JP3602951B2 - 環境状態測定方法及び装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は環境状態測定方法及び環境状態測定装置に係り、特に、空間内の温度分布や湿度分布等の環境状態を測定する環境状態測定方法、及び該環境状態測定方法を適用可能な環境状態測定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
被空調空間内の温度や湿度を所望の値に制御するためには、被空調空間内の温度、湿度を測定する必要があるが、被空調空間内の各箇所における温度、湿度が一定であることは稀であり、特にドーム球場や劇場等の閉鎖された大空間では、空間内の各箇所における温度、湿度は大きくばらついていることが多い。このため、例えばドーム球場や劇場等の大空間において快適性と省エネルギーの双方を満足する空気調和を行う場合や、室内の温度や湿度を精密に所望の値に制御する場合には、被空調空間内の温度や湿度の分布を測定する必要がある。
【0003】
しかし、温度センサや湿度センサによって温度や湿度の分布を直接測定しようとすると、センサを、被空調空間の中央部付近を含む被空調空間内にマトリクス状に多数配設する必要があるが、コストが嵩み景観が損なわれると共に被測定空間の利用も制限されるので、上記のように多数のセンサを配設することは現実的ではない。またドーム球場や劇場等では、被測定空間の周縁部(例えば壁体等)に取付けたセンサにより周縁部の温度等を測定すると共に、風船等でセンサを吊り上げることで被測定空間の中央部付近の温度等を測定することが考えられるが、この方法では、被測定空間内で例えば野球等のイベントが実施されている最中に温度や湿度の分布を測定することは不可能である。
【0004】
一方、医学の分野では、人体に対して多方向からX線を照射し、人体を透過したX線量を高感度のセンサで測定し、測定されたX線量に基づき人体の横断面に沿った各位置における体内組織のX線吸収量をコンピュータにより演算して2次元画像として再構成し、人体の横断面像としてモニタに表示するコンピュータ断層撮影(CT:Computed Tomography)技術が広く利用されている。また、X線に代えて超音波を用いることも知られている。
【0005】
上記のCT技術によれば、測定対象(この場合は人体)内部の状態を非接触で測定することができるので、このCT技術を利用して被測定空間内の温度分布を求めることが提案されている。具体的には、X線に代えて、媒質の温度によって伝搬時間(速度)が変化する音波を用い、例えば被測定空間を区画している壁体の多数箇所にスピーカ、マイクロフォン、温度センサを設け、スピーカ及びマイクロフォンによって前記多数箇所の間の音波の伝搬時間を各々測定し、被測定空間内の多数箇所の間の音波の伝搬時間から、被測定空間内の温度分布を演算によって求めている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のCT技術を利用した温度分布の測定は、音波の伝搬時間のみから温度分布を求めているので、実際の温度分布との誤差が大きい、という問題があった。実際の温度分布との誤差を小さくするためには、例えば被測定空間の周縁部に温度センサを設け、被測定空間内の多数箇所の間の音波の伝搬時間に加えて、温度センサによって測定した被測定空間の周縁部の温度も用いて被測定空間の温度分布を求めることが考えられる。
【0007】
しかし、被測定空間が壁体によって区画されている場合、該壁体の温度は被測定空間内の温度と必ずしも一致しておらず、被測定空間内のうち壁体近傍の温度は、壁体の温度の影響を受けて大きく変化していることが一般的である。このため、被測定空間の壁体の温度を用いて被測定空間内の温度分布を求めたとしても、被測定空間内の温度分布の測定精度の向上には繋がらない、という問題があった。
【0008】
また、上記のCT技術を利用した温度分布の測定では、音波が直線的に伝搬するものとして温度分布を求めているが、音波はX線とは異なり直線的に伝搬するとは限らず、伝搬経路上に存在している空気の温度の影響を受けて音波の伝搬経路自体も変化し、これに伴って、スピーカ及びマイクロフォンによって測定される音波の伝搬時間も変化する。従って、被測定空間内の温度分布に依存する音波の伝搬経路の変化も、被測定空間内の温度分布の測定精度低下の一因となっていた。
【0009】
更に、湿度分布については測定方法が確立されておらず、被測定空間内の中央部付近に湿度センサ等を設けて中央部付近の湿度を測定することなく、被測定空間内の湿度分布を求めることは不可能であった。
【0010】
本発明は上記事実を考慮して成されたもので、被測定空間内の温度分布を高精度に求めることができる環境状態測定方法及び環境状態測定装置を得ることが目的である。
【0011】
また本発明は、被測定空間内の湿度分布を、被測定空間の中央部付近に湿度検出手段を設けることなく求めることができる環境状態測定方法及び環境状態測定装置を得ることが目的である。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明に係る環境状態測定方法は、被測定空間の周縁部の互いに異なる複数箇所の間の音波の伝搬時間を各々測定すると共に、前記被測定空間内でかつ前記被測定空間を区画する壁体から所定距離離れた位置の温度を測定し、前記複数箇所の間の音波の伝搬時間、及び前記壁体から所定距離離れた位置の温度に基づいて、前記被測定空間内の温度分布を演算により求める。
【0013】
請求項1記載の発明では、被測定空間の周縁部の互いに異なる複数箇所の間の音波の伝搬時間を各々測定すると共に、被測定空間内でかつ被測定空間を区画する壁体から所定距離離れた位置の温度を測定している。なお、複数箇所の間の音波の伝搬時間は、例えば複数箇所の各々にスピーカ等の音波発生手段と、マイクロフォン等の音波検知手段を設け、或る箇所で音波を発生させてから他の箇所で音波が検知される迄の時間(音波の伝搬時間)を測定することを、前記複数箇所の間で各々行うことで得ることができる。
【0014】
また、壁体から所定距離離れた位置の温度は、壁体から所定距離離れた位置に配設した温度センサ等の温度測定手段によって測定することができる。この所定距離としては、被測定空間を区画する壁体の温度の影響が十分に小さくなるか、又は前記影響が殆ど無視できる大きさとなる距離を適用することができ、例えば壁体からの距離と温度との関係を測定して定めることができる。これにより、壁体の温度の影響が非常に小さく、又は排除された被測定空間内の温度を得ることができる。
【0015】
また、請求項1の発明では、上記のようにして測定した複数箇所の間の音波の伝搬時間、及び壁体から所定距離離れた位置の温度に基づいて、被測定空間内の温度分布を演算によって求めている。これは、例えば被測定空間を仮想的に多数の領域(ボクセル)に区切り、或る一対の箇所の間を音波が伝搬した際に前記一対の箇所の間に存在する各領域を音波が横切る距離を求め、前記一対の箇所の間の音波の伝搬時間と、前記各領域を音波が横切る際の伝搬速度との関係を、前記各領域を音波が横切る距離を用いて数式で表すことを前記複数箇所の間について各々行って連立方程式を立て、測定した複数箇所の間の音波の伝搬時間を連立方程式に代入すると共に、前記壁体から所定距離離れた位置に対応する領域については、測定した温度に基づき音波の伝搬速度を演算して連立方程式に代入した後に、伝搬速度が未知の領域について音波が横切る際の伝搬速度を演算し、伝搬速度から各領域の温度を演算することによって実現できる。
【0016】
このように、請求項1の発明では、壁体から所定距離離れた位置の温度を測定し、複数箇所の間の音波の伝搬時間に加えて、壁体から所定距離離れた位置の温度の実測値を用いて被測定空間内の温度分布を演算しており、被測定空間内の温度分布の演算における未知数が減少すると共に、壁体の温度の影響を非常に小さく又は排除することができるので、被測定空間内の温度分布を精度良く求めることができる。
【0017】
請求項2記載の発明に係る環境状態測定方法は、被測定空間を区画する壁体と、前記被測定空間内でかつ前記壁体から所定距離離れた位置と、の温度差を予め測定しておき、前記被測定空間の周縁部の互いに異なる複数箇所の間の音波の伝搬時間を各々測定すると共に、前記壁体の温度を測定し、測定した壁体の温度及び前記予め測定した温度差に基づいて、前記壁体から所定距離離れた位置の温度を推定し、前記複数箇所の間の音波の伝搬時間、及び前記壁体から所定距離離れた位置の温度に基づいて、前記被測定空間内の温度分布を演算により求める。
