JP3587394B2 - 内燃機関用ピストン - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、内燃機関用ピストンに関し、更に詳細には、ピストンの第1リング溝の偏磨耗を抑制した内燃機関用ピストンに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関用ピストン1の第1リング2は、図6に示すように、ピストン頂部3に最も近い位置にあるピストンリングであり、その主な機能は、燃焼ガスのシール、ベアリング作用、熱伝達によるピストンの温度上昇の防止、オイルコントロールなどである。なお、図6に示す符号4はシリンダライナーである。
【0003】
第1リング2に限らず、ピストンリングは、それぞれの機能を果たすために、ピストンリングとシリンダライナーとの間やピストンリングとリング溝との間などに、油膜が適正に形成される必要がある。そのためには、ピストンリングは、それぞれの目的に適合した形状精度、面粗さ、硬さなどの機械的性質を満たすと共に、ピストンリングに適度な張力を与えてシリンダ内面を押圧させ、且つリング溝との間に適度の隙間を確保しなければならない。前記隙間は、リングがカーボン等によりリング溝に固着しないためには、少なくとも50〜150μm程度とする必要がある。
【0004】
ところで、ピストンは、内燃機関が作動すると、頂部側の温度がその下側より高熱となるために、頂部側の熱膨張が下側より大きくなる。この膨張度合いは、ピストンの材料による熱伝導特性などによって程度に差があるが、トップランドがシリンダライナー側に迫り出すように膨張し、リング溝の形状及び姿勢が冷間時と機関運転時とで変化する。
【0005】
しかしながら、従来は前記熱変形を考慮しないで溝加工を行っていたので、機関運転時には、リング溝が下方を向くように変形するので、リング溝の設計に当たっては、機関運転時、即ちピストンが高温となるとリング溝が正規の姿勢となるように、室温で行う溝加工の際の形状・姿勢を決める必要がある。例えば、実開昭55−66622号公報は、ピストンの熱変形によって、機関の定格負荷運転時にリング面に対して平行となるような形状にリング溝の上下面形状を形成することを提案している。
【0006】
また、実開昭57−123938号公報の提案によると、低熱伝導率の材料を使用した場合のピストンにあっては、第1リング溝の下面に第1リングの下面を密着させた状態で、リングの上面に対する第1リング溝の上面角度を5′〜20′だけ上を向くように加工することを提案している。このように第1リング溝を加工すると、機関運転時のリング溝形状は、断面形状が矩形状の第1リングに対し、リング溝の上・下面がピストン軸心に直交する矩形状となるように形状とし、またキーストンリングに対しては、同リング形状に相似した台形状となるとしている。
【0007】
しかしながら、機関運転時に第1リングと相似した形状のリング溝形状となるように加工した場合でも、機関の運転により各接触面が機械的、熱的ダメージを受け、第1リング及び溝の磨耗や溝面の微小破壊が進行する場合がある。このような場合には、燃焼ガスやオイルのシール機能が低下し、オイル消費量及びブローバイガスが増加し、ブローバイガスによるオイルの劣化が起こり、第1リングの各機能が徐々に劣化するようになる。更に磨耗が進行すると、焼付き・スカッフィングが起こり、機関としての機能が失われたり、リングと溝との隙間増大により、第1リングに高い応力が作用しリングが折損するなどの事故が発生したり、場合により機関寿命を支配してしまうような場合が生じる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、ピストンリング及びリング溝の磨耗による潤滑不良などの問題は、機関の性能向上や軽量化などの要求が厳しくなるに伴い、熱的条件が厳しくなり、使用材料の選定や、表面処理手段の選択などの自由度が制約され、前記公報に記載の手段を用いても、なおリング溝の偏磨耗を解消することができない。
【0009】
この問題を、矩形断面形状の第1リングに用いた場合について、図7〜図9によって説明する、図7においてピストン1の設計は、実線で示すように、ピストンランド6aが頂部3に近いほど細くなる形状に形成し、第1リング溝6を僅かに上を向けて加工し、2点鎖線で示すように、運転時の熱膨張で第1リング溝6の上下面がピストン軸心5と直交するように設計することが多い。
【0010】
