JP3591799B2 - 高靱性窒化珪素質焼結体及びその製造方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、耐熱衝撃性、耐欠損性、耐摩耗性に優れた切削工具に適した窒化珪素質焼結体に関し、特に鋳鉄の切削に適した高靱性の焼結体とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来技術】
近年、切削工具として用いられる窒化珪素質焼結体としては、窒化珪素に対して各種の焼結助剤を添加したものであり、特に焼結助剤としては、Y2 O3 などの周期律表第3a族元素酸化物と酸化アルミニウムを含有する系や、酸化マグネシウム、酸化珪素、酸化アルミニウムを含有する系が主に用いられている。
【0003】
また最近ではこれらの焼結助剤を用いた窒化珪素質焼結体の表面に耐摩耗性を向上させるため窒化チタン、酸化アルミニウムの薄膜を被覆したものも特公昭62−13430号、特開平2−116401号等にて提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
近年、各種切削加工分野において生産性を向上するために、高速加工、高送り加工等の重切削に対するする要求が高まっており切削工具の使用条件も年々、高速化、高送り化が進んでいる。このため、切削工具にはよりいっそうの耐摩耗性、耐欠損性が要求されている。
【0005】
しかし、従来の窒化珪素質焼結体からなる工具材料では、鋳鉄を高速、高送り切削する、具体的には速度400m/min以上、送り0.5mm/rev(mm/tooth)以上の条件で切削した場合には、十分な耐摩耗性、耐欠損性を有しておらず刃先のチッピング、欠損、異常摩耗等を生じ寿命は短いものであった。
【0006】
また、窒化珪素質焼結体の表面に高硬度の被覆層を形成した被覆窒化珪素工具においても上記の高速、高送り条件では被覆層が剥離してしまい耐摩耗性を向上させることは難しく、しかも工具の製造上、被覆行程を必要とするためにコストも高くなる等の問題があった。
【0007】
従って、本発明は、高硬度および高靱性を有する、特に鋳鉄を高速切削するのに高い耐摩耗性と耐欠損性を発揮することのできる窒化珪素質焼結体とその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者はかかる課題に対して種々検討した結果、焼結体中にTiの窒化物からなる微細な粒子を分散させることにより焼結体の靱性が高められるとの知見を得、さらに検討を重ねた結果、Ti金属粉末を添加し、一旦チタンの融点以上の温度で焼成最高温度よりも低い温度領域で保持した後、さらに高温で焼成することにより緻密な焼結体が得られ、このチタンが窒化物を形成し、この窒化物が凝集して棒状の凝集部が形成され、この凝集部が散在した組織を形成することにより、焼結体の靱性を飛躍的に高めることができることを見いだし、本発明に至った。
【0009】
即ち、本発明の高靱性窒化珪素質焼結体は、窒化珪素90〜99モル%と、周期律表第3a族元素(RE)をRE2 O3 換算で1〜10モル%とからなる主成分100モル%に対して、Tiの窒化物からなる硬質粒子を1〜15モル%の割合で含有するとともに相対密度が95%以上の焼結体であって、前記硬質粒子が棒状の凝集部を形成して島状に散在することを特徴とするものであり、また前記棒状凝集部の平均長さが0.1〜100μm、平均アスペクト比4〜60であることを特徴とするものである。
【0010】
また、かかる焼結体の製造方法として、窒化珪素粉末に、周期律表第3a族酸化物と、Ti粉末を添加し混合した混合物を成形した後、1660〜1800℃の焼成温度で一次焼成した後、該一次焼成温度よりも高い1800〜2000℃の非酸化性雰囲気で焼成して、窒化珪素90〜99モル%と、周期律表第3a族元素(RE)をRE2O3換算で1〜10モル%とからなる主成分100モル%に対して、Tiの窒化物からなる硬質粒子を1〜15モル%の割合で含有し、前記硬質粒子が棒状の凝集部を形成して島状に散在する焼結体を得ることを特徴とするものである。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明における高靱性窒化珪素質焼結体は、窒化珪素を90〜99モル%と、周期律表第3a族元素を酸化物換算で1〜10モル%、特に2〜8モル%の割合で含有する。そして、この窒化珪素および周期律表第3a族元素化合物100モル%に対して、Tiの窒化物からなる硬質粒子を1〜15モル%、特に、2.5〜10モル%の割合で含有するものである。
