JP3593350B2 - 細胞分化誘導剤 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、細胞分化誘導(以下、分化誘導)作用に基づく造血器腫瘍・固形腫瘍などの疾患の治療・改善剤に関する。
【0002】
【発明の背景】
わが国における死亡原因の第一位を癌が占めるようになって久しく、しかも患者数は年々増加してきており、有効性および安全性の高い薬剤や治療法の開発が、今や国民・研究者・行政の最大関心事となっている。
【0003】
癌(腫瘍)は発現部位・病理像・症状等により多岐に分類されるが、造血器腫瘍の代表的疾患である白血病は血液細胞(白血球)の腫瘍であり、未分化の各種幼若型白血球細胞の増殖が特徴である。またそれらの中でも、増加している腫瘍細胞が未成熟な芽球であるものを急性白血病、成熟細胞であるものを慢性白血病と分類しており、多岐にわたる臨床症状を呈するが、その多くは、正常造血の抑制に基づく症状と、他臓器への浸潤・圧迫に基づく症状に大別することができる。具体的には、正常血球細胞の減少は赤血球減少による貧血・顆粒球減少による感染症や発熱・血小板の減少による出血傾向として現れ、正常造血の抑制は骨髄不全を招く。癌が予後不良な疾患であることは一般よく知られるところであり、これまでにも種々の薬剤や治療方法が検討されてきた。
【0004】
それらの中でも薬物治療法の基礎となる考え方は、腫瘍細胞である白血病細胞をすべて死滅させることにより治療効果を得るというものであり、従ってよりよい治療成績を上げるために、増殖能が異常に高い腫瘍に対し、細胞毒性による殺細胞作用をより強力に示す薬剤の開発や、併用療法、高濃度・多量投与療法などが試みられてきた。しかしこれらの薬剤や治療法は、腫瘍細胞だけに特異的に作用するのではなく、正常細胞に対しても毒性を示すため、心臓・心筋障害、骨髄機能抑制、悪心・嘔吐、神経障害、脱毛等の重篤な副作用が発現し、治療効果にも限界があった。
【0005】
一方、従来の制癌剤と比較して安全性のより高い各種分化誘導剤が、in vitroにおいて腫瘍細胞を成熟細胞へ分化誘導する事実は知られており、分化誘導療法への期待が集まっていたが、残念ながら従来の分化誘導剤では臨床での有用性が認められていなかった。しかし1988年にヒュン(Huang) らが、オールトランス−レチノイン酸(以下、ATRA)が急性前骨髄性白血病(以下、APL)患者に対し100%に近い完全寛解をもたらした臨床成績を報告して以来[ブラッド(Blood), 72,567−572,1988.]、世界各国においてその効果が再確認され、造血器腫瘍のみならず固形腫瘍を含めた広い範囲の癌に対する分化誘導療法に期待が高まりつつある。
【0006】
【従来技術】
前述のように、ATRAが臨床において APLに有効であることは、ヒュン(Huang) ら[ブラッド(Blood), 72,567−572,1988.]を始め、キャステン(Castaigne)ら[ブラッド(Blood), 76,1704−1709,1990.]、ワーレル(Warrell) ら[ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン(New Engl.J.Med.),324,1385−1393,1991.]など、多く研究者が報告している。
【0007】
またオルソン(Olsson)らは、ビタミンD3 の生理活性型代謝物である 1α,25−ジヒドロキシコレカルシフェロール(以下、活性V.D3)が、ヒト・リンパ腫培養細胞系(U937) において分化誘導作用を有することを報告している[キャンサー・リサーチ(Cancer Res.),43(12Pt1),5862−5867,1983.]。これより分化誘導作用を有する活性V.D3誘導体の開発も盛んに行われるようになり、例えば特開昭61−33165号公報には24−アルキルーデヒドロビタミンD3 誘導体が抗腫瘍作用を有することが、また特開昭 61−140560号公報には20−オキサ−21−ノル−ビタミンD3 誘導体が分化誘導作用を有することが、それぞれ開示されている。
【0008】
ツァン(Zhang) らは、ブファリン(Bufalin)がヒト白血病細胞の培養細胞系であるHL60、U937および ML1において分化誘導作用を示したことを報告している[バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochem.Biophys.Res.Commun.),178(2),686−693,1991.およびキャンサー・リサーチ(Cancer Res.),52(17),4634−4641,1992.] 。
【0009】
