JP4798821B2 - 切削工具およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐欠損性、耐摩耗性に優れた窒化けい素質焼結体からなる切削工具およびその製造方法に関するものであり、特に鋳鉄の切削に適した切削工具およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
切削工具として用いられる窒化けい素質焼結体としては、アルミナ焼結体やアルミナにジルコニア、炭化チタン等を添加したアルミナ質焼結体、さらに窒化けい素に各種の焼結助剤を添加した窒化けい素質焼結体等がある。この中で窒化けい素質焼結体はセラミックス中で最も靭性が高く、特に切削工具として多く使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
各種切削加工分野において生産性を向上するために、高速加工、高送り加工等の重切削に対する要求が高まっており切削工具の使用条件も年々、高速化、高送り化が進んでいる。このため、切削工具には一層の耐摩耗性、耐欠損性が要求されている。
【0004】
しかし、上述したような従来の窒化けい素質焼結体からなる切削工具は、鋳鉄を高速、高送り切削する場合、具体的には800m/min以上、送り0.7mm/rev(mm/tooth)以上の条件で切削した場合に、刃先が非常に高温となるので十分な耐摩耗性、耐欠損性を発揮できなかった。その結果、上記従来の切削工具は、刃先のチッピング、欠損、異常摩耗等を生じ易く、寿命は短いものであった。
【0005】
従って、本発明は、特に鋳鉄を高速切削するのに高い耐摩耗性と耐欠損性を発揮することのできる窒化けい素質焼結体からなる切削工具およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本研究者等は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、TiCとTiNを共に焼結体中に含ませ且つTiNを焼結体の表面に優先的に存在させることにより切削工具が高い耐摩耗性と耐欠損性を発揮するようにできることを見いだした。
【0007】
また、本発明者等はTiCを含む原料成形体を窒素ガス雰囲気中にて所定焼成温度より低い温度にて加熱保持させた後、所定焼成温度にて10時間以上の焼成を行うことにより、かかる焼結体を作製できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明請求項1の発明の切削工具は、窒化けい素を10〜68.5モル%と、少なくとも炭化物および窒化物の形でTi化合物を30〜80モル%と、AlをAl2O3換算で1.5〜10モル%を有する窒化けい素質焼結体を使用した切削工具であって、該焼結体の表面部分のほうが内部よりもTiCとTiNとの総含有量に対するTiNの含有比率が多く、該TiNを硬質粒子として窒化けい素粒子の間に分散して存在させ、かつCuのKα線を用いたX線回折において、前記窒化けい素質焼結体表面のTiNの最大ピーク強度がTiCの最大ピーク強度よりも大であることを特徴とする。
【0009】
かかる切削工具は、表面部分に残留応力が多く発生し靱性および硬度が高められる。すなわち、熱膨張率の大きなTiNが焼成における昇温、冷却の過程で表面部分に残留応力を発生させ、この残留応力によりこの部分の靱性および硬度が高められる。これに対して、TiNを焼結体中に均一的に分散含有したもの、或いは、表面部分よりも内部にTiNを優先的に存在せしめたものは、かかる靱性および硬度の向上は得られない。 また、靱性、耐反応性に優れるTiNが表面部分に優先的に存在するので耐摩耗性、耐欠損性共により一層高められる。
【0010】
さらに、前記焼結体はTiNとともに熱膨張係数が低いTiCを含むことにより高温での耐欠損性が高められる。