【0018】
請求項2記載の発明では、被測定空間を区画する壁体と、被測定空間内でかつ壁体から所定距離離れた位置と、の温度差を予め測定しておき、壁体の温度を測定し、測定した壁体の温度及び予め測定した温度差に基づいて、壁体から所定距離離れた位置の温度を推定している。これにより、壁体の温度の影響が非常に小さく、又は排除された被測定空間内の温度を得ることができる。
【0019】
そして請求項2の発明では、被測定空間の周縁部の互いに異なる複数箇所の間の音波の伝搬時間を各々測定し、複数箇所の間の音波の伝搬時間、及び壁体から所定距離離れた位置の温度に基づいて、被測定空間内の温度分布を演算により求めており、請求項1の発明と同様に、被測定空間内の温度分布の演算における未知数が減少すると共に、壁体の温度の影響を小さく又は排除することができるので、被測定空間内の温度分布を精度良く求めることができる。
【0020】
また、請求項2の発明では、壁体から所定距離離れた位置の温度として推定値を用いているので、請求項1の発明と比較すると温度分布の演算精度は若干低下するものの、壁体から所定距離離れた位置に温度検出手段を設ける必要がないので、温度測定に際しての制約が少なくなる。
【0021】
請求項3記載の発明に係る環境状態測定方法は、被測定空間の周縁部の互いに異なる複数箇所の間の音波の伝搬時間を各々測定し、前記複数箇所の間の音波の伝搬時間に基づいて、前記複数箇所の間の音波の伝搬経路を直線と仮定して前記被測定空間内の温度分布を演算により求め、求めた温度分布に基づき前記複数箇所の間の音波の伝搬経路を補正し、前記複数箇所の間の音波の伝搬時間、及び前記補正によって得られた複数箇所の間の音波の伝搬経路に基づいて、前記被測定空間内の温度分布を演算により再度求める。
【0022】
被測定空間内における音波の伝搬経路は、被測定空間内の温度分布に依存して変化するが、請求項3記載の発明では、被測定空間の周縁部の互いに異なる複数箇所の間の音波の伝搬時間を各々測定し、複数箇所の間の音波の伝搬経路を直線と仮定して被測定空間内の温度分布を演算により求め、求めた温度分布に基づき複数箇所の間の音波の伝搬経路を補正している。これにより、実際の音波の伝搬経路により近い伝搬経路を得ることができる。
【0023】
そして、請求項3の発明では、測定した複数箇所の間の音波の伝搬時間及び補正によって得られた複数箇所の間の音波の伝搬経路に基づいて、被測定空間内の温度分布を演算により再度求めているので、被測定空間内の温度分布を精度良く求めることができる。なお請求項3の発明において、音波の伝搬経路を補正し、被測定空間内の温度分布を再度求めることを、複数回繰り返すようにすれば、被測定空間内の温度を更に精度良く求めることができる。
【0024】
ところで、本願発明者等は被測定空間内の湿度分布を測定するために、湿度に依存して変化する物理量について検討を行った。その結果、空気中を伝搬する音波の減衰率が、空気の温度、湿度、及び音波の周波数によって変化することを見い出し、被測定空間内の音波の減衰率の分布、被測定空間内の温度分布、及び音波の周波数から、被測定空間内の湿度分布を求めることができる、との知見を得た。
【0025】
このため、請求項4記載の発明に係る環境状態測定方法は、被測定空間の周縁部の互いに異なる複数箇所の間の音波の伝搬時間及び減衰量を各々測定し、前記複数箇所の間の音波の伝搬時間に基づいて、前記被測定空間内の温度分布を演算により求めると共に、前記複数箇所の間の音波の減衰量に基づいて、前記被測定空間内の音波の減衰率の分布を演算によって求め、前記被測定空間内の音波の減衰率の分布、前記被測定空間内の温度分布、及び前記減衰量の測定に用いた音波の周波数に基づいて、前記被測定空間内の湿度分布を演算によって求める。
【0026】
請求項4記載の発明では、被測定空間の周縁部の互いに異なる複数箇所の間の音波の伝搬時間及び減衰量を各々測定している。なお、複数箇所の間の音波の減衰量は、音波の伝搬時間の測定と同様に、例えば複数箇所の各々にスピーカ等の音波発生手段と、マイクロフォン等の音波検知手段を設け、或る箇所で発生させた所定の音量の音波が、他の箇所でどの程度の音量で検知されるかを測定し、音波発生時の音量、音波検知時の音量、音波発生手段及び音波検知手段の効率に基づいて音波の減衰量を求めることを、前記複数箇所の間で各々行うことによって得ることができる。
【0027】
また請求項4の発明では、複数箇所の間の音波の伝搬時間に基づいて被測定空間内の温度分布を演算により求めると共に、複数箇所の間の音波の減衰量に基づいて被測定空間内の音波の減衰率の分布を演算によって求めている。被測定空間内の音波の減衰率の分布は、先に述べた被測定空間内の温度分布と同様に、例えば被測定空間を仮想的に多数の領域(ボクセル)に区切り、或る一対の箇所の間を音波が伝搬した際に前記一対の箇所の間に存在する各領域を音波が横切る距離を求め、前記一対の箇所の間を音波が伝搬した際の減衰量と、前記各領域における音波の減衰率との関係を、前記各領域を音波が横切る距離を用いて数式で表すことを前記複数箇所の間について各々行って連立方程式を立て、測定した複数箇所の間の音波の減衰量を連立方程式に代入した後に、各領域における音波の減衰率を演算することによって求めることができる。
【0028】
そして請求項4の発明では、被測定空間内の音波の減衰率の分布、被測定空間内の温度分布、及び減衰量の測定に用いた音波の周波数に基づいて、被測定空間内の湿度分布を演算によって求めている。従って請求項4の発明によれば、従来は測定方法が確立されていなかった被測定空間内の湿度分布を求めることを、被測定空間の中央部付近に湿度センサ等の湿度検出手段を設けることなく実現することができる。
【0029】
なお、請求項3又は請求項4の発明における被測定空間内の温度分布の演算に際しては、請求項5に記載したように、被測定空間内でかつ被測定空間を区画する壁体から所定距離離れた位置の温度を求め、被測定空間内の温度分布を、前記壁体から所定距離離れた位置の温度も用いて演算により求めることが好ましい。壁体から所定距離離れた位置の温度は、請求項1のように測定によって得るようにしてもよいし、請求項2のように壁体と壁体から所定距離離れた位置の温度差を予め測定しておき、壁体の温度を測定し、測定した壁体の温度及び予め測定した温度差に基づいて推定するようにしてもよい。これにより、被測定空間内の温度分布をより高精度に求めることができる。また請求項4の発明では、高精度に求めた温度分布に基づいて、被測定空間内の湿度分布もより高精度に求めることができる。
【0030】
請求項6記載の発明は、請求項4の発明において、被測定空間内でかつ前記被測定空間を区画する壁体から所定距離離れた位置の湿度を求め、前記被測定空間内の湿度分布を、前記壁体から所定距離離れた位置の湿度も用いて演算により求めることを特徴としている。
【0031】
前述のように、被測定空間内のうち壁体の温度は被測定空間内の温度と必ずしも一致しておらず、被測定空間内の壁体近傍では、壁体の温度の影響を受けて温度が大きく変化していることが一般的であるが、これに伴って、前記壁体近傍では湿度も大きく変化していることが多い。これに対し請求項6の発明では、被測定空間内でかつ被測定空間を区画する壁体から所定距離離れた位置の湿度を求め、被測定空間内の湿度分布を、壁体から所定距離離れた位置の湿度も用いて演算により求めており、被測定空間内の湿度分布の演算における未知数が減少すると共に、壁体の温度による影響を小さく又は排除することができるので、被測定空間内の湿度分布をより精度良く求めることができる。
【0032】
なお、壁体から所定距離離れた位置の湿度は、請求項1と同様に測定によって得るようにしてもよいし、請求項2と同様に、壁体と壁体から所定距離離れた位置の湿度差を予め測定しておき、壁体の湿度を測定し、測定した壁体の湿度及び予め測定した湿度差に基づいて推定するようにしてもよい。
【0033】
また本願発明者等は、空気中を伝搬する音波の減衰率と、空気の温度、湿度、及び音波の周波数との関係について考察し、空気の温度及び湿度が或る範囲内の場合には、湿度の変化に拘らず音波の減衰率が変化しない不感領域があること、及びこの不感領域が生ずるときの空気の温度及び湿度は、音波の周波数によって異なっている、との知見を得た。
【0034】
