JP3609244B2 - 浸漬式ワイヤ放電加工機 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は,加工槽に収容した加工液中にて工作物を放電加工する浸漬式ワイヤ放電加工機に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来,放電加工機,特に加工液に浸漬された工作物に対してワイヤ電極によって所定の加工形状にワイヤ放電加工を行う浸漬式ワイヤ放電加工機が知られている。浸漬式ワイヤ放電加工機において,工作物は,ワイヤ電極と工作物との間に極間電圧を印加することによって発生する放電エネルギーによって放電加工される。工作物は,工作物取付金具によって加工槽内の工作物支持台に固定され,ワイヤ電極に対して,加工槽と共に水平面上を移動可能である。なお,この種の浸漬式ワイヤ放電加工機の例として,例えば,特公平7−39056号公報に開示されているものがある。
【0003】
この種の浸漬式ワイヤ放電加工機においては,図5に示すように,一般に,下ワイヤヘッド66は上ワイヤヘッド67と対応して設けられており,加工機本体68に設けられて加工液69に浸漬される下アーム70は,下ワイヤヘッド66を一端で支持し,且つ加工槽71の後部側壁72に形成された長孔73を貫通し,他端において加工槽71の外部において加工機本体68のフレームに固定されている。工作物Wに対して放電加工して消耗した廃ワイヤ電極74は,下ワイヤヘッド66に案内されて下アーム70内を挿通し,加工槽71から外部へ排出される。ワイヤ放電加工を行なうに際しては,工作物Wを取り付けた工作物支持台75が加工槽71と一体となって,下アーム70に対してX−Y軸平面内で相対移動するように構成されている。Y軸は下アーム70の長手方向の軸であり,X軸はY軸と直交し且つ水平面内に位置する軸の方向である。工作物Wと廃ワイヤ電極74との間の相対移動は,数値制御(NC)指令によって行なわれる。
【0004】
この浸漬式ワイヤ放電加工機は,加工液69が収容され側壁72に形成された長孔73の長手方向即ちY軸方向に移動可能な加工槽71と,加工槽71を支持し長孔73の長手方向に対し直角方向即ちY軸方向に移動可能なテーブル76と,加工槽71の長孔73を覆うように配設されテーブル76に固定された遮蔽板77と,加工槽71に取り付けられ加工液69の水圧に対抗して遮蔽板77を背面側から支持する摺接部材であるローラ78と,遮蔽板77に形成された孔79を貫通し加工槽71の側壁72の長孔73を挿通して加工液69中に突出し廃ワイヤ電極74を案内する下アーム70と,下アーム70に同軸に設けられ,一端80が遮蔽板77の孔79の周囲に固定され,他端81が下アーム70に固定され,加工槽71のX軸方向の移動に応じて伸縮する蛇腹82と,加工槽71の孔79の周縁部に取り付けられ遮蔽板77の前面に接触してシールするシール部材83とを備えるものである。
【0005】
加工槽71はテーブル76に対してX軸方向に移動する。遮蔽板77はテーブル76に固定されているので,X軸方向には移動しない。したがって,X軸方向に加工槽71が移動する際には,ローラ78は遮蔽板77の背面側を転動しながら加工槽71と共に移動する。また,テーブル76は加工機本体68に対してX軸方向に移動し得るので,テーブル76に載置された加工槽71及び遮蔽板77はテーブル76のX軸方向の移動に伴ってX軸方向に一緒に移動する。そして,テーブル76がX軸方向に移動する際に,蛇腹82は伸縮する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで,浸漬式ワイヤ放電加工機は,加工槽71内に加工液が収容されており,加工槽71の側壁72を下アーム70が貫通しているので,加工液69が加工槽71から漏出するのを防止する必要があり,そのために,上記のとおり,蛇腹82とシール部材83が設けられている。しかしながら,上記のような浸漬式ワイヤ放電加工機では,シール部材83に加工液の変動圧が絶えず加わっており,シール部材83は加工槽71と共に遮蔽板77に対してX軸方向に相対的に移動するため,シール部材83の摩耗,スラッジによるシール部材83の損傷,あるいはシール部材83の劣化などに起因して,矢印で示すように,スラッジを含んだ加工液がシール部材83から漏出し,遮蔽板77の上端面を乗り越えて背面側に漏れ出し,スラッジがローラ78に堆積し,その結果,ローラ78が回転不良を起こして摺動抵抗が増加し,工作物の加工精度に悪影響を及ぼすという問題があった。
