JP3600849B2 - ホウ素蛍光x線分析用多層膜分光素子 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、反射層とスペーサ層からなる層対を基板上に多数積層して構成され、ホウ素の蛍光X線分析に使用される多層膜分光素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ホウ素(B)の蛍光X線分析において、B−Kα線(波長:6.76nm)用の分光素子としては、反射層にモリブデン(Mo)を、スペーサ層に炭化ホウ素(BC)を使用した多層膜分光素子が用いられている。しかし、ホウ素の蛍光X線分析を短時間に高精度で行うには、Mo/BCの多層膜分光素子では、B−Kα線の反射強度が不十分であり、妨害線となるO−K線の3次反射や、バックグラウンドとなるSi−L線も十分に低減できない。これに対し、多層膜分光素子の反射層にランタン(La)を、スペーサ層に炭化ホウ素を使用すれば、Mo/BCの場合よりも、B−Kα線の反射強度を増大できることが、国際公開公報WO 00/75646 A2に記載されている。また、理論計算により、多層膜分光素子の反射層にランタンを、スペーサ層にホウ素を使用すれば、Mo/BCの場合よりも、B−Kα線の反射強度を増大させ得ることが知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、La/BCの多層膜分光素子によっても、ホウ素の蛍光X線分析を短時間に高精度で行うには、B−Kα線の反射強度は今一つ十分でない。また、La/Bの多層膜分光素子については、理論計算によれば、Mo/BCの場合よりも、B−Kα線の反射強度を増大させ得ることが知られているにすぎず、B−Kα線の反射強度を十分に増大させ、同時に妨害線やバックグラウンドの影響を低減するための諸条件を見いだして、そのような多層膜分光素子を実際に作製することは、容易ではなかった。
【0004】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたもので、妨害線やバックグラウンドの影響を十分に低減しつつ、B−Kα線の反射強度が十分で、ホウ素の蛍光X線分析を短時間に高精度で行うことができる多層膜分光素子を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本発明は、反射層とスペーサ層からなる層対を基板上に多数積層して構成され、試料に含まれるホウ素(B)の蛍光X線分析に使用される多層膜分光素子であって、前記反射層にランタン(La)、ランタンを主成分とした合金またはランタン酸化物(La)を、前記スペーサ層にホウ素を使用して、周期長を7〜14nm、前記反射層のスペーサ層に対する膜厚比を2/3〜3/2としたもので、B−Kα線の反射強度が飽和値の98%以上となる総積層膜厚を有する。
【0006】
かかる構成によれば、従来のMo/BCの多層膜分光素子と比較して、妨害線となるO−K線の3次反射やバックグラウンドとなるSi−L線の影響を十分に低減しつつ、B−Kα線の反射強度を約2.2〜3.8倍にまで増大でき、従来のLa/BCの多層膜分光素子と比較しても、B−Kα線の反射強度を約1.3倍に増大できるので、ホウ素の蛍光X線分析を短時間に高精度で行うことができる。ここで、前記総積層膜厚を280〜320nmとすることが好ましく、前記反射層のスペーサ層に対する膜厚比を、より1に近く、4/5〜5/4とすることが好ましい。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態のホウ素蛍光X線分析用多層膜分光素子について説明する。図1に示すように、この分光素子は、反射層31にランタン(La)を、スペーサ層32にホウ素(B)を使用し、反射層31とスペーサ層32からなる層対を、シリコンウエハである基板7上に、イオンビームスパッタ成膜法により多数積層して構成され、試料に含まれるホウ素(B)の蛍光X線分析に使用される多層膜分光素子3である。すなわち、試料から発生した蛍光X線などの2次X線B2が所定の入射角(回折角)θで入射され、同角度θでホウ素の蛍光X線であるB−Kα線B3を反射(回折、分光)する。
【0008】
