JP3602318B2 - 動圧型多孔質含油軸受の製造方法 - Google Patents

動圧型多孔質含油軸受の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、焼結金属製の軸受本体に潤滑油又は潤滑グリースを含浸させて自己潤滑機能を持たせると共に、軸受隙間に介在する油の動圧油膜によって軸の外周面を浮上支持する動圧型多孔質含油軸受の製造方法に関する。本発明の製造方法によって製造された動圧型多孔質含油軸受は、特にレーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンミラー用や磁気ディスクドライブ(HDD等)用のスピンドルモータなど、高速下で高回転精度が要求される機器や、DVD−ROM用のスピンドルモータのように、ディスクが載ることによって大きなアンバランス荷重が作用し高速で駆動する機器などに好適である。
【0002】
【従来の技術】
上記のような情報機器関連の小型スピンドルモータでは、回転性能のより一層の向上と低コスト化が求められており、そのための手段として、スピンドルの軸受部を転がり軸受から多孔質含油軸受に置き換えることが検討されている。しかし、多孔質含油軸受は、真円軸受の一種であるため、軸の偏心が小さいところでは、不安定振動が発生しやすく、回転速度の1/2の速度で振れ回るいわゆるホワールが発生しやすい欠点がある。そこで、軸受面にヘリングボーン形やスパイラル形などの動圧溝を設け、軸の回転に伴う動圧溝の作用によって軸受隙間に動圧油膜を発生させて軸を浮上支持することが従来より試みられている(動圧型多孔質含油軸受)。
【0003】
従来、軸受面における動圧溝の成形方法として、軸受素材よりも硬質の複数個のボールを円周等間隔に配列保持した軸状の治具を軸受素材の内周面に挿入し、治具の回転と送りによってボールに螺旋運動を与えながら、ボールを素材内周面に加圧して動圧溝の形成領域を塑性加工する方法が知られている(特許第2541208号)。この方法では、成形時に動圧溝に隣接する領域で素材隆起が起こるので、これを旋盤やリーマで除去加工する必要がある(特開平8−232958号)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来方法では、治具の回転駆動機構と送り機構が必要であるため、製造設備が複雑になる。また、軸受面における動圧溝に隣接する領域の後加工が必要であるため、製造工数が多くなる。
【0005】
本発明は、傾斜状の動圧溝を有する軸受面の成形加工を簡易な設備で、少ない工数で、かつ、精度良く行うことができる製造方法を提供することを主目的とする。
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、円筒状の焼結金属素材の密度比α(%)を75≦α<85の範囲に設定し、軸受面の動圧溝の形成領域を成形するための第1成形部と動圧溝の形成領域以外の領域を成形するための第2成形部を有する成形型を焼結金属素材の内周面に所定の内径すきまを設けて挿入し、焼結金属素材を成形型と伴に下降させて、焼結金属素材の外周面を所定の外径しめしろでダイに圧入すると共に、上パンチと下パンチによって上下方向から加圧して、焼結金属素材に圧迫力を加え、焼結金属素材の内周面を上記外径しめしろと内径すきまとの差に略等しい加圧量で成形型に加圧して塑性変形させることにより、軸受面の動圧溝の形成領域とそれ以外の領域とを同時成形し、その後、上記圧迫力を除くことによる焼結金属素材のスプリングバックを利用して成形型を焼結金属素材の内周面から離型する構成を採用した。
【0007】
焼結金属素材は、一種類以上の金属粉を混合して圧粉成形した後、焼成して所定の円筒形状の多孔質体としたものである。この焼結金属素材は銅又は鉄、あるいは、その両者を主成分としたものが望ましい。
【0008】
密度比(α)は下記式で表されるものである。
【0009】
密度比α(%)=(ρ1/ρ0)×100
ρ1:多孔質体の密度
ρ0:その多孔質体に細孔が無いと仮定した場合の密度