【0011】
すなわち、本発明請求項1の発明によれば、Ti化合物としてTiCおよびTiNを共存させ且つTiNを焼結体の表面部分に優先的に存在させたことにより、切削工具の耐摩耗性、耐欠損性および耐熱衝撃性が高められる。
【0012】
また、かかる切削工具の製造方法として、請求項2の発明は、窒化けい素を10〜68.5モル%と、少なくとも炭化物の形でTi化合物を30〜80モル%と、AlをAl2O3換算で1.5〜10モル%を有する窒化けい素質焼結体用組成物を混合粉砕し、該混合物を所定の形状に成形させ、窒素ガス雰囲気中にて1600〜1800℃の加熱保持温度にて4〜8時間加熱保持させた後、前記加熱保持温度より10〜200℃だけ高いとともに1700〜2000℃の温度範囲の焼成温度にて窒素ガス雰囲気中にて10〜18時間の焼成を行う工程を含むことを特徴とする。
【0013】
この製造方法において、所定焼成温度より低い温度の加熱保持までは、成形体の密度が低いので焼成雰囲気中の窒素が成形体表面から内部に向かって浸透して行く。しかしながら、この段階ではTiCと窒素との反応が起こりにくい。
【0014】
他方、メカニズムは明らかでないが、加熱保持よりも温度を上げた所定焼成温度による焼成では、内部に浸透した窒素がTiCと反応する。
【0015】
この際、炭化物から窒化物への反応が行われる。その結果、TiCがTiNに変化し、この所定温度での焼成を10〜18時間行うことにより、このTiN形成が目的の深さまで進行する。
【0016】
切削工具は焼結体を所定の寸法に合わせるために、必要に応じて表面に研磨加工を施す。したがって、TiN形成が浅過ぎる場合には、研磨加工後の焼結体表面にTiNが残存しないこととなる。このため、TiN形成を目的の深さまで進行させることは重要なことである。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0018】
本発明の切削工具を構成する窒化けい素質焼結体は、窒化けい素を10〜68.5モル%と、少なくとも炭化物および窒化物の形でTi化合物を30〜80モル%と、AlをAl2O3換算で1.5〜10モル%を有する組成物である。これら組成は、窒化けい素質焼結体として焼結後の組成である。
【0019】
このうち窒化けい素は、硬質粒子として硬質相を構成する。本発明に用いる窒化けい素粉末としては、還元窒化法、直接窒化法等により製造されたα型、β型のいずれでもよく、BET比表面積が5m2/g以上、不純物酸素量が0.7〜2重量%の粉末が適当である。窒化けい素の含有率が10モル%未満の場合、焼結性が低下し緻密な焼結体が得られず切削工具としての特性を満足できない。一方、上記含有率が68.5モル%よりも多いと、切削工具の耐摩耗性、耐欠損性向上の効果が小さい。
【0020】
本発明において前記TiCやTiNなどのTi化合物は、硬質粒子として窒化けい素粒子の間に分散され、焼結体の硬度、耐反応性、靱性を向上させる作用がある。さらに、本発明の切削工具は、Ti化合物として、熱膨張係数が低く耐熱衝撃性に優れるTiCおよび耐摩耗性、耐欠損性、耐反応性が優れるTiNを共存させ且つ、TiNを焼結体の表面部分に優先的に存在させている。つまり、焼結体の表面部分のほうが内部よりもTiCとTiNとの総含有量に対するTiNの含有比率を多くしている。
【0021】
上記TiC、TiNを含むTi化合物が30モル%よりも少ないと切削工具の耐摩耗性、耐欠損性向上の効果が小さく、一方、80モル%よりも多いと焼結性が低下し緻密な焼結体が得られず切削工具としての特性が満足できない。上記Ti化合物量の含有量としては特に35〜75モル%であるのが望ましい。
【0022】
また表面部分は、切削工具の靱性向上のために焼結体母材表面から少なくとも750μm程度あれば、耐摩耗性、耐欠損性向上の効果が顕著に現れた。これに対して、層厚がこの程度の厚みよりも薄い場合には耐摩耗性や耐欠損性向上の効果が顕著でない傾向がある。