反射層31およびスペーサ層32の材料をそのように選択したのは、理論計算に基づけば、従来のMo/BCやLa/BCの多層膜分光素子よりもB−Kα線B3の反射強度を増大できると推測されるからであるが、同様の理由で、反射層31には、主成分ランタンとモリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)などとの合金、またはランタン酸化物(La)を使用してもよい。これらの反射層31の材料を変更した例については、後述する。
【0009】
また、イオンビームスパッタ成膜法を用いたのは、以下のような理由による。前述したように、理論計算によれば、多層膜分光素子の反射層にランタンを、スペーサ層にホウ素を使用することにより、Mo/BCの場合よりも、B−Kα線の反射強度を増大させ得ることが知られているものの、ホウ素は、実質的に絶縁体とみなせる半導体であって、従来スペーサ層に使用されてきた炭化ホウ素(BC)が良好な導電体であるのと異なり、通常の蒸着法による成膜が容易でなく、さらに、ラフネスが十分小さい極薄膜を得るのが非常に困難とされてきた。そこで、絶縁体であっても比較的簡便な成膜が可能であるイオンビームスパッタ成膜法を用いたところ、ホウ素の平坦な極薄膜を形成しやすいことを見いだしたので、本実施形態の多層膜分光素子については、イオンビームスパッタ成膜法を用いることとした。ただし、本発明では、イオンビームスパッタ成膜法に限定されず、高周波マグネトロンスパッタ法、レーザービーム蒸着法などの他の成膜法を用いることもできる。
【0010】
本実施形態では、反射層31のスペーサ層32に対する膜厚比は、以下の理由により、1とした。まず、表1に示すように、5種類のLa/Bの多層膜分光素子を作製して、B−Kα線の反射強度を測定し、従来のMo/BCの多層膜分光素子との反射強度比(相対反射強度)を算出するとともに、比較のため、従来のLa/BCの多層膜分光素子についても1種類を作製して、B−Kα線の反射強度を測定し、従来のMo/BCの多層膜分光素子との反射強度比(相対反射強度)を算出した。
【0011】
【表1】
Figure 0003600849
【0012】
これによると、従来のMo/BCの多層膜分光素子と同様に、1層対の厚さである周期長dを8nmとし、層対数を30以上とした場合(表1中の上の3つを比較)、反射層31とスペーサ層32との膜厚比は、従来と同様の1:2とするよりも、1:1とする方が、相対反射強度が大きいことが明らかである。1:2とすると相対反射強度が小さくなるのは、薄くなったランタンの反射層が、高い反応性によってスペーサ層との化合物になってしまい、両層間の光学的コントラストが劣化することによると考えられる。一方、反射層の方を厚くすると、吸収が大きくなって、相対反射強度が小さくなるので好ましくない。したがって、本実施形態では、まず、B−Kα線の反射強度増大の観点から、反射層31のスペーサ層32に対する膜厚比は、1とする。なお、従来と異なり、本発明においてはこの膜厚比は厳密でなくてよいが、これについては後述する。
【0013】
次に、表1に基づいて、周期長8nm、膜厚比1:1で、層対数15〜40における相対反射強度の変化を図2に示すようにグラフにしてみると、層対数35でほぼ飽和することが分かる。すなわち、B−Kα線の反射強度は、層対数35で、層対数40での飽和値の98%となる。この反射強度の飽和は、周期長d×層対数である総積層膜厚t(図1)のみによっており、周期長dが変わっても飽和に至る総積層膜厚は常に同一の値となるので、B−Kα線の反射強度増大の観点から、本発明においては、B−Kα線の反射強度が飽和値の98%以上(当然に100%以下)となる総積層膜厚t(280nm以上に相当)を有するものとする。より具体的には、周期長8nmにおいて層対数は35〜40あれば十分であり、すなわち、総積層膜厚tは280〜320nmとすることが好ましい。
【0014】
さて、例えばシリコンウエハ上に形成した薄膜中の微量ホウ素分析などにおいて、ウエハから発生したSi−L線が、分光素子表面で全反射され、B−Kα線のバックグラウンドとなるという問題がある。そこで、Si−L線に対する全反射強度の入射角依存性に関して、従来のMo/BC、La/BCの多層膜分光素子と本発明によるLa/Bの多層膜分光素子について、理論シミュレーションを行い、その結果を図3に示した。これによると、まず、La/Bの多層膜分光素子は、現実的なすべての入射角において、Mo/BC、La/BCの多層膜分光素子よりもSi−L線の反射率が低いことが明らかである。