焼結金属素材の密度比α(%)を75≦α<85の範囲に設定したのは次の理由による。すなわち、この種の動圧型多孔質含油軸受は、軸振れの抑制に高い効果を有する反面、軸受隙間内の油が軸受面の表面開孔(多孔質体の細孔が外表面に開孔した部分)を介して軸受内部に逃げてしまうことによる、動圧作用の低減現象(動圧抜け)があり、期待する動圧効果が得られにくいという問題がある。この動圧抜けの問題を解決する手段として、軸受本体の密度、特に軸受面における表層部分の密度を高め、細孔率を小さくすることが有効である。軸受面における表層部分の細孔率が小さくなることによって、軸受隙間から軸受本体に戻る油の流れに絞りがかかるので、動圧抜けの防止に効果がある。
【0010】
図4は、焼結金属素材の密度比α(%)と細孔率(単位体積内に占める細孔の体積割合)(%)との関係を示している。細孔率は密度比αに線形比例し、密度比αが大きくなるに従って細孔率は低下する。例えば、密度比α=75%で細孔率は約25、%、密度比α=80%で細孔率は約20%、密度比α=85%で細孔率は約15%、密度比α=90%で細孔率は約10%、密度比α=95%で細孔率は約5%になる。細孔率は、外表面においては、表面開孔率(外表面の単位面積内に占める表面開孔の面積割合)とほぼ同じになる。尚、動圧抜けの問題を解決する手段として表面開孔率を調整することも考えられるが、表面開孔率の調整では、油の流れに対する抵抗が小さいため、油の戻り量の調整に限界があり、近時のスピンドルモータの一層の高速回転化、高性能化の傾向を考えると、充分な動圧効果を得ることができない場合が多い。
【0011】
一方、焼結金属素材の密度比αを高くしすぎると、軸受面の成形加工において、素材のスプリングバック量が減少し、離型の際に、成形型が素材の内周面に干渉して動圧溝を崩してしまう可能性が有る。
【0012】
図8は、焼結金属素材の密度比α(%)とスプリングバック量(μm:直径量)との関係を実験的に求めた結果を示している。素材の密度比αが高くなるに従って,スプリングバック量は減少している。軸受面における動圧溝の深さが2〜4μmの場合、焼結金属素材の密度比αが85%を超えると、スプリングバック量が3μm未満(直径量)となり、成形型を離型する際に軸受面の動圧溝を崩してしまう可能性が有る。従って、焼結金属素材の密度比αは85%未満とするのが好ましい。
【0013】
逆に、焼結金属素材の密度比αを低くしすぎると、軸受面の成形加工において、軸受面が精度良く成形できない。図5(b)は、焼結金属素材の密度比αを75%未満に設定して成形した時の、軸受面の状態を模式的に示している。動圧溝の領域と、動圧溝間の背の領域の形状がだれて、精度良く仕上がっていない。これは、焼結金属素材の内部に細孔が多くありすぎるために、図5(a)に示すように、例えばダイと上下パンチによって素材を加圧した場合、加圧量の多くが細孔部分の体積減少に使われてしまい、成形型への素材流動が不充分になるためと考えられる。この問題を、ダイへの圧入量(外径しめしろ)を大きくとることによって解消しようとすると、素材の外周面にクラックが入り、製品不良につながる場合が多い。焼結金属素材の密度比αを75%以上に設定した場合は、図6(a)に示すように、ダイと上下パンチによる加圧量が素材流動に良く反映され、焼結金属素材の内周面が適度の加圧量で成形型に加圧されて、図6(b)に模式的に示すような軸受面に精度良く仕上がる。従って、焼結金属素材の密度比αは75%以上とするのが好ましい。尚、図5及び図6において、軸受面の形状、成形型の形状は実際よりもかなり誇張して図示されている。
【0014】
以上により、軸受面の形状を崩すことなく成形型の離型を可能にし、かつ、軸受面の成形精度を確保し得る範囲として、本発明では、焼結金属素材の密度比α(%)を75≦α<85の範囲に設定した。尚、焼結金属素材のスプリングバック量の半径量が動圧溝の深さよりも大きい場合は、成形型を素材の内周面に干渉させることなく離型することができるが、スプリングバック量の半径量が動圧溝の深さよりも小さく、成形型が素材の内周面に多少干渉する場合であっても、素材の材料弾性による拡径量(半径量)を付加して、軸受面の形状を崩すことなく成形型を離型できれば良い。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0016】
図1は、この実施形態の製造方法により製造された動圧型多孔質含油軸受の一形態を例示している。この多孔質含油軸受1は、例えばレーザビームプリンタのスキャナモータ等において、ロータとステータとの間の例磁力によって高速回転するスピンドル軸をハウジングに対して回転自在に浮上支持(非接触支持)するものである。