本発明の切削工具は、前記焼結体の表面においてTiN量がTiC量よりも多いことが望ましい。これらTiN、TiCの存在量比は、これを、CuKα線を用いたX線回折測定で得られるピーク強度で比較するのが好適である。具体的には、切削工具を構成する焼結体について、その表面のTiNのX線回折ピーク[(111)面]中におけるTiNのピーク強度をIN : TiCのX線回折ピークをIC: とした場合、IN>ICであることが好ましい。この場合、焼結体表面のTiN濃度が高いので、耐摩耗性、耐欠損性が向上する傾向があるためである。他方、IN<ICの場合には耐摩耗性、耐欠損性の向上があまり見られない傾向がある。
【0023】
また、TiCやTiNの存在は金属顕微鏡による組織観察で行うこともできる。硬質粒子である窒化けい素、TiCやTiNは上記組織観察において明暗がはっきりと異なるので、それぞれの存在を確認することは容易である。したがって、焼結体表面を深さ方向に研磨し、その露出表面について前記組織観察を行うことで、所望深さでのTiCやTiNの存在を確認することができる。
【0024】
次に前記AlはAl2O3の形で焼結助剤として添加される。焼結助剤は焼結体のボイドを減らし、粒径を小さくする作用がある。Alが酸化物換算で1.5モル%よりも少ないと焼結性が低く、Ti化合物を添加した場合に窒化けい素質焼結体の緻密体が得られない。一方、10モル%よりも多いと焼結体の耐熱衝撃性と耐反応性が劣化し切削工具としての性能が劣るためである。
【0025】
本発明の切削工具は焼結助剤としてAlとともに第3a族元素(RE)の酸化物を添加しても良い。本発明において用いられる周期律表第3a族元素としては、Y、Sc、Yb、Er、Dy、Ho、Luなどが挙げられ、これらの中でも、特に切削工具として使用する場合はEr、Yb、Luが良い。
【0026】
この周期律表第3a族元素を含有させる場合、前記窒化けい素に対し酸化物換算で10モル%より多いと、焼結体の硬度が低下し切削工具としての耐摩耗性が劣化する。窒化けい素に対し周期律表第3a族元素が酸化物換算で1モル%より少ないと緻密体が得られず切削工具の耐欠損性が低下する。
【0027】
これらAl2O3や第3a族元素(RE)の酸化物などの焼結助剤は、焼結体の粒界相に含まれる。粒界相は、非晶質である場合もあるが、望ましくは結晶化しているのが良い。結晶相としては、アパタイト、YAM、ヴォラストナイト、ダイシリケート、モノシリケートのうちの少なくとも1種を主体とするものであることが望ましい。
【0028】
次に、かかる切削工具の製造方法を説明する。
【0029】
まず、窒化けい素粉末に対して、添加成分として周期律表第3a族元素(RE)酸化物の粉末と、Al2O3粉末を添加し、ボールミルなどで混合する。
【0030】
上記のようにして混合された混合物を、所望の成形手段、例えば、金型プレス,冷間静水圧プレス、押出し成形、鋳込成形、射出成形等により任意の形状に成形する。
【0031】
次いで、この成型体を焼成炉内に投入し、窒素ガス雰囲気中にて1600〜1800℃の加熱保持温度にて4〜8時間加熱保持させた後、窒素ガス雰囲気中で前記加熱保持温度より10〜200℃だけ高いとともに1700〜2000℃の温度範囲の焼成温度にて10〜18時間の焼成を行うことにより、焼結体の表面部分においてTiCをTiNに優先的に変化させる。
【0032】
このような本発明の製造方法において、焼成温度は、出発する組成や成型品の大きさによっても相違するが1700〜2000℃であり、且つ上記加熱保持温度は1600〜1800℃であることが重要である。特に、焼成温度は1770℃〜1780℃、加熱保持温度は1650〜1760℃の範囲であることが好ましい。
【0033】