【0007】
また,加工槽71の側壁72と遮蔽板77との間から加工液の漏出を完全に防止するため,両者間に強力なシール部材を設けることも考えられるが,そうすると,次のような不都合も生じる。即ち,強力なシール部材のために加工槽71の側壁72と遮蔽板77との間に作用する摩擦力により加工槽71の速やかな移動と位置の正確な制御が困難になる。そこで,この種の浸漬式ワイヤ放電加工機においては,シール部材83から漏出した加工液のローラ78への付着を如何にして防止するかが課題となっている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この発明の目的は,上記課題を解決することであり,加工槽の側壁と遮蔽板との間から漏出した加工液がローラに付着するのを防止して,加工液に含まれているスラッジがローラへ堆積しないようにし,もってローラの回転不良を防止し,工作物に対する加工精度を良好に維持する浸漬式ワイヤ放電加工機を提供することである。
【0009】
請求項1に係る発明は,加工機本体に取り付けられた上ワイヤヘッドを通じて供給されるワイヤ電極が通される下ワイヤヘッド,前記上ワイヤヘッドと前記下ワイヤヘッドとの間で加工液に浸漬した状態で工作物を設置できる加工槽,前記加工槽に形成された長孔を覆うように配設され且つ前記長孔と対向する孔が形成された遮蔽板,前記加工槽に取り付けられ且つ前記加工液の水圧に抗して前記遮蔽板を背面側から支持する摺接部材,前記遮蔽板の孔及び前記加工槽の長孔に挿通され且つ前記加工液中に突出して前記下ワイヤヘッドを支持すると共に前記下ワイヤヘッドを通過した前記ワイヤ電極の廃ワイヤが内部に挿通される前記加工機本体に取り付けられた支持アーム,前記加工槽が前記支持アームの長手方向と直角方向に移動可能に載置され且つ前記長手方向に移動可能な前記遮蔽板が取り付けられたテーブル,前記支持アームが挿通され且つ一端が前記遮蔽板の孔の周縁部に他端が前記支持アーム又は前記加工機本体に固定された長手方向に伸縮可能な蛇腹,及び前記加工槽の長孔の周縁部に取り付けられ且つ前記遮蔽板に接触してシールするシール部材をを備えた浸漬式ワイヤ放電加工機において,前記遮蔽板は,前記シール部材に当接してシール部を構成する第1遮蔽板と,前記第1遮蔽板に隔置して連結され且つ前記摺接部材に当接して支持される第2遮蔽板とから構成され,前記第1遮蔽板と前記第2遮蔽板との間から流下する前記加工液を受けるため前記第1遮蔽板と前記第2遮蔽板との下方には樋が設けられていることを特徴とする浸漬式ワイヤ放電加工機に関する。
【0010】
また,この浸漬式ワイヤ放電加工機は,前記第1遮蔽板を溢流した前記加工液が前記第2遮蔽板を溢流することなく,前記第1遮蔽板と前記第2遮蔽板との間を流下するように,前記第1遮蔽板の上端面は前記第2遮蔽板の上端面よりも低い位置に設定されている。
【0011】
また,この浸漬式ワイヤ放電加工機では,前記第1遮蔽板と前記第2遮蔽板との間の前記支持アームの周りには環状シール部材が配置されている。
【0012】
請求項4に係る発明は,加工機本体に取り付けられた上ワイヤヘッドを通じて供給されるワイヤ電極が通される下ワイヤヘッド,前記上ワイヤヘッドと前記下ワイヤヘッドとの間で加工液に浸漬した状態で工作物を設置できる加工槽,前記加工槽に形成された長孔を覆うように配設され且つ前記長孔と対向する孔が形成された遮蔽板,前記加工槽に取り付けられ且つ前記加工液の水圧に抗して前記遮蔽板を背面側から支持する摺接部材,前記遮蔽板の孔及び前記加工槽の長孔に挿通され且つ前記加工液中に突出して前記下ワイヤヘッドを支持すると共に前記下ワイヤヘッドを通過した前記ワイヤ電極の廃ワイヤが内部に挿通される前記加工機本体に取り付けられた支持アーム,前記加工槽が前記支持アームの長手方向と直角方向に移動可能に載置され且つ前記長手方向に移動可能な前記遮蔽板が取り付けられたテーブル,前記支持アームが挿通され