【0017】
多孔質含油軸受1は、例えば銅又は鉄、あるいは、その両者を主成分とする焼結合金からなる軸受本体1aと、潤滑油又は潤滑グリースの含浸によって軸受本体1aの細孔内に保有された油(潤滑油又は潤滑グリースの基油)とで構成される。
【0018】
軸受本体1aの内周には、支持すべき軸の外周面と軸受隙間を介して対向する軸受面1bが形成され、その軸受面1bに傾斜状の動圧溝1cが形成されている。この実施形態における軸受面1bは、軸方向に対して一方に傾斜した複数の動圧溝1cを円周方向に配列形成した第1領域m1と、第1領域m1から軸方向に離隔し、軸方向に対して他方に傾斜した複数の動圧溝1cを円周方向に配列形成した第2領域m2と、第1領域m1と第2領域m2との間に位置する環状の平滑領域nとで構成される。第1領域m1の背(動圧溝1c間の領域)1dと第2領域m2の背(動圧溝1c間の領域)1dは、それぞれ平滑領域nに連続している。軸受面1bには、動圧溝1cの形成領域を含む全領域にわたって表面開孔がほぼ均一に分布している。軸受本体1aと軸との間に相対回転が生じると、第1領域m1と第2領域m2にそれぞれ逆向きに傾斜形成された動圧溝1cによって、軸受隙間内の油が平滑領域nに向けて引き込まれる。
【0019】
図3は、軸受本体1aの縦断面における密度分布を模式的に示している。軸受本体1aは、その外表面から平均深さtまでの表層部分1a1の密度が高く、表層部分1a1より内部側の内部側部分1a2の密度が低くなっている。表層部分1a1の密度は密度比α(%)に換算して85≦α≦95の範囲内であり、内部側部分1a2の密度は密度比α(%)に換算して75≦α<85の範囲内である。例えば、軸受本体1aの軸受面1bの内径寸法D1(動圧溝1cの形成領域以外の領域を基準とする。)はφ3mm、外径寸法D2はφ6mm、動圧溝1cの深さhは2〜4μmである。軸受面1bにおける表層部分1a1の平均深さtは、軸受面1bの内径寸法D1に対して1/60≦t/D1≦1/15の範囲内であり、この実施形態では内径寸法D1の1/60で50μmである。軸受本体1aの外周面、両端面における表層部分1a1の平均深さtも概ね軸受面1bのそれと同程度であり、この実施形態では50μm程度である。図面では、動圧溝1cの深さh、表層部分1a1の平均深さtがかなり誇張して図示されている。また、深さhと平均深さtの寸法比も実際とは異なる比率で図示されている。尚、軸受本体1aの外周面や両端面の表層部分1a1は軸受本体1aの内部に保有された油が外周面や端面から外部に流失することを防止するために形成されるものであり、その密度(密度比α)や平均深さtは軸受面1bの表層部分1a1に比べて多少ラフに管理しても良い。例えば、密度比αは100%近く(細孔が殆ど無い状態)にしても良いし、平均深さtは軸受面1bの表層部分1a1よりも大きくても良いし小さくても良い。
【0020】
上記のような軸受本体1aは、銅又は鉄を主成分とする金属粉を圧粉成形し、さらに焼成して得られた図7に示す円筒形状の焼結合金素材1’に対して、例えばサイジング→回転サイジング→軸受面成形加工を施して製造することができる。焼結合金素材1’の密度比α(%)は75≦α<85の範囲内に設定される。
【0021】
サイジング工程は、焼結合金素材1’の外周面と内周面のサイジングを行う工程で、焼結合金素材1’の外周面を円筒状のダイに圧入すると共に、内周面にサイジングピンを圧入する。サイジング代は、例えば、外周面について20μm以下(半径量10μm以下)、内周面について10μm以下(半径量5μm以下)で行われる。
【0022】
回転サイジング工程は、多角形のサイジングピンを焼結合金素材1’の内周面に圧入し、これを回転させながら内周面のサイジングを行う工程である。サイジング代は、例えば5μm程度(半径量2.5μm程度)で行われる。
【0023】
軸受面成形工程は、上記のようなサイジング加工を施した焼結合金素材1’の内周面に、完成品1aの軸受面1bに対応した形状の成形型を加圧することによって、軸受面1bの動圧溝1cの形成領域とそれ以外の領域(背1d、平滑領域n)とを同時成形する工程である。この工程は以下のようなものである。
【0024】
