下方向になるように配置された複数のH型鋼の鋼材面と、各H型鋼の間を埋めるソイル面からなるものである点を規定したものである。
【0016】
請求項7の発明は、請求項6の発明において非加硫ブチルゴムシートを山留壁に固定する方法を規定したものであり、山留壁を非加硫ブチルゴムシートで覆うに際し、予め山留壁の壁面を構成するH型鋼の鋼材面にセパレーターを取り付けるための突起金具を取り付けておき、非加硫ブチルゴムシートの前記突起金具にあたる位置に小孔を開け、その小孔に突起金具を通して該ゴムシートを突起金具の付け根まで押し込むことにより該ゴムシートを山留壁に固定するというものである。
【0017】
請求項8の発明は、請求項7の工法において、非加硫ブチルゴムシートを突起金具の付け根まで押し込んだのち、該ゴムシートの小孔と突起金具の間の隙間部をカバーするように防水性シーリング材を塗布し、さらにその外側から、生コンクリートと反応接着する非加硫ブチルゴムからなる小孔の開いたパッチ材を、その小孔に突起金具が通るようにして押し込んで前記ゴムシートに張り付け、前記ゴムシートと該パッチ材の間に前記シーリング材が充填されるようにすることによって、前記ゴムシートと突起金具の間の水密性を確保する点を規定したものである。
【0018】
請求項9の発明は、請求項7または8の工法において、下地の壁面がソイル面である部分に、山留壁を覆った非加硫ブチルゴムシートの外側から、生コンクリートと反応接着する非加硫ブチルゴムからなる板状片を介して釘または鋲を打ち付けることにより該ゴムシートの山留壁への固定を補強する点を規定したものである。
【0019】
請求項10の発明は、請求項9の工法において、釘または鋲と前記板状片の間の隙間部をカバーするように防水性シーリング材を塗布するものである。
【0020】
請求項11の発明は、請求項8または10に記載の防水性シーリング材が非加硫ブチルゴムを基材としたものである点を規定したものである。
【0021】
請求項12の発明は、山留壁とメッシュパイプの間に透水性の不織布を挟むものである。
請求項13の発明は、メッシュパイプを山留壁の壁面に設置するに際し、メッシュパイプの外側から山留壁を覆ったビニールシートを山留壁に機械的に固定する点を規定したものである。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明では、山留壁の壁面の一部にメッシュパイプを竪方向に設置し、非加硫ブチルゴムシートと下地壁面の隙間に生じた湧き水をこのメッシュパイプに導いて効果的に排水することを意図している。このため、メッシュパイプは、その側面を通して周囲の水が容易にパイプの中に流入できる構造になっていなくてはならない。またメッシュパイプは、非加硫ブチルゴムシートと下地壁面(例えばソイル面)の間に挟まれた状態で上記ゴムシートの外側から生コンクリートの圧力を受けるため、その圧力によって潰れないだけの十分な強度を有していなくてはならない。このような透水性と強度を兼ね備えたパイプとして、鉄パイプの側面に多数の孔を開けたものを用いることもできる。しかし本発明では、耐食性・軽さ・経済性の点から、硬質な樹脂で形成したものを用いるのが望ましい。中でも、ポリエステルの剛毛糸を編んで形成したパイプはこれらの特性に非常に優れており、しかも比較的フレキシブルであるため下地壁面の凹凸に対する追従性も高いので、本発明におけるメッシュパイプとして特に適している。
【0023】
使用するメッシュパイプの外径は10〜50mm程度が好適である。10mm未満の小径パイプでは排水能力の不足が懸念され、50mmを超えるような大径パイプでは壁面をゴムシートで覆ったときに膨らみが大きくなって、その部分でコンクリート外壁の所定の肉厚が確保できなくなるという不都合が生じ得る。したがって、そのような大径パイプを使用するよりは、10〜50mm、好ましくは40mm以下のパイプを後述のように「群」として使用する方がメリットは大きい。
【0024】