且つ一端が前記遮蔽板の孔の周縁部に他端が前記支持アーム又は前記加工機本体に固定された長手方向に伸縮可能な蛇腹,及び前記加工槽の長孔の周縁部に取り付けられ且つ前記遮蔽板に接触してシールするシール部材をを備えた浸漬式ワイヤ放電加工機において,前記加工槽には前記シール部材を保持するブロックが設けられ,前記ブロックの上面には前記ブロックの両側部に向かって低くなる傾斜面が形成され,最も高い位置の前記傾斜面は前記遮蔽板の上端面よりも低くなるように設置され,前記シール部材と前記遮蔽板との間から漏洩した前記加工液は,前記ブロックに形成した前記傾斜面に沿って前記遮蔽板と前記ブロックとの下方に設けられた樋へ流下することを特徴とする浸漬式ワイヤ放電加工機に関する。
【0013】
また,前記ブロックに形成された前記傾斜面は,中央部が高く,前記ブロックの両側部に向かって低く形成されている。
【0014】
請求項1に係る発明による浸漬式ワイヤ放電加工機は,上記のように,第1遮蔽板と第2遮蔽板とが間隔をあけて連結されているので,第1遮蔽板と第2遮蔽板との間に漏洩した加工液が流下する通路が形成される。このため,シール部材から漏出した加工液は第1遮蔽板を乗り越え,第1遮蔽板と第2遮蔽板とで形成される通路を通って流下し,樋に落ちることになる。したがって,加工液が第2遮蔽板を乗り越えることはなく,その結果,第2遮蔽板の背面側に接触している摺接部材に加工液に混入した加工屑等が付着することはなく,摺接部材が腐食することがない。また,第1遮蔽板の上端面を第2遮蔽板の上端面よりも低い位置に配置することにより,加工液が第2遮蔽板を乗り越えるおそれは一層なくなり,加工液の摺接部材への付着をより確実に防止することができる。
【0015】
また,請求項3に係る発明による浸漬式ワイヤ放電加工機は,ブロックに形成した傾斜面が遮蔽板の上端面よりも低い位置に配置されているので,シール部材から漏洩した加工液は,遮蔽板を乗り越える前に,傾斜面に沿ってブロックの側面へ案内されて流下し,次いで樋に向かって流れ落ちる。したがって,加工液が遮蔽板を乗り越えることはないので,遮蔽板の背面側に接触している摺接部材に加工屑が付着することはなく,摺接部材が腐食することがない。
【0016】
それ故,この浸漬式ワイヤ放電加工機は,加工液に混入した加工屑等が堆積することがなく,摺接部材の回転不良が起こらず,摺接部材による摺動抵抗が増加することがないので,ワイヤ電極に対する加工槽の相対移動がスムースに行われ,工作物に対する加工精度を向上させ,高加工精度を長期に渡って維持することができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下,添付図面を参照して,この発明による浸漬式ワイヤ放電加工機の実施例を説明する。図1は請求項1に係る発明による浸漬式ワイヤ放電加工機の一実施例の全体構造を示す側面断面図,及び図2は図1の浸漬式ワイヤ放電加工機における遮蔽板付近の構造を示す要部拡大断面図である。
【0018】
浸漬式ワイヤ放電加工機の加工槽1内には,イオン交換樹脂を経ることで水の比電気抵抗をコントロールされた加工液2が収容されている。加工槽1は,ボルト及びナットのような固着具によってワイヤ放電加工機のテーブル27に取り付けられている。加工槽1の一壁部は,工作物Wを後述する工作物支持台4に対して脱着する時の作業スペースを確保するため,開閉自在となっている。
【0019】
加工槽1の底には,ベース3が敷設されており,加工槽1内に収容された加工液2中に工作物Wを浸漬した状態で支持するため,ベース3上に工作物支持台4がボルト5によって固定されている。工作物支持台4は,図1では1台のみ図示したが,同じ加工槽1の中に複数台設置することができる。工作物支持台4は,リード線6を介して加工槽1の外部から一方の電極に接続されている。工作物取付具7をボルト8によって工作物支持台4に締結することにより,工作物Wが工作物支持台4に固定される。
【0020】
