JP3587071B2 - 粉体状架橋フッ素樹脂の製造方法 - Google Patents

粉体状架橋フッ素樹脂の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特に耐摩耗性,耐クリープ性等に優れた架橋フッ素樹脂成形品を得ることができる粉体状架橋フッ素樹脂の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、広範な用途を有するフッ素樹脂は、ポリエチレン樹脂等のように架橋させることによって各種特性を向上させることが技術的に困難とされていたが、最近、フッ素樹脂を効果的且つ容易に架橋処理する方法が提案されている。
【0003】
このフッ素樹脂架橋方法は、無酸素の不活性ガス化雰囲気中でその融点より若干高い温度に保った状態で所定量の放射線を照射して架橋処理を行うようにしたものであり、耐摩耗性,耐クリープ性,耐放射線性等の諸特性に優れた成形品を容易に得ることが可能となった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上述したような従来のフッ素樹脂のうち、特に工業的に広く用いられているポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと称す)を架橋させた粉体状の架橋PTFEを他のフッ素樹脂、例えば未架橋のPTFEやPFA樹脂等とブレンドして固め、摺動体等の機械部品に加工することによって、従来にない優れた特性を有する製品群を得られることが期待されている。
【0005】
しかしながら、この粉体状架橋PTFEは、従来、未架橋のPTFE粉末をマット状に固めた後、低酸素の雰囲気ガス中でそのPTFEの融点を若干上回る温度に加熱した状態で所定量の放射線を照射して架橋させ、その後常温まで冷却してから粉砕器で所定粒径に加工することで得られるようになっているため、製作に多くの工程を要し、その結果、生産性が低くかつ製造コストが高くなってしまうといった欠点があった。
【0006】
また、架橋後のPTFEは粘りが強くなっているため、粉砕加工が難しい上に、粉砕加工時に粉体粒径が不揃いとなったり、不純物が混入したりして品質が劣化する可能性がある等といった種々の問題点があった。
【0007】
そこで、本発明はこのような課題を有効に解決するために案出されたものであり、その目的は、粒径が均一で高品質の粉体状架橋フッ素樹脂を効率的に且つ安価に得ることができる新規な粉体状架橋フッ素樹脂の製造方法を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明は、低酸素雰囲気中で、未架橋フッ素樹脂粉末をその融点より高い温度に保持しながらこの未架橋フッ素樹脂粉末を上記低酸素雰囲気のガス流により強制的に浮遊させて個々に分離させた状態で放射線を照射して架橋処理するようにしたものである。
【0009】
すなわち、未架橋フッ素樹脂粉末を雰囲気ガス流によって浮遊させることで、粒子間の距離が大きくなると共に、粒子間の相対的移動速度が増すため、未架橋フッ素樹脂粉末同志の凝集が防止されて各粒子単位で個々に分離独立した状態で効果的に架橋処理が施されることになる。
【0010】
これによって従来のようなマット成形,冷却工程,粉砕工程の全てが省略できるため、生産性が大幅に向上し、また、粉砕工程がなくなることにより、粉砕時に伴う不純物混入や粒径の不揃いによる品質低下等の不都合を確実に回避することができる。
【0011】
尚、未架橋フッ素樹脂粉末を集合させて直接放射線を照射して架橋処理した場合、これを融点以上に加熱した際に、粉末が凝集して(結合の緩い)塊状となってしまい、従来工程と同様の状態となるため、本発明の目的を達成することができない。また、架橋後の粉末は温度を未架橋フッ素樹脂粉末の融点以上に上げても凝集して塊となることはない。
【0012】
【発明の実施の形態】
次に、本発明を実施する好適一形態を添付図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1は、本発明方法に用いる粉体状架橋フッ素樹脂製造装置の実施の一形態を示す側面図、図2はそのA−A断面図である。
【0014】