図9は、軸受面成形工程で使用する成形装置の概略構造を例示している。この装置は、焼結合金素材1’の外周面を圧入する円筒状のダイ20、焼結合金素材1’の内周面を成形するコアロッド21、焼結合金素材1’の両端面を上下方向から押さえる上下のパンチ22、23を主要な要素として構成される。同図(b)に示すように、コアロッド21の外周面には、完成品の軸受面1bの形状に対応した凹凸状の成形型21aが設けられている。成形型21aの凸状になった第1成形部21a1は軸受面1bにおける動圧溝1cの領域を成形し、凹状になった第2成形部21a2は動圧溝1c以外の領域(背1d、環状の平滑領域n)を成形するものである。成形型21aにおける第1成形部21a1と第2成形部21a2との段差(深さH)は、軸受面1bにおける動圧溝1cの深さと同じ2〜4μmであるが、図面ではかなり誇張して図示されている。
【0025】
ダイ20への圧入前の状態において、焼結合金素材1’の内周面とコアロッド21の成形型21a(第1成形部21a1を基準)との間には内径すきまTがある。内径すきまTの大きさは例えば25μm(半径すきま)である。焼結合金素材1’の外周面のダイ20に対する圧入代(外径しめしろS)は例えば75μm(半径代)である。
【0026】
焼結合金素材1’をダイ20の上面に位置合わせして配置した後、図10に示すように、上パンチ22およびコアロッド21を降下させ、焼結合金素材1’をダイ20に圧入し、さらに下パンチ23に押し付けて上下方向から加圧する。
【0027】
焼結合金素材1’はダイ20と上下パンチ22・23から圧迫力を受けて変形を起こし、内周面がコアロッド21の成形型21aに加圧される。内周面の加圧量は、外径しめしろS(半径量75μm)と内径すきまT(半径量25μm)との差50μm(半径量)に略等しく、内周面から深さ50μmまでの表層部分がコアロッド21の成形型21aに加圧され、塑性流動を起こして成形型21aに食い付く。これにより、成形型21aの形状が焼結合金素材1’の内周面に転写され、軸受面1bが図1に示す形状に成形される。成形時、焼結合金素材1’の外周面はダイ20によって、両端面は上下パンチ22・23によってそれぞれ加圧される。外周面の加圧量は50μm、両端面の加圧量は片側50μm程度である。
【0028】
軸受面1bの成形が完了した後、図12に示すように、焼結合金素材1’にコアロッド21を挿入したままの状態で下パンチ23とコアロッド21を連動して上昇させ(▲2▼の状態)、焼結合金素材1’をダイ20から抜く(▲3▼の状態)。焼結合金素材1’をダイ20から抜くと、焼結合金素材1’にスプリングバックが生じ(図8参照)、その内径寸法が拡大するので(図11参照)、動圧溝1cを崩すことなく、焼結合金素材1’の内周面からコアロッド21を抜き取ることができる(▲4▼の状態)。これにより、軸受本体1aが完成する。尚、焼結合金素材1’のスプリングバック量の半径量が動圧溝1cの深さよりも小さく、成形型21aが焼結合金素材1’の内周面に多少干渉する場合であっても、焼結合金素材1’の材料弾性による拡径量(半径量)を付加して、軸受面1bの形状を崩すことなく成形型21aを離型できれば良い。
【0029】
上述した軸受面1bの成形工程において、密度比α(%)が75≦α<85の範囲内に設定された焼結合金素材1’の内周面が50μmの加圧量でコアロッド21の成形型21aに加圧されることにより、その表層部分の密度が高められ、軸受本体1aとして完成された状態で、図3に示すように、軸受面1bの表面から平均深さt=50μmまでの領域に密度比α(%)が85≦α≦95の表層部分1a1ができる。同時に、焼結合金素材1’の外周面および両端面がそれぞれ50μmの加圧量でダイ20、上下パンチ22・23に加圧されることにより、それらの表面から平均深さt=50μmまでの領域に密度比α(%)が85≦α≦95の表層部分1a1ができる。軸受本体1aの内部側部分1a2は成形時の影響を殆ど受けないので、その密度比α(%)は焼結合金素材1’の密度比α(%)である75≦α<85の範囲内に維持される。
【0030】
以上のような工程を経て軸受本体1aを製造し、これに潤滑油又は潤滑グリースを含浸させて油を保有させると、図1に示す動圧型多孔質含油軸受1が完成する。
【0031】