工作物Wに対して所定の加工形状にワイヤ放電加工を行うために工作物Wとの間で放電をするワイヤ電極10は,ワイヤ放電加工機の加工機本体9に設けられている自動ワイヤ供給装置(図示せず)から供給される。ワイヤ電極10は,加工機本体9に取り付けられた上アーム11に支持された上ワイヤヘッド12と,加工機本体9から加工槽1の側壁23を貫通して横方向に延びた下アーム13に支持された下ワイヤヘッド14によって案内される。下アーム13は,この発明における支持アームを構成している。上ワイヤヘッド12には,従来と同様に,ワイヤ送出口,ダイスガイド,噴流ノズル,給電子15,及び給電子押え等が組み込まれており,ワイヤ電極10を工作物Wの放電加工部位に送り出す。給電子16が組み込まれた下ワイヤヘッド14は,上ワイヤヘッド12と同様の構造を有しており,上ワイヤヘッド12に対向した位置に設けられていて上ワイヤヘッド12から繰り出されたワイヤ電極10を受け入れる。工作物Wは,上ワイヤヘッド12と下ワイヤヘッド14との間に設置される。上ワイヤヘッド12の給電子15と下ワイヤヘッド14の給電子16とをリード線17が結んでおり,リード線17には,リード線6に接続された極とは反対の極が与えられている。
【0021】
工作物Wに対して放電加工を行なったワイヤ電極10は,下ワイヤヘッド14に受け入れられた後,廃ワイヤ排出手段(図示せず)によって加工槽1から下アーム13の内部を通して外部へ排出される。加工槽1の加工液2が不足する場合には,加工液供給管18から補給される。加工液供給管18には供給コック19が設けられており,手動にて供給量を調節することができる。また,加工槽1内の加工液2を排出するために,加工液排出管20が加工槽1の底部に接続されている。加工液排出管20には排出コック21が設けられており,排出コック21は手動にて開閉可能である。
【0022】
図1に示すように,加工機本体9と一体の基台54に設けられたY軸移動用モータ55の出力軸はねじ伝動作用をするX方向ねじ軸56となっており,Y方向ねじ軸56はY方向移動テーブル57とねじ係合している。したがって,Y方向ねじ軸56の回転によってY方向移動テーブル57がX軸方向に移動する。Y方向移動テーブル57にはX軸移動用モータ(図示せず)が取り付けられており,Y軸移動用モータによって回転されるX方向ねじ軸58は,X方向移動テーブル59とねじ係合している。したがって,X方向ねじ軸58の回転によってX方向移動テーブル59がX軸方向(Y軸方向と直交する方向)に移動可能である。加工槽1は,X方向移動テーブル59に取り付けられていて,X方向移動テーブル59と共に移動する。上アーム11及び支持アームを構成する下アーム13は加工機本体9に対して位置不動であるので,このような移動テーブル機構によって,加工槽1は,下アーム13の長手方向(Y軸方向)と,当該長手方向と直交する方向(X軸方向)とで定められる水平面内においてワイヤ電極10に対する位置制御が可能である。
【0023】
次に,加工槽1の側壁23と下アーム13との関連構造について説明する。加工槽1の側壁23には,X軸方向に平行に延びる長孔24が形成されている。長孔24の上下の孔縁25,26は平行に配置されているが,左右の孔縁は半円弧状に形成されている。加工槽1の側壁23の外面には,図2に示すように,長孔24を覆うように遮蔽板22が設けられている。遮蔽板22は第1遮蔽板28と第2遮蔽板29とからなる二枚の板で構成され,第1遮蔽板28と第2遮蔽板29とは平行に隔置状態に連結部材30によって相互に連結されているので,両遮蔽板28,29の間には通路53が形成される。第1遮蔽板28は第2遮蔽板29の高さよりも低く設定され,第1遮蔽板28の上端面31は第2遮蔽板29の上端面32よりも低くなるように設置されている。
【0024】
遮蔽板28,29の中心部には下アーム13を挿通するための孔33が形成されており,第1遮蔽板28と第2遮蔽板29との間には,孔33の回りに,リップ34を有する環状シール部材35が設けられている。環状シール部材35のリップ34は下アーム13の外周面に当接して加工槽1内からの加工液2の漏出を防止するものである。加工槽1の側壁23の外面には,シール部材36を保持するため,加工槽1の長孔24と同様の長孔24を備えたブロック37が取り付けられており,シール部材36は第1遮蔽板28の前面に接触して加工槽1の側壁23と第1遮蔽板28との間をシールし,加工液2が加工槽1から漏出するのを防止している。
【0025】