しかしながら前記上向き角度が僅かに小さすぎると、図8のAに示すように、運転時に第1リング溝6が下向きの姿勢となる。この場合、主にピストン1の下降行程において、第1ピストンはシリンダライナー4を押圧しているので、溝上面6aがリング上面2aに白抜き矢印で示す部分で突き当たり(以下局部当たりという)、また上昇行程では第1リング2は、実線矢印部分で第1リング溝に当たった後、捩じれを生じリング上面2aが溝上面6aの外周側に衝突する。したがって長期間の使用により、溝上面6a及び溝下面6bに、図8のBに示すように第1リング溝6の開口部がラッパ状に開く偏磨耗(以下この磨耗をラッパ状磨耗という)が発生する。
【0011】
また、前記上向き角度が大きすぎると、図9のAに示すように、運転時に第1リング溝6が上向きの姿勢となる。この場合、主にピストン1の上昇行程において、前記と同様に第1ピストンはシリンダライナー4を押圧しているので、溝下面6bがリング下面2bに白抜き矢印で示す部分で局部当たりし、また下降行程では第1リング2は、実線矢印部分で第1リング溝に当たった後、捩じれを生じリング下面2bが溝下面6bの外周側に衝突する、したがって長期間の使用により、溝上面6a及び溝下面6bに、図8のBに示すようなラッパ状磨耗が発生する。
【0012】
前記ラッパ状磨耗は、特にエキゾーストブレーキ使用時に進行し、リングとリング溝とが面対面接触ができなくなるため、オイル上がりを防止することができないという問題がある。このように溝加工時の最適角度の選定は非常に難しく、過去の経験に基づき、ある程度標準化したマニュアルによって溝加工を行っているのが現状である。
【0013】
本発明の目的は、以上の問題に着目してなされたものであり、第1リング溝のラッパ状磨耗のような偏磨耗を抑制できる内燃機関用ピストンを提供することを目的としている。
【0014】
【課題を解決するための手段】
以上の目的を達成するための本発明の内燃機関用ピストンの構成は、ピストンとシ リンダとの冷間時の間隔が、運転によるピストンの熱膨張でピストン頂部側がより狭 くなり、第1リング溝の姿勢が冷間時と熱膨張時とで変化し、熱膨張時に自由姿勢に ある第1リングの両側面のそれぞれについて、リング面とリング溝との間隔の断面形 状が、リング内周側からリング外周側に向かって広がる楔形状になるように第1リン グ溝を形成した内燃機関用ピストンにおいて、熱膨張時のピストンの往復動により生 じる第1リングが捩じれる際に、第1リング面とリング溝面とを面当たりさせること ができるように、第1リング溝の断面形状が、内周側から外周側に向かって、熱膨張 時には上面が上向きの角度を、また下面が下向きの角度を有し、冷間時には前記上面 の角度が10′以上の上向きの角度(α)を、また下面が0′以上の上向きの角度( β)を有し、且つ、α>βであるように構成することを特徴とするものである。
【0015】
前記第1リング溝を形成するには、予め実働状態のピストンの温度分布を実測し、前記ピストン単独状態で、前記温度分布を与え、リング溝の変形を実測するか、又は計算によりリング溝の変形を予測し、実働時の溝上面及び溝下面と、リング上面及びリング下面との隙間が、溝底から開口側に向かって広がるように、ピストン冷間時の角度を決定すればよい。
【0016】
なお実働時の好ましい角度は、溝上面が0′以上10′以下であり、溝下面が−10′以上0′以下である。前記範囲を0′側に逸脱した場合も、また10′又は−10′側に逸脱した場合も共に偏磨耗が大きくなる。したがって、実働時に前記範囲の角度となるように溝加工することが好ましい。
ごく一般的なアルミ合金製ピストンにおいて、矩形断面の第1リングを用いた場合には、第1リング溝の上面をピストンの軸心に直交する面に対して角度を10′以上30′以下の範囲の値だけ外周に向かって上向き(即ち逆円錐面状)に加工し、下面を前記面に対して角度を0′以上10′以下の範囲の値だけ外周に向かって上向きに加工することが望ましい。
【0017】
また本発明は、内燃機関のピストンをアルミ合金によって形成し、その第1リング の上面と下面とが平行なピストンリングを用い、第1リング溝の熱膨張時の断面形状 がリング内周側からリング外周側に向かって広がる楔形状になるようにリング溝を形 成した内燃機関のピストンにおいて、熱膨張時のピストンの往復動により生じる第1 リングが捩じれる際に、第1リング面とリング溝面とを面当たりさせることができる ように、冷間時にある自由姿勢の第1リング上面に対して第1リング溝の上面が上向 きの角度(γ)を有し、第1リング下面に対して第1リング溝の下面が上向きの角度 (η)を有し、且つγ>ηであるように構成すると共に、第1リング溝の冷間時形状 を、第1リング溝の上面と、自由姿勢にある第1リング上面とのなす角度(γ)が、 第1リングの内周側から外周側に向かって上向きに10′以上20′以下になるよう に加工し、また、第1リング溝の下面と第1リングの自由姿勢にあるリング下面との なす角度(η)が、第1リングの内周側から外周側に向かって上向きに0′以上10 ′以下となるように形成したものである。