上記加熱保持温度が1600℃未満の場合、反応生成物としてのTiNの生成し難くなる傾向がある。他方、上記加熱保持温度が1800℃を超えると焼結体の緻密化が早く進み、その結果、TiNが生成し難くなる傾向がある。
【0034】
また、前記焼成温度が1700℃未満の場合もTiNの生成量が少なくなる傾向があり、他方、2000℃を超えると結晶の異常粒成長が生じたり、窒化けい素が分解し表面が荒れる等の問題が生じる恐れがある。
【0035】
また上記加熱保持と焼成との温度差は、10℃〜200℃の温度差範囲が重要である。この温度差が10°未満の場合、TiNが生成し難くなる傾向がある。また、温度差が200℃を超える場合も、TiNが生成し難くなる傾向がある。
【0036】
加熱保持と焼成の時間は、加熱保持が4時間〜8時間、焼成が10時間〜18時間行うことが重要である。加熱保持時間が4時間未満の場合、TiNが生成し難くなる傾向がある。一方、加熱保持時間が8時間を超えると、耐摩耗性、耐欠損性向上の効果が小さくなる傾向がある。また、前記焼成時間が10時間未満の場合、緻密化し難く、TiNが生成し難くなる傾向がある。一方、焼成時間が18時間を超えると耐摩耗性、耐欠損性向上の効果が小さくなる傾向がある。
【0037】
焼成の方法としては、窒化けい素が分解しないようにすればよく、窒素ガスを含有した非酸化性雰囲気で常圧焼成、窒素ガス2気圧以上の窒素ガス加圧焼成、ホットプレス焼成法などが用いられる。また、これら加熱保持および焼成後に1000気圧以上の圧力下で熱間静水圧焼成することによりさらに緻密化させることができる。特に、2気圧以上の窒素ガスを含有した非酸化性雰囲気で焼成することが望ましい。
【0038】
焼成後、焼結体を切削工具の所定の寸法に合わせるために、必要に応じて表面に数百μm程度の厚みを除去する研磨加工を施す。
【0039】
また本発明の切削工具は、前記焼結体の表面に周期律表4a、5a、6a族の炭化物、窒化物、炭酸窒化物及びAl2O3から選ばれる少なくとも一種以上から硬質層を被覆したものであっても良い。
【0040】
これら周期律表4a、5a、6a族の炭化物、窒化物、炭酸窒化物及びAl2O3は高硬度であり且つ、被削材との耐反応性に優れるので、耐摩耗性を向上させる事ができる。この表面被覆層の形成にはCVD法およびPVD法を用いるのが望ましい。
【0041】
なお、前記硬質層を形成した切削工具の場合、前記X線回折におけるTiN,TiC最大ピーク強度の測定は厳密に焼結体表面で行うことは困難である。これは、硬質層を除去する際に、注意深く作業しても、焼結体表面を数〜十数μm程度、除去してしまうことが普通であるためである。したがって、硬質層を設けた場合の前記X線回折の測定は、元々の焼結体の表面を数〜十数μm程度除去してしまっても、除去後の表面で行えば良い。
【0042】
【実施例】
原料粉末としてα型の窒化けい素粉末(BET比表面積10m2/g、不純物酸素量1.0重量%)と焼結助剤として表1に示した周期律表第3a族元素酸化物、Al2O3、Ti化合物用いて調合した。これに成形用のバインダーを加えて窒化けい素ボールを用いて混合し、2ton/cm2 の圧力でCNGN160412及びSNGN120408の工具形状にプレス成形を行った。さらに3ton/cm2 の圧力で冷間静水圧成形を行い成形体を得た。
【0043】
この成形体を焼成炉に投入し、表1の温度、時間で窒素ガス圧力5気圧下での前記加熱保持と窒素ガス圧力10気圧下での所定温度による焼成を行い表1に示す試料No.1〜23の焼結体を得た。
【0044】
【表1】
【0045】
続いて、これら焼結体の表面約250μmに研磨処理を行って切削工具としての最終工具形状を得た。
【0046】
得られた切削工具に対して、ICP発光分光分析を行い、Si、周期律表第3a族元素(RE)、Al、Tiの量を求め、SiはSi3N4 として、REはRE2O3 として、AlはAl2O3 として、TiはTiの炭化物、窒化物、炭窒化物として換算し組成比を求めた。X線回折ピークはCuKα線を用いて測定した。