また,加工槽1の側壁23には,長孔24の上下にそれぞれ複数の押さえ板38が固定されており,押さえ板38に支持された摺接部材であるローラ39が第2遮蔽板29を背面側から支持している。これらのローラ39は,加工液2の水圧に抗して遮蔽板22を支持するために設けたものである。また,第2遮蔽板29の背面側にはピン40が植設され,Y方向移動テーブル57と一体をなす支持金ストッパ41の上部にはリング42が設けられ,ピン40をリング42に嵌合しているので,加工槽1がX軸方向へ移動するときに,遮蔽板22の下アーム13に対するX軸方向への相対移動を規制することができる。
【0026】
環状シール部材35から漏出した加工液,即ち遮蔽板22の孔33と下アーム13との間から漏れ出した加工液を回収し,且つ遮蔽板22と下アーム13が相対移動し得るようにするために,伸縮自在の蛇腹43が設けられている。蛇腹43は,内部に下アーム13を挿通し,一端44が第2遮蔽板29の背面側に,他端45が加工機本体9にそれぞれ水密状態に取り付けられている。下アーム13は加工機本体9に固定されているので,他端45は,下アーム13に対して(或いは更に他の固定部材に対して)水密状態に取り付けてもよい。蛇腹43の加工槽1側の一端44を第2遮蔽板29に対して水密状態に取り付けることにより,下アーム13と遮蔽板22との間から漏れ出た加工液2は蛇腹43によって確実に受け取られる。
【0027】
蛇腹43は,連通管46を通じて大気に開放されている。即ち,蛇腹43の上部において連通管46の一端47が蛇腹43の内部に連通し且つ連通管46の他端48が大気に開口している。加工槽1が下アーム13に対して,そのX軸方向に変位するときに,蛇腹43が伸縮する。蛇腹43内の容積変化は,連通管46を通じて空気及び加工液の出入りによって吸収される。即ち,蛇腹43が縮む方向に加工槽1が変位をするときには,連通管46又は蛇腹43内の空気は,連通管46を通じて他端48から大気へ放出され,縮み量によっては加工液が連通管46を通じて加工槽1内へ排出される。蛇腹43が伸びる方向に加工槽1が変位をするときには,他端48から連通管46を通じて外気が蛇腹43内に取り入れられる。また,図示を省略したが,蛇腹43の下部に設けたドレンコックを開いて蛇腹43内の加工液2をドレン管を通じて排出するときに,負圧になる蛇腹43内には連通管46を通じて外気が流入するので,蛇腹43内の加工液2はドレン管を通じてスムーズに排出される。
【0028】
連通管46は,加工槽1の側壁23の上端49を越えて加工槽1の内側に向かって屈曲されている。連通管46の構造をこのようにすると,加工槽1が蛇腹43が縮む方向に急激に大きな変位をして,蛇腹43内の加工液が連通管46を通じて排出されようとするときであっても,加工液は連通管46から直接加工槽1に戻される。即ち,この場合,連通管46は,蛇腹43内へ漏出した加工液を加工槽1に循環回収するための通路として機能している。
【0029】
連通管46の一端47は弾性変形可能な蛇腹43に取り付けられるが,蛇腹43が連通管46の一端47と接続する接続部には,連通管46の荷重を担わせることは好ましくない。この実施例では,連通管46は,加工槽1の側壁23の上端49に対して,支えローラ50によって支持されている。このように,連通管46を加工槽1の側壁23の上端49に対して支持することにより,連通管46の荷重は蛇腹43に作用することがない。また,加工槽1は下アーム13に対してX軸方向に変位可能であるので,連通管46と加工槽1とは相対的に変位することになるが,連通管46は,加工槽1の上端49の端面上を側壁23の長手方向(X軸方向)に転がり部材である支えローラ50を介して支持されているので,加工槽1に対して滑らかに変位することができる。
【0030】
