JP3598640B2 - 材質ばらつきが少なくかつ降伏比の低い鋼材の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、建築、海洋構造物、パイプ、造船、貯槽、土木、建設機械等の分野で使用される、厚みが30mm以上、とりわけ50mm以上の厚鋼板、鋼帯、形鋼または棒鋼などの鋼材、特に材質ばらつきが少なくかつ音響異方性の小さい鋼材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
厚鋼板に代表される肉厚の鋼材は、上記のように、様々な分野で使用され、高強度化や高じん性化などの特性の改善がはかられているが、近年では、これらの特性が厚み方向において均一でありかつ鋼材間でのばらつきも小さいことが、要求されている。
【0003】
例えば、「鉄と鋼 第74年(1988)第6号」の第11〜21頁には、建築物の高層化が進むにつれ、巨大地震に対して建築物の変形により振動エネルギーを吸収し倒壊を防ぐ設計がとられるようになってきたことが報告されている。具体的には、地震発生時に建築物の骨組みを所定形状で崩壊させ、この骨組み材の塑性化によって建物の倒壊を防ぐものである。すなわち、地震発生時に建築物の骨組みが、設計者の意図した挙動を示すことが前提になり、建築物の柱や梁などの鋼材の耐力比を設計者が完全に把握していることが必要である。従って、柱や梁などに用いる鋼板やH形鋼などの鋼材は均質であることが不可欠であり、鋼材の強度ばらつきは大きな問題となる。また、柱や梁などに用いる骨組み材には、上記のとおり大きな塑性変形能が要求されるところから、その鋼材には降伏比の低いことも併せて要求される。
【0004】
ここで、建築や造船などに供する鋼材には高張力かつ高じん性が要求されるところから、この種の鋼材は、制御圧延制御冷却法いわゆるTMCP法や焼入れ−焼戻し法、または低い降伏比を得るための2相域焼入れ−焼戻し法に従って製造されるのが通例である。しかし、これらの手法によって肉厚の鋼材を製造すると、圧延後の冷却処理における冷却速度が厚み方向あるいは各鋼材間で異なって組織が変化するため、得られた鋼材の厚み方向あるいは各鋼材間で材質のばらつきが発生するのである。材質のばらつきとしては、特に厚鋼板において厚み方向に現れるもののほか、H形鋼におけるウェブおよびフランジ間での冷却が不均一になってウェブおよびフランジ間に現れるもの、または各ロット間に現れるもの等がある。
【0005】
そこで、特開平4−224623号公報では、Nbを添加し、また圧延後の冷却速度を3℃/s以上とするとともに、冷却停止温度の上限を500 ℃とすることにより、板厚方向の組織をフェライトとベイナイトの混合した組織として、板厚中心部の強度を上昇して板厚方向の硬度差を小さくすることが提案されている。しかしながら、板厚中心部においても冷却速度を厳密に制御しなくてはならず、板厚方向に冷却速度分布が生じると、直ちに材質のばらつきとなるため、その製造を厳格に制御する必要があり、工業的規模での製造には不向きであった。
【0006】
さらに、特開昭62−130215号公報には、Cuの析出強化によって強度を確保する一方、熱間圧延後に0.5 ℃/s以上の冷却速度で300 〜700 ℃に冷却し、次いで500 〜650 ℃の温度域に一定時間保持した後、室温まで冷却することにより、低温じん性を改善することが、提案されている。しかし、この技術は、低温じん性の改善を目指したものであり、上記した様々な形での材質のばらつきを抑えることによって、近年の構造用鋼などに要求される、材質の均一性を満足することは難しい。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、上記の問題を解消した、すなわち圧延後の冷却速度における制約のない、厚み方向および鋼材間などでの材質ばらつきが少なく、しかも降伏比の低い鋼材の製造方法について提案することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