また上記以外にも分化誘導作用を有する化合物として、バカラーニ(Baccarani)らはシトシン・アラビノシド(Ara−C)を[ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ヘマトロジー(Br.J.Haematol.),42,485−487,1979.]、モーリン(Morin) らはアクラシノマイシンAを[キャンサー・リサーチ(Cancer Res.),44,2807−2812,1984.] 、森屋らはインターフェロン−αを[臨床血液,32,170−172,1991.]に報告している。
【0010】
石倉らは、マウス骨髄球性白血病の培養細胞系を用いて、ゲラニル・ファルネソール(3,7,11,15,19−ペンタメチル−2、6、10、14、18−エイコサペンタエン−1−オール)が分化誘導作用を有することを報告している[ロイケミア・リサーチ(Leukemia Res.),8(5),843−852,1984.] 。
【0011】
【本発明が解決しようとする問題点】
ATRAおよびその誘導体は、皮膚癌や難治性皮膚角化疾患である乾癬の治療に利用されているが、脂溶性が極めて高いため、長期間投与すると肝臓の肥大・神経異常・食欲不振・嘔吐・脱毛・そう痒感等のビタミンA過剰症状を発現しやすいことが広く知られており、かつ投与を中止しても肝臓や組織に長期間残留するため、副作用が一度発現すると長期間消失しない重大な欠点がある。またATRAが APLに有効であることは前述の通りであるが、 APLが全白血病患者中に占める割合は約5%と非常に少なく、他の多くのタイプの急性白血病患者にはほとんど無効であった。さらに寛解後も投与を中止すると再発しやすい問題もあった。
【0012】
ビタミンD3 誘導体は骨粗鬆症などの治療に利用されているが、腸管でのカルシウム吸収および腎臓におけるカルシウム再吸収を促進するので、投与量が過剰になると高カルシウム血症を引き起こし、石灰沈着に起因する腎臓障害や消化器障害をもたらすことが知られている。このため投与期間中は定期的に血清カルシウム値を検査しなければならず、臨床では非常に使いにくい問題点がある。さらにビタミンD3 誘導体の分化誘導作用は、ヒト前骨髄球性白血病の培養細胞系であるHL60には有効であるが、他のタイプのモデルにおいては有効性が認められていない。
【0013】
ブファリンは臨床には応用されていないため、その安全性に関して全く不明であり、ヒトでの有用性を予測することはできなかった。
【0014】
さらにシトシン・アラビノシドやアクラシノマイシンAも安全性上の問題から国内では薬剤として許可されておらず、インターフェロン−αの抗腫瘍作用も期待されたほどではなかった。
【0015】
ゲラニル・ファルネソールの分化誘導作用に関する評価結果はマウス白血病細胞培養細胞系におけるものである。その後ヒト白血病細胞培養細胞系での評価結果は全く報告されていないので、種の異なる細胞間での薬剤感受性の差を考慮すると、ヒトでの有効性は一切不明であった。
【0016】
このように、各種癌に対して優れた有効性と安全性を兼ね備えた薬剤はないのが現状であり、臨床で広範囲の癌に対し有用性の高い医薬品の開発が強く望まれていた。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明にかかる、δ−トコフェロールは抗酸化作用および抗ビタミンE欠乏症作用を有する化合物として公知であり、医薬、化粧品、食品添加物、安定化剤、工業原料などとして、すでに一般に広く用いられている。またδ−トコフェロールにはビタミンAに見られるような過剰症などの副作用はなく、極めて安全性の高い化合物でもある。本発明者らは、δ−トコフェロールが、優れた生理活性とヒトや動物への安全性が高いという要件を兼ね備えていることに着目し、永年他の疾患への有効性も検討してきた。その結果、意外にもδ−トコフェロールが分化誘導作用も有しており、造血器腫瘍・固形腫瘍などの各種癌に対する治療・改善剤として所期の目的を達成できることを見い出し本発明を完成した。δ−トコフェロールは下記化学構造式で表される。
【0018】
【化1】
【0019】
δ−トコフェロールは分子内に3個の不斉炭素原子を有し、計8種類の光学異性体が存在するが、本発明においては限定されずいずれの異性体でもよい。さらに本発明においてはこれらの光学異性体のうち一種類のみを用いてもよいし、2種類以上の混合物を用いてもよく限定されない。またδ−トコフェロールには、天然抽出物と合成品とがあるが、由来も限定されない。なおδ−トコフェロールは、医薬品、化粧品、食品、工業原料などとして広く販売されており、容易に入手することができる。
【0020】