蛇腹43に設けたドレン管の下方には,側壁23に沿って加工槽1のY軸方向長さよりも長く形成されたドレン樋51が設けられている。図1に示すようにY方向移動テーブル57には連結具52を介してドレン樋51が連結されているので,ドレン樋51は,Y方向移動テーブル57と共にY軸方向にのみ移動可能である。また,ドレン樋51は,加工槽1の側壁23のシール部材36から直接滴下する加工液や,シール部材36から漏出して第1遮蔽板28を乗り越えて遮蔽板22の通路53を流下してくる加工液を回収することもできる。即ち,加工槽1がX軸方向に移動をしても,蛇腹43に設けたドレン管から排出される加工液を受け取り,且つ加工槽1の側壁23に設けた遮蔽板22の通路53を通って滴下する加工液を受け取るため,ドレン樋51のY軸方向長さは,加工槽1のY軸方向の全移動範囲にわたって加工槽1をカバーするX軸方向長さを有している。ドレン管を通じる等して排出された加工液は,ドレン樋51に流れ込み,ドレン樋51の排出口(図示せず)から排出され,更に図示しない加工液濾過装置等を経て再利用すべく加工槽1へと循環される。ドレン樋51については,Y方向移動テーブル57に取り付けた例を示したが,ドレン樋51を加工槽1に直接取り付けて,ドレン管を通じる等して排出された加工液をドレン樋51から更に可撓管(図示せず)等の手段で回収してもよい。この場合,ドレン樋51の長さは,加工槽1の長さをカバーする長さがあればよい。
【0031】
この浸漬式ワイヤ放電加工機は,第1遮蔽板28と第2遮蔽板29とが間隔を置いて連結されているので,第1遮蔽板28と第2遮蔽板29との間に通路53が形成される。このため,シール部材36から漏出した加工液は第1遮蔽板28を乗り越え,第1遮蔽板28と第2遮蔽板29とで形成される通路53を通ってドレン樋51に落ちることになる。特に,第1遮蔽板28の上端面31が第2遮蔽板29の上端面32よりも低くなるような構成を採用しているので,加工液が第2遮蔽板29を乗り越えるおそれは一層なくなる。したがって,この浸漬式ワイヤ放電加工機は,加工液が第2遮蔽板29を乗り越えてローラ39に付着するようなことはないから,加工液に含まれる加工屑等のスラッジがローラ39に堆積することはなく,ローラ39の回転不良は発生せず,高い加工精度を維持することができる。
【0032】
上記実施例では,蛇腹43は,一端44を第2遮蔽板29の背面側に取り付け,他端45を加工機本体9に取り付けるように構成したが,一端を第1遮蔽板28の前面に,他端を下アーム13にそれぞれ水密状態に取り付けるようにしてもよい。その場合には,蛇腹43の内部は外気に開放されているので,蛇腹43に設けた連通管46や支えローラ50などが不要となることから,部品点数を削減することができるという利点がある。また,その場合,第1遮蔽板28と第2遮蔽板29との間に設けた環状シール部材35のリップ34は必要なくなるので省略することができる。しかし,環状シール部材35だけは必要である。即ち,もし環状シール部材35まで省略した場合には,第1遮蔽板28と第2遮蔽板29の間の通路53を通って流下してきた加工液が下アーム13に当たって飛び散ったり下アーム13の外周面を伝わったりして,加工液が下アーム13の外周面と遮蔽板22の孔33との間の隙間から遮蔽板22の背面側に回り込み,下側のローラ39に付着するおそれがある。したがって,図2に示すように両遮蔽板28,29の間に環状シール部材35を設け,通路53と下アーム13との間をシールする必要がある。
【0033】
次に,この発明による浸漬式ワイヤ放電加工機の他の実施例について説明する。図3はこの発明の浸漬式ワイヤ放電加工機の他の実施例を示す要部拡大断面図,及び図4は図3の浸漬式ワイヤ放電加工機におけるシール部材保持用のブロックを示す斜視図である。図3に示した要部拡大断面図は,図4のA−A線における断面図に相当するものである。
【0034】
この実施例の浸漬式ワイヤ放電加工機は,遮蔽板60として,図5に示した従来の浸漬式ワイヤ放電加工機における遮蔽板77と同様の一枚の板で構成したものを採用している。従来の浸漬式ワイヤ放電加工機との違いは,シール部材36を保持するためのブロック61の構造が異なっている点である。シール部材36は,加工槽1の長孔24の周縁部にブロック61を介して取り付けられる。この実施例のブロック61は,図5に示した従来のものと対比すると,中央部に長孔62が形成されている点,及び長孔62に沿って長孔62の上下に一対の突出部63が形成され,突出部63にシール部材36がそれぞれ保持されている点で一致し,ブロック61の上側の突出部63の上面に,図4に示すように,傾斜面64が形成されている点で相違している。