【0015】
また、通常、Mo/BCの多層膜分光素子の周期長は約8nmであり、この場合、B−Kα線のピークの入射角は約25度となるが、その角度におけるSi−L線の反射率を目安とすると、La/Bの多層膜分光素子においてSi−L線の反射率がこの目安と同程度になる入射角は約14度である。この角度にB−Kα線のピークをもつ多層膜分光素子の周期長は、約14nmであるから、Si−L線の反射率を従来のMo/BCの多層膜分光素子と同程度まで許容し得ると考えれば、本発明のLa/Bの多層膜分光素子の周期長dは最大で14nmとなる。なお、バックグラウンドとなるSi−L線の反射率が従来のMo/BCの多層膜分光素子と同程度になっても、前述したように分析すべきB−Kα線の反射強度が増大するので、P/B比(ピーク/バックグラウンド比)は従来よりも向上し、Si−L線の影響は低減する。
【0016】
一方、総積層膜厚tが一定ならば、周期長dが小さいほど、層界面でのラフネスに起因する反射強度の低下が著しくなるが、図2で示したような、従来のMo/BCの多層膜分光素子と比較して2.2倍程度に向上したB−Kα線の反射強度が得られる周期長dの下限を調査したところ、7nmであることが判明した。したがって、バックグラウンドとなるSi−L線の影響低減およびB−Kα線の反射強度増大の観点から、本発明において、周期長dは、7〜14nmが適切である。
【0017】
さて、酸素を含む試料中のホウ素分析において、酸素の蛍光X線であるO−K線の3次線が分光素子で反射され、分析すべきB−Kα線の近傍に妨害線として現れるという問題がある。従来のMo/BCの多層膜分光素子では、このO−K線の3次反射を低減させるため、反射層とスペーサ層との膜厚比を厳密に1:2に設定していた。これに対し、本発明のLa/Bの多層膜分光素子においては、前述したように、B−Kα線の反射強度増大の観点から、反射層31とスペーサ層32との膜厚比は1:1とするのが適切であるが、そうすると、O−K線の3次反射の影響が従来よりも増大するのではないかという疑問が生じる。
【0018】
そこで、B−Kα線の出現角度におけるO−K線の3次反射の影響に関して、従来のMo/BCの多層膜分光素子と本発明によるLa/Bの多層膜分光素子について、典型的な酸素含有物質である石英ガラス(SiO)を試料として実験を行い、その結果を図4に示した。これによると、本発明のLa/Bの多層膜分光素子では、O−K線の反射能が元来非常に低く、したがって、その3次反射の影響も無視し得る程度であることが明らかである。
【0019】
すなわち、本発明のLa/Bの多層膜分光素子においては、従来のMo/BCの多層膜分光素子と異なり、O−K線の3次反射を低減させるためには反射層31とスペーサ層32との膜厚比を設定する必要がない。前述したように、B−Kα線の反射強度増大の観点から、反射層31とスペーサ層32との膜厚比を1:1とすればよく、この場合には、膜厚比は、O−K線の3次反射を低減させる場合ほど厳密でなくてよい。すなわち、本発明においては、反射層31のスペーサ層32に対する膜厚比は、厳密に1でなくとも、2/3〜3/2であればよく、より好ましくは、4/5〜5/4であればよい。
【0020】
以上から、数値限定についてまとめると、本発明においては、周期長dを7〜14nm、反射層31のスペーサ層32に対する膜厚比を2/3〜3/2、好ましくは4/5〜5/4とする。そして、周期長dおよび膜厚比が決められた状態で、総積層膜厚tを増大させるとB−Kα線の反射強度が増大してやがて飽和するが、その反射強度が飽和値の98%以上となる総積層膜厚tを有するものとし、好ましくは総積層膜厚tを280〜320nmとする。表1、図2によれば、例えば、周期長を8nm、膜厚比を1、総積層膜厚を280〜320nm(層対数35〜40に相当)とした実施形態では、B−Kα線の反射強度が、従来のMo/BCの多層膜分光素子の約2.2倍になり、周期長を13nm、膜厚比を1、総積層膜厚を312nm(層対数24に相当)とした実施形態では、B−Kα線の反射強度が従来の約3.8倍になる。これらの実施形態では、前述したように、同時に、妨害線となるO−K線の3次反射やバックグラウンドとなるSi−L線の影響が十分に低減される。