上記に基づき請求項7記載の発明は、請求項4の発明において、前記複数箇所の間の音波の減衰量を測定し、前記被測定空間内の音波の減衰率の分布を演算によって求めることを、複数種の周波数の音波について各々行い、前記複数種の周波数の音波について各々求めた前記被測定空間内の音波の減衰率の分布、前記被測定空間内の温度分布、及び前記複数種の周波数に基づいて、前記被測定空間内の湿度分布を演算によって求めることを特徴としている。
【0035】
請求項7記載の発明では、前記複数箇所の間の音波の減衰量を測定し、前記被測定空間内の音波の減衰率の分布を演算によって求めることを、複数種の周波数の音波について各々行い、複数種の周波数の音波について各々求めた前記被測定空間内の音波の減衰率の分布を用いて被測定空間内の湿度分布を演算によって求めている。これにより、被測定空間内の環境条件(温度及び湿度)が、特定の周波数の音波では湿度の変化に拘らず減衰率が変化しない条件(前記特定の周波数の音波では湿度の変化に対して減衰率が不感領域となる条件)であったとしても、別の周波数の音波の減衰率の分布から被測定空間内の湿度分布を求めることができる。
【0036】
ところで、音波の減衰量の測定に際し、音波の減衰量が非常に大きい場合には、発生させる音波の音量を大きくしたり、高感度の音波検知手段によって音波を検知する必要が有り、音波の減衰量が非常に小さい場合には、高感度の音波検知手段によって音波の音量を精密に検知する必要が有る。そして、或る二点間を伝搬する音波の減衰量は、前記二点間の距離によって大きく変化する。
【0037】
このため、請求項8記載の発明は、請求項4の発明において、前記複数箇所の間の音波の減衰量の測定に用いる音波の周波数を、被測定空間の大きさに応じて変更することを特徴としている。
【0038】
音波の減衰率は音波の周波数によって大きく変化し、温度及び湿度が一定であっても音波の周波数が高周波になるに従って減衰率は高くなる。請求項8の発明では、音波の減衰量の測定に用いる音波の周波数を、被測定空間の大きさに応じて変更しているので、被測定空間の大きさ、すなわち複数箇所の間の距離に拘らず、複数箇所の間を伝搬する音波の減衰量が、測定に好適な値となるように調整することができる。これにより、複数箇所の間の音波の減衰量を効率良く測定することができる。
【0039】
なお、請求項8の発明における音波の周波数の変更は、具体的には、被測定空間の大きさが大きくなるに従って、すなわち複数箇所の間の距離が大きくなるに従って、周波数が低くなるように変更することができる。
【0040】
請求項9記載の発明に係る環境状態測定装置は、被測定空間の周縁部の互いに異なる複数箇所の間の音波の伝搬時間を各々測定する伝搬時間測定手段と、前記被測定空間内でかつ前記被測定空間を区画する壁体から所定距離離れた位置の温度を測定する温度測定手段と、前記伝搬時間測定手段によって測定された前記複数箇所の間の音波の伝搬時間、及び前記温度測定手段によって測定された前記壁体から所定距離離れた位置の温度に基づいて、前記被測定空間内の温度分布を演算により求める温度分布演算手段と、を含んで構成しているので、請求項1の発明と同様に、被測定空間内の温度分布を高精度に求めることができる。
【0041】
請求項10記載の発明に係る環境状態測定装置は、予め測定された、被測定空間を区画する壁体と、前記被測定空間内でかつ前記壁体から所定距離離れた位置と、の温度差を記憶する記憶手段と、前記被測定空間の周縁部の互いに異なる複数箇所の間の音波の伝搬時間を各々測定する伝搬時間測定手段と、前記壁体の温度を測定する壁体温度測定手段と、前記壁体温度測定手段によって測定された壁体の温度及び前記記憶手段に記憶されている温度差に基づいて、前記壁体から所定距離離れた位置の温度を推定する温度推定手段と、前記伝搬時間測定手段によって測定された前記複数箇所の間の音波の伝搬時間、及び前記温度推定手段によって推定された前記壁体から所定距離離れた位置の温度に基づいて、前記被測定空間内の温度分布を演算により求める温度分布演算手段と、を含んで構成しているので、請求項2の発明と同様に、被測定空間内の温度分布を高精度に求めることができる。
【0042】
請求項11記載の発明に係る環境状態測定装置は、被測定空間の周縁部の互いに異なる複数箇所の間の音波の伝搬時間を各々測定する伝搬時間測定手段と、前記伝搬時間測定手段によって測定された前記複数箇所の間の音波の伝搬時間に基づいて、前記複数箇所の間の音波の伝搬経路を直線と仮定して前記被測定空間内の温度分布を演算により求め、求めた温度分布に基づき前記複数箇所の間の音波の伝搬経路を補正し、前記複数箇所の間の音波の伝搬時間、及び前記補正によって得られた複数箇所の間の音波の伝搬経路に基づいて、前記被測定空間内の温度分布を演算により再度求める温度分布演算手段と、を含んで構成しているので、請求項3の発明と同様に、被測定空間内の温度分布を高精度に求めることができる。
【0043】
請求項12記載の発明に係る環境状態測定装置は、被測定空間の周縁部の互いに異なる複数箇所の間の音波の伝搬時間及び減衰量を各々測定する伝搬時間・減衰量測定手段と、前記伝搬時間・減衰量測定手段によって測定された前記複数箇所の間の音波の伝搬時間に基づいて、前記被測定空間内の温度分布を演算により求める温度分布演算手段と、前記伝搬時間・減衰量測定手段によって測定された前記複数箇所の間の音波の減衰量に基づいて前記被測定空間内の音波の減衰率の分布を演算によって求め、前記被測定空間内の音波の減衰率の分布及び前記温度分布演算手段によって演算された前記被測定空間内の温度分布に基づいて、前記被測定空間内の湿度分布を演算によって求める湿度分布演算手段と、を含んで構成しているので、請求項4の発明と同様に、被測定空間の中央部付近に湿度センサ等の湿度検出手段を設けることなく、被測定空間内の湿度分布を求めることができる。
【0044】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0045】
〔第1実施形態〕
図1には、本第1実施形態に係る環境状態測定装置10が示されている。環境状態測定装置10は、多数のノード12A、12B、12C、…と、ホストコンピュータ14を備えており、これらが伝送媒体16を介して互いに接続されて構成されている。ホストコンピュータ14は、CPU14A、ROM14B、RAM14C、入出力ポート14Dを備え、これらがバス14Eを介して互いに接続されて構成されている。入出力ポート14Dはネットワーク伝送部49を介して伝送媒体16に接続されている。また、入出力ポート14Dには、各種の情報を表示するためのディスプレイ18と、オペレータが各種のデータやコマンド等を入力するためのキーボード20が接続されている。
【0046】
一方、多数のノード12は、被測定空間の周縁部に、周縁部の全周に亘って略一定の間隔で配置される。例として図2には、円筒状の壁体22によって区画され、上方が屋根(図示省略)によって閉塞されたドーム状の被測定空間24(例えばドーム球場等)内の環境状態を測定する場合の各ノード12の配置が示されており、各ノード12は壁体22に埋設されている。なお、ノード12の数及び間隔は図2に示した例に限定されるものではない。また、各ノード12を識別するために、各ノードには便宜的にノード番号が付与されている。
【0047】
ノード12A、12B、12C、…は各々同一の構成であるので、以下では図1を参照し、ノード12Aの構成について説明する。ノード12Aは、各々被測定空間24内に向けて配置された、音波発生手段としてのスピーカ30、及び音波検知手段としてのマイクロフォン32を備えている。スピーカ30は、増幅器34、D/A変換器36を介してデータ処理部38に接続されており、マイクロフォン32は、増幅器40、A/D変換器42を介してデータ処理部38に接続されている。
【0048】
データ処理部38はマイクロコンピュータ等を含んで構成され、ネットワーク伝送部48を介して伝送媒体16に接続されており、伝送媒体16及びネットワーク伝送部48を介してホストコンピュータ14から、周波数fの音波の発生が指示されると、指示された周波数fの音波を指示された音量で発生させるためのデータを、所定のタイミングでD/A変換器36に出力する。データ処理部38から出力されたデータは、D/A変換器36でアナログの電気信号に変換され、増幅器34で増幅された後にスピーカ30に供給される。これにより、スピーカ30からは、周波数fの音波が所定の時刻に指示された音量でスピーカ30から発せられる。
【0049】