【0012】
ここで、焼結体組成を上記のように限定したのは、窒化珪素量が90モル%より少なく、周期律表第3a族元素量が10モル%より多いと、焼結体の硬度が低下し工具としての耐摩耗性が劣化し、逆に窒化珪素量が99モル%よりも多く、周期律表第3a族元素量が1モル%より少ないと緻密体が得られず焼結体の強度が低下するからである。さらにTiの窒化物量が15モル%より多いと緻密な焼結体が得られず、1モル%より少ないと靭性の向上効果が得られないためである。
【0013】
また、本発明の焼結体は、図1に示すように、複数個の硬質粒子が凝集して点線で囲む領域に棒状の凝集部Aを形成し、この凝集部Aが焼結体中に島状に散在した組織構造を有する。従って、この凝集部Aは、窒化珪素、周期律表第3a族元素を含むマトリックスBによって囲まれた組織となる。
【0014】
本発明によれば、前記硬質粒子を分散含有することにより、クラックの進展を抑制することができると同時に、棒状凝集部によって、いわゆるプルアウト効果が発揮される結果、焼結体の靱性を高めることができる。なお、この棒状凝集組織は、平均長さが0.1〜100μm、特に、5〜40μm、平均アスペクト比が4〜60、特に6〜30の大きさで散在していることが望ましい。
【0015】
また、本発明の焼結体におけるマトリックスBは、窒化珪素結晶と、それら結晶間に存在する粒界相によって構成され、粒界相には、少なくとも周期律表第3a族元素が含まれる。この粒界相は、粒界相は、非晶質である場合もあるが、望ましくは、結晶化しているのがよく、結晶相としては、アパタイト、YAM、ヴォラストナイト、ダイシリケート、モノシリケートのうちの少なくとも1種を主体とするものであることが望ましい。
【0016】
本発明において、用いられる周期律表第3a族元素としては、Y、Sc、Yb、Er、Dy、Ho、Luなどが挙げられ、これらの中でも、Er、Yb、Luがよい。
【0017】
次に、本発明の製造方法としては、窒化珪素粉末にに対して、添加成分として、周期律表第3a族元素(RE)酸化物粉末と、Ti金属粉末を添加し、ボールミルなどで混合する。これらの添加成分は、最終焼結体組成が前述した範囲になるように調合される。
【0018】
用いる窒化珪素粉末としては、還元窒化法、直接窒化法等により製造されたα型、β型のいずれでもよく、BET比表面積が5m2 /g以上、不純物酸素量0.7〜2重量%の粉末が適当である。
【0019】
そして、上記のようにして混合された混合物を、所望の成形手段、例えば、金型プレス、冷間静水圧プレス、押出し成形、鋳込成形、射出成形等により任意の形状に成形後、焼成する。
【0020】
焼成に当たっては、まず、窒素等の非酸化性雰囲気中でチタンの融点(1660℃)以上、且つ1800℃以下の温度範囲で一次焼成する。この一次焼成により、添加成分であるTi金属は、窒化物を形成すると同時に、それらの微細な粒子が凝集して棒状の凝集部を形成し、この凝集部が、焼結体中に散在した組織を形成するという特異的な挙動を示すものである。この一次焼成を行わないと、上記のような凝集部が形成されず、また、緻密な焼結体を得ることができない。この一次焼成は、3〜10時間行うのが望ましい。
【0021】
次に、一次焼成温度よりも高い1800〜2000℃の温度で2〜8時間程度焼成することに緻密化を図ることができる。この時の温度が1800℃よりも低いと十分な緻密化ができず、2000℃を越えると結晶の異常粒成長が生じたり、窒化珪素が分解し表面が荒れる等の問題が生じる。
【0022】
なお、焼成方法としては、窒化珪素が分解しないようにして、常圧焼成、窒素ガス2気圧以上の窒素ガス加圧焼成、ホットプレス焼成法の他、これらの焼成後に1000気圧下で熱間静水圧焼成することによりさらに緻密化させることができる。
【0023】
また、本発明の窒化珪素質焼結体は、その表面に、Ti、Zr、Ta,Nbなどの周期律表第4a、5a族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、炭酸化物、窒酸化物、Alの酸化物、あるいはこれらの複合体、ダイヤモンド等の硬質炭素膜等を1層または複数層組み合わせて、CVD法やPVD法などの気相合成法等によって薄膜として形成して、表面硬度を高めて耐摩耗性を高めることもできる。
【0024】
【実施例】