傾斜面64はブロック61の中央部からY軸方向両端部に至るに従って低くなるように形成されている。ブロック61は加工槽1の側壁23に取り付けられ,ブロック61に保持されたシール部材36は遮蔽板60の前面に当接して,加工槽1から加工液が外部に漏出するのを防止している。ブロック61に形成された傾斜面64は,中央部が高く,ブロック61の両側部に向かって低くなるように形成されている。従って,シール部材36と遮蔽板60との間から漏洩した加工液は,ブロック61に形成した傾斜面64に沿ってスムースに滞留することなくガイドされて流下し,遮蔽板60とブロックとの下方に設けられた樋51(図1)へ流下することができる。
【0035】
この浸漬式ワイヤ放電加工機においても,シール部材36に加工液の水圧が絶えず加わっており,シール部材36は加工槽1と共に遮蔽板60に対して相対的に移動するため,シール部材36の摩耗,スラッジによるシール部材36の損傷,あるいはシール部材36の劣化などに起因して,図3に矢印で示すように,スラッジを含んだ加工液がシール部材36から漏出することは避けられない。ところが,ブロック61の突出部63の上面に傾斜面64が形成されているので,シール部材36から漏出した加工液は遮蔽板60の上端面65に至るまでに傾斜面64に至り,X軸方向に傾斜面64上を流下し,傾斜面64の端部からドレン樋51へ流れ落ちる。このため,スラッジを含んだ加工液が遮蔽板60を乗り越えて遮蔽板60の背面側にまで流れ込むことはないので,スラッジがローラ39に堆積せず,その結果,ローラ39が回転不良を起こすこともなく,摺動抵抗が増加することもないので,工作物Wの加工精度は良好な状態に維持される。
【0036】
【発明の効果】
この発明による浸漬式ワイヤ放電加工機は,上記のように構成されているので,次のような効果を有する。この浸漬式ワイヤ放電加工機は,加工槽の側壁と遮蔽板とをシールするためのシール部材を通して加工槽から外部へ漏出した加工液は,二枚の遮蔽板の間に形成された通路を通って,下方の樋へ落下するので,遮蔽板を背面側から支持する摺接部材に加工液が付着してスラッジが摺接部材に堆積することはない。また,この浸漬式ワイヤ放電加工機は,第1遮蔽板の上端面を第2遮蔽板の上端面よりも低い位置に配置することにより,加工液が第2遮蔽板を乗り越えるおそれは一層なくなるから,両遮蔽板間の間隔を狭くすることができ,遮蔽板の厚さを薄くすることができる。
【0037】
又は,この発明による浸漬式ワイヤ放電加工機は,上記のように構成されているので,極めてコンパクトに構成され,製造コストを低減できると共に,シール部材を保持するためのブロックの上端面に傾斜面を形成することにより,シール部材から漏出した加工液は傾斜面によってX軸方向へスムースにガイドされて流下し,傾斜面の両側端部から樋へ落下するので,加工液が遮蔽板を乗り越えて摺接部材の方へ流れ込むことはなく,それゆえ,摺接部材に加工液中のスラッジが堆積することもない。したがって,上記いずれの発明も,摺接部材の回転不良は起こらず,摺動抵抗が増加することもないので,高い加工精度を長期に渡って維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】請求項1に係る発明による浸漬式ワイヤ放電加工機の一実施例の全体構造を示す断面図である。
【図2】図1の浸漬式ワイヤ放電加工機における遮蔽板付近の構造を示す要部拡大断面図である
【図3】請求項3に係る発明による浸漬式ワイヤ放電加工機の一実施例を示す要部拡大断面図である。
【図4】図3の浸漬式ワイヤ放電加工機におけるシール部材保持用のブロックを示す斜視図である。
【図5】従来の浸漬式ワイヤ放電加工機を示す側面断面図である。
【符号の説明】
1 加工槽
2 加工液
9 加工機本体
10 ワイヤ電極
12 上ワイヤヘッド
13 下アーム(支持アーム)
14 下ワイヤヘッド
22 遮蔽板
23 加工槽の側壁
24 加工槽の長孔
28 第1遮蔽板
29 第2遮蔽板
31 第1遮蔽板の上端面
32 第2遮蔽板の上端面
33 遮蔽板の孔
36 シール部材
37 ブロック
39 ローラ(摺接部材)
43 蛇腹
44 蛇腹の一端
45 蛇腹の他端
51 ドレン樋(樋)
53 通路
