JP3599895B2 - 糖尿病性腎症および糸球体腎炎の早期診断用キット - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、糖尿病性腎症および糸球体腎炎の早期診断法に関し、特に尿中のラクトフェリン、ミエロペルオキシダーゼおよびフィブロネクチンを測定対象として、該項目を複合測定することによって、糸球体に白血球が浸潤することにより発症する糖尿病性腎症および糸球体腎炎を早期に診断するキットに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、糖尿病性腎症は、糖尿病患者に持続性蛋白尿(試験紙法で陽性あるいは500mg/日以上の蛋白尿が持続)が出現した時点で診断されていた。しかし、この時期には既に非可逆性の糸球体病変が進行していることも知られていた。また、このことは、その他の原因による糸球体腎炎の診断についても同様である。
近年、尿中に微量に排泄される種々の蛋白の測定が可能となり、特に尿中アルブミンやトランスフェリン排泄量の増加すなわち、微量アルブミンや微量トランスフェリン尿が持続性蛋白尿に先行することが明らかとなった。そこで現時点では、微量アルブミンやトランスフェリン尿の出現をもって腎症を診断することが一般化している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
糖尿病性腎症およびそれ以外の腎症の病期分類としては、第1期(腎症前期)、第2期(早期腎症期)、第3期(顕性腎症期)、第4期(腎不全期)、第5期(透析療法期)が一般的である。微量アルブミンやトランスフェリン尿を呈する時期を早期腎症期とよんでおり、病理学的には、この時期には既に軽度から中等度のびらん性病変が存在し、結節性病変の存在も知られている。したがって、必ずしも初期腎症とは限らず、あくまで現在の臨床検査で診断可能な時期と解されている。今後、微量アルブミンやトランスフェリン尿より早期(第1期のステージ)に生ずる異常を検出し得る検査法の開発が期待されている。
しかし、最大の問題点は糖尿病性腎症およびその他の糸球体腎炎の早期病変期において微量アルブミンやトランスフェリン尿の発生機序が未だ明らかになっていない。したがって、微量アルブミンやトランスフェリン尿より早期に生ずる異常が何であるかが不明な点にある。
この発明は、この最大の問題点に着目してなされたものであって、上述の従来の方法に変わる新しい検査方法によって、糖尿病性腎症およびその他の糸球体腎炎を早期に診断する方法およびその診断キットを提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、本発明では、尿中の白血球の顆粒内蛋白成分、および糸球体基底膜を構成する細胞外マトリックス成分を測定対象としている。より具体的には、尿中のラクトフェリン、ミエロペルオキシダーゼおよびフィブロネクチンを測定して、糖尿病性腎症および他の糸球体腎炎の早期診断と早期治療を可能にしている。以下、本発明に至る経緯も含めて詳細に説明する。
【0005】
本発明者は、糖尿病性腎症をはじめ他の糸球体腎炎において、糸球体に白血球(特に好中球)が浸潤することが蛋白尿発現の出発点になることを発見し、糸球体に好中球が浸潤したことを察知する方法として、尿中のラクトフェリンとミエロペルオキシダーゼを測定することを既に出願している(特願平7−251939)。
更なる研究の結果、本発明者は、糸球体への好中球の浸潤を検知することが糸球体腎炎の早期診断に有用であると認識するとと共に、蛋白尿発現の機序として、糸球体に浸潤した好中球が産生する活性酸素や種々の蛋白分解酵素が糸球体の基底膜を破壊することによって、蛋白尿が発生することを見いだした。
【0006】
糸球体基底膜の超微構造をみると、基底膜は規則的な六角形の構造をもつ細繊維よりなる網目構造を呈している。網目の長径はアルブミンの短径4nmよりやや小さい3nmであり、その構成成分はIV型コラーゲンを主体とするコラーゲン成分、ラミニン、フィブロネクチン、ヘパラン硫酸プロテオグリカンであり、これらが結合して高分子となっている。また、この基底膜は外透明層、緻密層、内透明層の3層構造からなり、ラミニン、フィブロネクチン、ヘパラン硫酸プロテオグリカンは内、外透明層に多く存在することが知られ、このために内、外透明層は負に荷電している。この糸球体基底膜は、糸球体毛細血管壁のたんなる構成成分であるばかりでなく、糸球体の透過性制御に重要な役割を果たしている。
血漿中の物質はその分子の特性により透過性が決定づけられているが、なかでもその物質の分子量(size)と荷電(charge)が重要な因子である。糸球体では、血漿中の水、電解質のほか低分子物質は濾過されるが、アルブミン分子より分子量の大きな物質は濾過されず、糸球体毛細血管壁が血漿中の物質を分子量の違いにより、ふるい分けていることになる(size barrier)。このsize barrier構造は、糸球体毛細血管壁のうち基底膜のIV型コラーゲンを中心とする三次元的網目構造によるものと考えられている。陰性荷電物質は陽性荷電物質に比べ濾過されにくいことが知られている(charge barrier)。これは、糸球体基底膜に強力な陰性荷電物質であるヘパラン硫酸プロテオグリカンの存在によるところが大きいと考えられている。