肉厚の鋼材、その典型例である厚鋼板の材質ばらつきは、冷却工程における、鋼板表面から中心部までの厚み方向冷却速度の大幅な変化あるいは製造条件のばらつきによる冷却速度の変化から、組織変動が発生することに起因している。この組織変動を回避するには、広い冷却速度範囲で均質の組織を得ることが肝要である。
【0009】
そこで、発明者らは、製造条件が変化しても均質の組織を得る手法に関して、原点に立ち戻って検討を重ねたところ、成分組成を新たに設計し直すことによって、冷却速度の変化にかかわらず厚み方向の組織を一定とした、材質ばらつきの少ない鋼材が得られることを知見するに至った。
【0010】
すなわち、成分調整によって均質なベイナイト単相組織を得ることによって、冷却速度の変化にかかわらず材質ばらつきを少なくすることが可能になる。一方、この成分組成の鋼は、その組織の90%以上がベイナイトになるため、低い降伏比を安定して得ることが困難になるが、この点は製造工程の工夫によって改善した。
【0011】
この発明は、
(1) C:0.001 wt%以上0.030 wt%未満、Si:0.60wt%以下、Mn:0.20〜3.00wt%、Ni:2.0 wt%以下、Cu:0.7 〜2.0 wt%およびAl:0.10wt%以下を含み残部鉄および不可避的不純物からなる鋼素材を、800 ℃以上860 ℃未満の温度に加熱して冷却したのち、500 ℃以上800 ℃未満の温度に再加熱して当該温度域に保持し、その後冷却することことを特徴とする90 %以上がベイナイトの組織である材質ばらつきが少なくかつ降伏比の低い厚みが 30mm 以上の鋼材の製造方法(第1発明)、
(2) C:0.001 wt%以上0.030 wt%未満、Si:0.60wt%以下、Mn:0.20〜3.00wt%、Ni:2.0 wt%以下、Cu:0.7 〜2.0 wt%およびAl:0.10wt%以下を含み残部鉄および不可避的不純物からなる鋼素材を、860 ℃以上の温度に加熱した後、500 ℃以上800 ℃未満の温度域まで冷却して当該温度域に保持し、その後冷却を続行することを特徴とする90 %以上がベイナイトの組織である材質ばらつきが少なくかつ降伏比の低い厚みが 30mm 以上の鋼材の製造方法(第2発明)、
(3) 第1発明または第2発明において、鋼材が、さらにCr:1.0 wt%以下、Mo:1.0 wt%以下、W:0.5 wt%以下、V:0.005 〜0.20wt%、Ti:0.005 〜0.20wt%、Nb:0.003 〜0.20wt%およびB:0.0003〜0.0050wt%の1種または2種以上を含有する組成になる90 %以上がベイナイトの組織である材質ばらつきが少なくかつ降伏比の低い厚みが 30mm 以上の鋼材の製造方法(第3発明)、
(4) 第1発明、第2発明または第3発明において、鋼材が、さらにREM およびCaの1種または2種を0.02wt%以下の範囲で含有する組成になる90 %以上がベイナイトの組織である材質ばらつきが少なくかつ降伏比の低い厚みが 30mm 以上の鋼材の製造方法(第4発明)、
である。
ここで、上記の材質ばらつきが少ないとは、硬さ、強度および靭性の厚み方向のばらつきが少ないことを意味している。
【0012】
なお、上記の800 ℃以上860 ℃未満の温度に加熱する工程に先立って、鋼素材に圧延や鍛造などの成形加工を行うのが普通であり、この成形加工が追加されても所期した特性が得られることは勿論である。
【0013】
【発明の実施の形態】
次に、この発明に従う鋼材の各化学成分の限定理由について説明する。
C:0.001 wt%以上0.030 wt%未満