本発明では、山留壁を非加硫ブチルゴムシートで覆う前に、上記のようなメッシュパイプを壁面の一部に上下方向(竪方向)に設置する。その際、必ずしも強固に固定する必要はない。あとでゴムシートで覆うことによって結果的に固定されるからである。具体的には、メッシュ状隙間を利用して釘でソイル面に打ち付ける方法や、ビニールシートでメッシュパイプの外側から壁面を覆ったうえ、そのビニールシートを壁面に釘等で固定するという簡便な方法が採用できる。また、メッシュパイプと壁面の間に透水性の不織布を挟むと壁面の凹凸にパイプがなじみやすく、かつパイプの損傷防止にもなるので好ましい。施工現場での作業効率を考慮すると、予めビニールシートと透水性の不織布を一方向に縫い合わせて袋状の部分を形成し、その袋状の部分にメッシュパイプを挿入した状態で山留壁に固定する方法を採るのが効果的である。その際、不織布が山留壁側になるようにする。図2にはその一例として、ビニールシート2と透水性の不織布3の間にメッシュパイプ1を3本挿入して一体化したメッシュパイプ集合体10を模式的に示している。この場合、集合体を構成する3本のパイプを後述の「メッシュパイプ群」として設置することができるのである。
【0025】
メッシュパイプは1箇所につき1本を単独で設置してもよいが、十分な通水量を確保して設置箇所を極力減らすには、複数本、例えば2〜6本を1箇所に並べて「メッシュパイプ群」を形成させるようにして設置することが望ましい。メッシュパイプ群を形成させる際には、隣接するパイプの側面同士の間隔が0.1m以下となるようにして並べるのが良く、隣同士のパイプ側面が接していてもよい。0.1mを超える間隔で並べても通水量を確保するうえでは問題ないが、壁面に固定するときに1本毎に独立して取り扱う必要が生じる場合があるなど、ひとまとまりの「群」として集約するメリットが薄れる。
【0026】
メッシュパイプを設置する際には、そのパイプの下端が排水経路につながるようにすることが重要である。排水経路は、山留壁下端部の床面に排水孔に通じる溝を設けたり、山留壁下端部付近に直接排水孔を設けることによって形成するのが簡便かつ効果的である。したがって通常は、メッシュパイプの下端が山留壁の下端付近に位置するような設置の仕方となる。一方、メッシュパイプの上端は山留壁の上端と一致させる必要はない。なぜならば、山留壁の上部から湧き出した水は、当該壁面に直接取り付けられた非加硫ブチルゴムシートと壁面の隙間を通じて比較的容易に下部まで流れるので、上部になるほど水の流路をメッシュパイプによって確保すべき必然性は乏しくなるからである。ただし、メッシュパイプがあまり短すぎては、下部に集まった水を溜めることなく排出させ続けることが困難になる。種々検討の結果、漏水が少ない現場であっても突発的な漏水を考慮すると、山留壁高さの少なくとも0.2倍以上の長さのメッシュパイプを設置しておくことが好ましいことがわかった。
【0027】
メッシュパイプを設置する場所としては、壁面から既に漏水が生じている箇所、あるいは将来漏水が生じると予想される箇所を重点的に選ぶことが望ましい。現場の状況に応じて、漏水の多い場所には、より密に設置するのがよい。ただし、場所によって漏水の程度にあまり差がないような場合には、適当な間隔で任意の場所に設置すればよい。その適当な間隔について本発明者が種々検討したところ、山留壁高さの0.2倍以上の長さのメッシュパイプ、または山留壁高さの0.2倍以上の長さのメッシュパイプを含むメッシュパイプ群を、1〜20mの水平方向距離を開けて設置することが好ましいことがわかった。
【0028】
ここでいう水平方向距離は先に述べた3態様のパイプ側面間距離である。この距離が1m未満では、非常に目立った漏水が生じている箇所を除き湧き水の排水能力が過剰になるとともに、壁面へのメッシュパイプの設置個所が増えることによる作業能率の低下が大きくなる。一方、地下構造物の建築現場で通常経験する程度の地中連続壁からの漏水であれば、上記水平方向距離を20m以下とすることでその湧き水を連続的に排出することができる。図3には、このような山留壁へのメッシュパイプ群の配置例を示してある。
【0029】