57 Y方向移動テーブル(テーブル)
60 遮蔽板
61 ブロック
64 傾斜面
65 遮蔽板の上端面
W 工作物

Claims (5)

  1. 加工機本体に取り付けられた上ワイヤヘッドを通じて供給されるワイヤ電極が通される下ワイヤヘッド,前記上ワイヤヘッドと前記下ワイヤヘッドとの間で加工液に浸漬した状態で工作物を設置できる加工槽,前記加工槽に形成された長孔を覆うように配設され且つ前記長孔と対向する孔が形成された遮蔽板,前記加工槽に取り付けられ且つ前記加工液の水圧に抗して前記遮蔽板を背面側から支持する摺接部材,前記遮蔽板の孔及び前記加工槽の長孔に挿通され且つ前記加工液中に突出して前記下ワイヤヘッドを支持すると共に前記下ワイヤヘッドを通過した前記ワイヤ電極の廃ワイヤが内部に挿通される前記加工機本体に取り付けられた支持アーム,前記加工槽が前記支持アームの長手方向と直角方向に移動可能に載置され且つ前記長手方向に移動可能な前記遮蔽板が取り付けられたテーブル,前記支持アームが挿通され且つ一端が前記遮蔽板の孔の周縁部に他端が前記支持アーム又は前記加工機本体に固定された長手方向に伸縮可能な蛇腹,及び前記加工槽の長孔の周縁部に取り付けられ且つ前記遮蔽板に接触してシールするシール部材をを備えた浸漬式ワイヤ放電加工機において,
    前記遮蔽板は,前記シール部材に当接してシール部を構成する第1遮蔽板と,前記第1遮蔽板に隔置して連結され且つ前記摺接部材に当接して支持される第2遮蔽板とから構成され,前記第1遮蔽板と前記第2遮蔽板との間から流下する前記加工液を受けるため前記第1遮蔽板と前記第2遮蔽板との下方には樋が設けられていることを特徴とする浸漬式ワイヤ放電加工機。
  2. 前記第1遮蔽板を溢流した前記加工液が前記第2遮蔽板を溢流することなく,前記第1遮蔽板と前記第2遮蔽板との間を流下するように,前記第1遮蔽板の上端面は前記第2遮蔽板の上端面よりも低い位置に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の浸漬式ワイヤ放電加工機。
  3. 前記第1遮蔽板と前記第2遮蔽板との間の前記支持アームの周りには環状シール部材が配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の浸漬式ワイヤ放電加工機。
  4. 加工機本体に取り付けられた上ワイヤヘッドを通じて供給されるワイヤ電極が通される下ワイヤヘッド,前記上ワイヤヘッドと前記下ワイヤヘッドとの間で加工液に浸漬した状態で工作物を設置できる加工槽,前記加工槽に形成された長孔を覆うように配設され且つ前記長孔と対向する孔が形成された遮蔽板,前記加工槽に取り付けられ且つ前記加工液の水圧に抗して前記遮蔽板を背面側から支持する摺接部材,前記遮蔽板の孔及び前記加工槽の長孔に挿通され且つ前記加工液中に突出して前記下ワイヤヘッドを支持すると共に前記下ワイヤヘッドを通過した前記ワイヤ電極の廃ワイヤが内部に挿通される前記加工機本体に取り付けられた支持アーム,前記加工槽が前記支持アームの長手方向と直角方向に移動可能に載置され且つ前記長手方向に移動可能な前記遮蔽板が取り付けられたテーブル,前記支持アームが挿通され且つ一端が前記遮蔽板の孔の周縁部に他端が前記支持アーム又は前記加工機本体に固定された長手方向に伸縮可能な蛇腹,及び前記加工槽の長孔の周縁部に取り付けられ且つ前記遮蔽板に接触してシールするシール部材をを備えた浸漬式ワイヤ放電加工機において,
    前記加工槽には前記シール部材を保持するブロックが設けられ,前記ブロックの上面には前記ブロックの両側部に向かって低くなる傾斜面が形成され,最も高い位置の前記傾斜面は前記遮蔽板の上端面よりも低くなるように設置され,前記シール部材と前記遮蔽板との間から漏洩した前記加工液は,前記ブロックに形成した前記傾斜面に沿って前記遮蔽板と前記ブロックとの下方に設けられた樋へ流下することを特徴とする浸漬式ワイヤ放電加工機。
  5. 前記ブロックに形成された前記傾斜面は,中央部が高く,前記ブロックの両側部に向かって低く形成されていることを特徴とする請求項4に記載の浸漬式ワイヤ放電加工機。
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