Cは、実質上冷却速度に依存せずにベイナイト単相とするために、0.001 wt%以上は必要である。しかし、0.030 wt%以上では、ベイナイト組織、とくに後述する、800 ℃以上860 ℃未満の再加熱後に冷却する工程において生じるベイナイトが、冷却速度に依存して変化し、結果として材質が冷却速度に依存して変化することになる上、じん性や溶接性も劣化するため、0.030 wt%未満とする。
【0014】
Si:0.60wt%以下
Siは、オーステナイト域からの冷却中にフェライトの析出を促進し、均質なベイナイト変態が生じる冷却速度範囲を狭くし、また溶接部じん性を劣化するため、0.60wt%以下の範囲に限定する。なお、脱酸および強度確保のために0.02wt%以上添加することが好ましい。
【0015】
Mn:0.20〜3.00wt%
Mnは、オーステナイト域からの冷却に際して、実質上冷却速度に依存することなしに均質なベイナイト単相組織を得るとともに、延性および強度を確保するために、0.20wt%以上は必要であるが、3.00wt%をこえる含有は、溶接による硬化が著しく高まって、とくに溶接熱影響部(HAZ )のじん性を劣化するため、0.20〜3.00wt%の範囲とする。
【0016】
Ni:2.0 wt%以下
Niは、強度およびじん性を向上し、またCuの添加による熱間加工性の劣化を抑制するのに有効であるが、高価であるため経済性の観点から上限を2.0 wt%とする。
【0017】
Cu:0.7 〜2.0 wt%
Cuは、この発明において重要な成分であり、析出強化に寄与するほか、後述の熱処理によって分布を制御することにより、鋼組織における析出強化量をミクロ的に不均一として、鋼材の降伏比を低下する作用を有する。そのためには、0.7 wt%以上が必要であるが、2.0 wt%をこえるとじん性の劣化をまねくため、2.0 wt%以下とする。
【0018】
Al:0.10wt%以下
Alは、0.10wt%をこえると、溶接性が損なわれるため、0.100 wt%以下とする。なお、脱酸のため0.010 wt%以上添加することが好ましい。
【0019】
この発明は、上記の基本組成に成分調整をすることによって、特に成形加工後の冷却速度にほとんど依存しないで、均質な組織、具体的には90%以上がベイナイトの組織が得られるところに特徴がある。この特徴は、図1に結果を示す実験から、明らかである。
【0020】
すなわち、この発明に従う成分に調整した鋼(発明例)と、建築材料に用いられる在来の鋼(従来例)とに関して、製造工程における冷却速度を、0.1 〜50℃/sの間で種々に変化させて得た鋼板の引張り強さを調査した結果について、図1に示す。同図から、この発明に従う成分に調整することによって、冷却速度に依存しないで一定した強度が得られることがわかる。特に、従来は予測できないほど広範囲の冷却速度において、Y.S およびT.S 値のばらつきが少なくなる。これは、上述のとおり、CおよびSi量の制限、そしてMnの適量添加が寄与するところである。従って、厚鋼板の厚み方向で冷却速度が変化しても、冷却速度に依存して強度が変化することがなく、厚み方向に材質ばらつきの少ない厚鋼板が得られるのである。
【0021】
なお、発明例は、C:0.007 wt%、Si:0.06wt%、Mn:2.80wt%、Ni:0.7wt %、Cu:0.9 wt%およびおよびAl:0.029 wt%を含み、残部鉄および不可避的不純物になる成分組成になり、一方、従来例は、C:0.12wt%、Si:0.3 wt%、Mn:1.45wt%、Al:0.024 wt%、Ni:0.2 wt%、Mo:0.2 wt%、Ti:0.013 wt%であった。そして、同じ製造工程における、冷却速度を変化させて、厚み:50mmの厚鋼板を多数製造して、それぞれの厚鋼板から採取した試験片にて引張り強さを測定した。
【0022】
また、この発明においては、上記基本成分に、所定の化学成分を添加することによって、強度やじん性のレベルを自在に制御することができる。このとき、既に獲得した均質な組織は、新たな成分の添加に影響されることが少ないため、材質ばらつきの少ない高強度および/または高じん性の厚鋼板が容易に得られるのである。