本発明者の調査によれば、山留壁面に直接非加硫ブチルゴムシートを取り付けた場合、ゴムシートが下地壁面にぴったり接触している状態にあっても、接着剤等によりゴムシートの全面を下地壁面に「のり付け」していない状態においては、湧き水はゴムシートと下地壁面との間を浸み通って比較的容易に流れることができるのである。(従来はこの知見の認識を欠いていたため、ゴムシートと下地壁面の間のほぼ全面に通水層を設ける工法(前述)が提案されていた)。ただし、湧き水がゴムシートと下地壁面の間にとどまることなく流れ続けることがゴムシートによる水密性を維持するための条件となる。このため、湧き水の発生量を超えるだけの排水能力をゴムシートと下地壁面の間に与えなくてはならない。地中連続壁からの一般的な漏水量であれば、その湧き水はゴムシートと下地壁面の間を通って概ね10m程度は比較的自由に無理なく水平方向へ移動することができることがわかった。つまり、壁面に設けた1箇所のメッシュパイプまたはメッシュパイプ群についての「有効排水距離」は水平方向概ね10mであると言うことができる。したがって本発明では、山留壁の壁面の一部にメッシュパイプまたはメッシュパイプ群を間隔を開けて設置する際、その間隔は20m以下に制限することが望ましい。
【0030】
本発明で対象とする山留壁の壁面の形態としては、H型鋼を用いた一般的な地中連続壁を挙げることができる。連続壁面の凹凸はベントナイトを主成分とする材料等で補修して平滑化することが望ましい。また、メッシュパイプと下地壁面の間には不織布等の透水性緩衝材を挟むことができる。そうすると、壁面の凹凸に対するパイプの追従性が向上するとともに、パイプと下地壁面の間に生じる局所的な圧力を分散させてパイプが潰れるのを防止する効果も得られる。
【0031】
本発明で使用する非加硫ブチルゴムシートは、生コンクリートと反応接着するブチル再生合成ゴムを配合したゴムシートであって、例えば前記特許第2849336号公報において使用されているのと同種の公知のゴム素材からなるものが使用できる。
【0032】
【実施例】
地下構造物の建築現場において、高さ25mの山留壁からなる地中連続壁を構築した。図4に示すように、当該壁面は、概ね0.45mスパンで埋設されたH型鋼の鋼材面4と、H型鋼の間を埋めるソイル面5からなり、当該ソイルはベントナイトを主成分とし、セメントおよび残存する土等を配合した材料からなる。連続壁面上の大きな凹凸はベントナイトを主成分とする材料で補修して平滑化した。この山留壁からは、一般的な地下構造物の建築現場で経験するのと同程度の漏水が認められた。メッシュパイプを設置する位置として、漏水が比較的多く生じているソイル面の部分を優先的に選び、結果的に、概ね5〜18mに1箇所の割合でメッシュパイプを設置することとした。メッシュパイプの上端は、漏水の程度から、山留壁高さの約1/2の位置になるようにすれば十分であると判断した。
【0033】
一方、メッシュパイプは、ポリエステルの剛毛糸を編んで形成した外径30mmのものを使用した。図2に示したように、3本のメッシュパイプ1をビニールシート2および透水性の不織布3(厚さ3mm)とともに予め一体化し、山留壁高さの約1/2の長さのメッシュパイプ集合体10を得た。この集合体10を「メッシュパイプ群」として設置することとした。なお、この集合体10のメッシュパイプ側面間距離は約30mmである。
【0034】
図4に示すように、上記メッシュパイプ集合体10を、不織布3が下地壁面側になるようにソイル面5上に配置した。そして、ビニールシート2を釘9でソイル面5に固定した。メッシュパイプ集合体10の下端部が位置する床面には予め溝状の排水経路7を設けた。山留壁の壁面を構成するH型鋼の鋼材面4にはセパレーターを取り付けるための突起金具8を溶接により取り付けた。
【0035】
次に、図5に示すように、壁面に設置したメッシュパイプ集合体10の外側から非加硫ブチルゴムシート11(厚さ2mm)で直接山留壁面を覆い、該ゴムシート11の突起金具8にあたる全ての位置に各突起金具8が通る小孔を開け、その小孔に突起金具8を通したのち該ゴムシート11を突起金具8の付け根まで押し込んだ。その後、該ゴムシート11の外側から突起金具8の付け根付近に、非加硫ブチルゴムを基材とした防水性シーリング材20(図5には図示していない)を塗布し、該ゴムシート11の小孔と突起金具8の間の隙間を封鎖した。さらに、塗布した防水性シーリング材20が乾かないうちに前記ゴムシート11の外側から、非加硫ブチルゴムからなる小孔の開いたパッチ材12を、その小孔に突起金具8が通るようにして押し込んで前記ゴムシート11に張り付けた。接着剤には前記と同種の防水性シーリング材を使用した。