また、マイクロフォン32から出力される電気信号は、増幅器40で増幅されA/D変換器42でディジタルデータに変換されてデータ処理部38に入力される。データ処理部38は、A/D変換器42を介して入力されるデータに基づいて、マイクロフォン32から出力される電気信号のレベルの変化を監視し、閾値以上の音量の音波が到来したか否か判断する。そして、閾値以上の音量の音波が到来したと判断した場合には、到来した音波の音量及び音波の到来時刻(検知時刻)をメモリ等に記憶する。そして、ネットワーク伝送部48及び伝送媒体16を介してホストコンピュータ14から音波の検知時刻及び音量の問い合わせがあった場合には、記憶している音波の検知時刻及び音量を表すデータをホストコンピュータ14に送信する。
【0050】
また、ノード12は熱電対等から成る温度センサ44を備えている。被測定空間24内の温度は壁体22の温度と異なっており、壁体22の近傍では、壁体22の壁面に近づくに従って壁体22の温度の影響をより強く受けるので、図3(B)に示すように、被測定空間24内の温度は壁体22の近傍で大きく変化している。このため、本実施形態では、壁体22の壁面と、壁体22の温度の影響が略0となる位置との距離L1を予め求め、図3(A)に示すように、温度センサ44が、壁体22の壁面から被測定空間24の中央部に向けて距離L1だけ隔てた位置の温度を測定するように構成されている。
【0051】
温度センサ44は請求項9に記載の温度測定手段に対応しており、温度センサ44を駆動するドライバ46を介してデータ処理部38に接続されている。データ処理部38は、伝送媒体16及びネットワーク伝送部48を介してホストコンピュータ14から温度の測定が指示されると、壁体22の壁面から距離Lだけ隔てた位置の温度を温度センサ44によって測定し、測定結果を表す温度データをホストコンピュータ14に送信する。
【0052】
次に本第1実施形態の作用として、まず図4のフローチャートを参照し、被測定空間24内の環境状態(温度分布及び湿度分布)を求める場合にホストコンピュータ14で実行される伝搬時間・減衰量測定処理について説明する。
【0053】
ステップ100では、被測定空間24の大きさに基づき、測定に用いる音波の周波数を複数種設定する。具体的には、複数種の周波数(f1 、f2 、…)として、スピーカ30が音波を発生可能でマイクロフォン32が音波を検知可能な周波数帯域内の値を設定すると共に、被測定空間24の大きさが大きくなるに従って(すなわち被測定空間12の中央部を挟んで対向するノード12間の距離が大きくなるに従って)、前記複数種の周波数が全体的に低周波側に偏倚するように設定する。上記の周波数の設定は請求項8の発明に対応している。
【0054】
次のステップ102では、ステップ100で設定した複数種の周波数(f1 、f2 、…)の中から、測定未実行の周波数fを選択する。ステップ104ではカウンタmに1を代入し、ステップ106では、ノード番号mのノード12(以下、単にノードmという)に対し、スピーカ30から所定の時刻に周波数fの音波を所定の音量で発生させるよう指示する。これにより、ノードmのスピーカ30からは、所定の時刻に周波数fの音波が所定の音量で発生され、発生された音波は他のノード12のマイクロフォン32で各々検知され、音波の検知時刻及び音量が各々メモリ等に記憶される。
【0055】
ところで本実施形態では、音波を発生させるノードmに対し、残りのノードのうちノードmから比較的離れた位置に存在している所定数のノード12のみを測定対象のノードとしている(図2及び図6には、各ノードから音波を発生させるときの測定対象のノードを線で結んで示す(この線は音波の伝搬時間及び総減衰量の測定対象区間を表している))。このため、ステップ108では、ノードmに対応する測定対象の所定数のノード12のノード番号(n1 、n2 、…)を各々判断し、次のステップ110では、判断したノード番号に基づいて、測定対象の所定数のノード12に対して音波の検知時刻及び音量を各々問い合わせ、測定対象の所定数のノード12から送信された音波の検知時刻及び音量を表すデータを各々取り込む。
【0056】
ステップ112では、ノードmから音波が発生された時刻及び発生された音波の音量、測定対象の所定数のノード12の各々における音波の検知時刻及び音量に基づいて、ノードmのスピーカ30から測定対象のノードnのマイクロフォン32への音波(周波数fの音波)の伝搬時間tmn〔秒〕、ノードmのスピーカ30から測定対象のノードnのマイクロフォン32へ周波数fの音波が伝搬する際の総減衰量Rmnf 〔dB〕を、測定対象の所定数のノード12について各々演算し、周波数fと対応させて記憶する。
【0057】
次のステップ114では、カウンタmの値が最終ノード番号に一致したか否か判定する。判定が否定された場合にはステップ116へ移行し、カウンタmの値を1だけインクリメントしてステップ106に戻る。これにより、ステップ114の判定が肯定される迄の間は、音波を発するノード12を順に切り換えてステップ106〜112の処理が繰り返され、例として図2に示す全ての測定対象区間について、音波の検知時刻及び音量の測定、音波の伝搬時間tmn及び総減衰量Rmnf の演算が行われることになる。
【0058】
上記のステップ106〜116は、各ノードのスピーカ30、マイクロフォン32、データ処理部38と共に、請求項9乃至請求項11に記載の伝搬時間測定手段、請求項12に記載の伝搬時間・減衰量測定手段に対応している。
【0059】
なお、上記では全てのノード12から各々音波を発生させ、測定対象の所定数のノードから音波の検知時刻及び音量を毎回取り込んで音波の伝搬時間tmn及び総減衰量Rmnf を演算しており、例として図2に示す全ての測定対象区間の各々に対し、2方向(一方のノードから他方のノードへ向かう方向、及び他方のノードから一方のノードに向かう方向)について音波の検知時刻及び音量の測定、音波の伝搬時間tmn及び総減衰量Rmnf の演算を行っているが、同一の区間の前記2方向についての音波の伝搬時間及び総減衰量は一般に等しいので、各区間に対し何れか一方の方向についてのみ、音波の検知時刻及び音量の測定、音波の伝搬時間tmn及び総減衰量Rmnf の演算を行うようにしてもよい。
【0060】
これにより、図2の例では1個のノードにはマイクロフォン32を設ける必要がなくなり、別の5個のノードにはスピーカ30を設ける必要がなくなるので、構成を簡単にすることができると共に、図4に示した伝搬時間・減衰量測定処理に要する時間も短縮することができる。
【0061】
ステップ114の判定が肯定されるとステップ118に移行し、先のステップ100で設定した複数種の周波数の各々について、全ての測定対象区間に対する音波の検知時刻及び音量の測定、及び音波の伝搬時間tmn及び総減衰量Rmnf の演算を行ったか否か判定する。判定が否定された場合にはステップ102に戻り、複数種の周波数の中から測定未実行の別の周波数fを選択し、各ノードから選択した周波数fの音波を発生させて、全ての測定対象区間に対する音波の検知時刻及び音量の測定、及び音波の伝搬時間tmn及び総減衰量Rmnf の演算を行う。これにより、全ての測定対象区間における音波の伝搬時間及び総減衰量が、ステップ100で選択した複数種の周波数の音波について各々求められることになる。
【0062】
なお、音速は温度にのみ依存し、同一の区間を伝搬する音波の伝搬時間は、音波の周波数に拘らず等しいので、音波の伝搬時間は単一の周波数の音波についてのみ測定・演算を行い、音波の総減衰量は複数種の周波数について測定・演算を行うようにしてもよい。
【0063】
全ての測定対象区間における音波の伝搬時間及び総減衰量が、複数種の周波数について各々求められると、ステップ118の判定が肯定されてステップ120へ移行する。ステップ120では、全てのノード12に対し温度センサ44による温度の測定を指示する。そして次のステップ122では、全てのノード12からの温度データの取込みを行う。
【0064】
上記のようにして伝搬時間・減衰量測定処理が行われると、続いてホストコンピュータ14では温度・湿度分布演算処理が実行される。この温度・湿度分布演算処理について、図5のフローチャートを参照して説明する。
【0065】
ステップ150では、複数種の周波数について各々測定・演算した音波の伝搬時間のうち、特定の周波数について測定・演算した全ての測定対象区間における音波の伝搬時間tmnを取り込む。
【0066】