図中1は、横方向に延びる架橋容器であり、その内部には、その内容積よりも少ない量の未架橋フッ素樹脂粉末の一つである未架橋PTFE粉末が収容されている。
【0015】
この架橋容器1は、垂直壁2,3と側面壁4,5と底板6と放射線照射窓7とをボックス状に組み合わせ、その外面に断熱外皮23を貼り付けてなるものであり、内部が密閉状態に維持されると共に、断熱外皮23によって内外との入放熱が遮断されるように構成されている。尚、この断熱外皮23内には図示しない電気ヒータ線が張り巡らされており、上記垂直壁2,3と側面壁4,5と底板6とを一定の温度まで加熱保持できるようになっている。
【0016】
この架橋容器1の内底部には、駆動モータ9によって駆動される送風インペラー10が設けられており、内底部に溜まった未架橋PTFE粉末を攪拌すると共に、図中矢印に示すように、架橋容器1内においてその長さ方向に旋回するガス流Gを発生させ、そのガス流Gに伴って未架橋PTFE粉末を架橋容器1の天井方向へ浮遊させるようになっている。
【0017】
この架橋容器1の側面壁4,5にはそれぞれバルブ11,15を介して雰囲気ガス供給ライン12と排気ライン16とが設けられており、排気ライン16側に設けられた真空引手段17によって架橋容器1のガス(空気)を強制的に排気すると共に、雰囲気ガス供給ライン12側に設けられた雰囲気ガス供給部13によって架橋容器1内に不活性ガス等の雰囲気ガスを供給して架橋容器内雰囲気8を雰囲気ガスで満たすようになっている。
【0018】
また、この排気ライン16には真空引手段17と共に排ガス処理手段18が分岐して設けられており、架橋容器1の有害ガスを無害化して排気するようになっている。
【0019】
この架橋容器1の上部角部には、開閉自在な粉体出入口14が形成されており、架橋前後のPTFE粉末を供給、取出し自在となっている。
【0020】
また、架橋容器1の放射線照射窓7には高電圧加速器19,ガイドチューブ20,偏向器21及びガイドホーン22からなる放射線照射手段が設けられており、放射線照射窓7を介して所定量の電離放射線を架橋容器1内に扇状に均一放射するようになっている。尚、この放射線照射窓7は薄いチタン箔で覆われており、架橋容器1と放射線照射手段を隔離するようになっている。
【0021】
次に、以上の粉体状架橋フッ素樹脂製造装置を用いて本発明方法を説明する。
【0022】
先ず、架橋容器1の粉体出入口14を開いて所定量の未架橋PTFE粉末を架橋容器1内に投入してからこの粉体出入口14を塞いだ後、真空引手段17によって架橋容器1のガス(空気)を強制的に排気すると共に、雰囲気ガス供給部13によって架橋容器1内に不活性ガス等の雰囲気ガスを供給して架橋容器内雰囲気8を雰囲気ガスで満たして架橋容器内雰囲気8を低酸素状態とする。すなわち、雰囲気ガス中に多量の酸素が存在すると、この酸素が後に説明する放射線架橋時の阻害成分となり、良好な架橋が行えないからである。尚、この雰囲気ガスの許容酸素含有量は、必ずしも無酸素のレベルでなくとも良いことが判明している。
【0023】
次に、駆動モータ9によって送風インペラー10を駆動回転させて架橋容器1内に強い雰囲気ガスの流れを発生させると同時に、断熱外皮23内に張り巡らされた電気ヒータによって架橋容器1の壁面を介して内部の雰囲気ガスを未架橋PTFE粉末の融点以上の所定温度、例えば、340℃まで加熱する。
【0024】
すると、このガス流に伴って架橋容器1内底部に堆積している未架橋PTFE粉末が架橋容器1内上方へ強制的に舞い上げられて所定時間滞留するように浮遊した状態でその融点以上の所定温度まで加熱されることになる。この時、各未架橋PTFE粉末は、それぞれ独立した状態或いは相互に高速で接触で浮遊しているため、その融点以上の所定温度まで加熱されても相互に凝集したりせず、堆積した状態で加熱した場合のように塊状となることはない。
【0025】
次に、このような状態を維持したまま、放射線照射手段から放射線照射窓7を介して所定量の放射線を架橋容器1内に照射すると、未架橋PTFE粉末が個々に独立した状態で効率的に放射線架橋され、連続的に架橋PTFE粉末が生成される。
【0026】
そして、このようにして予め定めた時間まで放射線架橋を行った後に、放射線照射、架橋容器1の加熱及び送風インペラー10の駆動を停止し、架橋容器1内の高温の雰囲気ガスを排気ラインから排気すると共に供給ラインから雰囲気ガスを供給して架橋容器内雰囲気8を新たな雰囲気ガスで置換する。