図2は、動圧型多孔質含油軸受1で軸2を支持する際における、軸方向断面での油の流れを示している。軸2の回転に伴い、軸受本体1aの内部の細孔内に保有された油が軸受面1bの軸方向両側(及びチャンファ部)から軸受隙間4に滲み出し、さらに動圧溝によって軸受隙間4の軸方向中央に向けて引き込まれる。その油の引き込み作用(動圧作用)によって軸受隙間4に介在する油膜の圧力が高められ、動圧油膜が形成される。この軸受隙間4に形成される動圧油膜によって、軸2はホワール等の不安定振動を生じることなく、軸受面1bに対して浮上支持(非接触支持)される。軸受隙間4に滲み出した油は、軸2の回転に伴う発生圧力により、軸受面1bの表面開孔(多孔質体組織の細孔が外表面に開口した部分をいう。)から軸受本体1aの内部に戻り、軸受本体1aの内部を循環して、再び軸受面1b(及びチャンファ部)から軸受隙間4に滲み出す。
【0032】
上記のように、動圧型多孔質含油軸受は、軸受本体の内部の細孔内に保有した油を軸受本体と軸受隙間との間で循環させながら、動圧溝の動圧作用によって軸受隙間内に動圧油膜を形成し、その動圧油膜によって軸を継続して浮上支持する点に特徴を有するものであり、そのような安定した軸受機能を発揮させるためには、油の適切な循環と、軸支持に必要な動圧油膜の形成を確保する必要がある。特に、油の循環は、油の劣化を抑制して軸受寿命を高める働きをもつ他、動圧油膜の形成に対して相互補完的に働き、また相反的にも働くので、油の循環を如何に適切ならしめるかは、この種の動圧型多孔質含油軸受における極めて重要な課題である。すなわち、軸受隙間内に充分な動圧力と油膜厚さをもった動圧油膜を常時形成するためには、新鮮な適量の油が軸受本体から軸受隙間へ常時滲み出して、動圧油膜を形成し、さらに軸受隙間から軸受本体へ戻るという油の循環サイクルが適切に働くことが不可欠である。油の循環量が過小であると、軸受隙間への油の滲み出しが不足して、動圧油膜の形成が不充分になると同時に、軸受隙間内に油が滞留し、温度上昇により酸化劣化をきたす。一方、油の循環量が過大であると、軸受隙間から軸受本体への油の戻りが過度となり、前述したような動圧抜けの問題が起こる。
【0033】
油の循環量を制御するための手段として、表面開孔率の調整、油の動粘度の調整が挙げられる。しかし、表面開孔率の調整では油の流れに対する抵抗が小さいため、循環量調整に限界がある。また、油の動粘度の調整を過度に行うと、トルク上昇の要因となる。従って、これらの手段では不充分となる場合がある。
【0034】
この実施形態の動圧型多孔質含油軸受1は、上述のように、密度比α(%)が75≦α<85に設定された焼結合金素材1’に圧迫力を加え、その内周面を所定の加圧量で成形型に加圧して軸受面1bを成形するので、軸受本体1aの少なくとも軸受面1bにおける表層部分1a1の密度比αが85≦α≦95の範囲内に高められる。そのため、油が上記表層部分1a1の細孔を通過する際の抵抗が適度に大きくなり、軸受本体1aから軸受隙間への油の滲み出し、軸受隙間から軸受本体1aへの油の戻りが適切量に調整される。これにより、動圧溝1cによる動圧油膜の形成作用が高められ、軸受剛性(軸受負荷容量)が向上すると同時に、油の適切な循環が確保され、軸受寿命が向上する。上記表層部分1a1の密度比αが85%未満であると、油の流れに対する抵抗が小さくなりすぎて、動圧抜けが起こり、充分な動圧効果が期待できない。逆に、表層部分の密度比αが95%を超えると、油の流れに対する抵抗が大きくなりすぎて、油の適切な循環が阻害される。軸受面1bの表面から所定深さまでの表層部分1a1の細孔によって油の流れに抵抗を与えるので、表面開孔率を調整する構成に比べて、油の滲み出し・戻り量の調整効果が高い。
【0035】
また、軸受本体1aの内部側部分1a2の密度比α(%)は焼結合金素材1’の密度比α(%)である75≦α<85の範囲内に維持されるので、軸受本体1aの適切な油保有量も確保できる。内部側部分1a2の密度比αが85%以上であると、細孔率が小さくなりすぎ、油保有量が過小になるので、軸受寿命によって好ましくない。
【0036】
尚、軸受面の形状は同図に示すものに限定されず、例えば、軸方向に対して一方に傾斜した動圧溝と他方に傾斜した動圧溝とを対にしてV字状に連続させても良い(この場合、環状の平滑領域nは存在しない。)。また、1つの軸受本体の内周に複数例えば2つの軸受面を軸方向に離間させて形成しても良い。これらは、成形型の形状を変えることによって対応することができる。複数の軸受面を軸方向に離間させて形成する場合は、例えばコアロッドの外周面に複数の成形型を軸方向に離間させて設けると良い。