ところで、本実施形態では図6に示すように、被測定空間24内を仮想的に多数の矩形状の領域(ボクセル)に区切り、各ボクセル毎に温度及び湿度を演算する。また本実施形態では、各測定対象区間における音波の伝搬経路を各々直線と仮定したときの、音波の伝搬経路が該伝搬経路上に存在する各ボクセルを横切っている距離lmnxy〔m〕(図6参照、但しmは測定対象区間の一端の音波発生側のノードのノード番号、nは測定対象区間の他端の音波検知側のノードのノード番号、x及びyは各ボクセルを識別する符号である)が、各測定対象区間について予め演算されてROM14B等に記憶されている。
【0067】
次のステップ152では、音波の伝搬経路が該伝搬経路上に存在する各ボクセルを横切っている距離lmnxyをROM14Bから取り込む。なお、距離lmnxyはボクセルの大きさ及び位置、ノードm及びノードnの位置から幾何学的に算出可能である。
【0068】
次のステップ154では、ステップ152で取り込んだ距離lmnxyを用い、全ての測定対象区間について、音波の伝搬時間tmnと、音波の伝搬経路上に存在する各ボクセルを音波が通過する際の音速vxy〔m/秒〕との関係を表す方程式を各々生成することにより、被測定空間24内の各ボクセルの温度Txyを各々求めるための連立方程式を生成する。以下、この連立方程式について説明する。
【0069】
音速vは次の(1)式に示すように、音波が伝搬する媒体(空気)の温度Tにのみ依存することが知られている。
【0070】
v= 331.45 + 0.607・T 〔m/秒〕 …(1)
ノードmのスピーカ30からノードnのマイクロフォン32に至る測定対象区間を音波が伝搬する際に、音波の伝搬経路上に存在するボクセルxyを音波が通過する時間tmnxy〔秒〕は次の(2)式により表され、この(2)式を(1)式に代入すると次の(3)式が得られる。
【0071】
tmnxy=lmnxy/vxy …(2)
tmnxy=lmnxy/(331.45+ 0.607・Txy) …(3)
但し、Txyはボクセルxy内の温度〔℃〕である。ノードmのスピーカ30からノードnのマイクロフォン32に至る音波の伝搬経路は多数のボクセルを横切っており、スピーカmから前記経路を伝搬してマイクロフォンnに至る音波の伝搬時間tmnは、前記多数のボクセルの各々における音波の通過時間の総和であるので、
上記の(4)式で表すことができる。ここで、
Qxy=1/vxy=1/(331.45+ 0.607・Txy) …(5)
とすれば、先の(4)式から、ノードmのスピーカ30からノードnのマイクロフォン32に至る音波の伝搬経路が横切っている各ボクセル内の温度の関数であるQxy(各ボクセルを音波が通過する際の音速vxyの逆数)の一次多項式である(6)式が得られる。
【0072】
tmn=Σ(lmnxy・Qxy) …(6)
各測定対象区間における音波の伝搬時間tmn及び距離lmnxyは既知であるので、ステップ154では、各測定対象区間における音波の伝搬時間tmn及び距離lmnxyを(6)式に各々代入することにより、測定対象区間の数と同数の1次多項式(連立方程式)を生成する。
【0073】
なお、上記の連立方程式を解くことで、各ボクセルについて変数Qxyの値を得ることができ、変数Qxyを(5)式に代入することで各ボクセル内の温度Txyを逆算により求めることができるが、被測定空間24内の周縁部付近に位置している一部のボクセルについては、温度センサ44によって温度が実測されている。このためステップ156では、温度が既知のボクセルについて、各ノードから取込んだ温度データが表す温度Txyを(5)式に代入して変数Qxyの値を演算し、演算したQxyの値を連立方程式に代入する。
【0074】
そして次のステップ158では、温度が既知のボクセルについて変数Qxyの値を代入した連立方程式を解いて、温度が未知のボクセルの変数Qxyの値を求め、求めた変数Qxyの値を(5)式に代入することで各ボクセル内の温度Txyを逆算によって求める。これにより、被測定空間24内の各ボクセル毎の温度、すなわち被測定空間24内の温度分布が演算により求まることになる。
【0075】
上記では温度センサ44によって壁体22の壁面から距離L1だけ隔てた位置(壁体22の温度の影響が略0となる位置)の温度を測定し、測定した温度を連立方程式に代入した後に、連立方程式を解いて各ボクセルの温度を求めており、被測定空間24の周縁部の温度の実測値を用いて温度分布を求めていると共に、前記実測値は壁体22の温度の影響が略0となる位置で測定した値であるので、被測定空間24内の温度分布を精度良く求めることができる。
【0076】
ステップ160では、先のステップ158で求めた被測定空間24内の温度分布に基づき、各測定対象区間における音波の伝搬経路を各々補正する。この音波の伝搬経路の補正は、例えば以下のように行うことができる。
【0077】
例として図7(A)に示すように被測定空間24内の温度分布が求まり、測定対象区間の1つであるノードmとノードnとの間における音波の伝搬経路を補正する場合、補正前の伝搬経路(図7(A)では直線で示す)に直交する方向に沿った温度変化の勾配を、補正前の伝搬経路の一端から他端に亘って演算する。なお、図7(B)には、伝搬経路に直交する方向に沿った温度変化の勾配を、勾配が大きくなるに従って長さを長くした太線で示している。
【0078】
次に、伝搬経路上の各部分における曲率半径を、温度変化の勾配の大きさに反比例するように(温度変化の勾配が大きくなるに従って曲率半径が小さくなるように)決定し、伝搬経路に直交する方向に沿った温度変化における高温側が凸となるように、決定した曲率半径に従って伝搬経路を湾曲させる。図7(C)に示しているノードmとノードnを結ぶ曲線は、決定した曲率半径に従って湾曲させた後の伝搬経路を示している。
【0079】
続いて、湾曲させた伝搬経路に対し、その両側に、伝搬経路から等しい間隔を隔てて伝搬経路に平行な一対の仮想線(図7(C)に示す仮想線50A、50B参照)を設定すると共に、伝搬経路及び一対の仮想線を、伝搬経路に沿って所定間隔毎に、伝搬経路に直交する仮想的な区分線(図7(C)に示す区分線52参照)によって複数の区間に区切り、各区間において、一対の仮想線上を伝搬する音波の伝搬時間が互いに等しくなるように、伝搬経路の湾曲度合いを更に補正する。
【0080】
上記の補正処理を、全ての測定対象区間における音波の伝搬経路に対して各々行うと、次のステップ162へ移行し、ステップ160における伝搬経路の補正において、伝搬経路に対する補正量(例えば補正前の伝搬経路に対する補正後の伝搬経路の距離の最大値や、補正前の伝搬経路と補正後の伝搬経路とで囲まれた部分の面積等)が所定値以上となった伝搬経路が有るか否か判定する。判定が肯定された場合には、ステップ164へ移行する。
【0081】
図8(A)と(B)を比較しても明らかなように、音波の伝搬経路を補正した場合、伝搬経路上に存在するボクセルが変化したり、伝搬経路が各ボクセルを横切っている距離が変化する。このためステップ164では、先のステップ160の補正を行った後の全ての測定対象区間における音波の伝搬経路が、該伝搬経路上に存在する各ボクセルを横切っている距離lmnxyを各々演算し、ステップ154に戻る。
【0082】
これにより、ステップ154以降では、補正後の音波の伝搬経路に基づいて被測定空間24内の温度分布が再度演算されるので、例として図8(C)にも示すように一部のボクセルの温度Txyが変化し、各測定対象区間における音波の伝搬経路を直線と仮定して被測定空間24内の温度分布を演算したことによって生じた誤差が小さくされる。そして、ステップ154〜164はステップ162の判定が肯定されている間繰り返されるので、被測定空間24内の温度分布を高精度に求めることができる。
【0083】
なお、上述したステップ150〜164は、請求項9乃至請求項12に記載の温度分布演算手段に対応しており、より詳しくは、ステップ152、及びステップ154〜158の処理を第1回目に実行することは請求項11に記載の温度分布演算手段における「複数箇所の間の音波の伝搬経路を直線と仮定して被測定空間内の温度分布を演算により求め」ることに対応しており、ステップ160は、請求項11に記載の温度分布演算手段における「温度分布に基づき複数箇所の間の音波の伝搬経路を補正」することに対応しており、ステップ162の判定が肯定されることにより、ステップ164、及びステップ154以降の処理を再度実行することは、請求項11に記載の温度分布演算手段における「複数箇所の間の音波の伝搬時間、及び補正によって得られた複数箇所の間の音波の伝搬経路に基づいて、被測定空間内の温度分布を演算により再度求める」ことに対応している。