【0027】
その後、この架橋容器1を外側から強制空冷或いは自然空冷によって室温程度まで冷却した後、架橋容器1の粉体出入口14を再び開いて架橋後のPTFE粉末を取り出すことになる。
【0028】
このように本発明方法は、未架橋PTFE粉末同士を凝集・固化させることなく粉体状を維持したまま直接架橋処理することが可能となるため、従来のような煩わしい粉砕工程等が不要となり、粒径が均一で高品質な架橋PTFE粉末を効率的に得ることが可能となる。
【0029】
尚、本実施の形態において、放射線の照射量を100kGyとした場合、各未架橋PTFE粉末が放射線を吸収して約23.9kcal/kgの熱を発生し、この熱によって雰囲気ガスが加熱されるようになるため、放射線照射後は断熱外皮23内のヒータによる加熱を停止、或いはその出力を下げる等して電力エネルギーの節減を図ることもできる。
【0030】
また、放射線がPTFEのような樹脂を透過する距離は、放射線自体の有するエネルギーの大きさ(加速電圧で決定される)にほぼ比例し、材料も密度に反比例するが、個々の粒子の大きさが小さく、また雰囲気ガスに浮遊させた混合体の平均密度は小さいため、放射線が通りやすいため、よりエネルギーの小さい放射線照射手段を用いても良好な架橋処理が可能となる。
【0031】
さらに、本発明方法は上記PTFE以外の未架橋フッ素樹脂粉末、例えば、テトラフルオロエチレンパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)系重合体やテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン系重合体等もそのまま適用できることは勿論である。
【0032】
また、一つの放射線照射手段に対して架橋容器1を二つ以上併設し、交互に照射線を照射できるように構成すれば、PTFE粉末の取出し・投入作業と架橋処理を交互に行うことが可能となり、より効率的な架橋処理を行うことも可能となる。
【0033】
次に、図3〜図7は上述した粉体状架橋フッ素樹脂製造装置の他の実施の形態を示したものであり、本発明方法はこのような製造装置によっても実現することができる。
【0034】
先ず、図3及び図4に示す粉体状架橋フッ素樹脂製造装置は、矩形状の架橋容器25の底部に、多孔板からなる多孔床33を設置すると共に、その側面壁4側に隔壁28を介して上下に延びる循環路29を形成したものであり、この多孔床33の上部に未架橋PTFE粉末の流動層を形成するようにしたものである。
【0035】
すなわち、このような構成とすることにより、送風インペラー10の回転によって架橋容器1の底部に発生した雰囲気ガス流は、多孔床33からその上部を通過する際に多孔床33上の未架橋PTFE粉末層を通過する際にこれを流動化させて、個々の独立して浮遊させ、架橋容器1の天井部に達した後、循環路29を流れ落ちて送風インペラー10に達して再び多孔床33側へ循環されることになる。
【0036】
従って、このような架橋容器1内を流動層式とすることにより、上記装置と同様に未架橋PTFE粉末が個々に独立して浮遊した状態で効率的に放射線架橋されるため、凝集・固化させることなく、粒径が均一で高品質な架橋PTFE粉末を効率的に得ることが可能となる。
【0037】
また、本実施の形態にあっては、未架橋PTFE粉末を流動化によってそれぞれ独立浮遊させるような方式であるため、上記装置に比べて一度に大量の未架橋PTFE粉末を架橋処理することが可能となり、優れた生産効率を発揮することができる。
【0038】
次に、図5〜図7に示す粉体状架橋フッ素樹脂製造装置は、円環状の架橋容器44を水平に位置させると共に、その架橋容器44内に上述した送風インペラー10を設置すると共に、その架橋容器44の一部に放射線照射窓45を形成したものである。
【0039】
そして、送風インペラー10を駆動して架橋容器44内に雰囲気ガスの循環流を強制的に発生させると、この循環流に伴って架橋容器44内に封入された未架橋PTFE粉末が浮遊しながら架橋容器44内を循環し、放射線照射窓45を通過する際に架橋容器44内に照射される放射線によって架橋処理が行われることになる。