【0036】
下地壁面がソイル面5の部分には、必要に応じて、非加硫ブチルゴムシート11の外側から非加硫ブチルゴムからなる板状片13を介して釘14を打ち付け、該ゴムシート11の山留壁への固定を補強した。その際、ゴムシート11と板状片13の間の隙間部、および釘14と板状片13の間の隙間部をそれぞれカバーするように前記と同種の防水性シーリング材20(図5には図示していない)を塗布し、水密性を確保した。
【0037】
図6には、パッチ材12を張り付けた部分の防水構造を断面で示している。非加硫ブチルゴムシート11とパッチ材12の間には防水性シーリング材20が充填されており、該ゴムシート11と突起金具8の間には高い水密性が付与されている。なお、図6にはセパレーター21を取り付けた状態を示した。
【0038】
図7には、本実施例で採用した非加硫ブチルゴムシート11のジョイント構造15を断面図で模式的に示している。先に取り付けたシートの一部に後から取り付けるシートの一部が重なるようにし、その重ねしろの部分を非加硫ブチルゴムを基材とする接着剤(シーリング材)で貼り合わせるだけという、簡便な手法が採用できた。しかも、非加硫ブチルゴムシート11はできる限り長尺シートのまま使用したので、ジョイント部の総延長も大幅に減少し、一層の工程簡略化が達成できた。前記重ねしろは、50〜100mm程度が適当である。なお、床面にも予め非加硫ブチルゴムシート11’(図5参照)を敷設したので、山留壁下端部分の防水処理も前記と同様の簡便なジョイント構造を採用した。
【0039】
以上のようにして、山留壁全体を非加硫ブチルゴムシート11で覆ったのち、地下外壁となるコンクリートを打設するまでの30日間、壁面の防水性能を監視し続けた。その結果、ゴムシート11と下地壁面の間に湧き水がとどまってゴムシート11が膨れたり、水が漏れるというようなトラブルは皆無であった。また、排水経路7を通じて湧き水が排出されていることが確認された。生コンクリートを打設した後においても本防水工法を実施したことによるトラブルは認められなかった。
【0040】
【発明の効果】
本発明によれば、防水シートとして生コンクリートと反応接着する非加硫ブチルゴムシートを使用する地中連続壁の防水工法において、非加硫ブチルゴムシートを素材のまま直接山留壁の壁面に取り付ける工法の採用が現実的に可能になった。これによって、次のようなメリットが生じる。
(a)壁面の一部にメッシュパイプを設置する必要があるが、これは、通水性の緩衝材等を下地壁面に張り付けたり、予め準備した複合シートパネルを取り付けたりする従来方法に比べ、はるかに労力が軽減され、また材料コストも低減する。
(b)ゴムシートはセパレーター取り付け用の突起金具を利用するなどして壁面に簡便に取り付けることができるので作業性が向上する。
(c)ゴムシートの素材は長尺のまま壁面に取り付けができるのでゴムシート同士の継ぎ目の総延長を大幅に減らすことができるとともに、当該継ぎ目部分はゴムシートの一部を重ね合わせた簡便なジョイント構造により確実に防水処理することができる。このため、継ぎ目部分の防水処理作業の労力およびコストが大幅に軽減される。
このようなメリットを有する本発明の防水工法は、多くの地中連続壁施工現場において実施化が容易である。したがって本発明は、非加硫ブチルゴムシートを用いた地中連続壁の防水工法の普及に大きく寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来法における複合シートパネル継ぎ目部のジョイント構造を示す断面図である。
【図2】メッシュパイプ集合体の一例を模式的に示す斜視図である。
【図3】山留壁へのメッシュパイプ群の配置形態を概念的に示すための山留壁の正面図である。
【図4】本発明実施例における山留壁面へのメッシュパイプの設置例を示す斜視図である。