【0007】
糸球体腎炎での蛋白尿は、上述の糸球体基底膜の透過性制御機構の破綻が関与していると考えられる。
そこで本発明では、糸球体基底膜の破綻の原因となる好中球の糸球体へ浸潤状態の把握(マーカーとしてラクトフェリン)とこの好中球が基底膜を破壊した結果として尿中に排泄される基底膜構成成分の一つであるフィブロネクチンを測定することにより、尿中へまだ蛋白の出現を見ない段階から蛋白発現に至るまでの過程を詳細に検知することが可能となった。
図1に浸潤好中球の指標となる尿中のラクトフェリン濃度と糸球体基底損傷度の指標である尿中フィブロネクチン濃度の関係を示す。さらに図2に対照群(試験紙法で蛋白定性陰性、好中球の浸潤を認めない群)との比較において、糸球体に好中球の浸潤を認める群(試験紙法による蛋白定性試験陰性)での糸球体基底膜損傷度と蛋白尿出現の関係を示す。
糸球体に好中球の浸潤が認められ、かつ基底膜の損傷を伴っているにもかかわらず、尿中への蛋白排泄量は対照群と比べて有意な増加を示さないステージが認められる。この現象は基底膜損傷時に基底膜から遊離したフィブロネクチン他の細胞外マトリックス成分により濾過膜(基底膜)が一過性に目づまりを起こしていることを示している。したがって、従来法の微量アルブミンやトランスフェリンを測定する検査法にとっては不利な状況になっている。このステージの後、基底膜の破壊は急速に進行し尿中蛋白量は急増する。
以上説明したように、尿中のラクトフェリン、ミエロペルオキシダーゼおよびフィブロネクチンを測定すれば、糖尿病性腎症および他の糸球体腎炎の早期診断が可能になり、早期治療にむすびつく。
【0008】
【発明の実施の態様】
(A)尿試料の作成
トリトンX−100 を 0.1%含む生理食塩水で2倍希釈した尿を試料とした。
(B)ELISA によるラクトフェリンの測定
(マイクロプレートへの抗体の固相化)
マイクロプレート(SUMILON) の各wellに抗ヒトラクトフェリン抗体(DAKOPATTS )5μg/mlを含む0.1M Tris 緩衝液を 100μl ずつ分注し、一夜4℃放置して物理吸着させて表面に固相化する。
(酵素標識抗体の調整)
別途、過ヨウ素酸法荷より、アルカリホスファターゼ(Beehringer−Mannheim) を抗ヒトラクトフェリン抗体に酵素標識して調整する。
(尿中ラクトフェリン測定)
各wellに 100μl の1%BSA(Beehringer−Mannheim)を含むTris緩衝液(0.1mol/l pH8.0)を分注し、次いで、50μl の尿試料を加え、混和した後、37℃で1時間反応させる。
次に、Tween20 を0.05%含む脱イオン水で3回洗浄する。その後、アルカリホスターゼ標識抗ヒトラクトフェリン抗体溶液(1%BSA を含むトリス緩衝液) を各wellに 100μl ずつ加え混和した後、37℃で1時間反応させ、先と同様に3回洗浄する。
さらに Kind−King法の基質緩衝液 100μl を各wellに加え、37℃で30分間反応させる。ここで基質緩衝液は、Disodium Phenyl−phoshate(WAKO)0.09gを、炭酸緩衝液(0.05mol/l pH10.15)100mlに溶解したものである。
次いで、 100μl の呈色液を各wellに加えて呈色させる。ここで呈色液は、200ml の脱イオン水 2.6gのホウ酸(WAKO)を溶解させた後、0.38gのPotassium ferricyanide(WAKO)を溶解させたものである。
最後に、各wellの呈色をマイクロプレート用比色計(三光純薬)を用いて510/630nm の波長で比色し、検量線から尿中のラクトフェリン濃度を算出する。
【0009】
(C)ミエロペルオキシダーゼの測定
(マイクロプレートへの抗体の固相化)
マイクロプレート(SUMILON) の各wellに、抗ヒトミエロペルオキシダーゼ抗体(DAKOPATTS) 5μl/mlを含む0.1M Tris 緩衝液を 100μl ずつ分注し、一夜4℃で放置して物理吸着させて表面に固相化する。
(酵素標識抗体の調整)
別途、過ヨウ素酸法により、アルカリホスファターゼ(Beehringer−Mannheim) を抗ヒトミエロペルオキシダーゼ抗体に酵素標識して調整する。
(尿中ミエロペルオキシダーゼ測定)
各wellに 100μl の1%BSA を含むTris緩衝液を分注し、次いで50μl の尿試料を加え、混和した後、37℃で1時間反応させる。
次に、Tween20 を0.05%含む脱イオン水で3回洗浄する。その後、アカリホスファターゼ標識抗ヒトミエロペルオキシダーゼ抗体溶液を各wellに 100μl ずつ加え混和した後、37℃で1時間反応させ、先と同様に3回洗浄する。