原料粉末として窒化珪素粉末(BET比表面積10m2 /g、不純物酸素量1.0重量%)と表1に示した各種周期律表第3a族元素酸化物、SiO2 、Ti金属粉末を用いて表1の比率で調合し、これに成形用バインダーを加えて窒化珪素ボールを用いて混合し、2ton/cm2 の圧力でプレス成形し、さらに3ton/cm2 で冷間静水圧成形し成形体を得た。この成形体を脱脂後、窒素ガス圧力30気圧下、表1の一次焼成温度で6時間保持した後、表1の二次焼成温度で3時間保持し放冷して焼結体を得た。
【0025】
比較例として、一次焼成を行わないもの、TiN粉末を添加したものを用いて上記と同様にして調合し、成形、焼成した。(試料No.15、17)
得られた焼結体に対して、アルキメデス法によって相対密度を求め、さらに、ICP発光分光分析によって、Si、周期律表第3a族元素(RE)およびTiの量を求め、SiはSi3 N4 として、REはRE2 O3 として、さらにTiはX線回折測定から窒化物であることを同定し、窒化物として換算して組成比を求めた。
【0026】
また、焼結体特性として、JISR1610によるビッカース硬度、JIS R 1607によるIF法による破壊靭性を求め、その結果を表1に示した。また、焼結体の組織を観察し、棒状の凝集部の有無、ならびに棒状の凝集部の平均長さ、平均アスペクト比(いずれも凝集部20個の平均値)を求めた。
【0027】
また、切削試験として、上記と同様にしてTNGN160412の工具形状に成形し、焼成して作製した切削工具を下記の切削条件
被削材 FC250
切削速度 600m/min
送り 0.5mm/rev
切り込み 2.0mm
にて湿式切削を行い、刃先の摩耗幅が0.1mm以上になるかまたは刃先の欠損が生じるまでの時間を測定し、試験中断理由とともに表1に示した。
【0028】
【表1】
【0029】
表1の結果によれば、焼結体組成が本発明の範囲から逸脱する試料No.1、7、8、12、15、16、17では、硬度が15.0GPaより低いか、または破壊靭性が7.0MPa・m1/2 より低いものであった。また切削テストにおいても10分以内で摩耗幅0.1mm以上となるか、または欠損が生じて工具寿命となった。
【0030】
これに対し本発明の試料は、何れも硬度15.0GPa以上、破壊靭性7.0MPa・m1/2 以上の高機械的特性を示し、鋳鉄の高速切削試験においても、15分以上の工具寿命を示した。このように、本発明の窒化珪素質焼結体は、鋳鉄の切削において、高い耐摩耗性、耐欠損性を有し工具の寿命を延長することができる。
【0031】
また、Ti金属粉末を用いた系で、一次焼成を行わない試料No.15では、十分に緻密化することができず、また、Tiの窒化物による凝集部が形成されなかった。また、出発原料としてTiN粉末を添加した試料No.17においては、硬質窒化物粒子が棒状の凝集部を形成せず、特性の向上が見られなかった。
【0032】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明の窒化珪素質焼結体は、焼結体中に複数個の微細な硬質粒子が凝集して棒状の凝集部が焼結体中に島状に散在することによって、高い硬度とともに高靱性を有することから、特に鋳鉄の切削において、優れた耐摩耗性と高い耐欠損性を有する。これにより、長寿命の鋳鉄切削用工具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の窒化珪素質焼結体の組織を説明するための概略図である。
【符号の説明】
A 棒状凝集部
B マトリックス
Claims (3)
- 窒化珪素90〜99モル%と、周期律表第3a族元素(RE)をRE2 O3 換算で1〜10モル%とからなる主成分100モル%に対して、Tiの窒化物からなる硬質粒子を1〜15モル%の割合で含有する相対密度95%以上の焼結体であって、前記硬質粒子が棒状の凝集部を形成して島状に散在することを特徴とする高靱性窒化珪素質焼結体。
- 前記棒状凝集部の平均長さが0.1〜100μm、平均アスペクト比が4〜60であることを特徴とする請求項1記載の高靱性窒化珪素質焼結体。
- 窒化珪素粉末に、周期律表第3a族酸化物と、Ti粉末を添加し混合した混合物を成形した後、1660〜1800℃の焼成温度で一次焼成した後、該一次焼成温度よりも高い1800〜2000℃の非酸化性雰囲気で焼成して、窒化珪素90〜99モル%と、周期律表第3a族元素(RE)をRE2O3換算で1〜10モル%とからなる主成分100モル%に対して、Tiの窒化物からなる硬質粒子を1〜15モル%の割合で含有し、前記硬質粒子が棒状の凝集部を形成して島状に散在する焼結体を得ることを特徴とする高靱性窒化珪素質焼結体の製造方法。
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