従って本発明の目的は、分化誘導作用を有する臨床的有用性の高い、各種癌に対する治療・改善剤を提供することにある。具体的にはδ−トコフェロールを有効成分とする、造血器腫瘍・固形腫瘍等の各種癌・悪性腫瘍の治療・改善剤、および本化合物の分化誘導作用が有効な疾患の治療・改善剤に関する。ここで造血器腫瘍の具体的疾患名の一例としては、例えば急性白血病、慢性白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、マクログロブリン血症などを挙げることができ、また固形腫瘍としては、例えば脳腫瘍、頭頸部癌、乳癌、肺癌、食道癌、胃癌、大腸癌、肝癌、胆嚢・胆管癌、膵癌、膵島細胞癌、腎細胞癌、副腎皮質癌、膀胱癌、前立腺癌、睾丸腫瘍、卵巣癌、子宮癌、絨毛癌、甲状腺癌、悪性カルチノイド腫瘍、皮膚癌、悪性黒色腫、骨肉腫、軟部組織肉腫、神経芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、胎児性横紋筋肉腫、網膜芽細胞種などを挙げることができるが、本発明の対象疾患がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【0021】
また本発明においては上記治療・改善剤としての有効性に加え、長期間投与しても極めて高い安全性が期待できることから、長期間治療を続けることが可能となり、癌患者のクオリティー・オブ・ライフの改善に大きく貢献する発明であると言える。
【0022】
なおδ−トコフェロールは、急性毒性試験を行っても明らかな変化は認められずLD50値は報告されていないが、すでに医薬品、化粧品、食品などとして広く利用されており、安全性は確認されている。
【0023】
投与剤型としては、例えば散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、被覆錠剤、カプセル剤などの経口製剤および注射製剤が挙げられる。製剤化の際には、通常の製剤担体を用いて常法により製造することができる。
【0024】
すなわち経口製剤を製造するには、δ−トコフェロールと賦形剤、さらに必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤などを加えた後、常法により散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、被覆錠剤、カプセル剤等とする。
【0025】
賦形剤としては、例えば乳糖、コーンスターチ、白糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビット、結晶セルロース、二酸化ケイ素などが、結合剤としては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、シェラック、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレングリコール・ポリオキシエチレン・ブロックポリマー、メグルミンなどが、崩壊剤としては、例えば澱粉、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン、カルボキシメチルセルロース・カルシウム等が、滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、硬化植物油等が、着色剤としては医薬品に添加することが許可されているものが、矯味矯臭剤としては、ココア末、ハッカ脳、芳香散、ハッカ油、竜脳、桂皮末等が用いられる。これらの錠剤・顆粒剤には糖衣、その他必要により適宜コーティングすることはもちろん差支えない。
【0026】
また注射用製剤を製造する際には、δ−トコフェロールにpH調整剤、溶解剤、等張化剤などと、必要に応じて溶解補助剤、安定化剤などを加えて、常法により製剤化する。
【0027】
外用剤を製造する際の方法は限定されず、常法により製造することができる。すなわち製剤化にあたり使用する基剤原料としては、医薬品、医薬部外品、化粧品等に通常使用される各種原料を用いることが可能である。
【0028】
使用する基剤原料として具体的には、例えば動植物油、鉱物油、エステル油、ワックス類、高級アルコール類、脂肪酸類、シリコン油、界面活性剤、リン脂質類、アルコール類、多価アルコール類、水溶性高分子類、粘土鉱物類、精製水などの原料が挙げられ、さらに必要に応じ、pH調整剤、抗酸化剤、キレート剤、防腐防黴剤、着色料、香料などを添加することができるが、本発明にかかる外用剤の基剤原料はこれらに限定されない。また必要に応じて他の分化誘導作用を有する成分、血流促進剤、殺菌剤、消炎剤、細胞賦活剤、ビタミン類、アミノ酸、保湿剤、角質溶解剤等の成分を配合することもできる。なお上記基剤原料の添加量は、通常外用剤の製造にあたり設定される濃度になる量である。
【0029】
本発明におけるδ−トコフェロールの臨床投与量は、症状、重症度、年齢、合併症などによって異なり限定されず、また化合物の種類・投与経路などによっても異なるが、通常成人1日あたり 0.1mg〜10g であり、好ましくは 1mg〜5gであり、さらに好ましくは 10mg 〜1gであり、これを経口、静脈内または経皮投与する。