さらにKind−king 法の基質緩衝液 100μl を各wellに加え、37℃で30分間反応させる。
次いで、 100μl の呈色液を各wellに加えて呈色させる。最後に、各wellの呈色をマイクロプレート用比色計を用いて510/630nm の波長光で比色し、検量線から尿中のミエロペルオキシダーゼ濃度を算出する。
【0010】
(D)フィブロネクチンの測定
(マイクロプレートへの抗体の固相化)
マイクロプレート(SUMILON) の各wellに、抗ヒトフィブロネクチン抗体(セロテック)5μl/mlを含む0.1M Tris 緩衝液を 100μl ずつ分注し、一夜4℃で放置させて表面に固相化する。
(酵素標識抗体の調整)
別途、過ヨウ素酸法により、アルカリホスファターゼ(B−M社)を抗ヒトフィブロネクチン抗体(DAKOPATTS) に酵素標識して調整する。
(尿中フィブロネクチン測定)
各wellに 100μl の1%BSA を含むTris緩衝液を分注し、次いで、50μl の尿試料を加え混和後、37℃で1時間反応させる。
次に、Tween20 Wo 0.05 %含む脱イオン水で3回洗浄する。その後、アルカリホスファターゼ標識抗ヒトフィブロネクチン抗体を各wellに 100μl ずつ加え混和した後、37℃で1時間反応させ、先と同様に3回洗浄する。さらに、Kind−king 法の基質緩衝液 100μl を各wellに加え、37℃で30分間反応させる。
次いで、 100μl の呈色液を各wellに加えて呈色させる。最後に、各wellの呈色をマイクロプレート用比色計を用いて510/630nm で比色し、検量線から尿中のフィブロネクチン濃度を算出する。
【0011】
(E)尿中ラクトフェリン、ミエロペルオキシダーゼ、フィブロネクチンのカットオフ値
健常人尿中のラクトフェリン濃度は31.1±36.2ng/ml でありカットオフ値は105ng/mlと設定した。同様にミエロペルオキシダーゼ濃度は27.0±34.1であり、カットオフ値は95ng/ml と設定した。また、フィブロネクチンは 110.4±61.9ng/ml であり、カットオフ値は234ng/mlとした。
【0012】
(F)臨床検査法としての利用例
糖尿病性腎症の病期分類での第1期(腎症前期)は現在用いられている一般的臨床検査では、腎症の存在を診断できない時期とされているが、本発明法では糸球体への好中球の浸潤のステージ(腎症の発症時点)から、次いでこれら好中球が産生する活性酸素や種々の蛋白分解酵素の作用により、糸球体基底膜が損傷を受けるステージが明確に把握できる。ちなみに、この段階における従来法の微量アルブミン法の陽性率は21.3%、微量トランスフェリン法の陽性率は13.3%にすぎない。
糖尿病性腎症の早期診断の具体例は以下のごとくである。
▲1▼糖尿病患者の尿中ラクトフェリン、ミエロペルオキシダーゼを測定し、糸球体への好中球浸潤の有無を注意深く経過観察する。(尿中ラクトフェリン濃度300ng/ml以上、ミエロペルオキシダーゼ濃度95ng/ml 以下、またはラクトフェリンとミエロペルオキシダーゼの濃度差が300ng/ml以上のラクトフェリン高値を示した場合)
▲2▼糸球体への好中球の浸潤を認めたら、次いで起こる糸球体基底膜の損傷度を尿中フィブロネクチンを測定して経過観察する。(300ng/ml以上を示すと要注意)ここまでのステージが腎症前期に相当するので、この段階で早期発見することにより、不可逆的病変への移行が早期治療により防止できる。
【0013】
【発明の効果】
以上説明したように、尿中のラクトフェリン、ミエロペルオキシダーゼおよびフィブロネクチンを測定することにより、糖尿病性腎症やその他の糸球体腎炎の早期診断が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】尿中フィブロネクチン(FN)とラクトフェリン(Lf)の相関関係を図示したものである。
【図2】各ステージにおける尿中微量蛋白濃度比較を図示したものである。

Claims (3)

  1. 尿中の白血球の顆粒内蛋白成分、および糸球体基底膜を構成する細胞外マトリックス成分を測定対象とすることを特徴とする糖尿病性腎症および糸球体腎炎を早期に診断するキット。
  2. 尿中のラクトフェリン(Lf)とミエロペルオキシダーゼ(MPO) 、およびフィブロネクチン(FN)を測定することを特徴とする糖尿病性腎症および糸球体腎炎の早期診断用キット。
  3. 酵素免疫法やラテックス凝集反応、イムノクロマト法などの免疫学的測定法を用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の糖尿病性腎症および糸球体腎炎の早期診断用キット。
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