【0023】
すなわち、強度向上をはかるために、Cr:1.0 wt%以下、Mo:1.0 wt%以下、W:0.5 wt%以下、V:0.005 〜0.20wt%、Ti:0.005 〜0.20wt%、Nb:0.003 〜0.20wt%およびB:0.0003〜0.0050wt%の1種または2種以上を、添加することができる。
【0024】
Cr:1.0 wt%以下
Crは、強度を上昇する効果があるが、0.5 wt%をこえて添加すると溶接性が劣化するため、1.0 wt%以下の範囲で添加する。なお、下限は0.05wt%とすることが好ましい。
【0025】
Mo:1.0 wt%以下
Moは、常温および高温での強度を上昇する効果があるが、1.0 wt%をこえると、溶接性が劣化するため、0.5 wt%以下の範囲で添加する。なお、下限は、0.05wt%未満の添加では強度上昇効果が不十分であるため、0.05wt%とすることが好ましい。
【0026】
W:0.5 wt%以下
Wは、常温および高温での強度を上昇する効果があるが、高価である上、0.5 wt%をこえると、じん性が劣化するため、0.5 wt%以下の範囲で添加する。なお、0.05wt%未満の添加では強度上昇効果が不十分であるため、添加量は0.05wt%以上とすることが好ましい。
【0027】
V:0.005 〜0.20wt%
Vは、析出強化のために、0.005 wt%以上は添加するが、0.20wt%をこえて添加しても、その効果が飽和するため、0.20wt%を上限とする。
【0028】
Ti:0.005 〜0.20wt%
Tiは、BNの析出を抑制してB添加による強度向上を助成するものであり、またAr3変態点を下げてオーステナイト域からの冷却においてベイナイト組織の形成に寄与し、強度を向上する上、TiN となって溶接部じん性を向上するのに有効である。これらの効果を得るには0.005 wt%以上は必要である。一方、0.20wt%をこえると、じん性が劣化するため0.20wt%以下とする。
【0029】
Nb:0.003 〜0.20wt%
Nbは、析出強化元素として母材強度を向上するとともに、Ar3変態点を下げて低冷却速度域までベイナイト生成範囲を広げる効果を有する。これらの効果を得るには0.003 wt%以上は必要であるが、0.20wt%をこえて添加しても、その効果が飽和するため、0.20wt%を上限とする。
【0030】
B:0.0003〜0.0050wt%
Bは、0.0003wt%以上の添加によって、ベイナイト変態温度を低下して強度を向上する効果を有する。一方、0.0050wt%をこえると、BN等のB化合物がオーステナイト粒界に析出してオーステナイト粒界のフェライト析出が促進され、組織の冷却速度依存性が大きくなるため、0.0050wt%を上限とする。
【0031】
また、HAZ のじん性向上をはかるために、 REMおよびCaのうちから選んだ少なくとも1種を0.02wt%以下で添加することができる。
REM はオキシサルファイドとなってオーステナイト粒の粒成長を抑制してHAZ のじん性を向上するが、0.02wt%をこえて添加すると鋼の清浄度を損なうため、0.02wt%以下とする。なお、0.001 wt%未満の添加では上記HAZ じん性向上効果が不十分であるため、添加量は0.001 wt%以上とすることが好ましい。
【0032】
Caは、HAZ のじん性向上に有効である上、鋼中硫化物の形態制御により板厚方向の材質改善にも有効であるが、0.02wt%をこえて添加すると、非金属介在物量を増大させ内部欠陥の原因となるため、0.02wt%以下とする。なお、0.0005wt%未満の添加では上記効果が不十分であるため、添加量は0.0005wt%以上とすることが好ましい。
【0033】