【図5】本発明実施例における山留壁面への非加硫ブチルゴムシートの取り付け例を示す斜視図である。
【図6】本発明実施例における突起金具周辺の防水構造を示す断面図である。
【図7】本発明実施例における非加硫ブチルゴムシートのジョイント構造を示す断面図である。
【符号の説明】
1 メッシュパイプ
2 ビニールシート
3 透水性不織布
4 H型鋼の鋼材面
5 ソイル面
7 排水経路
8 セパレーターを取り付けるための突起金具
9 釘
10 メッシュパイプ集合体
11,11’ 非加硫ブチルゴムシート
12 パッチ材
13 板状片
14 釘
15 非加硫ブチルゴムシートのジョイント構造
20 防水性シーリング材
21 セパレーター
30 複合シートパネル
30a 排水性補強シート
30b 非加硫ブチルゴムシート
31 帯状パッチ材
32 山留壁
33 H型鋼
40 縫い糸
Claims (13)
- 山留壁の壁面の一部に、該壁面に沿ってメッシュパイプを下端が排水経路につながるように上下方向に設置したのち、山留壁を前記メッシュパイプの外側から生コンクリートと反応接着する非加硫ブチルゴムシートで覆い、前記非加硫ブチルゴムシートを素材のまま直接山留壁面に取り付ける地中連続壁防水工法。
- 側面間距離0.1m以下の間隔で並べられた2本以上のメッシュパイプからなるメッシュパイプ群を形成させるようにして、山留壁の壁面の一部にメッシュパイプを設置する、請求項1に記載の地中連続壁防水工法。
- 山留壁高さの0.2倍以上の長さのメッシュパイプ、または山留壁高さの0.2倍以上の長さのメッシュパイプを含むメッシュパイプ群を、1〜20mの水平方向距離を開けて設置する、請求項1または2に記載の地中連続壁防水工法。
- 外径が10〜50mmのメッシュパイプを使用する、請求項1〜3に記載の地中連続壁防水工法。
- メッシュパイプはポリエステルの剛毛糸を編んで形成したものである、請求項1〜4に記載の地中連続壁防水工法。
- 山留壁の壁面は、長手方向が上下方向になるように配置された複数のH型鋼の鋼材面と、各H型鋼の間を埋めるソイル面からなるものである、請求項1〜5に記載の地中連続壁防水工法。
- 山留壁を非加硫ブチルゴムシートで覆うに際し、予め山留壁の壁面を構成するH型鋼の鋼材面にセパレーターを取り付けるための突起金具を取り付けておき、非加硫ブチルゴムシートの前記突起金具にあたる位置に小孔を開け、その小孔に突起金具を通して該ゴムシートを突起金具の付け根まで押し込むことにより該ゴムシートを山留壁に固定する、請求項6に記載の地中連続壁防水工法。
- 請求項7に記載の工法において、非加硫ブチルゴムシートを突起金具の付け根まで押し込んだのち、該ゴムシートの小孔と突起金具の間の隙間部をカバーするように防水性シーリング材を塗布し、さらにその外側から、生コンクリートと反応接着する非加硫ブチルゴムからなる小孔の開いたパッチ材を、その小孔に突起金具が通るようにして押し込んで前記ゴムシートに張り付け、前記ゴムシートと該パッチ材の間に前記シーリング材が充填されるようにすることによって、前記ゴムシートと突起金具の間の水密性を確保する、地中連続壁防水工法。
- 請求項7または8に記載の工法において、下地の壁面がソイル面である部分に、山留壁を覆った非加硫ブチルゴムシートの外側から、生コンクリートと反応接着する非加硫ブチルゴムからなる板状片を介して釘または鋲を打ち付けることにより該ゴムシートの山留壁への固定を補強する、地中連続壁防水工法。
- 釘または鋲と前記板状片の間の隙間部をカバーするように防水性シーリング材を塗布する、請求項9に記載の地中連続壁防水工法。
- 防水性シーリング材が非加硫ブチルゴムを基材としたものである、請求項8または10に記載の地中連続壁防水工法。
- 山留壁とメッシュパイプの間に透水性の不織布を挟む、請求項1〜11に記載の地中連続壁防水工法。
- メッシュパイプを山留壁の壁面に設置するに際し、メッシュパイプの外側から山留壁を覆ったビニールシートを山留壁に機械的に固定する、請求項1〜12に記載の地中連続壁防水工法。
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