【0084】
ステップ162の判定が否定されるとステップ166へ移行し、複数種の周波数について各々測定・演算した音波の総減衰量のうち、或る周波数fについて測定・演算した全ての測定対象区間における音波の総減衰量Rmnf を取り込む。次のステップ168では、ステップ166で取り込んだ総減衰量Rmnf を用い、全ての測定対象区間について、音波の総減衰量Rmnf と、音波の伝搬経路上に存在する各ボクセルの周波数fの音波についての減衰率Rxyf との関係を表す方程式を各々生成し、被測定空間24内の各ボクセルの周波数fの音波についての減衰率Rxyf を各々求めるための連立方程式を生成する。以下、この連立方程式について説明する。
【0085】
ノードmのスピーカ30からノードnのマイクロフォン32に至る測定対象区間を周波数fの音波が伝搬する際に、音波の伝搬経路上に存在するボクセルxyにおける減衰量Rmnxyf は、ボクセルxyを周波数fの音波が通過する際の単位距離当りの減衰量(減衰率)をRxyf 〔dB/m〕とすると、
Rmnxyf =lmnxy・Rxyf …(7)
上記の(7)式で表すことができる。従って、ノードmのスピーカ30からノードnのマイクロフォン32に至る測定対象区間を周波数fの音波が伝搬する際の総減衰量Rmnf 〔dB〕は、各ボクセルにおける周波数fの音波についての減衰率Rxyf の一次多項式である次の(8)式で表すことができる。
【0086】
但し、Φmnspはノードmのスピーカ30の指向特性や周波数特性等を考慮した電気−音響変換特性、Φmnmic はノードnのマイクロフォン32の指向特性や周波数特性等を考慮した音響−電気変換特性である。
【0087】
各測定対象区間における周波数fの音波の総減衰量Rmnf 及び距離lmnxyは既知であり、本実施形態では、変換特性Φmnsp及びΦmnmic は、スピーカ30やマイクロフォン32の指向特性や周波数特性に基づき予め算出されてROM14Bに記憶されている。従って、ステップ168では、各測定対象区間における音波の総減衰量Rmnf 、及び補正後の音波の伝搬経路から先のステップ164で演算した距離lmnxyを(8)式に各々代入することにより、測定対象区間の数と同数の1次多項式(連立方程式)を生成する。
【0088】
次のステップ170では、上記の連立方程式を解いて各ボクセルにおける周波数fの音波についての減衰率Rxyf を求める。これにより、周波数fの音波についての被測定空間24内の減衰率の分布が演算により求まることになる。次のステップ172では複数種の周波数について被測定空間24内の減衰率の分布を求めたか否か判定する。判定が否定された場合にはステップ172に戻り、減衰率の分布を求めていない他の周波数fについて測定・演算した音波の総減衰量Rmnf を取り込み、上記と同様にして被測定空間24内の減衰率の分布を求める。
【0089】
ステップ166〜172を複数回繰り返し、複数種の周波数について被測定空間24内の減衰率の分布を全て求めると、ステップ172の判定が肯定されてステップ174へ移行する。ステップ174では、被測定空間24内の温度分布、及び複数種の周波数について各々求めた被測定空間24内の減衰率の分布に基づいて、各ボクセルの湿度を各々演算する。
【0090】
具体的には、図9〜図13から明らかなように、空気中を通過する音波の単位距離当りの減衰率(距離減衰率)は、気温及び湿度によって変化すると共に、音波の周波数によっても変化する。また、空気の温度及び音波の周波数によっては、湿度の変化に拘らず減衰率が変化しない不感領域が生ずる。例えば図10に示す気温が0℃の場合には、周波数 250〔HZ 〕の音波について湿度の変化に拘らず減衰率が殆ど変化しない不感領域が生じ、同様に、図11に示す気温が10℃の場合には周波数 250〔HZ 〕及び 500〔HZ 〕の音波、図12に示す気温が20℃の場合には周波数2〔kHZ 〕の音波、図13に示す気温が30℃の場合には周波数4〔kHZ 〕の音波について湿度の変化に拘らず減衰率が殆ど変化しない不感領域が生じている。
【0091】
本実施形態では、上記の不感領域の影響で湿度が不定となることを回避するために複数種の周波数について減衰率の分布を求めている。このため、湿度の演算にあたっては、温度、周波数及び減衰率をパラメータ(入力)とし、これらのパラメータに合致する湿度を出力する3次元のルックアップテーブルを作成するか、或いは次の(9)式のように、温度、周波数及び減衰率と湿度との関係を関数式として定めておく。
【0092】
Hxy=function(Txy,f,Rxyf ) …(9)
但し、Hxyはボクセルxy内の相対湿度〔%〕である。
【0093】
そして、先に求めた被測定空間24内の温度分布、先に求めた複数種の周波数についての被測定空間24内の減衰率の分布から、前述のルックアップテーブル又は関数式を用いて、各ボクセル毎に相対湿度Hxyを求める。これにより、被測定空間内の湿度分布が求まることになる。
【0094】
なお、不感領域に関しては、温度、減衰率、及び周波数の各値の組み合わせから、不感領域に相当する条件か否かを判断し、不感領域に相当する条件であると判断したデータを用いないようにするか、或いは入力が不感領域に相当する条件のときには相対湿度データが出力されないようにルックアップテーブルを作成しておけば、不感領域の影響を受けることなく、被測定空間24内の湿度分布を精度良く求めることができる。
【0095】
上述したステップ166〜174は請求項12に記載の湿度分布演算手段に対応しており、より詳しくは、ステップ166〜172は、前記湿度分布演算手段における「複数箇所の間の音波の減衰量に基づいて被測定空間内の音波の減衰率の分布を演算によって求め」ることに対応しており、ステップ174は、前記湿度分布演算手段における「被測定空間内の音波の減衰率の分布、被測定空間内の温度分布、及び減衰量の測定に用いた音波の周波数に基づいて、被測定空間内の湿度分布を演算によって求める」ことに対応している。また、ステップ174において複数種の周波数についての被測定空間24内の減衰率の分布を用いることは、請求項7記載の発明に対応している。
【0096】
次のステップ176では、上記により得られた被測定空間24内の温度分布及び湿度分布を、例として図14に示すコンターマップ等の形態でディスプレイ18に表示し、処理を終了する。なお、ディスプレイ18への表示に代えて、被空調空間24内の空気調和を行う空調装置に対し、被測定空間24内の温度分布及び湿度分布を表すデータを出力するようにしてもよい。これにより、空調装置が被測定空間24に対し、快適性と省エネルギーの双方を満足する空気調和を行うことが可能となる。
【0097】
〔第2実施形態〕
次に本発明の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同一の部分には同一の符号を付し、説明を省略する。図15には本第2実施形態に係る環境状態測定装置60が示されている。
【0098】
この環境状態測定装置60では、各ノード12が、壁体22の壁面近傍の位置の湿度を検出する湿度センサ62を備えている。湿度センサ62はドライバ64を介してデータ処理部38に接続されている。データ処理部38は、伝送媒体16及びネットワーク伝送部48を介してホストコンピュータ14から湿度の測定が指示されると、壁体22の壁面近傍の位置の湿度を湿度センサ62によって測定し、測定結果を表す湿度データをホストコンピュータ14に送信する。
【0099】
また、本第2実施形態に係る温度センサ44は、請求項10に記載の壁体温度測定手段に対応しており、図16(A)に示すように、壁体22の壁面近傍の温度(より詳しくは壁体22の壁面から被測定空間24の中央部に向けて距離L2(L2≪L1)だけ隔てた位置の温度)を測定するように構成されている。
【0100】
本第2実施形態では、温度センサ44によって測定される壁体22の壁面から距離L2だけ隔てた位置の温度と、壁体22の温度の影響が略0となる位置(例えば前記壁面から距離L1以上離れた位置)の温度と、の温度差ΔTが予め測定され、ホストコンピュータ14のROM14B(請求項10に記載の記憶手段に相当)に記憶されている。また、湿度に関しても、湿度センサ62によって測定される壁体22の壁面近傍の湿度と、壁体22の温度の影響が略0となる位置(例えば前記壁面から距離L1以上離れた位置)の湿度と、の温度差ΔHが予め測定され、ホストコンピュータ14のROM14Bに記憶されている。