上記成分組成の鋼板は、上述した基本組成に成分調整をすることによって、均質な組織が得られるため、製造条件を厳密に制御する必要はなく、この種の鋼板を製造する際の通例に従って製造すればよい。とりわけ、オーステナイト状態からの冷却、すなわち鋼スラブに熱間圧延等の成形加工を施した後、 800℃以上 860℃未満の温度に再加熱後の冷却は、この発明で対象とする鋼材の製造において一般的な冷却速度を適用して、加熱等にオーステナイト状態であった部分を均質なベイナイト組織とすることができる。従って、上記冷却は、厳密に管理する必要はなく、空冷または加速冷却のいずれでも可能であるが、80℃/s以下の範囲で行うことが好ましい。なぜなら、80℃/sをこえる冷却速度で冷却を行うと、ベイナイト・ラス間隔が密になり強度が冷却速度に依存して上昇する傾向が現れるからである。
【0034】
また、材質ばらつきの抑制に併せて、降伏比を低くするには、次に示す製造工程が有利に適合する。
すなわち、上述した基本組成に成分調整した鋼スラブに熱間加工を施したのち、まず800 ℃以上860 ℃未満の温度に加熱すると、非常に高温で焼戻されたベイナイト、つまり実質的にフェライト(以下、単にフェライトと示す)と、オーステナイトとの2相混合組織の状態となり、ここから冷却を施すと、オーステナイトは再びベイナイトに変態し、フェライトはそのまま残存する。ここで生成したベイナイト相の材質特性は、冷却速度に影響されにくいため、材質のばらつきは少なくなる。
【0035】
また、800 ℃以上860 ℃未満の高温域における、フェライトとオーステナイトとの間には、合金元素とくにCuが分配されて鋼組織レベルでの合金元素のミクロ的不均一が生じ、この状態は冷却後の組織にも受け継がれることになる。
【0036】
次いで、500 ℃以上800 ℃未満の温度に再加熱するか、800 ℃以上860 ℃未満加熱後の冷却の途中で500 ℃以上800 ℃未満の温度に保持し、その後冷却することによって、Cu、さらには任意添加成分であるNbやV等の析出強化元素を析出させる。この析出は、上記した800 ℃以上860 ℃未満の加熱処理にて制御した、合金元素とくにCuの分布に応じて、不均一になる。その結果、析出強化量の大きい部分と小さい部分が生じて、相対的に硬質部分と軟質部分が形成され、鋼材に低い降伏比が与えられることになる。硬質部分および軟質部分の分布、換言すると組織の不均一は、数十μm以下の鋼組織レベルのミクロ領域における現象であり、材質ばらつきが問題となる、マクロな領域における組織の均一性は維持され、材質ばらつきの原因となることはない。
【0037】
【実施例】
表1に示す種々の成分組成に調整した鋼スラブに、1150℃に加熱後、圧延パス数6パスで圧延終了温度 850℃の条件にて熱間圧延を施して厚さ70mmの厚鋼板としたのち、表2に示す各温度に再加熱して冷却する熱処理を施した。なお、この熱処理に供する厚鋼板は、材質が冷却速度に実質上依存しないため、800 ℃以上860 ℃未満の温度に加熱後の冷却は80℃/s以下の範囲で行う、いかなる手法でもよいが、この実施例では、発明例1−2を空冷にした以外、冷却速度が板厚方向にばらつき易い水冷にて行った。また、500 ℃以上800 ℃未満の再加熱または当該温度域での保持は、全て1800sとした。なお、この発明において、圧延条件は何ら規制されるものではなく、通例に従って圧延を行えばよく、一例として上記条件を採用したに過ぎない。
【0038】
かくして得られた各鋼板について、引張試験およびシャルピー衝撃試験を行って、その機械的性質を調査するとともに、厚み方向の強度のばらつきを評価するため、鋼板断面の硬さを表面より2mmピッチにて測定して板厚方向の硬さ分布を、荷重10kgf のビッカース硬さ試験にて調査した。
【0039】
これらの各調査結果を、表3に示すように、発明例による厚鋼板は、いずれも組織が均一になるために厚み方向の硬さのばらつきが極めて小さく、かつ降伏比も低いことがわかる。
【0040】