【0037】
【発明の効果】
本発明は以下の効果を有する。
【0038】
(1)密度比α(%)を75≦α<85の範囲に設定した焼結金属素材に対して軸受面の成形加工を行うので、素材のスプリングバックを利用して、軸受面の形状を崩すことなく成形型の離型を可能にし、かつ、軸受面の成形精度を確保することができる。
【0039】
(2)従来方法のような治具の回転駆動機構を必要としないので、製造装置を簡素にすることができる。
【0040】
(3)軸受面の全領域を同時成形するので、従来方法に比べ、軸受面の後加工を不要にして、加工工数を削減することができる。また、軸受面の成形精度も高い。
【0041】
(4)本発明の製造方法によって製造された動圧型多孔質含油軸受は、少なくとも軸受面に密度比αが85≦α≦95の範囲の表層部分を有するので、軸受本体から軸受隙間への油の滲み出し、軸受隙間から軸受本体への油の戻りが適切量に調整される。そのため、動圧溝による動圧油膜の形成作用が高められ、軸受剛性(軸受負荷容量)が向上すると同時に、油の適切な循環が確保され、軸受寿命が向上する。また、軸受本体の内部側部分の密度比α(%)が75≦α<85の範囲内であるので、軸受本体の適切な油保有量を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる動圧型多孔質含油軸受の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】動圧型多孔質含油軸受で軸を浮上支持する際の、軸方向断面での油の流れを模式的に示す図である。
【図3】動圧型多孔質含油軸受における軸受本体の密度分布を模式的に示す縦断面図である。
【図4】多孔質体の密度比αと細孔率との関係を示す図である。
【図5】軸受面の成形工程を概念的に示す断面図(図a)、図aの成形工程で成形された軸受面の状態を模式的に示す斜視図である。
【図6】軸受面の成形工程を概念的に示す断面図(図a)、図aの成形工程で成形された軸受面の状態を模式的に示す斜視図である。
【図7】軸受本体の素材となる焼結合金素材を示す断面図である。
【図8】焼結合金素材の密度比αとスプリングバック量との関係を示す図である。
【図9】軸受面の成形加工に使用する成形装置の概略を示す図(図a)、軸受面を成形するコアロッドを示す図(図b)である。
【図10】軸受面の成形工程を示す図である。
【図11】軸受面の成形工程を示す図である。
【図12】軸受面の成形工程を示す図である。
【符号の説明】
1 動圧型多孔質含油軸受
1a 軸受本来
1b 軸受面
1c 動圧溝
21a 成形型

Claims (3)

  1. 円筒状の焼結金属素材の内周面に傾斜状の動圧溝を有する軸受面を成形して軸受本体を形成し、その軸受本体の内部の細孔内に潤滑油又は潤滑グリースの含浸によって油を保有させる動圧型多孔質含油軸受の製造方法であって、
    上記焼結金属素材の下記式で表される密度比α(%)を75≦α<85の範囲に設定し、
    上記軸受面の動圧溝の形成領域を成形するための第1成形部と動圧溝の形成領域以外の領域を成形するための第2成形部を有する成形型を上記焼結金属素材の内周面に所定の内径すきまを設けて挿入し、
    上記焼結金属素材を上記成形型と伴に下降させて、上記焼結金属素材の外周面を所定の外径しめしろでダイに圧入すると共に、上パンチと下パンチによって上下方向から加圧して、上記焼結金属素材に圧迫力を加え、上記焼結金属素材の内周面を上記外径しめしろと内径すきまとの差に略等しい加圧量で上記成形型に加圧して塑性変形させることにより、上記軸受面の動圧溝の形成領域とそれ以外の領域とを同時成形し、
    その後、上記圧迫力を除くことによる上記焼結金属素材のスプリングバックを利用して上記成形型を上記焼結金属素材の内周面から離型することを特徴とする動圧型多孔質含油軸受の製造方法。
    密度比α(%)=(ρ1/ρ0)×100
    ρ1:多孔質体の密度
    ρ0:その多孔質体に細孔が無いと仮定した場合の密度
  2. 上記焼結金属素材が銅又は鉄、あるいは、その両者を主成分とする請求項1記載の動圧型多孔質含油軸受の製造方法。
  3. 請求項1又は2記載の製造方法によって製造された動圧型多孔質含油軸受。
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