【0101】
次に本第2実施形態の作用として、まず図17のフローチャートを参照し、本第2実施形態に係る伝搬時間・減衰量測定処理について、第1実施形態に係る伝搬時間・減衰量測定処理(図4)と異なる部分についてのみ説明する。
【0102】
本第2実施形態に係る伝搬時間・減衰量測定処理では、ステップ100〜118において、複数種の周波数について、全ての測定対象区間に対する音波の検知時刻及び音量の測定、及び音波の伝搬時間tmn及び総減衰量Rmnf の演算を行った後に、ステップ121において、全てのノード12に対し温度センサ44による温度の測定及び湿度センサ62による湿度の測定を指示する。そして次のステップ123では、全てのノード12からの温度データ及び湿度データの取込みを行う。
【0103】
次に図18のフローチャートを参照し、本第2実施形態に係る温度・湿度分布演算処理について、第1実施形態に係る温度・湿度分布演算処理(図5)と異なる部分についてのみ説明する。
【0104】
本第2実施形態に係る温度・湿度分布演算処理では、ステップ154で被測定空間24内の各ボクセルの温度Txyを各々求めるための連立方程式を生成した後に、次のステップ155において、各ノードから取込んだ温度データを、ROM14Bに記憶されている温度差ΔTにより補正する。このステップ155は、請求項10に記載の温度推定手段に対応している。これにより、壁体22の温度の影響が略0となるように補正した温度データを得ることができる。そして、次のステップ157では、補正後の温度データが表す温度Txyを(5)式に代入して変数Qxyの値を演算し、演算したQxyの値を連立方程式に代入する。
【0105】
本第2実施形態では、壁体22の壁面近傍の温度を測定し、測定によって得られた温度データを、予め測定した温度差ΔTにより壁体22の温度の影響が略0となるように補正した後に連立方程式に代入しているので、第1実施形態と同様に被測定空間24内の温度分布を精度良く求めることができる。また、本第2実施形態によれば、温度センサ44を壁体22の壁面から大きく突出させる必要がないので、見栄えが向上する。
【0106】
また、本第2実施形態に係る温度・湿度分布演算処理では、ステップ166〜172で複数種の周波数について被測定空間24内の減衰率の分布を求めた後に、ステップ173において、各ノードから取込んだ湿度データを、ROM14Bに記憶されている湿度差ΔHにより補正する。これにより、壁体22の温度の影響が略0となるように補正した湿度データを得ることができる。そして、次のステップ175では、被測定空間24内の温度分布、及び複数種の周波数について各々求めた被測定空間24内の減衰率の分布に基づいて、各ボクセルの湿度を各々演算するが、補正後の湿度データにより相対湿度が既知である壁体22の壁面近傍のボクセルxyについては、補正後の湿度データを相対湿度Hxyとして設定する。これにより被測定空間24内の湿度分布が求まる。
【0107】
なお、上記のように、補正後の湿度データも用いて被測定空間24内の湿度分布を求めることは、請求項6の発明に対応している。
【0108】
このように、本第2実施形態では、壁体22の壁面近傍の湿度を測定し、測定によって得られた湿度データを、予め測定した湿度差ΔHにより壁体22の温度の影響が略0となるように補正し、補正後の湿度データも用いて被測定空間24内の湿度分布を求めているので、被測定空間24内の湿度分布をより精度良く求めることができる。
【0109】
なお、第2実施形態では湿度センサ62によって壁体22の壁面近傍の湿度を測定し、予め測定した湿度差ΔHにより壁体22の温度の影響が略0となるように湿度データを補正していたが、これに限定されるものではなく、第1実施形態で説明した温度センサ44と同様に、湿度センサ62によって壁体22の温度の影響が略0となる位置(例えば壁面から距離L1だけ隔てた位置)の湿度を測定し、測定した湿度を補正することなく用いて被測定空間24内の湿度分布を求めるようにしてもよい。
【0110】
また、上記では本発明を、円筒状の壁体によって区画され、上方が屋根によって閉塞されたドーム球場等のドーム状の被測定空間24の温度分布、湿度分布の測定に適用した場合を説明したが、被測定空間の形状や用途等は上記に限定されるものではなく、本発明は、例えば劇場、病院等の空間において快適性と省エネルギーの双方を満足する空気調和を行う場合や、或いはクリーンルーム内の温度及び湿度を精密に所望の値に制御する等の場合に適用可能であることは言うまでもない。
【0111】
【発明の効果】
以上説明したように請求項1及び請求項9記載の発明は、被測定空間の周縁部の互いに異なる複数箇所の間の音波の伝搬時間を各々測定すると共に、被測定空間を区画する壁体から所定距離離れた位置の温度を測定し、音波の伝搬時間及び壁体から所定距離離れた位置の温度に基づいて、被測定空間内の温度分布を演算により求めるようにしたので、被測定空間内の温度分布を高精度に求めることができる、という優れた効果を有する。
【0112】
請求項2及び請求項10記載の発明は、被測定空間を区画する壁体と該壁体から所定距離離れた位置との温度差を予め測定し、被測定空間の周縁部の互いに異なる複数箇所の間の音波の伝搬時間を各々測定すると共に、壁体の温度を測定し、測定した壁体の温度及び前記温度差に基づいて壁体から所定距離離れた位置の温度を推定し、音波の伝搬時間及び壁体から所定距離離れた位置の温度に基づいて、被測定空間内の温度分布を演算により求めるようにしたので、被測定空間内の温度分布を高精度に求めることができる、という優れた効果を有する。
【0113】
請求項3及び請求項11記載の発明は、被測定空間の周縁部の互いに異なる複数箇所の間の音波の伝搬時間を各々測定し、複数箇所の間の音波の伝搬時間に基づいて音波の伝搬経路を直線と仮定して被測定空間内の温度分布を演算により求め、求めた温度分布に基づき音波の伝搬経路を補正し、音波の伝搬時間及び補正によって得られた音波の伝搬経路に基づいて、被測定空間内の温度分布を演算により再度求めるようにしたので、被測定空間内の温度分布を高精度に求めることができる、という優れた効果を有する。
【0114】
請求項4及び請求項12記載の発明は、被測定空間の周縁部の互いに異なる複数箇所の間の音波の伝搬時間及び減衰量を各々測定し、音波の伝搬時間に基づいて被測定空間内の温度分布を演算により求めると共に、音波の減衰量に基づいて被測定空間内の音波の減衰率の分布を演算によって求め、音波の減衰率の分布、温度分布、及び減衰量の測定に用いた音波の周波数に基づいて、被測定空間内の湿度分布を演算によって求めるようにしたので、被測定空間の中央部付近に湿度センサ等を設けることなく、被測定空間内の湿度分布を求めることができる、という優れた効果を有する。
【0115】
請求項5記載の発明は、請求項3又は請求項4の発明において、被測定空間を区画する壁体から所定距離離れた位置の温度を求め、壁体から所定距離離れた位置の温度も用いて被測定空間内の温度分布を求めるようにしたので、上記効果に加え、被測定空間内の温度分布をより高精度に求めることができる、という効果を有する。
【0116】
請求項6記載の発明は、請求項4の発明において、被測定空間を区画する壁体から所定距離離れた位置の湿度を求め、壁体から所定距離離れた位置の湿度も用いて被測定空間内の湿度分布を求めるようにしたので、上記効果に加え、被測定空間内の湿度分布をより精度良く求めることができる、という効果を有する。
【0117】
請求項7記載の発明は、請求項4の発明において、複数箇所の間の音波の減衰量を測定して被測定空間内の音波の減衰率の分布を求めることを、複数種の周波数の音波について各々行い、複数種の周波数の音波について各々求めた被測定空間内の音波の減衰率の分布、被測定空間内の温度分布、及び複数種の周波数に基づいて、被測定空間内の湿度分布を演算によって求めるようにしたので、上記効果に加え、被測定空間内の温度及び湿度が、特定の周波数の音波では減衰率が不感領域となる条件であったとしても、被測定空間内の湿度分布を求めることができる、という効果を有する。
【0118】