上記第1リング溝の溝加工時の溝形状は、溝上面の角度を、自由姿勢にある第1リ ングの上面に対して10′〜20′だけ上向きに形成し、また、溝下面の角度を第1 リングの下面に対して0′〜10′だけ上向きに加工した。このように形成すると機 関運転時に、溝上面とリング上面との隙間及び溝下面とリング下面との隙間が、リン グ内周面側より外周面側を広がるように形成され、ラッパ状摩耗を抑制することがで きる。
前記角度のそれぞれの下限値未満とすると、リング面と溝面とが外周側で局部当た りし易くなり、ラッパ状摩耗などの偏摩耗を促進する。またそれぞれの上限値を越え ると、リング内周側の局部当たりによる溝内周の摩耗増加や、第1リングの捩じれ動 作が激しくなることによるガスシール性の低下が生じるので好ましくない。
【0018】
本発明を適用することのできるピストンリングの形状は、矩形断面型リングなど上下面が平行な平行型リング、上下両面が非対称に捩じれた姿勢のリングなどの他、キーストンリングなど従来から使用されているピストンリングのいずれにも適用することができる。
【0019】
【作用】
第1リングと第1リング溝との間にできる運転時の間隙を、リングの内周面側から外周面側に向かって広くする形状にリング溝を形成する前記手段は、内燃機関の運転時、特にエキゾーストブレーキ使用時に、ピストンの動作によって第1リングが、リング溝と干渉し、第1リングが捩じれる場合に、第1リングと第1リング溝とが面対面の接触(以下、面当たりという)し、局部当たりをなくし、ラッパ状磨耗などの偏磨耗を抑制することができる。
【0020】
したがって、第1リング溝の磨耗がより均等に発生し、ラッパ状磨耗などの偏磨耗が抑制されるので、通常の運転に対してはもとより、エキゾーストブレーキ使用時に対してもオイル上がりや、ブローバイガス流量を少なくし、またリングの折損を防止することができる。
【0021】
【実施例】
以下添付の図面を参照し、実施例により本発明を具体的に説明する。
図1に示す実施例1の内燃機関用ピストン1は、第1リング2に断面矩形状リングを使用し、そのリング上面2a及びリング下面2bが、ピストン軸心5に対して直交的に交差する自由姿勢を採った場合について図示している。
【0022】
実施例1の第1リング溝6の溝加工は、溝上面6aは、ピストン軸心5に直交する面に対する角度が、第1リング溝6の外周6c側に向かって上向きに10′〜20′の範囲の任意の角度となるように形成している。また溝下面6bは、ピストン軸心5に直交する面に対する角度が、第1リング溝6の外周6c側に向かって0′〜10′(図1のAは角度が0′の場合を示す)内の角度だけ水平又は上向きに形成している。
【0023】
以上のように形成すると、機関運転時のピストン1の熱膨張により、自由姿勢にあるリング上面2aと溝上面6aとの間隙a、及びリング下面2bと溝下面6bとの間隙bは、いずれの交角も0′〜10′となり、断面形状が楔状(図1のB)を呈する。
以上のように形成した実施例1の第1リング2の動作を図2〜3によって説明する。ピストンの下降行程では、ピストン1は図2のAの白抜き矢印で示す方向に移動する。このとき、第1リング2は張力によってシリンダライナー4を押圧しているので移動せず、下降する溝上面6aが、図2のAに示すように第1リング2に突き当たる。すると第1リング2は、リング溝6に押されて細矢印の方向に回転し(捩じれ)、リング上面2aが、図2のBに示すように溝上面6aに面当たりする。
【0024】
逆に、ピストン1の上昇行程では、ピストン1は図3のAの白抜き矢印で示す方向に移動する。第1リング2は前記と同様に張力によってシリンダライナー4を押圧しているので移動せず、上昇する溝下面6bが、図3のAに示すように第1リング2に突き当たる。すると第1リング2は、リング溝6に押されて細矢印の方向に回転し(捩じれ)、リング下面2bが、図3のBに示すように溝下面6bに面当たりする。
【0025】
したがって第1リング溝6は、図4に示すように溝面が平均的に磨耗し、ラッパ状磨耗のような偏磨耗の発生が抑制され、長期間にわたり第1リング2の焼付き・スカッフィング、オイル上がりによるオイル消費の増加、ブローバイガス量の増加及びそれによるオイル劣化、第1リング2の折損などを抑制することができた。
【0026】
図5は、前記公報の記載による比較例を示すものであり、溝上面6a及び溝下面6bを、自由姿勢にあるリング上面2a及びリング下面2bに平行になるように形成したものである。ピストン1が上昇行程及び下降行程(図5は下降行程のみ図示)に移ったときは、最初は第1リング溝6は、第1リング2に面当たりするが、その後第1リング2が捩じれる際には、溝上面6a(又は溝下面6b)とシリンダライナー4との間に挟まれて捩じれるため、図5の矢印部分に過大な荷重が加わり、偏磨耗(ラッパ状磨耗)が発生する。したがって前記各公報に提案された手段では、偏磨耗を抑制できない。