【0030】
次に本発明を具体的に説明するため以下に実施例を掲げるが、本発明がこれらのみに限定されないことは言うまでもない。
【0031】
【実施例】
実施例1 顆粒剤
【0032】
【表1】
【0033】
実施例2 錠剤
【0034】
【表2】
【0035】
実施例3 注射剤
【0036】
【表3】
【0037】
実施例4 外用剤
【0038】
【表4】
【0039】
【発明の効果】
次に本発明化合物の分化誘導剤としての有用性を示すため、各種ヒト白血病細胞培養系に対する効果実験例を挙げる。なお実験に用いた細胞系は以下の通りである。
(1) U937;ヒト単芽球様白血病細胞
(2) ML1 ;ヒト骨髄芽球様白血病細胞
(3) K562;ヒト骨髄赤芽球白血病細胞
(4) HL60;ヒト前骨髄性白血病細胞
【0040】
(方法)
本発明にかかる分化誘導作用の評価は、文献に記載されている方法[中谷ら、キャンサー・リサーチ(Cancer Res.),48,4201−4205,1988.] に従って行い、下記分化誘導マーカーについて測定・評価した。
(1) 正常細胞への分化誘導マーカーであるニトロブルーテトラゾリウム(以下、 NBT)還元能は、細胞を NBT試薬と37℃で40分間インキュベートし、還元されて生じたフォルマザンを顕微鏡で観察して評価した。
(2) 細胞の viability(死細胞の割合)はトリパンブルー試薬で染色された細胞を死細胞とし、全体の細胞数に対する百分率を算出した。
【0041】
(結果)
実験1 ヒト単芽球様白血病細胞 U937 に対する分化誘導作用
ヒト単芽球様白血病細胞 U937 に対する、δ−トコフェロールの濃度と分化誘導作用の関係を図1に示す。
【0042】
【図1】
【0043】
図1から明らかなように、δ−トコフェロールの濃度の増加と共に分化誘導能は増加し、100 μM のδ−トコフェロール処理では約 50%の細胞に分化が認められた。また細胞の増殖阻害もδ−トコフェロール濃度の増加と共に認められ、20μM のδ−トコフェロールで約 50%の増殖が阻害された。従って、δ−トコフェロールはU937細胞の分化を誘導することが明らかである。
【0044】
実験2 ヒト骨髄芽球様白血病細胞 ML1 に対する分化誘導作用
ヒト骨髄芽球様白血病細胞 ML1に対する、δ−トコフェロールの濃度と分化誘導作用の関係を図2に示す。
【0045】
【図2】
【0046】
図2から明らかなように、δ−トコフェロールの濃度の増加と共に分化誘導能は増加し、100 μM のδ−トコフェロール処理では約 60%の細胞に分化が認められた。一方細胞の増殖阻害は認められなかった。従って、δ−トコフェロールは
ML1細胞の分化を誘導することが明らかである。
【0047】
実験3 ヒト骨髄赤芽球白血病細胞 K562 に対する分化誘導作用
ヒト骨髄赤芽球白血病細胞 K562 に対する、δ−トコフェロールの濃度と分化誘導作用の関係を図3に示す。
【0048】
【図3】
【0049】
図3から明らかなように、δ−トコフェロールの濃度の増加と共に分化誘導能は明らかに増加し、100 μM のδ−トコフェロール処理では100%の細胞に分化が認められた。一方細胞の増殖阻害も100 μM のδ−トコフェロール処理で約95% に認められた。この結果より、δ−トコフェロールはより特徴的にヒト骨髄赤芽球白血病細胞K562細胞の分化を誘導することが明らかである。
【0050】
実験4 ヒト前骨髄性白血病細胞 HL60 に対する分化誘導作用
次にヒト骨髄芽球様白血病細胞 HL60 に対する、δ−トコフェロールの濃度と分化誘導作用の関係を図4に示す。
【0051】
【図4】
【0052】
図4から明らかなように、δ−トコフェロールの濃度の増加と共に分化誘導能は増加し、100 μM のδ−トコフェロール処理では約 55%の細胞に分化が認められた。一方細胞の増殖阻害も100 μM のδ−トコフェロール処理で約82% に認められた。従って、δ−トコフェロールはHL60細胞の分化を誘導することが明らかである。
【0053】
上記実験例の結果から、δ−トコフェロールは10−5M 台の濃度で発生段階の異なる各種ヒト白血病細胞の分化を誘導すること、しかもヒト骨髄赤芽球白血病細胞に対してその効果はより顕著であることが明らかである。この結果は、これまでに報告されている分化誘導の至適濃度( RA ;10−6M、活性V.D3;10−8M)と比較すると若干弱いが、δ−トコフェロールの優れた安全性も考慮すれば、臨床上の有用性は、逆にδ−トコフェロールの方がより高いことは明らかである
【0054】
さらに本発明者らは、δ−トコフェロールが造血器腫瘍のみならず固形腫瘍にも有効であることを確認するために、δ−トコフェロールのマウス由来 B16メラノーマ細胞に対する分化誘導作用についても検討した。