【0021】
次に、反射層31の材料をランタンとモリブデンの原子数比が9:1であるランタン合金に変更し、周期長8nm、膜厚比1:1、総積層膜厚320nm(層対数40)の分光素子を、前述したのと同様に作製した。この(La,Mo)/Bの多層膜分光素子によると、周期長などの数値が同一の前記La/Bの多層膜分光素子と比較して、B−Kα線の反射強度がさらに1割程度増大した。これは、一般に純金属の薄膜が多結晶膜を形成しやすく、また、化合物になりやすいのに対し、合金を用いたことでそのような傾向が抑制され、より平坦でラフネスの小さい界面が得られたことによると考えられる。なお、妨害線となるO−K線の3次反射やバックグラウンドとなるSi−L線の影響は、La/Bの多層膜分光素子とほぼ同等に低減される。
【0022】
また、反射層31の材料をランタン酸化物(La)に変更し、周期長8nm、膜厚比1:1、総積層膜厚320nm(層対数40)の分光素子を、前述したのと同様に作製した。このLa/Bの多層膜分光素子によると、周期長などの数値が同一の前記La/Bの多層膜分光素子と比較して、B−Kα線の反射強度がほぼ同一となった。なお、妨害線となるO−K線の3次反射やバックグラウンドとなるSi−L線の影響も、La/Bの多層膜分光素子とほぼ同等に低減される。さらに、これら実施形態のLa/B、La/Bの多層膜分光素子と、従来のLa/BCの多層膜分光素子とを、湿度がほぼ100%の高湿度雰囲気中で耐久性試験を行ったところ、La/B、La/BCの多層膜分光素子では、約1日後に表面が白色化するとともに部分的な剥離が生じ、明らかな変質が認められたが、La/Bの多層膜分光素子では、約1か月後においても特に変質は認められず、高い耐湿性を有していることが判明した。これは、ランタンが非常に高い反応性を有しているのに対し、ランタン酸化物を用いたことで、高湿度中での酸化作用にさらされても非常に安定であることによると考えられる。
【0023】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明のホウ素蛍光X線分析用多層膜分光素子によれば、従来のMo/BCの多層膜分光素子と比較して、妨害線となるO−K線の3次反射やバックグラウンドとなるSi−L線の影響を十分に低減しつつ、B−Kα線の反射強度を約2.2〜3.8倍にまで増大でき、従来のLa/BCの多層膜分光素子と比較しても、B−Kα線の反射強度を約1.3倍に増大できるので、ホウ素の蛍光X線分析を短時間に高精度で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態のホウ素蛍光X線分析用多層膜分光素子を示す図である。
【図2】同分光素子におけるB−Kα線の反射強度の層対数依存性を示す特性図である。
【図3】本発明および従来の分光素子におけるSi−L線の全反射強度の入射角依存性を示す特性図である。
【図4】本発明および従来の分光素子におけるB−Kα線の出現角度におけるO−K線の3次反射の影響を示す特性図である。
【符号の説明】
3…多層膜分光素子、7…基板、31…反射層、32…スペーサ層、d…周期長、t…総積層膜厚。

Claims (3)

  1. 反射層とスペーサ層からなる層対を基板上に多数積層して構成され、試料に含まれるホウ素(B)の蛍光X線分析に使用される多層膜分光素子であって、
    前記反射層にランタン(La)、ランタンを主成分とした合金またはランタン酸化物(La)を、前記スペーサ層にホウ素を使用して、周期長を7〜14nm、前記反射層のスペーサ層に対する膜厚比を2/3〜3/2とし、
    B−Kα線の反射強度が飽和値の98%以上となる総積層膜厚を有するホウ素蛍光X線分析用多層膜分光素子。
  2. 請求項1において、
    前記総積層膜厚を280〜320nmとしたホウ素蛍光X線分析用多層膜分光素子。
  3. 請求項1において、
    前記反射層のスペーサ層に対する膜厚比を4/5〜5/4としたホウ素蛍光X線分析用多層膜分光素子。
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