【0040】
従って、このような構成によっても上記装置と同様に未架橋PTFE粉末が個々に独立して浮遊した状態で効率的に放射線架橋されるため、凝集・固化させることなく、粒径が均一で高品質な架橋PTFE粉末を効率的に得ることが可能となる。
【0041】
また、本実施の形態にあっては、各未架橋PTFE粉末の移動距離が長く、かつ全ての未架橋PTFE粉末が必ず放射線照射窓45を通過して効率良く放射線が照射されるようになるため、短時間で架橋処理を施すことが可能となる。
【0042】
【発明の効果】
以上要するに本発明によれば、未架橋フッ素樹脂粉末を凝集させることなく個々に分離独立した状態で効果的に架橋処理するようにしたため、従来製法のようなマット成形や粉砕等の工程を経ることなく直ちに粉末状架橋フッ素樹脂を得ることができる。
【0043】
これによって、粒径の不揃いや品質の低下の発生が回避され、高品質の粉体状架橋フッ素樹脂を効率的に得ることができるため、耐摩耗性,耐クリープ性等の諸特性に優れた架橋フッ素樹脂成形品を大量且つ安価に提供することができる等といった優れた効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明方法及び本発明方法に用いる粉体状架橋フッ素樹脂製造装置の実施の一形態を示す側面図である。
【図2】図1中A−A断面図である。
【図3】本発明方法及び本発明方法に用いる粉体状架橋フッ素樹脂製造装置の他の実施の一形態を示す側面である。
【図4】図3中A−A断面図である。
【図5】本発明方法及び本発明方法に用いる粉体状架橋フッ素樹脂製造装置の他の実施の一形態を示す側面である。
【図6】図5中A−A断面図である。
【図7】図5中B−B矢視図である。
【符号の説明】
1 架橋容器
2,3 垂直壁
4,5 側面壁
6 底板
7 放射線照射窓
8 架橋容器内雰囲気
9 駆動モータ
10 送風インペラー
11,15 バルブ
12 雰囲気ガス供給ライン
13 雰囲気ガス供給部
14 粉体出入口
16 排気ライン
17 真空引手段
18 排ガス処理手段
19 高電圧加速器
20 ガイドチューブ
21 偏向器
22 ガイドホーン
23 断熱外皮
G 雰囲気ガス流

Claims (5)

  1. 低酸素雰囲気中で、未架橋フッ素樹脂粉末をその融点より高い温度に保持しながらこの未架橋フッ素樹脂粉末を上記低酸素雰囲気のガス流により強制的に浮遊させて個々に分離させた状態で放射線を照射して架橋処理するようにしたことを特徴とする粉体状架橋フッ素樹脂の製造方法。
  2. 内部に送風インペラーを備えた架橋容器内に、その架橋容器の内容積以下の未架橋フッ素樹脂粉末と、低酸素で不活性の常圧雰囲気ガスとを注入して密封した後、上記送風インペラーを駆動させて上記架橋容器内に強制的に上記雰囲気ガスの気流を発生させて上記未架橋フッ素樹脂粉末を架橋容器内に浮遊させると共に、その雰囲気ガスと未架橋フッ素樹脂粉末とをその未架橋フッ素樹脂粉末の融点以上に加熱保持し、この状態を維持しながら上記架橋容器壁面の一部に設けられた放射線照射窓を通して浮遊している未架橋フッ素樹脂粉末に放射線を照射して架橋処理するようにしたことを特徴とする粉体状架橋フッ素樹脂の製造方法。
  3. 上記架橋容器内にその底部より一定の空隙を隔てて多孔床を備えると共にその多孔床の下部に上記送風インペラーを備え、且つその多孔床上に上記未架橋フッ素樹脂粉末を堆積させ、上記送風インペラーによってその多孔床上の未架橋フッ素樹脂粉末を流動層式に浮遊させるようにしたことを特徴とする請求項2に記載の粉体状架橋フッ素樹脂の製造方法。
  4. 上記架橋容器を円環状に形成し、その架橋容器内で上記雰囲気ガスと未架橋フッ素樹脂粉末とを強制的に循環させながら架橋処理するようにしたことを特徴とする請求項2に記載の粉体状架橋フッ素樹脂の製造方法。
  5. 上記未架橋フッ素樹脂粉末としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末を用いたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の粉体状架橋フッ素樹脂の製造方法。
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