【0047】
また、前記切削工具に対して、金属顕微鏡で表面の組織観察を行い、さらに750μmの研磨加工を行い、金属顕微鏡で組織観察を行った。
【0048】
図1は、表1に示す本発明実施例品の試料No.1と比較例品の試料No.18の焼結体表面(250μm研磨除去後)における前記X線回折ピークのグラフである。同図に示したように、両試料ともにα型の窒化けい素がβ型の窒化けい素に変わっていた。
【0049】
また、本発明実施例品の試料No.1は、TiNの最大ピーク強度がTiCの最大ピーク強度よりも3倍以上も大きい。したがって、表面部分ではTiN濃度がTiC濃度よりも数倍高い。他の本発明実施例品(試料No.2〜9)もすべて同様な結果であった。
【0050】
さらに、前記金属顕微鏡による組織観察によれば、本発明実施例品(試料No.1〜9)は、切削工具表面および表面から750μmの深の両方でTiNの存在を確認できた。なお、TiN粒子の存在率は表面の方が明らかに多かった。
【0051】
これに対して、比較例の試料No.18は、TiCのピークはあるが、TiNのピークは明確に判別できない。TiNのピークは、図中点線〇印Aの部分にごく小さいピークが存在する可能性があるに過ぎない。このような焼結体はTiNが表面に優先的に存在しているとは言えない。他の比較例のうち、No.17、19〜21も同様な結果であった。
【0052】
さらに、これら比較例の試料No.17〜21は、前記金属顕微鏡による組織観察において、表面でもTiNがほとんど確認できなかった。他方、750μm深さでは、TiC粒子の存在が全く確認できなかった。
【0053】
また試料No.22の比較例はTi化合物としてTiNのみを添加し、焼結体全体にTiNをほぼ均一分散状態で含有したもの、試料No.23の比較例はTi化合物としてTiCNのみを添加し、焼結体全体にTiNとTiCをほぼ均一分散状態で含有したものであった。すなわち、これら2つの比較例は、焼結体全体にTiNをほぼ均一分散状態で含有したものである。
【0054】
表1に示す試料No.1〜23について、CNGN160412工具形状のものを用い、耐摩耗性を評価するための切削試験▲1▼として、下記の切削条件にてねずみ鋳鉄材を乾式旋削加工し、20分間切削後の摩耗幅を測定した。その結果を前記表1に併せて示した。
被削材 FC250
切削速度 800m/min
送り 0.7mm/rev
切り込み 3.0mm
また、耐欠損性を評価するための切削試験▲2▼として、SNGN120408の形状の試料を用いて、下記条件の正面フライス加工により球状黒鉛鋳鉄材を加工するテストを行なった。
被削材 FCD450(125×300mmの立方体形状)
切削速度 800m/min
送り 0.7mm/刃
切り込み 3.0mm
この試験における欠損までの切削時間についても前述した表1に示した。
【0055】
表1に示されるように、本発明実施例品の試料No.1〜9は、何れも、切削テストにおいて一般的に良好な耐摩耗性を有すると判断される摩耗幅0.20mm未満であり、かつ20分でも欠損を生じなかった。このように本発明実施例品が良好な耐摩耗性と耐欠損性を示したのは、次のような理由によるものと考えられる。
【0056】
本発明実施例品は、熱膨張率の大きなTiNが焼成における昇温、冷却の過程で表面部分に残留応力を発生させ、この残留応力によりこの部分の靱性および硬度が高められる。また、靱性、耐反応性に優れるTiNが表面部分に優先的に存在するので耐摩耗性、耐欠損性共により一層高められる。さらに、本発明実施例品はTiNとともに熱膨張係数が低いTiCを含むことにより高温での耐欠損性が高められる。
【0057】