これに対して、比較例1は、再加熱温度が860 ℃以上であるために、加熱時に完全にオーステナイト化し、ミクロ的な組織分布およびこれに起因した析出分布が制御できないことから、発明例と比較して降伏比が上昇した。逆に、比較例2は、再加熱温度が860 ℃未満であるために、加熱時に全くオーステナイト化しないために、同様にミクロ的な組織分布およびこれに起因した析出分布が制御できないことから、発明例と比較して降伏比が上昇した。
【0041】
比較例3は、2回目の再加熱温度が800 ℃以上であるために、加熱時にCuが固溶して析出しないことから、発明例と比較して強度が低下しかつ降伏比が上昇した。逆に、比較例4は、2回目の再加熱温度が500 ℃未満であるために、加熱時のCu析出が不十分になることから、発明例と比較して強度が低下しかつ降伏比が上昇した。
【0042】
比較例5は、C含有量が多すぎるために鋼組織が冷却速度に依存するところから、板厚方向の硬さ変化が大きく、つまり材質にばらつきが生じた。同様に、比較例7はMnの含有量が低いため、発明例と比較して強度が低い上、鋼組織が冷却速度に依存するところから、板厚方向の硬さ変化が大きく、つまり材質にばらつきが生じた。また、比較例6は、Cuを含有しない鋼組成であるため、強度が低下しかつ降伏比が上昇した。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
【発明の効果】
この発明によれば、工業的規模での生産における冷却工程で用いられる、いずれの冷却速度によっても、鋼材の厚み方向あるいは鋼材間で材質のばらつきの極めて少ない、かつ降伏比の低い、鋼材を安定して製造できる。なお、この発明は形鋼の分野にも有利に適合する。
【図面の簡単な説明】
【図1】厚鋼板における冷却速度と強度との関係を示す図である。
Claims (4)
- C:0.001 wt%以上0.030 wt%未満、
Si:0.60wt%以下、
Mn:0.20〜3.00wt%、
Ni:2.0 wt%以下、
Cu:0.7 〜2.0 wt%および
Al:0.10wt%以下
を含み残部鉄および不可避的不純物からなる鋼素材を、800 ℃以上860 ℃未満の温度に加熱して冷却したのち、500 ℃以上800 ℃未満の温度に再加熱して当該温度域に保持し、その後冷却することを特徴とする90 %以上がベイナイトの組織である材質ばらつきが少なくかつ降伏比の低い厚みが 30mm 以上の鋼材の製造方法。 - C:0.001 wt%以上0.030 wt%未満、
Si:0.60wt%以下、
Mn:0.20〜3.00wt%、
Ni:2.0 wt%以下、
Cu:0.7 〜2.0 wt%および
Al:0.10wt%以下
を含み残部鉄および不可避的不純物からなる鋼素材を、800 ℃以上860 ℃未満の温度に加熱した後、500 ℃以上800 ℃未満の温度域まで冷却して当該温度域に保持し、その後冷却を続行することを特徴とする90 %以上がベイナイトの組織である材質ばらつきが少なくかつ降伏比の低い厚みが 30mm 以上の鋼材の製造方法。 - 請求項1または2において、鋼材が、さらに
Cr:1.0 wt%以下、
Mo:1.0 wt%以下、
W:0.5 wt%以下、
V:0.005 〜0.20wt%、
Ti:0.005 〜0.20wt%、
Nb:0.003 〜0.20wt%および
B:0.0003〜0.0050wt%
の1種または2種以上を含有する組成になる90 %以上がベイナイトの組織である材質ばらつきが少なくかつ降伏比の低い厚みが 30mm 以上の鋼材の製造方法。 - 請求項1、2または3において、鋼材が、さらにREM およびCaの1種または2種を0.02wt%以下の範囲で含有する組成になる90 %以上がベイナイトの組織である材質ばらつきが少なくかつ降伏比の低い厚みが 30mm 以上の鋼材の製造方法。
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