【0028】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の内燃機関用ピストンは、機関運転時の第1リングの自由姿勢に対し、第1リング溝の上・下面と、第1リング上・下面との間に形成される間隙が、リング内周側から外周側に向かって広くなる形状に形成する構成としたので、ピストンの往復動により生じる第1リングが捩じれる際に、第1リング面とリング溝面とを面当たりさせることが可能となり、偏磨耗、いわゆるラッパ状磨耗の発生を抑制することができる。
【0029】
したがって本発明のピストンを装備した内燃機関は、第1リングのシール性の低下によるオイル上がり、それによるオイル消費量及びブローバイガスの増加、オイルの劣化、第1リングの焼付き・スカッフィングの発生、第1リングの折損などを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Aは、本発明の実施例1の冷間時における内燃機関用ピストンの要部半断面図であり、Bは運転時の部分断面図である。
【図2】図1の動作説明図であり、Aはピストン上昇行程開始初期の状態を説明する図であり、Bは第1リングが捩じれた場合の溝上面に及ぼす応力分布状態を示す図である。
【図3】図1の動作説明図であり、Aはピストン上昇行程開始初期の状態を説明する図であり、Bは第1リングが捩じれた場合の応力分布状態を示す図である。
【図4】図1に示す第1リング溝の磨耗状態を示す断面図である。
【図5】比較例による第1リングの捩じれ開始時の溝上面に及ぼす応力分布をピストンの下降工程について示す図である。
【図6】従来の内燃機関用ピストンの要部断面図である。
【図7】図6に示す第1リング溝の冷間時と機関運転時の姿勢が変化する様子を示す部分断面図である。
【図8】Aは従来例による第1リング溝の問題点を説明する断面図であり、Bはその磨耗状態を示す断面図である。
【図9】Aは別の従来例による第1リング溝の問題点を説明する断面図であり、Bはその磨耗状態を示す断面図である。
【符号の説明】
1 ピストン 2 第1リング
2a リング上面 2b リング下面
3 ピストン頂部 4 シリンダライナー
5 ピストン軸心 6 第1リング溝
6a 溝上面 6b 溝下面
6c 外周 a 隙間
b 隙間
Claims (2)
- ピストンとシリンダとの冷間時の間隔が、運転によるピストンの熱 膨張でピストン頂部側がより狭くなり、第1リング溝の姿勢が冷間時と熱膨張時とで 変化し、熱膨張時に自由姿勢にある第1リングの両側面のそれぞれについて、リング 面とリング溝との間隔の断面形状が、リング内周側からリング外周側に向かって広が る楔形状になるように第1リング溝を形成した内燃機関用ピストンにおいて、熱膨張 時のピストンの往復動により生じる第1リングが捩じれる際に、第1リング面とリン グ溝面とを面当たりさせることができるように、第1リング溝の断面形状が、内周側 から外周側に向かって、熱膨張時には上面が上向きの角度を、また下面が下向きの角 度を有し、冷間時には前記上面の角度が10′以上の上向きの角度(α)を、また下 面が0′以上の上向きの角度(β)を有し、且つ、α>βであるように構成すること を特徴とする内燃機関用ピストン。
- 内燃機関のピストンをアルミ合金によって形成し、その第1リング の上面と下面とが平行なピストンリングを用い、第1リング溝の熱膨張時の断面形状 がリング内周側からリング外周側に向かって広がる楔形状になるようにリング溝を形 成した内燃機関のピストンにおいて、熱膨張時のピストンの往復動により生じる第1 リングが捩じれる際に、第1リング面とリング溝面とを面当たりさせることができる ように、冷間時にある自由姿勢の第1リング上面に対して第1リング溝の上面が上向 きの角度(γ)を有し、第1リング下面に対して第1リング溝の下面が上向きの角度 (η)を有し、且つγ>ηであるように構成すると共に、第1リング溝の冷間時形状 を、第1リング溝の上面と、自由姿勢にある第1リング上面とのなす角度(γ)が、 第1リングの内周側から外周側に向かって上向きに10′以上20′以下になるよう に加工し、また、第1リング溝の下面と第1リングの自由姿勢にあるリング下面との なす角度(η)が、第1リングの内周側から外周側に向かって上向きに0′以上10 ′以下となるように形成した内燃機関用ピストン。
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