請求項8記載の発明は、請求項4の発明において、音波の減衰量の測定に用いる音波の周波数を、被測定空間の大きさに応じて変更するようにしたので、上記効果に加え、音波の減衰量を効率良く測定することができる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施形態に係る環境状態測定装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】ノードの配置及び測定対象区間を示す被測定空間の平面図である。
【図3】(A)は第1実施形態に係る温度センサの概略構成図、(B)は壁面からの距離と被測定空間内の温度との関係を示す線図である。
【図4】第1実施形態に係る伝搬時間・減衰量測定処理を示すフローチャートである。
【図5】第1実施形態に係る温度・湿度分布演算処理を示すフローチャートである。
【図6】被測定空間内のボクセル、音波の伝搬経路がボクセル内を横切っている距離を示す概念図である。
【図7】(A)乃至(C)は、被測定空間内の温度分布に基づく音波の伝搬経路の補正を説明するための概念図である。
【図8】(A)乃至(C)は、補正後の音波の伝搬経路に基づく被測定空間内の温度分布の再演算を説明するための概念図である。
【図9】気温が−10℃の条件での、相対湿度と、各種周波数の音波の距離減衰率と、の関係を示す線図である。
【図10】気温が0℃の条件での、相対湿度と、各種周波数の音波の距離減衰率と、の関係を示す線図である。
【図11】気温が+10℃の条件での、相対湿度と、各種周波数の音波の距離減衰率と、の関係を示す線図である。
【図12】気温が+20℃の条件での、相対湿度と、各種周波数の音波の距離減衰率と、の関係を示す線図である。
【図13】気温が+30℃の条件での、相対湿度と、各種周波数の音波の距離減衰率と、の関係を示す線図である。
【図14】被測定空間内の温度分布及び湿度分布の表示例を示すイメージ図である。
【図15】第2実施形態に係る環境状態測定装置の概略構成を示すブロック図である。
【図16】(A)は第2実施形態に係る温度センサの概略構成図、(B)は壁面からの距離と被測定空間内の温度との関係を示す線図である。
【図17】第2実施形態に係る伝搬時間・減衰量測定処理を示すフローチャートである。
【図18】第2実施形態に係る温度・湿度分布演算処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
10 環境状態測定装置
12 ノード
14 ホストコンピュータ
22 壁体
24 被測定空間
30 スピーカ
32 マイクロフォン
38 データ処理部
44 温度センサ
60 環境状態測定装置
62 湿度センサ
Claims (12)
- 被測定空間の周縁部の互いに異なる複数箇所の間の音波の伝搬時間を各々測定すると共に、
前記被測定空間内でかつ前記被測定空間を区画する壁体から所定距離離れた位置の温度を測定し、
前記複数箇所の間の音波の伝搬時間、及び前記壁体から所定距離離れた位置の温度に基づいて、前記被測定空間内の温度分布を演算により求める
環境状態測定方法。 - 被測定空間を区画する壁体と、前記被測定空間内でかつ前記壁体から所定距離離れた位置と、の温度差を予め測定しておき、
前記被測定空間の周縁部の互いに異なる複数箇所の間の音波の伝搬時間を各々測定すると共に、
前記壁体の温度を測定し、測定した壁体の温度及び前記予め測定した温度差に基づいて、前記壁体から所定距離離れた位置の温度を推定し、
前記複数箇所の間の音波の伝搬時間、及び前記壁体から所定距離離れた位置の温度に基づいて、前記被測定空間内の温度分布を演算により求める
環境状態測定方法。 - 被測定空間の周縁部の互いに異なる複数箇所の間の音波の伝搬時間を各々測定し、
前記複数箇所の間の音波の伝搬時間に基づいて、前記複数箇所の間の音波の伝搬経路を直線と仮定して前記被測定空間内の温度分布を演算により求め、
求めた温度分布に基づき前記複数箇所の間の音波の伝搬経路を補正し、
前記複数箇所の間の音波の伝搬時間、及び前記補正によって得られた複数箇所の間の音波の伝搬経路に基づいて、前記被測定空間内の温度分布を演算により再度求める
環境状態測定方法。 - 被測定空間の周縁部の互いに異なる複数箇所の間の音波の伝搬時間及び減衰量を各々測定し、
前記複数箇所の間の音波の伝搬時間に基づいて、前記被測定空間内の温度分布を演算により求めると共に、
前記複数箇所の間の音波の減衰量に基づいて、前記被測定空間内の音波の減衰率の分布を演算によって求め、
前記被測定空間内の音波の減衰率の分布、前記被測定空間内の温度分布、及び前記減衰量の測定に用いた音波の周波数に基づいて、前記被測定空間内の湿度分布を演算によって求める
環境状態測定方法。 - 前記被測定空間内でかつ前記被測定空間を区画する壁体から所定距離離れた位置の温度を求め、
前記被測定空間内の温度分布を、前記壁体から所定距離離れた位置の温度も用いて演算により求める
ことを特徴とする請求項3又は請求項4記載の環境状態測定方法。 - 被測定空間内でかつ前記被測定空間を区画する壁体から所定距離離れた位置の湿度を求め、
前記被測定空間内の湿度分布を、前記壁体から所定距離離れた位置の湿度も用いて演算により求める
ことを特徴とする請求項4記載の環境状態測定方法。 - 前記複数箇所の間の音波の減衰量を測定し、前記被測定空間内の音波の減衰率の分布を演算によって求めることを、複数種の周波数の音波について各々行い、
前記複数種の周波数の音波について各々求めた前記被測定空間内の音波の減衰率の分布、前記被測定空間内の温度分布、及び前記複数種の周波数に基づいて、前記被測定空間内の湿度分布を演算によって求める
ことを特徴とする請求項4記載の環境状態測定方法。 - 前記複数箇所の間の音波の減衰量の測定に用いる音波の周波数を、被測定空間の大きさに応じて変更することを特徴とする請求項4記載の環境状態測定方法。
- 被測定空間の周縁部の互いに異なる複数箇所の間の音波の伝搬時間を各々測定する伝搬時間測定手段と、
前記被測定空間内でかつ前記被測定空間を区画する壁体から所定距離離れた位置の温度を測定する温度測定手段と、
前記伝搬時間測定手段によって測定された前記複数箇所の間の音波の伝搬時間、及び前記温度測定手段によって測定された前記壁体から所定距離離れた位置の温度に基づいて、前記被測定空間内の温度分布を演算により求める温度分布演算手段と、
を含む環境状態測定装置。 - 予め測定された、被測定空間を区画する壁体と、前記被測定空間内でかつ前記壁体から所定距離離れた位置と、の温度差を記憶する記憶手段と、
前記被測定空間の周縁部の互いに異なる複数箇所の間の音波の伝搬時間を各々測定する伝搬時間測定手段と、
前記壁体の温度を測定する壁体温度測定手段と、
前記壁体温度測定手段によって測定された壁体の温度及び前記記憶手段に記憶されている温度差に基づいて、前記壁体から所定距離離れた位置の温度を推定する温度推定手段と、
前記伝搬時間測定手段によって測定された前記複数箇所の間の音波の伝搬時間、及び前記温度推定手段によって推定された前記壁体から所定距離離れた位置の温度に基づいて、前記被測定空間内の温度分布を演算により求める温度分布演算手段と、
を含む環境状態測定装置。 - 被測定空間の周縁部の互いに異なる複数箇所の間の音波の伝搬時間を各々測定する伝搬時間測定手段と、
前記伝搬時間測定手段によって測定された前記複数箇所の間の音波の伝搬時間に基づいて、前記複数箇所の間の音波の伝搬経路を直線と仮定して前記被測定空間内の温度分布を演算により求め、求めた温度分布に基づき前記複数箇所の間の音波の伝搬経路を補正し、前記複数箇所の間の音波の伝搬時間、及び前記補正によって得られた複数箇所の間の音波の伝搬経路に基づいて、前記被測定空間内の温度分布を演算により再度求める温度分布演算手段と、
を含む環境状態測定装置。 - 被測定空間の周縁部の互いに異なる複数箇所の間の音波の伝搬時間及び減衰量を各々測定する伝搬時間・減衰量測定手段と、
前記伝搬時間・減衰量測定手段によって測定された前記複数箇所の間の音波の伝搬時間に基づいて、前記被測定空間内の温度分布を演算により求める温度分布演算手段と、
前記伝搬時間・減衰量測定手段によって測定された前記複数箇所の間の音波の減衰量に基づいて前記被測定空間内の音波の減衰率の分布を演算によって求め、前記被測定空間内の音波の減衰率の分布、前記温度分布演算手段によって演算された前記被測定空間内の温度分布、及び前記伝搬時間・減衰量測定手段が前記減衰量の測定に用いた音波の周波数に基づいて、前記被測定空間内の湿度分布を演算によって求める湿度分布演算手段と、
を含む環境状態測定装置。
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