これに対して、比較例の試料No.10〜23では、0.20mmの摩耗幅よりも大きい摩耗幅となり、さらに、20分以内に欠損が生じて工具寿命となった。
【0058】
比較例のうち、試料No.10〜16は組成が本発明の範囲から外れており、このため耐摩耗性と耐欠損性の少なくともいずれかが良好でない。このことから本発明の組成範囲は重要であることがわかる。
【0059】
また比較例の試料のNo.17〜21は、前述のように焼結体表面にほとんどTiNが形成されておらず、TiNが焼結体の表面部分に優先的に存在しているものとはなっていない。すなわち、焼結体中に含まれるTi化合物は殆ど全てがTiCである。その結果、耐摩耗性と耐欠損性の少なくともいずれかが良好でない。このことから、焼結体中にTiNとTiCの両方を含有し、且つ、TiNが焼結体の表面部分に優先的に存在していることが重要であることがわかる。
【0060】
このうち、比較例の試料No.18は、加熱保持温度と焼成温度が1700℃と同一であり、その結果、焼結体表面にほとんどTiNが形成されず、耐摩耗性、耐欠損性ともに良好でなかった。このことから、本発明の切削工具の製造工程において、加熱保持温度に対し加熱保持後に行う焼成の温度を上げることが重要であることがわかる。
【0061】
また、比較例の試料No.19は、焼成時間が10時間未満(9時間)であり、その結果、焼結体表面にほとんどTiNが形成されず、耐摩耗性、耐欠損性ともに良好でなかった。このことから、本発明の切削工具の製造工程において、焼成を10時間以上行うことが重要であることがわかる。
【0062】
次に、比較例の試料No.22、23は焼結体全体にTiNをほぼ均一分散状態で含有したものであり、その結果、耐欠損性と耐摩耗性の両方が良好でなかった。すなわち、TiNを焼結体全体に含むものであっても、TiNが焼結体の表面部分に優先的に存在していない場合には、耐欠損性と耐摩耗性が向上しなかった。このことから、TiNが焼結体の表面部分に優先的に存在していることが重要であることがわかる。
【0063】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明の切削工具は、鋳鉄の高速切削において、優れら耐摩耗性、耐欠損性および耐熱衝撃性を有し工具の寿命を延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明実施例品である試料No.1と比較例品No.18の焼結体表面における(250μm研磨除去後)前記X線回折ピークのグラフである。
【符号の説明】
A TiNのピークが存在する可能性がある箇所。
Claims (2)
- 窒化けい素を10〜68.5モル%と、少なくとも炭化物および窒化物の形でTi化合物を30〜80モル%と、AlをAl2O3換算で1.5〜10モル%を有する窒化けい素質焼結体を使用した切削工具であって、
該焼結体の表面部分のほうが内部よりもTiCとTiNとの総含有量に対するTiNの含有比率が多く、該TiNを硬質粒子として窒化けい素粒子の間に分散して存在させ、かつCuのKα線を用いたX線回折において、前記窒化けい素質焼結体表面のTiNの最大ピーク強度がTiCの最大ピーク強度よりも大であることを特徴とする切削工具。 - 窒化けい素を10〜68.5モル%と、少なくとも炭化物の形でTi化合物を30〜80モル%と、AlをAl2O3換算で1.5〜10モル%を有する窒化けい素質焼結体用組成物を混合粉砕し、該混合物を所定の形状に成形させ、窒素ガス雰囲気中にて1600〜1800℃の加熱保持温度にて4〜8時間加熱保持させた後、前記加熱保持温度より10〜200℃だけ高いとともに1700〜2000℃の温度範囲の焼成温度にて窒素ガス雰囲気中にて10〜18時間の焼成を行う工程を含むことを特徴とする切削工具の製造方法。
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