【0055】
実験5 マウス由来 B16 メラノーマ細胞に対するトコフェロール同族体の分化誘導作用
マウス由来 B16メラノーマ細胞に対するδ−トコフェロール同族体の分化誘導作用を、メラニン生成能を指標として評価した。すなわちB16メラノーマ細胞を継代培養後、 2×104 セル/ml になるよう 10%FCS MEM*に加え培養用シャーレ(φ=10cm)にて24時間培養した。培養後、各試料が毒性を示さなかった濃度(7.5 ×10−6 M)に調製した 10%FCS MEM で培地交換を行った後、同条件で 5日間培養した。培養後、等張緩衝塩類溶液[日水製薬製、商品名;Dulbecco’s PBS(−) ]で洗浄し、0.25% トリプシン/エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)溶液を用いて細胞を集め、さらに上記等張緩衝塩類溶液で再び洗浄した後、遠心分離(100G)して細胞を得た。( 10%FCS MEM*;標準培地に 10%ウシ胎仔血清、ペニシリン、ストレプトマイシンおよび炭酸水素ナトリウムを添加した培地)
【0056】
得られた細胞に1mM−フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF) 1mlを添加したリン酸緩衝液を加えた後、及川らの方法(エール・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・メディスン[Yale J.Biol.Med.], 46、500−507,1973.)にしたがって総メラニン量を吸光度(λ=400nm )で測定し評価した。
【0057】
表5に、マウス由来B16メラノーマ細胞に対するトコフェロール同族体の分化誘導作用を示す。
【0058】
【表5】
【0059】
表5から明らかなように、7.5 ×10−6M のδ−トコフェロールにて5日間培養した処理した B16メラノーマ細胞の蛋白量あたりの総メラニン量(ユーメラニンおよびフェオメラニン)は、コントロール培養細胞に比べ約 45%低下しており、特にユーメラニン量は約 50%低下した。この時の細胞内チロシナーゼ量は、δ−トコフェロール処理により明らかに減少したことが SDS電気泳動法により確認された。また5日間培養後の細胞数は、コントロールと比較してδ−トコフェロール処理により約 40%に減少し、分化誘導に伴う生育阻害を受けた。 B16メラノーマ細胞に対するδ−トコフェロールの IC50(細胞の増殖を 50%阻害する濃度)は 9.7×10−4M であり、メラニン生成を阻害する機構が細胞毒性によるものではないことは明確である。
【0060】
上記の結果はδ−トコフェロールの固形腫瘍に対する有効性をも示すものであり、δ−トコフェロールの造血器腫瘍の分化誘導のみに止まらない幅広い適応性を示唆するものである。
【0061】
【図面の簡単な説明】
【図1】ヒト単芽球様 U937 細胞に対するδ−トコフェロールの濃度と分化誘導作用との関係を示した図である。(各群とも n=3、平均±標準誤差で示す)
【図2】ヒト骨髄芽球様白血病細胞 ML1に対する、δ−トコフェロールの濃度と分化誘導作用の関係を示した図である。(各群とも n=3、平均±標準誤差で示す)
【図3】ヒト骨髄赤芽球白血病細胞 K562 に対するδ−トコフェロールの濃度と分化誘導作用との関係を示した図である。(各群とも n=3、平均±標準誤差で示す)
【図4】前骨髄性白血病細胞 HL60 に対するδ−トコフェロールの濃度と分化誘導作用との関係を示した図である。(各群とも n=3、平均±標準誤差で示す)
Claims (5)
- δ−トコフェロールを有効成分とする細胞分化誘導剤。
- 造血器腫瘍治療剤である請求項1記載の細胞分化誘導剤。
- 急性白血病、慢性白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、マクログロブリン血症からなる群より選ばれる疾患の治療・改善剤である請求項2記載の細胞分化誘導剤。
- 固形腫瘍治療剤である請求項1記載の細胞分化誘導剤。
- 脳腫瘍、頭頸部癌、乳癌、肺癌、食道癌、胃癌、大腸癌、肝癌、胆嚢・胆管癌、膵癌、膵島細胞癌、腎細胞癌、副腎皮質癌、膀胱癌、前立腺癌、睾丸腫瘍、卵巣癌、子宮癌、絨毛癌、甲状腺癌、悪性カルチノイド腫瘍、皮膚癌、悪性黒色腫、骨肉腫、軟部組織肉腫、神経芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、胎児性横紋筋肉腫、網膜芽細胞腫からなる群より選ばれる疾患の治療・改善剤である請求項4記載の細胞分化誘導剤。
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